Monthly Archives: 12月 1979 - Page 3

オンキョー MONITOR 100

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

大きな許容入力と微小入力からの直線性、広帯域かつ広いサービスエリアを目的として開発されたモニターの名称をつけた新製品。重量級の低音、チタン・カーボン複合中音とチタン高音ユニットだ。

JR JR-150

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

水平指向性が優れた円筒型エンクロージュア採用でユニークなジムロジャースのの第2弾製品。ウーファーは、並列駆動となり、ドーム型高音も強力型に変わった。

ビクター S-W300

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

キュービックなユニークなデザインにまとめられたスーパーウーファー。30cmユニット前面にはフィルター兼プロテクター板があり背面には38cmパッシブラジエーター付。想像以上の重低音の魅力だ。

デンオン SC-306

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

端正にまとまった音をもつSC106をベースにフレッシュアップした新製品。コーン型3ウェイの使用ユニットはデンマークのピアレス製で定評が高く、聴かせどころを捕えたシステムアップで表現力は新鮮で豊か。

KEF Model 303

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

新しいシリーズに置き換えられたKEFのスピーカーシステムのなかでは、もっとも小型な製品である。20cmウーファーとドーム型トゥイーターの2ウェイで、柔らかく伸びやかな低音と透明な高音だ。

サンスイ SP-511

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

オーソドックスに30cm低音ベースにコーンがたでまとめた3ウェイ。バッフルボードは低音の振動で中高音の汚れを防ぐ特殊構造設計。分散配置でJBL的手法を駆使したネットワークで音は新鮮。

トリオ LS-202

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

振動分割型バッフル構造、独立配置型ネットワーク、新ホモゲン材エンクロージュアで優れた音場再生能力をもつ製品。

ヤマハ NS-100M

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

ブックシェルフ型の原点に戻って開発された完全密閉型アコースティックサスペンション方式3ウェイシステム。活気がある低域と滑らかで透明なソフトドームの音が特長。

ダイヤトーン DS-32B

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

優れたバスレフ型の設計では定評がある伝統的な技術を活かし、コーン型3ウェイとしてまとめた製品。クリアーでフラットに伸びたレスポンスと明解な音像定位が特徴。

ソニー SS-R5

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

この価格帯では数少ない大口径30cmウーファーにアコースティックレンズ付きバランスドライブ型トゥイーターの組合せによる2ウェイシステム。スケール感が十分にあるパワフルで明るいサウンドだ。

マークレビンソン ML-6L

瀬川冬樹

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より

 マーク・レビンソンというアメリカ人の若いエンジニア──といっては正しくない。彼はまたミュージシャンでもあり、録音ミクサーとしても一流の腕を持っているのだから──の完璧主義ぶりについては、いろいろの機会にすでに紹介されている。そして、その彼の作ったコントロールアンプLNP2(L)と、それをいっそうシンプルにしたML1Lが、他に類のない透明な美しい音を聴かせることも、いまではよく知られている。
 LNP2は、1973年にはじめて発表された。彼はその発表に先立つ少なくとも2年以上まえにその原型をほとんど完成させていた。が、発売後も彼は持ちまえの完璧主義で、LNP2に随時改良の手を加えていた。マーク・レビンソンのしプが、発売後ほとんど同じモデルナンバーで売り続けられているために、レビンソンはモデルチェンジをしないメーカーだと一般には理解されているが、実際には彼のアンプは、もう全く別のアンプと言ってよいくらい、内部の回路も使用パーツも、とうぜんその音質も、変ってしまっている。最新型のLNP2Lと初期のLNP2を聴きくらべるとそのことがよくわかる。初期の製品を、最新型とくらべると、ずいぶん音が曇っているし硬い。反面、最新型にくらべて音の肌ざわりがどこか暖かいとかえって旧型を好む人もあるが。
 そういうアンプの作り方をするレビンソンの、現時点での最新作が、このML6で、シャーシから電源まで完全に独立したモノーラルのプリアンプだ。したがってステレオ用としては二台を重ねて使う。とうぜんのことながら、すべてのコントロールは、LR別だから、ボリュウムも二つを同時にまわす。といってもこれは実際には意外な難作業だ。というのは、このプリアンプでボリュウムを絞って聴きたいときのボリュウムコントロールの位置は、絞り切った点からほんのちょっと上げただけのあたりに最適位置があって、そういうポジションでステレオの二台の音量を正確に合わせるというのは、ひどく難しい。
 ただし、コントロールのツマミはこれ以外にはもう一ヵ所、入力切替スイッチしかついていないから、ボリュウム以外には操作のわずらわしさはない。とくに入力切替は、フォノとライン(AUX)の中間にOFFポジションがあるから、レコードのかけかえ等にいちいちボリュウムを絞る手間は省ける。とはいっても、レコード一枚ごとの音量を小まめにやりたい私のような人間には、このボリュウムの操作は気が狂いそうに難しい。
 だいたいこのML6というアンプは、音質を劣化させる要素をできるだけ取り除くという目的から、回路の簡素化を徹底させて、その結果、使いやすさをほとんど無視してまで、こんにちの技術水準の限界のところでの音質の追求をしている製品だけに、そういう事情を理解しない人にとっては、およそ使いにくい、全く偏屈きわまりないプリアンプだ。個人的なことを言えば、私はレコードを聴くとき、できればトーンコントロールが欲しいほうだから、本来、こんな何もないアンプなど、使う気になれないというのが本心だ。
 そうでありながら、このML6の鳴らす音を一度耳にした途端から、私はすっかり参ってしまった。なにしろおそろしく透明で、素直で、音の表情を素晴らしくナイーヴに、しなやかに、鳴らし分ける。どこか頼りないくらい柔らかな音のように初めのうちは感じられるが、聴いているうちに、じわっとその音のよさが理解されはじめ、ふわりと広がる音像の芯は本当にしっかりしていることがわかる。こういう音を鳴らすために、いまの時点でこういう使いにくさがあるとしても、こりゃもう仕方ないや、と、いまやもうあきらめの心境である。
 しかしレビンソンが菜食主義であるせいだろうか、彼の音には、こってりした、とか、たっぷりと豊かな、とか言う形容の音がない。そこが、レビンソンを嫌う人の少なくない点だろうか。

