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ボルダー 2010, 2020

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 米ボルダーのアンプは、ハリウッドのスタジオ用パワーアンプで定評を築いたことを機会に、独自のユニット形式を採用したプリアンプを開発してきた。年月が経過するにしたがい、次第にコンシューマー・ユースの傾向が強くなり、サウンド傾向も変ってきた。当初の独特な、おおらかで健康的な豊かなアメリカをイメージさせる余裕たっぷりの音から、音のディテールの再現能力が向上し、音の細部のニュアンスをほどよく引き出すハイファイ的になり、その音楽性の豊かさが、独特の魅力として磨き上げられてきたようだ。
 ところが今年、予想を越えて超ハイエンドオーディオの世界にチャレンジした、新2000シリーズのプリアンプ2010とD/Aコンバーター2020が発売された。そのあまりにセンセーショナルな登場ぶりには、いささか戸惑う印象があったことは否めない事実である。
 新2000シリーズの2モデルは、ひじょうに剛性感が高い筐体構造を基盤に、主要部分はプラグイン方式を採用することで、発展改良やプログラムソースの変化に対応しようとする構想が興味深い。
 電源を独立分離型とする主要筐体は、高さが低く横幅と奥行が十分にある扁平なシャーシがベースで、前面に厚いパネル状の表示部と操作部がある。その後ろ側には左右2分割された角型のブロックが設けられている。その背面は開いており、この部分に入出力端子を備えたプラグイン・ブロックが挿入される。
 プリアンプ2010では、ベース・シャーシは操作系、マイコンなどの電源が収納され、D/Aコンバーター2020では入力系のインターフェイス切換え系、表示系、電源が組み込まれている。
 左右2分割のプラグイン・ブロック部は、プリアンプでは左右チャンネルが完全に独立したラインアンプ用、D/Aコンバーターも同様な設計思想を受継いで左右独立した20ビット、8fsのDACが、5個並列使用されている。サンプリング周波数は、32/44・1/48kHz対応、アナログフィルターは、ボルダー方式3段の6ポール・ベッセル型フィルター採用、出力電圧は、4Vが定格値だ。
 独立電源部は、プリアンプとD/Aコンバーター共用設計となっている。左チャンネル傳下、右チャンネル電源と表示系/制御系電源が各独立電源トランスから供給される。なお、左右チャンネル用は、それぞれ独立した出力端子から本体のプラグイン・ブロックパネルに直接給電され、表示系、制御系電源は、ベース・シャーシに給電される。こうした点からも、各電源間の相互干渉を徹底して排除する設計が感じとれる。
 筐体構造は厚みがたっぷりとある銅板で、たいへんリジッドに作られている。重量で防振効果を得ようとする設計で、相当に音圧を上げた再生条件でもビクともしない剛性感は見事なものだ。なお、本体、電源部ともに底板部分には入念にコントロールされた脚部があり、床を伝う振動の遮断効果は非常に高い。
 機能面はプリアンプでは、0・1、0・5、1dBの可変ピッチで−100dBまで絞れるリモコン対応音量調整、可変レベルミュート、左右バランス調整、表示部の8段階照度切換えの他、多彩なプログラムモードを備えている。D/Aコンバーターで最も興味深い点は、左右チャンネルの位相を制御して任意の聴取位置でもステレオフォニックな最適バランスが得られることで、部屋の条件補整用としても効果的だ。2010プリアンプ、2020DACともにビシッとフラットかつ広帯域に伸びた周波数レンジと、力強い音の輪郭をクリアーにくっきりと聴かせる。エネルギッシュでひじょうに引き締まった音で、従来モデルとは隔絶した、まさに異次元世界そのものの厳しく見事な音である。とくに、DACでは、圧倒的に情報量が多く、音の陰の音をサラッと聴かせる能力は物凄く鮮烈で、いたく驚かされる。

