Daily Archives: 1979年12月15日 - Page 3

ラックス C-5000A, M-4000A

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 ある種の雰囲気をもったどちらかというと内政的な音で、中高域の冴えがなく中低域以下が豊かだ。風格のある充実した音だが、音楽の内容によっては、もっと明るく、張り出した響きが欲しい。ワイドレンジで力もある音なのだが、少々しぶ味がある感じ。

ヤマハ MC-7

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 独特の発電構造を採用した純粋MC型カートリッジMC1X、MC1Sに続く第2弾のMC型新製品である。発電方式は、バルクハウゼン効果が少ないセンダストの十字型巻枠を縦と横方向に配置した垂直・水平型発電タイプで、コイル巻線を使うマトリックス回路で、一般的な45/45方式に交換するMC型としては最初の製品である。このタイプは、十字型巻枠の幅による縦・横方向コンプライアンスの調整、現実の45/45方式でカッティング角度の変化範囲が数度に達している実状に任意にフォローでき、コイル巻数による任意のクロストーク特性や音場感のコントロールが自在である。
 MC7は、スクラッチノイズが量的に少なくパーカッシブな音を正確に再生する特長がある。音色は明るく、低域には安定感があり、鮮明な表現力が特長。

デンオン PRA-2000, POA-3000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 デンオンが、その技術を結集して完成したセパレートアンプの最新作である。このところ、セパレートアンプの分野において、デンオンには特に注目されるモデルがなかっただけに、今度の製品にかけた情熱と執念は相当なもので、内容・外観共に入念の作品が出来上ったことは喜ばしい。どの角度から見ても、現時点での最高級アンプと呼ぶにふさわしいものだと思う。
PRA2000の特徴
 PRA2000は、コントロールアンプの心臓部ともいえるイコライザーアンプに、現在最も一般的なNF型を採用せず、CR型を基本とした無帰還式の回路を用いているのが技術的特徴である。リアルタイム・イコライザーと同社が称するようにNFループをもたないから、過渡歪の発生が少なく、高域の特性の安定性が確保され、イコライザー偏差は20Hz~100kHzが±9・2dBという好特性を得ている。従来からのNF型に対してCR型イコライザーのよさは認められてはいたが、SN比や許容入力、歪率などの点で難しさがあった。しかし、今度、PRA2000に採用された回路は、ディバイスの見直しと選択によって、CR型イコライザーの特性を飛躍的に発展させている。構成は新開発のローノイズFETによるDCリニアアンプ2段を採り、初段のFETはパラレル差動させSN比を大幅に改善、カスコード・ブートストラップ回路により高域における特性を確保し、電源の強化とハイパワー・ハイスピード・トランジスターと相まって広いダイナミックレンジを得ているのである。イコライザーアンプの出力はバッファーアンプを介さず直接、DCサーボ方式のフラットアンプに送られるが、このフラットアンプのローインピーダンス化によりSN比の改善、スルーレイトの悪化等による特性劣化も防いでいる。10kΩという低いインピーダンスのボリュウムが使われ、フラットアンプの出力インピーダンスは、100Ωという低い値である。独自のサーボ帰還回路により専用サーボアンプを持たせることなく、安定したDC回路と高いSN比を得ているのである。電源部は、五重シールドの大型トロイダルトランスで50VAの容量をもつものだ。シンメトリカルの内部コンストラクションは、細かいところにも入念な構成がとられ磁気歪や相互干渉の害を避けている。22石構成のローノイズ・トランジスターによるMCヘッドアンプも安定化電源をヘッドアンプ基板内に備え電源インピーダンスを小さくおさえるなど、専用の独立型ヘッドアンプ並みの手のかかったものである。
 フォノ入力3回路、チューナー、AUXなどの入力ファンクション切替えスイッチなどはソフトタッチの電子式リードリレーであるが、プリセット機構と連動し、パワー・オンの時には優先選択機能を果すし、スイッチ切替え時はワンショット・トリガー回路の働きで、一時的に出力が遮断されるので、きわめてスムーズで安定した操作が楽しめる。これらのスイッチ類は、すべて開閉式のサブパネルに装備され、常時パネル状に露出しているのは、パワースイッチとボリュウムコントローラーだけである。そのため、使い易さもさることながら、デザイン上も、きわめてシンプルな美しさをもち、木製キャビネットの仕上げの高さと共に、普遍的な美観をもっていると思う。
PRA2000の音質
 音質は明晰で、鮮度の高いもので、大変自然で屈託のない再生音の感触が快い。POA3000との組合せでの試聴感は後で記すが、このコントロールアンプ単体で聴いた感じではやや低域の力強さに欠ける嫌いもなくはない。しかし、これはパワーアンプやスピーカーとのバランスで容易に変化し、補える範囲のもので特に問題とするにはあたらない。
POA3000の特徴
 パワーアンプPOA3000は定格出力180W/チャンネルの高効率A級アンプである。スイッチング歪を発生しないA級アンプ動作であるが、その無信号時に最大となる電力ロスを独自の方式で改善を計り、高効率としたものだ。パワートランジスターのアイドリング電流を入力信号に応じてコントロールするもので、動作としては、きわめて合理的なA級アンプである。最大出力時には純A級アンプと同じ電力ロスだが、無信号時のロスはゼロとなるようになっているので、変動の大きい音楽の出力状態においては、大変合理的なパワーロスとなる。アイドリング時にも若干の固定バイアス電流を流し、バイアス電流を常に信号電流より先行させるようにコントロールして、トランジスターのカットオフを生じさせないというものだ。1000VA容量の大型トロイダル電源トランスと10000μFの大容量コンデンサーの電源とあるがこのトランスのLチャンネル/Rチャンネルは別巻で前段にはEI形のトランスを持っている。大型ピークメーターをフロントパネルの顔としたデザインは特に新味のあるものとはいえないが、その作り、材質の高さから、高級アンプにふさわしいイメージを生んでいる。
POA3000の音質
 POA3000は低域の豊かで力感溢れるパワーアンプで、PRA2000との組合せにより、きわめて優れたバランスのよい品位の高い音質が聴かれた。透明な空間のプレゼンス、リアルな音像の質感は自然で見事だ。ヴァイオリンの音色は精緻で、基音と倍音のバランスが美しく保たれる。ピアノの粒立ちも明快で、輝かしい質感の再現がよかった。演奏の個性がよく生かされ、私が理解している各レコードの個性的音色は違和感なく再現されたと思う。ハイパワー・ドライブも安定し、ジャズやフュージョンの再生は迫力充分だし、小レベルでの繊細感も不満がなかった。
 MCヘッドアンプは、やや細身になるが、SN比、質感は大変よい。