SUMO The Power

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

「ザ・パワー」とはよくつけた名前である。設計製作者のジム・ボンジョルノは、かつて、アンプジラを、テァドラを世に出した男で、アンプ作りの天才ともいわれるが、そのネーミングのセンスの奇抜さからも想像できるように、きわめて個性的な発想の持主だ。エンジニアとして型破りのスケールの大きな人間味豊かな男である。音楽好きで、自ら、ピアノを弾き、アコーデオンを奏でる。その腕前はアマチュア域を越えている。そして大変な食い道楽であり、ワインには滅法うるさい。話し出したら文字通り口角泡を飛ばして、止まるところを知らない情熱家だ。
 その彼が、新たに設立したスモ・エレクトリック・カンパニーから発売した一号機が、この「ザ・パワー」である。400W/チャンネルの大出力アンプであるがその内容もユニークだ。フォア・クォドラント差動平衡型ブリッジ回路という、このアンプの構成は、スピーカーをつないで鳴らしてみれば納得せざるを得ない。今までにない強力なパワーアンプなのである。スピーカーというものの実体を正しく把握して、スピーカーを勝手に動作させない……つまり、あくまで、スピーカーに与えられる音声エネルギーに忠実にスピーカーが動くように、いわば強制的にドライヴするアンプといってよいだろう。そのインピーダンスの周波数による変化や、振動板の動きから生じる慣性に影響されることなく安定して動作するアンプが、ボンジョルノの開発のポイントであった。アンプ内の回路構成はバランス型で、入力から出力まですべてブリッジアンプ構成とし、その4隅から同時にフィードバックをかけることにより、スピーカーをプラス側だけからドライヴするのではなく、マイナス側からもドライヴするべく、スピーカー端子にプッシュプル・フィードバックをかけるという考え方である。新開発のパワートランジスターをはじめ、使用パーツは入念にセレクトされ、そのほとんどが、米国軍用規格適合品を使い、シャーシはユニークなモノコック構造で組み上げられている。4組の独立電源部と10組の安定化電源、電圧・電流値・位相・温度の変化を自動検出し、異常時には100ナノセカンドの高速で回路をシャットしてアンプを保護する保護回路などを装備した超弩級のアンプである。かなりの大型のボディだが、重量は比較的軽く36kgである。大胆な外観からすると内部の作りは緻密で美しい。設計者自身、理屈より音だという通り、この「ザ・パワー」の音が、何よりも雄弁に、その名前の正当性を証明してくれるであろう。
音質について
 このアンプの音は、ひかえめにいっても、今までに聴いたことのない力と豊かさに満ちている。しかも、決して荒さや、硬さを感じさせるものではない。音としては、妖艶といってもよい。脂の乗った艶と輝きをもち、深々とした低音の魅力は他に類例のないものだといってよい。試聴に使ったJBL4343は、まるでブックシェルフの小型スピーカーのように手玉にとられ、アンプの思うように自由に鳴らされる、といった感じである。この、かなり個性と主張の強いスピーカーが、名騎手に乗り馴らされた荒馬のように素直に整然と鳴らし込まれてしまうのである。他のチャンスにアルテックのA5を鳴らした時もそうだった。あのA5から信じ難いほどの太く豊かで、深い低音が朗々と鳴ったのである。今回の試聴でも、ベース奏者が、他のアンプで聴くよりずっと指の力が強く、楽器を自在にコントロールしているように聴えた。中域から高域にかけても、常に肉のついた豊かさと血の通いが失せない。ヴァイオリンの高域のデリカシーということになるとやや大把みだが、しなやかで暖かい。