エソテリック DD-10

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 エソテリックの新製品DD10は、ディジタルジッター・アブソーバーもしくは、ディジタル・コントロールセンターの名称が与えられるであろう、従来にない機能をもったユニークなモデルだ。
 基本的には、音質に直接影響を与えるジッターを除去する働きをもち、D/A変換器でないことが特徴である。
 機能の中心となるものは、D30にすでに採用されている独自のDSRL(ディジタル・サーボレシオ・ロックド・ループ)で、100分の1までジッター低減効果があるとされている。
 入力系は、同軸、平衡、TOS、STと合計8系統。出力系は同軸、平衡、TOS、STの4系統を備え、+6dBから−42dBまでの利得制御、つまりディジタル音量調整機能があり、これがディジタル・コントロールセンターと呼ばれる最大のポイントであろう。
 有効ビット数20ビットで、動作型式48kHzと44・1kHz(DSRL)とPLLの3段階に、切替え可能。さらにDSRL時の補間がWIDE、NARROWの2段階、出力のまるめかたが、20ビットで下位ビット四捨五入、18ビットで下位2ビットのインバンド・ノイズシェイピング、16ビットで下位4ビットインバンド・ノイズシェイピングの3段切替えなどが選択可能である。
 各切替えスイッチの選択により、帯域バランス、音場感、音色、微小レベルの再生能力などが、かなり変化を示す。その組合せはひじょうに多く、かなり入念にマトリクス的に整理して音をチェックしないと、混乱を招くおそれがなきにしもあらず、という印象が強い。
 一体型CDプレーヤーをベースに、単体D/Aコンバーターを組み合わせて2種のアナログ出力の音を楽しむ使い方が行なわれているが、さらにDD10を加え、音のディテールの再生能力向上に挑戦することも面白いだろう。豊富な入出力系と音質調整を使い、パワーアンプ直接駆動も可能だ。組合せ機器が高度なほど、その効果度が高くなる点に要注意。

オルトフォン SPU Meister Silver GE

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 オルトフォンといえば、まずSPUを想像しないオーディオファイルはいないであろう。
 ステレオLPが登場した翌年の’59年にステレオ・ピックアップの頭文字をモデルナンバーとして開発されたこのカートリッジは、正方形の鉄心に井桁状にコイルを巻いた発電系と、この巻枠の中心に完全な振動系支点を設け、ゴムダンパーと金属線で支持系とする構造である。これは現在においても、いわゆるオルトフォン型として数多くのカートリッジメーカーに採用されているように、ステレオMC型の究極の発電機構といっても過言ではない。オーディオの歴史に残る素晴らしい大発明であろう。
 以後、37年を経過した現在のディジタル・プログラムソース時代になっても、SPUの王座はいささかの揺るぎもなく、初期のSPUを現在聴いても、その音は歳月を超えて実に素晴らしいものなのである。
 現在に至るSPUの歴史は、その後SPUなるモデルナンバーが付けられた各種の製品が続々と開発されたため、オルトフォン・ファンにとっても確実にモデルナンバーと、その音を整理して認識している人は、さほど多くないであろう。
 今回発表されたSPUの新製品、マイスター・シルヴァーは、SPUの開発者ロバート・グッドマンセンが在籍50年の表彰と、デンマーク王国文化功労賞の受賞を機に原点に戻り、SPUを超えるSPUとして開発した’92年のマイスターをさらに超える、SPUの究極モデルとして作られた製品である。
 最大のポイントは、同和鉱業・中央研究所が世界で初めて開発した純度99・9999%以上の超高純度銀線をコイルに採用したことで、オルトフォンとしては昨年のMCローマンに次ぐ超高純度銀線採用のモデルだ。ちなみに銀というと、JISの2種銀地金で99・95%、1種で主に感光材料に使用する銀で99・99%であり、銅線ではタフピッチ銅と同程度の純度しかない、とのことだ。
 コイル線以外にも磁気回路、振動系は全面的に見直され、1・5Ωで0・32mVという高効率を得ている。
 R・グッドマンセンが、「これこそ我が生涯最高のSPUと躊躇なく言える」と自ら語った、と云われるマイスター・シルヴァーは、SPUの雰囲気を残しながら前人未到のMC型の音を実感させられる絶妙な音である。

