Category Archives: スピーカー関係 - Page 65

ビクター S-5

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムは、共通して音色が明るく、活気のある音をもった製品が多くなっているが、このビクターの新製品も、現在流行しているディスコサウンドやクロスオーバーなどの、ジャズロック系のプログラムソースにマッチした、力強くいきいきした音を狙ってつくられたスピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、前後のバッフルに比重が大きい針葉樹系高密度パーチクルボードを、側版には硬質パーチクルボードを合板でサンドイッチ構造にした特殊ボードを採用し、トータルな音の響きをコントロールするとともに、マルチダクトをもつバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーと6cmコーン型トゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムである。ウーファーは、アルミダイキャストフレームを使い、コーン紙には米ホーレー社製の、腰が強く軽い、ハイ・ヤング率コーンが選び出され、コーン紙中央のキャップは、分割共振が少ない特殊合金製で、いわゆるドーム鳴きを抑えながらクロスオーバー周波数付近のレスポンスをコントロールしている。
 トゥイーターは、ウーファーと同様に、ホーレー社製のコーン紙を採用したコーン型で、最高域のレスポンスを補整するために軽合金製キャップが付けてある。
 各ユニットのクロスオーバー周波数は、2000Hzと発表されているが、クロスオーバーネットワークのコイルには、磁気飽和が高いケイ素鋼板コア入りのタイプを使い、高耐入力、低歪率設計である。なお、レベルコントロールは連続可変型である。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 完成したコーネッタのエンクロージュアには、295HPDとIIILZ MKIIの新旧2種のユニットを用意して試聴再確認をおこなうことにする。この場合、295HPDは、このユニットのデータを基準としてエンクロージュアが設計してあるため問題は少ないが、IIILZ MKIIについては、まったく振動系が異なるため、あくまでテストケースとして使用可能かがポイントになる。なお、IIILZ MKIIでは、低域に何らかのコントロールをする必要があるが、バスレフのポートの全面もしくは一部に吸音材を入れる方法か、板をポートの幅か高さに合わせてカットし、その量を調整する方法が考えられるが、今回は、ポート断面の半分に吸音材を入れた状態が、かなり好結果をしめした。
 295HPDをプロトタイプに入れると壁面を離れたフリースタンディンクの状態でも、低域から中低域にかけて量感が増し、中域が薄く聴える、いわゆるカブリをおこし、ネットワーク補正後でも、コーナー位置ではかなり低い周波数にウェイトをおいたバランスで、音としてはグレイドが高いものであったが、いわゆるタンノイの音のイメージとは、かなり異なった音である。
 最終モデルのコーネッタは、コーナー位置でオートグラフを想い出すバランスと音色を狙っただけに、低域が柔らかく量感があり、中域はわずかに薄く、高域が輝く、タンノイ的バランスの音である。しかし、ユニット自体がワイドレンジ型であるため、トータルの音は、柔らかく、キメが細かいソフトなものとなり、いわゆるタンノイの硬質な魅力とは、やや異なった現代型の音色である。この音はスケール感が大きく、コーナー型特有のピンポイント的なクリアーな音像定位と、充分に引きがある空間のパースペクティブを聴かせる特長があり、あきらかに、ブックシェルフ型エンクロージュア入りの295HPDとは、大きく次元が異なった別世界の音である。
 IIILZ MKIIにすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独得の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音は、すでに存在しない旧き良きタンノイのみがもつ燻銀の渋さと、高貴な洗練さを感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。
 カートリッジは、エレクトロ・アクースティックのSTS455Eや、オルトフォンのVMS20E、M15Eスーパーが柔らかく透明になるソフトでデリケートな音であり、オルトフォンのSPUシリーズが音のくまどりが鮮やかで密度が濃く格調の高い音となるが、とりわけSPU−Aが抜群の音である。アンプは、295HPDには50Wクラス以上のハイクォリティなソリッドステートタイプが現代的な伸ぴやかで粒立ちが細かい音で相応しく、IIILZ MKIIには、ソリッドステートタイプでも充分であるが、パワーアンプには、少なくとも30Wクラス以上の管球タイプを使うと磨きこまれたまろやかな、柔らかく拡がる音場空間をもった立派な音となって、素晴らしい音を聴かせる。

