Category Archives: プリメインアンプ - Page 5

アキュフェーズ E-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プリメインタイプの最高機をねらって、著名ブランドがそれぞれに全力投球している中にあって、発売後すでに3年近くを経過しながら、E303の魅力は少しも衰えていない。特別のメカマニアではなく、音楽を鑑賞する立場から必要な出力や機能を過不足なく備えていて、どの機能も誠実に動作する。ことにクラシックの愛好家なら、その音の磨き上げた美しさ、質の高さ、十分の満足をおぼえるだろう。操作の感触も第一級である。

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 電子回路の部品や技術が日進月歩して、ローコストで音の良いアンプが容易に作られる時代になったものの、極限までコストダウンして、しかも性能をどこまで落とさずに作れるか、というテーマに関しては、やはり「挑戦する」という言葉を使いたくなるような難しさがある。SU−V6はそれに成功した近来稀な製品。鳴らし出してから本調子が出るまでにやや時間のかかるのが僅かの難点。そして、外観の野暮なこと。だがそれを補って余りある内容の良さ。

サンスイ AU-D707F

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 サンスイのプリメインアンプ群は、このAU−D707Fをもって代表機種とする。数年間にわたってリファインをしつづけてきた最新モデルは、フィードフォワード・サーキットによって、もっとも現代的なアンプとして生れかわった。伝統のブラックパネルの他に、Fシリーズになってからはシルバーパネルも用意されたが、その豊かで、充実したサウンドは、旧製品以来のよさを維持しながら、一段とフレッシュな瑞々しさを加えている。

ビクター A-X5D

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 A級増幅の低歪とB級増幅の高能率を両立させた独自のスーパーAクラス方式に加えて、新しくピュアNFB方式を採用した、実力派のプリメインアンプ。兄貴分のA−X7Dの安定感のある魅力もさることながら、このX5Dのシャープでキビキビとした反応の早い音は、このクラスのトップランクだ。伝統的な音場再生のセオリーにのっとった、ディフィニションが優れ、明快な音像定位と、パースペクティブの再現力は試聴上の本機のポイントである。

オンキョー Integra A-815D, Integra T-416

オンキョーのプリメインアンプIntegra A815D、チューナーIntegra T416の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

A815

ヤマハ A-8

ヤマハのプリメインアンプA8の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

A8

オンキョー Integra A-817D, Integra T-416

オンキョーのプリメインアンプIntegra A817D、チューナーIntegra T416の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

A817D

トリオ AVENUE 800(LS-100, KA-800, KT-800, KP-F7, KX-900)

トリオのシステムコンポーネントAVENUE 800(スピーカーシステムLS100、プリメインアンプKA800、チューナーKT800、アナログプレーヤーKP-F7、カセットデッキKX900)の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

Avenue800

パイオニア A-780, F-780

パイオニアのプリメインアンプA780、チューナーF780の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

A780

スペックは向上したが、〝音楽的感銘〟はどうか?

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

 プリメイン(インテグレイテッド)型というタイプに関する限り、いまや国産のアンプは世界のオーディオアンプの中で主導権を握っているといっても過言ではないほど高い水準にある。例えば、十万円以下の手頃な価格のプリメインでさえ、Aクラスまたはそれに準じた出力段、そして豊富でしかも充実した操作機能。100Wを超える充分なパワー。そして全体の絶え間ない質的な向上への努力といった点で、世界の他のオーディオメーカーを遠く引き離している感がある。そしてまた周知のように、この分野はここ数年来、各メーカー間の競争の最も激しい分野でもあり、ほとんど半年ないし1年という周期で、各メーカーが新製品を発表し、そのたびごとに新しい回路、新しい方式がユーザーの前に提示される。こうした動きを見ている限り、ここ数年間で国産のプリメインアンプは恐るべき進歩を示しているはずだ、と思うのが自然だろう。今から6ないし7年以上前、デンオンのPMA300、500、700あたりをひとつのターニングポイントとして、国産プリメインアンプの音質が真の意味で向上しはじめた時期からあとを追って、ヤマハCA2000のようなきわめて性能の高いプリメインが誕生した。それから今日までの決して短いとはいえない年月の中で、果してそれらを大幅に超えるといるだけ、国産アンプの性能・音質が向上したのだろうか。今回のプリメインアンプのテストに参加しての、私の第1の関心点はそこにあった。確かに、物理データを見る限り、プリメインアンプの性能はここ数年来、格段にという表現が誇大でない程度の向上を見せていることは確かだ。例えば高調波歪率(THD)にしても、数年前0・01%オーダーであったものが、今日では0・00のオーダーまで低減され、またSN比も非常に向上している。同じような構成のプリメインが数年前の2倍近い最大パワーを出せるようになっている。そして、回路設計技術の安定、それをふまえての広帯域低歪率、そして、ここ1、2年来のひとつの傾向を示しはじめたAクラス動作の新しい回路……。こうした側面を眺める限り、アンプの性能は格段に向上している。けれど、我々が新しいアンプを求める理由の第1は、あくまでもレコード(FM、テープ)から、より多くの音楽的感銘を引き出したいからではないだろうか。音楽的感銘という言葉が曖昧すぎれば、いっそうよい音、それも音楽的にみていっそうバランスの整った、そして音楽が聴き手に与える感銘を、できる限りそこなわないアンプを我々は求める。その意味でアンプの音質が本当に向上したか、という疑問を私はあえて提しているのだ。
 したがって今回のテストで最も重視したのは、最近になって格段に録音の向上したクラシックのオーケストラ録音、それもできる限り編成の大きく、かつ複雑な音のするパートを、いかにあるべきバランス、あるべきニュアンスで再現してくれるかどうか、ということ。もうひとつは、音楽のジャンル(クラシック、ジャズ、ポップス……)にかかわらず、あらゆる種類の音楽をできる限りあるがままの姿で聴かせてくれるアンプ。例えばクラシック、例えばポップスに対象をしぼってしまった場合、オーディオ機器の音は、よく言えばかなり個性的。悪く言えば欠点ないし弱点があった場合でも、それなりに聴き手を納得させることはできる。けれども今日、あらゆる意味で性能の向上した周辺機器および録音をとに、あらゆる音楽を楽しもうという場合には、アンプに限ったことではないが、明らかな物理特性の欠陥のあるオーディオ機器では、もはや聴き手を納得させない。特にアンプは、純電気的・電子的なパーツであるために、明らかな物理的または電気的な欠陥があっては困る。また、今日ここまで技術の向上した国産アンプに、今どきそうした欠点があってもらいたくないという気持もある。とはいうものの、やはりその点をシビアにテストする必要があると考え、あえてやや「いじわるテスト」に属するといえるようなテスト方法も試みている。一例をあげれば、我々がアンプのテストをする場合にはたいてい、レコードまたはテープがプログラムソースに使われ、その反復でアンプの音質をつかむ。ところが、ユーザーが1台のアンプを自分の再生装置のラインに組みいれた場合には、当然のことながら、アンプの入力端子にはレコードプレーヤーのほかにもFMチューナー、テープデッキその他の周辺機器がすべて接続されたままの形で聴かれる。言いかえれば、レコードを聴いている間でもチューナー端子にはFMの入力が加わっていることになる。こういう接続をしたままボリュウムを上げた場合、時としてレコードを聴取しているにもかかわらずに、チューナーからのシグナルがかすかに、時に盛大に、混入してきて聴き手を惑わすというアンプがある。その点をチェックするために、今回の試聴ではチューナー端子には常にFMチューナーを接続したまま、フォノ聴取時にボリュウムをかなり上げてみて、チューナーからの音洩れの有無を確かめてみるというテストをした。その結果、数は少なかったとはいいながら、中にはかなり盛大にFMからの音が洩れてくる機種もあり、今日のアンプにあるまじき弱点ではないかと思う。
 最近のプリメインアンプには、わずかの例外を除いてほとんど、MCカートリッジ用のヘッドアンプないしはMCカートリッジをダイレクトに接続できるMCポジションが設けられているのがふつうである。そうであれば当然、別売(外附)のトランスまたはヘッドアンプを用意することなく、各種MCカートリッジをそのままつないで、MCカートリッジの特徴である音の緻密な充実感または繊細なニュアンスを充分に聴かせてくれなくては、MCポジションの意味が半減する。にもかかわらず、MCポジションのテストをしてみると、大半のアンプが落第だった。まず第一にノイズが多い。レコードをプレイバックする際の、実用的な(ことさらに大きくはない)音量でさえ、音の小さなピアニッシモの部分では、明らかに耳につく程度のノイズ、時にハムの混入した耳ざわりな雑音の多いアンプが、必ずしも少ないとはいえない数あった。また、MCポジションまたはヘッドアップ入力での音質も、MCカートリッジの音よさを十分に生かすとまではいわないまでも、せめて、あえてMMでなくMCを使っただけのよさを聴かせてくれなくては困る。
 ノイズに関連して、別の意味で、レコードまたはその他のプログラムソースの聴取時に、ボリュウムをある程度上げたままで、各種のファンクションのボタンまたはスイッチを操作した時に、耳につくようなくりっクイズが出るというのは、やはり望ましいことではない。それらの点もアンプのチェック項目として重視した。なお、本文試聴記中には、特に詳しくはふれていないが、ヘッドフォン端子での音のよさ、またヘッドフォン端子で十分な音量が出るか出ないかもテストのポイントに加えた。もうひとつ、最近になって一部の人たちが指摘しはじめたACプラグの極性(ポラリティ)(電源プラグを逆向きに差し換えた時に音質が変化するという現象)もテスト項目に加えた。ただし、私見を述べれば、こうした部分であまり音の性格が極端に変化するアンプは、回路設計あるいは構造設計上、何らかの弱点をもっているのではないかと思われ、一定水準以上の音質の音が再生されることが望ましいわけで、あまり極端に変化するアンプは好ましくないと考える。