ウエスギ UTY-14

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 管球アンプメーカーとして最高の品質管理を誇り、安定度、信頼度がひじょうに高い上杉研究所から、好感度なフルレンジスピーカー駆動用の6CA7/EL34UL接続シングル動作のステレオパワーアンプ、UTY14が新開発された。本機はステレオサウンド社発行の管球王国Vol.2に製作記事が発表され、予想を超えた大きな反響があったもの。シャーシは100台が頒布された。それがさらに話題を呼び、今回完成品として限定生産されたのが本機。
 回路構成は簡潔で、12AX7の半分と6CA7の2段構成で少量のオーバーホールのNFがかけられている。音質面で最高と言われるシングル動作は、出力トランスの直流磁化が不可避で低域再生能力が問題となる。しかし、小出力アンプでは優れた出力トランスを使うことで、容易にクリアー可能な範囲のものだ。本機の出力トランスは、挿入損失が少なく活き活きとした表現力、音楽の生々しさに重点をおいたタムラ製作所との共同開発品。コアボリュウムがたっぷりとした、余裕のあるタイプが採用されている。
 機能としては、入力に2系統の入力切換えと音量調整をもち、プリメイン型として使える設計。SN比が高いためにマルチアンプシステムでの中域以上で、とくに高能率ホーン型につなげるなら、真空管アンプならではの音の魅力が発揮できよう。
 筐体は対称型デザインだが、左右ケース内には片側に2個の出力トランス、逆側に電源トランス、チョークコイルが組み込まれており、整流はダイオードによる。なお、使用真空管は、管球アンプ全盛期に米GEで製造された高級品である。
 B&W801S3は、本機に不適なスピーカーではあるが必要にして十分なパワー感があり、過度なクリップ感がない点がフォローしている。みずみずしく、ほどよくクリアーで力もあり、素直な音は心安まる印象だ。

