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NEC A-10 TYPEIII

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 NECのプリメインアンプA10は、昭和58年6月に、独自の構想に基づいたリザーブ電源方式を採用し、一躍NECオーディオの実力と魅力を世間に認めさせる、いわば画期的な成功をおさめたモデルである。昭和59年9月には、電源部を新リザーブII方式に発展させ、A10II
に改良されている。今回、二度目の大改良が加えられ、このタイプのファイナルモデルとでもいうべきA10TypeIIIとして発売されることになった。
 シンプル&ストレート思想は、かなり撤底され、イコライザー段はMM型専用。ノーマルの使用状態では、CD、TUNER、AUXなどの入力は、TAPE1/2を含み、セレクタースイッチ、ボリュウム、左右独立のバランス調整を通るのみで、ダイレクトにパワーアンプに送られる設計だ。
 機能面では、モード切替、トーンコントロール、テープモニター系が省略され、TAPE1と2は、ファンクション切替に組み込まれた。
 次に、プリアンプとパワーアンプを独立して使うための切替スイッチが設けられており、この場合のみに利得18dBのフラットアンプが信号系に入り、それを経て、プリアウト端子に送られる。フラットアンプ出力部には、別に利得0dB、位相が180度回る反転アンプがあり、独立した出力端子をもっており、この2種の出力端子とパワーイン端子間を外部接続で使い分ければ、左右チャンネル同相で、入出力の位相を正相にも逆相にもコントロール可能。この面での位相管理が行われることが少ないCDソフトヘの対応や、スピーカーの+端子に電池の+をつなぐとJISとは逆にコーンが引っ込む逆相型スピーカーや、アナログカートリッジでの正相型や逆相型に対応できるという、現状のオーディオの盲点をついた設計が非常にユニ−クである。なお、外部接続でプリアンプとパワーアンプを接続するときのフラットアンプの利得をキャンセルするアッテネーターがパワーアンプ入力にあり、利得は一定である。その他の機能にフォノダイレクトがあるのも、シンプル&ストレイト思想の表われだ。
 パワーアンプは、低負荷時のドライブ能力が向上し、約20%強化された電源部のバックアップで、ダイナミックパワーは8Ωで80W+80W、2Ωで320W+320Wの完全保証は見事な成果である。
 機構設計面では、金属製脚部が通常の4脚式の他、3脚式も可能で、設置場所でのガタや本体のネジレが解消され、音質上で利点は多いとのこと。
 A10TypeIIIは、穏やかであったA10IIと比較して、かつてのA10登場時点での鮮明で密度感があり、質的に高い音を再び現時点で甦らせたようなクォリティの高い音を聴かせてくれる。音質面での見事な成果と比較をすると、デザイン面の特徴は、古くなりすぎた印象だ。