リファレンス機器
カートリッジ──大別してMCとMM、そしていずれのカートリッジにも、対照的な性格があることを考慮し、まずMCカートリッジは、オルトフォンMC30(低出力低インピーダンス型)と、デンオンDL303(比較的出力が高く、インピーダンスも高め)の2機種を用意した。また、この両者は音質の上でもかなり対照的なので、MCを聴くにはこの2機種があれば一応のテストができると考えた。MMカートリッジでは、一方にオルトフォンVMS30MKII(テストに使ったのは最新の改良型の方である)のようにヨーロッパ系の、いくぶんソフトな肌合いで、特にクラシックのレコードをプレイバックした時の全体的なバランスのよさといくぶんウェットなニュアンスをもった製品。これに対して、エムパイア4000DIIIのような、アメリカのカートリッジならではの音の力、乾いた音感のよさ明るさをもったカートリッジ、の2機種を対照させてみた。なお、もうひとつ、個人的に近頃気づいていることだが、フォノ・イコライザー回路の可聴周波数以上の帯域(超高域ないし高周波領域)の部分での高域特性のコントロールいかんによっては、高域にかけて特性の上がりぎみのカートリッジで、なおかつ傷みぎみのレコードをプレイバックした時に、極度に音の汚れるタイプのアンプと、そうした部分をうまく抑えて音楽的にバランスをととのえて聴かせてくれるタイプのアンプがあることに気づいたため、そのチェック用としてエレクトロアクースティック(エラック)ESG794Eという、高域がややしゃくれ上った傾向をもったカートリッジを用意し、その場合の試聴レコードはテストを重ねていくぶん溝の荒れたレコードをあかて使うという、独特のチェック法を試みた。
MCカートリッジ用ステップアップトランス──テストしたアンプのMCポジションでの音質およびノイズをチェックするために、素性のわかったよいトランスを用意する必要があると考え、オルトフォンT30およびオーディオインターフェイスCST80(E30とE40)を適宜つなげ分け、チェックに使用した。
プレーヤーシステム──用意したカートリッジのそれぞれの性格をある程度きちんと鳴らし分けるだけのクォリティの高さおよびテストの期間中を通して性能が一貫して安定している、という条件から本誌55
号プレーヤーテストの結果をふまえ、エクスクルーシヴP3を標準機として用いた。
スピーカーシステム──全機種を通じて、標準に使ったのはJBL4343BWXで、これは個人的に聴き慣れているということもあり、また同時に、特性上の弱点が少なく、アンプの音のバランス、歪、ニュアンスといった要素をつかむのに、最も適していると考えたからである。ただし、4343B(および4343)には、基本的なクォリティのやや貧弱なアンプもある程度聴かせる音に変えてしまう──いいかえればスピーカーの特性の幅の広さまたは深さの部分で、アンプの特性の悪さをカバーしてしまう──というような傾向がなきにしもあらずなので、これとは逆に、アンプのクォリティを比較的露骨にさらけ出すタイプのスピーカーとして、アルテック620Bカスタムを併用した。このスピーカーは、アンプの良し悪しにきわめて敏感であり、基本的なクォリティの優れたアンプでないと、楽しめる音になりにくいという、いささか気難しい性格をもっている。さらに、第3のスピーカーとして、前記2種とはまったく音の傾向の違うヨーロッパ系のスピーカーとしてイギリス・ロジャースのPM510を用意した。このスピーカーもまた、アンプのクォリティおよびもち味によって、鳴り方の大きく左右されるスピーカーだが、テスト全機種を通じて鳴らすことはせず、明らかにこのスピーカーを鳴らせると革新のもてるアンプの場合にのみチェックのために接続するという方法をとった。したがって、主に使ったスピーカーはJBLとアルテック。この性格を異にする二つのスピーカーで、アンプのスピーカーに対する適応性、いいかえればアンプのスピーカーに対する選り好みの傾向がほぼつかめたと思う。
 以上の機器は、試聴に際して切替スイッチをいっさい通さずに、すべてテストアンプに直接接続するという方法をとった。今日のオーディオ機器の、非常に微妙な音質の変化の部分をつかむには、よほど良い切替スイッチを使っても、その性格の差が聴き分けにくくなるために、すべての機器を直接接続するという方法が最も有効であり、またテストに際して必要なことでもあると思う。したがってカートリッジはそのたびごとに付け替えし、針圧調整をし、なおかつスピーカーは、AB切替えがないしプでは、そのたびごとに接続しなおすという手間をかけた。また、接続コードの類は特殊なものを使わず、ごく広く普及した、ふつうのコード類を使った。