テストを終えて

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 前号に引き続き、セパレートアンプを試聴した。セパレートアンプ全体にいえることであるが、パワーアンプに優れた製品が多いのに比較して、コントロルアンプが劣るという傾向は相変らずであった。今回はコントロルとパワーがペアで開発されたものを7種類、単独のものを、コントロールアンプ1機種とパワーアンプ10機種の試聴であった。このように、数の上でも、パワーアンプに対して、コントロールアンプは少ない。ペアのものは、その組合せで試聴し、単独のものは、リファレンスにコントロールアンプはマッキントッシュのC29、パワーアンプにSUMOの〝ザ・パワー〟を私は使った。ステレオサウンド誌の試聴室において前回と同様のプログラムソースを使って試聴したが、実際には、他の機会に、これらの製品を試聴した時の体験も折りまぜてリポートする形となったと思う。特にペアのものについては、コントロールとパワーの組合せを変えることによって、評価が変ることもあり得るので、本当は、ありとあらゆる組合せをやってみて評価を決めることが、セパレートアンプについては必要かもしれない。しかし、限られた時間ではとても無理な作業なので、一応、こういう形をとったことをご了承願いたい。ここで、そうした別の機会に試聴した体験を少々書き加えることによって、私の短い試聴メモの補足とさせていただこうと思う。
 面白いことに、ペアで開発された製品のほとんどが、その組合せをもって最高としないことである。これが、セパレートアンプの面白さと意味合いの一つであるともいえるだろう。デンオンのPRA2000とPOA3000、パイオニアのC−Z1とM−Z1はよく組み合わされた例といえるが、それでも、私の体験だと、POA3000はマッキントッシュのC29で鳴らしたほうがずっといいし、C−Z1はSUMOの〝ザ・パワー〟で鳴らすと、また格別な音を聴かせてくれる。もちろん、PRA2000はいいコントロールアンプだし、M−Z1は抜群のパワーアンプで、これらには、きっと、別のベストな組合せをさがすことが出来るだろ。オンキョーのP306というコントロールアンプも、〝ザ・パワー〟とつないで鳴らした時に大変素晴らしく、本来、M506とのペアでのサーボ動作まで考えて開発されたものでありながら、別の使い方で、さらに生きるということがおこり得るのである。
 今回の試聴でびっくりするほどよかったのがマッキントッシュC29とオースチンのTVA1の組合せであった。パワーこそ70W+70Wと大きいほうではないが、その音の充実感と豊かなニュアンスの再現は、近来稀な体験であったことをつけ加えておきたい。スレッショルドの〝ステイシス1〟というアンプの美しい音に惚れ込んだけれど、このアンプを鳴らすには、どうやら、C29以外に、より適したコントロールアンプがありそうな気がしたのである。まだ試みていないから、なんともいえないが、〝ステイシス1〟のもつ、どちらかというと贅肉がなく、きりっと締って繊細に切れ込む音像の見事な再現はC29とは異質なところがあると感じるからだ。しかし、こればかりは、実際に音を出してみなければ解らないことなのだからオーディオは面白く厄介だ。
 アンプの特性は、まさに、桁違いといってよいほど向上しながら、このように、音の量感や色合いに差があって、音楽を異なった表情で聴かせるということは、今さらながら興味深いことだと、今回の試聴でも感じた次第である。