サンスイ AU-X111 MOS VINTAGE

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 サンスイのプリメインアンプは、現在のシリーズの出発点であるAU607、707が発売されてから昨年で10周年を迎え、新しく10年後に向かって出発する意味をも含めて、DECADEシリーズとしてスタートしたのだが、この同じモデルナンバーを基本的に使うという意味での超ロングセラーは、プリメインアンプの歴史に残る快挙というべきであろう。
 これらのシリーズの製品は、基本的に607、707、907の3モデルをベースに、ときにはシリーズのジュニアモデルに相当する507を加えて発展をしてきた。そしてこのシリーズとは別に、プリメインアンプのスペシャリティモデルを随時開発してきたことも、同社の特徴だ。同社には、古くは管球アンプの時代の末期に、当時の一般的なプリメインからはとびぬけた存在で、トップランクプリメインアンプとして名声を得たAU111があった。07シリーズになってからでも、管球式時代のAU111的存在として、AU607/707に続く第2世代のAU−D607/D707/D907の時代に、AU−X1があり、D607F/D707F/D907F時点でのAU−X11が最近の例である。
 今回、AU−X11以来しばらくの期間をおいて、久し振りにデジタル/AV時代に対応する最高級プリメインアンプAU−X111MOS・VINTAGEが開発され、発売されることになった。
 この111という伝統的なモデルナンバーを持つ、プリメインアンプのトップランクモデルの登場を迎えるにあたり、温故知新的な意味を含めて、AU−X1、AU−X11の特徴を簡単にチェックしてみよう。
 まずAU−X1は、動的な歪として当時話題になったTIM歪やエンベロープ歪を低減でき、強力なドライブ能力をもつ新回路方式として、サンスイが開発したダイヤモンド義回路をAU−D607/D707/D907シリーズの成果として受け継いでいた。そして、高級アナログディスクとしてダイレクトカッティングが定着しはじめるなどのプログラムソース側のダイナミックレンジの拡大に対応し、ハイパワーへの要求にも応えるためにへ当時のプリメインアンプとしては異例ともいえる160W+160W(8Ω)のパフォーマンスを誇る製品として誕生した。当然、物量投入型の伝統的な設計方針は電源部に強く反映し、大小2個の電源トランスを使った左右独立、各ステージ独立型の8電源方式を採用したことでも話題になった。
 ブロックダイアグラム的に信号の流れを見ると、MCヘッドアンプ、フォノイコライザーアンプ、トーンコントロールを持たないフラットアンプとパワーアンプの4ブロック構成である。また、パワーアンプへは切り換えスイッチでダイレクトに信号を送り込める点が最大の特徴である。
 機能面もユニークな構想に基づくものだ。基本的には、信号系のシンプル化、ストレート化がポイントで、単純機能のプリアンプとハイパワーアンプを一体化し、同社が名付けたスーパーインテグレート型という構成を採る。前面パネルに左右チャンネルが独立したパワーアンプの入力ボリュウムコントロールがあり、トーンコントロールやモードセレクターなどは省かれているが、フォノイコライザーの出力をDC構成のフラットアンプをジャンプさせ、パワーアンプに直接入れる、現在でいうフォノダイレクト入力機能が目立つ特徴だ。
 次の、AU−X11は、AU−D607F/D707F/D907Fの07シリーズ第3世代の特徴であり、画期的な新技術として、スーパー・フィード・フォワード方式を採用している。このスーパーFF方式とは、NFアンプ以前から、歪低減化の回路として注目されながら、実用化の難しかったフィード・フォワード方式を、サンスイが独自の方法で実用化したものだ。
 ちなみに、この時代のAU−DD607Fを例にとれば、頭のDはダイヤモンド作動方式、末尾のFがスーパー・フィード・フォワード方式を象徴するネーミングだ。
 外観上は筐体両サイドにウッドボンネットが附加され、新しくVINTAGEの名称がこのときに付けられたが、パネル面の基本レイアウトはAU−X11譲りであり、機能面、4ブロック構成のMCヘッドアンプ/フォノイコライザー/フラットアンプとパワーアンプ、電源関係も、ほぼAU−X1を受け継いでいる。
 AU−X11でもっとも大きく変わったのは、筐体コンストラクションである。電気系の増幅部と同じウェイトで、音質を左右する要素である機構設計は、大幅に変更された。大型ヒートシンクと電解コンデンサーの位置が入れ替わり、限定生産モデルAU−D907リミテッドで採用された銅メッキシャーシ、ブロンズメッキネジなどがマグネティツク歪対策として使われ、筐体ボンネット部もアルミ製という凝った設計を採る。
 今回のAU−X111MOS・VINTAGEでは、管球時代の名作AU111のモデルナンバーと、AU−X11のVINTAGEに加えて、MOSの文字が示すように、サンスイ初のMOS・FET使用のパワー段が目立つ。
 回路構成上の他の特徴は、パワーアンプB2301で開発されたバランス型パワー段構成が最大の特徴だろう。
 この方式は、第五世代のEXTRAの時代の末期に、AU−D907F・EXTRAに、プリドライバー段だったと思うが、電源回路のアースからのフローティング化が行われ、音質的な利点が大きかったことからこれが採り入れられ、次世代のAU−D607G・EXTRAから始まる、グランドフローティングを意味するGのイニシャルを付けた新シリーズに発展した。これが進化してパワー段に及び、独自のダイヤモンド差動回路の特徴と結びついて、セパレート型パワーアンプB2301のバランス型パワー段が開発されたものと推測できる。
 この成果が、AU−D507Xに始まる4機種のシリーズに導入され、現在のDECADEシリーズに受け継がれている。
 デザイン的に新しいサンスイの顔をもつ本機は、その基本はセパレート型コントロールアンプC2301から受け継いでいる。異なった材料のもつ質感を巧みに活かしたデザインのまとまり、加工精度やフィニッシュの見事さなどは、サンスイ製品の最高峰であり、大きな魅力である。
 半分を大きなガラスで覆われたフロントパネルは、中央部が全幅にわたり傾斜面になっている。ここに角型のプッシュボタンスイッチを一列に配して、フォノ、CD、TUNER、LINE1/2の5系続の入力を切り替えるファンクションセレクターを丁甲央右側に、TAPE/VIDEO1/2/3の3系統の切り替えスイッチを左側に配置してある。大型のボリュウムツマミの下は、右端から、−20dBのミューティング、ボリュウムが−40dB位置の時に低域の200HZを+2dBほど上昇させるプレゼンス、TAPE系とは別系統で、グラフィックイコライザーやエキスパンダーなどに利用でき、2系統でシリーズにも使えるプロセッサー関係の3個のスイッチがあり、ファンクションとTAPE/VIDEO系スイッチとの間は、右側の大きいプッシュボタンがサブソニックフィルター、左側の小さいほうが、TAPE/VIDEOとSOURCE切り替えである。
 この傾斜スイッチ部分は、上部のガラスパネルの裏面から間接照明的にやわらかく照明され、ファンクションなどのレタリングとともに渋く浮き上がって見せるようになっており、シャワーライトと名付けられている。漆黒のパネルに際立つインジケーターと共に、雰囲気の優れたデザインで、従来の男っぼい無骨さが一種の魅力となっていたAU−X1とは、隔世の想いがするほどの変身ぶりである。
 パネル面の下段は、右端にLINE2用のフロント入力端子があり、リアパネルのLINE2入力とはスイッチで切り替え可能で、LINE3とも考えられる人力だ。続く3個のロータリースイッチは、右からRECセレクター、バランス調整、パワーアンプのダイレクト入力をバランス/インテグレート/ノーマル入力の1と2に切り替えるパワーアンプ・ダイレクト・オペレーションスイッチ。次の2個のツマミが独立して動作する左右のパワーアンプレベル調整。その左側に3系統のスピーカースイッチ、電源スイッチと並んでいる。
 筐抜構造は、ボンネットのフロントパネル寄りに幅の狭いウッドを配し、左右の両サイドにアルミ引抜材を採用し、フロントパネルのガラス面と美しい調和を見せてくれる、オリジナリティの豊かなデザインだ。
 現実にこの外形寸法をもつブリメインアンプとなると、試聴室レベルではさほどではないが、家に持って帰ると大きさに唖然とさせられたりするが、このAU−X111では無用に大柄な印象がなく使いやすいのは、デザインの成果に他ならない。
 一方、放送衛星も現実のものとなりつつあり、DATも年末には発売されるというデジタル時代、AV時代に備えて、本機ではVIDEO入力系も加わっているために、リアパネルの入出力系は複雑をきわめている。中でも、パワーアンプダイレクト入力時のバランス入力用のキャノンコネクターを左右独立で2個、スピーカー出力用に1系続(左右独立で2個)、計4個備えていることが、プリメインアンプのリアパネルとしては大きな特徴だ。
 マルチ入力に対応する豊富な入出力系と、パワーアンプセクションへ直接入力が加えられるというコンセプトによる本機の信号系の流れをチェックしてみよう。
 フォノ入力系は、MCヘッドアンプは省略され、MMカートリッジ専用である。この選択は、高級機では、昇圧手段を含んだものがMCカートリッジの音という考え方をすれば当然で、汎用型のMCヘッドアンプは不要と考えればよい。
 CD、TUNER、LINE1、REARとFRONTのLINE2からの入力は、フォノイコライザー出力とともに、ファンクション切り換えスイッチに入り、TAPE/VIDEO切り換え、プロセッサー入出力切り換え、ミューティングを通り、バランス調整、プレゼンス付マスターボリュウム、サブソニックフィルターを経由して、フラットアンプに送られる。
 別系統として、RECセレクターがあり、
これはCD、TUNER、SOURCE3→1、2→1のコピーが選択できる。また、新設されたVIDEO信号系は、入力が1、2、3、の3系統、出力がVIDEOとMINITORであり、VIDEO信号系のオーディオ系への影響による音質化対策として、リアパネルのピンジャック背面にICスイッチを置き、アンプ内部での配線の引き回しを一切行わず、このIC用の電源部も独立した専用トランスが採用され、VIDEO系の影響は最低限に抑える設計である。
 フラットアンプ出力は、パワーアンプ・ダイレクト・オペレーション・スイッチを経由してパワーアンプに入る。オペレーションスイッチは、バランス、インテグレードとノーマル1、ノーマル2人力に切り替わり、バランスとノーマル入力時に、フロントパネルのパワーアンプ・レベル調整が働く設計である。
 パワーアンプ出力は、2系統のスピーカーをリレーコントロールで切り替え可能。ヘッドフォンアンプはバランス型出力段の+位相側から信号を受け、ヘッドフォンをジャックに挿入したときのみ電源がはいる。
 回路設計上での大きなテーマは、CDソースのもつ95dBを越すダイナミックレンジをカバーするために、高いSN比を獲得することが最大のものであり、パワー段のMOS・FET採用も、微小信号レベルでの静けさを追求した結果ということだ。
 フォノイコライザーアンプは、ディスクリート構成DCアンプで、20Hz〜300kHz±0・2dBの偏差を誇る。
 フラットアンプ部はコントロールアンプC2301と同等の、純A級カスコード付プッシュプル構成。
 パワーアンプは、初段姜動増幅で、2組のダイヤモンド差動アンプを採用し、パワー段にMOS・FETを2個並列で、バランス型とした8個使用であり、入力部にバランス型入力を持つことが特徴である。
 電源部は、左右独立型のパワー段用、同じく左右独立型のプリドライバー段用と、安定化回路をもつフラットアンプとフォノイコライザー用、プロテクター用の5系統が大型トランスから給電され、別の小型トランスから、VIDEOアンプ、ヘッドフォンアンプ共用とインジケーターランプ用の2系統が給電されている。
 筐体の機構面では、本体のほぼ中央部に電源トランスを置き、その左右にツインモノ構成的に大型ヒートシンクをもつパワーアンプブロックがあり、フロントパネル側から見て、リアパネルの右側が入力系、左側がスピーカー出力と電源コードというレイアウトで、右側面がフォノイコライザーアンプである。この構成は、ほぼ前後左右の重量配分がとれている利点があり、大型の脚と相まって、安定度が高く音質的にも好ましい設計である。
 機構面での最大のポイントになる、機械的な共振や共鳴については、適度なダンピング処理を含めて、基本から見直し検討されている様子で、ほぼ完全にビリツキをシャットアウトしており、この振動防止対策の完璧さは現在市販されているアンプの中ではベストである。なお、ネジ類は、銅メッキやブロンズメッキをマグネティック歪対策として最初に採用したサンスイながら、本機には特にそのようなものは使っていない。何の理由によるものか、たいへんに興味深い点である。
 マルチ入力対応機では、接続の難易度も大切なポイントだ。フォノなどの入力系は左右が上下配置になっているが、フロントパネルのスイッチが右からフォノ、CDと並び最後がLINE1だが、リアパネルでは、LINE1と2が入れ替わり、フロントパネル側から手探り的に接続するときに少し戸惑いがちである。
 スピーカー端子は新開発の特殊型。キャップ部を取り外し、中央の穴にコードを通し、キャップを、ネジ込むタイプで、両手が必要となり少し使い難い。また、このタイプはコードの先端を単芯線のようにねじったままの場合と先バラの場合では接触が変わり、少し音質が変わることを注意したい。
 電源コードには、極性表示付大電流タイプを使用しているが、ACアウトレット部にもこれに対応した明快な極性マーキングがあればよりいっそう使いやすいだろう。
 フロントパネルのツマミは、感触を重視してすべてアルミ削り出し製である。プッシュボタンスイッチ類は、ノイズもなく、タッチも優れ、フィーリングよくまとめてある。
 入力にデンオンDL304と昇圧トランスをCDP553ESDをつなぎ試聴を始める。すでに数時間電源スイッチはONにしてあり、静的にはウォームアップしているはずだが、動的には不足だ。
 DL304の音は、中城に少し薄さのある広帯域型のレスポンスと、粒子の細かい滑らかな音となるが、やや鮮度感に乏しく見通しもいま一歩の印象だ。そこでしばらくウォームアップを続け、変化を待ってみる。音を鳴らしはじめてから約20分ほど経過すると、まるでモヤが晴れかかった時のように見通しがよくなり始め、音の細部が少し顔を覗かすようになる。ある程度安定するのには、約1時間が必要のようだ。
 ウォームアップしたアナログディスクの音は、軽くしなやかで、質的には充分に磨かれた音である。ただし、全体に表情が抑え気味の印象もあり、アナログディスク独特の、音溝を丹念に針先がトレースする、いわばレコードのメカニズム特有の音を聴かせる方向とは異なる傾向のようだ。音場感的な拡がりはスピーカー間にまとまる。
 CDに切り替える。基本的な音のエンベロープ的な印象や表現力は変わらないが、さすがに分解能が高く、ダイナミックレンジも広く、反応も早くなる。少し聴き込むと、鋭角的なデジタルらしい音のエッジを強調することなく、鮮度感や色彩感をこれみよがしにひけらかすタイプではないことがわかる。基本的クォリティが高く、丹念に磨き込んだ音だけに、もう一歩、使いこなしで追い込んでみたいと思わせるタイプの音である。
 そこで、CD入力をTUNERなどの他のハイレベル入力端子に入れて、音の変化を確認してみよう。TUNER端子では、高域のディフィニッションが不足するが、穏やかでまとまりがよい特徴があり、長時間聴いて疲れない音だ。LINE1端子では、適度に輪郭がクッキリとし、バランスが優れた立派な音。LINE2端子は、REARでは、LINE1の角を丸くした音、FRONTでは、全体に薄味でややリアリティ不足の音と細かい変化を示す。これは、LINE1の音をとりたい。
 これを、パワーアンプに直接入力した時の音と較べると、鮮度感は少し劣るが、適度にエッジの効いた、良い意味でのアナログ的雰囲気がある音で、これは充分に楽しめる音だ。
 充分に音楽信号を入れてウォームアップを完了した時のパワーアンプダイレクトNORMAL・IN1での音は、07シリーズとは異なるが、しっとりとした落ち着きがあり、柔らかくしなやかで、クォリティが高く、やはり高級機ならではの別世界の魅力がある。
 AU−X1の、低域のドライブ能力が抜群に優れ、豪快でエネルギッシュな音、AU−X11の、X1をベースとし、フレキシビリティが増し表情が穏やかで大人っぽくなった音と比較すると、本機の置かれた時代的な背景がみえてくる。AU−X111MOS・VINTAGEならではの、広帯域型のレスポンス、音の微粒子な点、適度にしなやかでフレキシビリティに富み、一種のクールさのある、サラッとしたこの音は、やはり現代のアンプならではのキャラクターといえるだろう。これこそがサンスイ・アンプの将来の方向性を示した新しい音で、サンスイ・アンプの新しい顔を見た思いである。
 価格的にはこれよりも高価格なプリメインアンプが過去も現在も存在しているが、開発コンセプト、デザインと仕上げ、機能と音質操作性と応用範囲の広さなどの総合的なバランスの高さからみれば、この製品は文句なしにトップランクの製品といえるであろう。試聴機は本格的な量産前の製品のためか、気になる箇所も散見されたが、総合的な能力が高く、潜在的に余力が残っているだけに、さらに追い込まれた状態で、じっくりと聴き込んでみたいと思わせるアンプである。

プリメインアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 ブリメインアンプの価格帯は3ランクで、10万円未満、10〜20万円、20万円以上と分類されている。そして、プリメインアンプという性格からすると、10万円未満というゾーンが主力であり、10〜20万円は高級機、20万円以上は特殊な超高級機として、その上のセパレートアンプと重複するゾーンであると考えてよいのではなかろうか。人によっては、10〜20万円を主力と考えるかもしれないが、最近のプリメインアンプのCPからすれば、僕は前述のような認識をもっている。特に、79800円という価格のブリメインアンプの質的充実は目覚ましく、単にCPの優れた製品として以上の内容の優れた製品が多いのである。さすがに、これを下廻る価格のものには、本格的なコンポーネントとしては少々不満の残るものが多く、10万円未満とはいっても、現実は79800円に集中したゾーンということになるようだ。
 この10万円未満のゾーンでベストワンとしてオンキョーのA817RXIIを選んだが、このアンプのもつ、高いスピーカードライブ能力と、余裕のある豊かなサウンドクォリティは、かなりの高級級スピーカーを接続しても一応不満の少ない品位をもっているし、極端に能率の低いスピーカーでなければ、広くブックシェルフタイプのシステムを鳴らすのに全く不満のないものだ。他にハーマンカードンのPM655を選んだが、この製品のもつ音の情感は注目に催する。価格はやや割高で、パワー表示からだけ見ると、特にその感が強いが、その音質と、パワー以上のドライブ能力からして、優れたブリメインアンプだと思う。もう一機種、ビクターのAX−S900を選んだが、この滑らかで艶のあるエネルギッシュな音は立派だ。しかし、選に入れなかった中には、これらと全く同列と思えるケンウッドKA990Vなどもあり、何故、これが入っていないのか? と問われると、答えは全く用意出来ない。強いて答えろといわれれば、KA990Vは他の機会に大いに評価して紹介しているので、ここでは他の製品にチャンスを与えたということになるのである。
 10〜20万円のベストワンはヤマハのA2000aである。A2000のリファインモデルだが、音は一長一短。A2000のひよわさはなくなったけれど、その分、情趣はやや希薄になった。美しく、所有する魅力のある高級ブリメインアンプだ。そしてケンウッドKA1100SD、サンスイAU−D907XDなど、いずれも充実した堂々たる製品である。
 20万円以上はマランツPM94をベストとしたが、これとは対照的なラックスマンL560とは比較すら困難だ。L560はクラスAでパワーは小さいが、風格と情緒性では表現しがたい魅力をもつ。PM94のほうがより一般的に強力なアンプではある。

プリメインアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 今年のプリメインアンプの注目すべき価格帯は、10万円未満で、製品の内容が非常に高まったことと、20万円以上の価格帯に、セパレート型アンプの下限と競合する性能、音質を備えたモデルが登場してきたことである。
●10万円未満の価格帯
 基本的には、スピーカーシステムでの20万円未満の価格帯に相当するゾーンで、本格派のブックシェルフ型システムなどを充分にドライブしようとすると不満を生じるだろうが、気軽に音楽を聴こうという要求には適度な製品が存在している。
 最激戦価格は79、800円に絞られ、上位7機種中で6機種がこの価格の製品であり、ほとんどが新製品という過密ぶりである。それらのモデルの内容をジックリと見聞きしてみると、前作と比較して明らかに1ランクアップを果している製品があるのが判かる。その第一は、A750aだ。やや線が細く、弱々しさのある前作とは一線を画した、安定感のある充実した音は、かなりの本格派で、ドライブ能力もあり、安心して使える印象が好ましい。
 A817RXIIも特殊なトランスを各所に採用した結果なのだろうが、従来の独特のヌメッとした色彩感が大幅に減少して、オンキョー本来のスッキリとした抜けのよい素直な音になった点を大いに買いたい。
 ベスト1は、AX−S900である。もともと、この価格帯には異例の内容をもつ前作に電源部の改良をメインにしたモディファイが施され独自のGmボリュウムやGmスイッチ切替によるSN比の高さは、圧倒的に優れた見通しの良い音場感に現われている。また、スピーカーのドライブ能力も充分にあり、本格派プリメインとしての信頼感は非常に高い。やや異例な存在が、PM655だ。豪華な仕上げを競う国内製品と比較すると、異なった個性をもつが、ゆったりとした落着いた音は独特の魅力だ。
●10〜20万円未満の価格帯
 非常に内容が優れた製品が昨年一斉に発売されたが、予想外に需要が伴わなかったのが10万円台前半のモデルだ。PMA960のしなやかで落着いた音、A−X1000のダイナミックな迫力にも注目したいが、A2000aの安定感と密度感の高さはピカーの存在である。型番に変更はないが確実に改良が聴き取れるのがA150Dでダークホース的な存在。柔らかく、豊かな音を受け継ぎながらも、ピシッと一本芯の通った音が聴けるのは大変に好ましい存在だ。
●20万円以上の価格帯
 やや、ベストバイの印象から外れたゾーンである。PM94は、まさしく、スーパープリメインアンプ的存在で、同社のセパレート型Sc11とSm11と競合できるだけの質的高さは別格の存在である。LX360の独特の雰囲気も大切にしたい個性。

京セラ A-710

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 京セラのセパレート型アンプは、独自の振動解析に基づいた筐体構造を採用して登場した、オリジナリティ豊かな特徴があるが、今回発売されたA710は、プリメインアンプとして同社初の国内発売モデルである。ちなみに、一昨年度のオーディオフェアで発表されたプリメインアンプは、基本構造が共通のため見誤りやすいが、あのモデルはセパレート型アンプなどと同じ910のモデルナンバーを持つ本機の上級モデルA910であり、既に輸出モデルとして海外では発売されており、本機に続いて国内でも発売されるようだ。
 A710は、A910のジュニアタイプとして開発されたモデルで、外観上では、筐体両サイドがアルミパネルから木製に変わっているのが特徴である。基本的に共通の筐体を採用しているため、回路構成にも共通点が多いが、単なるジュニアモデル的な開発ではなく、シンプル・イズ・ベストのセオリーに基づいて、思い切りの良い簡略化が実行されている点に注目したい。
 それはこのクラスのプリメインアンプには機能面で必須の要素とされていた、バランスコントロールとモードセレクターを省略し、信号系路でのスイッチ、ボリュウムなどの接点数を少なくし、配線材の短略化などにより信号系の純度を保つ基本ポリシーに見受けられる。つまり、一般的な最近の機能であるラインストレートスイッチとかラインダイレクトスイッチと呼ばれるスイッチを動作させたときと、本機の標準信号経路が同じということだ。
 さらに同じ構想を一歩進めたダイレクトイン機能が備わる。この端子からの入力は、ボリュウム直前のスイッチに導かれており、0dBゲインのトーンアンプをバイパスさせれば、信号はダイレクトにパワーアンプに入る。簡単に考えれば、ボリュウム付のパワーアンプという非常に単純な使用方法が可能というわけだ。
 出力系も同じ思想で、パワーアンプは出力部に保護用、ミュート用のリレーがなく、回路で両方の機能を補っており、信号はリレー等の接点を通らずダイレクト出力端子に行き、その後にスピーカーAB切替をもつ設計だ。
 その他、MC型昇圧にはトランスを使用、左右対称レイアウトの採用、信号系配線にLC−OFCケーブル採用などが特徴。
 試聴アンプは、検査後のエージング不足のようで、通電直後はソフトフォーカスの音だったが、次第に目覚めるように音に生彩が加わり、比較的にキャラクターが少ない安定した正統派のサウンドになってくる。帯域は素直な伸びとバランスを保ち、低域の安定感も十分だろう。このあたりは独特の筐体構造の明らかなメリットだ。また、信号の色づけが少ないのは、簡潔な信号系の効果だ。華やかさはないが内容は濃い。

