Category Archives: コントロールアンプ - Page 20

トリオ L-07C + L-07M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 同じトリオの製品でいえば、プリメインアンプのKA9300のグレイドアップ版とでもいえるだろうか。ちょうどその時期にトリオの目指していた音は、どちらかといえばいくぶんコントラストを強調した、輪郭の鮮明な、そして低音をかなり引き締めた、ややハードな傾向だった。ただ、その中にたとえば弦楽器のような音にも、しなやかに反応してゆくナイーヴな面をあわせ持っているところが、単に硬い一方のアンプとは明らかに違う良さだ。07C/07Mの組合せにもほぼそのような性格が聴きとれる。それは、プログラムソースでいえば、どちらかといえばポップス系に、また組み合わせるスピーカーでいえば、JBL系よりはヨーロッパ系との相性、が感じとれる。言いかえれば、JBL系でクラシックを鳴らしたりすると、説明過剰というか、音の輪郭の鮮明すぎるところが多少鼻につく結果になりがちともいえる。05Mとの組合せの方で書いたように、最近のトリオは少し方向をかえている。

オンキョー Integra P-303 + Integra M-505

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 大づかみにウェット型そしてどこか女性的なやさしさ。しかしLo−Dの7500や7300のところで書いたような、線の細い感じとは少し違う。決して音がひょろひょろしたり頼りなくなったりしない充実感も密度も、そして低音のしっかりした支えもほどよく持っていて、音域の中での欠落感のようなものがなく、バランスもよく整っている。その上で、音楽している演奏者の表情というか、表現上のニュアンスがとてもよく感じとれ、さらに空間にひろがってゆく音の余韻の響きと溶けあいの繊細な美しさも十分に再現できる。たいそう滑らかで上質の音といえる。弦や女声はもちろん、ベーゼンドルファーの艶や弾みもよく出るアンプはこれ以外には少ない。欲をいえば、こういう柔らかな音を鳴らしながらも、もうひとつピシッと引き締った冷徹な切れ込みも聴かせてくれれば満点なのだが、それはぜいたくというものだろう。しかしこのアンプくらい、鳴ってくる音と見た目の印象のちぐはぐなのも少ない。

トリオ L-07C + L-05M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 07C+07Mのところで書いたと同じたとえを持ち出すが、同じ07Cでも05Mとの組合せになると、KA9300よりもむしろKA7300Dの方に近くなる。9300のは愛、というよりその時期にトリオが作っていた音は、輪郭の鮮明さの強調が、プログラムソースや組合わせるスピーカーによってはいくぶん鼻につくようなところがあった。しかし、KA7300Dのあたりからは、そのいわばアクの強い面がすっかりこなれてきて、自己主張が抑えられ、プログラムソースに柔軟に反応してゆくナイーヴな面がいっそうよく聴きとれるようになってきた。それでいて、従前から持っていた音の構築のたしかさを失っていないから、たとえば「オテロ」の冒頭でも、このクラスのアンプとしてはかなりドラマティックな表情も再現することができる。ただ、細かいことをいえば低音でも07Cの個性(その項参照)が出てきてしまうし、いくぶん骨細に張り出す傾向もある。が、総合的にはかなりの音だ。

ラックス 5C50 + 5M21

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ラックスのトランジスター技術が高く評価されたのは、少し古い話だがプリメイン型のSQ505の時代にさかのぼる。ただそれからあとのしばらくの間、少々低迷ぎみの時期が長く続いたが、今回のこの「ラボラトリー・リファレンス」と名づけられた新シリーズで、ラックスは再びその持てる技術力を出し切って全力投球したという印象だ。このシリーズは、どの製品をとっても、現在の世界の水準からみても相当に高いレベルにあるといえるが、その中心的な存在がこの5C50と5M21の組合せだ。音の品位の高さ、透明な解像力の高さ、そして緻密でしっとりと肌ざわりの滑らかな質感のよさ、とても素晴らしいできばえだ。しいていえば、ラックスというメーカーが体質的にもっている真面目さもまたストレートに出ていて、単体それぞれよりも組み合わせた音の方に、かなり真面目な音を感じてもう少しハメを外してもという気にさせるが、それは私のような不真面目人間の言うことだろう。