ラックス C-5000A, M-4000A

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 独自のデュオβ回路と、新しい方向性を示したパネルフェイスに特長があるラックスのニューラックスマンシリーズはプリメインアンプL58Aが最初の製品であるが、今回発売されたコントロールアンプC5000AとパワーアンプM4000Aは、このシリーズの最高に位置づけられるほか、ラックスのトップランクモデルでもある。
 C5000Aは、L58Aと同じデザインのパネルフェイスをもつコントロールアンプである。
 基本的な設計ポリシーは、高NFBアンプの問題点としてクローズアップされたTIM歪を軽減することにある。このため、オーディオアンプの基本に戻り、NFBをかける以前のアンプの裸特性を改善し、これに最適量のNFBを僅かにかけ、動特性および静特性を向上させようという構想に基づいて、デュオβサーキットを採用している。
 回路面の主な特長は、イコライザー段とフラットアンプ段を同じ回路構成とし、
入力段にはFET4石のカスコード入力ブートストラップ回路を使用、トランジスターによる動抵抗回路や定電流回路を組み合わせて裸特性の向上を図る。出力段にはトランジスター4石によるSEPP回路を採用し、出力インピーダンスを極力低く抑えていることにある。
 コンストラクション面では、最近の技術的傾向を反映して、アンプ基板に近接するシールド板、シャーシーなどの金属類を排除。静電的ノイズには抵抗体シートを木箱に貼って対処するなどのほかに、電源部を含めた左右チャンネルの分離、配線の単純化、最短距離化のためすべてのスイッチ類が直接基板に取付けられ、この基板を縦位置に取付けているため、独特のパネルフェイスとなって現れている。使用部品には音質の優れたチッ化タンタル抵抗やコンデンサーを使用し、ノンポーラコンデンサーのオーディオ的なポラリティまでも検討するなど、音質を重視した設計となっている。
 M4000Aは、従来のM4000系の筐体に高域特性が優れ、クロスオーバー歪やスイッチング歪の少ないパワーMOS−FETを使用し、多量のバイアス電流と高速ドライバー回路を組み合わせて〝ノッチレスAクラス〟動作方式とした出力180W十180Wのパワーアンプである。
 回路的には、裸特性の優れた回路に少量のNFBとDCサーボ回路を組み合わせた独自のデュオβサーキット使用で、左右独立電源、音質のよい15、000μF×4の電解コンデンサーとフィルムコンデンサーをパラレルに使用したことなどが特長である。入力端子は金メッキのRCAピンプラグ、出力端子はユニークな使用法のキャノンコネクターを採用している。

サンスイ SP-511

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 久しぶりのブックシェルフ型の新製品である。今回新発売されたシステムは、ともに32cmウーファーベースの製品だがSP301が2ウェイ構成、SP511が3ウェイ構成で、オールコーン型ユニット使用である点が特長である。
 SP511は直径120mmのフェライト磁石採用で、共振モードを抑えた新開発ダイキャストフレーム使用のウーファーと、直径85mmフェライト磁石採用の13・2mm口径のスコーカー、R付ダイキャストフレーム採用の小口径3・6cmトゥイーターを組み合わせたシステム。
 バッフル面のユニット配置は、音像定位が明確な左右対称型で、ウーファー取付部とスコーカー、トゥイーター取付部を分離構造とし音響的干渉を避けたセパレートバッフル採用。ネットワークは分散配置型で、背面取付のアッテネータ一に代表される配線の短縮化、合理化が追求されたJBL系のノウハウを導入した新タイプである。SP511は、力強く豊かで反応が速い低域が最大の特長。エネルギー感のある中域、ストレートな高域は、コーン型独得の魅力だ。