Lo-D HS-503

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スピーカーシステムの新製品では、バスレフ方式の復活とともに、フロアー型システムが多くなってきたことも、最近の傾向といってよいだろう。
 HS−503は、トールボーイ型のエンクロージュアを採用したフロアー型の新スピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、グレイのサランネットとブラック仕上げ塗装とのコンビネーションで、いわゆるモニターシステム的な印象がある。このエンクロージュアは、サランネット下側の部分が4本のネジで取外し可能な構造になっており、取外せばバスレフ型、スペーサーを介してサブバッフルを取付ければバスレフ型と密閉型の中間特性が得られるダンプドバスレフ型、さらに、フェルトパッキングのついたサブバッフルをエンクロージュア本体に固定すれば密閉型と、使用条件と好みにより3機種の変化をもたせることができる。
 ユニット構成は、ドロンコーン付と想われやすいが、ウーファーはギャザードエッジをもつ20cm口径のL−202を2本パラレルにしたツインドライブ型である。このユニットは、磁気回路にショートリングが付き、コーン紙にはラテックスが塗ってあり、歪を減らし、ボイスコイルボビンにはアルミを採用し温度上昇を抑えてある。トゥイーターは、比較的に口径が大きい7cmコーン型で、f0が低く、軽量コーン紙の採用で能率が高い特長がある。

クライスラー CE-100

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムの新製品ではエンクロージュア形式にバスレフ型が採用されることが多い。クライスラーのニューモデルは、そのなかでは、比較的に少ない完全密閉型のアコースティックサスペンション方式を採用したシステムである。
 ブックシェルフ型のオリジネーターである米AR社の完全密閉型は、小型なエンクロージュアで想像もつかぬ低音が再生できるメリットがあり、つい最近までは、ブックシェルフ型といえば、完全密閉型を採用することが標準化していたが、最近ではバスレフ型が復活してひとつの流れを形成しているようだ。簡単にこの両者の特長をいえば、完全密閉型は低域再生に優れるが出力音圧レベルが低く、バスレフ型は、逆に、出力音圧レベルは高くしやすいが、低域レスポンスはあまり伸びない。又音色的にも、やや対照的で、前者を重厚とすれば後者は軽快といる。
 CE−100は、このタイプとしては出力音圧レベルが92dBあり、聴感上の能率も高く感じられる。構成は、30cmウーファー、12cmコーン型スコーカー、それにホーン型トゥイーターの3ウェイシステムである。このシステムは、やや重く厚みのある低音をベースとし、明快型の中音、少し線が細い高音でバランスがととのっている。
 ステレオフォニックな音場感は、前後方向の感じをあまり際立たせるタイプではなく、音像も少し大きくまとまる傾向がある。

コーラル CX-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、比較的に小型のスピーカーシステムだが、ユニークな発想をベースとして開発されたメカニズムをもっていることが特長である。
 エンクロージュア上部は、階段状になっており、その部分にトゥイーターが取付けてある。一見したところでは、海外製品に古くからあるスピーカーユニット間の位相差をコントロールするタイプと思われやすいが、ここではトゥイーターユニットが左右方向に、それぞれ90度首を振ることが可能であり、アーチ状の金属の上を前後に移動すれば、上下方向にも±15度の間で角度をコントロールできる。
 これにより、リスニング位置で最良のステレオフォニックな拡がりと、シャープな音像定位が得られるように調整が可能とされているが、ややデッドな部屋などでは、このメカニズムを使って細かく追込んでいけば、かなり、良い結果が得られるものと思われる。
 エンクロージュアは、トゥイーターユニット取付部分の後が開口となっている特殊なバスレフ型で、ウレタン・メタリック塗装仕上げである。ユニット構成は、JBLのLE8Tを想い出すようなメカニックなデザインをもった20cmウーファーと、コーン紙に、コーラルで新開発されたコーティングをした、6・5cmトゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムで、爽やかで活気のある音を聴かせてくれる。

オンキョー M-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 さきに、ユニークなデザインと音をもったスピーカーシステム、M−6により、注目を集めたオンキョーから、その第二弾製品としてM−3が発表された。
 M−3は、外見上ではM−6とまったく共通のデザインとユニット構成を採用しているために、遠くから見ると見誤りやすいほど、よく似ている。ただし、ユニット構成が同じ2ウェイシステムだが、ウーファーの口径が28cmとひとまわり小さくなり、エンクロージュアのプロポーションも異なっており、結果としてのバッフル版上のユニットのレイアウトは、むしろM−3のほうが良いバランスと感じられる。
 エンクロージュアは、円筒状のポートをもつバスレフ型である。ポート部分は取外し可能で、対照的な位置に取付けてあるトゥイーターと位置交換が可能であるために左右スピーカーシステムのスピーカーユニットを、いわゆる対照的配置とすることが可能である。
 ウーファーは、5cm径のロングボイスコイルと直径120mm、厚さ20mmの大型磁気回路をもち、直線性が優れ、かつ大入力と高能率化がはかられている。トゥイーターは、メタルキャップ付きの4cmコーン型である。レベルコントロールは、ユニット間のクロスオーバーの変化までを考えてある再生音モードセレクターと呼ばれる3段切替型である。トータルバランスがよく明るい音色をもつ点ではM−6に勝る。