JBL 4333A

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 最もオーソドックスな3ウェイモニタースピーカーだ。音はあくまで精緻で正確無比、それでいて音楽の味わいを聴かせてくれるところが、やはりJBLの持っている良さである。

SAE Mark 2600

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 大掴みには立派な音で、明解な音像の鳴らし分け、ワイドレンジのスケールの大きなハイパワー再生と、豊かな能力をもった優れたアンプである。細かく聴くと、弦楽器に、どこか不自然な質感があること、ピアノの粒立ちがもっと細やかで冴えてほしいとこと。

パイオニア PL-L5

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 世界初のリニアモータードライブのリニアトラッキングアーム採用のマニュアルプレーヤーシステムPL−L1の開発に代表されるように、パイオニアは、一般的なオフセット型アームに比べて基本性能が一段と高いリニアトラッキング型アームを採用したプレーヤーに意欲的であるが、今回発売されたPL−L5は、リニアモータードライブ、リニアトラッキングアーム採用の電子制御フルオートプレーヤーシステムである。
 ターンテーブルは、独自のクォーツPLL・DCホール素子切替型で、モーター軸受を重心に近づけたSHローター方式のモーターで駆動される。
 トーンアームは、リニアモーター駆動でSN比が高く、ショートアームのため等価質量が少なくトラッカビリティが高い特長がある。オート機構はIC制御型でリピートは盤面上で再リードインするクイックリピート型。モーターとアームはサブシャーシーに固定され、これをスプリングとダンパーゴムでダイキャストベースからフローティングしたコアキシャルサスペンション方式だ。

マランツ Model Sm1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

特徴
 マランツといえば、その名は泣く子もだまるオーディオ界の名門。ソウル・マランツの手を離れ、広くバラエティに富んだ製品が、このブランド名の下で作られるようになった現在だが、トップエンド製品では、その血統を受けついだ優れた製品が作り続けられていることは喜ばしい。パワーアンプも、♯500、♯510は長くリファレンスアンプとしての信頼を維持してきたことは御存知の通りである。そのマランツから今度新しく発売されたSm1000は、現時点での新しいテクノロジーにより、400W/チャンネルのステレオパワーアンプで、同社のプレスティッジ製品としての力の入れようが理解出来る力作といえる。マランツの名声を受け継ぐことは名誉であると同時に重荷でもあるはずだが、この製品、決してそうした期待を裏切るものではない。もともと、ソウル・マランツはインダストリアルデザインに手腕を発揮した人だけに、そのデザインイメージの継承も、現在のマランツ・メンにとって大きな負担であるだろう。ゴールドパネルを基調とした高いクォリティは、往年のオリジナルモデルと同種の品位は感じられないにしても、よく、マランツのイメージを活かしていると思う。
 このSm1000は、オーソドックスなパワーアンプといってよく、その構成は、かつて、二台のモノアンプをドッキングしてステレオ構成とした♯15などのオリジナルにならい、左右独立構成をとっている。800VA容量のカットコア・トランスと20000μFの大容量コンデンサー2本をそれぞれのチャンネルに使った信頼感溢れる電源部を基礎に、全段プッシュプル構成のパワーブロックは透明で暖かいサウンドクォリティを保ちながら400Wの大出力をひねり出す。NF量も比較的少なくして、これだけのクォリティを得たことにも、音質重視の設計思想が理解できるだろう。スピーカー端子もダイレクト・コネクトで、保護リレーは使っていない。スピーカー保護は、一側フューズを切断する方法である。よく選び抜かれた素子やパーツを使い高い安定性を確保したDCアンプといえよう。
音質について
 音質は、大変ウォームな肌ざわりを持ったのだ。ゴールドフィニッシュの外観からは、もっと華麗な音が想像されるが、鳴らしてみると、しっとりと落着いた柔軟な音に驚かされる。ピアノには、もう一つ、しっかりした芯のある粒立ちが欲しいという気がしたが、しなやかなヴァイオリンの魅力にはうっとりさせられた。甘美な個性ととれなくもないが、決して、その個性は癖というほど強いものではない。むしろ、これは、レコードの個性を素直に再現した結果と思われる。とかく、冷たい、ガラスを粉々にしたような鳴り方になりがちな大聴衆の拍手の音を聴いてみたが、このアンプでは決してうるさくならず、自然な拍手の量感が得られた。オーケストラもウィーン・フィル特有の繊細で艶のある、滑らかな弦の音がよく生きて楽しめた。
 ジャズでは400W/チャンネルの力感を期待したが、それは、やや肩すかしを食った感じであった。JBLの4343が、どちらかというと、きれいに鳴らし込まれる方向であった。ベースは明快によく弾むのだが、もう一つ豊かさが出てほしいし、チャック・マンジョーネのブラスには、もっと輝きのあるパンチの利いた音が欲しかった。400Wを量的に期待した話ではなくその音質面での力感が、少々物足りなかったのである。「ダイアローグ」のベースとドラムスのデュオにおける、バスドラムのステージの床に共鳴するサブハーモニックス的量感ももう一つ大らかにどっしりと、床の広さを感じさせるような響きが欲しかったと思う。