スレッショルド STASIS 1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 キメの細かい、繊細なテクスチュアーを美しく再現して聴かせる品位の高いアンプだ。ヴァイオリンの響きの可憐な風情が、このアンプで聴いた時だけ印象に残った。透明感と解像力の高い音といってしまえばそれまでだが、加えて、本機には感覚の冴えがある。

オンキョー Monitor 100

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 瞬間的最大入力1500Wという驚異的なダイナミックレンジ、高域は40kHzまでフラットという広帯域特性を備え、〝音楽再生のベースになるもの〟という雄大なスケールの構想に基づいて開発された新製品でありモニターの名称はプロ用モニターの意味ではなく、音楽再生の指標、音楽を愉しむためのものという意味での名称とのことである。
 32cmウーファーは耐熱特性が優れ、連続最大入力150W、直径180mmの大型磁石採用。独自の回転抄造コーンは、補強リングと放熱効果を考慮したダイキャストキャップ付。スコーカーは直径6・5cmチタンドームと10cmカーボンコーンの複合型で、直径65mmのボイスコイル、140mmの大型磁石採用の広帯域型。トゥィーターは直径2・5cmのチタンドーム型で、ギャップ内には磁束集中と放熱効果をもつ磁性流体の注入が特長である。
 ネットワークは、リスニングエリア理論に基づく独自の解析により、ユニットと共に今回のテーマの一つであるリスニングエリア拡大を可能とした設計。雄大な低域がベースのくつろいだ音だ。

ビクター MC-101E

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 針先位置に近接して超小型のプリンテッドコイルを取付けた独自のダイレクトカップル方式MC型MC1、MC2に続く、同じ発電方式で高出力型とした新製品である。高出力化のため、従来のマイクロコイルと同質量で3層構造とした多層化コイルは、一層ごとの巻数がMC1の2倍以上あり、パターンはLSIより細かい。多層化の副次的なメリットで適度な内部損失が持たせられるため、一層型では必要な制動用シリコングリスが不要である。リードワイヤーもマイクロコイル同様にフィルム面にリード線を形成し、軽量化と信頼性を向上している。磁気回路も改良が加えられ、コイルパターンの変更とともに、1・3mVの高出力を実現している。
 サラリとした淡白なキャラクターで音色は明るく軽く、細部をクリアーに引出す。帯域はナチュラルに伸びダイレクトにMCの魅力が聴けるのが特長。