ラックス CL32 + MB3045

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ラボラトリー・リファレンス・シリーズでトランジスター技術の粋をみせたラックスが、それでもあえて管球アンプを残しているのは、やはりトランジスターでは得られない何らかのメリットを認めているからに違いない。そのことは、音を聴いてみるとすぐにわかる。音楽が鳴り始めた瞬間から、ふっと肩の力が抜けてゆく感じで、テストしようなどという気負いを取り去ってくつろがせてしまうようなこの暖かい鳴り方はいったいどこからくる魅力なのだろう。解像力も甘いし、決して音を引き締めないから曲によっては少々手綱をゆるめすぎる傾向もなくはない。ただ、管球というイメージから想像されるような古めかしさはない。新しい傾向の音楽や新録音の魅力を十分に抽き出すだけの能力は持っていて、弦や声など、思わず、あ、いいなあ! と言いたくなるような親密感というのか、無機質でない暖かさに、ついひきこまれてしまう。こういう音を良いと感じるのは、こちらの年齢のせいなのだろうか。

テクニクス SU-A2 (Technics A2) + SE-A1 (Technics A1)

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 単体のところでも書いたようにコントロールアンプA2を二台聴いたが少しずつ音が違うので少々不安だが、良かった方の組合せの音について書く。まず大づかみには、たいへん透明感の高い、どちらかといえばウェットで線の細い繊細でしかし決して力の弱さのない緻密な音がする。バランス的には、中〜高域にわずかにエネルギーが片寄る感じがあって、たとえば「オテロ」のトゥッティではときに音が部分的に張り出しすぎることもあるが、低域での支えがしっかりしていて、音の基本的なクォリティが十分に高いために、それは欠点ではなく特色として受けとれる。総体に音の過剰な肉づきを抑えてゆく傾向があるので、ふつうの音量で聴くかぎり、どちらかといえばやせ型の音といえる。音はとても美しいのだが、そこにどこか人工臭というのか、楽器の自然の音に対してもう少し作りあげた美しさのようなものを感じさせる。しかし、音量を上げるにつれて、骨格の強い力があらわになってくる。

ラックス C-12 + M-12

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 たいそう品位の高い美しさに支えられた、しかしどこか小造りの感じのする、すっきりと整った音だ。ラックスのアンプには一貫してこの上品さがあるのだが、ときとしてそれが少々控え目にすぎると感じられることもある。ものごとをあらわにしない含みのある言いまわしは関西独特の奥ゆかしさでもある反面、少々品の悪いことを承知で腹にあることを言い切らないと気が済まない関東の人間には少々もどかしい感じがあるが、それに似ているのかもしれない。かといって押しつけがましい露骨な音は困るが、音楽を鳴らすための適度のバランスというものを頭に浮かべてみると、この12シリーズの音はやはり少々控え目すぎるように思える。この傾向はおもにC12の方がしはいしているらしい。とにかく磨き込まれた透明感のあるこの美しさは極上の水準だ。その美しさを長所とするには、しかし低音域全体の豊かな支えと、高音にかけての切れ込みが、それぞれもう少し感じとれる方がいいのではなかろうか。

テクニクス SU-9070II (Technics 70AII) + SE-9060II (Technics 60AII)

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 マークIIでない方の、いかにも物理データ・オンリィといった感じの、一応の音はするが音楽としてどこかよそよそしさ、素気なさを感じさせる音に対して、II型は一変している。基本的には、おそらく物理特性を重視した正攻法での作り方であるらしく、音のバランスがよく、すべてのプログラムソースに対して欠点の少ない、いわば過不足のない音を聴かせるところはたしかにテクニクスだが、しかし従前までのそれとは思えないほど、音が生きていてほどよい魅力も感じとれて、極上とはいえないまでもかなりの随順でのできばえだ。ひとつひとつのぷろぐらむそーすについて細かいことを言い出せばいろいろ注文もある。たとえば弦楽四重奏では、鳴りはじめた瞬間から聴き手をひきずりこむほどのしっとりした雰囲気までには至ってないし、ベーゼンドルファーの音も基本的な骨格はしっかりしているが、あの独得の艶と色気までは出しきらない。ただそれはこの価格帯のアンプには少し無理な注文だと思う。

