Category Archives: スピーカー関係 - Page 32

Speaker System (Powered type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第34項・市販品をタイプ別に分類しながら(7) パワーアンプを内蔵したスピーカー、マルチアンプ用スピーカー」より

 前項で例にあげたメリディアンM1は、スピーカーエンクロージュアの内部に、トランジスターのパワーアンプを内蔵している。それも、低音・中音・高音とそれぞれに専用に分けたいわゆるマルチチャンネルアンプになっている。したがって、ここにプリアンプを接ぐだけで、そのまま鳴らすことができる。
 パワーアンプをスピーカーのエンクロージュアに内蔵させてしまうというのは、二つの意味がある。ひとつは、右の例のようにスピーカーとアンプを一体に設計して、音質をいっそう向上させようとする場合。もうひとつは、プロフェッショナル用のモニタースピーカーの一部にみられるように、録音スタジオのミキシングコンソールの出力をそのまま接続できる用にという、便宜上から(パワーアンプを)内蔵させるタイプ。この工社の代表例は、たとえばNHKでのモニター用として設計されたダイヤトーンのAS3002Pなどだ。
 どちらの考え方にせよ、このパワーアンプ内蔵型は、そこにプリアンプの出力を接ぐだけでよいという点で、他のスピーカーシステムとは、使い方の面で勝手が違う。少し前まではこのタイプはほとんど例外的な存在だったが、最近になってスピーカーシステムの性能が一段と向上してきたために、これ以上の音質を追求するには、いわゆるマルチアンプ方式で専用アンプを内蔵することが有利ではないかという考え方が、いわゆるコンシュマー用の製品にも少しずつ広まってゆく兆しがみえはじめている。そのひとつが、たびたび例にあげたメリディアンM1だ。
 メリディアンと同じく、マルチチャンネルアンプを内蔵した(そして音質の良い)スピーカーとして、西独K+H(クライン・ウント・フンメル)のOL10もあげておきたい。エンクロージュアの両側面に把手がついていたり、ほんらいスタジオモニターとして徹した作り方だが、このバランスのよい音は一聴の価値がある。
 パワーアンプ内蔵という形をいっそう煮つめてゆくと、オランダ・フィリップスの一連の新型のように、MFBという一種のサーボコントロールアンプで、スピーカーの動作を電子制御して、いっそうの音質の向上を計るという製品ができあがる。この一連のシリーズは、エンクロージュアが非常に小さいにもかかわらず、大型スピーカーなみの低音が再生されて驚かされる。また内蔵の電子回路を応用して、コントロールアンプからの入力が加わった瞬間に電源が入り、入力が2分以上途絶えると自動的に電源が切れるという、おもしろい機能を持たせている。これも、もともとはプロ用として開発された製品だが、価格も大きさも、一般の愛好家が使うに手頃なスピーカーだ。
 パワーアンプを内蔵はしていないが、はじめから高・低各音域を分割して2台のパワーアンプでマルチドライブすることを指定しているのが、JBLの4350Aだ。言うまでもなく名作4343のもう1ランク上に位置するスタジオモニターの最高峰だが、ウォルナット仕上げのWXAなら、家庭用としても十分に美しい。使いこなしは難しいが、うまく鳴らしこんだ音は、アキュレイトサウンドのまさにひとつの極を聴かせてくれる凄みを持っている。

Speaker System (Bookshelf type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第29項・市販品をタイプ別に分類しながら(2) ブックシェルフタイプ──イギリス編」より

 ブックシェルフの元祖ARを別にすれば、アメリカのスピーカーは、どちらかといえばもっと大型の高価な、いわば物量を惜しまない作り方のほうに特徴を発揮している。ブックシェルフタイプは、それぞれのメーカーの製品系列の中のお得用品、といったニュアンスがある。これに対して、ヨーロッパのスピーカーは、ブックシェルフサイズこそ本流で、概して欧州民族はスピーカーがことさら大げさになることを好まないらしい。たとえフロアータイプを作っても、32項であげるようにタテに長いいわゆるトールボーイ型が多く、部屋に置いたときに、スペースを占有しないような配慮がうかがえる。
 もうひとつ、アメリカとヨーロッパの大きなちがいがある。それは音量の問題だ。一体にアメリカのスピーカーにくらべて、ヨーロッパのスピーカーは、大きな音量に弱い。アメリカのARやJBLやE−Vやその他28項であげた製品たちが、それぞれに音触の傾向を異にしながらも、楽器が眼の前で演奏されているかのような音量に上げても、音が割れたりせずに危なげのない堂々とした量感で楽しめるのにくらべると、ヨーロッパ、ことにブックシェルフタイプにとても小粋な味を出すことの上手なイギリスのスピーカーは、ハイパワーに弱い、というひとつの弱点を持っている。ただ、イギリス人と話をしてみると、彼らはそれを弱点とは思っていない。それは彼らが、そんな大きな音量でレコードやFMを鳴らすことをまるで考えてもみないからだ。イギリスの家庭用のスピーカーは、ややおさえかげんの、控えめな、少しオーバーにいえばひっそり、といった感じの音量で鑑賞することが、どうやら使いこなしのカンどころのようだ。
 また、これはすでにくりかえしたことだけれど、アメリカのスピーカーが概して演奏者に近接して聴く感じで音を直接的に聴かせるのに対して、イギリスをはじめとするヨーロッパのスピーカーは、演奏者とやや距離を置いて聴く感じ、その結果。楽器の音が、それを演奏している部屋の響きをともなってきこえるような印象となる。そして、アメリカの音は概して乾いた感じで聴こえて、ヨーロッパの音は反対にやや湿り気を帯びて聴こえる。アメリカの音は良くも悪くもややドライだが、ヨーロッパの音には独特の繊細な艶がある。こういう違いが、スピーカーを選ぶときの大きな鍵になる。
 たとえばすでに紹介したスペンドールBCII、そしてそれをいっそう小造りにしたような音のロジャース〝コンパクトモニター〟はその代表例だ。しかし同じイギリスでも、KEFの103や104aBになると、明らかにもっと新しい世代の、イギリスにしてはパワーに強い、そしてクールな音を聴かせる。またセレッションの〝ディットン〟シリーズは、66や25ところでも書いたようにいくらか古めかしい独特の魅力を持っていたが、小型のディットン15XRは以前のものより音がフレッシュになってきたし、新しい551は、従来のディットンとはかなり違って、レンジの広いシャープな音に仕上ってきている。

JBL 4343(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第10項・JBL4343の組合せ例(3)コントラストのくっきりした、やや個性の強い音に仕上げてみる」より

 4343というスピーカーは、何度も書いたようにとても多面的な性格を具えているが、しかし本質的に、いくらか硬質でコントラストの強い音、言いかえれば、楽器ひとつの音の輪郭をきわ立たせるような性格を持っている。そこをあまり目立たせないように鳴らせば、クラシック系の柔らかでエレガントな音が楽しめるが、前ページの例2は言わばその方向での鳴らしかたといえそうだ。
 それに対して、むしろコントラストの強さを強調してゆくと、こんどは逆に、どちらかといえばポップスやジャズなど、楽器編成の少ない、そしてリズム楽器系の多いような種類の音楽を、目の前で演奏しているのを楽しむ感じになってくる。この例3はその方向で生かした組合せ例といえる。
 ひとつのメーカーの製品でも、五年、十年という単位で眺めれば、音の鳴らし方がずいぶん変っているが、ある一時期には、ひとつの方向を煮つめてゆく。このところのトリオのアンプは、音の輪郭ひとつひとつをくっきりと照らし出すような、いわばメリハリを強めるような鳴り方をしていると、私には聴きとれる。
 輪郭をくっきりと描いてゆくとき、中味をしっかり埋めておかないと、弱々しいうわついた音になりやすいが、トリオの音、ことにここに例をあげた07マークIIとつくシリーズは、中味のたっぷりした、味わいの濃い、それだけにやや個性的な音を持っている。
 こういう音は、前述のように、ポップス系の音楽をおもしろく聴かせる。とくにこの07シリーズは、音の表情をとても生き生きと描出する点が特徴で、演奏者自身が音楽にのめり込み、エキサイトして演奏してゆく雰囲気がよく聴きとれる。最近のアンプの中でも、特性を向上したという製品の中に、妙によそよそしい無機的な音でしか鳴らないアンプがあるが、そういう音では、音楽を楽しく聴かせない。とうぜん、4343を生かすとはいえない。その点、トリオの音は音楽そのものをとても生き生きとよみがえらせる。
 レコードプレーヤーは、マイクロ精機のやや実験的な性格の製品で、駆動モーター部分とターンテーブル部分とがセパレートされていて、ターンテーブル外周に糸(またはベルト)をかけて廻す、というユニークな形。超重量級のターンテーブルに糸をかけて廻すというのは方式としては古いのだが、こんにちの、電子制御されたDDターンテーブルとはひと味違って、音の輪郭がくっきりと鮮やかになり、充実感のある豊かで余韻の美しい独特の音を聴かせる。
 こういう組合せを、カートリッジでどう仕上げるか。たとえば米ピカリングの、XUV4500Qなら、ほんらいアキュレイトサウンドを目ざしている4343を、かなりショッキングな感じで鳴らすことができる。同じピカリングでも、XSV3000にすればこの組合せ本来の目ざすポップスのヴァイタリティをよく生かす。しかしここに、たとえばオルトフォンSPUや、さらにはデンオンDL303を持ってくるにつれて、濃いコントラストな個性の強さが次第におさえられて、この組合せなりに自然な感じでクラシックを楽しむことができるようになる。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥580,000×2
コントロールアンプ:トリオ L-07CII ¥160,000
パワーアンプ:トリオ L-07MII ¥120,000×2
チューナー:トリオ L-07TII ¥130,000
ターンテーブル:マイクロ RX-5000+RY-5500 ¥430.000
トーンアーム:オーディオクラフト AC-3000MC ¥65,000
カートリッジ:ピカリング XUV/4500Q ¥53,000
カートリッジ:ピカリング XSV/3000 ¥40,000
カートリッジ:オルトフォン SPU-G/E ¥39,000
カートリッジ:デンオン DL-303 ¥45,000
計¥2,238,000(ピカリング XUV/4500Q使用)
計¥2,225,000(ピカリング XSV/3000使用)
計¥2,224,000(オルトフォン SPU-G/E使用)
計¥2,230,000(デンオン DL-303使用)