マッキントッシュ C29

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より

 マッキントッシュの代表的なコントロールアンプが、このC29である。現在同社は、この他にC32とC27という合計3機種のコントロールアンプをラインアップしているが、価格的に見ると、このC29は、その中間に位置するものだ。しかし、C32は、エキスパンダーなどの附属機能をもったり、帯域分割型のトーンコントロールなどにコストがかかっており、本質的なプリアンプ、つまり、イクォライザーアンプとフラットアンプ部に関しては格差のないものといってよい。同社によれば、C32はまったく新しい製品の出現であり、C29が従来のC28の発展したものという。
 C29は、現在のテクノロジーでリファインした、マッキントッシュの伝統的製品といってよく、使用パーツや回路技術は最新の技術水準をもったものである。機能はきわめてオーソドックスなもので、MCヘッドアンプも持っていない。例によって、中味の詳細は発表されていないから、特性のデータ競走をする姿勢は全くもってない。しかし、その音質の素晴らしさ、信頼性の高さ、作りの入念さ、品位の高い製品としての質感は、まさに高級機たる風格と魅力に溢れているといってよい。新シリーズになって、デザインに若干の変更を受け、両サイドパネルのエッジは、従来の峰型から、すっきりとした直線型に変った。そのため、以前のC28などからすると、やや小型に見えるようになり、さっぱりした印象になっている。人によっては、従来のデザインを好む人もいるようだが、実際使っていると、このほうが美しいと思えるようになる。赤、緑、ゴールドのイルミネーションパネルは、全く同じ精度と仕上げの高さをもつものだし、スイッチ類の感触と信頼性は明らかに向上している。入力切替えなどは全くノイズレスでわずかなタイムディレイのかけられたスムースなものになっている。欠点といえば、わずかに出る電源オン・オフのクリックノイズ(現在は改良された)と、このプッシュボタンの色合いの品位に欠けることぐらいだ。
 なによりも、その明晰で豊潤な音質は、あらゆるコントロールアンプの中で傑出したものであろう。旧C28と比較すると、明らかにワイドレンジとなり、解像力が上っている。それでいて、決して冷たい感触や、ギラギラとした機械的肌ざわりを感じさせず、あくまで、音楽の人肌への共感の情緒を失うことがない。マッキントッシュが常にもっている重厚な安定感は、ここまでワイドレンジ化したC29においても、いささかも失われていないのである。最近のアンプのもっている、冷徹さや、人工的な音の輝きなどとは、次元を異にするヒューマンなサウンドである。音像の立体的な再現、そのアタックの向う側まで見通せるような透明感、ホールのプレゼンスを生き生きと伝える空間感のデリカシーも見事で、オーソドックスなステレオフォニック・レコーディングならば、音はまさに空間に浮遊しながら、音源の楽器はぴたりとステージの上に定まっている。
 レコード音楽を楽しむものにとって、このアンプをコントロールして音楽を演奏する醍醐味を味わうことは至福であろう。決して、コントロールは繁雑ではない。マニアックな知識を必要とするものでもない。むしろ、誰にでも扱える簡易なコントローラーである。一例として、そのローカットフィルターとハイカットフィルターは、一つのスイッチにまとめられ同時におこなうように簡略化されている。人によっては、この簡略化を嫌うかもしれない。しかし、実際使ってみると、こんなに実用的で効果の上からも妥当なものはない。使いもしない複雑なフィルターがついているより、はるかに親切で効果は大きいのである。こうした実用的な一般性をもちながら、高い品位を失わせないところにマッキントッシュの大人の風格がある。2台のセパレート・モノ・プリアンプをコントロールすることに喜びを感じる人とは無縁の完成品なのである。いい意味でメーカー製らしいバランスのとれた製品といえるだろう。クォリティと生産性の調和という難問を見事に克服している専門メーカーらしい貴重な存在といえるだろう。

オーディオテクニカ AT-150E/G

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 新しくモデルナンバーを3桁としたAT100シリーズは、カッターヘッドと相似的な発電方式を採用した独自のVM型で世界的に知られるオーディオテクニカの第2世代を意味する新シリーズだ。AT150E/Gは、4機種あるAT100シリーズのトップモデルである。
 新シリーズは、発電系に継ぎ目のない一体構造のラミネートコアに、横方向からボビンを挿入し、磁気ギャップをくぐらせてコイルを巻くパラトロイダル発電系を採用している。この方式は磁気損失が少なく、AT25のトロイダル発電系に近い発電効率が得られ、周波数特性上で数kHz付近の凹みがなく、インピーダンスも従来型より一段と低い。
 カンチレバーはベリリウムパイプ使用。アルミダイキャストボディとMS9マグネシウムヘッドシェル付である。
 従来より一段と低レベルが鮮明で音色は明るくトレース能力が向上した。

ダイヤトーン DS-32B

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 従来では、大口径ウーファー採用の2ウェイ構成システムで製品ラインアップを形成していた価格帯に、ダイヤトーンが初めて登場させた、3ウェイ構成かつ、エンクロージュアにバスレフ型を採用している点が特長の新製品である。
 25cmウーファーは、独自の NFリング採用の低歪磁気回路使用で、コーンはプレス圧を下げたノンプレス型に近く、ボイスコイルは特殊合成ゴムダンプリング付で、全体に内部損失を増加した設計。10cmコーン型スコーカーは、カテリーナカーブにコルゲーションを配した整合共振型とし、ドライブレス法で造ったコーンと横ゆれに強いV字型エッジ採用。4cmセミドーム型トゥイーターは、小口径コーン型に円錐型チタンセンタードーム採用である。エンクロージュアは、モーダル解析法により100Hz以下で振動発生が少ない木製ダクト付バスレフ型で、従来より奥行きを深くした新設計である
 ナチュラルな帯域バランスと明るく明快な、本来のダイヤトーンサウンドをもつ優れた製品だ。音の粒子は従来より滑らかで反応も速く、正統派の音。

グランツ GMC-55

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ユニークなピボット型支持方式を採用したMF型カートリッジで知られるグランツ最初のMC型である。発電方式は、巻枠に磁性体を使うタイプに比べ等価質量が小さい純粋MC型で、フラットな周波数特性、優れたクロストーク特性が得られる。磁気回路は、サマリウムコバルト磁石と磁気飽和値が高いパーメンジュールのヨーク採用で、独自の磁束集中用ヨークを採用しているため、インピーダンス3Ωの純粋MC型で0・1mVの高出力を得ている点に注目したい。
 振動系のサスペンションは、磁束集中用ヨークに特殊ボールを固定し、ボールの球心が振動支点となる独自の方式。
 音色は、明るく穏やかなタイプで、柔らかく豊かな低域をベースとした、安定感のある滑らかで大人っぼい音が特長。しっとりとした表現が印象強い。

