Daily Archives: 1978年2月28日

ホシデン DH-90-S

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 まず全体の感じでは、中音域──おそらく1kHz前後の音域──にエネルギーを集中させたバランスのように聴きとれる。その意味ではパイオニアのSE300と一脈通じる音色で、相対的に低音と高音はおさえ気味のところもよく似ている。したがって、ややハードな傾向の音質で、感度が割合に良い方であることとあいまって、ポップス系のパーカッシヴな音など、頭の芯まで叩き込まれるような力がある。しかし低音の量感や、高音の繊細な、あるいは柔らかな表情を求めるのは少々無理のようで、こころみにトーンコントロールで低・高両端を強調してみたが、本質的にレインジが広くないのだろう、高級機のようなひろがりを聴くのはむずかしい。価格的にやむをえないのだろうか。デザインはちょっと国産らしからぬ洒落た部分もあって、見た目には楽しい。スピーカー端子にダイレクトに接続した方が、音が引締って、クリアーになる。

エレガ DR-196C

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ちょっと類型のないユニークなデザインだが、ヘッドバンドをユニットの結合部など、何となくブリキ細工のようだし、ユニットのカバーの仕上げもオモチャふうで、せっかくのおもしろいデザインを材質や仕上げが生かしていないように思える。しかしかけ心地は意外に良好で、手にとっていじっているときは、バンドの金具とユニットのすり合わせの部分などカチャカチャと安っぽい音を出すが、頭におさまってしまうと、本体の軽いこともあるのだろうが耳によくフィットして、不快感はほとんど無く、よく考えられていることがわかる。音質は、中低域にほどよいふくらみを持たせたソフトな印象。ヴォーカルなども歌い手の声にあたたかみが感じられる。オーケストラのトゥッティでは、高域の倍音領域にもうひと息のひろがりがあるとなおよいが、しかしレインジはよく伸びているらしく、適度に色合いや艶も聴きとれ、かなり楽しめる音だと思った。

アツデン DSR-7

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 いわゆる輪郭鮮明な、コントラストの強い派手やかな音で鳴る。レインジはせまくはないが中〜高域全体をかなり強調したバランスなので、たとえばパーカッションを多用したようなポップス系の曲を圧倒的にデモンストレーションするには一種鮮烈な印象を与えておもしろいのだろうが、音楽をじっくり聴き込もうとするにはこの音は少々騒々しすぎ、たとえば管弦楽の斉奏では音がやや金属質にきこえてしまう。レコードのサーフェイスノイズあるいはヒス性のノイズにかなり固有の音色が聴きとれるところから、おそらくユニットの中〜高域に強いキャラクターがあるのだろうと思う。デザイン面では、ヘッドバンドにスウェードふうの質感をもたせたりなかなか凝っていて、かけ心地そのものは悪くない方だ。ただ、ユニット部分は、キャビティ部分の開孔の意匠や材質の使い分けなど、多少おもちゃふうになってしまっているのが残念だ。

オーディオテクニカ ATH-3

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 高域のレインジをあまり伸ばさずに、ハイエンドにかけて丸めこんで耳当りの良い音に仕上げてある。その意味でナロウレインジには違いないが、たとえばパイオニアのSE300の場合には、中音域に一種の強調感──というよりは圧迫感──があったためにその両端のレインジのせまさがいっそう目立ったが、ATH3の場合には、中域から低域にかけては、わりあい過不足なくしっかりおさえてあるので、トーンコントロールで高音をやや強調してやれば、高音域の伸びも一応は聴きとれるようになって、ステレオの空間的なひろがりもなかなかよく出てくる。ということはユニットに基本的な特性のかなり良いものが使われている、ということになりそうだ。高域を増強していないためか、音量をかなり上げてもやかましくない点がメリットといえそうだ。かけ心地は非常に良い部類だが、一見した外観が(細部は違うにしても)ヤマハのデザインによく似ている点は一考をうながしたい。