試聴レコードとその聴きどころ
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード──主に、最終楽章の後半、この曲の中の最もいりくんだオーケストレーションの部分からフィナーレにかけて、ピアニシモに移る部分での音のダイナミックスの変化およびそのニュアンスをテストに使った。
ストラビンスキー/春の祭典──話題の新録音で、第1部および第2部のラストにかけての盛り上がりの部分、これは特にアンプのダイナミックスと解像力のチェック。また、ロマン派以前の曲ではつかみにくいアンプの別の性格をチェックするのに有効であった。
ヴェルディ/アイーダ──話題のカラヤンのEMI新録音、有名な凱旋行進曲の部分での、音の華麗なダイナミックスの再現をチェック。
ウェーバー/ピアノ小協奏曲──シューマンの方がタイトルロールだが、B面ウェーバーの方が録音しては優れている。特に、ピアノのタッチがすばらしく艶やかで、ヨーロッパのホールに特有の比引きがよくとらえられ、オーケストラとのバランスも素晴らしい。このピアノのタッチの美しさとオーケストラとのバランスがどの程度うまく再生されるかどうか。
フォーレ/ヴァイオリン・ソナタ──テストに使用した部分は、第2楽章、時として第1楽章のフィナーレから第2楽章にかけてだが、特に第2楽章のしっとりとした味わいが、度程度ニュアンス豊かに再生されているかどうか。ヴァイオリンの胴鳴りの響き、そしてピアノとヴァイオリンの融け合う美しさ。このレコードは本来のニュアンスがなかなか再生されにくい難物といえる。
メンデルスゾーン/フィンガルの洞窟──このレコードは、交響曲第5番「宗教革命」の余白の部分にはいっているが、私のレコードはたびたびのテストに使って溝がきわめて荒れている。エレクトロアクースティック(エラック)ESG794Eでも、このレコードの傷みがどの程度耳ざわりでなく抑えられながら音楽的なバランスがととのえられ再生されるかというのがチェック項目。大半のアンプが落第であった。しかし、中に数機種とはいいながら、レコードの傷んでいることを忘れさせる程度にきかせてくれるアンプもあった。
ベートーヴェン/交響曲第九番「合唱」──たまたま、某誌でのベートーヴェンの第九聴き比べという企画で発見した名録音レコード。個人的には第九の録音のベスト1としてあげたい素晴らしい録音。音のひろがりと奥行き、そして特に第4楽章のテノールのソロから合唱、そしてオーケストラの盛り上がりにかけての部分は、音のバランスのチェックに最適。しかも、このレコード独特の奥行きの深い、しかもひろがりの豊かなニュアンスというのは、なかなか再生しにくい。
チャック・マンジョーネ/サンチェスの子供たち──ここ1、2年来、一貫してテストに使っているフュージョンの代表レコードのひとつ。序曲の部分のヴォーカルから、パーカッションの強打に移行する部分で、音のニュアンスおよびダイナミックスが、的確にテストできる。
ドン・ランディス&クェスト/ニュー・ベイビィ──最近のシェフィールドの録音は、また一段と向上し、ダイナミックレンジが驚異的に拡張されている。例えば、正確なパワーメーターを見ながら再生すると、この第1曲「イージィー」などでも、それほど大きな音量を出していない場合でも、ごく瞬間的に、きわめて大きなパワーの要求されるパートがある。この曲では意外なことにそれは、最も注意をひくパーカッションの音よりも、ハモンド風の音を出すキーボードの部分で、パワー不足のアンプはその部分でビリついたり、クリップしたりする。このレコードを使ってアンプの表示パワーと聴感上の音量感の伸びとが必ずしも直接的な関係のないことがわかって興味深かった。
 他にも、別掲のリストにあげたレコードを、必要に応じて使用した。

価格ランク別ベスト3
5万円台──意外につぶぞろい。中には、6~7万円台のアンプの必要がないといってよい製品もある。むろんそれは、6万円以下という価格の枠を頭に置いた上での結論であるにしても、価格に似合わぬ出来栄えのよさが、この価格帯の特徴。
 その中でも無条件特選がテクニクスSU-V6。この値段では安すぎるくらい内容が充実。ただし、パネルデザインはいただけない。
 オンキョー/インテグラA815。オンキョー独特の音色に好き嫌いがありそうだ。
 サンスイAU-D7。いくぶん華やかなタッチ、しいていえばポップス系の音楽に特徴を発揮する。
6~7万円台──製品による、出来、不出来のたいへんに目立った価格帯であった。中に二~三、優れた製品があり、5万円台の出来栄えのよい機種と比べ、やはりどこかひと味違う音がする。しかし全体的には、メーカーとしては、このランクは製品の作り方の割合むずかしい面があるように思う。個人的には、もう少し予算をとって、思いきって1ランク上からよいアンプを探すのも、買い物上手な方法かと思った。
 ベスト3は、まずテクニクスSU-V7。V6の改良モデルだけに、パネル面の意匠も洗練され、内容も充実。
 デンオンPMA540。音質はなかなか充実して聴きごたえがあり、価格を考えるとよくできたアンプのひとつ。デザインはいささか野暮。
 ラックスL48A。力で聴かせるタイプではないが、ラックスの伝統的な音の優雅さが生かされた佳作。
8万円から10万円──5~6万円台のアンプに比べ、明白に内容が充実してきたことが、音の面からはっきりと聴きとれる。とはいうものの、出来栄えの差はやはりあり、全体として充実しながらも、それらの中で一頭地を抜いた製品があった。
 無条件ベスト1がビクターA-X7D。国産のアンプが概して中~高域に音が固まりがちな中で、めずらしく中域から低域にかけての支えのどっしりした、いわゆるピラミッド型のバランスが素晴らしい。
 次がサンスイAU-D707F。中~高域の音のニュアンスに独特の特徴があり、パワー感も十分。ポップスでエネルギー感を聴かせながら、クラシックでも捨てがたいニュアンスを聴かせる。
 デンオンPMA550。パワーも十分大きく、基本的な音の質がこの価格としてはかなり練り上げられている。
10万円台以上──今回の分類では、10万円以上、20万円台の後半までを一括しているため、大掴みな言い方ではとらえきれない。したがって、あえて20万円で一戦を引くと、10万円台のアンプは、8~10万円あたりの価格帯で、最新技術と良心的な製造技術によって、優れた出来栄えを示す製品に比べ、あまり明白な差がつけにくいという事情があるのではないだろうか。
 その点、20万円あるいはそれを超えるとさすがに、プリメイン最上級機種だけのことはあり、基本的な音の質が磨かれ、緻密かつ充実し、十分な手ごたえ、満足感を聴き手に与えてくれる。と同時に、この価格になると、明らかにメーカーの製品に対する姿勢、あるいはそれぞれのメーカーがどのような音を求めているかということが、明白に聴きとれるようになってくるのもまた興味深い。
 ベスト3は10万円台以上で一括すれば、ベスト1はアキュフェーズE303。基本的な室の高さに支えられた上に、独特の美しい滑らかな音が十分な魅力にまで仕上っている点、特筆したい。新製品ではないが、今日なお注目製品。
 どこを推してもよく出来ているという点では、デンオンPMA970。いくぶん硬調ぎみの音ながら、質のよさに支えられ、ややポップスよりながらクラシックまで十分こなせる質の高さ。
 ヤマハA9。あらゆるプログラムソースに対して、一貫して破綻のない、安定したプレイバックを示す。個人的には、音の魅力感がいまひと息というところだが。
 次点として、ケンウッドL01A、ラックスL68Aをあげておく。

ケンウッド L-01A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 あまり作為を感じさせない、バランスのよい、基本的な音の質の高さに支えられた滑らかな音を聴かせる。いわゆる音の艶をことさら強調したり、力や切れこみを誇示するようなことがないが、時間をかけて聴きこむにつれ、音の質がきわめてよいために、ひとつひとつの音がまったくごまかしなく姿を現わしてくることが聴きとれる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIでベートーヴェンの第九(ヨッフム)をプレイバックしても、各声部のあるべきバランスをそのままに聴かせ、音の支え(重低音域)のしっかりした危なげのない、どちらかといえば艶をやや抑えた、ソフトな音で聴き手に安定感を与える。ポップスの再生でも、表示パワー以上の力を感じさせ、エネルギー感のみなぎった音だが、いまひとつリズムにのりきれない部分があり、いわゆる躍動感に満ちた音とは違う。エムパイア4000DIIIでの「ニュー・ベイビィ」のプレイバックでも、たいへんエネルギー感に満ちた音を聴かせるが、もうひとつリズムの躍動感に欠け、聴き手をのせてくれにくい部分があった。エラック794Eで傷んだレコードをかけると、いくぶん歪を目立たす傾向がある。
 MCヘッドアンプはなかなか優れているようで、オルトフォンMC30でもSN比はきわめて優れ、十分実用になる。MC30独特の魅力と艶に支えられた力を十二分に再生するとまではいいにくいが、特徴は十分聴き手に伝える。デンオンでは、ノイズは実用上ほとんど耳につかないほど減少するが、音の線がやや細く、DL303の持っている基本的な性格とネガティヴな面をそのまま出してしまう傾向があるようだ。
●スピーカーへの適応性 たとえばアルテック620Bカスタムなど、もう少し音の艶と躍動感があればなお良いとは思わせるものの、さすがに高級プリメインだけ質の高さで、聴き手にかなりの満足感を与え、スピーカーに対する適応性はわりあい広い。
●ファンクションおよび操作性 いわゆる磁性歪の影響を避けると称して、筐体が木とプラスチックで作られた部分が多いため、アンプの周囲の金属を避ける必要があり、誘導雑音にも強いタイプとはいえないので、使いこなしに神経を使わなくてはならない。各ファンクションはほとんどサブパネル内に納められているが、表示がいくぶん見にくい。ファンクションにはややトリオ独自の部分があり、例えば、テープ端子のアウト/イン間にイコライザーその他のアダプター類を接続できない回路構成なので、注意が必要だ。ラウドネスの利き方が多様で、実用的に便利。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れもない。
●総合的に 電源部別シャーシの構成をプリメインと呼んでいいか微妙なところだが、国産プリメインの高級機の中では、デザイン、ファンクション、音質に独特の部分が多いとはいうものの、音の質の高さは相当なものだと思った。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):2
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