デンオン SC-306

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 穏やかな表情と、これにマッチしたデザインが巧みなバランスを保った優れたスピーカーシステムSC106を基本に一段とパーサタイルな現代的サウンドにリフレッシュした新製品である。
 使用ユニットは、全てデンマークのピアレス社製で、ウーファー口径がSC106同様に、SCシリーズでは例外的な30cm型であるのが特長。スコーカーは、一見してピアレスユニットとわかる10cmコーン型。トゥイーターは、5cmコーン型のパラレル駆動である。バッフル板への取付方法は、高音と低音用が独自のアルミダイキャストプレートとリングでフレーム全体をバッフル板にサンドイッチ状に締付ける新マウント法を採用し、左右対称型のユニット配置採用で、音場感的、音像定位的なフィデリティが高い。
 音色は、 SC106に比べ、一段と明るく滑らかで、細やかな音である。各ユニットのつながりもスムーズで調和感があり、とくにボーカルの発声や発音のナチュラルさに、海外製ユニット採用のメリットが如実に感じられる。

ダイナベクター DV/KARAT DIAMOND

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のカートリッジ関係の最大の話題は、宝石カンチレバーの開発があげられる。カラットシリーズは、宝石カンチレバー採用の最初の製品として注目される。カラット・ダイアモンドは、ダイアモンドカンチレバー採用の空芯型MCカートリッジで、シリーズ製品カラットはルビーカンチレバー採用である。
 カンチレバーは全長2・5mmと従来の6〜7mmに比べ短かく、通常の構造の発電方式では考えられない寸法である。超高硬度のカンチレバーの採用により、針先の振動はカンチレバー中で周波数によって速度が変化する分散現象が格段に低減され、正確に電気信号に変換されるとのことで、高域共振は70kHzと高い。コイル巻粋は1mm角と小さく、通常のダンパーを使わずサスペンションワイヤーで支持され、ゴムの温度変化は皆無である。
 音色は明るく軽いタイプで反応も速く、鮮明に細部のニュアンスを引出す。

オーレックス SS-L50S

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ユニークな形状のエンクロージュアを採用し、その優れた性能と音質で注目されたSS−L8Sでのノウハウを導入し、各部分の低損失化と新処理方法による新振動板の採用をテーマとして開発された3ウェイ・ブックシェルフ型システム。
 30cmウーファーは、コーン紙表面層に特殊樹脂を含浸しておき、これを蒸し焼きにしてカーボン層とするカーボネートコーンを採用。6cmリング型中音は、40μ厚のチタンリング振動板をマイクロ波プラズマでチッ化処理し、ピストン領域を拡大したタンジェンシャルエッジ採用のユニット。3cmリング型高音は、中音同様の振動板にリング状ホーンを取付けたユニット採用。エンクロージュアは、モーダル解析法による共振防止構造のバスレフ型。ネットワークは、HiΛとΛコンデンサーと新しくUΣコンデンサー、低抵抗無共振型コイルを採用している。
 このシステムは穏やかな表情の低音をベースとし、細身で粒子が細かく、シャープで分離のよい音だ。音を整然と聴かせ、クォリティも高い。

アキュフェーズ AC-1

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 高級アンプメーカーとしてユニークな存在であるアキュフェーズ初のMC型カートリッジである。
 発電方式は巻枠に磁性体を使う伝統的な方式で、カンチレバーは、西独製アルミ・マグネシウム合金パイプ全長の約60%にベリリウムの芯を入れた二重構造。ダンパーは、2種類のダンパーを同軸に使うダンプド・ダンパー方式。磁気回路はサマリウムコバルト磁石採用で、パーマロイ材に0・035mmの銅線を一層巻としたインピーダンス4Ωのコイルにより0・2mVの出力を得ている。カートリッジボディは、強度的に弱い例が多く見られるが、ここではアルミダイキャスト採用で内部損失と剛性の高さを併せもつ設計。別売にMCヘッドアンプが用意されている。
 MCヘッドアンプ使用で、全帯域にシャープに焦点のあった、細やかでクォリティが高く、彫りの深い音だ。