サンスイ AU-D707F

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 たとえば「サンチェスの子供たち」。ヴォーカルやフリューゲルホーンのメロウな甘さ、パーカッションの切れこみとそれを支える力感など、ほぼ過不足なく再生され、音全体の鮮度の高さもみごと。シェフィールド「ニュー・ベイビィ」でも、パワー感は十分、打音のエネルギー感も実に聴きごたえがあり、これらの曲に関して相当な満足感を覚える。といって、このアンプがポップス向きというわけではなく、たとえばベートーヴェン第九(ヨッフム)やアイーダ(カラヤン)のような曲でも、フォルティシモあるいはトゥッティのきわどい音も、十分な中~低域の力に支えられ、整ったバランスで、納得のゆく再生をする。総じて、かなりグレードの高い再生音ということができる。このアンプのひとつの特徴として、音に一種独特のナイーヴな響きがかすかにつくという感じがあり、こがこのアンプの音を魅力的に仕上げているひとつの要因といえるだろう。この仕上げ方は、607Fにも多少感じられたが、707Fにおいていっそう成功しているように思われた。
●カートリッジへの適応性 このアンプの性質をもっともよく生かすと思われたのは、クラシックの場合オルトフォンVMS30/II、ポップスではエムパイア4000DIIIで、前述のように、それぞれの曲をあるべき姿で、納得のゆく再生音を聴かせてくれる。ただ、エラック794Eのように、高域のしゃくれ上ったカートリッジに対してはやや弱点を示し、特にレコードが傷んでいる場合は、その傷みを露呈してしまう。
 MCヘッドアンプのゲインが2段階に切替わり、オルトフォンMC30の場合はハイゲインポジションで聴くことになるが、音質がいくぶんカン高く、中域が張りすぎる傾向になる。また、ハム性のノイズが軽微とはいえ耳につくので低出力低インピーダンスMCに対して十分の能力を持っているとはいえない。デンオンDL303も、ローゲイン・ポジションでノイズも耳ざわりでなく、一応使えるという程度。両者を通じて、トータルな音質は、良質の外付けのトランスかヘッドアンプを使ったほうがよく、アンプの基本的な性格のよさと相まって、MCの特質がいっそう生かされる。
●スピーカーへの適応性 スピーカーの選り好みはあまり激しくないが、アルテック620Bカスタムに関しては、その魅力を十分に抽き出すところまでは至らない。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたままで各種スイッチを切替えても、ノイズはよく抑えられているが、チューナーからの音洩れがやや気になるタイプで、MMポジションでは、ボリュウムを上げると、FM放送の内容がかすかとはいえ聴こえてしまう。再検討を要望したいと思う。トーンコントロールの利きが浅いのは、このFシリーズに共通のポリシーであろうか。
●総合的に 基本的な音質はなかなかよく、注目製品のひとつといえるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1+
5. TUNERの音洩れ:わずかにあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

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