オーディオテクニカ ATH-7

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 今回試聴した国産のコンデンサータイプに共通していえることは、ダイナミックタイプにくらべると音域が広く、フラットによくコントロールされているところが総体に優れた点だが、その範囲でやはり各メーカーに少しずつ音への姿勢の違いが感じられて、オーディオテクニカの音は、中〜高域にいくぶん強調感を持たせた、華やかさ、あるいは明るさを感じさせるところが特徴といえそうだ。上級機種のATH8とくらべると、こちらの方が感度がいくらか高めで、中〜高域の強調感が強く、よく張り出す音に仕上げてある。またそのためか最高音域のレインジ、あるいは繊細な感じにはいま一歩というところがあるが、これはおそらくポップス系に焦点を合わせた作り方のように思われる。クラシックのオーケストラなどでは、少々華やぎすぎのところがあるかけ心地の面では、重量の軽いせいばかりでなく、重さをあまり意識させない点がなかなかよかった。

ソニー ECR-400

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 全音域に亙って周到にコントロールされたという作り方は、いかにもソニーの他のオーディオ機器にも通じるこのメーカー特有の姿勢が聴きとれる。レインジの広いことではスタックスよりもやや上かもしれない。ただ、ECR400の場合には、ヒス性のノイズがやや強調されて一種の色あいを感じさせるところから、高域に意図的に個性を持たせているのではないかと感じる。そのためかスタックスよりも音に力を感じるが、反面、いくぶん重いというか、むしろや湿っぽい感じの音に聴きとれて、ナマの演奏で感じられる演奏者の心の弾みや、楽器の持つ明るい色彩感や音の艶が、一様にハーフトーンの暗い感じの色に塗りつぶされるように思った。パワーにはかなり強い。やや大ぶりなソフトなイヤパッドと頑丈なヘッドバンドは、プロ用のヘッドフォンのような感じで、ハード好みのヤングジェネレーション好みのデザインに思える。

スタックス SR-44

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 さすがにコンデンサーヘッドフォンでは最も歴史の長いメーカーの製品だと思った。この種のタイプ(アダプター外付けの本格的コンデンサータイプ)の中では最もローコストの部類であるにもかかわらず、レインジの十分に広い、くせのないバランスの良さが、聴いていて十分に納得させられる。ごく初期の製品には、パワーに弱い面があったが、SR44の場合には、常識的な音量の範囲でという条件つきながら、まず相当の音量でも音のくずれることがなく、コンデンサータイプ特有のキメのこまかい、解像力の良い、しかもやかましさのない美しい音が楽しめる。同価格帯のダイナミック型と比較して、アダプターをとりつける手間を別とすれば音質の上では十分にメリットがあると思う。ただ、たとえばゼンハイザーやベイヤーのような、個性も強い反面、いかにも生き生きした音の弾みや艶は鳴らさない。とても行儀がよく、いくらか平面的で、アクの抜けた音だ。

ソニー ECR-500

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 レインジの十分に広いこと、そして低音から高音に至るまできわめて周到にコントロールされて聴感上のバランスがよく、どの音域にも少しも強調感や欠落感のないところは、国産品中随一といっていいぼとで、ECR400がいくらかクセを感じさせたのに対して、これこそまさにソニーの音、と思わせるところはさすがだ。ただ、ECある400のところでも書いたように、音のひと粒ひと粒が、何となく湿り気を帯びたように、その湿った結果として重さを感じさせるように、どこか梅雨空を見上げるような印象があって、聴いているうちに、もっとスカッと晴れ上った、明るい艶のある音にあこがれたいという気持になってくる。言いかえれば音楽が積極的にこちらに働きかけてくるというのではなく、どこかよそよそしくつき放して分析しているような気分にさせられる。パワーには強いこと、創りのしっかりしていることはECR400について書いたと同じ良さだ。