スタックス SRA-12S + DA-80M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 組み合わせたSRA12Sは、コントロールアンプとしてよりは同社のヘッドフォン(スタックスではイヤースピーカーと呼んでいるが)の専用アンプとしての性格が濃いと思うし、価格的にみてもDA80M(2台)とはかなりバランスが違うようなので、本来は、DA80Mは別のコントロールアンプでとライブすることを考えているのではないだろうか。ただ、この両者の組合せで鳴らしてみると、いかにも屈託のないのびのびとした明るさ、一様にステージ前面に並列にせり出したような独特の音像の並び方、といった音の性格は一貫している。その意味で、音像のひとつひとつに、もう少し引きが欲しい。言いかえれば奥行き方向への立体感をもっと感じとりたい。また、シェフィールドのテルマ・ヒューストンの黒人独特の声の艶とか、ベーゼンドルファーの一種脂っこいトロリとした味わいなどを、どちらかといえば脂気をおさえて鳴らす傾向があった。

ソニー TA-E88 + TA-N7B

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ソニーにかぎらずどのメーカーの製品でも、概してパワーアンプよりもコントロールアンプの方に、そのメーカーの音が色濃く反映される傾向がある。この組合せでも、それぞれの単体のところでも書いたことだが、いくぶんアクの強さ、あるいは押しの強さを感じさせる音の傾向はE88の方に多く感じられ、N7Bの方は基本的にそれと似ているがE88よりはナイーヴな面を持っている。この両者を組み合わせた音は、やはりE88の個性が支配的になり、たとえば菅野録音の「サイド・バイ・サイド3」のピアノトリオを例にあげると、ピアノの打鍵音をかっきりと際立たせ、ベースのピツィカート、そして前半をコードで支えるギターの音などを、ひとつひとつ、目鼻立ちをはっきりさせながら楽器の存在を強調する感じで聴こえる。これに限らず、録音されている音の姿をひとつひとつあらわにしてゆく傾向があって、そのことが、曲によって少々分析的にすぎるようなイメージを抱かせる場合もあった。

ソニー TA-E86 + TA-N86

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 名作と謳われたプリメインアンプTA1120の頃から、ソニーのソリッドステート・アンプの音には、本質的にかなり冷徹というか、やや無機質的な、整ってはいるがどこか突き放した冷たさを私は感じていて好きになれなかった。新しい製品になるにつれて、それもごく最近になって、かなり大幅に変身を試みはじめたようで、中でもこの86シリーズは、とてもバランスがよく滑らかで柔らかな肌ざわりを持っていて、一聴した印象では少し前までのソニー製品とは思えないほどだ。だが、柔らかいといっても決して女性的な弱腰の音ではなく、むしろ一見柔らかな音の中に、意外にコントラストのきつい芯の強さがくるみこまれていると感じとれる。そのことは、たとえばシェフィールドのレコードで、一見ウォームな丸みのある、しかし現代ふうの反応の鋭い音でリズムセクションのきちんと整った中から、テルマ・ヒューストンの声がぐっと張り出してきこえるという一例からも聴きとれた。

スレッショルド NS10 Custom + 400A Custom

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 最初に発表された800Aが、あまりに手がかかって採算がとれないという理由で製造中止になってしまったことを残念に思う。というのはそれがかなり良い音のパワーアンプだったからで、国産でいえばラックス5M21やヤマハB3のような、決してハメを外さない慎重に練り上げられた、たいへん滑らかで美しい、そしてアメリカのアンプにしては静的な感じさえする音を聴かせた。400Aも基本的にはその方向をそのまま受け継いでいる。くわしくは単体の項をご参照頂きたいが、それをNS10と組合せると、本質的にこのメーカーの持っている真面目さがかなり際立ってくる。どこか禁欲的な雰囲気さえ感じさせるよそよそしいほどの慎重さ。粗っぽい音を全く感じさせない滑らかな、そしていくぶん冷たい肌ざわり。しかし音量を上げるとかなりの充実感も力もあって、やはり国産とはひと味違う。ここにもう少しヴァイタリティや音の表情の自在さが増してくるとさらに素晴らしい。