マランツ Pm-8MkII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 前作Pm8は、最近のマランツブランドに共通した、明るい、いくぶん硬調かつコントラストの高い、しいて言えば、クラシックよりはアメリカ系の新しいポップミュージックに焦点を合わせた音で、プログラムソースをその方向に限定するかぎり、たいへん楽しい音を聴かせた。MKIIになっても、この基本的な性格は受け継がれ、十分のパワーに支えられた音質が、フュージョンやジャズなどの、特に打音の伸び、パワー感にたいへん特徴を発揮する。今回のテストでは旧型と聴きくらべることができたが、MKIIになって、音のコントラストをいっそう高める方向が聴きとれ、ポップミュージック志向の性格をはっきりきわ立たせるように思えた。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIのような、ヨーロッパ的ニュアンス、味わいを大切にするカートリッジの音質と、本機の性格が互いに相容れない部分があるためか、このカートリッジの特徴を生かすというわけにはゆかない。特にクラシックのオーケストラを再生した場合には、音
バランス・質感ともいささか違和感があり、全体の音が硬めで、いくぶん元気よく鳴りすぎる傾向がある。エムパイア4000DIIIで「ニュー・ベイビィ」をプレイバックすると、このアンプの基本的な性格に加えて、パワーの大きな特徴が発揮され、テストアンプ中随一の力のある再生を聴かせる。ただし、音にいくぶん粗い傾向もある。
 エラック794Eで傷んだレコードをプレイバックすると、レコードのヒリつきシリつきなど、歪をきわ立たせる傾向があるが、基本的な音のクォリティがかなり高いためか、いわゆる聴くに耐えない音にはならない。
 MCポジションのテストでは、ハム成分の多いノイズがいくぶん耳につき、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型MCでは、実用上十分な音量で楽しめるとはいいにくく、MC30の特徴を生かすともいえない。デンオンDL303の場合には、ノイズはかなり減少するが、音質は中~高域がかなり華やかになり、クラシックのオーケストラなどでは、中高域にいささかエネルギーが集中する傾向があり、もう少し抑えを利かせたい。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bの弱点といえる(中~高域にかけて音の華やかな部分)とアンプの音とが相乗効果になるためか、アルテックを、抑えた気持ちよさで鳴らす、というわけにはゆかず、いくぶんスピーカーとの組合わせ方が難しいタイプかもしれない。
●ファンクションおよび操作性 MM/MCの切替ボタンをゆっくり押すと、途中で音が途切れ、外記にチューナーの音が混入する傾向があった。
●総合的に このアンプの特徴が気に入れば、高級プリメインの中ではかけがえのない存在。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中(おもにハム)
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2-
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:大
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

ヤマハ A-9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 たいへんさりげない音。ちょっと聴くと、聴きどころがつかみにくいといいたいほど、音の特徴のようなものがない。言いかえれば、それだけ人工的な作為を感じさせない自然な音、ということになるのだろうか。どちらかといえば、いくぶん艶不足の(言いかえれば、艶のような要素もあえて取除いた)おとといえるが、さすがに高級プリメインアンプだけのことはあり、音の基本的な性格は、きわめて注意深く練り上げられている。
●カートリッジへの適応性 例えばオルトフォンVMS30/IIで、ベートーヴェンの第九(ヨッフム)の第四楽章のフォルティシモをプレイバックした場合でも、オーケストラとコーラスのバランスをきわめてみごとに再現しながら、どこまでパワーを上げても少しも危なげがない音を聴かせる。しいていえば、このレコードの特徴である、深い奥行き感がいくぶん不足ぎみ。どことなく、EMI録音特有の艶が失われる感じがしないでもない。エムパイア4000DIIIでポップス系のプレイバックは、国産アンプにしては、乾いた切れのよい音で、一見(聴か?)ソフトながら、切れこむべき音は切れこみ、聴きごたえのある音を再生する。強打音での音の支えも十分。エラック794Eで傷んだレコードをトレースすると、レコードの傷み(いわゆるシリつき)がやや盛大に出る傾向で、レコードの古さや歪をあらわに出す。
 MCポジションは、オルトフォンMC30のような低出力低インピーダンスMCで、ボリュウムを相当上げても、実用上問題ない程度にノイズが抑えられている。ただし、MC30独特の艶やかな音の魅力が十分聴きとれるとはいいがたい。デンオンDL303の場合には、ノイズがひじょうに少なく、この点テスト機中でも最高位に属すると思う。音質は全体にやや細く、その結果としてきつい印象を与えなくもないが、DL303の特徴をかなりのところまで抽き出し、MCヘッドアンプのクォリティが優れていることがわかる。デンオンPMA970のように、音のひと粒ひと粒がきわ立つというわけではないが、それだけに全体のバランスのよさはさすがと思わせる。
●スピーカーへの適応性 基本的な音のクォリティがたいへん優れているために、アルテック620Bカスタムのような気難しいスピーカーを十分にドライブする。が、しかし、アルテックの艶やかな魅力を抽き出すまでには至らない。その意味で、スピーカーを選り好みするとは言えないまでもいわゆる音の艶や魅力で聴かせるスピーカーを生かすタイプではないといえる。
●ファンクションおよび操作性 ファンクションは豊富で、手触りも良好、ボリュウムを上げたまま操作してもノイズは出ない。また、すべてのスイッチ類がタッチと同時に(リアルタイムで)応答するのはたいへん気持がよいフォノ聴取時のチューナーからの音洩れも全くない。
●総合的に 音の魅力で聴かせるというより、作為のない、バランスの良さ、基本的な質の良さを身上とするアンプ。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:3
9. ACプラグの極性による音の差:小

アキュフェーズ E-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 まず一聴して、とてもきれいで滑らかな音という印象を与える。これは最近のアキュフェーズのアンプに一貫した特徴ともいえ、一部には、この音を美しすぎ、あるいはその美しさがやや人工的と評する人もいる。どちらかといえばややウェット型の、中~高域に特徴を感じさせる音だが、基本的な音の質が練り上げられ、緻密な音に支えられると、この音色はひとつの特徴として立派に生きてくる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIでのベートーヴェン第九(ヨッフム)のプレイバックでは、第四楽章のコーラスとオーケストラの音の溶け合い、ハーモニーがたいへん美しく、テノールも金属的な響きにならずに滑らか。トゥッティの部分での奥行きの深さがよく再現され、各楽器のバランスも良好。「サンチェスの子供たち」でも、中域から低域にかけての支えのしっかりしているわりに、ローエンドをひきずることがなく、切れこみがよく、いくぶんウェットだが十分楽しめる音を聴かせる。エムパイア4000DIIIでも音がウェットになる傾向はあり、この組合せに関してはもっと乾いた音をよしとする人もあるだろう。エラック794Eで傷んだレコードをトレースすると、軽いヒリつきぎみのノイズがまつわりつく傾向があるが、全体としては美しく聴かせるタイプで、古いレコードのプレイバックも安心してできる。
 内蔵のMCヘッドアンプにも、本機の基本的な性格に共通した、独特の音の艶、鮮度の高さがあり、中~高域がくっきりと艶やかにきわ立ってくる。そこを支える低音の力もしっかりしているために、音がうわついたりすることなく、バランスもよいことで楽しませる。オルトフォンMC30のえもいわれぬ魅力をたいへん美しく聴かせてくれる点、プリメインのMCポジションとしては随一といえるかもしれない。デンオンDL303ではノイズはいっそう減少し、アンプ自体がいくぶん女性的な音を聴かせるにもかかわらず、意外といえるほど音の支えがしっかりし、303の弱点である、時として細くなりがちな音をほどよく整える。したがって、外附のトランスその他は、ノイズレベルがほとんど耳につかないところまで改善されるというメリット以外には、必ずしも必要はないといえるほどだ。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bカスタムを、相当程度まで魅力的に鳴らすことができ、このことからも、いろいろなスピーカーの魅力を抽き出し、生かすタイプのアンプということができる。
●ファンクションおよび操作性 MM/MC切替え、インプット切替えおよびスピーカー切替えはすべて、ミューティングスイッチが約1秒のタイムラグで動作するため、ボリュウムを上げたままで切替えても、ノイズは全く出さない。フォノ聴取時チューナーからの音洩れも全くない。
●総合的に いわゆる高級プリメインアンプの名作が数多くある中でも、きわ立って音の魅力を美しく抽き出すタイプで、たいへん好感をもった。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):3
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):2+
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:3
7. スピーカーの特性を生かすか:2+
8. ファンクションスイッチのフィーリング:3
9. ACプラグの極性による音の差:小