パイオニア CS-616

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ハイポリマーを使ったスピーカーシステムを発売するなど意欲的な製品開発をみせるパイオニアの新製品は、現代的な感覚のダイナミックで、歯切れがよく、パンチの効いた音をもつ、3ウェイスピーカーシステムCS−616である。
 スピーカーシステムでは、音色と出力音圧レベルは、密接な関係があり、一般的にダイナミックな音と感じるシステムは出力音圧レベルが高いことが多い。CS−616も、出力音圧レベルは93dBと高く、結果的な音とマッチした値と思われる。
 エンクロージュアは、円筒状のポートをもったバスレフ型で、最大許容入力100W、実質的には200Wに達する入力に耐えられるようにリジッドに作られている。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムである。ウーファーは、大型のダイキャストフレームを採用し、8本のネジでバッフルボードに取付けてある。コーン紙は、マルチコルゲーションが付き、材質にはカーボンファイバー混入したコーンに、広帯域にわたりスムーズなレスポンスを得るために、音響制動材をコーティングしたものだ。また、磁気回路は、第3次高調波歪を軽減するためとトランジェント特性を改善するために、銅キャップ付である。
 スコーカーは、10cmのコーン型で、フレームは強度が高く共振が少ないアルミダイキャスト製である。コーン紙は、質量が軽く、エッジワイズ巻ボイスコイルの採用で能率が高く、耐入力性が高いタイプである。トゥイーターも、スコーカーと同様にコーン型が採用されている。このユニットも、アルミダイキャストフレームを採用し、リニアリティをよくするために、エッジにはロール型クロスエッジを採用している。
 各ユニットは、いわゆる左右のスピーカーユニットの配置がシンメトリーになっている左右専用タイプで、各チャンネル専用のシステムがペアとなっている。
 CS−616は、3ウェイシステムらしい中域が充実した安定感のある音をもっている。音色は、やや明るいタイプで、中域がやや粗粒子型と受取れるが明快で力強さが感じられるのがメリットであろう。低域は、床から50cm程度離した状態がもっともよいようだ。これ以上、床に近づけると、低域が量的に増えて表情が鈍くなる傾向がある。最適位置でのこのシステムの低域は、量感があり、腰が強く押し出しがよいが、やや重いタイプである。
 ステレオフォニックな拡がりは、このクラスとしてはスタンダードで、前後のパースペクティブをとくに感じさせるタイプではない。音像定位は安定で、コントラストがクッキリと付いた2ウェイシステムと比較すると、シャープさはないが、むしろナチュラルな良さがあるように思われる。トータルなバランスがよく、安定して幅広いプログラムソースをこなすのが、このシステムの持味といってよい。

トリオ LS-77

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、2〜3万円クラスのスピーカーの新製品では、新材料や新デザインを導入した意欲的な製品が多い。
 トリオの新スピーカーシステムは、従来からも、ドロンコーンをもつバスレフ型のスピーカーシステムを開発してきたキャリアーをいかし、さらに、音像定位を明確化するために、例外的なコアキシャルユニットを採用した、注目すべき製品である。
 ブラック仕上げのエンクロージュアは、18mm厚の高密度ホモゲンでつくられ、エンクロージュア内の共振を分散するための補強がおこなわれている。
 使用ユニットは、ダイキャストフレームを採用した25cm口径のウーファーとラジアルホーン付のトゥイーターを同軸上に配置したコアキシャル2ウェイユニットと、同じフレームを使ったパッシブコーン、つまりドロンコーンが組み合わせである。
 マルチコルゲーションが付いたウーファーのコーン紙は、重量が8・3gと軽量であり、酸化チタンがコーティングされている。このコーンは、形状がほぼ、ストレートコーンともいえる、わずかにカーブをもっており、スムーズでキャラクターが少なく、伸びのある中音が得られるとのことである。
 トゥイーターは、振動板に、ルミナーにアルミ蒸着したものを採用し、ホーンはアルミダイキャスト、イコライザーは亜鉛ダイキャスト製で、ホーン鳴きを防止するために、ホーンの裏側にはゴム板を貼付けてダンプがしてある。
 パッシブコーンは、ウェイトを交換して低音をコントロールできるようになっている。標準としては、重量が30gあるウェイトが、コーン中央にネジ止めされているが、別売りのウェイト・オプションPW−77を使えば、低音不足を補う、20gのブースティング用ウェイト、低音が出すぎたり、中低音がカブル場合に使う、40gのダンピング用ウェイトが使用できる。
 標準ウェイトとウェイト・オプションは場合によれば、重ねて使用することも可能であるために、部屋の音響条件や、設置場所により、ウェイトを調整すれば、低音をかなりの幅でコントロールすることができる。一般に、この種のスピーカーシステムでは、部屋に応じて、最適の低音が得ることができれば、トータルなバランスは比較的にコントロールしやすいものである。ブックシェルフ型の特長である設置場所が自由に変えられるメリットに加わえて、パッシブコーンにより低音再生が調整可能な、このシステムは、良い低音再生をするために大きな可能性があると考えてよい。
 このシステムは、ホーン型トゥイーターを使った同軸型ユニットという特長があるために、クロスオーバー周波数が4kHzと高いことが音色にも影響しているようだ。バランス上では、中域が、やや薄く、声の子音や弦に独得のオーバートーンがつくが定位はシャープで、音色は明るい。