京セラ A-710

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 京セラのセパレート型アンプは、独自の振動解析に基づいた筐体構造を採用して登場した、オリジナリティ豊かな特徴があるが、今回発売されたA710は、プリメインアンプとして同社初の国内発売モデルである。ちなみに、一昨年度のオーディオフェアで発表されたプリメインアンプは、基本構造が共通のため見誤りやすいが、あのモデルはセパレート型アンプなどと同じ910のモデルナンバーを持つ本機の上級モデルA910であり、既に輸出モデルとして海外では発売されており、本機に続いて国内でも発売されるようだ。
 A710は、A910のジュニアタイプとして開発されたモデルで、外観上では、筐体両サイドがアルミパネルから木製に変わっているのが特徴である。基本的に共通の筐体を採用しているため、回路構成にも共通点が多いが、単なるジュニアモデル的な開発ではなく、シンプル・イズ・ベストのセオリーに基づいて、思い切りの良い簡略化が実行されている点に注目したい。
 それはこのクラスのプリメインアンプには機能面で必須の要素とされていた、バランスコントロールとモードセレクターを省略し、信号系絡でのスイッチ、ボリュウムなどの接点数を少なくし、配線材の短略化などにより信号系の純度を保つ基本ポリシーに見受けられる。つまり、一般的な最近の機能であるラインストレートスイッチとかラインダイレクトスイッチと呼ばれるスイッチを動作させたときと、本機の標準信号経路が同じということだ。
 さらに同じ構想を一歩進めたダイレクトイン機能が備わる。この端子からの入力は、ボリュウム直前のスイッチに導かれており、0dBゲインのトーンアンプをバイパスさせれば、信号はダイレクトにパワーアンプに入る。簡単に考えれば、ボリュウム付のパワーアンプという非常に単純な使用方法が可能というわけだ。
 出力系も同じ思想で、パワーアンプは出力部に保護用、ミュート用のリレーがなく、回路で両方の機能を補っており、信号はリレー等の接点を通らずダイレクト出力端子に行き、その後にスピーカーAB切替をもつ設計だ。
 その他、MC型昇圧にはトランスを使用、右左対称レイアウトの採用、信号系配線にLC−OFCケーブル採用などが特徴。
 試聴アンプは、検査後のエージング不足のようで、通電直後はソフトフォーカスの音だったが、次第に目覚めるように音に生彩が加わり、比較的にキャラクターが少ない安定した正統派のサウンドになってくる。帯域は素直な伸びとバランスを保ち、低域の安定感も十分だろう。このあたりは独特の筐体構造の明らかなメリットだ。また、信号の色づけが少ないのは、簡潔な信号系の効果だ。華やかさはないが内容は濃い。

テクニクス SU-V10X

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CD、PCMプロセッサーなどのデジタルプログラムソース、ハイファイVTR、ビデオディスクなどのAVプログラムソースなど、多様化するプログラムソースに対応する現代のプリメインアンプとしてテクニクスから登場した新製品がSU-V10Xである。
 アンプとしての基本構成は、テクニクスが理想のパワーアンプを目指し、クロスオーバー歪とスイッチング歪を解消するシンクロバイアス回路ニュー・クラスA、トランジエント歪に対するコンピュータードライブ、理論的に歪を0とするリニアフィードバック方式などの技術と、大電涜が流れる出力段で発生する電磁フラツクスを抑えるコンセントレイテッド・パワーブロック構造の採用などが、従来からのテクニクスアンプのストーリーだが、今回さらに、駆動電圧と電流間に位相差をもつ実スピーカーに対し、リニアな駆動とドライブ能力を向上するコンスタントゲイン・プリドライバー回路を採用したことが特徴で、オンキョーのアプローチとの対比が興味深い。
 機能面では、AVシステムの中心となるアンプらしく、AV信号を連動切替するAV入力セレクター、単独切替のRECセレクターとグラフィックイコライザーなどを使用する外部機器専用端子、ターンオーバー可変型トーンコントロールなどが備わるが、AUX1/TV、AUX2/Video、TAPE2/VTRと3系統のAV入力端子のうち、AUX2/Video端子は、フロントパネル面にもあり、フロントとリアがスイッチ切替可能である。
 パワーアンプは、150W+150W(6Ω負荷)の定格をもつが、電源部は、従来のトランスと比較し10~20%以上太い線を高密度に巻ける尭全整列巻線法を採用し、レギュレーションを改善している。線材は無酸素銅線、3重の磁気シールド内に特殊レジン封入で振動が少ない特徴がある。なお、電解コンデンサーは全数300Aの瞬間電流テストを行なう特殊電解液使用のオーディオ専用タイプで強力な電源部を構成し、310W+310W(4Ω負荷)、400W+400W(2Ω負荷)のダイナミックパワーを誇っている。
 JBL4344とLC-OFCコードによるヒアリングでは、ナチュラルに伸びた広帯域型のバランスと、聴感上でのSN比が優れ、前後方向のパースペクティブを充分に聴かせる音場感と実体感のある音像定位が印象的である。優れた物理的特性に裏付けられたクォリティの高さ、という従来の同社アンプの特徴に加えて、スピード感のある反応の早さ、フレッシュな鮮度感のある表現力が加わったことが、魅力のポイントである。新製品が登場するたびに、ひたひたと潮が満ちるようにリファインされているテクニクスアンプの進歩は見事だ。

ヤマハ A-1000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハからの新製品A1000は、昨年、高級プリメインアンプの市場に投入され見事な成果を収めたA2000と基本的に同一コンセプトをもつ製品である。
 このところ、ブラックパネルが大流行のようで、視覚的に各社間のデザイン的な特徴が希薄になりがちのなかにあって、ツヤを抑えたヤマハ独自のシルバー仕上げのパネルと、ウォルナット鏡面仕上げのウッドキャビネットを配したデザインは、クリアーで、エレガントな雰囲気をもつ新しいヤマハの顔であり、A2000とのパネルフェイスの違いは、好みが分かれるところであろう。
 アンプとしての構成は、MC型カートリッジをダイレクト使用可能な、NF/CR型ハイゲインイコライザー、低域をスピーカーに対応して約1オクターブ伸ばす独自の3段切替リッチネス回路とト-ンコントロールを備えたラインアンプ、B2x、A2000パワーアンプ部に順次採用されてきた、純A級アンプに電力損失を受持つAB級パワーアンプを組み合せたヤマハ独自のデュアル・アンプ・クラスA方式の120W+120W(6Ω負荷)、140W+140W(4Ω負荷)の出力をもつパワーアンプ、の3ブロック構成で、A2000の流れを受け継ぐものである。なお、パワーアンプ部にはヤマハ独自開発のZDR歪回路を採用し、一般的な純A級パワーアンプのわずかの素子の非直線性に起因する歪をも除去し超A級ともいえるリニアリティを実現し、織細で美しい音を得ている。
 電源部は、多分割箔マルチ端子構造ケミコン採用で、総計14万6千μFの超強力電源を構成し、2Ω負荷時のダイナミックパワーは、279W+279Wを得ている。
 機能面では、入力切替スイッチに2系統のTAPE入力を組み込み、アクセサリー端子を独立して設けたのが特徴。AV対応時のサラウンドアンプやグラフィックイコライザーなどの接続時に使い、使用しないときにはショートバーで結んでいる。なお、この端子の後に、ミューティング、モード、バランス、ボリュウムコントロールがあるため、接続されるアクセサリー横器の残留ノイズ等はボリュウムで絞られ、通常の使用時でのSN比は良く保たれる。
 JBL4344とLC-OFCコードによるヒアリングでは、音の粒子が、細かく滑らかに磨き込まれており、素直に伸びた適度なワイドレンジ感と、自然な雰囲気の音場感的な拡がりが印象的で、ナチュラルサウンドの名にふさわしく、洗練された音だ。A2000と比較すれば、全体の音を描く線が、細く、滑らかなのが特徴であり、このしなやかな表現力は、使うにしたがって本来の良さが判ってくるタイプの魅力だ。リッチネスを使うときのポイントは、わずかに、トレブルを増強することだ。

ソニー TA-F555ESII

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ソニーから、去る9月に発売された新プリメインアンプは、デジタルプログラムソースからアナログプログラムソースまで高忠実度で再生できるように、基本特性を向上させるとともに、AV対応にはビデオ入力端子を2系統と出力端子を1系統備えていることに特徴がある。
 アンプとしての基本特性の向上のポイントは、実使用時のダイナミックレンジ120dBと左右チャンネル間のセバレーション100dBを実現していることだ。
 アンプ構成上の特徴は、プリアンプ部とパワーアンプ部との間に新たにカレント変換アンプを設け、信号系をプリアンプ部とパワーアンプ部とに電気的に分離し、独立できるオーディオ・カレント・トラスファー方式にある。この方式は、電圧としてプリアンプ出力に出てくる入力信号を、いったん電涜信号に変換し、このカレント変換アンプ終段に設けたリニアゲインコントロール型アッテネーターで再び電圧信号に戻す、というものだ。この方式の採用でプリアンプとパワーアンプ相互間の干渉やグランドに信号電流と電源電流が混在することに起因する音質劣化や、歪、ノイズなどの問題が解消でき、実使用時のダイナミックレンジの拡大と優れたセバレーション特性を獲得し、音質を大幅に向上しているとのことである。
 この電流変換アンプに設けられた新方式アッテネーターは、最大から実際に使われる音量に絞り込むに比例してインピーダンスが低くなり、通常のリスニングレベルでの歪や周波数特性、SN比、クロストークなどの諸特性が改善できる特徴をもつ。
 パワーアンプ部は、独自のスーパー・レガートリニア方式パワーアンプと大型電源トランスを組み合せ、100W以上の大出力時にも広帯域にわたりスイッチング歪、クロスオーバー歪を激減させ、4Ω負荷時180W+180W、1Ω負荷で、瞬時供給出力500W+500Wを得ている。
 なお、音質を左右する大きな要素である配線材料には、このところ話題のLC-OFCを大量使用しているあたりは、いかにもOFCワイヤー採用以来のソニーらしい動向を示すものだ。
 JBL4344を、LC-OFCコードを使いドライブしたときの本機の音は、ピシッと直線を引いたように感じられるフラットな帯域バランスと、タイトで密度感があり、十分に厚みのある質感、ダイレクトな表現力などが特徴だ。低域は芯がクッキリとし、力感も充分にあり、従来のソニーアンプとは一線を画した見事なものだ。
 音場感的には、音像が前に出て定位するタイプで、輪郭はシャープ。前後方向のパースペクティプな再生も必要にして充分だ。
 質的にも洗練され、ダイナミックでストレートな表現力を備えた立派な製品である。

