井上卓也
ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)
特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より
試聴用にプログラムソースが、アナログディスクのときには、一般的に、音の姿、形にポイントをおき、主に、バランスを重視した評価基準をベースとする聴き方がお
こなわれてきたようだが、プログラムソースが圧倒的に情報量が多く、ワウ・フラッターやクロストークなどの音場感情報を損なう要素がなくなるCDになると、アナログ的な聴き方では通用しなくなるのは当然のことであろう。
CDが実用化された当初は、デジタル信号を再生するCDプレーヤーは、各機器間に音質や音色の差は生じないといわれたこともあって、2チャンネルステレオの基本であるステレオフォニックな音場感情報を注意した試聴リポートが増加してきた様子である。
音の婆、形を重視する、音質や音色の変化を聴く試聴方法は、古くは、SPレコードの時代から継承されてきたもので、ステレオLPになってからも、基本的に表現が変わらなかったことが、むしろ、不自然といえる。CDの圧倒的な情報量をもつ音になって、ようやく、ステレオ本来のベーシックな部分に注意されるようになったのは、むしろ皮肉ともいうべき事実である。
●JBL4344での試聴について
今回のパワーアンプ単体の試聴での採点基準、あるいは試聴ポイントを書けとの編集部の要求であるが、とくにCDをプログラムソースとしたために、試聴のポイントが変わるはずはない。基本は、かつてのテープサウンドで基準としたように、2チャンネルステレオとしての音場感に音像定位をベースとして帯域バランス、音色、表現力、聴感上でのノイズの質と量などをポイントとして、今回もチェックをしている。
もともと筆者は、音の姿や形を偏重した試聴はあまり行わないが、この最大の原因として、いわゆる、使いこなしの僅かなテクニックやノウハウで、サウンドバランスや音色などは、かなり自由にコントロールできるからである。かつては、スピーカーシステムは使い方が難しいといわれ、セッティング上での変化に注意が払われるのが当然であったが、残念ながら最近では、あまり問題にされていないようである。
最近のように、プログラムソース側もCDに代表されるように、かつてのアナログ時代のマスターレコーダーに勝る基本特性の高さを持ち、情報量が増加してくると、僅かの使い方の違いでアンプやCDプレーヤーの音質や音色が変化し、場合によれば、この差が試聴機器以上にもなり、誤認の要因にもなりかねず注意が必要だ。
今回の試聴でも、聴感条件を明確にして特定の要素が混入することを回避してはいるが、試聴室の環境的変化を含め、ある程度の特定のキャラクターが加わらざるを得ないのは、仕方がないことである。
試聴アンプは、数時間以上、電源スイッチを入れた状態としておき、それにCDプレーヤーからの信号を入れ、負荷抵抗を各アンプに接統してのエージングを一定時間行い、試聴時にはスピーカーから不等間隔の位置に置いたウッドブロック上に置き、独立したACコンセントから電源を取る方法を採用して、条件を等しくしている。
しかし、信号ケーブル系には当然のこと固有のキャラクターが存在しており、とくにスピーカーケーブルはパワーを伝送するだけに、問題を生じやすい部分だ。今回使ったスピーカーケーブルは、つねにリファレンス的に使っているケーブルではなく、モンスターケーブルが使われたが、JBL4344とのマッチングでは、ちょっと聴きには、中域が柔らかくなり、刺激的になりやすい中高域から高域にかけてスムーズで、しなやかな音になる傾向をもつが、中高域に潜在的に独特のツヤめいたものがあり、バランス的に低域の質感が軟調になり気味で、高域でのディフィニッションも少し損なわれる印象である。キャラクター的にみれば、4343あたりで効果的なイメージで、4344には軟調傾向で、音色が暗く、活気のない音になりやすいタイプである。