ヤマハ PX-2

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 リニアトラッキングアーム採用の超高級プレーヤーPX1に続く第2弾製品で、オート機構の整理、アームドライブ方式の変更で、リニアトラッキングプレーヤーとしての完成度は一段と高まった。プレーヤーベースは、PX1同様に5mm厚音響用アルミダイキャスト製で、重量17kgの防振設計。重量1・3kgの厚いアクリルダストカバー付である。
 トーンアームはPX1のギア駆動からベルト駆動に変更され、水平トラッキングエラーは±0・15度以内の高精度を誇る。高さ調整、パイプ部にスライドリング型針圧調整付。モーターはクォーツロックDCコアレスホール型。正逆両方向サーボ、電子ブレーキ付で大容量定電圧電源採用である。
 オート機構は、新開発ロジックIC制御のフルオート型で、マニュアル時のアーム送りはボタンの押し方の強弱で速度が変化する2スピード型で動作は軽快。
 PX2は引締まった低域ベースのシャープでクッキリとコントラストをつける明快な音が特長である。リニア型のメリットで輪郭がシャープだ。

ステート・オブ・ジ・アート選定にあたって

瀬川冬樹

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「Hi-Fiコンポーネントにおける第2回《STATE OF THE ART》賞選定」より

 まず〝ステート・オブ・ジ・アート〟の意味あいについて、これは昨年度(49号)のこの項で書いたことを再びくりかえしておく。
 第一に、それぞれの分野での頂点に立つ最高クラスの製品であること。第二に、それがその分野でのそれ以前の製品にくらべて、何らかの革新的あるいは斬新的なくふうのあること。第三に、革新あるいは斬新でなくとも、それまで発展してきた各種の技術を見事に融合させてひとつの有機的な統一体に仕上げることに成功した製品であること。
 要約すれば、ざっとこんなことになる。ただしこれはあくまでも私個人の解釈であって、この〝ステート・オブ・ジ・アート〟選定にあたった9人の選定委員のあいだには、こまかな部分での解釈のちがいがあることと思う。
 別項に〝ステート・オブ・ジ・アート〟選定までの経過、および選定の方法についての解説が載るはずだが、ともかく、昨年以来この一年間に発売された内外のオーディオパーツの中から、選定委員各自が、各自の解釈に従ってリストアップをする。それを編集部で整理して、誰がどの製品を選んだかは一切わからないようにした一覧表が廻されてくる。昨年もそうだったがことしもまた、そのリストを見るだけで〝ステート・オブ・ジ・アート〟の定義について、9人の選定委員のそれぞれの抱いている概念がいかに違うかという点に、驚かされる。というよりも、〝ステート・オブ・ジ・アート〟の定義または概念について話し合ってみればそこに大きな差はないのかもしれないが、それを実際の製品にあてはめてみると、そこに驚くほど大きな解釈の相違が現れるということかもしれない。
     *
 いずれにしても、そうしてリストアップされたぼう大な製品の中から、投票をくりかえしながら少数の製品に絞ってゆくプロセスで、各自が、自分としてはどうしてもこれを推したいと思う製品が、容赦なく落選してゆくのをみると、私など全く途方に暮れてしまう。他の選定委員の方々はこの点をどう思われるのだろうか知らないが、少なくとも個人的にそんな感慨にふけっていたとき、たまたま、〝モントルー国際レコード大賞〟に日本から審査員として招かれた志鳥栄八郎氏が、その審査のいきさつを書いておられたのを興味深く読ませて頂いた。(「レコード芸術」11月号および「FMファン」25号に詳しい)。多数決の投票によるかぎり、どれかが落されるのはやむをえない。が、そこにゆきつくまでに、十分の討論が交わされ、かつ、候補に上ったレコードを審査員が改めて聴き直す機会が与えられる、という点は、とうぜんのことながら立派だと思った。
     *
 強力に推したかったが落された製品を、あまりにも残念なのでここにあげておく。個人的に名を上げることは許されるだろう。
 第一がオーディオクラフトのアームAC3000(4000)MC、第二はマイクロの5000シリーズの糸ドライブ・ターンテーブル。マイクロのターンテーブルには洗練度という点でいささかの難点がなくはないが、この両者から得られる音の質の高さは別格で、いま私の最も信頼する組合せだ。
 第三に、ケンウッドのL01Tが入ったのならとうぜんL01Aも。
 第四は、オースチンTVA1とアキュフェーズのT104、およびP400。音質、完成度、いずれもなぜ入らなかったかふしぎな製品。
 またこまかいものはいくつかあるが、これだけはどうしてもあげておきたかった。