スレッショルド NS10 Custom + CAS1 Custom

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 GASの三兄弟(というのか、または祖父から孫までの三世代というのか)の関係とある意味で似ていて、惜しくも製造中止になった800Aが素晴らしい出来栄えで、次の400Aはメーカーとして少し固くなって作ったという印象のあるのに対して、末っ子のCAS1になると、メーカー側もわりあい伸び伸びと作ったというイメージが音の上にはっきりとあらわれて、そのことは単体のところにくわしく欠いたのでご参照頂くとして、コントロールアンプNS10との組合せでもその長所は発揮され、NS10/400Aの組合せよりは、たしかに音のスケール感や緻密さ等でわずかに聴き劣りする反面、音の鳴ったあとの響きあるいは余韻のひろがりかたは好ましい。どこか響きに暖かささえ感じさせ、400Aのまじめな鳴り方よりも私にはこちらの方が嬉しい気分になれる。生真面目な姉貴よりもやや茶目気のある妹の方が魅力的というところか。むろん似た性格の中での話だが。

ハーマンカードン Citation 17 + Citation 16A

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 国産でいえばビクター7070の中〜高域の華やかさと、パイオニアC77の身振りの大きさを合わせて、そこにアメリカふかのスケールを加えたという印象の、相当に特徴のある音がする。饒舌ともいえるし、説明過剰、あるいはハイコントラスト、硬調……そうした表現を使いたくなる音で、その傾向は、単体のところでも書いたようにコントロールアンプ、パワーアンプの両方にあるが、しかしどちらかといえば16A(パワーアンプ)の方が全体の音色を支配していそうだ。たとえば「オテロ」の冒頭のトゥッティのところでも、いかにも大見栄を切っているという感じ、大上段にふりかぶった感じがあって、大舞台でのドラマがきわめて劇的に進行してゆくかの観がある。なんともおもしろい個性ともいえるし、やはりこれはアメリカのアンプでなくては鳴らせないスケール感だともいえる。ただ、変に厚着した音でないことは、弦楽四重奏などでは意外に線の細い表現もできることからも聴きとれる。

スペクトロ・アコースティック Model 217 + Model 202

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 コントロールアンプ、パワーアンプ双方とも、見た目がずいぶんユニークだ。デザインや仕上げやコントロール機能の整理のしかたなども含めて、どこかアマチュアの手づくりのセットというイメージが残っている。こういう作り方は、ほかにもDBシステムズやハフラーなど、アメリカで最近誕生しはじめた新顔のメーカーによく見受けられ、たとえていえば少し改まった会合へもジーンズで出かけるというような、良くいえば虚飾を排した気取りのなさ、いわば実質本位の作り方で、共通しているのは見た目や価格から想像するよりもはるかにしっかりしたグレイドの高い音が鳴ってくること。ただ、コントロールアンプ単体のところで書いたように、ボリュウムを絞ったポイントでは精彩を欠いた音になってしまうので注意が要るように、必ずしも上質のパーツが使われているとは思えない。スイッチ類の感触なども含めて、アメリカでもかなりローコストの製品であることを頭に置いて評価したい。

GAS Thaedra II + Ampzilla II

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 コントロールアンプ、パワーアンプ、それぞれの単体のところでほとんどその特徴を言いつくしてしまった。言いかえればそれぞれ単体で聴いたときと、それを互いに組み合わせたときの音の傾向がほとんど一致していて、それだけ個性がはっきりしているし、また、完成度の低いセパレートアンプが往々にして単独の試聴の際と組み合わせてのそれとで印象の違うことがあるのに対して、さすがに十分に練り上げられたアンプであることが聴きとれる。音の質感が本質的には乾いた傾向であること、堂々と立派で男性的であることなど、これ以外のメーカーではアムクロンの組合せが一見似ているが、アムクロンの方にむしろ力を抑制した好ましさを私は感じた。GASの音にはその力をやや誇示する傾向が聴きとれる。初期の製品だけが持っていた、素直さが魅力につながるような、控え目ゆえの好ましさが薄れたともいえる。しかし客観的にはこのアンプの音はやはり水準以上のみごとなできばえというべきなのだろう。

SAE Mark 2100L + Mark 2600

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 セパレートアンプを作るメーカーの中にも、どちらかといえばコントロールアンプの方に手腕を発揮するメーカーと、パワーアンプの方がうまいメーカーとがあることを前にもどこかに書いたつもりだが、SAEはこの分類にしたがえば、どちらかといえばパワーアンプの方に妙味をみせるメーカーだと思う。ことにこの♯2600と、この前のモデル♯2500とは、現代の最尖端をゆく恐るべき能力を持ったパワーアンプなので、♯2100Lというコントロールアンプもそれ単体としてみれば決して悪いアンプではないが、しかし格の上でややカンロク負けの感じがあって、♯2600の良さを生かすのはやはりマークレビンソンのように私は思う。SAEどうしの組合せでは、弦の音などやや金属質の傾向が増してコントラストが強くなり、どちらかといえばアクの強い音に仕上ってくる。なお♯2600の方は、実際に鳴らしはじめてから2〜3時間を経過しないと本調子が出てきにくい性質がある。