Speaker System (Designed type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第33項・市販品をタイプ別に分類しながら(6) デザインの美しさ、ユニークさを特徴とするスピーカーたち」より

 たとえばJBL4343のような、ほんらいは録音スタジオで使われることを目的として作られたスピーカーであっても、その〝WX〟モデルのように、高級材と云われるウォルナットの木目も美しい仕上げを施したものは、そのままどんな部屋に置いてもインテリアの雰囲気をこわすどころか十分に美しい。JBLのスピーカーは、これにかぎらずどれをとっても、音質ばかりでなくデザインや仕上げの美しいことで有名だ。JBLばかりではない。一流といわれる製品は、音質と共に外観もまた美しいのが通例だ。
 しかし、そういう例でなく、もっと積極的に、モダーンインテリアに、まだ逆にアンティーク調に、あるいは奇抜な形に、と、デザインにくふうを凝らしたスピーカーが、いくつかある。いくら形が美しくとも奇抜であっても、音質を犠牲にしてしまったようなものではここにとりあげる価値はない。形も仕上げも美しく、また意表をついていながら、その音質もまた、一聴に値する──。そういうスピーカーのいくつかをとりあげてみる。
          *
 JBLのパラゴン。ステレオの初期、もう20年あまり昔に作られたこの類のないユニークなスピーカーは、およそどんなインテリアの部屋に置いても、部屋ぜんたいの格調を高めるような、風格のある姿をしている。音量をどこまで絞っても、逆に部屋一杯にボリュウムを上げても、いまや数少ないオールホーン独特の、力強く緻密な音は少しのくずれもみせない。
 もしもシンプルでモダーンなデザインの部屋になら、イギリスの中型スピーカーの中から、ブースロイド・スチュアートのメリディアンM1、B&WのDM7、フェログラフS1、レクソンLB1およびSP1などを探し出すことができる。ゲイルのGS401Aは、クロームの光沢メッキに、黒いグリルクロスというコントラストの強いデザインだが、こういうスピーカーの似合う部屋があればおもしろいだろう。そしてこれらのイギリスのスピーカーは、それぞれに、繊細で雰囲気を豊かに再現するとても良い音質だ。なかでもメリディアンは、26項で説明したモニター用として使えるほどの、正確な音の再生できる素晴らしいスピーカーだ。音質の犠牲なしにデザインを美しくリファインした好例といえる。
 少し変わったところでは、ジョーダン・ワッツ(英)のフラゴンとキュービック。フラゴンは陶製の壺。キュービックはサイコロ型のエンクロージュアの横腹に陶製のタイルを貼りつけたもの。……というとまるでゲテものすれすれみたいだが、実物は意外に渋い仕上りで、使いようになってはとてもおもしろい。
 もうひとつ、これはいわゆるアンティーク調で、セレッションのデッドハム。虫喰いのあとまで作った手作りのエンクロージュアがユニークだこれほど凝ってはいないが、アメリカ・マランツのSL1や、前出(23項)のアルテックのマグニフィセントIIなども、どちらかといえばクラシック調だ。

KEF Model 105(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第16項・KEF105を生かす組合せ例」より

 JBL4343のところであげた8、9、10項の組合せ例が、このKEF105にもほとんどそっくりあてはまることをまず言っておいて、ここではそれ以外の組合せ例をもう少し追加してみる。それには二つの方向が考えられる。
 第一は、音の謹厳な分析者、という感じの、言いかえれば聴き手にさえ真面目な鑑賞者としての態度をとらせてしまうような厳格な鳴り方を、いくぶん和らげながら、できるかぎり音楽の表情を楽しく聴きとれるような方向に調整してゆくような組合せ。
 第二は、KEF105のどちらかといえばクールな、すっきりした音の味わいをそのまま生かしてゆく方向。
 第一の方向としては、できるだけ音のニュアンスの豊かな、そして105の持っている音を露わにしない上品さを損ねないような、アンプやカートリッジを選びたい。そこでアンプはオンキョーのP307とM507。カートリッジにはデンオンのDL303を組合わせる。チューナーが必要なら(オンキョーにはこのシリーズとデザインの合う製品がないので、色やサイズのよく似た)テクニクスの38Tを持ってくる。この38のシリーズは、38R、38Pと組合わせてロータリーアンテナを自動制御したり、留守録音の可能なテープデッキと組合わせれば一週間分の番組をプログラムできたりという、マイコン内蔵ならではの機能を発揮させることもできる。
 このまま、カートリッジにもっと味の濃いEMT(XSD15)や、オルトフォンSPU−GT/E(このカートリッジの使えるようにアームを調整することが必要──第三章74項参照)や、エラック(エレクトロアクースティック)STS455E、555Eを追加すると、いっそう幅広く楽しめる。
          ※
 第二の方向としては、ラックスが、〝ラボラトリーシリーズ〟の名で発売している一連のアンプを主体にしてみる。このアンプの開発の意図やその音質が、ある意味でKEF105の目ざす方向と一脈通じているからだ。プリアンプの5C50、トーンコントロールアンプの5F50、パワーアンプの5M21、それにFMチューナーの5T10。5F70は好みに応じて省略してもよいし、パワーアンプにモノーラル構成のB12を2台使うのもよい。チューナーはもっと複雑なシンセサイザー方式の5T50もある。そしてこれらのすべてが、同じ寸法のモジュールに作られていて、積み重ねたり、ラックマウントもできる。
           ※
 JBLの4343では、おもにアンプの部分でのローコスト化をはかる組合せ例をあげたが、それは4343が、非常に幅の広い能力を持っていて、スピーカーに比較して多少性能の見劣りするアンプでも、その能力をスピーカーのほうがカバーしてくれたからだ。しかしKEF105の場合には、原則として、アンプに上のような高級機を組合わせないと、その性能が十分に生かされない。アンプのグレイドの差を、このスピーカーはそのままさらけ出してしまうからだ。

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥185,000×2
コントロールアンプ:オンキョー P-307 ¥220,000
パワーアンプ:オンキョー M-507 ¥270,000
チューナー:テクニクス 38T ¥65,000
マイコムプログラムユニット:テクニクス 38P ¥80,000
プレーヤーシステム:デンオン DP-50F ¥98.000
カートリッジ:デンオン DL-303 ¥45,000
計¥1,148,000

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥185,000×2
コントロールアンプ:ラックス 5C50 ¥160,000
トーンコントロールアンプ:ラックス 5F70 ¥86,000
パワーアンプ:ラックス 5M21 ¥2400,000
チューナー:ラックス 5T10 ¥108,000
ターンテーブル:ラックス PD121 ¥135.000
トーンアーム:オーディオクラフト AC-3000MC ¥65,000
カートリッジ:オルトフォン MC30 ¥99,000
ヘッドアンプ:オルトフォン MCA76 ¥58,000
計¥1,321,000

KEF Model 105

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第15項・KEF105 イギリスを代表するアキュレイトサウンド」より