サンスイ XR-Q9

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 好評のXR−Q5の上級機種として開発されたマイコン制御、サンスイ独自のダイナオプティマム・バランスド・トーンアームを採用したフルオート機である。
 フォノモーターは、負荷変動に対する応答速度を重視した磁気検出ヘッド採用のクォーツロックサーボDD型で、正逆両方向サーボ付である。
 トーンアームはストレート型で、カートリッジはサブシェルを利用して交換可能。針先が拾った振動がアーム軸受部に伝わらない独自のダイナオプティマム・バランス方式と、軸受部分に質量を集中した設計が特長。
 プレーヤーベースは、国内製品には珍しく3本の重量級亜鉛ダイキャスト脚部で支持するフローティングベースにモーターとアームを固定する構造を採用し、重心を低くした独自の吊り下げ方式としている。オート機構はコンピューター制御のフルオート型で、リピートは盤面上で再リードインするタイプである。
 聴感上のレスポンスは広く、活気のあるダイナミックな音が特長で軽質量カートリッジの魅力を十分に引出す。

サンスイ・オーディオセンターの〝チャレンジオーディオ〟五周年

瀬川冬樹

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「サンスイ・オーディオセンターの〝チャレンジオーディオ〟五周年」より

 新宿駅の西口、高層ビルの一群の最も南寄りにあるKDDビルからもうひと筋駅寄りに、明宝ビルというこちらは高層ではないふつうのビル。その一階のひと隅に、、サンスイ・オーディオセンター(ショールーム)がある。この中に約50人を収容する試聴室(第一試聴室)があって、レコードコンサートなどが常時開催されているが、その催しのひとつとして、毎月第2金曜日の夜、オーディオファンの皆さんとの楽しい集まりを定期的に受け持たせて頂くようになってから、この11月で満5年になったのだそうだ。
 だそうだ、とは決して無責任でいうのではなく、毎月一回で五年間、すでに60回を過ぎてこれからも続くこの毎回の集まりが、私自身とても楽しくて、とても5年が過ぎたような気がしないからだ。
     *
「チャレンジオーディオ」というテーマで、菅野沖彦氏と私とが定期的に担当しているこの集まりの、たぶんまだ初めのころ、試聴室に常備されているJBLの♯4350および♯4343(当初は♯4341だった)について、お前はJBLでクラシックが聴けると書いているが、いまこうして鳴っているこの音が本当にそうか、という質問が出た。私はそこで、いや、私の考えているJBLの音とはあまりに遠い、と答えた。それまでは、試聴室でのセッティングにそのまま手を加えずに、不満はがまんしながら鳴らしていた。
 それなら一度、カートリッジからアンプまで言うとおりのパーツを集めるから、ひとつその「クラシックも聴ける」JBLの音とやらを、われわれに聴かせて頂こうじゃないか、というような話になった。メーカーのショールームという性格上、他社製品の持込みはそれまで遠慮していたのだが、たぶんこれがきっかけになって、こんにちのようにメーカー色をおさえた自由な聴きくらべの場を作る下地ができはじめたのではなかったかと思う。
 さて当日、機材の搬入や接続に意外に手間取って、6時開催の時間になってもまだ調整以前の状態だった。もう仕方がないので、いっそのこと調整のプロセスからすべてを、来場の諸兄に一切、手のうちまで見て頂きながら試聴を進めようと居直ってしまった。
 だが最初の一時間は調整が思うようにゆかなかった。聴いている側にも、期待外れの気配が濃厚だった。しかしさらに30分ほど経過して、どしやら調整のピントが合ってくる、室内が妙にシンと静まりかえってきた。それまでのひどい音が目立って改善されてきたことが、聴き手にも伝わりはじめたのだった。完全に調子が出はじめたのはとうに8時を廻ってからだったが、そうなるともう誰も席を立たない。一曲鳴り終えたとき、誰かが思わず拍手してくれた。♯4350の、どうやら85%ぐらいの能力は抽き出せたようだった。それでも、聴き馴れていたつもりのJBLがこんなに別もののような音で鳴るとは思いもよらなかった、という声が私にはうれしかった。