GAS Thoebe + Son of Ampzilla

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 サリアとグランドサンの組合せが、全体として音のナイーヴなやわらかさを特徴として、どちらかといえばクラシックに良さを聴かせる(しかしポップスにもそのナイーヴな音は十分に優れていると思うが)のに対して、こちらの場合には総体に硬調でコントラストを強めて、クラシックよりはポップス系にその特質を発揮する。ただ硬調とはいっても、国産の一部にあるようなあからさまなに硬く金属的な音は違って、それはあくまでもGASのファミリィの中で、の話であって、これを単独に国産の硬質型のアンプと比較すれば、ずいぶんおだやかに聴こえるはずだ。たとえば弦楽四重奏のようなプログラムソースでも、弦の音自体は確かに硬い傾向に鳴らすが四つの声部のバランスにも難点は少なく、ましてボウイングにともなう音のニュアンスがよく聴き分けられ、やはり音楽をよく知った設計の手になることは十分に聴きとれる。ただヴォーカルなどではもう少ししなやかさが欲しく思える。

QUAD 33 + 405

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 33と303の組合せのところでも書いたことの繰り返しになるが、アンプを(に限らずものを)作る態度に、その時点での最新・最高の技術を惜しみなく投入する方向と、ひとつの限定された枠を設定してその中で最善を尽くそうという方向との両極があるが、QUADはもちろんその後者として、長い年月をかけて目立たないながら改良を加えて洗練の度を増してゆくという作り方に、私は好ましさを感じている。405というアンプは、オーディオの周辺機器やレコードの録音技術の発展と、それにともなう聴き手の側の感覚の変化に対応して、かつて設定したひとつの枠をほんの少し拡大したことの具現というふうに受けとれる。音質そのものは、単体のところで書いたように、もっと能力のあるコントロールアンプと組合せれば、相当に水準の高いフレッシュな音を鳴らす可能性を持っているのに、あえて33以外のアンプ(今のところは)発売しない頑固さは、微笑ましくもあるがしかしいささかものたりない。

GAS Thalia + Grandson

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 テァドラII+アンプジラIIの組合せが、ある意味で堂々として立派である反面、初期の製品の聴かせた独特の味わいが少し薄れたせいもあって、またサン・オブ・アンプジラがいささかどっちつかずの面を持っていることもあいまっているためか、GASのなかでは最もローコストのサリアとグランドサンの組合せが、私には最も好ましい音に思えた。音のスケール感と底力のあるエネルギーではむろんかなわずにいくぶん小造りになるし、どこまでも音がいっぱいに詰まったような充実感には多少欠けるにしても、それを補うだけの音のしなやかさ、ハーモニィの柔らかな響き、プログラムソースのニュアンスに柔らかく順応してゆくナイーヴさがある。中〜高域がやや細身で、高域端にちょっとした強調感もあるが、それがクラシックの場合にも適度に繊細な味わいと空間へのひろがりを良く生かして、総合的にはとても音楽を楽しませるバランスの良い音に仕上っている、この音がずっと続くことを期待したい。

QUAD 33 + 303

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 マッキントッシュのところでも書いたように、音の味わいという面でマッキントッシュと対極にあるのがマークレビンソンだろうが、その両者を含めておよそ原題で考えられるかぎりの手間と費用を惜しまないという態度に対して最も反対の極に位置するのがQUADだろうと思う。ただそれが、必要最少限の実質本位というだけならダイナコやそこを離れて独立したハフラーがあるが、QUADの場合にはそこにもうひとつ、洗練された優雅さを求めるという点が、やはり英国の伝統を感じさせる。悪くいえばこれを、ケチ根性の中でせい一杯発揮するエレガンス、みたいに受けとれてQUADの悪口をいう人はたぶんそこが嫌いなのだろうが、ひとつの限定された小さな枠の中で最大限の洗練を求めてゆくという態度は、むしろ日本古来の短歌のこころ、あるいは坪庭や盆栽の清新にも一脈通じるところがあって、その意味で私には共感できるし、事実はこれはいつ聴いてもやはりよくできたアンプだと思う。