JBL 4344MkII

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 JBLの超ロングセラーを誇るプロフェッショナルモニターの4344が、同社最新の技術が投入された新ユニットを採用し、4344MkIIとして発売された。
 基本的に、ホーン型とコーン型を組み合わせた2ウェイ構成システムをプロフェッショナルモニターとして開発するJBLのラインナップのなかで、4344のような4ウェイ構成のシステムは例外的な存在のようだ。かつては38cm口径ダブルウーファー仕様の4350/4355、46cmウーファー採用の4345も存在はしたが、現在残っている4ウェイ構成のモデルは、この4344MkIIのみである。
 4344の系譜は、プロフェッショナルモニター・シリーズの初期の4341に始まり、ユニット構成はそのままにエンクロージュアを大型化した名作4343が第2世代の製品である。本機は、ハイエンドオーディオのリファレンススピーカーとして最高の評価が与えられ、これほど数多くの愛用者を獲得したスピーカーシステムはないといっても過言ではない。内容の濃い製品であった。
 この4343の後継機として’82年に登場したモデルが4344で、それ以後、すでに14年の歳月が経過したことになる。
 4ウェイ構成のシステムは、ユニットが多いだけに、そのシステムプランにはほぼ無限の組合せが存在することになるが、平均的には3ウェイ構成のシステムをベースに、最低域を加えたサブウーファー型や、その逆に最高域を加えたスーパートゥイーター型の構想が多く採用されている。とくにプログラムソース──SPからLP、LPからステレオLP、そしてCD、さらには現在のようにハイサンプリングDATやDVDなど──の進化に伴って、高域再生周波数が改善されるようになると、その高域を再生可能とするために、高域レスポンスに優れたユニットを従来のシステムに追加するという、システムプランが考えられるようである。
 4ウェイ構成は、100Hz〜10kHzを2ウェイ構成でカバーし、それに最低域と最高域を加えるシステムプランが理想的だが、指向周波数特性、歪率などを考えると、予想外にその実現はむずかしいものがある。
 JBLの4ウェイ構成は、基本的には低域と中域のクロスオーバー周波数を、比較的近い周波数に設定可能な大口径を採用し、その高域にドライバーユニットとホーンを組み合わせたユニットを使い、これにスーパートゥイーターを加える、といったシステムプランによるものだ。
 したがって、中域(結果としては中低域になる)にはコーン型が採用されており、かつての38cm口径ダブルウーファー仕様の4350/4355では30cmユニットが、38cm口径シングル仕様の4341/4343/4344では25cmユニットが、伝統的に用いられている。
 ちなみに、同様な構想になるシステムのウェストレイクBBSM15(これは3ウェイ構成だが)では、低域が38cm口径のダブルウーファー仕様、中域が25cmコーン型、高域がトム・ヒドレーホーン採用のドライバーユニットで、すべてJBLユニットで構成されている。これに、スーパートゥイーターを加えれば4ウェイ構成となるが、エネルギーバランス的には、中域(中低域)を30cm口径ユニットにサイズアップしなければならないだろう、というのがスピーカーの面白いところである。
 最新の4344MkIIは、前作の開発以来14年を経ているだけに、外観上印象や外形寸法こそ前作を受け継いではいるが、その内容は完全に基本からの新設計によるもので、前作を受け継ぐのは高域の2405Hだけといってもよいほどの全面的な改良が施されている。
 バッフル面のユニットレイアウトの基本はほぼ同一で、JBLのいうミラーイメージ構成によるものだが、低域用のバスレフ円筒型ポートの位置が、4343のように再び左右に振り分けられ、上下方向の位置も低域と中低域ユニットの間になった。この変更に伴って、ウーファー取付け用金具MA15が、前作の4個から5個に増加している。
 中高域ユニットのスラント型ディフューザーは、型名の2308に変更はないようだが、フィンが11枚から12枚となり、取付け方法もマジッククロスから、ディフューザーに取り付けられた4個のダボをエンクロージュアのキャッチで受けるタイプに変更された。これにより、使用中に脱落することはなくなったが、注意しながら脱着しないとダボが破損しやすいようである。また、ディフューザーを取り外してみると、エンクロージュア側に八方ウレタンCとが取り付けてあり、振動の防止と、エンクロージュアのバッフル面からの2次放射を防ぐキメ細かな設計が見受けられる。
 アッテネーターパネルは、外観上ではさほど変化はないが、中低域・中高域・高域の各レベル調整はすべて+側が1・5dBと、同じ変化量に変更されている。とくに感度の高い中高域では20dB程度のアッテネーションが必要なだけに、プリアッテネーターとしてのネットワーク内での減衰方法は不明だが、連続可変型アッテネーターでの減衰量が少なくなったと考えれば、音質改善効果が期待できるかもしれない。
 使用ユニットは、低域が従来の2235HからS3100システムに搭載されている大入力対応VGC(ヴェンテッド・ギャップ・クーリング)機構採用のME150HSに、中低域が2122Hから振動系が強化された2133Hに、それぞれ変更されている。また、中高域のドライバーユニットは、S5500システムに使われている、ダイアモンドエッジをはじめ、0・05mm厚50mm口径のチタンダイアフラム、25mm径スロート、ネオジウムマグネット搭載磁気回路などを採用した、275Ndに替えられている。
 さらに、外観上ではわかりにくいが、4344MkIIで最も大きく変更された点は、創業以来貫いてきたシステムのアブソリュートフェイズが、一般のスピーカーシステムと同様、正相となったことである。これは、JBLではK2システム以来の仕様変更だ。つまり、従来のほとんどのJBLシステムは、+側を意味する赤マーク付端子に電池の+側を接続したときにコーンが引っ込む、逆相仕様が標準だったのだが、本機では端子の+側に電池の+側を接続したときにコーンが前に出る、他者のほとんどのスピーカーと同じ正相仕様に変更されたのである。
 このアブソリュートフェイズの正相/逆相は、とくに音色面と音場感に違いが出てくるが、古くからカートリッジやスピーカー等の変換器で、よく使われている設計手法である

BOSE LS6

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 独自の音像定位と音場感再生の技術を一段と発展させ聴取位置を中心に360度方向のプレゼンスを聴かせる非常に興味深いシステム。CDはもとよりビデオ、TVなどをプログラムソースとして2チャンネルステレオの枠を超えた5スピーカー+サブウーファーで再生される独自の空間再現は、聴けば、もはや引き返せぬ世界。

ビクター HMV

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 昭和初期以来の伝統を誇るビクターが伝家の宝刀ともいうべきHMVをシリーズ名とした、円熟した大人が使う高級ミュージックコンソレット。スピーカーや別売のレコードプレーヤー、専用ラックなどの木部は高級蓄音機に使われたマホガニー材で、天然の木ならではの風合いは結果の音にも巧みにマッチし趣味性は大変に高い。

BOSE AM-033

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 形状的にはミニ・キャノン型だが、内容はアクースティックマス方式2重ボイスコイル採用のサブウーファー。とかく低音感風であっても本来の低音再生が不可能な小型システムと併用したときの効果は、単に低音再生能力の向上に限らず、ヴォーカルのマイクの吹かれなどのリアリティ向上が最大の魅力。汎用度の高い注目作。