 前項、前々項で例にあげたスペンドールのBCIIよりは、もっと厳格にアキュレイトサウンドを目指したイギリスのスピーカーとして、KEFの105をあげることができる。KEFのこのシリーズは、ほかにもっと小型、ローコストの103、ブックシェルフ型の標準的サイズの104aBの二機種があり、105とあわせて〝リファレンスシリーズ〟と名付けられている。リファレンス(引き合いに出すというような意味、つまりこんにちの水準の中でのひとつの尺度として使えるほどの性能、ということをあらわしている)と名づけるほどの自信作で、実際、このシリーズは、こんにち最尖端の精度の高い測定技術によって、スピーカーとしては最も高い水準の特性データを示す。そういう客観的な手段で分析しても、このスピーカーは最もアキュレイトな(正確な)再生をすると、KEFは自慢する。事実、KEF105をベストコンディションで鳴らしたとき、レコードの録音のとりかたのディテールまで明らかに聴きとれるし、したがって、ソロ・ヴォーカルの録音の良いレコードをかけると、前後左右にひろげて置いたスピーカーのちょうど中央──つまり何もない壁のところ──に、独唱者がこちらを向いて立っているかのような現実感をさえ、このスピーカーは聴き手に感じさせる。
 だがそれでいて、たとえば前述のJBL4343がときとして聴かせるショッキングなまでの生々しい、ときには鋭くさえ思える音、あるいは後述のウーレイ(UREI)の朗々をとどこまでも伸びていく輝かしい響き、などのアメリカの音にくらべると、どんなに生々しくリアルな音を鳴らしてみてもやはりどこかイギリス流の、音をむき出しにしない、そしてどこかほんのわずかな翳りを感じさせるような、いわゆる渋い肌ざわりの音で鳴る。同じように音の正確(アキュレイト)な再現を目ざしてさえ、聴けば聴くほど、アメリカとイギリスの違いが、どんなスピーカーの音にもあらわれていることが少しずつわかってくると、その点がまたとてもおもしろくなってくる。そして、自分の求める音の方向とそういうニュアンスが、完全に合わなくては結局満足がゆかないことに気づいてくる。もっともそういう私自身、自分の好みをいまだにどちらともきめかねて、つねに身近に、アメリカ型とイギリス型の、二つのタイプの音を置いて楽しんでいるのだけれど……。
 ともかくKEF105はそういうスピーカーだ。そしてもうひとつ、たとえばBCIIと比較すると、こちらのほうが、音の厳格な分析者(アナリスト)という印象になる。BCIIの音が全体にたっぷりした響きをともなうのに対して、KEF105は、むしろそうした余分の音をスピーカー自体でつけ加えるようなことがなく、あくまで客観的に、冷静に、レコードに録音された音は、ほら、こうなんだよ、と言っている感じで鳴る。
 このスピーカーは、ネットをはずすと、中〜高音のユニットが、聴き手に対して最適の方向に角度を調整できるようになっている。スイッチを切り替えて、赤いインジケーターをみながら調整する。言いかえればこのスピーカーは、ステレオ音像が焦点を結ぶ一点に、聴き手が正しく坐って聴くことを要求する。その意味でも、とても厳格な音の分析者だろう。

スペンドール BCII(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第14項・スペンドールBCIIの組合せ例(その2)」より

 イギリス・スペンドールのBCIIは、13項の組合せ例が暗示しているように、本質的に、スケールの大きな音ではなく、どちらかといえば音量もほどほどにおさえて、まさにコンサートホールで(とくにクラシックのようにPA装置──マイクロフォン──を使わない)音楽を鑑賞する感じ、というひとつの枠の中で楽しむスピーカーといえる。
 けれど、このスピーカーは、もう少し出力の大きい高級アンプで鳴らせば、こういうサイズの、こういう価格(これは輸入品だから、イギリス本国での価格は、日本での定価の半値以下という、ほんとうにささやかなスピーカーなのだ)にしては、意外とも思える堂々としたスケールの大きさを楽しむこともできるし、ホールいっぱいに響き渡るオーケストラのフォルティシモの感じに近い音量が出せなくもない。
 まずアキュフェーズのE303。これはいわゆるプリメイン型のアンプだが、この種のモデルの中では最も高級なグループで、出力も130ワット(×2)と十分すぎるほどだが、その出力が必要なのではない。そのことよりも、このアンプのとても透明で美しく、繊細でありながら底力のある音質が、スペンドールBCIIの艶やかな音色をよく助けて、全体として素晴らしい音に仕上げる点に注目したい。
 またこのアンプは、出力の低いムーヴィングタイル(MC)型のカートリッジも十分に生かせるだけのヘッドアンプを内蔵しているので、せっかくのその性能を生かして、カートリッジには、デンマーク、オルトフォン製のMC10を組合わせる。オルトフォンのこの〝MC〟のつくシリーズには、MC10、MC20、MC30と三種類がある。MC20の音は最も中庸を得てバランスがよいが、いくぶん真面目すぎて、スペンドールBCIIの聴き手を心からくつろがせるようなたっぷりした響きがおさえぎみの傾向になる。その点が好みに合えば、むろんMC20もよい。しかしそれよりももう少し表情の生き生きした(反面メリハリがきついが)MC10のほうが、この場合はおもしろいと思って、あえてこちらにした。もし予算がゆるすなら、最高級機のMC30(おそろしく高価だが)ならいっそう良いことは当然なのだが……。
          ※
 もうひとつ別の組合せとして、ラックスのLX38という、こんにちではもはや例外的な存在になってしまった真空管式のアンプで鳴らすのもまた、BCIIの別の面を抽き出すためにおもしろい。ことに弦の合奏や声楽での音の滑らかさ、そしてオーケストラのトゥッティでの、最新のトランジスタータイプのような音の隅々まで見通せるような感じのするほどの細やかな音とは反対に、全体をこんもりと包み込むような鳴り方。このアンプはMCカートリッジ用のヘッドアンプを内蔵していないが、組合せのバランスを考えると、カートリッジはMM型のエラック(エレクトロアクースティック)STS555Eがなかなか良い。

スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:アキュフェーズ E-303 ¥245,000
チューナー:アキュフェーズ T-103 ¥150,000
プレーヤーシステム:ビクター QL-A7 ¥85.000
カートリッジ:オルトフォン MC10 ¥25,000
計¥735,000

スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:ラックス LX38 ¥198,000
プレーヤーシステム:トリオ KP-7700 ¥80.000
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS555E ¥35,900
計¥543,900

アルテック A7-X

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第23項・アルテック アメリカでしか作ることのできない華麗な音の饗宴」より

 ロードショー専門の大型映画劇場で、私たちを堪能させるような音の饗宴──それはたいていの場合、アルテックの大型スピーカーの再生するサウンドだと思って間違いない。アルテックを象徴する〝ザ・ヴォイス・オブ・ザ・シアター〟のシールを横腹に貼ったA5およびA7Xシステムの鳴らす堂々とそして朗々たる華麗な音。アルテックをのぞいてほかに思いあたらないスペクタクルなサウンド。これもまた、スピーカーだけが創りうる音の魅力のひとつの極だろう。
 ハリウッドに象徴されるアメリカの映画産業の大型化とともに発達してきたトーキー用スピーカーをその基本にしているだけに、アルテックの能力を生かすことのできるのは、できるだけ広い空間だ。というよりも、たとえばホールや大会議室や講演会場といわれるような広い空間で、音楽を楽しむことのできるスピーカーを選べといわれたら、アルテックを措いて他には、私には考えられない。そういう広い空間を音で満たしながら、どこまでもクリアーで、少しもいじけたところのない伸び伸びとした、そうして、ときに思わず手に汗を握るほどのスペクタクルな、またショッキングな迫力。そういう音を再生してびくともしないタフネスなパワー。
 アルテックのヴォイス・オブ・ザ・シアターのシリーズは、このように、ほんらい、広い空間でおおぜいの聴衆のために練り上げられてきたスピーカーであることを十分に認めた上で、しかしあえて、それをごくふつうの家庭のリスニングルームに収めて、レコードやFMの再生に、アルテックならではの、ことに人の声の音域に中心を置いた暖かい、充実感のある、それでいてクリアーな音の魅力を何とか抽き出してみよう……。こんなことを考えるのは、しかすると日本のオーディオファンだけなのだろうか。いや、アメリカにも、アルテックのサウンドにしびれているファンはおおぜいいる。けれど、たとえばA7Xを、八畳や十畳というような狭い空間(アルテック本来の望ましい空間からみれば)に押し込めてなお、クラシックの室内楽をさえ、びっくりするほどおとなしい音で鳴らしているファンを、私もまた何人か知っている。
 とはいうものの、アルテックならではの音の肉づきの良さ、たっぷりと中味の詰った印象の充実感、は、たとえば50年代のモダンジャズにも、またそれとは全く別の世界だがたとえば艶歌の再生にも、また独特の魅力を発揮させうる。私個人は、アルテックの鳴らす音の世界には、音の微妙な陰影の表現が欠けていて少しばかり楽天的に聴きとれるが、それでも、アルテックが極上のコンディションで鳴っているときの音の良さには思わず聴き惚れることがある。
 A5は、低音・高音のユニットをA7Xより強力にしたモデル。そしてマグニフィセントIIは、A7Xを家具調のエンクロージュアに収めたモデル。この三機種とも、最近になって改良が加えられて、以前の同型にくらべると、とくに高音域での音域が拡張されて音の鮮度が増している。