デンオン PMA-970

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 総体に硬調、かつハイコントラストぎみの音。しかし基本的な音の質がひじょうに磨かれているために、硬めの音質も弱点とはならず、ひとつの個性といえるまでに仕上っている。こうした性格は当然といいながら、クラシックの、特にロマン派以前の管弦楽などには、もうひと味柔らかさがほしいと思わせる場合もあるが、反面、近代・現代の管弦楽曲などには、一種の爽快感を聴かせると同時に、新しいフュージョン系のポップスでも魅力的な音を味わうことができる。しいていえば、硬さのなかに表現される質の良い緻密さを損なわぬまま、いっそうの柔らかさ、ひろがり、さらには十分に深さのある奥行きなどが再現されれば、抜群という表現を使ってもよい。
●カートリッジへの適応性 デンオンDL303が最もよく合うかと思ったが、アンプ自体のもっているやや硬めの音の質に、303の中高域のときとしていくぶん硬くなる音が相乗効果となるためか、必ずしもよい組合せとは言いきれない。ただし曲により──クラシックでは近代・現代の管弦楽曲、あるいはパーカッションを中心としたポップスなど──この切れこみのよい、粒だちのはっきりした音は特徴となるだろう。
 MCポジションでのノイズは、あまり耳につきにくい軽い性質であるとはいえ、量的にはもう少し減らしたい。オルトフォンMC30では、DL303に比べて、いくぶん音が甘くソフトぎみになり、言いかえれば、切れこみあるいは音の鮮度といった部分が、やや不足ぎみという印象になるが、反面、前述の303での硬調ぎみの音が適度に柔らげられ、トータルなバランスはうまくまとまる。一方、外附のトランスを通して試聴してみた結果、MCヘッドアンプの音質がよいことを、逆に思い知らされた。
 MMポジションでは、オルトフォンVMS30/II、エムパイア4000DIIIの、それぞれ対照的な性格をよく生かし、カートリッジの特徴を鳴らし分ける。エラック794Eで傷んだレコードをトレースしても、歪は歪みとしてはっきり出すが、基本的な音の質が高いためか、あんがい耳ざわりなく聴ける。
●スピーカーへの適応性 このクラスになると、さすがにアンプのクォリティが高いためか、アルテック620Bカスタムのような難物のスピーカーでも、かなりの充足感で聴き手を満足させる。
●ファンクションおよび操作性 クリックノイズはよく抑えられている。インプットセレクターを切替えるとミューティング(約2秒)が働くが、もう少しタイムラグを短くしてほしい。ヘッドフォンのインピーダンスが切替えられ、ダイレクトポジションでは、ヘッドフォンがスピーカー端子に、分割抵抗を通さず直結され、一般のアンプのヘッドフォン端子よりはるかに生々しい、鮮度の高い音を聴ける。
●総合的に 質の高く、密度の濃い充実した音を聴かせ、さすがにプリメインの高級機であることを納得させる。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:3+(DIRECTで)
7. スピーカーの特性を生かすか:2+
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2+
9. ACプラグの極性による音の差:小

ラックス L-68A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 基本的には、L58Aが聴かせた、ラックスのアンプに共通の特徴といえる、よく磨きあげられ注意深く整えられた美しい音を受け継いでいる。耳ざわりな刺激性の音は注意深く取り除き、クラシック、ポップスを通じて、かなり聴きごたえのある音を聴かせた。とはいうものの、このL68Aではラックスのアンプが多少の変身をはかったのだろうか、従来やや不得手であった、ポップスあるいはフュージョン系のパワーや迫力を要求する曲でも、ラックスのアンプとしては、パワー感/力感がかなりあり、音量を上げてもよくもちこたえる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS302IIでまずベートーヴェン第九(ヨッフム)を聴いてみる。第四楽章のコーラスとオーケストラのトゥッティの盛り上がりの部分でも、破綻を生じることなく、妥当なバランスで仕上げ、無難な線でまとめたという印象が深い。その点むしろ、「サンチェスの子供たち」のようなフュージョン系のパーカッシヴな音が、想像以上に力強く、瑞々しく聴けたことに驚かされた。エムパイア4000DIIIでのシェフィールド「ニュー・ベイビィ」のプレイバックでも、ドラムスやパーカッションの強打(瞬間的とはいえかなりのパワーの伸びの要求される部分であるが)のパワー感も十分。表示パワー(110W)をなるほどと納得させる程度に、音に危なげがなくよく伸びる。エラック794Eのテストでは、傷んだレコードが必ずしも楽しめるとはいえず、歪みを強調する傾向がある。
 MCポジション(ヘッドアンプ)のノイズは、軽くハムの混入した音で、オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCに対しては、ボリュウムを上げるとピアニシモで多少耳につく。ただこの点を除けば、音質はむしろ外附のトランスよりも、MC30とマッチングの点で、好ましいように思われる。デンオンDL303では、カートリッジのもつ中~高域のやや張り出しながら音の細くなる傾向を、弱点として強調してしまう。303の場合は、外附のトランスの選び方でうまくコントロールした方がよいという、やや意外な結果であった。MCヘッドアンプの音質に、いくぶん個性的な部分があるようだ。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bカスタムのような、アンプへの注文のうるさいスピーカーも、一応鳴らせるが、いくぶん上ずみの部分で鳴らすような、またローエンドで少しかぶったような音を聴かせる。
●ファンクションおよび操作性 トーンコントロール、フィルター、ローブーストなどはターンオーバー切替えが豊富で、コントロールの範囲が広い。特にローブーストはなかなか利き方がよく、スピーカーやプログラムソースによって有効だと思われた。フォノ(MM)聴取時にボリュウムを上げると、チューナーからごく超高域の音がきわめてかすかだが洩れてくる。
●総合的に ラックスらしい音でまとめられた力作といえる。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:かすかにあり(超高域で)
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2-
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

