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ボザーク B410 Moorish

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 かつて、スピーカー王国を誇った米国のスピーカーも現在では大きく地図が塗り変えられ、数多くのブランドが消え去り、また有名無実となった。
 このボザークも、現在はその名前を聞くことがなくなったが、ボストンに本拠を置いたユニークなスピーカーメーカーであった。かつてのニューヨーク万博会場で巨大口径(28〜30インチ?)エキサイター型スピーカーユニットを展示して見る人を驚かせた逸話は、現在においても知る人がいるはずで、この巨大ユニットの電磁石部分だけは、’70年代に同社を訪れた折に見ることができた。また、「理想の音は」との問にたいしてのR・T・ボザークは、ベルリンフィルのニューヨーク公演の音(たしか、リンカーンセンター)と断言した。あの小気味よさはいまも耳に残る貴重な経験である。
 ボザークのサウンド傾向は、重厚で、密度の高い音で、穏やかな、いわば、大人の風格を感じさせる米国東海岸、それも、ニューイングランドと呼ばれるボストン産ならではの音が特徴であった。このサウンドは、同じアメリカでもかつて日本で「カリフォルニアの青い空」と形容された、JBLやアルテックなどの、明るく、小気味よく、シャープで反応の速い音のウェスタン・エレクトリック系の音とは対照的なものであった。
 同社のシステムプランは、いわゆる周波数特性で代表される振幅周波数特性ではなく、ユニットの位相回転にポイントを置いたものだ。そのため、クロスオーバーネットワークは、もっとも単純で位相回転の少ない6dB/oct型を採用しているのが大きな特徴である。したがってユニットには、低域と高域の共振峰が少なく、なだらかな特性が要求されることになり、低域には羊毛を混入したパルプコーンにゴム系の制動材を両面塗布した振動板を採用していた。低域は30cm口径、中域は16cmと全帯域型的な性格を持つ20cm、高域は5cmと、4種類のコーン型ユニットが用意され、これらを適宜組み合わせてシステムを構成する。また、同社のスピーカーシステムは、基本的に同じユニットを多数使うマルチユニット方式がベースであった。
 ボザークのシステム中で最大のモデルが、このB410ムーリッシュ・コンサートグランドである。低域は30cm×4、中域は16cm×2、高域は5cm×8とマルチにユニットを使い、400Hzと2・5kHzのクロスオーバーポイントを持つ3ウェイ型。エンクロージュアは、ポートからの不要輻射を嫌った密閉型である。マルチユニット方式ながら、同軸型2ウェイ的に一点に音源が絞られた独自のユニット配置による音場感の豊かさは、現時点で聴いても類例がない。その内容を知れば知るほど、現代のバイブル的な存在といえる。

Speaker System (floor type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第32項・市販品をタイプ別に分類しながら(5) フロアー型スピーカー」より

 どこまで頑張ってみても、所詮ブックシェルフはブックシェルフ。どこか伸びの足りない音がするのにくらべて、フロアータイプの大型の、ナマの楽器そのもののスケールの大きさや、音場感や、悠然とした余裕のある鳴り方こそ、やはりスピーカーのゆきつくところだ、という感じがする。しかしフロアータイプは、とうぜん大型で設置のための面積が大きく占有される。また、部屋の中でどうしてもスピーカー最優先、という置き方が必要になり、視覚的にもスピーカーが部屋の主役の感じになる。価格には幅があるとはいえ、注目製品は概してかなり高価につく。そういう不利な条件をものともしない愛好家でなくては、とうぜん手を出しにくい。しかしくりかえすが、その点を承知であれば、フロアータイプの上質のスピーカーの聴かせる音楽の世界は別格だと断言していい。
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 フロアータイプの高級機を代表する製品は、すでに7〜12、19〜23などの項で紹介したのでそれとの重複を避けて、注目製品を列挙しよう。
 まずアメリカ製ではボザークのB410MOORISH(ムーリッシュ)。広い部屋で、たっぷりした音量で鳴らしたときの量感の快さはちょっと類がない魅力。しかし部屋が小さくてスピーカーに接近して聴かざるをえないとき、そして音量を絞って聴くときには、ボザークの良さは発揮しにくい。
 そういう目的にはむしろ、JBLのL300やそれのプロ用4333WXAがある。E−VのインターフェイスDも、このメーカー久々の良いスピーカーだと思う。アルテックのモデル19は、これらと大きさは近いが、その音はボザーク同様に広い部屋で生かされるタイプだ。
 イギリスは、すでに書いたようにスピーカーの大型化をあまり好まない国で、かつてのタンノイのオートグラフや、22項のヴァイタヴォックスCN191を除くと、いまや大型のフロアータイプはタンノイの〝バッキンガム〟と、セレッションのアンティークデザインの〝デッドハム〟ぐらいのものか。ヴァイタヴォックスの〝バイトーン・メイジャー〟は、アルテックA7Xのイギリス版という感じで、A7Xをぐっと渋くした音に特徴がある。
 イギリスでは、いまではこれらよりもう少し小型の、21項のディットン66や25のようなトールボーイタイプが好まれるらしい。ディットンの三桁ナンバーの新製品662は、551(29項参照)同様に新しい音を目ざした良い製品。スペンドールBCIIIは、モニター的なバランスの良い音質を愛好する人が多い。タンノイは全面的にモデルチェンジしてしまったが、さすがに日本で人気の高いアーデンとバークレイだけは、マークIIになったとはいえ、残している。
 ひとつぜひ紹介しておきたいのが、フランス・キャバスの〝ブリガンタン〟。やや個性的な音だが、いかにもフランスを思わせる華麗な音質は他に類がない。
 そして最後に国産だが、フロアータイプでは、これら海外の著名一流品の魅力にいまひとつおよばないというのが正直のところではなかろうか。

