井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より
オルトフォンといえば、まずSPUを想像しないオーディオファイルはいないであろう。
ステレオLPが登場した翌年の’59年にステレオ・ピックアップの頭文字をモデルナンバーとして開発されたこのカートリッジは、正方形の鉄心に井桁状にコイルを巻いた発電系と、この巻枠の中心に完全な振動系支点を設け、ゴムダンパーと金属線で支持系とする構造である。これは現在においても、いわゆるオルトフォン型として数多くのカートリッジメーカーに採用されているように、ステレオMC型の究極の発電機構といっても過言ではない。オーディオの歴史に残る素晴らしい大発明であろう。
以後、37年を経過した現在のディジタル・プログラムソース時代になっても、SPUの王座はいささかの揺るぎもなく、初期のSPUを現在聴いても、その音は歳月を超えて実に素晴らしいものなのである。
現在に至るSPUの歴史は、その後SPUなるモデルナンバーが付けられた各種の製品が続々と開発されたため、オルトフォン・ファンにとっても確実にモデルナンバーと、その音を整理して認識している人は、さほど多くないであろう。
今回発表されたSPUの新製品、マイスター・シルヴァーは、SPUの開発者ロバート・グッドマンセンが在籍50年の表彰と、デンマーク王国文化功労賞の受賞を機に原点に戻り、SPUを超えるSPUとして開発した’92年のマイスターをさらに超える、SPUの究極モデルとして作られた製品である。
最大のポイントは、同和鉱業・中央研究所が世界で初めて開発した純度99・9999%以上の超高純度銀線をコイルに採用したことで、オルトフォンとしては昨年のMCローマンに次ぐ超高純度銀線採用のモデルだ。ちなみに銀というと、JISの2種銀地金で99・95%、1種で主に感光材料に使用する銀で99・99%であり、銅線ではタフピッチ銅と同程度の純度しかない、とのことだ。
コイル線以外にも磁気回路、振動系は全面的に見直され、1・5Ωで0・32mVという高効率を得ている。
R・グッドマンセンが、「これこそ我が生涯最高のSPUと躊躇なく言える」と自ら語った、と云われるマイスター・シルヴァーは、SPUの雰囲気を残しながら前人未到のMC型の音を実感させられる絶妙な音である。
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