オンキョー Integra A-819RX

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDの登場により、デジタル記録をされたプログラムソースが手近かに存在するようになると、これを受けるアンプ系やスピーーカーも、根本的に洗いなおす必要に迫られることになる。いわゆる『デジタル対応』なる言葉も、このあたりをマクロ的に捉えた表現であるようだ。
 オンキョーからインテグラRXシリーズとして新発売されたプリメインアンプA819RXは、せいぜい入力系統の増設や1〜2dBのパワーアップ程度でお茶をにごした間に合せの『デジタル対応』でなく、根本的にデジタルソースのメリットを見直し、確実にそれに対応し得る本格派『デジタル対応』に取り組み完成した新製品だ。アンプ内部での位相特性を大幅に向上し、CDのもつ桁外れに優れた音場感情報の完璧な再現に挑戦したのが、新シリーズの特徴だとのことである。
 構想の基本は、スピーカーの電気的な位相周波数特性で、特にf0附近で大きく変化する電圧と電流の位相変位に着目し、これを駆動するパワーアンプの電源トランスに1対1の巻線比をもち非常に結合度を高くしたインフェイズトランスを設け、+側と−側の電解コンデンサーの充電電流の山と谷を打消して位相ズレ情報を除去し、電圧増幅部への影響をシャットアウトして、正しい位相情報を再生しようというものだ。
 また、インフェイズ・トランスにより、+側と−側の電解コンデンサーの充電電流が等しいということは、電源トランスの巻線の中央とアース間に電流が流れないことを意味し、フローティングも可能であるが、コモンモードノイズ除去のため、トランス中央はアースに落してあるとのことだ。
 アンプ構成は、MC対応ハイゲインフォノイコライザーアンプとパワーアンプの2アンプ構成で、パワーアンプは、SP端子+側からNFBをかけ、さらに、超低周波での雑音成分をカットするためのサーボ帰還がかけられ、SP端子−からはアースラインのインピーダンスに起因する歪や雑音をキャンセルする、ダブル・センシング・サーボ方式を採用。また、A級相当の低歪リニアスイッチング方式が採用されている。なお、音楽信号を濁らせる電解ノイズを低減するチャージノイズフィルター、外部振動による音質劣化を防ぐスーパースタビライザー、2系統のテープ端子用に独立したRECセレクターなども特徴である。
 試聴した印象では、独特の粘りがありながら、力強くエネルギー感のある低域をベースに、豊かな中低域、抜けの良い中域から高域がバランスをした帯域感と、説得力のある表現力を備えた独特のまとまりがユニークだ。音場感は豊かな響きを伴ってゆったりと拡がり、定位感もナチュラルである。この低域から中低域をどのように活かすかが使いこなしのポイントである。

プリメインアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 プリメインアンプの価格ランクは4段階に分れているが、大ざっばにいって、価格の低いものにはスピーカーのドライブ能力の大きいもの、高価格クラスには、音の味わい、魅力、品格といったものを重視する見方をしたつもりである。したがって、8万円未満からは、一機種だけ、オンキョーのA817RXを選んだが、これは、このアンプが、この価格で大変力強く、豊かな音を聴かせる点で傑出したものだと思うからだ。もちろん、音色に非音楽的な癖が強かったりしては、いくら力強くても駄目だと思うが、このアンプの音は適度な華麗さと暖かさのバランスをもっていて聴き心地のよいものだ。
 8万〜13万円のゾーンは、プリメインアンプの激戦領域だけあって、優れた製品が目白押しに並んでいる。全体で10機種という枠の中で、6機種が、このゾーンからのものとなったのは必然だと思っている。
 中でのベストはケンウッドKA1100SDで、この音の洗練度の高さは、倍の価格でもうなづける。強靭な質感と繊細さ、そして豊かなプレゼンスをもち立派なものだ。NEC/A10IIは残念ながら親しく聴くチャンスに恵まれず、私には未知である。ユニークなのは、ラックスLV105で、スピーカードライブ能力の点で、やや弱さがあるので最音点にはしなかったが、この音の質感は他のアンプ群とはちがう自然さをもち、音のニュアンスう味わい深く再生するコニサー好みのものである。テクニクスSU−V10Xは、滑らかで透明な従来のテクニクスアンプに厚味と力強さが加わって、なかなか魅力的。サンスイAU−D707Xは、607Xのような空間感の漂いとは一味違ったソリッドな音で明る過ぎず、暗過ぎず、中庸の堅実型である。
 13万〜20万は、プリメインアンプとして標準を越える魅力が必要。この点、ヤマハA2000の内容外装共にきわめて洗練された美しさと能力の高さは評価しないほうがおかしい。サンスイAU−D907Xは、その充実のサウンドが超えている。
 20万以上は音の趣味性が必要な領域で、ラックスL550Xは50Wと小出力ながら、その音の熟成ぶりが断然光っている。E302はこれと対照的な輝やかしく艶やかなグラマラスな音。

プリメインアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 8万円未満では、10万円少し上の異常に充実したともいえる価格帯に比べて、やや、希薄燃焼型のモデルが多いようだ。内容の充実さ、電気的な設計と機構設計、それに音質の総合バランスでは、ビクターA−X900は、さすがに’83COTYに輝やいただけの実力で、現在でも断然トップ。続いて穏やかだが安定感のあるデンオンPMA940、ダークホース的存在が、オンキョーA817RX、マランツPM64。
 8万〜13万円では、選ぶより落す製品を出すほうが早い、というくらいに、見事な製品が並んでいる。総合的に見て、トップは、ビクターA−X1000だ。とくに、GMセレクターを−6dBとしたときの音場感の拡がりは素晴らしいの一語に尽きる。僅差で続くのが、柔らかいが芯のシッカリとした低域をベースとした洗練された音のパイオニアA150D、ナチュラルサウンドそのものの音をもつヤマハA1000、がベスト3、これに、活気のあるケンウッドKA1100SD、素直なデンオンPMA960、充実した安定型の音をもつマランツPM84、軽快な反応の速さを聴かせるテクニクスSU−V10X、個性派のラックスLV105、オンキョーA819RX、正統派のソニーTA−F555ESIIと、どれを選んでも誤りのないのが、以上の機種である。
 13万〜20万円は、本来は、プリメインアンプとしてもっとも内容の充実した、これぞプリメインアンプ、といったモデルが存在すべき価格帯であるが、このところ製品の数が非常に少ないのが残念であり、’84COTYにも該当製品はなく、推薦できるのは’83COTYに輝やく、ヤマハA2000のみがスポットライトを浴びる製品。
 20万円以上はスペシャリティの価格帯で、古くからアンプでは名だたるメーカー各社から、高級プリメインアンプへのチャレンジともいうべきモデルが送り出されたが、成功作と呼べる製品は、ケンウッドL02Aのみといっても過言ではあるまい。ラックス独自の構想と開発による、いかにもAクラス動作のパワーアンプらしい清澄な音をもつ L550Xは、やはり、’84COTYに値する貴重な存在である。好ましい純粋ラックスらしい趣味性は賞讃したいものだ。