 噂を聞きつけた人たちから、ぜひ聴きたいとの要請があって、やがて同じようなことをくりかすようになったが、鳴らすたびに同じ音はしない。すると常連のあいだから、きょうの音はこの前ほどじゃないと手厳しい批判が出る。その反応はこわいほどだが、こうした体験を通じて、音に関しては百万語尽すよりもともかく、その音を鳴らして聴いて頂くことのいかに重要であるかをひしひしと感じた。活字が一度に数万数十万の読者を相手にできるのにくらべると、こうした場で、一度にしかも良いコンディションで聴いて頂くことのできる人数はひどく限られる。それはいわば「辻説法」ほどにもまだるこいやりかたには違いないが、活字と違って直接、音を聴いて頂く自信は、鳴らし損なったときの怖さと裏腹に大きい。
     *
 だが、毎回このような厳しい試煉ばかりしているわけではない。ときに肩の凝らないなかばゲームのような聴きくらべもあれば、ときにはゲストをお招きして楽しいオーディオ談義に花を咲かせ、またときにはテーマをきめずに来場の諸兄と自由に語り合う。とくに強調したいことは、ここが一メーカーのショールーム、つまりいわば広報・宣伝のための場であるにもかかわらず、メーカー色を全くおさえて、同好の志の全くわけへだてのない楽しい集まりに徹している、という点だ。むろんメーカーとしては、宣伝も広報もしたいだろう。だが、TVの番組でも、提供スポンサーのできるかぎりひかえめであるほうが、爽やかで清々しい印象を残す。ましてメーカーのショールームに、貴重な時間を割いて楽しみを求めて集まる愛好家の誰が、わざわざ宣伝を聞きにくるものか。
 私はそう割り切って、あえて我ままを通させて頂いている。その我ままを通してくださっているのは、「チャレンジオーディオ」の直接の担当者である西川彰氏である。彼はサンスイの社員にちがいないが、愛好家の前では少しもメーカーの一員のような顔をみせない。彼もまた一オーディオファンであり、音楽の好きでたまらないレコードファンで、そのことは来場諸氏にも素直に伝わるものだから、私は彼にすっかり甘えているが、社内ではずいぶんと風当りも強いにちがいない。だが前にも書いた考えから、私はむしろ依怙地なほど──ということはスポンサー側にはひどく失礼に当ることもままあることを承知の上で──、私はメーカー色をおさえているつもりだ。そのほうが結局、スポンサーのセンスを高く評価されると確信して。
     *
 こんな雰囲気の中で五年も顔を合わせていると、常連同士で気の合う人たちの小グループもいくつかできはじめているらしい。そんな下地のできたところに、3年前から、毎年12月の集まりの日に、いつもより早く切り上げて有志で会費制の忘年会をやることが、これも西川氏の提案から実現した。食事のあともそのまま解散にはならないで、どこかのバーで二次会になる。終電車もなくなるころには、学生さんなどは三人五人と気の合う仲間で、どこかの終夜喫茶で始発まで夜を明かすらしい。
 おそらく都内では稀な暖かい集まりをこうして五年続けてこられたのは、そういう雰囲気を楽しんで大切にしてくださる来場諸兄のご協力のおかげだが、また一方舞台裏でのおおぜいの方々、中でもオーディオセンターの歴代所長と所員諸兄、とくに現西川和夫氏所長代理の親身のお力添えを有り難いと思っている。そしてもうひとつ、毎回のようにメーカーや輸入商社から貴重な商品をお借りする面倒な役割を、多忙の中を無理して引受けてくれている本誌編集部のM君はじめ諸兄のご尽力にも、深く感謝していることをぜひつけ加えておきたい。
 そして最後にひとこと、そういう楽しい集まりです。まだご存知ないかた、ぜひお気軽に覗いてみてください。