スピーカーシステム:アルテック A7-X ¥325,000×2
コントロールアンプ:マッキントッシュ C27 ¥346,000
パワーアンプ:マッキントッシュMC2205 ¥668,000
ターンテーブル:デンオン DP-80 ¥95.000
トーンアーム:デンオン DA-401 ¥35,000
キャビネット:デンオン DK-300 ¥55,000
カートリッジ:スタントン 881S ¥62,000
計¥1,911,000

Speaker System (indirect sound)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第6項・さらにもうひとつの音のタイプ 間接音型スピーカー」より

 ここまでにあげたすべてのスピーカーが、その鳴らす音の味わい違いはあっても、すべて、スピーカーからの音をそのまま直接聴くという点で共通している。これに対して、スピーカーから出た音の全部あるいは一部を、周囲の壁にぶつけて一旦反射させて、いわゆる間接音、反射音として聴かせるタイプのスピーカーがある。
 照明を例にとっても、直接光に対して間接照明は光がやわらかく、まんべんなく廻ることでわかるように、音もまた、一旦反射させて聴くと、鋭さがやわらげられると同時に、部屋ぜんたいに音がひろがって、場合によっては、どこから音が鳴ってくるか、音源の位置がわからなくなるような聴かせかたもできる。
 しかし照明の場合、第一に光を反射する壁面の反射率によって反射光の割合が変り、また第二に、反射光の色あいが壁面の色彩に支配される。これは音の場合も同様で、スピーカーの音が一旦壁にぶつかって反射してくると、壁面の音響的な色彩が、反射音の強さや音色に大きく影響を及ぼす。つまり間接音型のスピーカーは、たしかに音がやわらげられるが、反面、その部屋の構造や壁面の材質、工法などによって再生音が大きく影響を受ける。
 この理屈からとうぜんの結果として、反射型(間接音型)のスピーカーは、厳密な意味でのアキュレイトサウンドの範疇には入らないことがわかる。
 けれど、アメリカのBOSE社では、このことを計算に置いて、いろいろなタイプの部屋の壁面から反射音の色づけを補整するような、可変式のイクォライザー(音質補整器)を併用することを前提として、直接音型のスピーカーでは得られにくい一般家庭でのコンサートプレゼンス(コンサート会場で体験できるあの音のひろがり、音全体に身体が包まれるような効果)を再現する唯一のスピーカー、というふれこみで、独特のスピーカーを作っている。つまりBOSE社のスピーカーは、間接音型でありながら、その目ざすところはアキュレイトサウンドだという点で、いささか特異な存在だ。
          *
 これに対して、スウェーデンのソナーブや、イギリスのリン・ソンデック〝アイソバリック〟や、アメリカのアリソン、日本のビクター(GB1H)などが、ほんらいの間接音型として、数少ないがそれぞれにユニークな存在だ。
 また、これらと直接音型の中間的存在として、直接音を主体としながら、スピーカーの背面にも一部の音を出して、結果的に背面からの反射音をわずかに加えようという製品として、アメリカ・エレクトロボイスのインターフェイス・シリーズや、同じくアメリカのESSがあげられる。イギリスQUADのESLは、そういう効果をねらった製品ではないが、背面を広くあけて設置するようにという指定があって、結果的に部屋の反射音を無視できない構造だし、アメリカ・ビバリッジの大型スピーカーは、直接音と間接音の中間的な性格の音を聴くという独特の製品だ。

Speaker System (spectacle sound)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第5項・スペクタルサウンド クリエイティヴサウンドのもうひとつのタイプ」より

 スピーカーの鳴らす音の快さは、柔らかく耳あたりの良い音ばかりとは限らない。反対に、ナマの楽器ではとうてい出しえない大きな音量やスケールの大きな響き、部屋いっぱいに満ちあふれるような堂々とした迫力、といった、いわばスペクタクルな音もまた、スピーカーの鳴らすひとつの世界といえる。この種の音は、やはり、アメリカのスピーカー、それも、映画の都ハリウッドが、トーキーの発達とともに育てあげたいわゆるシアターサウンドにとどめを刺す。
 シアターサウンドといえば,はやり第一にアルテックの〝ザ・ヴォイス・オブ・ザ・シアター〟シリーズのA5やA7(こんにちではA7X)、ないしは、それを家庭用のデザインにアレンジした〝マグニフィセント〟などが代表製品としてあげられる。
 その本来の目的から、映画劇場のスクリーンのうしろに設置されて、広い劇場のすみずみまで、世紀の美男美女の恋のささやきから、雷鳴、大砲のとどろき、駅馬車の大群、滝の轟音……およそあらゆる音を、しかもかなりの音量で鳴らし分けなくてはならないのだから、家庭用スピーカーの快い音や、モニターのための正確な音とは、まったく別の作り方をしてある。とうぜん、一般家庭用のリスニングルームに持ち込まれることなど、メーカーの側では考えてもみないことだったに違いない。
 だが、朝に和食、昼に中華、夕にフランス料理を楽しむ日本人の感覚は、シアタースピーカーの音を家庭でも受け入れてしまう。4項であげたイギリス・ヴァイタヴォックスの〝バイトーン・メイジャー〟も、本来はシアター用スピーカーだ。ヴァイタヴォックスには、さらに大型の──というよりマンモス級の巨大な──BASS BINというスピーカーもある。むろんアルテックにもこの種の超弩級がある。このクラスになると、大きさの点だけでももう一般家庭には入りきれないが、バイトーン・メイジャーやA5、A7クラスを、ごくふつうの部屋に収めている愛好家は少なくない。JBLのプロ用スピーカーの中の〝PAシリーズ〟にも、この種の製品がいくつかある。
 これらのスピーカーは、言うまでもなく本来はスペクタクルサウンドのための製品だが、しかしおもしろいことに、日本のオーディオ愛好家でこの種のスピーカーを家庭に持ち込んで楽しむ人たち多くは、決してスペクタクルな音を求めてそうしているのではなく、逆にそういう性格をできるかぎりおさえ込んで、いわば大型エンジンを絞って使うと同じように、底力を秘めた音のゆとりを楽しんでいるという例が多い。
 けれど念を押すまでもなく、この種のスピーカーは、もっと広いスペースで、大きな音量で、まさにスペクタクルな音を轟々ととどろかせるときに、本来の性能が十分に発揮される。そしてこういう音を聴く快感は、まさにスピーカーの世界そのものだ。そしてそのためには、できるだけ広い空間、しかもその空間を満たす音量が周囲に迷惑をおよぼすことのないような遮音の対策が、ぜひとも必要だ。そういう意味でこの種のスピーカーは決して一般的なものとはいえない。ただここでは、スピーカーの鳴らす音の世界にそういう一面もあるという説明のために例をあげたにすきない。

ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第22項・同じイギリスのヴァイタボックス ディットンよりもいっそう確固たる世界」より

 ヴァイタボックスというメーカーを、最近のイギリスの若い世代はもはや知らないとさえ、いわれる。実際、この〝クリプッシュホーン〟の名で呼ばれるCN191という大型スピーカーは、こんにち、その製品のほとんどが、日本からの注文で作り続けられている。いまから十年近く前、もはや製造中止の噂の流れていたこのスピーカーを、日本のある愛好家が注文で取り寄せた一組がきっかけを作って、その独特の魅力が口伝えのように広まって、いまなお注文してから一年近く待たされるという状態が続いているといわれる。
 たしかにこのスピーカーは、エンクロージュアの製作におそろしく手間がかかって、しかもこんにちヴァイタボックス社でこのエンクロージュアはたったひとりの職人が手作業で作っているといわれているから、数があがらないのも無理はない。待たされてしびれを切らして、形だけ似せた国産エンクロージュアを購入した人に、私は強くすすめてオリジナルに替えさせた。その人は「あわててひどい廻り道をしました」と、同じ形のエンクロージュアがまるで別のメーカーのように音質を変えてしまうことにびっくりしていた。この製品に限ったことでなくあらゆるスピーカーに共通の大切な話だが、エンクロージュアはスピーカーユニットを収容する容器なのではなく、ピアノの胴体のように音質を決める重要な一部なのだから、名器と呼ばれるスピーカーを、形だけ同じな別メーカー製のエンクロージュアに収めることを、私は原則としておすすめしない。もっとも、そうすることが一概に悪い結果ばかり招くわけではないから、自信のある方が何をなさろうと私の知るところではないが
 ところがこの〝クリプッシュ式コーナーホーン〟は、その名のように、部屋の隅(コーナー)、それも、スピーカーの背面を囲む二つの壁面と床面との三つの面が、強く叩いても少しも共振しないような堅固な材料と工法で作られていることを原則とする。それはこのエンクロージュアが、右のような条件のコーナーに背面をぴたりとつけて設置しなくては、完全な動作をしないように作られているからだ。いくら見た目は「壁面」でも、ふすま・障子は極端にしても、厚さ15ミリ程度以下の薄い板貼りの壁や、ガラス面、○○ボードなどと呼ばれる新建材の類であっては、CN191はおよそまともな音を聴かせない。薄い壁、共振する壁、音を逃がしてしまう壁、では、CN191の重厚な低音に支えられた緻密で豊潤で艶やかな響きの美しさは、その片鱗をさえ聴かせないばかりか、壁の共振・逆共振で、ひどく汚い、ときに肥大した、あるいはやせこけて骨ばるばかりで美しさも魅力もない、ひどい音を鳴らして聴き手をがっかりさせる。
 もうひとつ、二台一組のスピーカーの隅が音響的に同条件であること。つまり建築上シンメトリーの構造であること。そして、二台のスピーカーの置かれる壁面は少なくとも4・5メートル、できれば5メートル以上あって、左右の広がりが十分とれること。またそれにみあうだけの天井の高さ。
 およそこれくらい部屋の音響条件に支配されるスピーカーはない。このスピーカーにとって、部屋はまさにエンクロージュアの一部なのだから。