ヤマハ NS-500

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、NS−1000M系のシリーズに属する製品である。エンクロージュアは、ブラック仕上げであるが、完全密閉型ではなく、円筒形のダクトをもったバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーをベースとした2ウェイシステムだが、トゥイーターに、ベリリュウムを使った2・3cm口径のドーム型が使ってある。
 ウーファーは、円形のアルミダイキャストフレーム付で、ノーメックスボビンと、専用に開発した軽く硬いコーン紙を使用し磁気回路は銅キャップ付のアルニコマグネットを使っていることに特長がある。
 トゥイーターは、20kHz以上までピストン領域をもつ、タンジェンシャルエッジ付ベリリュウム振動板に、エッジワイズ巻ボイスコイルを熱処理してダイレクトに接着したタイプで、17500ガウスの高磁束密度の磁気回路が組み合わせてある。
 ネットワークは、空芯コイルとMMタイプコンデンサーを使用し、ネットワークは樹脂モールドされ、振動の影響を防ぎ、磁気的な影響のない位置に取付けてある。

ヤマハ NS-690II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、6万円台のスピーカーシステムとして代表的な存在であった、NS−690をベースとして改良が加えられた第2世代のスピーカーシステムである。
 外見上では、レベルコントロールの下にヤマハのバッジが付いた以外には、あまり変化はないが、各ユニットは、全面的に変更してあり、結果としては、モデルナンバーこそ、NS−690を受継いではいるがまったくの新製品といってもよいシステムである。
 ウーファーは、NS−1000系のマルチコルゲーション付コーンが採用してあるのが変った点である。サスペンションではエッジがウレタンロールエッジとなり、ダンパーの材質と含浸材が新タイプになった。また、ボイスコイルボビンは、220度の耐熱性をもつ米デュポン社製ノーメックスとなり、磁気回路では、低歪対策として、センターポールに銅キャップが付いた。
 スコーカーは、トゥイーターともども、新しい振動板塗布剤が採用され、ボイスコイル接着剤の耐熱性が改善されている。トゥイーターでは、ボイスコイルに熱処理が施され、スコーカー同様に耐熱性が高くなっている。
 エンクロージュアも、全面に高密度針葉樹系パーティクルボードを採用し、ウーファー背面にNS−10000同様の補強板を付けてあり、重量が単体で、NS−690にくらべ、36%重い、18・5kgになっている。
 NS−690IIの音は、基本的には、NS−690を受継いでいるが、低域が充実して、安定感を増したために、全体に、音の密度が濃くなり、ユニットの改善で、音伸びがよくなったために、トータルのグレイドは、かなり向上している。

アコースティックリサーチ AR-2aX, KLH Model 4

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 8つのスピーカー・システムということで、それを考えると、いざ名前を挙げるに従って8銘柄では少々物足りないのに悩んでしまう。
 8番目は、英国の名器とうわさ高い「ヴァイタボックス」の大型システムか、あるいは米国のかつてのビッグ・ネーム「クリプシュ」の現在の大型システムか、この2つのうちのひとつを挙げるのが、まず妥当なとこだろう。次点として、英国のローサの、これもコーナー型のホーンシステム。どれをとっても、低音はコーナーホーンで折返し形の長いホーンをそなえている。どれかひとつ、といういい方で、この中のひとつを絞るのは実は不可能なのだが、あえていうならヴァイタボックス。
 但し、これらは手元において聴いてみたいと思っても、それを確かめたことは一度もない。だから、人に勧めるなどとは、とてもおこがましくてできないというのが本音だ。そこで、よく知りつくしたのを最後に挙げよう。
 AR2aXまたはKLHモデル4だ。
 ARは今や2aXとなったが、その原形のAR2を今も手元で時折鳴らすこともあるくらいに気に入った唯一の本格的ブックシェルフ型。ARの低音はしばしば重すぎるといわれるが、それはAR3以後の低音で、AR2においては決して重ったるい響きはない。あくまでスッキリ、ゆったりで豊かさの中にゆとりさえあって、しかも引き緊った冴えも感じられる。高音ユニットは旧型がユニークだが、今日の新型2aXの方が、より自然な響きといえよう。
 KLHのモデル4は、同じ2ウェイでもブックシェルフとしてARよりひと足さきに完成した製品で、ブックシェルフ型の今日の普及の引き金となった名器だ。今でも初期の形と少しも変わらずに作り続けられているのが嬉しい。AR2よりも、ずっとおとなしく、クラシックや歌物を品よく鳴らす点で、今も立派に通用するシステムだ。持っていたい、たったひとつのブックシェルフといってよいだろう。