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これ以外に重視したのは、試聴用に使ったCDプレーヤーの入出力での位相問題と、CDディスクそのものの同じく位相関係である。ここでの位相というのは、左右チャンネル間の位相ではなく、アナログディスクでいえば、MCカートリッジで左右チャンネルの±を反対に接続したときや、スピーカーでは同様に、左右チャンネルともに、アンプの+をスピーカー-に、アンプの-をスピーカーの+に接続することに対応すべきもので、音場感情報に直接関係をする部分だ。ちなみに、カートリッジではEMT、シュアー、デッカが反転型(逆位相)であり、スピーカーでは数少なく、JBLがその特異な例といえよう。
この点では、最新技術の成果であるはずのCDプレーヤーでも、カートリッジと同様に、正相型と反転型が混在し、ディスク側も両者があるため、ともに、+と-があり、結果として両者の組合せで、++、+-、-+、--が考えられ、トータルでは+と-ができるということになる。
その例として、今回の試聴に使ったソニーCDP553ESD単体と、これにD/AコンバーターDAS703ESを加えると、位相が反転する。ディスクの例では、オーディオ協会のテスト用のCDの第一作が逆相、第二回のものが、正相という不思議なことが、現実として存在するようだ。
試聴用CDの選択にはこのあたりも含み、事前に試聴をして選択している。
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次に、パワーアンプ単体試聴と従来のコントロールアンプと組み合わせた試聴との違いについてであるが、原則として、コントロールアンプのキャラクターによるカラーレーションがないため、コントロールアンプとのペアを重視したアンプでは、場合によっては特定のキャラクターが出ることが予想されるが、他機種間、他社モデルとの組合せも当然考えられるセパレート型アンプでは、単体使用と自社コントロールアンプとの組合せ使用で大きな差が出ること自体が問題である。
パワーアンプ単体使用では、いわゆるバッファーアンプ的に効くコントロールアンプがないために、キャラクターがあればよりダイレクトに音になり、いわゆる音づくりを施したアンプは少しキツイ条件になると思われる。
コントロールアンプを使わずに試聴となると、何らかの音量調整が必要になる。数種の外付けタイプのフェーダーとD/Aコンバーターの可変出力ボリュウム使用時との比較試聴をして、今回はカウンターポイントSA121stを選んだが、ボリュウムの位置により高域のディフィニッションが変化し、音場感を少しスピーカーの奥に移動させ、低域から中域の質感が軟調になるが、現状では不可避なことである。少なくともベストではないにせよ、試聴室にあるフェーダーの中ではこれしかないといったところである。
試聴アンプは価格帯により4ブロックに分類してあるが、基本的には価格が安いブロックでは当然パワーも少なく、試聴条件の影響を少し受けたようで、このあたりをクリアーして個々のアンプからいい音が出だしたのは、第2ブロックの終わりあたりからと考えていただきたい。よく、オーディオ質は量に優先しがちと考えられやすいが、現実は、量が優先し、量は質と考えたほうが、むしろ妥当であろう。
●スピーカーとの相性テストについて
第2段試聴は、4機種のスピーカーを選択して、使いこなしをも含めたアンプの反応を試みようというものだ。スピーカーの選択は、最終的には別項通りの決定となったが、私の場合には、国内製品のブックシェルフ型からフロアー型までを使うことを原則としている。各スピーカー毎に、置き場所、スピーカーのスタンドの調整、スピーカーコードの選択を平均的なレベルでおこない、一般的な使われ方と同等程度にコントロールをしている。
基本的には、音場感にポイントをおいた使いこなしで、いわゆるエッジの効いたメリハリ型の方向ではなく、SN比が高く、ディスクに録音してある暗騒音がナチュラルに聴こえるタイプのチューンである。
単体のパワーアンプ試聴での印象は、とにかくバラエティ豊かな音が聴かれ、大変に楽しかったことだ。変化があればそれを選択する楽しさがあることになる。残念なことは、聴感上でのSN比が予想以上に改善されておらず、伸び伸びとした見通しのよいプレゼンスを聴かせる製品が少なかったことである。CDプレーヤー側での聴感上でのSN比の改善と高周波の不要輻射もいずれクリアーされるだろうから、パワーアンプのダイレクト使用は一段と条件がシビアになりそうである。
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