スピーカーシステム:ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn ¥940,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-240 ¥395,000
パワーアンプ:ルボックス A740 ¥538,000
ターンテーブル:トーレンス TD126MKIIIBC ¥150.000
トーンアーム:SME 3009/SeriesIII ¥74,000
カートリッジ:オルトフォン MC30 ¥99,000
計¥3,133,000

JBL 4343(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第9項・JBL4343の組合せ例(2)全体にエレガントな雰囲気を持たせる」より

 例1の組合せは、一歩ふみ外すと非常にきわどい音を鳴らすおそれもある、いわば研究機、実験機のおもむきが強い。また、メカをいじることの好きな、そしてある程度、オーディオの技術(ハード)面での知識のある人でないと、使いこなせないところがある。
 それに対して、この第二の例は、基本的には正確な音の再生という4343の性格を生かしながら、すべてにこなれた、安定度の高いパーツを配して、メカっぽい雰囲気でなく、むしろエレガントなといいたい感じを、見た目ばかりでなく音質の面にも求めている。
 アンプ、チューナーのアキュフェーズは、日本ではむしろ数少ない本当の高級機専門のメーカーで、会社としての歴史はまだ六年ほどだが、社長以下、設計・製造にたずさわる人たちは、この分野での経験が深い。このメーカーはそしてめったにモデルチェンジをしない。ここで組合せ例にあげた製品群は、この会社の第二回目の新製品なのだから、製品の寿命の長さはたいへんなものだ。そして、この新しい一連の高級機は、どれをとっても、音質が素晴らしくよくこなれていて、きわどい音を全く出さない。音の透明度がみごとで、粗野なところは少しもなく、よく磨き上げられたような、上質の滑らかな音が楽しめる。そして、どんな種類の音楽に対しても、ディテールの鮮明でしかもバランスの良い、聴き手が思わず良い気分になってしまうような美しい音を聴かせる。
 レコードプレーヤーは、ほんの少々大げさな印象がなくはないが、エクスクルーシヴのP3。重量級のターンテーブルと、動作の安定なオイルダンプアームの組合せだが、自動式ではない。それなのにひどく高価なのは、音質をどこまでも追求した結果なのだから、この価格、大きさ、重さ──とくにガラス製の蓋の上げ下げの重いこと──は、まあ我慢しなくてはなるまい。
 カートリッジはデンマーク・オルトフォンのSPU−G/E型と、西独EMTのXSD15の二個を、好みに応じて使い分ける。オルトフォンの中味のいっぱい詰ったような実体感のある音。それに対してEMTの音の隈取りのくっきりしたシャープな音。この二つがあれば、なま半可な新製品には当分目移りしないで澄む。
 こういう雰囲気を持たせながら、アンプとプレーヤーをもう一ランクずつ落とすこともできるので、それを例中に示す。
 アンプ、チューナーは同じアキュフェーズの、それぞれランク下のシリーズ。レコードプレーヤーは、ラックスのアームレスプレーヤーに、オーディオクラフトのオイルダンプアームの組合せ。カートリッジは全く同じ。ただ、両者を含めて、デンオンの新製品DL303を加えると、これは今日の新しい傾向の、やわらかく自然な音を楽しめる。
 アキュフェーズのパワーアンプは、どちらもパネル面の切替スイッチで、Aクラス動作に切替えられる。出力はP400で50ワット、P260で30ワットと、共に小さくなるが、極端な音量を望まないときは(発熱が増加するので注意が要るが)音質が向上する。チューナーのT104は、リモート選局ボタンが附属していて便利である。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥580,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-240 ¥350,000
パワーアンプ:アキュフェーズ P-400 ¥400,000
チューナー:アキュフェーズ T-104 ¥250,000
プレーヤーシステム:パイオニア Exclusive P3 ¥530.000
カートリッジ:オルトフォン SPU-G/E ¥39,000
カートリッジ:EMT XSD15 ¥70,000
計¥2,774,000(オルトフォン SPU-G/E使用)
計¥2,805,000(EMT XSD15使用)

ランク下の組合せ
スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥580,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-230 ¥170,000
パワーアンプ:アキュフェーズ P-260 ¥200,000
チューナー:アキュフェーズ T-103 ¥150,000
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:オーディオクラフト AC-3000MC ¥65,000
カートリッジ:オルトフォン SPU-G/E ¥39,000
カートリッジ:EMT XSD15 ¥70,000

Speaker System (creative sound)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第4項・快い音スピーカー クリエイティヴサウンドのひとつの型(タイプ)」より

 前項で例にあげたスペンドールのBCIIは、すべての音を概してやわらかく、豊かな響きを感じさせて鳴らすという点で、たとえばJBLの♯4343(レコードの音をそのまま裸にするようにありのまま聴かせる)の対極といえるような性格を持っているが、そのスペンドールをもっと徹底させてゆくと、たとえば同じイギリスのセレッションの、DITTON(ディットン)26や66などの音になってゆく。このBCIIとDITTONの境界線はとても微妙だが、しかしDITTONの音になると、客観的な意味での〝正確な(アキュレイト)〟再現というよりは、スピーカー独特の音の魅力ないしはスピーカーの音の色あいをかなり意識して、音を〝創って〟いる部分がある。もう少し別の言い方をすると、古くからレコードを聴いていた中年以上の人たちが、むかし馴染んでいたいわゆる電気蓄音器の音質は、ナマの楽器の音にはほど遠かったが、反面、ナマとは違う〝電蓄〟ならではの一種の味わいがあった。そうしたいわゆる上質のグラモフォン(蓄音器)の持つ味わいを伝統としてふまえた上で、快い響きで聴き手をくつろがせるような音を、こんにちなお作り続けているがセレッションのDITTON25や66だといえる。だから、上質の蓄音器(グラモフォン)の音を知らない人がいきなり聴いたら、DITTON25や66の音には、どこか違和感を感じるかもしれない。けれどこれはまぎれもなく、ヨーロッパの伝統的なレコード音楽の歴史をふまえた、ひとつ正統派の〝クリエイティヴサウンド〟なのだ。
 この延長線上にさらに、同じくイギリスの旧いメーカー、ヴァイタヴォックス(VITAVOX)社の、CN191〝クリプシュホーンシステム〟や、その弟分の〝バイトーン・メイジャー〟の音がある。前記セレッションの異色作デッドハム(DEDHAM)などもその範疇に入れてよいだろう。
          *
 これらの製品群は、こんにち新しい音の流れの中ではもはや少数派に属していて、右にあげた例の中でも一部のものは、製造中止になるのも時間の問題、などとさえ言われているが、しかし、こうした、スピーカーならではのレコード独特の世界の音、というものを、単純にしりぞけることは私はしたくない。
 正確(アキュレイト)な音のスピーカーは、プログラムソースからアンプまでを最上のコンディションに整備したとき、再生音とは思えないリアリティに富んだ音で聴き手を満足させるが、反面、古い時代の名演奏のコレクションをいまでも好んで聴く愛好家にとっては、新しい、クールな再生音のモニター系のスピーカーは、録音のアラをそっくり再現してしまったり、旧い録音の独特の味わいが聴きとれなかったりして、不満をおぼえるにちがいない。また、新しい録音を聴くときでも、ことさらアラを出さず、常に悠然と聴き手を包みこむような暖かく快い鳴り方をするこの種のスピーカー(イギリス人は、かつてハイフィデリティに対応させてこういう音をグッドリプロダクション=快い音の再生、と名づけた)を、いちどは聴いてみる値打ちがある。

JBL 4343(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第8項・JBL4343の組合せ例(1)あくまでも生々しい、一種凄みを感じさせる音をどこまで抽き出せるか」より