ヤマハ NS-1000M

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 ヤマハのオーディオ技術は他社と違って、はっきりした特長がある。それはオリジナル技術を持っている点で、アンプのV-FET、スピーカーのベリリューム・ダイアフラムだ。ともに他社にその類似製品があるが、ヤマハの場合、独力に近い形で一から始めて商品化に成功し、製品化にこぎつけたという点でユニークだ。
 ベリリューム・ダイアフラムは、それまでのジュラルミン系のダイアフラムにくらべ2倍も硬度が高く、重さはかえって軽いという驚くべき金属で、これが高音用に用いられると、同じ口径なら1オクターブ上の周波数範囲までピストンモーションが確保される。つまり理想状態でスピーカーが動作する。
 NS1000Mとして中音、高音にこのベリリューム・ダイアフラムを着装したシステムは、おそらく始めて海外製品を越えたサウンドを得たと断言できる。このシステムを聴いて海外メーカーの技術者は、おそらくどれほど驚いたことだろう。
 オーディオファンとして、JBLのシステムと切換えて、それに匹敵するサウンドの国産品が誕生したことを、半ば信じられない形で驚嘆した。それは、もう1年も前か。今、その第2弾としてヤマハNS500がデビューしたばかりだが、普及価格帯にまでベリリューム・ダイアフラムが登場したことには、オーディオ王国・日本の誇りと心強ささえ感じたものだ。
 さて1000Mのデビュー以来、このシステムはいろいろな形で常に座右にあってモニター用としての威力をふるっているが、そのすばらしさは誰かれとなくスピーカーにおいての国産品を見直すきっかけを作ってきた。
 10万円のスピーカーにしては1000Mの外観は少々おそまつかも知れぬが、それは実質本位のなせるためで、黒檀仕上げの14万円の1000の方が、より風格も雰囲気もあるのは当然だ。しかし10万円のシステムというラインの中でのNS1000Mのサウンドの魅力は、何にも増して強烈だ。マニアほどそれを鳴らさんと、やる気を起こさせる。

ダイヤトーン 2S-305

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 世界のスピーカーがすべて「ローディストーション、ワイドレンジ、フラットレスポンス」を目指す今日、その先見の銘をもっていたのがダイヤトーンの305だ、といったら誰かになじられようか。事実、三菱がハイファイ・スピーカーに志向し始めたとき、その目標としたのが前提の3項目であるし、それはなんと今から20年も前のことだった。
 その最初の成果が30センチの2ウェイ305であり、続く2弾が16センチのP610であり、どちらも20年以上の超ロングセラーの製品なのだ。305は最初、良質なる音響再生に目をつけたNHKによってモニター用として使用され始め、今日にいたるも、その主要モニターとして活躍し続けている。30センチの大型ウーファーに5センチの高音ユニットを、1500Hzのクロスオーバーで使うこの2ウェイ構成は、なんとごく最近の英国KEF製のBBCモニターにおいてトゥイーターユニットが2つだが、まったく同じ組合わせの形をしている。これは果たして偶然なのであろうか。KEFのモニターが、よく聴いてみればダイヤトーン22S305と酷似しているのは当然すぎるほど当然だ。三菱305の場合、日本のマニアからみれば国産品という点において、いわゆる舶来品との違いが商品としての魅力の点で「差」となってしまうのが落し穴なのだ。
 だから、もう一度見直して、いや聴き直してみたい。それがこの2S305だ。いくつかの驚くべき技術が305には秘められているが、そのひとつはウーファーのボイスコイルだ。そのマグネットは巨大で、ヨークの厚さに対してボイスコイルが短かい、いわゆるロングボイスコイルの逆の、ショートボイスコイル方式だ。これはダイヤトーンのウーファー以外には、JBLの旧タイプのウーファーだけの技術である。国産品の中にJBLの技術にひけをとらないといい得るのは、なんとこの305だけなのである。JBLなみに手元におきたいモニターシステムというのは、その理由だ。