ケンウッド L-02A

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 管球アンプ時代のアンプといえば、ブリアンプとパワーアンプという、セパレート型アンプが一般的なタイプであり、それもプリアンプと専用電源部、パワーアンプと専用電源部という構成のものも多く存在し、プリメインアンプ、つまり、プリアンプとパワーアンプを一つの筐体に組込んだモデルが特殊な存在であった。
 ステレオ時代に入ると次第に管球アンプもプリメインアンプの形態をとることが多くなり、ソリッドステート化されるに及び、プリメインアンプがアンプの主流を占めるようになる。
 その基本的な回路構成は、フォノイコライザーアンプ、フラットアンプ兼トーンコントロールアンプとパワーアンプという3ブロック構成がスタンダードなタイプである。シンプル・イズ・ベストの思想とアンプ構成の単純化による原価低減、さらにMCカートリッジが主流を占めるなどの背景により、現在のプリメインアンプは、ハイゲイン・フォノイコライザー部とパワーアンプの2ブロック構成がベーシックな回路構成になっている。
 一方において、シンプル・イガ・ベストの思想に基づいてアンプとしてのクォリティの向上を追求する傾向が古くから一部に存在し〝イコライザー付きパワーアンプ〟をキャッチフレーズとして最初に開発されたモデルが、たしか、ラックスの5L15であったように思う。
 この、二つのプリメインアンプの動向をベースに、ここで、取上げた、ケンウッドL02Aを考えてみることにしたい。
 もともと、トリオのプリメインアンプには、初期から利得配分で他社にない特徴があったようだ。ソリッドステートアンプが完成期を迎えた時期のトリオの名作プリメインアンプといわれたKA6000では、フォノイコライザーアンプ、ゼロ利得のトーンコントロールアンプと、ハイゲインパワーアンプの3ブロック構成で、パワーアンプの入力電圧は、たしか0・2V程度でフルパワーとなる、いわば英クォードのセパレート型アンプ的な特徴があった。つまり簡単に考えれば、一般的には20dB程度の利得をもつ、フラットアンプ兼トーンコントロールアンプを通すことによる音質の劣化を避けた点に特徴があるともいえる設計である。
 L02Aは独立した電源部とプリメインアンプ部の2ブロック構成をもち、機械的にアンプ部と電源部を一体化してブリメインアンプ化も可能であり、その回路構成は、ハイゲイン・フォノイコライザー部とパワーアンプ部の2ブロック構成という特異性の強いモデルである。各種の条件から考えて、やはりトリオ/ケンウッドのブランドにおいてもっとも誕生しやすい土壌があったと考えてよいだろう。
 この、特異ともいうべき超高価格な製品を、ブリメインアンプの最高峰に位置するモデルとして市民権を獲得し、世に認めさせるとともに、営業的にもそれなりの成功を収めたことは、その性能に裏付けさせられた音質面の優位性、ブランドの信頼感の高さに加えて開発スタッフのオーソドックスなアプローチと努力の賜として賞讃を送りたいものである。
 一方において、L02Aはプリメインアンプという形態を採用しているだけに、これとペアになるチューナーの存在も大きな意味を持つことになる。この点でもFMのトリオに相応しく、FM専用チューナーL02Tの存在は不可欠なものだ。
 ちなみに、このL02Tの音は、数多くの高級FMチューナーが存在するが、バリコンを同調回路に使うFMチューナーとして、かつてのマランツの♯10Bの再来を思わせる素晴らしさであると思う。
 L02TとL02Aのペアは、個人的にも、リファレンスFMチューナーとリファレンス用プリメインアンプとして、長時間にわたり、その大役を果している。L02Aは、CDや、ハイファイVTR登場以前の開発であるため、現状ではややファンクション系の不足があること、セパレート電源部方式を採用しているため、アンプと一体化しても、電源供給ラインにコネクターが入ってしまう点などの小さな問題点も存在はするが、上昇量が切替可能であり、パラメトリックイコライザー的に周波数が可変できるラウドネスコントロールは、各種のスピーカーをコントロールルするときに予想以上に有効に働く機能であり、ナチュラルな帯域バランスと、素直な音色、ストレートで伸びやかであり誇張感のない音は、基本的なクォリティが高く、作為的な効果を狙った印象が皆無であるのが好ましい。
 また、いろいろと話題を提供した独自の㊥ドライブ方式も、スピーカーコードの影響を皆無とすることは不可能であるが、スピーカーシステムをアクティブにコントロールし、追込んで使いたいときにはかなり有効な手段であると思う。
 L02Aは、プリメインアンプの頂点をきわめた立派なモデルであるが、マルチプログラム時代になり、高品位、ハイレベル人力のプログラムソースが増加する今後のオーディオにとっては、セパレートアンプよりも合理的なアンプの原型として、この形態は、見直してしかるべきものと思う。

パイオニア A-150D

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから、従来のA150に替わるモデルとして発売されたA150Dは、デザイン的には、オプションのサイドパネルを除き変更はないが、その内容面は、大幅な変更を受け、基本から完全に新設計された、意欲的な新製品である。
 基本的な特徴は、電源トランスを含め左右独立したモノーラル構成のパワーアンプと、同じく、電源トランスを含む、小信号系の独立したイコライザーアンプという、3ブロックに分割した内部構成にある。
 パワーアンプの左右チャンネルをモノーラル構成とするメリットは、左右の信号の相互干渉がなく、混変調歪、セバレーションが優れ、聴感上では、音場感的な空間情報量が豊かであり、音像定位がクリアーになる特徴がある。また、小信号系を分離すれば、変動が激しいパワーアンプの影響を受けず、音質向上が計れることば、セパレート型アンプのメリットにつながるものだ。
 簡単に考えれば、プリメインアンプでセパレート型アンプに近似したメリットを実現させようという考え方で、一時は、この動向がプリメインアンプの主流を占めた時代があったが、最近では、主に価格的な制約が厳しいため、採用される例は少ない。
 このタイプで問題になるのは、構造面の機構設計の技術である。プリメインアンプであるだけに、同じ筐体内に、分割したブロックを組込むためのスペース的な制約は厳しく、この部分の設計が、目的を達成するか否かにかかわる鍵を撮っている。
 パワーアンプは、A150のノンスイッチング方式を発展させた、ノンスイッチング回路タイプIIと呼ばれるタイプで、従来型の100kHzまでのノンスイッチング動作から、100kHz以上までと動作領域を広帯域化している。また、B級増幅のアイドリング電流のドリフトに起因するサーマル歪や出力段で発生する非直線歪に対して、新しくアイドリング電流を電源スイッチ投入直後や大きな信号が入った直後にも、瞬時に安定化する特殊回路が開発され、出力段の歪みは従来の1/10となっているという。
 経験的に150W+150Wクラス以上のパワーアンプでは、一般的な試聴のように、数分間程度信号を加えて音を聴き、数分間、音を止め、再び音を出す、という間欠的な動作をさせると、音を出した最初の10〜20秒位の間は、音が精彩を欠いており、これが次第に立上がって本来の音になることを常々体験し、温度上昇との因果関係をもつことを突きとめてはいるが、アイドリング電源の安定度との相関関係も非常に興味深いものがある。
 このところ、スピーカーのインピーダンスは、従来の8Ωから6Ωに主流は移行する傾向を示していることの影響をも含めて、パワーアンプの低負荷ドライブ能力が、再び、各メーカーで検討されているようだ。
 A150Dも、低負荷ドライブ能力の向上は、設計上での大きなテーマであり、パルシプな入力がスピーカーに加わった立上がり時に、見かけ上のインピーダンスが、サインウェーブで測った公称インピーダンスより低くなる動的インピーダンスに対しての駆動能力を確保する必要性を重視した結果、パワーアンプは、電流供給能力を増強した設計で、4Ω負荷時190W+190W、2Ω負荷時で270W+270Wが得られると発表されている。
 機能面は、トーンコントロール回路や、モード切替えスイッチをパスさせて、信号系路をシンプルにするラインストレートスイッチ、多様化するプログラムソースに対応するための、5系統の入力切替えスイッチと2系統のテープ切替えスイッチを備えている。なお、MC型カートリッジは、A150同様に、昇圧トランスを使い、3Ωと40Ωが切替え使用できるタイプである。
 リアパネルのスピーカー端子は、太いスピーカーケーブルの使用に対応するため、ターミナルのコード接続部の開口は、3×5φmmと大きく、構造的には、2枚の金属板を庄着するタイプが採用されている。
 試聴は、JBL4344、ソニーCDP701ES、バイオニアP3a十オルトフォンMC20IIを使う。
 外観的には、オプションのウッドボードをボンネットの両側に取付けると、かなり大人っぽい落着いた雰囲気になる。各コントロールは、適度に明解さの感じられる節度感のある感触があるが、大型のボリュウムのツマミは、A150と格差を感じる金属削り出しに格上げされ、そのフィーリングは高級磯らしい好ましいものだ。
 また、機構面も目立たないところだが、A150と比較すれば確実にコントロールされており、ボンネットや内部の機械的な共振や共鳴が抑えられ、手でたたいてみても、雑共振が尾を引いて響くことはない。
 音質面でのA150Dの最大の特徴は、従来の、豊かで柔らかい低音から脱皮した、余裕のある力強い安定した低音への変化である。この新鮮な感覚の低域をベースとして、密度感があり、気持よく抜けた中域とナチュラルな高域が巧みにバランスを保ちスムーズに伸びた帯域バランスを聴かせる。基本的なクォリティは、充分に高く、A150に対する価格の上昇を償って充分以上の内容の向上である。
 音色は、ほぼ、ニュートラルであり、アンプの本質がもっとも現われる、音場感の空間情報量や音像定位のクリアーさでも従来とは一線を画したパフォーマンスだ。
 オプションのサイドパネルを取付けると、制動効果で音は少し抑えられるが、クォリティ的には少し向上する傾向が聴き取れる。総合的に、電気系、機械系のバランスが大変に優れた、注目すべき新製品である。

デンオン PMA-960

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのプリメインアンプの新製品として昨年暮に市場に出たPMA960は、プリメインアンプとしては10万円を超える価格からして、明らかに高級製品といえるものだろう。たしかに、内容の充実は目を見張るものがあり、物量面と、ハイテクノロジーがふんだんに盛り込まれた力作であることが解る。しかし、残念ながら、そのデザインやフィニッシュに、新鮮味が欠けるため、うっかりすると、旧製品として見過してしまうような雰囲気のアンプである。反面、オーソドックスで、おとなしい外観のもつ地味な容姿は嫌味のなさともいえるかもしれないが……。のっけからこんな苦情をいいたくなったのも、このアンプの技術的な斬新性と、その音のもつ大人の風格に大きな魅力を感じさせられたからであって、そこそこの仕上りではある。
 このアンプの技術的特徴は、同社のデュアル・スーパー無帰還回路と称する伝送増幅方式と、それをバックアップする余裕のある電源部であろう。ピュアー・ダイナミック・パワーアンプという名称とは印象の異なる、おだやかで、ウォームな音のするアンプだが、優れた特性のアンプというものは、決して形容詞的に使われるダイナミズムやパンチが表に出てくるものではないようだ。このアンプのように、別にどうということのない、自然な鳴り方にこそ、アンプの特性の優秀な点が見出されるように感じられるのである。このアンプのメーカー資料に書かれている一言一句は、すべて力と迫力を感じさせるものであるのが不思議な気がする。もっとも、これは、このアンプだけではなく、アンプというものが、スピーカーをドライブするパワーの役割を担うところから、こういうアピールをするメーカーがほとんどだが……。
 6Ω負何で170W+170Wというパワーは、プリメインアンプとしては大出力アンプといってよいが、試聴感としては、むしろ、ローレベルのリニアリティ、つまり、小出力時のSN比のよさ、繊細な響き分けといった面に印象が強く、魅力が感じられた。大型スピーカー(JBL4344)を手玉にとって、これ見よがしの迫力を聴かせるような荒々しさや雄々しさといった面はこのアンプの得意とするところではなさそうだ。初めに、大人の風格と書いたのはこの辺のニュアンスである。しかし、どちらかというと、ややナローレンジの感じさえする柔らかい質感が捨て難い魅力のアンプであって、音が大きくても、うるささは感じられないといった自然な音の質感に近い鳴り方をする。色に例えればオレンジ系の暖色である。とげとげしく、冷徹なメカトロニクスのフィーリングが氾濫する中で、こういう雰囲気のアンプは貴重な存在といえるだろう。欲をいえば、低域の実在感、深々とした奥深い響きが望まれる。