 この第一の例は、ある意味では、録音スタジオなどでプレイバックされる音以上に、生々しい、レコードの録音によっては思わずゾクッと身ぶるいするほどの、一種凄みのある音を鳴らす可能性を秘めている。
 まずレコードプレーヤー。レコードの溝に刻み込まれた音を、細大洩らさず拾い出すという点で、西独EMTのプロ用のプレーヤーデッキ以上の製品を、私はいまのところ知らない。EMTのプロ用には、安いほうから順に、♯928、♯930、♯950の三機種があるが、最新型でDDモーターを搭載した♯950のモダーンな操作性の良さと新鮮な音質の良さを、この組合せに生かしたい。このほかに旧型の♯927Dstが特注で入手可能といわれる。927の音質の良さはまた格別なので、どうしてもというかたは、大きさを含めて950よりもやや扱いにくい点を承知の上で、927にしてもよい。いずれにしても、EMTのプレーヤーで一度でもレコードを聴けば、あのビニールの円盤の中に、よくもこんなに物凄い音が入っているものだと驚かされる。EMTで聴いたレコードを、ほかのプレーヤーに載せてみると、いままで聴こえていた音から何かひどく減ってしまったような印象さえ受ける。
 そのぐらい細かな音をプレーヤーが拾ってくるのだから、アンプリファイアーもまた、アメリカのマーク・レビンソンのような製品が必要になる。楽器の音そのものばかりでなく、その周辺に漂う雰囲気までも聴かせてくれる感じのするアンプは、そうザラにない。EMT→マーク・レビンソン→JBL4343、という組合せは、レコードというものの限界が、およそふつう考えられているような狭い世界のものではないことを聴かせてくれる。
 ただひとつ、マーク・レビンソンのパワーアンプ(ML2L)は、出力がわずか25ワットと小さい。むろん、ローコスト機の25ワットとくらべれば、信じられないような底力を持ってはいるものの、やや広い部屋(たとえば12畳以上)で、とくにピアノのような楽器を眼前に聴くような音量を求めようとすると、少々パワー不足になる。その場合は、音の透明感がわずかに損なわれるが、出力本位のML3のほうにすればよい。また、プリアンプは、トーンコントロールその他のこまかな調整機能のついていないML6にすると、いっそう自然な、素晴らしい音になる。ただしこれはモノーラル用なので、二台重ねて使う。入力セレクターとボリュウムも、二個のツマミをいっしょに動かさなくてはならないという不便さだが、音質本位にしようとするとこうなるのだ、とレビンソンは言う。ここまでくると、かなりマニアの色が濃くなってくるから、誰にでもおすすめするわけにはゆかないが。
 EMTの出力は、プリアンプのAUX(LNP2Lの場合)またはLINE(ML6の場合)に接続する。

セレッション Ditton 66, Ditton 25

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第21項・イギリス・セレッションのディットン ちょっと古めかしい、だが独特の暖かさに満ちた音の魅力」より

 前項までのさまざまな「正確(アキュレイト)」な再生のためのスピーカーの鳴らす音を、仮に写真のような正確さ、だとすれば、それに対する写実主義ないしは初期の印象主義の絵のように、現実をそっくりそのまま再現する音に対して、そこに創作者の美意識という濾過器(フィルター)を通して美しく、整えて聴かせる音、を目ざしたスピーカーがある。それを私は2項で、アキュレイトサウンドに対する「クリエイティヴサウンド」と仮に名づけた。創作(クリエイト)するといってもそれは事実を歪めるのでなく、どこまでもナマの音楽の持っている本質に即しながら、それをいっそう快く、いっそう美しく鳴らすという意味である。
 楽器のナマの音が常に美しく快いとは限らない。また、それを録音し再生するプロセスでも、ちょっとしたかすかな雑音、レコードに避けることのできないホコリやキズ、など、それをどこまでも忠実に正確に再生することは、ときとして聴き手の神経をいら立たせる。したがって、音や音楽の鑑賞のためには、どこまでも正確な音の再現を目ざすよりも、美しく描かれた写実絵画、あるいは薄い紗幕をかけてアラをかくして美しく仕上げた写真、のように、音楽の美しい画を抽出して、聴き手に快い気分を与えるほうがよいのではないか──。
 こういう考えは、実は英国人の発想で、彼らはそれをアキュレイトサウンドに対してコンフォタブルサウンド、またはハイフィデリティ・リプロダクション(忠実な音の再生)に対して、グッド・リプロダクション(快い、良い音の再生)というふうに呼ぶ。
          ※
 そういう考え方をはっきりと打ち出したイギリス人の作るスピーカーの中でも、セレッションという老舗のメーカーの、〝ディットン〟と名づけられたシリーズ、中でも66と25という、ややタテ長のいわゆるトールボーイ型(背高のっぽの意味)のスピーカーは、同じイギリスのスピーカーでも、15項のKEF105などと比較すると、KEFが隅々までピンとのよく合った写真のように、クールな響きを聴かせるのに対して、ディットンは暖色を基調にして美しく描かれた写実画、という印象で音を聴かせる。厳密な意味での正確さとは違うが、しかし、この暖かさに満ちた音の魅力にはふしぎな説得力がある。ことに声の再生の暖かさは格別で、オペラや声楽はもむろん、ポピュラーから歌謡曲に至るまで声の楽しさが満喫できる。別に音楽の枠を限定することはない。家庭で音楽を日常楽しむのには、こういう音のほうがほんとうではないかとさえ、思わせる。
 こまかいことをいえば、同じディットンでも、66よりも25のほうがいっそう、そうした色あいの濃い音がする。創られた音。しかし、ある日たしかにそういう音を聴いたことがあるような懐かしい印象。その意味でやや古めかしいといえるものの、こういう音の世界もまた、スピーカーの鳴らすひとつの魅力にちがいない。

スピーカーシステム:セレッション Ditton66 ¥198,000×2
プリメインアンプ:トリオ KA-9900 ¥200,000
チューナー:トリオ KT-9900 ¥200,000
プレーヤーシステム:トリオ KP-7700 ¥80.000
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS455E ¥29,900
計¥905,900

スピーカーシステム:セレッション Ditton25 ¥128,000×2
プリメインアンプ:ラックス LX38 ¥198,000
プレーヤーシステム:ラックス PD121 ¥135.000
プレーヤーシステム:オーディオクラフト AC-3000MC ¥65.000
カートリッジ:ゴールドリング G900SE Mark2 ¥38,000
計¥692,000

ダイヤトーン 2S-305(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第20項・ダイヤトーン2S305 栄光の超ロングセラー」より

 アルテックの604シリーズ(17項UREI参照)というスピーカーが、アメリカを代表するかつてのモニタースピーカーだったとすれば、日本で、NHKをはじめ各放送局や録音スタジオ等、プロフェッショナルの現場で、いまでも主力のモニターとして活躍しているのが、三菱電機・ダイヤトーン2S305だ。このスピーカーの古いことといったら、何と昭和三十一年に最初の形が作られて以来、ほとんどそのまま、こんにちまでの約二十年以上、第一線で働きつづけているという、日本はおろか世界で珍しい超ロングセラーの長寿命スピーカーなのだ。ただし、放送規格(BTS)での型番はBTS・R305。またNHK収めの型番をAS3001という。数年前からNHKでは、改良型のAS3002のほうに切替えられているが、一般用としての2S305は最初の形のまま、しかも相変らず需要に応えて作り続けられている。モデルチェンジの激しい日本のオーディオ界で、これは全く驚異的なできごとだ。
 2S305は、スタジオでのモニター仕様のため、原則として、数十センチの高さの頑丈なスタンドに載せるのが最適特性を得る方法だと指定されている。が、個人の家で、床に直接置いて良い音を聴いている例も知っている。部屋の特性に応じて、原則や定石にこだわらずに、大胆に置き方を変えて試聴してきめるのが最適だ。そしてもちろんこの方法は、ダイヤトーンに限らずあらゆるスピーカーに試みるべきだ。スピーカーの置き方ばかりは、実際その部屋に収めて聴いてみるなり測定してみるなりしないうちは、全く何ともいえない。原則と正反対の置き方をしたほうが音が良いということは、スピーカーに関するかぎり稀ではない。
          ※
 ところで2S305は、さすがに開発年代の古い製品であるだけに、こんにちの耳で聴くと、高域の伸びは必ずしも十分とはいえないし、中音域に、たとえばピアノの打鍵音など、ことさらにコンコンという感じの強調される印象もあって、最近のモニタースピーカーのような、鮮鋭かつ繊細、そしてダイナミックな音は期待しにくい。けれど、総合的なまとまりのよさ、そして、音のスケール感、いろいろの点で、その後のダイヤトーンのスピーカーの中に、部分的にはこれを凌駕しても総合的なまとまりや魅力という点で、2S305を明らかに超えた製品が、私には拾い出しにくい。いまだに2S305というのは、そういう意味もある。
 スピーカーとはおもしろいもので、基本があまり変化していないものだから、古いと思っていたスピーカーでも、新しいアンプや新しいレコードで鳴らしてみると、意外に新しい音が出てびっくりすることもある。そういう見地から組合せを考えてみると、できるかぎり新しいパーツ類、しかも、かなりグレイドの高いパーツでまとめるのが、結局最良のように思う。またこれはマニア向けのヒントだが、ここにパイオニアのリポンやテクニクスのリーフのような、スーパートゥイーターを加えると、2S305は、またかなりフレッシュな音を聴かせる。