タンノイ HPD385

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 タンノイという名称が意味するのは、今やスピーカーの中でも、もっとも英国的、ジョンブル的な色合いを強く残した響きを感じさせる。事実、タンノイは昨年、米国企業に合併された今日といえども、もっとも英国的なスピーカーを作るメーカーとして日本の高級ファンに受け止められている。戦前は英国の車載用音響機器のメーカーとして知られたキャリアーをもつが、戦後はもっばら高級ハイファイ・スピーカー・メーカーであるとされてきた。
 その作るユニットはたった3種、10インチ、12インチ、15インチのそれぞれの口径のコアキシアル2ウェイ・ユニットで、特長とするところは中央軸にホーン型高音用ユニットを備えており、低音のマグネットを貫通したホーンが、そのまま低音コーンのカーブを利用して大きな開口となっていて、1500Hzという比較的低いクロスオーバーをそなえた2ウェイ・ユニットなのだ。これは、アルテックの604を範にして作られたものだが、細部は独創的で音響的にも英国製品としての生すいの血筋を感じさせる。中音のやや高めの音域の充実感は、いかにもクラシック音楽の中核たる弦楽器をこの上なく、よく再生する。
 タンノイのこうした魅力は、かなり米国的になった現在のニュータンノイといわれるもの以前の製品に色濃く感じられるので、できることなら、その旧タイプのユニットが望ましい。ワーフデルとかグッドマンとかの、かつての英国サウンドが今やみる影もなく、ちょう落してしまった今日、僅かにタンノイにおいてのみ、その栄光が残されているうちに、マニアならば入手しておきたいという心情は、単なる良い音へのアプローチという以上のノスタルジックなものも強くこめられている。それは今日の隆盛をきわめるハイファイの引金となったに違いない英国のオーディオ技術、サウンド感覚の没落を悲しむ、ひとつのはなむけでもあるし、日本武士のたしなみでもあろう。じゃじゃ馬ともいわれるその使い馴らしの難しさも、今や大きな魅力となろう。

QUAD ESL

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 スピーカーが振動板というひとつの重量物、いくら軽いとはいってもそれは重さのあるものだが、それを動かして空気中で音波を作り出すことを土台としている以上、作り出した音波自体が避けたくとも、大きな制限を受けることになる。楽器の中に限ったとしても、打楽器以外の天然の音はすべて、重さのある振動板によって作られた音ではないから、もしそれを本物らしく出そうとすると、振動板は「重さ」があってはならない。
 例えば管楽器のすべてがそうだ。木管ではリードが振動して音源となるが、リードは竹の小片で高音用スピーカーの振動板なみに軽い。しかし高音用ユニットでは、木管の音は出そうとしても出るわけがない。ときおり、もっと重い振動板によって軽やかな管楽器の音を出そうということになる。それがバイオリンのような小がらの弦楽器になると、もっとひどいことになる。バイオリンの弦の重さは、高音用ユニットの振動板よりも軽いくらいだから。
 ESLと呼ばれて、今日世界に例の少ないコンデンサー型・スピーカーが高級マニア、特に弦楽器を主体としたクラシック音楽のファンから常に関心を持たれるのは、そうした理由からだ。コンデンサー型システムの音は、あくまで軽やかだが、それは振動板がごく薄いプラスチックのフイルムだからであり、それは単位面積あたりでいったら、普通のスピーカーのいかなる標準よりも2ケタは低い。
 つまり、あるかないか判らないほどの軽い振動板であり、ボイスコイルのような一ケ所の駆動力ではなくて、その振動板が全体として駆動されるという点に大きな特長がある。つまり駆動力は僅かだが、その僅かな力でも相対的に大型スピーカーの強力なボイスコイル以上の速応性を持つ点が注目される。過渡特性とか立上がりとかが一般スピーカーより抜群のため、それは問題となるわけがない。ただ低音エネルギーにおいてフラット特性を得るため、過大振幅をいかに保てるかが問題だが、ESLはこの点でも優れた製品といえる。

アルテック 604-8G

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 アルテックが日本の高級オーディオ・ファンにとって、どうしても重要なイメージを持つのは、それがウェスターン・エレクトリックの音響機器製造部門としてスタートしたメーカーであるからだ。もうひとつは、米国を中心とした全世界の音楽産業において、もっとも古くから、もっとも広く使用されているスタジオ用モニター・スピーカーのメーカーであるからだ。
 モニターということばがスピーカーに用いられる最初の動機は、このアルテックの有名なコアキシアル大型ユニット604であった。もっとも最初は601であったが、602を経て604となり、その原形が今日とほぼ同じとなって30年は経つ。音楽が再生系を経てリスナーの耳に達するのが常識となった今日、プロフェショナルの関係者の使用するモニター用スピーカーが何であるのか、それを使うことによって、もっとも原形に近い再生状態が得られるに違いないと信ずるのは、ごく当然の帰結であろう。
 その604は今75年後期に大幅の改良を経て604-8Gとなった。8Gは8オーム型、16Gは16オーム型なので、日本では8Gが一般用として出ているが、当然16オームの16Gも現存することになる。今までの604Eにくらべて、ウーファーのf0を1オクターブ半以上も下げることにより、ローエンドの再生帯域を拡大し、また高音ユニットのダイアフラムの改良で、ハイエンドをよりフラットにして実効帯域内の高域エネルギーをずっと高域まで平均化して、フラットを完ぺきに獲得した。
 今までは、高域になるに従ってエネルギーが次第に増えるハイ上がりの特性であったのが、ごくフラットな平坦特性を得たため、ずっと聴きやすく、はるかにスッキリした再生特性を持つことになった。つまり、アルテックの現代性志向をはっきりと反映した新型ユニットといえよう。いままでアルテックをモニター用、音の監視用といういいわけで避けてきたマニアも、604-8Gは音楽再生用として受け止めよう。

