パイオニア C-Z1, M-Z1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 NFBという素晴らしい回路技術のおかげで、オーディオアンプは大きく発展してきた。まるで、マジックともいえるこの回路のもたらした恩恵は計り知れないものがある。特にトランジスターアンプにおいては、このNFB回路なしでは、今日のような発展の姿は見られなかったであろう。出力信号の一部を入力段にもどし、入力信号と比較して、入出力信号波形を相似にするという、このループ回路の特効を否定する人はいないだろう。位相ずれによる不安定性も発振の危険の可能性は常に指摘されていることだが、巧みな回路の使い方をすれば、事実、現在のような優れたNFBアンプが存在するわけだし、その音質も充分満足出来るものになっている。オーディオに限らず、ものごとすべて、表裏一体、メリットもあれば、デメリットもある。要は、そのバランスにあるといえるだろう。目的に沿ってメリットが大きければ結構。メリットと思えても、その陰に、より大きなデメリットがひそんでいたら要注意というものだ。オーディオ機器が、ここまで進歩して、微妙な音質の追求がなされてくると、ありとあらゆる問題点を解析して、細部に改善のメスが入れられて、よりパーフェクトなものへのアプローチがおこなわれるようになる。そして、その姿勢もまた大変重要なことなのだ。これで充分という慢心こそは、最も危険であり悪である。
 パイオニアが発売したC−Z1、M−Z1というセパレートアンプは、まさに、この姿勢の具現化といってよいだろう。思想としては、NFBを否定したわけではないだろうが、たしかに、その問題点ゆえに、ノンNFBアンプを開発したからである。入力信号とNFBループ進行との時間差によって発生する諸々の動的歪が現在大きな問題として議論されている中で、このループを取り払って、裸のアンプを商品化してくれた事は、かなりショッキングなことにちがいない。今までになかった試みでは勿論ない。しかし、ここまでの特性のノンNFBアンプは商品として初めてである。その鍵は、きわめて独創的な発想によるスーパー・リニア・サーキットと同社が称する新回路の開発にある。簡単にいってしまえば、もともと、半導体素子のもっている固有の非直線性を、逆特性の非直線性により完全に吸収して優れた直線性を得る回路である。トランジスターの非直線性が見事にそろっていることを逆手に利用した興味深い回路に、これが大いに活かされている。このノンNFBアンプのメリットは、いうまでもなくNFBループに起因する問題は全くないし、安定したNFBをかけるために必要とされる複雑な回路も必要がないことだが、それだけに、基本的に良質のアンプを作らないと、パーツや構造の問題が率直に音に現われてくるものだろう。ガラスケース電解コンデンサー、非磁性体構造、ガラスエポキシ140μ厚銅箔基板などの採用は、こうした観点から充分納得できるものだ。
C−Z1の特徴
 C−Z1は、ユニークな縦長の、M−Z1と同形のコントロールアンプで、フロントパネルにスモークドガラスが使われ、内部の素子が透視出来るというマニアライクなもので操作スイッチ類はフェザータッチの電子式によるもの。スイッチ切替えの雑音発生は全くない。機能は簡略化され、コントロールアンプとしてユニバーサルなファンクションは持たないが、トーンコントロール、サブソニックフィルターなどの必要最少限のものは備えている。MCヘッドアンプも内蔵していない。当初から高級マニアを意識した開発ポリシーである。先にも述べたように、負荷抵抗値の変化で利得が変るノンNFBアンプの特性を利用した独特なCRタイプのカレント・イコライザーも興味深い。このアンプの形状は、パワーアンプと違って、コントロールアンプとしては必ずしも好ましいとは思えない。無理にパワーと同形にすることもなかったような気がする。
M−Z1の特徴
 M−Z1パワーアンプは、前述したノンNFBループの60WのオーソドックスなモノーラルA級アンプで、入力から出力まで全段直結回路で構成されているという純粋派の代表のような製品である。コントロールアンプ同様、中点電圧の変動はダブルロックド・サーボ・レギュレーターで二重に安定化が計られている。電源部はインピーダンスを低くとるため2個をパラレル接続して使われている。アルミ・ブラックパネルのヘアーライン仕上げという、最近のパイオニアの高級機器が好んで使い始めたフィニッシュが、フロントパネルのみならず全体に使われているというこりようだが、個人的にはあまり好ましいフィニッシュとは感じない。こったほどには品位の高さが出ないように思う。コントロールアンプ同様、フロントパネルにはスモークドガラスが使われているが゛何が見えるのかと思ってのぞくと、なんのことはないトランスケースにプリントされた結線図だった。20ポイントのLEDによるパワーインディケーターは、数秒間ピークホールドして見やすいものだ。
C−Z1+M−Z1の音質について
 ところで、このC−Z1、M−Z1の音だが、まず感じることは、音の密度の高いことだ。まるで粒子の細かい写真をみるように緻密なのである。楽器の質感が、出過ぎるほどリアルに出る。そのために、プログラムソースの長所も弱点も、余すことなく出てくるという感じで、荒れたソースが適度にやわらかく丸く再現されるというような効果は期待できない。60Wとは思えないパワー感で、音が前面に貼り出してくる。曖昧さの全くない、骨格と肉付きのしっかりした充実したサウンドだ。

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