DBシステムズ DB-1 + DB-6

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 DBシステムズは、最初のしばらくの間イコライザーアンプ(DB1)だけが入荷していて、それを聴くかぎりは、どちらかといえばディテール重視型の、いくぶん神経質なところのあるメーカーのように思っていたが、パワーアンプのDB6の方は、単体のところでも書いたように、表示出力の小さいにもかかわらず力のあるむしろ硬調ぎみの音なので、DB1との組合せによって相補われて、表現力の豊かでニュアンスに富んだ、かなり上質の音を聴かせる。ただ細かなことをいえば、たとえば「サイド・バイ・サイド3」のベーゼンドルファーの厚み、あるいはベースの低音域のファンダメンタルは十分に出ていながら低次倍音領域での量感がわずかに不足ぎみのところから、中低音域での厚み──というよりむしろぜい肉のつくことをことさら避けた傾向が聴きとれる。どちらかといえばクラシックの弦のヴォーカルよりも、意外なことにシェフィールドのようなレコードに力をみせてかなり緻密に楽しませた。

マッキントッシュ C32 + MC2205

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 C28やMC2105までの製品とくらべると、デザイン上からもツマミやメーターまわりに太いふちどりがアクセントとして加わったことが、音質の傾向をも象徴している。たとえばマークレビンソンなら、面相(毛筆)か細書きのペンで慎重に繊細に描写するであろうところも、マッキントッシュの手にかかると、もっと大胆に、いくぶん荒々しく大掴みに、太い線でこってりと描き出す。従前のシリーズよりはディテールもはるかによく浮き彫りする解像力が加わったが、その描線はコンテかパステルの質感のようで、味わいも濃いが反面どこまで細部を描き込んで行っても、輪郭がどこかケバ立ってペン書きのような繊細さには至らない。だが色彩感はこちらの方がはるかに豊かだ。この豊かさは旧型以来のマッキントッシュの伝統だが、新型ではそこにいっそうの輝きと鮮度の高さ、そして華麗で豪華な味わいが増してきた。この濃い味を毎日の食卓で飽食しないなら、かなり器の大きな人というべきだろう。

BGW Model 203 + Model 410

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 いかにもアメリカのアンプらしい、こだわりのない力の満ちた音がする。国産の一部の製品にはあるような、帯域のどこかに隙間風が吹くような薄手の部分がなく、音がいっぱい詰まっている。かなり乾いた傾向の質感で、そのためか総体にいくぶん素気ない、よく言えば音楽によけいな表情をつけ加えないいわゆるザハリヒな良さがあるともいえるのかもしれないが、しかしどこか突き放したような鳴り方があって、もう少し親密な雰囲気が出てもいいのではないかという気分にさせる。しかしハイパワーでも音を抑え込まずにどこまでもよく伸びるし、弱音でも汚れっぽさもなく、楽器どうしの音の溶けあいも対比もバランスも、ほどよく再現され、その意味では欠点は少ない。しいていえば、「オテロ」冒頭でのオルガンの持続音や「サイド・バイ・サイド3」のベースなどで、低音の量感はもう少しあってもいいように思えた。音楽に肉迫するというタイプではなく、ややデータ本位につくられたアンプのようだ。

マークレビンソン LNP-2L + ML-2L

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 単体でのML2Lの音の説明が、すなわちLNP2Lと組み合せたときの音そのものなのだから、組み合わせての印象はそちらを参照して頂くことにして、ここではもう少し別のこまかなことを補足する。まずML2Lは、電源を入れてから動作の安定するまでに少なくとも30分。さらに音質の安定するまでには鳴らしはじめてから2時間以上が必要だ。また、あまりデッドに仕上げたリスニングルームや低域の調整に不備のあるスピーカーシステムとの組合せでは、かなりやせた感じの音に仕上りやすいので注意が要る。またLNP2Lは、ゲイン切換(パネル右端上のツマミ)が10または20のところが最も音のバランスが良いと私は思う。ゲインが高すぎるときは、メーター両わきのレベルコントロールで−10ないし−15程度まで絞っても、ゲイン切換はできるだけ20以上を保ちたい。単体のところでも書いたように、別売のバッファーアンプを追加すること。一旦電源を入れから、使わないときでも電源を切らない。