ヤマハ YST-SW1000

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 等価回路から出発し、アンプの負性抵抗を応用してスピーカーの常識を破る低音再生能力を可能とした開発は、現在でも、いささかも色あせない見事な成果である。リモコン対応で左右2個使用では少々コントロールに苦労するが、DVDの超高域再生を受ける基盤として超低域再生は不可欠であるだけに、再び注目したい好製品。

ユニゾンリサーチ Simply Phono

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 非常に個性的なデザインで、純A級シングル動作らしい清澄にして程よく音の輪郭をつけて聴かせるSimply Two/Four専用のフォノEQ。電源はプリメインから供給を受けるが、DC点火のヒーター電源はEQ内に設けてあることが興味深い。活き活きとしたアナログならではの音は安心して音楽が聴ける。

「オーディオの流儀」

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう」より

 録音・再生系を基本としたオーディオでは、再生音を楽しむための基本条件として、原音再生は不可能であるということがある。録音サイドの問題にタッチせず、再生側のみのコントロールで、各種のプログラムを材料として再生音を楽しむこと、の2点が必要だ。再生系ではスピーカーシステムが重要だが、電気系とくらべ性能は非常に悪い。しかし、ルーム・アコースティック・設置条件、駆動アンプなどの調整次第でかなり原音的なイリュージョンが聴きとれるのは不思議なことだ。
 スピーカーは20cm級全域型が基本と考えており、簡潔で親しみやすい魅力がある。プログラムソースの情報量が増えれば、マルチウェイ化の必要に迫られるが、クロスオーバーの存在は振幅的・位相的に変化をし、予想以上の情報欠落を生じるため、遮断特性は6dB型しかないであろう。
 ステレオ再生では音場再生が大切で、非常に要素が多く、各種各様な流儀が生じるかもしれない。

パイオニア Exclusive Model 2404

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 ホーン型を中域以上に使う大型2ウェイシステムは、従来からスタジオモニターとして伝統的に使われてきたシステムではあるが、紙コーンの低域と、軽金属振動板採用のドライバーユニットとホーンを組み合わせた中域以上とでは、音色、感度、指向特性などが根本的に異なり、システムアップが非常に難しく、その成功例は想像以上に少ないようだ。
 とくにクロスオーバー付近では、特性を重視すれば音質、音色に違和感を生じ、平均的にはクロスオーバー域の音圧を弱めに設定して、音質、音色をコントロールする手法が用いられるようだ。
 また、大型ホーンで音像が前後方向に移動する例が多く、ある程度、システムとの距離をおいて聴く必要もあるようだ。
 しかし、基本的に高感度システムであるため、センシティヴで反応が速く、ダイナミックでパワフルな音が聴かれるために、少々個性型ではあるが、この種の音にハマると立直れない麻薬的な魅力があり、個人的には卒業したつもりではいるが、非常に危険な存在である。
 ホーン型スタジオモニターとして、私が世界の双璧と考えるシステムが、パイオニア/エクスクルーシヴ2404とウェストレイクBBSM15だ。両者の選択には悩ましいものがあるが、構成が単純な2ウェイ型であり、なおかつ、こめウェスタン以来の伝統的技術を抜本的にリフレッシュしたユニットを、低域、高域に採用し、音像の前後移動のない大型ホーンと組み合わせた、エクスクルーシヴ2404のシステムプランは、文字通り世界最高のシステムである。
 今年春には、本機に採用された新TAD系ユニットが単体として発売されるようになり、世界のモニタースピーカーメーカーに採用されるという噂もしきりというのが現状のようだ。個人的な見解では、低域は38cm2個が必須条件ではあるが、現在、市販されているスピーカーシステムのなかから選択しなければならないとすれば、2404しかないだろう。

ビクター SX-V1A(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 小口径フルレンジ型ユニットに、ボイスコイルそのものを抵抗分として直列に使用して低域再生能力を高めるという独自の設計を施し、これにスーパートゥイーター的な高域ユニットを加えたユニークなシステムが、ビクターSX−V1Aである。アルニコ磁石採用のウーファーとトゥイーターは真鍮ベースに組み込まれ、エンクロージュアはサブバッフルにVDE/2針葉樹系高密度材、その他は無垢マホガニー材採用と、小型ながら超豪華設計で、専用スタンドと組み合わせて、想像を超える豊かな音楽性のある音が楽しめるシステムだ。反応が速く鮮度感の高いスピーカーを活かすためには、同社のXL−V1/CDプレーヤーとAX−V1プリメインアンプがベストマッチだ。フロントパネルとボンネットを一体化した見事な筐体と、物量をふんだんに投入した設計は、クォリティが抜群に高く、趣味としてのオーディオを、大人が楽しむためにふさわしい組合せ。