マイクロ BL-71

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 専業メーカーらしく、ベルトドライブ型や糸ドライブ型の高級機を意欲的に開発しているマイクロのベルトドライブ・マニュアルプレーヤーである。
 ターンテーブルは、外周部の肉厚を十分にとり慣性質量を上げたオーソドックスな設計で重量3・2kg。シャフトは、BL91で採用した直径16mmのステンレス鋼製で、シャフトと軸受メタル間は0・02mmのラッピング鏡面仕上げでオイルバス方式の潤滑系採用である。駆動ベルトはカーボン材配合で経年変化を抑え、駆動モーターはFGサーボ型で、±3%の回転数可変型である。
 トーンアームは、軸受部分の剛性をとくに高めたスタティックバランス型、一体削り出し加工のヘッドシェル付だ。プレーヤーベースは、振動モードの異なる材質を配合した防振構造採用で、表面は黒檀突板仕上げである。
 BL71は音色が明るく伸びやかな音が特長だ。音の輪郭をクッキリと浮び上らせ、緻密さも適度にあるため実体感がある。こだわらぬ自然さが魅力。

デンオン DP-70M

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 二重構造ターンテーブル採用のマニュアルプレーヤーである。上下に二分割されたターンテーブルは、板バネとダンパーで結合され、上部は質量とバネでハイカットフィルターを構成し、レコードを外部振動から遮断して音質劣化を防止する。フィルター効果により数十Hz〜数百Hzの帯域で10〜30dBの振動低減効果があり、クロストークをも含めた音質改善がいちじるしいとのこと。駆動モーターはACアウトローター型で、磁気記録検出クォーツロック方式を採用、正逆両方向サーボと電子ブレーキ付。トーンアームは、独自のダイナミックダンプ機構付スタティックバランス型で、DA401軽量アームと交換可能である。前面に自照式ボタンを配したプレーヤーベースは、70mm厚ソリッドボード積層型で、表面は天然木ブビンガ仕上げの防振設計である。
 音はスッキリとしたワイドレンジ型で、整理して音を聴かせるタイプだが、表情も適度で軽快さが特長。音の粒子は細かく、ナチュラルなプレゼンスがある。高級カートリッジに適した製品だ。

ビクター QL-Y7

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ビクター初の電子制御トーンアームを採用したセミオートプレーヤーシステムである。トーンアームは、軸受部の右側面に垂直方向のセンサーとリニアモーター、水平軸受の延長部にセンサーとリニアモーターを備えた純電子制御型で、アームの上昇、下降、盤面上の左右送り、オートリターン、リジェクトの他、ゼロバランス調整後は針圧調整、インサイドフォースとダンピング量が独立した3個のツマミで針圧対応型で調整できるが、当然、任意の個別調整も可能だ。
 プレーヤーベースはローズウッド仕上げの無共振ソリッド材積層構造で、高さ調整可能なドーム型インシュレーター付。モーターは、コッギングがなく滑らかな回転が得られる高トルク・コアレス構造の偏平型DCモーターで、サーボ系全体の信頼性を従来の約30倍向上させたダブル・クォーツロック方式と、コアレスモーターのトルクの低いデメリットを改善するプッシュプルドライブ方式に特長がある。ターンテーブルは重量2kgのアルミダイキャスト製で、ターンテーブルのつり鐘振動と固有共振を抑える目的で亜鉛ダイキャストを複合した無共振構造を採用している。演奏中に単独コントロールできる針圧、ダンピング調整は、聴感上の最適値を求める場合に有効に動作をする。情報量が多く、表情も豊かで高品位な音である。

