ウエストレイク・オーディオ Tower-12

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 ウェストレイク・オーディオは、創業当初から大型スタジオモニタースピーカーに焦点をおいた開発によって、高い評価が与えられていた。現在のように、ドーム型ユニットを採用したスタジオモニターが世界的に多用される時代になっても、ことホーン型コンプレッション・ドライバーを中域以上に採用したスタジオモニターでは、依然として世界の王座は揺るがない。
 国内では、比較的スピーカーに近い聴取場所で検聴をすることを目的としたニア・フィールドモニターのBBSシリーズが輸入され、そのトップモデルのBBSM15は、比較的小型なエンクロージュアながら、38cm低域ユニットを2個並列使用(BBSMとはバス・アンド・バス・スタジオモニターの略)、中域に25cmコーン型、高域に同社独自のフレアーをもつトム・ヒドレー・ホーン採用、という充実した構成により、38cmダブルウーファーならではの圧倒的なエネルギー感を小音量時にも聴かせてくれる。
 このBBSMシリーズを横置型のローボーイ型から縦置型のトールボーイ型とし、コンシュマーユースにチューニングが見直されたシリーズが、BBSM−VNFシリーズである。
 しかし、今回初めて輸入されたタワーシリーズは、同社として初めて構想段階からコンシュマーユースに的を絞って開発が行なわれたことが、従来の同社製品とは根本的に異なる点だ。
 現在のタワーシリーズは、今回輸入されたタワー12と、SM1タワーの2モデルである。SM1タワーは超高価格であり、2mを超す高さと超重量級なウェイトなどから輸入されるかどうかは未定だ。
 タワー12は、30cmウーファーを2個並列に使い、その中央に、トム・ヒドレー・ホーン付コンプレッション・ドライバーを配置した、いわゆる仮想同軸2ウェイ型であることが、同社の製品として珍しい設計と思われる。
 当初は詳細が不明なため、従来の同社製品の流れから考えてすべてJBL製ユニットと思われていた。ところが、低域のサウンドキャラクターとコーン紙の質感、エッジ材料、形状、幅などが見慣れないタイプであったため、ユニットのチェックをしてもらったところ、仏オーダックス製HD30P45TSM/Cなるユニットであることが判明し、音も充分に納得できる結果であった。なお、高域コンプレッション・ドライバーは、JBL2426J、2インチ・ダイアフラムで1インチ・スロート径のユニットだ。
 内蔵ネットワークは−12dB/oct.型、入力端子はバイワイヤー対応だがネットワーク出力側に±4個の端子が設けられ、これをジャンパーでショートした状態が標準。外してユニット側端子を使えばエレクトロニック・クロスオーバー対応となるが、本機専用にMRXが別売で用意されている。
 興味深いことは、高・低両ユニットともにバイアンプ対応時にもイコライザー(インピーダンス補正素子?)が、内蔵ネットワーク低域出力には遅延回路が組み込んであることだ。本機の特徴として、インピーダンス変動を抑えた設計と同社が言う由縁である。
 エンクロージュアはMDF材を使っている。その内面、ユニット・フレーム、磁気回路、ネットワークなどは、独自の粘弾性材料による入念な最適ダンピング処理が行なわれているのは、同社のチューニング技術の一部の現われである。
 資料には触れられていないが、円錐型ブロックの中央にバスレフダクトを設けた設計は、木管楽器の開口部の形状により音の浸透性が変化する例に似ており、開口部の乱流を制御して全帯域のチューニングを行なう手段のようだ。
 ナチュラルな周波数レンジと、見事な一体感をもって繋がったフルレンジ型ユニット的なまとまりは、さすがに世界のトップレベルをいく同社技術の成果だ。音のグラデーションを深々と聴かせ、色彩豊かな音は今年の新製品中の最高だ。

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