スピーカーシステム:ダイヤトーン 2S-305 ¥250,000×2
プリメインアンプ:マランツ Pm-8 ¥250,000
チューナー:マランツ St-8 ¥135,000
プレーヤーシステム:ダイヤトーン DP-EC1MKII ¥128.000
カートリッジ:デンオン DL-103D ¥35,000
計¥1,048,000

スペンドール BCII(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第13項・スペンドールBCIIというスピーカー 組合せを例にとって(その1)」より

 できるだけ正確な音を再生する、いわゆるアキュレイトサウンドの中にも、演奏者がすぐ目の前に立っているような、感じで音を聴かせるスピーカーと、良いホールのほどよい席で音楽を鑑賞する感じのスピーカーとがあることを3項で説明した。
 ごく大まかな分け方をすれば、アメリカのスピーカーには、楽器が目の前で鳴る感じで音を再生するタイプが比較的多い。これに対して、イギリスのスピーカーは、概して、コンサートプレゼンスという言葉で説明される、上質のコンサートホールのほどよい席で楽しむ感じで音を聴かせる。そういう感じを説明するのに最適のスピーカーのひとつが、ここでとりあげるスペンドールのBCIIというスピーカーだ。3項でもすでに書いたことのくりかえしになるが、目の前で演奏される感じか、コンサートホールで聴く感じか、という問題は、レコードの録音をとる段階ですでに決められてしまうのだが、しかし仮に、非常に生々しく録音されたレコードをかけたときでも、このBCIIというスピーカーで再生すると、スピーカーの向う側にあたかも広い空間が展開したかのようなイメージで、やわらかくひろがる、たっぷりした響きを聴かせる。
 だからといって、このスピーカーがプログラムソースの音を〝変形〟してしまうのかというとそうではない。レコードの録音のとりかたの相対的なちがい──眼前で鳴る生々しい感じか、コンサートホールの響きをともなった録音か──は十分に聴き分けられる。けれど、このスピーカーなどは、厳密な意味では、正確な音の再生と快い音の再生との中間に位置する、いわばクリエイティヴサウンドとアキュレイトサウンドの中間的性格、といえないこともない。
 ところでこのスペンドールというのは、イギリスの、非常に小規模のメーカーだが、自社のスピーカーを鳴らすためのアンプも生産している。型番をD40といい、写真でみるように、音量調整(ボリュウム)のツマミと、電源スイッチを兼ねたバランス調整、それにプログラムセレクターの三つのツマミしかついていない。出力も40ワット(×2)と、こんにちの水準からみて決して大きくない。
 けれど、BCIIというスピーカーが、もともと楽器を目の前で演奏するような感じを求めているわけではないから、家庭でレコードを観賞するためには、この出力は十分すぎるほどだ。そのことよりこのアンプは、BCIIの持っている音の性格をとてもよく生かして、決してスケールは大きくないが、とても魅力的な音を聴かせてくれる。これはまさに、大げさなことを嫌うイギリス人好みの端的にあらわれた組合せだから、レコードプレーヤーもまた、西独DUAL(デュアル)のCS721という、小柄なオートマチックを選んでみた。カートリッジは同じ西独のエラック(エレクトロアクースティック)STS455E。このカートリッジは、BCIIの音ととてもよく合う。

スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:スペンドール D40 ¥165,000
プレーヤーシステム:デュアル CS-721 ¥99.800
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS455E ¥29,900
計¥524,700

テクニクス SB-8000

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第19項・リニアフェイズを流行らせた元祖 テクニクスの最新型SB8000」より

 日本を代表するスピーカー、というと、ヤマハNS1000Mと並んでもうひとつ、テクニクスのSB7000、通称テクニクス・セブンをあげなくてはならないだろう。まるで雛壇のように並んだ独特のスピーカーユニットの配列は、テクニクスの主張するリニアフェイズの理論によって、低・中・高の三つに分れた音源の位相(この用語の意味は、ここでは説明しない)を、いかによく揃えるか、という観点から生まれた形である。この考え方自体は決してテクニクスだけの独創ではないにしても、スピーカーの位相を明確に解明し、具体的な製品で示したのはごく早い時期であり、その後、前述のKEF105など、ヨーロッパ各国のスピーカーにもこの考えにもとづいた製品が各種出現している。
 SB7000は、これまでのブックシェルフとかフロアータイプという分類にはちょっと入りきらない独特の形で、またその音質を生かすためにも、多くの場合、リスニングルームの床上に直接置いたのでは、低音がこもったり過剰になったりしてぐあいがよくない。部屋の音響特性によってケースバイケースだが、十数センチないし四十センチ以上までの、頑丈な台に乗せて、聴いてみて最もバランスの良い高さを選ぶ必要がある。背面や側面も周囲の壁から適度に(五十センチ以上)離し、周囲に何も置かず広くあける必要がある点は、前述のヤマハや、すでに出たスペンドールやKEFその他、この種のアキュレイトサウンド系のスピーカーに共通の注意事項だ。
 ところで、ごく最近発表されたこの上のクラスのSB8000は、7000にくらべて音がはるかに緻密でしかもみずみずしい。価格の差以上に音のグレイドは向上している。低音が引締まっているので、7000ほど高い台を必要とせず、部屋の音響特性によっては何も台に乗せずにそのまま床の上に置いても大丈夫だ。元祖という点ではSB7000だが、その完成度という点ではむしろSB8000のほうが(もちろん、この間に5年以上の歳月が流れているのだから当然とはいえ)格段に優れていると思う。したがって、これから購入するのであればSB8000のほうがおすすめできる。
 ヤマハにもテクニクスにも共通にいえることは、概して国産のスピーカーは、音の味つけを極度に嫌うために、その組合せも、アンプやカートリッジに、できるだけ音の素直で、むしろ味の薄い製品を持ってこないとむずかしい。
 アンプには、同じテクニクスの、ごく新しいプリメイン、V10をあげよう。とくにこのパワーアンプ部は、ニュークラスAと称する新しい回路で、とても透明感のある美しい音質だ。チューナー、プレーヤー、カートリッジとも、同じテクニクスで揃える。
 さて、ここから先はかなりオーディオマニア向けの話だが、プリメインアンプV10は、パワーアンプ部分の性能が非常に良いので、これを流用して、プリアンプだけ単体のもっとグレイドの高いものを追加すると、さらにいっそう音のグレイドが上がる。たとえばオンキョーP307、ヤマハC2a、アキュフェーズC230などがその一例。

スピーカーシステム:テクニクス SB-8000 ¥150,000×2
プリメインアンプ:テクニクス SU-V10 ¥198,000
チューナー:テクニクス ST-8077T ¥45,800
プレーヤーシステム:テクニクス SL-1400MK2 ¥95.000
カートリッジ:テクニクス 100C MK2 ¥65,000
計¥703,800

JBL 4343(部屋について)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第12項・JBL4343にはどんなリスニングルームが必要か どういう環境条件が最低限必要か」より

 JBL4343をもとに、四通りの組合せを作ってみた。それぞれの関連説明からすでに想像のつくように、ひとつのスピーカーをもとにしても、組合せの答えはひとつに限らない。そのスピーカーの、どういう面を、どう生かすか、という設問に応じて、組合せは、極端にいえば無限と言えるほどの答えがある。もしも私以外の人が組合せを作れば、私の思いもつかない答えだって出てくるだろう。組合せとはそういうものだ。
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 このように再生装置が一式揃ったところで、もっと切実な問題が出てくる。それは、この装置を設置し、鳴らすための部屋──いわゆるリスニングルーム──の条件、という問題だ。4343ほどのスピーカーになれば、よほどきちんとした、広い、できることなら音響的にもある程度配慮された、専用のリスニングルームが必要……なのだろうか。
 そういう部屋が確保できるなら、それにこしたことはない。そういう、専用のリスニングルームのありかた、考え方については別項でくわしく述べるが、ここでまずひとつの結論を書けば、たとえJBL4343だからといって、なにも特別な部屋が必要なのではない。たとえ六畳でもいい。実際、私自身もほんの少し前まで、この4343を(厳密にいえば4343の前身4341)、八畳弱ほどのスペースで聴いていた。
 繰り返して言うが、専用の(できれば広い、音の良い)部屋があるにこしたことはない。しかし、スピーカーを鳴らすのに、次に示す最低条件が確保できれば、意外に狭いスペースでも、音楽は十分に楽しめる。
 その必要条件とは──
㈰ 左右のスピーカーを、約2・5ないし3メートルの間隔にひろげてスピーカーの中心から中心まで)設置できるだけの、部屋の四方の壁面のうちどこか一方の壁面を確保する。できれば壁面の幅に対してシンメトリーにスピーカーが置けること。
㈪ 左右のスピーカーの間隔を一辺として正三角形を描き、その頂点に聴き手の坐る場所を確保する。ここが最適のリスニングポジション。必ず左右から等距離であること。
 部屋が十分に広く、音響的な条件の整っている場合は別として、必ずしも広くない部屋で、もしもできるかぎり良い音を聴きたいと考えたら、まず最低限度、右の二つの条件──スピーカーの最適設置場所と聴き手の最良の位置──を確保することが必要だ。そしてこの条件は、最低限度四畳半で確保できる。六畳ならまあまあ。八畳ならもう十分。むろんそれ以上なら言うことはない。
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 つけ加えるまでもないことだが、部屋の音響的な処理──とくに、内外の音を遮断して、外部からの騒音に邪魔されず、また自分の楽しんでいる音で外に迷惑をかけないためのいわゆる遮音対策や、音質を向上させるための室内の音の反射・吸音の処理──については、条件の許すかぎりの対策が必要だ。そのことについてくわしくは、「ステレオサウンド」本誌に連載中の〝私のリスニングルーム〟を参照されたい。