アルファ HPE-777

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 アダプター独立型の本格的なコンデンサータイプとしては最もローコストだが、やはりアダプター内蔵よりは音の腰がしっかりしてきて、ことにパワーを上げていったときに、アダプター内蔵のエレクトレット型が概して飽和したような音になりがちなのにくらべると、はるかに安定感のある音量が楽しめるようになる。コンデンサー型としては、割合に骨太の音がするが、反面、高域に多少のクセが感じられ、ことにヴォーカルの場合に歯のスキ間から洩れるような発声になる傾向がある。もう少し自然な高音域が欲しい感じだ。低音はバランス上はトーンコントロール等で多少増強したいように思う。がこうすると、高域もややおとなしく聴こえるようになる。ヘッドバンドは多少硬めに作られていて、耳への圧迫はかなり強い。コードはスパイラル型だが、使用感の上ではストレートのやわらかいコードの方がいいのではないかと思う。

ナポレックス NSA-3

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ヘッドフォンばかりでなくマイクロフォンや、さらにはスピーカー、ことにトゥイーターの場合でも、コンデンサータイプには、特に高音域に一種特有のコンデンサー・トーンとでもいいたい音色がつきやすい。ナポレックスNSA3は、ことにその音色がいかにもコンデンサー的で、この独特の軽い艶はダイナミックタイプでは絶対に聴けない特長だ。この個性は好みにもよるだろうが、私には必ずしも不快ではなく、やや人工的な色あいを感じさせはするものの、弦楽器のオーバートーンなどを爽やかに浮き上らせ、楽しませる。ロック系を含めたポップスでも、リズム楽器がよく浮き上って軽快に切れこむ。低域はやや不足ぎみだが、アンプで補正すれば量感は満足できるし、ことに国産にありがちの低音の反応の鈍さ、重さがない点は評価したい。かなり個性の強い音には違いないが、音楽が気持よく明るく軽くよく弾む鳴り方は、かなり良い特長だと思った。

ゼンハイザー HD-400

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 とりあげたとき、あっと驚くほど軽く、全く何気ない作りなのに、この音の良さはどうだろう。第一に、音楽の土台となる中域から低音域にかけて、音がとても豊かでみずみずしい弾力があって聴き手を楽しませる。中域以上高域にかけては、なだらかな下降特性のように聴こえるが、弦にも声にも独特の艶と張りがあって、しかも音量を上げても少しもやかましくない。ヘッドバンドとユニットの結合部分など、見たり触ったりしているかぎりは、まるで手抜きの作り方のように思えるのに、耳にかけてみると、当りは強すぎも弱すぎもせず、とても快く耳にフィットして、これなら長時間かけていても少しも疲れない。ヘッドフォンをかけた耳に外部から漏れてくる音も、少しも変形せずごく自然なのでいっそう快適だ。そして音楽が鳴りはじめると音が空間にひろがって消えてゆくその余韻までが何とも繊細に美しく展開される。これは良いヘッドフォンだ。

テクニクス EAH-320

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 テストソースの中から、ブラームスのピアノ協奏曲第一(ギレリス/ヨッフム)をまずかけてみて、冒頭のベルリン・フィルの斉奏が、まるで笛のような妙に鼻にかかった音色に変形してきこえてびっくりして、あわてて他のレコードをいろいろかけてみたが、そのどれもが、鼻をつまんだような或いは波の欠けたような音色になる。グラフィックイコライザーでいろいろ探ってゆくと、だいたい3kHzあたりを6dB以上も大幅にダウンさせると、この独特の音色の大半は除くことのできることがわかったが、これはどう考えても妙だ。ただ、テストソースを国内録音の歌謡曲やフォークなどにすると、右に書いたほどには異和感を感じさせなかったのは不思議だった。デザイン上では、ヘッドバンドの部分に耳への当りを細かく調整できる(そのわりには大げさでない)くふうがしてあって、かけ心地はなかなか良い。重量のある割には重さを意識させないのはその辺のうまさだと思う。