JBL L400

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 JBLの最新最強力のシステムが、間もなく始まる6月の米国CEショーで発表される。これはL400と呼ばれる4ウェイシステムで、JBLのコンシューマー用初の4スピーカーシステムだ。おそらく、日本では70万円前後の価格で年内に発売されることになろうが、その母体はすでにあるスタジオモニター4341であろう。L200がスタジオモニター4331・2ウェイシステムと同格、L300が同じく4333・3ウェイと同じランクにあるのと同じように。
 このL400は、当然ながら38センチの低音ユニット、25センチの中低音用。ホーン型中高音用はLE85相当のユニットつき。それに077相当の高音ユニットの4ウェイ構成で、その狙うところは低歪、広帯域フラット再生だ。現代のハイファイ技術をそのままの姿勢でスピーカーに拡大した形といえよう。
 ところで、こうしたスピーカーのあり方は今日の全世界では共通なのだが、それがJBLシステムとして、他社との違いは何か、という点を具体的に追い求めていくと、D130ユニットになってしまう。D130は38センチ形のフルレンジだが、30センチ版がD131という名として知られており、これは4ウェイ5スピーカーのスタジオモニター4350の中低音用として、今日もっとも注目され、アピールされている。
 このように、JBLユニットのフルレンジの原形たる38センチD130から発したJBLサウンドが、もっとも現代的な形でまとまったのがL400に他ならない。L400はJBLの一般用システム中パラゴンを除き、最高価格のシステムになる。パラゴンは左右ひと組で3、600ドル。L400はひとつで1、200ドルは下るまい。ステレオで、3、000ドル近くでパラゴンに近い。L400の良さは具体的に接してみないと定かではないが、モニター4341から発展した音楽用で、低音をより充実して、ハイファイ志向に強く根ざした広帯域リブロデューサーの最強力形には違いあるまい。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 ステレオ全盛の今日、ステレオ用として十分に意識され考えられたスピーカー・システムが果たしていくつあろうか。ステレオ初期からあった「ステージ感のプレゼンス」を考慮して、高音を周囲360度に拡散するとか、音の直接放射を壁面に向けて壁からの反射音によって「拡大されたステレオ感」と「遠方音源」の両面から「ステージ感」を得ようとする試みはヨーロッパ製を始め、多くの英国製品にみられた。
 しかし、リスニング・ポジションをかなり限定されてしまうという点で、今日の主流となっている全エネルギー直接輻射型システムと何等変わることはない。つまり、現在のスピーカー・システムをステレオ用として使うことは、モノラルにおけるほど広い融通性を持っているわけではなくて左右2つのスピーカーの間の、ごく限られた一定場所においてのみ、正しいステレオ音像が得られるにすぎない。そのスピーカーの大小、部屋の大小に拘らず、理想的にはただ1人だけに限られる。
 パラゴンの場合、驚くべきことに、その設置された部屋のどこにあっても、ステレオ音像はほとんど変わることなく、両スピーカーの中心にある。たとえ部屋のどこにいて聴こうが、変わることはない。こうしたスピーカーが他にあるだろうか。
 しかも特筆すべきは、このシステムが低音、中音、高音各ユニットともホーン型のオール・ホーンシステムであるという点である。
 パラゴンが、現存するオール・ホーン型の唯一のシステムであるということだけでも、その価値は十分にあると、いってよいが、パラゴンの本当の良さは、ホーン型システムというより以上に、ステレオ用としてもっとも優れた音響拡散システムであるという点を注目すべきだ。ただ1人で聴けば、コンサートホールのステージ正面の招待席で、ステージを見下ろすシートを常にリスニングポジションとして確保できる。また部屋を空間と考えれば、その空間のどこにあっても、もっとも優れたステレオ音像を獲得できる。パラゴンでなければならぬ理由だ。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 試聴は例により、ステレオサウンド試聴室でおこなうことにする。用意したスピーカーシステムは、今回の企画で製作した〝幻のコーネッタ〟、つまり、フロントホーン付コーナー・バスレフ型システムとコーナー・バスレフ型システム2機種で、それぞれ295HPDユニットが取り付けてある。また、これらのシステムとの比較用には、英タンノイのIIILZイン・キャビネットが2モデル用意された。一方はIIILZ MKII入りのシステムで、もう一方は英国では “CHEVENING” と呼ばれる295HPD入りのシステムである。
 試聴をはじめて最初に感じたことは、2種類の英タンノイのブックシェルフ型が、対照的な性質であることだ。
 まず、両者にはかなり出力音圧レベルの差がある。それぞれのユニットの実測データでも、295HPDが出力音圧レベル90dB、IIILZ MKII93dBと3dBの差があり、聴感上でかなりの差として出るのも当然であろう。それにしても、295HPDの出力音圧レベルは、平均的なブックシェルフ型システムと同じというのは、HPDになりユニットが大幅に改良されていることを物語るものだろう。