サンスイ AU-D907 Limited

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より

 オーディオ専門メーカーとしてのサンスイの評価には、その知名度の点でも、信頼性の点でも、確固たるものがある。俗にオーディオ御三家と呼ばれる、トリオ、パイオニアとともに、日本の伝統的なオーディオメーカーとしてファンの信頼も厚い。そのサンスイの製品のラインアップの中で、最も好評なのが、プリメインアンプの分野である。逆にいうと、他の分野が、サンスイらしからぬ、といえるほどだ。御承知のように、アンプの最高ランクとしては、セパレートタイプであって、プリメインアンプは一般に中級ランクの製品として認識されている。しかし、ププリメイン型が中級ランクとして止まらざるを得ない限界があるわけではなく、現在のアンプ技術をもってすれば、プリとパワーを一体にすることによって、どうしても達成できない難問は、大きさと重さ以外にはないといってもよいだろう。したがって、プリメインアンプのステート・オブ・ジ・アートが誕生しても、何の不思議もないのであるが、どうしても、先に書いたプリメインアンプの市場で位置づけが、この分野から、ステート・オブ・ジ・アートに選ばれる製品の誕生を阻む傾向にあるようだ。その意味でも、今回、サンスイのAU−D907リミテッドが、ステート・オブ・ジ・アートとして選ばれたことは喜ばしいことといえるであろう。
 AU−D907リミテッドは、その名の示すように、AU-D907の限定モデルであって、詳しい数字は知らないが、多分、1000台ほどに限って生産されるモデルであるという。メーカーの商品というものは、市場での競争力もあって、こうすればいいとわかっていても、コストの制約で妥協せざるを得ないという要素が多い。特に、プリメインアンプのように、その商品性が、比較的、一般性のある価格帯のものについては、この傾向が強いと思われる。AU-D907も、高い評価の確立したプリメインアンプであったが、そのよさを、もう一歩、徹底させた製品を作り出したいという技術者の情熱が、このモデルの誕生の背景になったと推測出来るのである。このアンプは、いかにも、物マニアックな心情を満たしてくれるに足りる、密度の高い個体として完成した製品で、ひょっとしたら、AU-D907のファンこそが、もう一台欲しくなるような製品だというような気もするのである。サンスイのプリメインアンプに傾注してきた技術が凝縮したアンプとして魅力充分な製品に仕上っている。細かいことをカタログから引写せばいくらでもあるが、それは興味のある方にメーカーへカタログ請求していただくことにしたい。
 一つのものが、時間をかけて、愛情をもって練り上げられると、不思議に、そのものの個性が磨きをかけられて、強い主張として、見る者、触れる者に訴えかけてくるものである。このAU-D907リミテッドには、そうした熟成した魅力がある。例えは悪いかもしれないが、新製品にはどこかよそよそしい、床屋へ行きたての頭を見るようなところがある。きれいに整ってはいるが、どこか、しっくりこないあれだ。AU-D907リミテッドにはそれがない。刈ってから一〜二週間たって自然に馴染んだ髪型を見るような趣きをもっている。中味を知って、音を聴けば、一層、その観が深まるであろう。
 しっかりした腰のある音は、サンスイの特色ともいっていいが、それが、しなやかな二枚腰とでもいいたいような粘りをもった、深々としたサウンドである。音の輪郭は明確だが、決して、鋭いエッジとしてではなく、立体のエッジとしてのそれである。奥行きのプレゼンスまで豊かに再生するので臨場感があって音楽の空間に共存するリアリティを感じることが出来る。
 木枠に収ったブラックマシーンだが、その肌ざわりは暖かく重厚で中に音楽がぎっしりつまっているような錯覚の魅力。これが、このアンプの個体としての魅力なのではないか。オーディオの好きな人間は、そうした心情を製品に感じたいものなのではないだろうか。

ソニー PS-X75

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 トーンアームにエレクトロニクスの技術を初めて導入し、バランス、針圧などの全てを電子的にコントロールする電子制御トーンアーム(バイオトレーサー)を搭載したプレーヤーシステム、PS−B80は、ソニーの技術水準の高さを世界に示す優れた製品であるが、この優れた再生能力を実用価格帯の製品に実現したものが、このPS−X75である。
 トーンアームは、垂直と水平方向に、独立した速度センサーとリニアモーターを備え、速度型フィードバックにより低域共振を従来より約3dB以上抑え、低域共振による混変調歪と低域のクロストークを改善している。また、バランス調整は手動であるが、光学式レコードサイズ選択、盤面上の部分送りを含むアーム操作を含めたオート機構、針圧調整、自動インサイドフォース調整などは完全に電子制御化され、フロントパネルで任意にコントロールできる。
 プレーヤーベースは、独自のSBMC複合成形材と特殊ゲル状粘弾性体インシュレーター使用。モーターはクォーツロック高トルク型リニアBSLモーターの、マグネディスク回転数検出型で、電磁ブレーキが付属する。トーンアーム軸受はロングスパン構造、高さ調整付。亜鉛ダイキャスト合金製の強固なアームベース付で、内線材はリッツ線使用。滑らかで自然なバランスが音の特長。