オーレックス SB-Λ77

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 大掴みには、SB-Λ70と共通の、たいそうクリアーな印象の音。いくぶんウェットで、中~高域にエネルギー感を感じさせる細みの音だが、細部はいっそう磨きあげられ、音の透明感が増していることが聴きとれる。こう書くと、オンキョー系の音と似ているように思われそうだが、オンキョーは左右のスピーカーの間に音が空間的にきれいに定位するのに対し、こちらは音像がスピーカーの前面にやや一列横隊的に並ぶ傾向があり、やや奥行き感が出にくい。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIのように、ソフトかつ奥行きの表現力が豊かなカートリッジを使っても、たとえばベートーヴェン第九(ヨッフム)のトゥッティで、音が中域に集中し、軽微ながらカン高く、本来このレコードの録音からいって、音像が奥深くなるところが、むしろ前にせり出す感じで、いくぶん平面的になる傾向が聴きとれる。エムパイア4000DIIIを使っての「ニュー・ベイビィ」のプレイバックでも、本質的に乾いた音になりにくく、音全体がどことなく湿り気をおびた、いくぶん暗調のトーンに聴こえがちだ。エラック794Eでは、レコードの傷み、あるいは音の汚れを、実際の周波数成分よりも低いところでまつわりつく、ビリつき的な感じで鳴らすところがやや奇妙であった。
 MCポジションの音は、オルトフォンMC30では中域がやや抑えられておとなしく、音源を遠ざける方向で鳴らし、本来の特徴を生かしきれない。外附のトランスを併用すると、ノイズはみごとに抑えられて、ほとんど耳につかず゛中域から高域にかけての音が張り出し充実感が増す反面、音量を上げると多少聴き疲れする傾向になる。デンオンDL303の場合、オルトフォンに比べて、ノイズは目立って減少するとはいえないが、基本的なノイズがひじょうに少なく、十分実用になる。音質は、303の基本的性格を生かす表現をするとはいうものの、303自身のもっているいくぶん細みの音のバランスとΛ77の性格とが相乗的に働く結果、全体にやや支えの弱い、細い傾向の音になり、トーンコントロールで中低域を少し補いたくなる。
●スピーカーへの適応性 本来力強さ、音の暖かさ、乾いた明るさを特徴とするアルテック620Bのようなスピーカーと、このアンプの性格はあまりにも対照的であるためか、アルテックの個性を抑え、特徴を生かしにくい方向で鳴る傾向がある。アンプの性格・個性がひじょうに強いために、スピーカーをかなり選ぶという感じを抱いた。
●ファンクションおよび操作性 クリーンドライブとそうでない時の音の差はきわめてわずか。この差のために1本のよけいな配線の必然性については、やや首をかしげたくなる。MM/MCの切替え時にミューティングの働くのはよいが、約5秒のタイムラグは長すぎ。チューナーの音洩れは、右チャンネルだけ気になる。
●総合的に かなり主張と個性の強い音なので、この点で好き嫌いがわかれるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:ややあり(右chのみ)
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

ビクター A-X9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 このアンプはビクターが〝スーパーA〟を標榜して発表した一連の製品の第一世代の最上級機という位置づけをもっている。総体的にいえば、さすがに出力も大きく(100W)、使用パーツはぜいたくをしているだけのことはあり、腰のすわりがよく、ひじょうに安定でおっとりした音を聴かせる。
●カートリッジへの適応性 A-X9自体の基本的な性格はよいのだが、オルトフォンVMS30/IIでベートーヴェン第九(ヨッフム)の第四楽章導入部のティンパニーの連打などが、A-X7Dと比べると、いくぶんドロンとした印象を与え、テノールのソロなども、いくぶん金属質に近い印象で歌い始める。コーラスとオーケストラのトゥッティにかけての分離、あるいは音のバランス、そしてこのレコード特有の奥行きの深い、立体感のある音の見通しなど、いろいろな点で、X7Dに比べていくぶん透明感が劣るという印象を与える。「サンチェスの子供たち」でも、パーカッションの打音のしまりがもう少しピシッと決ってほしい。エラック794Eの場合は、イクォライザーの高域特性がよくコントロールされているのだろう、レコードの傷みはあまり耳につかずに聴かせることから、このアンプは古い録音のレコードでも楽しませるだけの素質はもっている。
 MCポジションでのノイズレベルおよびノイズの質は、X7Dによく似て、軽い耳につきにくいタイプなので、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型MCでも、実用になるだけのこなれた音だ。オルトフォンの味わいを十分生かすだけの質の良さを持っている。デンオンDL303では、当然のことながら、オルトフォンの場合よりノイズは総体的に減少し、実用上問題がなく、音質もわるくない。外附のトランスを併用すれば、むろんノイズは減るが、音質という点では、MCポジションの音が意外に良いことを改めて教えられる。ただし、フォーレのヴァイオリン・ソナタのようなデリケートな味を要求する曲では、X7Dのようなしっとりと聴きほれさせるほどのムードは出しにくい。
●スピーカーへの適応性 アンプ自体のおっとりした性質が、アルテックの気難しい面をうまく補ってくれるとはいうものの、やはり620Bカスタムの魅力を十二分に抽き出すまでには至らない。スピーカーの選り好みをするというタイプではなく、どちらかといえば、再生音全体をゆったりと腰のすわりよく仕上げたいという場合に、特徴を発揮するアンプだろう。
●ファンクションおよび操作性 X7Dと比べるとよりいっそう豊富で凝っているが、ラウドネスとモードスイッチはない。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くない。
●総合的に 音の重量感、安定感という点で、さすがに10万円台の半ばのアンプだけのことはある。ただし、X7Dと比較してみると、5万円の差をどうとるかはむずかしいところ。遠からずX9D、に改良されることを期待したい。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2+
9. ACプラグの極性による音の差:小

トリオ KA-1000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 KA800/900に比べると、シグマ接続なしの状態でも、このアンプは聴きごたえのある、充実感をともなった、バランスの良い音を聴かせ、基本的な音の性格が整っていることがわかる。ただし、微妙な差とはいいなから、シグマ接続にした方がいっそう音の支えがしっかりし、音のひと粒ひと粒がくっきりと姿をあらわす感じで、最近のトリオの目ざしている、いくぶん硬質で中域のよく張った、輪郭鮮明な音の方向で仕上っていることがわかる。
●カートリッジへの適応性 アンプの基本的な性格がかなり硬質な音であるためか、総合的なバランスでは、オルトフォンVMS30/IIとの組合せが最も納得が行、穏やかでバランスの整った音が聴ける。ただし、この価格帯になればこちらの聴き方もかなり厳しくなり、クラシックの管弦楽で、ベートーヴェン第九(ヨッフム)やアイーダ(カラヤン)のように、オーケストラとコーラスが複雑にからみ合った部分を再生してみると、音のバランスあるいは解像力にいくぶんチグハグな部分があり、その点個人的には多少の不満を感じる。ただし、「サンチェスの子供たち」またはエムパイア4000DIIIでの「ニュー・ベイビィ」のプレイバックでは、満足のゆく再生音を聴かせ、パワー感は十分、音の伸びもよく、クラシックよりは、ポップス、フュージョン系に焦点を合わせた方が、このアンプの特徴が生かされる。高域にピーク成分を持ったカートリッジを使ったり、そういうカートリッジで傷んだレコードのプレイバックは、このアンプでは避けた方が無難。
 MCポジションでは、聴感上のノイズがかなり耳につき、オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCを使うには、外附のヘッドアンプまたはトランスが必要。音質も、いくぶん解像力が甘く、かついささか粗っぽい音になってしまうので、なおさらオルトフォン向きではない。一方、デンオンDL303では、外附のトランスを併用した場合には、ノイズも少なく、バランスが整い、いくぶんきつい面はあるものの、303特徴を生かした音に仕上る。
●スピーカーへの適応性 この価格帯になれば、アルテックから一応の魅力を抽き出してもらいたいが、鳴らしてみた結果は、必ずしも好ましくなく、アンプの個性の強い音のために、スピーカーを多少選り好みする傾向があるではないかと思った。
●ファンクションおよび操作性 MM/MCの切替えスイッチを、ボリュウムを上げたまま操作すると、なぜか左チャンネルからだけ、かなり耳ざわりなノイズを出す。その他のファンクションはノイズもなく、整理されている。フォノ聴取時に(MMポジションで)ボリュウムをあげると、音量はかすかだが、プログラムの内容がそれと聴きとれる程度に明瞭度が高い感じで、チューナーからのクロストークが混入する。
●総合的に 今回のトリオのシグマドライブのシリーズ三機種中では、音質は一番整っている。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:かすかにあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2-
8. ファンクションスイッチのフィーリング:1
9. ACプラグの極性による音の差:中