BOSE 901WB(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 小口径フルレンジ型ユニットを9個シリーズ接続として小型エンクロージュアに納め、コンサートホールの直接音対間接音の配分どおりに、前面に1個/背面に8個を取り付けたシステムがボーズ901で、高域と低域は専用イコライザーで補整をする独自のシステムである。現在は度々の改良を重ね901WBに発展し、鮮明な音に進化を遂げている。本来の性能を音として引き出すためには、相当に優れたシステムが必要であり、ここではバランスを崩した組合せにならざるをえない。CDプレーヤーは、一体型として個性派の、ワディアとティアックの合作、X10Wの音楽性豊かな表現力がぜひとも必要だ。アンプは、パワフルでスピーカー駆動濃緑に優れ、必要帯域内のエネルギーバランスが見事なマランツPM15がベストマッチである。反応が速く、活き活きとした、フルレンジ型の魅力を再認識させる組合せだ。

ダイヤトーン DS-205(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 2ウェイ構成の放送モニターシステムとして名声の高い2S305系の技術を継承し、新素材振動板を採用して、現代のディジタルプログラム時代のコンシューマーモデルとして開発されたダイヤトーンDS205は、大変に魅力的な製品。モニターの基本構成は受け継いではいても、しなやかでほどよく反応が速く、響きの豊かなプレゼンスを狙って開発されたシステムであり、容量の大きなバスレフ設計が最大の特徴だ。CDプレーヤーは世界最高の一体型、ビクターXL−Z999が、高価ながら使って納得させられる力量が見事で必須の選択。アンプは、雰囲気と表現力の豊かさを狙えば優れた管球アンプが使いたくなる。入手がいまや困難かもしれないが、レプリカ版のマランツ7と8Bが想像を絶した、現代に通用する見事な音を聴かせる。一段としなやかでナイーブかつ鮮度感のある音を求めれば、U・BROSジュニア2とU・BROS1Kを使いたい。

タンノイ System 215MKII(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 ホーン型ユニット採用のスタジオモニターのなかで、比較的にコンパクトで内容の充実した製品を探してみると、価格を含め、英タンノイのシステム215MKIIは、ぜひとも使ってみたいシステムである。専用スタンドが用意されていることも非常に魅力的だ。同軸2ウェイとウーファーの組合せで、2ウェイ/3ウェイ兼用設計が最大の特徴。今回の組合せは、バランス感覚を重視しているが、CDトランスポートは、世界最高のメカニズムに基づいた、超高SN比を誇るCDP−R10が必須条件。これに高SN比で音楽性豊かなXP−DA1000Aを組み合わせる。実際に使って大変に好ましいペアだ。アンプは高SN比が条件で必然的に国内製品を選ぶ。アキュフェーズ、マランツ、パイオニア、ラックスマンが候補になるが、SS試聴室のリファレンス機として責任を果してくれたアキュフェーズC290と、ソリッドで充実した音のA50に、DG28を加えれば万全だ。