ボザーク B410 Moorish

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 最近では、ソリッドステートアンプが急速な発展を遂げ、高いクォリティを維持しながら強力なパワーを得ることができるようになったことを背景として、スピーカーのジャンルでは、米AR社で開発した小型完全密閉型エンクロージュアにハイコンプライアンスのエアーサスペンション方式のウーファーを使用する、きわめて能率の低いスピーカーシステムに代表されるような、小型でありながら充分に優れた低域再生が可能な方式のスピーカーシステムが過去十年以上にもわたる長期間主流の座を占め、かつての大型フロアーシステム全盛時代に君臨した銘器の名称にふさわしいモデルは、そのほとんどが現在では姿を消し去っている。
 ボザークB410MOORISHは、現存する数少ない大型フロアーシステムのひとつである。ボザーク社は、第二次大戦前にR・T・ボザークが創立したスピーカーメーカーで、一時はアンプ関係の製品をも手がけたが、基本的にはスピーカー専業メーカーとしての姿勢を保ち続けている。
 ボザークのスピーカーメーカーとしての大きな特長は、ユニットにホーン型特有の、あのメガホン効果が付帯音として再生音に影響を与える点を嫌って、コーン型ユニットのみを創業以来作りつづけていることにある。また、ユニットの種類も、優れたユニットは1種類に限定されるというポリシーから、30cm型、20cm型、16cm型と5cm型それぞれ1種類の合計4種類を、創業期以来現在に至るまで継続して生産してきた。これらの4種類のユニットを組み合わせて各種のシステムを構成していることになるが、最大のシステムがコンサート・グランドシリーズと名付けられ、かつてはB410系がCLASSICとMOORISH、B310系にCONTEMPORARYの3機種があったが、現在輸入されているのは、このなかでB410MOORISHのみである。
 B410MOORISHは、そのデザインがムーア風の独特な雰囲気をもつものにまとめてあることから命名されたようで、ユニット構成は、30cm型羊毛混入のコーン紙とボイスコイル直径より外側にダンパーをセットしたユニークな構造をもつB199Aウーファーを4個、アルミ箔一体成形のコーンの両面にラテックス系の制動材を塗布した16cm型スコーカーB209Bを2個、同じ構造のコーンを採用した5cm型コーントゥイーターを8個、合計14個で構成した3ウェイ14スピーカーシステムである。
 バッフル板上のユニット配置は下側にほぼ正方形に4個のウーファー、中央上部に縦一列に8個のトゥイーター、これを狭んだ両側に横一列に2個のスコーカーをおく独特なレイアウトで、中域以上については、上下方向の指向性がよいスコーカーと水平方向に指向性がよいアレイ配置のトゥイーターの十字状の交点にエネルギーが集中する効果があり、並列使用でも特性の乱れないウーファーと相まって、大型にしては珍しい音像定位がピンポイントになる特長をつくりだしている。
 エンクロージュアは、音色面で選択されたと思われる硬質チップボード製で、表面がウォルナット仕上げをされた完全密閉型で、ユニットを含んだ総重量は102kgと、奥行きの浅いエンクロージュアにしては予想以上の重量がある。ネットワークは、ボザークでは従来からも振幅特性より位相特性を重視する伝統があるため、400Hz、2500Hzで6dB型を採用しているのが特長で、これも音像定位の明確さや、ステレオフォニックな音場感の、とくに前後方向のパースペクティブな再生に大きな影響を与えているものと思われる。また、高音、中音ユニット用のレベル調整が付属していないのも現在のスピーカーシステムとしては珍しいケースである。
 聴感上では充分に伸びた低域をベースに、緻密で量的に豊かむ中域、ハイエンドを抑えた高域がバランスし、滑らかなレスポンスを示すが、最新のディスクではややハイエンドが不足気味とも感じられる。音色は米東岸のシステムらしく、やや暗いが重厚そのものであり、力感が充分にあるために、ドイツ系のオーケストラには非常にマッチし、独特の陰影の濃い典雅な音を響かせる。