サンスイ SS-80

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 全域に亙って充実感あるいは重量感を感じさせる音だ。楽器の低音の支えがしっかりして、うわついたところのない安定な音を聴かせる。音色はどちらかといえばやや暗い感じだが、バランス的にはおそらく2kHz近辺をはさんで中〜高音域にやや固有の音色があって、音量を上げると少々圧迫感が出てくるので、おさえぎみで聴く方が好ましい。音量と音色(トーン)の調整がユニット部についているが、音量調整は便利としても音色調整(トーンコントロール)の方は、これを使うと低音は出ないし音に妙なくせがついてくるしで、どこがいいのか全くわからない。しかも音量調整の方にはクリックがついている(ただしちょっとした力で動いてしまう)が、トーンの方はいつのまにか動いてしまうので具合が悪い。かけ心地の点は、いささか重いことを別にすれば耳へのあたりは悪くないが、半密閉型のせいか、かすかに漏れて聴こえる外部の音が、なにか洞窟の中のような妙な響きに聴こえて気分が良くない。

オーレックス HR-810II

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 HR710からX1……と聴きくらべてくると、大型になったせいか中域以下の力感が増してきて、音の腰が坐ってくる。ただ、高域の繊細さの点ではX1の方が勝っているようで、X1とくらべると、音域が全体に下にズレたような印象だ。ヘッドフォン専用端子にそのまま接続できるが、スピーカー端子から直接とった方が、音がクリアーで音像が明瞭になる点は710やX1と同様である。ただ、同じメーカーの、同じような構造のヘッドフォンでありながら、それぞれが全く別のメーカーの製品のようにデザインに統一のないのはいささか奇異に思える。見た目の印象を別としても、かけ心地がそれぞれ全く異なるのはどういうわけだろうか。そしてかけ心地の点ではこの810/IIはあまり感心できない。ハウジングの部分を支えるステーに遊びがないために、ユニットの角度があまり自由にならなくて、耳への微妙な当りが調整できないのでスキ間ができてしまうのだ。

トリオ KH-800

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 エレクトレット型としては割合にローコストのグループに入るが、音質はなかなか良いと思った。強いていえば低音の量感をトーンコントロール等でわずかに補う方がいっそうバランスが良くなるが管弦楽、ヴォーカル、ジャズと何をかけても、ひととおり楽しめる程度に過不足のない音を聴かせる。音が耳もとに張りつくのでなく、適度に空間に浮ぶ点も圧迫感が少なく聴きやすい原因だろう。ヘッドフォン端子に接続するときもバランスは良いがスピーカー端子から直接とる方が、高域での音の艶や切れ込みが増して好ましく思った。ただ、こうすると潜在的に持っていた高域端の強調感がやや目立って聴きとれて、それが一種の固有の音色になるが、しかし決して不快なものではない。かなり音量を上げてもバランスのくずれることが少ない点も良い。耳への圧力は弱い方ではないが、耳たぶへのあたりの面積の広いせいか、長時間かけても不快感は少ない。

オーレックス HR-X1

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 エレクトレット型の新製品ということで、特徴は各パーツがバラバラに分解できる点にある。非常に軽快なデザインで、かけ心地の点はきわめて良好。公称上の重量がHR710と同じであるにもかかわらず、耳にかけた感じでは、2/3ぐらい軽くなったように思える。側圧が少ないこともあって、耳を圧迫する感じがほとんどなく、長時間の使用にも疲れが少ないだろうと思う。ただ、テストのために何度か分解しているうちに、各チャンネルのつけ根のところがこわれてしまった。あまりタフな作りでないところが少々気になる。HR710のようにスピーカー端子から直接とった方がクリアーな音になる点は同様だが、710よりも音の鮮度が高く、能率もかなり高いので音量を絞って聴いても音像が自然で解像力が良い。しかし音量を上げるにつれて中〜高域が張り出して、大音量での聴取は多少やかましく、やはり中程度以下での試聴に適しているようだ。

ナポレックス CTX-3

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 耳に密着しないために低音のエネルギーが逃げやすいことは構造からも想像がつくが、このままでは低音が全くといっていいほど不足だ。ただし中域以上の音の質やバランスはかなり優秀のように思えたので、アンプのトーンコントロールと、それにラウドネスまで動員して低音を増強してみると、なかなか質の高い緻密でクリアーな音が楽しめる。耳もとから離れて鳴る音場は独特でおもしろい。こうして低音を大幅に補強して聴く際には、出力をヘッドフォン端子からでなく、スピーカー端子から直接とる方が、歪の少ない美しい音が聴ける。なおレコード再生の際はサブソニックフィルターを必ずONにしておく。それとアンプのスピーカー出力端子で残留ノイズの少ないものを使うことが条件になる。本体がやや重いこともあって、耳たぶの周囲をおさえるリング状のパッドの圧力が大きめで、試聴が長時間に及ぶと装着感は必ずしも快適とはいいがたかった。