ヤマハ NS-100M

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 オーソドックスなブックシェルフ型スピーカーシステムであるNS1000に対して、そのエンクロージュア仕上げを、ブラックのモニター仕上げとしたNS1000Mは、業務用機器的な性格が強い製品としては、国内初のブックシェルフ型システムであり、その性能と音質の優れていることでは発売以来高い評価を保ち、いわば日本を代表するブックシェルフ型システムである。このNS1000Mでスタートを切ったMシリーズには、その後ブックシェルフ型システムとミニスピーカーシステムの中間的な外形寸法を採用したNS10Mが発売され、外形寸法、価格帯ともに従来にないコンセプトによるものとして性能、音質をも含めて注目され、新しい需要を換起して、ここに新しいマーケットを築き、その後各社から同様な製品が続いて開発される契機を作った。
 今回発売されたNS100Mは、Mシリーズの第3弾製品で、外形寸法的にはNS10Mよりワンサイズ大きいが、製品としての性格は、NS1000Mに近く、小型サイズの外形寸法のなかに高度な性能、音質を凝縮して作られた、いわば高密度設計の小型ブックシェルフ型システムである。
 ユニット構成は、20cmウーファーにソフトドーム型のスコーカーとトゥイーターを組み合わせた3ウェイ型である。
 ウーファーは、外国産の針葉樹系材料を旧来の和紙系統の技術を加味して独自のシート製法により作られた白いコーンに特長があり、4種類の粘弾性体を塗布したロールエッジ、大型ダンパーと直径5・2cmのクラフト紙ボビンに銅平角線を巻いたボイスコイルが組み合わされ、磁気回路は、110φ−60φ−15tの大型フェライト磁石とセンターポールに銅キャップを装着した低歪磁気回路を使っている。
 スコーカーとトゥイーターは、NS690以来の伝統をもつエッジ一体成形のソフトドーム型で、繊維には7種類のコーティング材を混合して、表と蓑の両面から50μ厚で塗布し、熟圧成型で仕上げ振動板とし、スコーカー、トウイーターともに同上塗布剤を使用している特長がある。
 スコーカーは、口径5・5cmで100φ−50φ−15tのフェライト磁石を使う大型磁気回路と、空気穴のついたガラス繊維を素材としたFRPシートボビンに銅平角線ボイスコイル使用で、f0は400Hz。
 トゥイーターは、口径3cmで、鋼クラッドアルミ線をエッジワイズ巻としたボイスコイルは振動板直付けで、70φ−32φ−15tのフェライト磁石採用である。
 エンクロージュアは、三方流れ留め組み採用の完全密閉型。ネットワークは、低歪設計の音質重視型で中音高音レベル調整付。
 NS100Mは、スムーズな周波数帯域と各ユニットの調和のとれた音色に特長がある。音場空間は十分に拡がり、定位は明確で声のナチュラルさは見事である。

ヤマハ NS-1000M(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第18項・こんにちの日本を代表するヤマハのNS1000M」より

 この辺でそろそろ、わが日本のスピーカーについて研究してみる。私自身は国産のスピーカー全般をあまり高く評価しないものだから、日本のメーカーやオーディオ界から、舶来主義者みたいに言われているが、しかしアンプ類は十二分に評価しているし、事実、国際市場でも、日本のアンプやその他のパーツは高く評価されながら、スピーカーだけは、いまひとつ良く言われないということは、周知の事実なのだ。
 そうした中で、ヤマハのNS1000M(モニター)は、スウェーデンの放送局でモニター用として正式に採用されるなど、いわば国際的な市民権を獲得した国産最初のスピーカーと言ってよい。またわが国でも、発売後すでに5年を経てなお、人気がおとろえないという実績が、スピーカーの良さを裏づける。このスピーカーは,とくに一〜二年以上ていねいに鳴らしているうちに、次第に音がこなれて滑らかさを増してきて、いっそう評価が高くなるということもロングセラーの秘密のひとつかもしれない。
 難をいえば、黒の半艶のいささか素気ない塗装に、金網をかぶった低・中・高音の三つのユニットのむき出しの、機能本位といえば体裁がいいがいささか挑発的ともいえるデザイン。ただ、それを嫌う人のためには、MのつかないNS1000という、渋いデザインの製品もあることをつけ加えておく。音質はわずかに異なり、M型よりも少々おっとりしている。
 いずれにしてもNS1000(M)は、大別するとアキュレイトサウンドのグループに入れることができる。そして、いままでに例にあげた中では、KEFやスペンドールよりもJBLの鮮烈な鳴り方のほうに近い。したがって、コンサートプレゼンスよりは楽器を眼前にリアルに展開するタイプ。
 ブックシェルフ型、といってもやや大ぶりだし、重量もかなりあるから、本棚等に収めるわけにゆかないし、その性能を生かすためにも、周囲にあまりものを置かず、周辺を広くあけて、三十センチ前後のしっかりしたスタンドに乗せ、タテ位置で使うのが標準的な鳴らしかただ。その点はスペンドールなどの置きかたと共通点がある。
 音量は相当に──楽器のナマの音量程度までも──上げることが可能だが、かなり鳴らし込んだ後でないと、少々やかましい感じがなくなりにくい。
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 さて、NS1000Mう生かす組合せだが、なぜかこのスピーカーは、味の濃い音のアンプやカートリッジを拒む傾向があって、どちらかといえばサラッとした感じの素直な音で統一したほうがいいらしい。で、いろいろやってみると、アンプ(チューナー)は、同じヤマハがやはりよく合う。ほかにというなら、ラックスかテクニクスの系統だろう。また、カートリッジはここ数年来、ヤマハ自身が、アンプ、スピーカーの音ぎめに、シュアーをひとつの標準に採用しているので、やはりV15タイプIVはひとつあげておく。やや高価な組合せと、スピーカーの能力を生かすに必要最低のラインと、ふたとおり示しておく。

スピーカーシステム:ヤマハ NS-1000M ¥108,000×2
コントロールアンプ:ヤマハ C-2a ¥170,000
パワーアンプ:ヤマハ B-3 ¥200,000
チューナー:ヤマハ T-2 ¥130,000
プレーヤーシステム:ヤマハ YP-D10 ¥128.000
カートリッジ:シュアー V15 TypeIV ¥39,800
計¥883,800

スピーカーシステム:ヤマハ NS-1000M ¥108,000×2
プリメインアンプ:ヤマハ CA-2000 ¥158,000
チューナー:ヤマハ T-1 ¥60,000
ターンテーブル:ラックス PD-441 ¥125.000
トーンアーム:SME 3009/SeriesIII ¥74,000
カートリッジ:スタントン 881S ¥62,000
計¥695,000

KEF Model 103

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 いかにも英国の代表的スピーカーの音という感じの、輪郭の明快なサウンドが得られる2ウェイシステムだ。私の感覚ではちょっと小骨っぽいという印象だがそれだけ芯がしっかりしているともいえるわけで、むだなたるみのないすっきりとした端正な音が聴かれる。英国のオーケストラのサウンドにも共通するものといえる。

セレッション UL6

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 先ほどの分類からすれば後者に当る。本格的ホーンシステムの小型版のような音をもっている。ユニークな設計がなされたもので、音にもたつきがない。

ビクター S-W300

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 30cmウーファーと38cmドロンコーンを使ったスーパーウーファーで、別売のアクティブフィルターとの併用により豊かな超低域再生が可能なものだ。

アルテック Mantaray Horn + 817A System

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 大容積のホールなどで鳴らすべきシステムである。いかにもアルテックらしい本当の意味でのパブリックアドレスシステムといえよう。