ボザーク B410 Moorish

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

堂々たる風格の外観と内容、そしてサウンドが調和した重厚な製品。

ボザーク B410 Moorish

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

米東海岸の重厚で、独特な渋さのある音を正統的に現代に伝える製品。

ボザーク B410 Moorish

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 アメリカのボザークは、オール・コーン・スピーカーのマルチ・システムという一貫したポリシーで、クラシックなデザインのエンクロージュアに収めた高級システムをつくっている。その節度ある渋い音色と、品位のの高いクォリティは、高級ファンの中に根強い支持層をもっているようだ。このB410はシリーズ中の最高機種で、〝ザ・コンサート・グランド〟の異名を持つ。計14個のユニットから放射される音は圧巻である。

ボザーク B-410 Moorish

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 コンポーネントアンプが高性能化し、ハイパワー化してくると、それらの高級アンプをつかってドライブするスピーカーシステムのほうは、名器として定評が高い大型システムが次々と姿を消して、世界的にみてもこれぞというスピーカーシステムは数えるほどしか残っていないし、新製品として登場する例も異例といえるほど少なくなった。
 米・ボザーク社の代表製品である、B−410コンサートグランドは、現在も生き残っている数少ない伝統的な大型フロアーシステムである。構成ユニットは、低音に30cmウーファー・B−199が4本、中音16cmメタルコーン型スコーカー・B−209Aが2本、高音5cmメタルコーン型トゥイーター・B−200Yを8本使った3ウェイ・14スピーカーのマルチウェイ・マルチスピーカーシステムの代表作である。
 ボザークのユニットは、B−410に使用されている専用ユニットが3種類と、他に全域用の20cmメタルコーン型・B−800の4種類があるだけで、創業以来、基本的な設計変更もなく、一貫して、優れたユニットは一種類、といわんばかりに同じユニットを作り続けている。ウーファーコーン紙には、羊毛を加えた独得なタイプが使用され、例外的に複数個の使用でも特性が崩れない特長があるといわれている。ウーファー以外の3種類のユニットは、コーンが継目のない軽合金製のメタルコーン型であることが特長であり、表面に特殊なゴムをコーティングして金属の共鳴を抑えているから、一般のパルプでつくったコーン紙と見誤ることもあるであろう。
 ボザークのスピーカーシステムは、普及機を除いてすべてこの4種類のユニットを組合せてつくられているが、クロスオーバーネットワークは、もっともシンプルな6dB/oct型である。このネットワークも同社のシステムの特長で、位相特性が優れ、聴感上でもっとも好結果が得られるとことだ。基本的に各専用ユニットが広帯域型であることにより、傾斜のゆるやかな6dB/oct型ネットワークの採用を可能としていると思われる。また、高音、中音のレベルコントロールを装備せず固定型であるのは、大変に使いやすいメリットになっている。
 コンサートグランドシリーズは、デザインにより、B−410がクラシックとムーリッシュ、B−310Bコンテンポラリーの3種類があり、ユニット配置は下側から低音用が2本づつ2段に並び、その上に中音用が横一列に2本、高音用は縦一列に8本が中央に置かれているが、B410クラシックだけが、左右専用型の対称配置である。
 このシステムは、エネルギー感が充分にあり、密度が濃く重厚な音が魅力である。とくに低域のレスポンスが伸び、腰の強い重低音を再生できるのは、この種の大型フロアーシステムならではの感がある。また、音量の大小によって聴感上のバランスが変化せず、小音量でも小型スピーカーと同様に扱うことができる。一般に数多くのユニットを使うシステムでは、音像定位で問題を生じやすいが、小音量のときでも音像がシャープに立つのは、このシステムの特筆すべき点だ。

ボザーク B410 Classic

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 なにしろ聴いたことのないような豊かなエネルギーのローエンド。どっしりとした低域に音楽のすべての音が安心しきって乗ってくれるという感じだ。良き時代の良き音の再現。

ボザーク B410 Moorish

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 オールコーンで3ウェイ・14スピーカーという大型システム。よくコントロールされた内省的な音だが、品位が高く、美しいバランスをもっている。外観も美しい雰囲気だ。

ボザーク B410 Classic

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 現存する数少ない大型システムの一機種である。創業以来、一貫してコーン型ユニットを使うボザークの音は、華やかさはないが、厚みのある、陰影の豊かな、深いものだ。

ボザーク B310, B410

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ニューイングランドサウンドを代表する貴重な存在といえる大型システムである。ユニットは、すべてコーン型で会社創設以来、基本設計を変えないR・T・ボザークの作品である。システムは、すべて手づくりで丹念につくられた、いわば工芸品であって、工業製品でないところが魅力である。この音は深く緻密であり重厚である。音の隈どりの陰影が色濃くグラデーション豊かに再現されるのはボザークならではの絶妙さである。