ビクター A-X7D

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 これはとても良くできたアンプだと思った。価格と出来栄えとのバランスでいえば、今回とりあげた34機種の中でのベスト・ワンに推したいアンプであった。この音質の良さをひと言でいえば、作為のない自然さ。
 低音域にかけての音の支えが実にしっかりしていて、浮わついたところのないゆったりと安定した、どこか国産らしからぬバランスの音を聴かせてくれる。中~高音域にかけての音質は十分に磨かれて、こまやかで美しい音を聴かせるが、それを支える中~低音域が十分な量感をもっているために一聴した肌ざわりはむしろソフトだが、たとえばバスドラムの打音など、十分な迫力を持って鳴るし、管弦楽などでも奥行感が自然で、アンプの音ということを忘れて音楽に浸りきることができる。
 これだけほめた上で二~三の注文をつければ、もう少ししっとりとした艶があればなおのこと魅力的な音質に仕上ると思うし、低音の支えがときとしてほっわずかだか下半身肥大ぎみに聴こえる場合も(プログラムソースによっては)ないとはいえない。しかしこれは、十万円そこそこのプリメインタイプには、少しばかり過大な期待かもしれない。
●カートリッジへの適応性 前述のような音のバランスのせいか、ほんらい細くなりがちのデンオンDL303などでも、ほどよいバランスに仕上る。ハイゲインイクォライザーも、ハイインピーダンスMCに対しては十分の性能で、単体のトランスよりもむしろ良いくらいだ。ノイズも非常に少なく実用上問題ない。ただ、オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCの場合には、MCポジションの性能は、良質のトランスにわずかに及ばない。MM、MCを通じて、各カートリッジの個性をいかんなく抽き出してくれる。いじわるテストに属するエラック794Eでの、傷んだディスクのトレースでも、十分鑑賞に耐える音で聴かせる点、特筆に値する。ということは、古いレコードでもその音楽的価値を十分に抽き出してくれるということになる。
●スピーカーへの適応性 アルテック620BカスタムやロジャースPM510のように、アンプへの注文の難しいスピーカーも、かなりの満足度で鳴らすことができた。テスト機中、ロジャースを積極的に鳴らすことのできた数少ないアンプだった。
●ファンクションおよび操作性 スイッチ、ボリュウム類の操作性はきわめてよい。ボリュウムを上げたままで各スイッチを操作してみても、気になるようなノイズは出ない。よく作られている。フォノ聴取時にチューナーからの音洩れも全く感じられなかった。
●総合的に 操作してみて、鳴らしてみて、全く危なげのないよくこなれた作り方。久々ビクターのヒットといってよさそうだ。今回のテストで、もし特選の上の超特選というのがあればそうしたいアンプ。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):3
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):2
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:3
7. スピーカーの特性を生かすか:3
8. ファンクションスイッチのフィーリング:3
9. ACプラグの極性による音の差:小

サンスイ AU-D707F

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 たとえば「サンチェスの子供たち」。ヴォーカルやフリューゲルホーンのメロウな甘さ、パーカッションの切れこみとそれを支える力感など、ほぼ過不足なく再生され、音全体の鮮度の高さもみごと。シェフィールド「ニュー・ベイビィ」でも、パワー感は十分、打音のエネルギー感も実に聴きごたえがあり、これらの曲に関して相当な満足感を覚える。といって、このアンプがポップス向きというわけではなく、たとえばベートーヴェン第九(ヨッフム)やアイーダ(カラヤン)のような曲でも、フォルティシモあるいはトゥッティのきわどい音も、十分な中~低域の力に支えられ、整ったバランスで、納得のゆく再生をする。総じて、かなりグレードの高い再生音ということができる。このアンプのひとつの特徴として、音に一種独特のナイーヴな響きがかすかにつくという感じがあり、こがこのアンプの音を魅力的に仕上げているひとつの要因といえるだろう。この仕上げ方は、607Fにも多少感じられたが、707Fにおいていっそう成功しているように思われた。
●カートリッジへの適応性 このアンプの性質をもっともよく生かすと思われたのは、クラシックの場合オルトフォンVMS30/II、ポップスではエムパイア4000DIIIで、前述のように、それぞれの曲をあるべき姿で、納得のゆく再生音を聴かせてくれる。ただ、エラック794Eのように、高域のしゃくれ上ったカートリッジに対してはやや弱点を示し、特にレコードが傷んでいる場合は、その傷みを露呈してしまう。
 MCヘッドアンプのゲインが2段階に切替わり、オルトフォンMC30の場合はハイゲインポジションで聴くことになるが、音質がいくぶんカン高く、中域が張りすぎる傾向になる。また、ハム性のノイズが軽微とはいえ耳につくので低出力低インピーダンスMCに対して十分の能力を持っているとはいえない。デンオンDL303も、ローゲイン・ポジションでノイズも耳ざわりでなく、一応使えるという程度。両者を通じて、トータルな音質は、良質の外付けのトランスかヘッドアンプを使ったほうがよく、アンプの基本的な性格のよさと相まって、MCの特質がいっそう生かされる。
●スピーカーへの適応性 スピーカーの選り好みはあまり激しくないが、アルテック620Bカスタムに関しては、その魅力を十分に抽き出すところまでは至らない。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたままで各種スイッチを切替えても、ノイズはよく抑えられているが、チューナーからの音洩れがやや気になるタイプで、MMポジションでは、ボリュウムを上げると、FM放送の内容がかすかとはいえ聴こえてしまう。再検討を要望したいと思う。トーンコントロールの利きが浅いのは、このFシリーズに共通のポリシーであろうか。
●総合的に 基本的な音質はなかなかよく、注目製品のひとつといえるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:わずかにあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

テクニクス SU-V8

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 基本的な音質は、V6と同様、妙な作為を感じさせず、正攻法で練り上げた質の高さがある。音のバランスも、曲によって替わるようなところもなく、実にオーソドックスな作り方であることがわかる。V6と聴き比べた上で、明らかにV8をとる必然性を考えると、パワーを上げたときの音の密度がいくぶん増すことと、パワーが増したためだろうか、安定感がいっそう増すことだろう。
●カートリッジへの適応性 アンプの基本的にもっている性質がオーソドックスであるために、カートリッジには味わいのある音を組合わせた方がよいように思われ、オルトフォンVMS30/IIがよく合うと思う。また、エムパイア4000DIIIで、フュージョン系のレコードをプレイバックしたときなどが、このアンプの印象の最も良かった部分のひとつで、思いきってパワーを上げても、安定して、聴き手に安心感を与えながら、音が気持よく伸びる。エラック794Eのように高域のしゃくれ上ったカートリッジでは、その性質を弱点として鳴らしてしまうタイプなので、傷んだレコードをプレイバックすると、歪を露呈し、楽しめるとはいいにくい。
 MCポジションのノイズはさすがによく抑えられ、オルトフォンMC30でも、極端にボリュウムを上げないかぎり十分実用になり、音質もよい。音質に関しては、外附のトランスに頼る必要がないほどである。とはいうものの、オルトフォンの個性を必ずしも生かすとはいいにくい。デンオンDL303では、ノイズは実用上問題ないまで減少し、音質も良好。303の個性も十分発揮される。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bカスタムを鳴らすと、なぜかいくぶんナローレインジぎみ、言いかえると低域と高域が抑えぎみの音に聴こえ、アルテックの魅力的な面を生かすようには思われなかった。スピーカー自体の特性に、あまり片寄ったクセのない製品を選ぶ必要があるようだ。
●ファンクションおよび操作性 インプットセレクターおよびレコーディングセレクターその他にLEDのインジケーターがつけられているが、これがLED独特の赤とグリーンで点滅するため、いくぶんうるさい印象を与える。トーンコントロールには、スーパーバスが採用され、超低域の増減ができ、スピーカーやリスニングルーム、あるいはプログラムソースによってはきわめて効果的に使える。
 総じてファンクションは豊富。ボリュウムを上げたままで各ファンクションを操作しても、耳ざわりなノイズを出すこともなく、さすがによく練り上げられ手慣れた作り方といえる。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れも全くなかった。
●総合的に 個人的には、ややつき放したタイプの、個性を殺した音質と受けとめられ、デザインにも好感をもちにくいが、作為のない音はアキがこないかもしれない。しかし価格を考えると、ここにもうひとつ音の魅力、あるいは味わい、他にない独特の個性のようなものを望みたくなる。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