AKG K140

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 いかにも実質本位に作ったという感じの外観だが,鳴らしてみると低音が非常に豊かに聴こえるのでびっくりする。いわゆる物理データ上の特性は知らないが、実際にレコードを聴いているときの「低音感」がとても豊かだ(もうひとつ上のクラスのK240を聴くと、AKGがこの「低音感」を非常に重視していることがわかる)。相対的な音のバランスでは、たぶん3kHz近辺を中心とした中〜高域にやや強調感があって、音の自然さという点では前に出てきたゼンハイザーのHD400に及ばないが、中〜低域の充実感という点でK140にはまた別の味がある。低域の支えがしっかりしているせいか、中〜高域をここまで張り出させても、いわゆる圧迫感とかやかましさというような弱点にはならないところはさすがだ。かけ心地という点では、パッド部分がやや「耳をおさえている」という感じが強いのが、かけていて少し気になった。

イエクリン・フロート Model 1

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 かける、というより頭に乗せる、という感じで、発音体は耳たぶからわずかだか離れている完全なオープンタイプだ。頭に乗せたところは、まるでヴァイキングの兜のようで、まわりの人たちがゲラゲラ笑い出す。しかしここから聴こえてくる音の良さにはすっかり参ってしまった。ことにクラシック全般に亙って、スピーカーからはおよそ聴くことのできない、コンサートをほうふつさせる音の自然さ、弦や木管の艶めいた倍音の妖しいまでの生々しさ。声帯の湿りを感じさせるような声のなめらかさ。そして、オーケストラのトゥッティで、ついこのあいだ聴いたカラヤン/ベルリン・フィルの演奏をありありと思い浮べさせるプレゼンスの見事なこと……。おもしろいことにこの基本的なバランスと音色は、ベイヤーDT440の延長線上にあるともいえる。ただ、パーカッションを多用するポップス系には、腰の弱さがやや不満。しかし欲しくなる音だ。

オーディオテクニカ ATH-5

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ATH3が中低域に厚みを持たせて高域をおさえた、いわば丸みのある豊かでソフトな音に仕上げていたのに対して、ATH5は、より高価であることを意識してか、高域のレインジをぐっと広げた作り方をして、聴きようによっては、同じメーカーの同じシリーズとは思えにくいほど違う音に仕上げてある。たとえば管弦楽の斉奏などでATH3が音をひとつの固まりのように、言いかえればややモノフォニック的に聴かせたのに対して、ATH5はディテールがよく浮き出して音を空間にひろげて聴かせる。が反面、ヴォーカルなどではATH3よりも肌ざわりが冷たいし、それよりも聴き馴れた歌手の声が少し変って聴こえることから、中〜高域にやや固有の音色のつきまとうことが感じとれる。ATH3は能率がかなり良かったが、こちらはその点では水準なみというところ。デザインやかけ心地についてはATH3のところで書いたことと

コス ESP/10B

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 小型とはいいながらVUメーターの二個並んだ、凝ったアダプターが付属していて、価格も破格といえる。かけ心地の面でも、国産のコンデンサータイプが概して重さを抑えて、耳への当りを柔らかく軽快に作っているのに対して、ずしりと重さを感じさせ、耳への当りもやや強目にできている。アダプターにはパワーの入れすぎに対する保護回路が入っているとの説明だったが、この回路が、意外なことにあまり音量を上げないうちに作動してしまう。クラシックのオーケストラでも、もう少し音量がほしいというあたりで音が出なくなってしまうほどだから、ましてポップスでは、気持のいい、といえるほどの音量まではとても上がらない。国産のコンデンサータイプの方が格段に大音量が得られる。KOSSのダイナミックタイプのあの充実した密度の高い、そして最高にパワーに強い作り方を楽しんだあとだけに、どうにもふに落ちない気持だった。