アクースティックラボ Stella Elegans

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 スピーカーシステムは、中口径フルレンジユニットをベースとするべきだとの考え方に立ったとしても、超低域から20kHzを超す広帯域のディジタルプログラムソースを再生するためには、フルレンジユニットの高域もしくは低域を、トゥイーターもしくはサブウーファーを組み合わせ、広帯域再生化を考えなければならないであろう。
 静電型のフルレンジユニットをベースとすれば、サブウーファーを追加して比較的に容易にシステムプランが成り立つが、音量的な制約は基本的に残り、特性面では一歩を譲るが、やはり、ダイナミック型ユニットの魅力は捨てがたいものがあるようだ。
 このタイプのフルレンジユニットは、基本的に設計時期が古く、アナログ時代に開発されたユニットの生き残ったものが主流で、少なくとも、現代の最新のテクノロジーにより開発されたものは非常に少ないのが現状だ。
 非常に数の少ない最新設計のフルレンジ型ユニットのなかで注目したい製品が、静電型に匹敵する過渡応答に優れた特徴を持ちながら、ダイナミックレンジを一段と向上させ、柔らかい振動板により、振動の最初から全帯域を分割振動で動作させる、BWT(ベンディング・ウェイヴ・トランスデューサー)である。
 基本構想は、かつてのヤマハ/NSスピーカーと共通性があるが、特殊な薄膜材料に直接ボイスコイルを取り付けた振動系は、人間の耳の構造を範として設計されたとのことで、約20cmの口径で80Hz〜32kHzをカバーするという異例の超広帯域ユニットだ。
 この独マンガー研究所が30年の歳月をかけて完成させたユニットに、プロセッシング・プレッシャー・コントロールアンプが駆動するアクティヴ型ウーファーを加えたシステムが、スイスのアクースティックラボ/ステラ・エレガンスである。
 ナチュラルで色付けがなく、ストレスフリーな音は、最新フルレンジ型ならではの独自の魅力がある。

テクニクス SL-1200MK3

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 1989年発売以来、世界的に超ベストセラーを続ける非常にトータルバランスの優れた製品。SL1200/1300系のモデルは、想像を超えた物凄い量を販売した実績があるだけに、世界各国の規格をクリアーしており、都市地域の強力なTV妨害や電源からの雑音排除能力が抜群に高く、安定した音は特筆に値する。

トーレンス TD320MKIIIB + 3009RS

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 古くはTD150以来の伝統をもつ2重構造ターンテーブル採用のサーボベルト駆動ターンテーブルは、サスペンション系が横揺れに強いリーフスプリング型となり、防振性能はさすがに抜群。組み合わせるアームは、現在、最も安定し各種カートリッジとの対応性が広いSME3009オートリフター付で総合性能は抜群。

ビクター QL-V1

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 歴史と伝統を誇るビクターの「HMV」を冠したHMVシリーズ用に、現在では異例の新開発で完成されたが、独自のコアレスDDモーターの採用でメインテナンスフリーとした構想は注目点だ。マホガニーのキャビネットにコンパクトにまとめられ、HMVシリーズ専用ラックに組み込んだときの大人の雰囲気をもつまとまりが絶妙。

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 現在では完全に開発不可能な超弩級アナログプレーヤーが生産されていることは、アナログディスクファンにとって素直に感謝すべきであろう。超重量級ターンテーブルを空気軸受で浮かし、ディスクを吸着する機能は、究極の方式として現在に至るまで前人未到の頂点を極めた設計である。生産続行を切望する超弩級機だ。

ソニー TA-ER1

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 超広帯域型バランスアンプユニットをベースに、不平衡型入力も特殊回路で平衡受けとする独自な設計が異例だ。音量調整はリモコン対応で、この部分の機構はメカマニア泣かせの魅力がある。色づけが皆無で素直に伸びやかな音を聴かせながら、表情に豊かさがあることが嬉しい。高い技術力を基盤に程よく音楽性を備えた名作である。

ラックス C-10

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 アナログプリアンプで最も音質に影響を与えるボリュウムコントロールに、まさしく前人未到の超弩級切換スイッチと超高精度・超高音質の抵抗を組み合わせ、それも平衡型として完成させた開発は驚嘆を覚える凄さがある。音に生彩があり、全土管の高さは異次元の世界。来年発売予定の高級ボリュウムに置き換えたC9も待たれる。

アキュフェーズ DC-300

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 同社のトップモデルD/AコンバーターDC91開発での成果を活かし、本格的なディジタルプリアンプとして将来までを見すえて開発された、時代の要求を満たす世界的にも唯一無二の貴重な存在。フォノEQなども別売モジュールで完全対応させ、将来的にはディジタルグライコ、チャンデバ等との連携も期待できる。

ユニゾンリサーチ Mistero

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 シャーシ構造が金属とナチュラルな木材を組み合わせた個性的かつ実に見事なバランスを醸し出しているイタリア・ユニゾンリサーチのライン入力専用プリアンプ。増幅段の一部に2階建型のSRPP回路を採用する同社独自の設計が本機にも採用され、半導体アンプでは欠落しやすい音を素直に引き出す管球式の魅力は絶大だ。