オンキョー Integra A-819

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 オンキョーの新シリーズが基本的に持っている音質──いくぶん細くウェットで、独特の透明感を感じさせる音──というは一貫していて、メーカーの主張がはっきり感じられる。ただ、アンプもこのクラスになってくると、そこにもう少し、中~低域での音の支え、あるいは中~高域の透明感、解像力のよさをしっかり支えるだけの力を要求したいが、A819はあんがいそこのところが薄く、総体的に細い音という印象を与える。基本的な音の質は十分磨きあげられ、美しい音に仕上っているが、それだけにいっそうの充実感を、つい要求したくなる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIでベートーヴェン第九(ヨッフム)を再生すると、このレコードに録音されている、中~高域にかけての厚みがいくぶん薄味になり、反面、中~高域にかけてエネルギーが集まる傾向がある。4000DIIIでのシェフィールド「ニュー・ベイビィ」も、パワーとしては十分以上に出て、音量感もありながら、打音の実体感がうすくなる。エラック794Eで傷んだレコードを再生すると、レコードの傷みがわずかとはいえ露呈される方向で、古い録音のレこーコードは楽しみにくい。
 MCポジションは、オルトフォンではハム性のノイズがやや耳につき、MC30に対しては外附のトランスを用意したくなる。一方、デンオンでは、ハム性のノイズはごく軽くなり、一応実用になるが、DL303の基本的な性質である音の細さ、軽さと相乗的に作用して、やや中低域の厚みを要求したい音に仕上がり、必ずしも相性がよいとはいえない。トランスを併用すれば、ノイズは実用上問題にならなくなるが、音質に関しては、A819のハイゲイン・イコライザーもなかなか優れていることがわかる。デンオンDL103系の、中低域に厚みのあるカートリッジの方が、このアンプの性質をよく生かすだろう。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bの中域の張りをうまく抑えてくれるかと思ったが、妙に薄くなってしまった。スピーカーをいくぶん選り好みするタイプのようだ。
●ファンクションおよび操作性 独特のソフトネス・スイッチ(アンプ基本的な音質があまりにもクリアーに仕上ってしまったため、その音をいくぶん和らげる目的でつけたと説明されている)をONにすると、わずかな差とはいえ、全体のバランスとしては好ましい方向になる。ただし、どちらがよいかは、組合わせるカートリッジ、スピーカー、あるいはプログラムソース、そして聴き手の好みによって決めるべき問題だ。ファンクションは豊富で、クリックノイズも全くない。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れも全くなく、すべてに手慣れた実にキメの細かい作り方。
●総合的に オンキョーのトーンが極限までつきつめられた、たいへん独特の音を聴かせるアンプなので、好き嫌いははっきりするだろうが、作り方としてはキメ細かく、さすがに高級機であることを感じさせる。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中(ハム、やや耳につく)
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

デンオン PMA-550

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 前出のPMA540は、どちらかといえば、ソフトな肌ざわりの中に芯のしっかりした音が聴きとれたが、PMA550になると、その芯のしっかりした部分がもう少し表に立ち、一聴すると、いくぶんハード志向の音というふうに聴きとれる。したがって、クラシックのにが手なタイプのように思えたが、いろいろなプログラムソースを通して聴く限り、いくぶん硬めの音でありながら、クラシックの管弦楽なども、十分納得のゆくバランスで聴かせてくれる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIのように、わりあいソフトな味わいをもったカートリッジでも、いくぶん硬質ぎみに整え、クラシックのオーケストラを非常に密度の高い音で聴かせる。反面、高域にかけての繊細な音が空間に散りばめられ、消えていくといった雰囲気がいくぶん物足りない。エムパイア4000DIIIでの「ニュー・ベイビィ」のプレイバックでは、このアンプがもっている力がよい方向に作用し、打音ひとつひとつがよく決り、パワーの伸びと音の質の良さとが十分にうかがえる。エラック794Eのプレイバックでは、レコードの傷みあるいは歪はそれとしてわからせるものの、シリつきのような、きわどい音は抑えられ、一応聴けるところまで音をまとめてくれる。
 MCポジションでオルトフォンの場合には、ややハムの混入したノイズが、ボリュウムを上げると耳につく。音質自体も、MC30に対しては、やや甘くぼかす傾向がある。しかし外附のトランスを使うと、PMA550の性格とオルトフォンの相乗効果であろうか、曲によって、ややきつい、あるいは押しつけがましいというような音になりがちで、オルトフォンを十分に生かすタイプではないように思う。その点デンオンDL303は、当然とはいうものの、たいへんうまいバランスに整えられ、相当に堪能できる。フォーレのヴァイオリン・ソナタのように、微妙なニュアンスを要求する曲では、良質の外附のトランスの方が、ヴァイオリンらしさ、弦の鳴り方が胸に美しく響く実感がよく出て、いっそうよい結果が得られる。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bカスタムは、比較的中域のよく張った、いくぶん硬質な音を出しがちなスピーカーだが、この点、550との相乗効果であろうか、必ずしも620Bをベストで鳴らすとはいいがたく、このアンプを生かすにはスピーカーとカートリッジを選ぶ必要があるように思う。
●ファンクションおよび操作性 ファンクションはたいへん豊富で整っており、ボリュウムをかなり上げた状態で各ファンクションスイッチをON-OFFしても、気になるノイズは全く出ない。しかし、MMとMCの切替え時に働くミューティングのタイムラグが長く、もう少し瞬時に切替わるようにしてほしい。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くなく、良好。
●総合的に いくぶんハード志向の音ながら、総合的によくまとめられ、聴きごたえのあるなかなか良質の製品。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中(わずかにハム混入)
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

ヤマハ A-7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 まず大掴みな言い方をすれば、これは誰が聴いてもあの聴き馴れたヤマハのアンプに一貫した個性。たとえば名作といわれたCA1000以降、ヤマハのアンプの聴かせてきた音は、国産アンプの中ではサラッと乾いて、どことなく明るい、色でいえばホワイト、あるいはヤマハのアンプのパネルデザインがそのまま音質の表象であるような、上品な音。それを私たちはヤマハの音、と感じてきた。その意味で、基本的なヤマハの音は、A7に至っても全くそのまま受け継がれている。
 けれどそうした上品な音には、音楽の内容によっては、ときとしていくつかの注文をつけたくなってくる。たとえばもっと音楽に肉迫するような彫りの深さ。あるいはまた、唱い手の心をこめた情感がそのまま伝わってくるかのようなしっとりした味わい。音を空間に散りばめるような、あるいは音ひと粒ひと粒に生命が与えられて躍動しはじめるような、言いかえれば生きた形の、ナマの形での音楽への感動……そうした面で、ヤマハの音は、概してひかえめで、一歩退いた形で、育ちの良い優等生が人生の垢にまみれることを嫌うかのように、むしろ対象に肉迫することを避けて通る音のように、私には受けとれる。そうした中で、過去、ヤマハのプリメインの中で最も印象に残った音はCA2000で、ヤマハの個性という枠の中で最も音楽を聴かせてくれたアンプのひとつであったと思う。
 数年前にそういう名作のあったことを頭に置いて、新製品のA7ならば、何らかの形でそこを一歩超えた音を期待したとしても過大な要求とはいかないだろうと思う。が、確かにこの音は、ひとつひとつ取り上げてみるかぎり、レインジは十分広く、音の汚れや濁りもなく、例によってヤマハ上品な、どこか控えめな美しい音質は持っているものの、どうにも喰い足りないもどかしさを感じてしまう。どことなく平面的。どことなく音が十分に鳴りきらない。いわば素気ない音といえると思う。
●カートリッジとスピーカーへの適応性 カートリッジとスピーカーの個性はもちろんひと通り鳴らし分けるが、それぞれの個性を、魅力的に鳴らすよりも、むしろ、このカートリッジの音はこうですよ、と、単につき放した鳴り方をするように感じられる。ヘッドアンプのノイズは少なく、よくできているが、音質は本体の個性と同様だ。
●ファンクションおよび操作性 スイッチ類のどのポジションでも耳ざわりなイズを出すようなこともなく、よくこなれた作り方。メインダイレクトというスイッチを押すと、トーンコントロール関係を素通りして、イクォライザーとパワーアンプが直結される。ただしその音質の差はほとんど聴き分けられなかった。
●総合的に こんにちの国産の同価格帯の中では、必ずしも魅力的とはいえないが、ヤマハの音色を愛する人には、他にない個性という点で貴重な存在。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小