井上卓也
ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より
コンポーネントアンプが高性能化し、ハイパワー化してくると、それらの高級アンプをつかってドライブするスピーカーシステムのほうは、名器として定評が高い大型システムが次々と姿を消して、世界的にみてもこれぞというスピーカーシステムは数えるほどしか残っていないし、新製品として登場する例も異例といえるほど少なくなった。
米・ボザーク社の代表製品である、B−410コンサートグランドは、現在も生き残っている数少ない伝統的な大型フロアーシステムである。構成ユニットは、低音に30cmウーファー・B−199が4本、中音16cmメタルコーン型スコーカー・B−209Aが2本、高音5cmメタルコーン型トゥイーター・B−200Yを8本使った3ウェイ・14スピーカーのマルチウェイ・マルチスピーカーシステムの代表作である。
ボザークのユニットは、B−410に使用されている専用ユニットが3種類と、他に全域用の20cmメタルコーン型・B−800の4種類があるだけで、創業以来、基本的な設計変更もなく、一貫して、優れたユニットは一種類、といわんばかりに同じユニットを作り続けている。ウーファーコーン紙には、羊毛を加えた独得なタイプが使用され、例外的に複数個の使用でも特性が崩れない特長があるといわれている。ウーファー以外の3種類のユニットは、コーンが継目のない軽合金製のメタルコーン型であることが特長であり、表面に特殊なゴムをコーティングして金属の共鳴を抑えているから、一般のパルプでつくったコーン紙と見誤ることもあるであろう。
ボザークのスピーカーシステムは、普及機を除いてすべてこの4種類のユニットを組合せてつくられているが、クロスオーバーネットワークは、もっともシンプルな6dB/oct型である。このネットワークも同社のシステムの特長で、位相特性が優れ、聴感上でもっとも好結果が得られるとことだ。基本的に各専用ユニットが広帯域型であることにより、傾斜のゆるやかな6dB/oct型ネットワークの採用を可能としていると思われる。また、高音、中音のレベルコントロールを装備せず固定型であるのは、大変に使いやすいメリットになっている。
コンサートグランドシリーズは、デザインにより、B−410がクラシックとムーリッシュ、B−310Bコンテンポラリーの3種類があり、ユニット配置は下側から低音用が2本づつ2段に並び、その上に中音用が横一列に2本、高音用は縦一列に8本が中央に置かれているが、B410クラシックだけが、左右専用型の対称配置である。
このシステムは、エネルギー感が充分にあり、密度が濃く重厚な音が魅力である。とくに低域のレスポンスが伸び、腰の強い重低音を再生できるのは、この種の大型フロアーシステムならではの感がある。また、音量の大小によって聴感上のバランスが変化せず、小音量でも小型スピーカーと同様に扱うことができる。一般に数多くのユニットを使うシステムでは、音像定位で問題を生じやすいが、小音量のときでも音像がシャープに立つのは、このシステムの特筆すべき点だ。
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