NEC A-11

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 アンプのエネルギー源である電源回路は電圧増幅を行なうコントロールアンプはもとより、電力増幅を行なうパワーアンプでは、直接アンプそのものの死命を制する最重要な部分だ。従来からも大型パワートランスや大容量コンデンサーの採用をはじめ、テクニクスがかつて採用したパワー段を含めての定電圧化、ソニーやビクターのパルス電源方式、ヤマハのX電源など各種の試みが行われてきた。しかし最近では、模準的な商用電源を使う電源トランス、整流器、大容量電解コンデンサーを組み合わせたタイプに戻っているのが傾向である。
 NEC A10プリメインアンプで採用され、新電源方式として注目を集めたリザーブ電源方式は、標準的な電源方式をベースに独創的な発想によるサブ電源を加えて開発されたタイプだが、今回、発売されたA11とA7では、これをさらに発展させたリザーブII電源方式を採用している。その内容は、蓄電池に代表される純直流電源とAC整流型の一般的な電源の比較検討の結果から、電源コンデンサーへ充電する場合の両者の波形の差に注目して、主整流電源の充電波形の谷間を埋める副整流電源を加えることで、限りなく純直流電源に近づけ、充電電流による混変調歪を抑え、低インピーダンスで電流供給能力の優れた電源とするものである。
 結果として物量投入型の電源となるために、価格制約上で定格出力は他社比的に少なくなるが、負荷を変えたときのパワーリニアリティは、A11で8Ω負荷時70W+70W、4Ω負荷時140W+140Wと理想的な値を示しているのは、注目すべき成果である。
 A11の主な特徴は、各増幅農独立の5電源方式とリザーブII電源、全段独立シャントレギュレーター型定電圧電源、全段プッシュプル型増幅回路の採用などである。
 A11の音は、安定な低域をベースにクリアーで、ストレートな音を特長としたA10の魅力を受継ぎながらも、一段と余裕があり、しなやかな対応を示す表現力の豊かさが加わったことが印象的だ。いわば大人っぽくなったA10といえるわけだが、試聴機は機構面での仕上げに追込みの甘さがあり、聴感上での伸びやかさ力強さがやや抑えられ、スピード感が弱められているのが残念な印象であった。

ハーマンカードン PM660

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サイテーションXXシリーズをトップランクの製品とするハーマンカードンからの新製品は、創立30周年を記念して発売されたスペシャルエディションのプリメインアンプPM660である。
 同社のアンプ共通の特徴は、1978年以来、TIM、PIM、IIMなどの、いわゆるアンプの動的歪を発見したフィンランド国立電子技術研究所のマッティ・オタラ博士を迎え、アンプの動的状態でのみ発生する歪を解消した回路設計を採用していることと、実装状態で2Ω以下にも下がるといわれているスピーカーのインピーダンスに対して、動的出力を向上させるためにHICCという概念を採用していることだ。
 HICCとは、瞬時電流供給能力の意味で、低いインピーダンス時にも負荷に必要なだけの電力を供給できる能力をいい、この結果、定格出力から考えると異例ともいえる大電力用パワートランジスターと電源部を採用している点に、同社アンプの特徴がある。
 PM660は、8Ω/90W+90Wの定格出力をもつが、60AのHICCを備えるために、瞬時出力は、4Ω負荷で200W、2Ω負荷で292Wであるという。
 では、実際にPM660を試聴してみよう。基本的には、ハーマンカードンのアンプ共通の柔らかく量的にタップリと豊かな低域をベースに、滑らかで粒子の細かい中域から高域がバランスした音だ。音場感的には、やや距離感を伴って、スピーカーの奥に音場が拡がるタイプで、オーケストラやライブハウス的な録音では、適度なプレゼンスがあり、音像定位もナチュラルである。
 このタイプの音は、ちょっと聴きではおとなしい感じであるが、聴きこむにつれ内容の豊かさが判ってくるようだ。とくに、電源スイッチ投入後のウォーミングアップが少し遅いだけに、即断は禁物である。
 このアンプで少し気がかりなことは、プログラムによりキャラククーが変わることである。アンプの細部を検討したところでは、機構的なチェックでは厳しいと定評がある同社の製品にしては珍しく、筐体内部に機械的なビリツキが多いことだ。ステレオサウンドでの試聴以前に、どこか他の場所で内部を開けてチェックでもしたことに原因があるのかもしれない。

NEC A-10

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 昨年のCDプレーヤーCD803の優れた音質で急激に脚光を浴びたNECから、独自の最新技術を採用したプリメインアンプが発売されることになった。
 薄型的なパネルフェイスになりがちなプリメインアンプのなかにあって、オリジナリティのあるデザインが目立つ、このA10は、内容的にも従来にないユニークな発想に基づいた新開発の電源部を採用していることに最大の特徴がある。
 一般的なアンプに使われる電源部は、50/60Hzの100Vをトランスで必要な電圧に変換してから整流器で100/120Hzの脈流に変え、これをコンデンサーに充電、放電させて滑らかにして直流化している。手の指を拡げたように間欠的にコンデンサーに充電する充電波形が従来型とすれば、新開発の電源方式は、両方の掌を重ねて指の間を埋めたように充電時間を増し、放電時の充電電流が途切れた時間を補うという発想が出発点となったものだ。
 このタイプの特徴は、従来型では、充電時以外はコンデンサーの放電にたよっていた部分を、リザープ電源と名付けられた別電源で充電しているため、電源インピーダンスが低下し、電流供給能力を増大できることにある。
 A10の定格を見ると出力は、8Ω/60W+60W、4Ω/120W+120Wとあるように、この新開発の電源方式は、半分の負荷で2倍の出力が得られる理想的電源として動作していることが判かる。
 その他、全増幅段プッシュプル増幅、全段独立シャントレギュレーター電源採用など、オーソドックスな設計方針が特徴だ。
 A10は、量的にも充分に豊かであり、ソリッドに引き締まった質感のよい低域をベースに、明解な中域が目立つ、このクラスとしては見事な音が印象的だ。この下半身はたしかに素晴らしいが、中域の少し上にキャラクターがあり、高域をマスキングし、結果として低域バランスの音に聴こえるのが残念だ。定格出力は8Ω/60W+60Wだが、パワー感は充分にあり、これは新電源方式の成果だろう。ボンネット部分の機械的共振を適度の重量物を載せて抑え、見通しのよい高域とすることが使いこなしのポイント。こうすることで、質的に高い低域が活かされ、相当に聴きごたえがある立派な音が得られる。

ヤマハ A-950, A-750, T-950

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ヤマハのプリメインアンプが、最新のコンセプトにより開発された新世代の製品に置換えられることになった。その第1弾の製品が、今回、発売された中級価格帯のプリメインアンプA950、A750と、各々のペアチューナーであるT950、T750の4機種のシリーズ製品である。
 プリメインアンプの特徴は、パワーアンプに新しくクラスAターボ回路が採用されたことと、電源部がX電源方式ではなく、従来型の方式に変更されたことである。
 クラスAターボ回路とは、ヤマハ初期の名作といわれたCA1000において採用された、A級動作とB級動作のパワーアンプをスイッチ切替で使い分ける方式を発展させ、新シリーズでは、純粋なA級動作とA級動作プラスAB級動作の2種類の組合せがスイッチで切替えられるようになった。
 とかく定格出力が最重視され、表示パワーが最大の売物になっているプリメインアンプの動向のなかにあって、質的には非常に高いが効率が悪くパワーが得難いA級動作を復活させた背景には、ヤマハオーディオの初心であるクォリティ重視の思想が、現状で、もっとも必要なテーマであるという判断があったからにちがいない。
 一方、データ的な裏づけとしては、A750をAB級動作領域のノンクリッピングパワー150W(8Ω)にテストレコードのの最大振幅部分を合わせた状態での各種レコードの実測データによれば、平均して、A級動作領域(5Wまで)96・4%、AB級動作領域3・6%の割合が得られたことで、実際の使用では音量は10〜20dB程度は低いであろうから、ほとんどA級動作領域でアンプは使われることになるはずだ。
 クラスAターボ回路に加え、従来からのヤマハ独自のZDR方式を採用し、A級動作を一段とピュアにするとともに、AB級動作時にもA級に匹敵する特性と音質が得られる。さらに、アースの共通インピーダンスの解決策として採用されたグランドフィクスド回路は、単純明快な方法である。また、スピーカーの低インピーダンス負荷時の出力の問題に対しては、X電源以上に優れた給電能力をもつ一般的な大型電源トランスと大容量電解コンデンサー採用の物量投入型設計への転換が見られる。
 その他、NF−CR型リアルタイムイコライザー、ピュアカレントダム回路、連続可変ラウドネス、メインダイレクトスイッチなどの機能面の特徴、クォリティパーツの採用などは、すべて受け継いだ内容だ。
 デザインの一新も新シリーズの魅力で、すべてブラックに統一し、CT7000以来のドアポケット型のパネルの採用による適度な高級感のある雰囲気は楽しい。
 チューナーは、各種のオート壊能を備え、とくに強電界での実用歪率の改善が重視されている点に注目したい。
 A950は、電気的な回路設計と機構設計が最近の製品として珍しく見事にバランスした出色の製品である。柔らかく豊かで適度にソリッドさをも併せもつ低域は、新世代のヤマハらしい従来にない魅力をもつ。中域から高域は音の粒子が細かく滑らかで、ナチュラルなソノリティを聴かせる。プログラムには自然に反応し、シャープにもソフトにも表現できるのは、電気系、機械系のバランスの優れたことのあらわれであり、キャラクターの少ない本棟の特徴を示すものだろう。久し振りのヤマハの傑作製品だ。
 A750は、比較をすれば少しスケールは小さいが、フレッシュな印象の反応の早さは、安定感のあるA950と対称的な魅力で、デザインを含めた商品性は高い。
 T950は、CT7000以来の、品位が高く、独得のFMらしい魅力をもつヤマハチューナーらしい良い音をもつ製品。強電界でも汚れが少なく抜けのよい音であった。