 第二には、IIILZが聴感上で低域が量的に不足し、バランスが高域側にスライドしているのと比較し、295HPDでは低域の上側あたりがやや盛り上がったような量感を感じさせ、高域にある種の輝きがあるため、いわゆるドンシャリ的な傾向を示す。しかし、質的にはIIILZ MKIIのほうが、いわゆるタンノイの魅力をもっているのはしかたがない。量的には少ないが、質的にはよく磨かれている。一方295HPDでは逆に、とくに低域が豊かになっているが、ややソフトフォーカス気味で、中域から中高域の滑らかさが、IIILZ MKIIにくらべ不足気味に聴こえる。
 次に、295HPDの入ったオリジナルシステムと、今回製作した2機種とでは、当然のことながらブックシェルフ型とフロアー型の間にある壁がいかに大きいかを物語るかのように、少なくとも比較の対象とはなりえない。同じユニットを使いながら、この差は車でいえば、ミニカーと2000c.c.クラス車との間にある、感覚的な差と比較できるものだ。まだく両者のスケール感は異なり、やはりフロアー型の魅力は、この、ゆったりとした、スケール感たっぷりの響きであろう。
 2種類のコーナー型システムは、フロアー型ならではの伸びやかな鳴り方をするが、予想以上に両者の間には差がある。
 フロントホーン付コーナー型は、低域がよく伸び、中低域あたりまでの量感が実に豊かであり、とても25cm型ユニットがこのシステムに入っているとは思われないほどである。また、高域はよく伸びて聴こえるが、中域の密度がやや不足し、中高域での爽やかさも少し物足りない。ただ、ステレオフォニックな音場感は、突然に部屋が広くなったように拡がり、特に前後方向のパースペクティブの再現では見事なものがある。音質はやや奥まって聴えるが、くつろいでスケール感のある音楽を楽しむには好適であろう。聴感上バランスではやや問題があるが、ステレオフォニックな拡がりの再現に優れている。
 一方、コーナー型では全体に線が細い音で、中域の厚みに欠けるために、ホーン付にくらべかなりエネルギーが不足して感じられる。いわゆるドンシャリ傾向が強い音であり、ステレオフォニックな拡がりも、とくに前後方向のパースペクティブな再現が不足し、音像は割合に、いわゆる横一列に並ぶタイプである。
 スピーカーシステムの構造としては、フロントホーンの有無だけの差であるが、フロントホーンの効果は、ステレオフォニックな空間の再現で両者の間に大幅な差をつけている。オーバーな表現をすれば、一度フロントホーン付のシステムを聴いてしまうと、ホーンのないシステムは聴く気にならなくなるといってよい。つまり、豊かさと貧しさの差なのだ。
 概略の試聴を終って、次には幻のコーネッタに的をしぼって聴き込むことにする。このシステムの低域側に片寄ったバランスを直すためには、高域のレベルを上げることがもっとも容易な方法であるが、実際にはもっともらしくバランスするが、必要な帯域では効果的ではなく、不要な部分が上がってしまうのだ。いろいろ手を加えてみても解決策は見出せない。次には仕方なく、ネットワークに手を加えることにする。
 狙いは、高域側の下を上昇させ、低域側の下を下降させことにある。合度&と来で決定した値にしたところ、トータルバランスは相当に変化し、鈍い表情が引き締まり、システムとしてのグレイドはかなり高くなる。しかし好みにもよろうが、ローエンドはやや締めたい感じである。方法は、バスレフポートをダンプするわけだが、これはかなり効果的で、ほぼ期待したような結果が得られた。補整をしたシステムは、ますますホーンなしのシステムとの格差が開き、ほぼ当初に目標とした音になったと思う。ここまでの試聴は、レベル、ロールオフとも0位置に合わせたままで、特別の調整はしていないことをつけくわえておきたい。
 このシステムに使用するアンプは、中域の密度が高く、中低域から低域にわたりソリッドで、クォリティが高いタイプが要求される。少なくとも、ソフトで耳ざわりのよいタイプは不適である。逆に、ストレートで元気のよいものも好ましくない。プリメインアンプでいえば、少なくとも80W+80Wクラスの高級機が必要であろう。

フォステクス GZ80, FP253, UP203Super, UP163, FE83New, FT60H, FT3RP, BK25, BK45, BK70, BK101, BK202

フォステクスのスピーカーシステムGZ80、スピーカーユニットFP253、UP203Super、UP163、FE83New、FT60H、FT3RP、エンクロージュアBK25、BK45、BK70、BK101、BK202の広告
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タンノイ Arden, Berkeley, Cheviot, Devon, Eaton

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オットー SX-441/II

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オーレックスのカセットデッキPC-5080、PC-4060、アクセサリーDA-12、ATT-30、AT-240、ヘッドフォンHR710の広告
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PC5080