ヤマハ HP-1

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 基本的にはHP2の音の延長線上にあることが容易に聴きとれて、強調感のない穏やかで品位の高い、しっとりした再生音がどんなプログラムソースにも一貫して好感を与える。HP2よりも音のスケール感がひとまわり向上し、音の密度も増し、音像がいっそう明確に姿をあらわしてくる。ただ、たとえばテストソースの中のベーゼンドルファーやスタインウェイの音色でさえ、どこかヤマハピアノの音色に近寄ってしまうように聴こえるというのは、ひと言でいえば音の艶を少しおさえすぎているためではないかと思う。そのことと関連して、ステレオで鳴った音が広い空間にひろがり、漂い、余韻をひいて消えてゆくあのデリカシーがいまひとつ物足りない。ユニットの径がHP2より大きいため、パッドもひとまわり大きく、ユニットの重量も増しているが、ヤマハ三機種の中ではこれが最もかけ心地が優れていると感じた。

フォンテック・リサーチ minifon A-4/MK4

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 国産の中では破格に高価な製品だ。正直のところ私には、この高価格がどういう理由からなのかよくわからないのだが、ともかく大づかみにはA4の延長線上での音の作り方で、そのことからいっそう、このメーカーの音に対する姿勢が明確に聴きとれる。A4のところでも書いたことと一部重複した言い方になるが、ヘッドフォンに限らずオーディオ機器全般の、こんにちの広帯域化の傾向にあえて背を向ける、という言い方が不適当なら、抵抗している、といんうのがフォンテックのポリシーのように思える。ともかく高域がおさえぎみにコントロールされていて、高域の伸びた再生装置でときとして聴かれる高音楽器のハイキーな、あるいは金属的な鳴り方をおそらく嫌っているのだろうと思う。ダイナミックタイプでこれをやったら、解像力の悪い鈍い音にしかならないが、コンデンサータイプの反応の良さを知って作っているのだろう。

パイオニア Monitor 10

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 最近では数少ない密閉型と「モニター」という命名から、おそらくナマ録の際のモニター用を意図して作られたものだと思う。一般の鑑賞用としてはオープンエアタイプの方が快適だが、ナマ録では逆に外部の音に対する遮音性の良さと、かなりの大音量に耐える作り方が必要だ。ことにハイパワーでのモニターの際は、中〜高域での強調感や音の圧迫感をなるべく避けなくては、長時間のモニターで疲労が劇しくなる。その意味からは、音量を思い切り上げて聴いたとき、2〜3kHzを中心にして耳の感度の最も良い中〜高域で、もう少し抑えの効いた音の方がさらに好ましいと感じたが、しかし大づかみにはなかなかうまいバランスに仕上げてあると思った。重量が530gと平均よりかなり重いのも、耳あての調整機構がやや凝りすぎといいたいほど大仰なのも、遮音(密閉度)の良さを最良に保つための配慮なのだろう。やや特殊な目的のためのヘッドフォンといえる。

オーディオテクニカ ATH-8

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ATH7とくらべると、こちらの方が意図的な強調感がなくなって、総体にフラットな感じにコントロールされている。が、それを他のメーカーのコンデンサータイプの中に混ぜて聴いてみると、一種明るく軽い華やぎが感じとれて、これがオーディオテクニカのポリシーあるいは個性であることがわかる。しかし、ATH7の音が、ことにクラシック系のプログラムソースの場合にときとして少々華やかすぎる傾向のあるのにくらべると、ATH8は、その明るさは弱点とはならずむしろ良い意味での個性として聴き手を楽しませる。ソニーが一種湿ったような暗色の音でどこか客観的に音楽を分析させるとすれば、テクニカの音は逆に音楽を積極的に聴き手に伝える。ただそこに、もう少し柔らかく自然な表情が出てくれば、この音はさらに高い完成度に仕上るだろうと思った。LEDによるアダプターのパワー表示はおもしろいアイデアだと思った。