トリオ KA-1100

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 トリオの新製品プリメインアンプKA1100は、昨年秋に発売されたKA2200、KA990シリーズの中間に位置する製品である。
 基本的な構想は、同社のプリメインアンプのトップランクに位置するL02Aでの成果を踏襲したもので、デュアルヘッドイコライザー、ダイナミックリニアドライブ(DLD)回路、独自の㊥ドライブなどが導入されている。
 フォノイコライザー段は、カートリッジの出力、インピーダンスが大きく異なるMMとMCの各々に最適な増幅段を独立させ、これとシリーズになる増幅段をスイッチで切替えてペアとし、ワンループのイコライザーとする方式で、従来のヘッドアンプ方式やゲイン切替型とくらべ、高SN比、低歪で、低インピーダンスMCをダイレクトで充分に使いこなせる特徴がある。
 トーン回路は独自のNF−CR型で変化がスムースであり、独立した周波数と変化量が各々3段切替のラウドネスコントロールを備えている。また、機能面でのフロント・リア切替型のAUX端子を前面にもつ点は、CD、PCMプロセッサー、ハイファイビデオなどへの対応を容易にしている。
 DLD回路は、小パワーアンプと大パワーアンプを内蔵し、両者の特徴を組み合わせて使う独自な方式で、織細さとダイナミックさを両立させたものといわれている。また、DLDは低インピーダンス負荷に強く、8Ω負荷ではハイパワーだが、4Ω負荷ではさしてパワーが増さない高出力アンプが流行したり、アンプのパワーを8Ω負荷時より有利な6Ω負荷表示にしようという傾向がある現状からは、2Ω負荷でも連続出力で230Wが得られる点は、注目に値するものだ。なお、電源部は、各ステージ別の巻緑から供給するマルチ電源方式だ。
 K1100は、少し腰高だが、適度にソリッドで引き締まった低域をベースに、明るい中域とストレートな高域がバランスした音だ。音色は明るく、表現はストレートであり、音の粒子は平均的だが、音像は比較的に前にくる。このタイプの音は、ホーン型スピーカーでは、輪郭が明瞭で効果的に聴こえる。優れた回路上の特徴が充分に活かされたなら、現状でも充分な魅力があるだけに、素晴らしいアンプになるであろう。今後に一層の期待が持てる製品だ。

スレッショルド FET two + テクニクス SE-A3MK2

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 明るく透明な音だが、オーケストラが極彩色の華美さをもって響き、このオーケストラの陰影あるテクスチュアとは異質の音だ。ハーモニーは、もっと分厚く重厚な響きでなければならないのに……。フィッシャー=ディスカウの〝冬の旅〟も、〝春の旅〟のように聴こえ、声質もバリトンよりテノールに近づいた響き、発声の雰囲気である。明るい響きにマッチした音楽なら効果をあげるであろう。その点、ローズマリー・クルーニーはよい。

サンスイ AU-D907F EXTRA

サンスイのプリメインアンプAU-D907F EXTRAの広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

AU-D907

ヤマハ A-500, T-500, MC-4

ヤマハのプリメインアンプA500、チューナーT500、カートリッジMC4の広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

A500

ラックス L-400, L-410, L-430, T-400

ラックスのプリメインアンプL400、L410、L430、チューナーT400の広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

L410

試聴テストの結果から私が選んだ特選/推選アンプ

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種セパレートアンプ44機種の実力」より

 いかなるスピーカーに対してもそのスピーカーの最良の面を示せるようなアンプがあれば、そのアンプが理想のアンプということになるのであろうが、理想は現実にならないから理想なのである。こっちをたてればあっちがたたず、あっちをたてればこっちがたたないしいうことがあるので、いわゆる「組合せ」に神経をつかうことになる。
 一般的な考え方ではアンプがスピーカーに歩みよるべきものとされているのではないか。つまりこのスピーカーにはどのアンプがあうのかと考えられることが多いように思う。数あるアンプの中にはしなやかにスピーカーに歩みよるアンプもあれば、わたしが主人公とばかりに自己主張をつづけるアンプもなくはない。どっちがどうとはいいきれないとしても歩みより方の巧いアンプの方がつかいやすいとはいえそうである。
 コンポーネントとはつまるところ、弦楽四重奏とかピアノ三重奏のようなアンサンブルである。個性的であっても一向にかまわないが、あわせもののうまいアンプやスピーカーを歓迎したい気持が、すくなくともぼくにはある。むろんクォリティの面を軽視したわけではないが、このスピーカーでなければ困るというアンプより、三つのスピーカーのいずれに対してもこのましい反応を示したアンプの評価の方が高くなった。
 似たようなことは試聴に用いたレコードに対しての反応についてもいえる。いかにダイナミックな音を特徴とするレコードにこのましく反応しても、しなやかな音を特徴とするレコードの反応にいたらないところがあれば、そのアンプのぼくなりの平均点は低くならざるをえなかった。基本的にはアンプについてだけいえることではなく、スピーカーをはじめとしてのその他の機器についてもいえることではあるが、一種のヴァーサタイル性が求められるということである。オーディオ機器はすべからく音楽の従順な娘であってほしいというのがぼくの考え方である。
 当然のことながらレコードはそれぞれ特徴のあるものを選んだ。責任の所在をあきらかにするために書いておけば、プリメインアンプの試聴でつかった三枚のレコードはぼくが選んだ。セパレートアンプの試聴でつかった五枚のうちのプリメインアンプでもつかった二枚以外の三枚は山中さんが選んだ。いずれのレコードもきかせる音の性格が極端にちがっていた。音楽としての性格もちがうし、音のとり方そのものもそれぞれ大変に個性的なレコードであった。かならずしもこれだけで充分とは思ってはいないが、アンプの可能性をさぐるためのレコードとして充分に変化にとんでいたはずであった。
 この試聴はアンプの魅力をさぐる目的でなされた、つまり「アンプテスト」ではあったが、結果として三種類のスピーカーの可能性をさぐることにもなった。ヤマハのNS1000Mが、その価格からおして、ある程度のところで限界を示すであろうと漠然と考えていたが、どうしてどうして、JBLの4343Bのほぼ6分の1の価格であるにもかかわらず、見事にがんばり通した。あっぱれとしかいいようがなかった。
 これまではこのヤマハのスピーカーに対してことさらこのましい印象は抱いていなかったが、おのれの不覚を恥じないではいられなかった。ヤマハのNS1000Mはすばらしいスピーカーです。むろんそのエンクロージュアの大きさからして、どうしても手にあまる部分があるとしても、さまざまな音楽への歩みより方、つまりヴァーサタイル性において底しれぬ力を内に秘めていることがわかった。一対で216000円のスピーカーを、たとえば2880000円のマーク・レビンソンML7L+ML3でならすというのは、おそらくありえないことなのであろうが、それでもNS1000Mはそこでまたあらたな可能性を示してききてをびっくりさせた。
 編集部の求めに応じて「特選」のアンプと「推選」のアンプをあげた。ぼくなりに自信をもっての「特選」であり「推選」ではあるが、その場合にいわゆる「価格帯」を無視できなかった。アンプとて商品であり、買い手には買い手としての予算もあるのであるから「価格帯」を無視するわけにもいかない。当然のことに価格もアンプ選びの際の重要なファクターである。
 しかしながら、もしぼくが価格のことなど無視できる大金持であったら、いささかのためらいもなくクレルのアンプを買うであろうということを、蛇足とはしりつつ、いいそえておきたいと思う。このクレルのアンプの積極的な「表現力」をそなえながら、しかも押しつけがましくならない提示をほれぼれときいた。もう少し時間をかけてじっくりきいてみたいと思ったのは、このクレルのアンプとエクスクルーシヴのアンプであった。クレルのアンプとエクスクルーシヴのアンプとは理想のアンプのすれすれのところまでいっていると思った。

特選プリメインアンプ
 オーレックス:SB-Λ77C
 ケンウッド:L02A
推選プリメインアンプ
 マランツ:Pm6a

特選セパレートアンプ
 ヤマハ:C50 + B50
 パイオニア:Exclusive C3a + M5
 クレル:PAM2 + KSA100
 スレッショルド:FET two + S/500
推選セパレートアンプ
 エスプリ:TA-E901 + TA-N901
 パイオニア:C-Z1a + M-Z1a
 マークレビンソン:ML10L + ML9L