Daily Archives: 1971年3月15日

マッキントッシュ MR71

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 C22(プリアンプ)と同じく、上半分が漆黒のガラス、下半分が金色に分割されたマッキントッシュ独自の伝統的なパターンで、スイッチを入れると実効長約20センチのダイアルスケールがグリーンに美しく輝く。最近の製品でないだけに、目盛はリニアー(同感覚)でもないし、レタリングも少々古めかしいが、文字の輪郭が鮮明だし、指針もはっきりしているから、同調のとりやすさは格別である。同調ツマミの滑らかな感触は、それだけで高級感がある。こういう手触りが、どうしてもまだ国産品には求めることができないのは残念だ。
 音質については不思議な体験をした。同時に比較する他のチューナーと、メーターで出力レベルをぴったり揃えておくのに、マッキントッシュだけは音が引込んで、レンジもせまく音像が小さく感じられる。そこで念のため、こんどは聴感で音量を合わせて比較すると、あの典型的な──豊かでゴージャスな──マッキントッシュ・トーンを響かせるのだ。うまく作られた音だと、しゃくにさわりながらもつい聴かされてしまう。狡猾さを感じるほどのうまい音づくりである。

ルボックス FM-A76

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 FMオンリーのチューナーで、ダイアル目盛がパネルの下の方にあるというのが変っている。これは、同社の有名なテープデッキA77や、プリメイン・アンプA50とパネルのパターンを共通に統一したためであるが、光線の当り具合によってはひどく安っぽい光りかたをして、高級感を損ねるように思われ、個人的にはかなり抵抗を感じる。
 ダイアルスケールはやや短かく、有効長12センチ強の等間隔目盛。文字の書体や照明の色など、かなり大まかな印象。指針の位置がやや見えにくい。
 ランプによるマルチパス・インジケーターを内蔵しているのは大きな特徴で、反射の多い地域でアンテナの向きを調整するのに役立つことだろう。
 音質はたいへん素晴らしい。中低域に暖かみがあり、全体にツヤがある。音の躍動感がよく再現され、音像の定位がよい。なおこれもQUAD同様、受信バンドとイクォライザー特性を日本で変更・再調整したものである。価格も相当なものだが、輸入品の場合は、国産の同等品のほぼ二倍ていどの価格になっていると考えるべきで、性能を評価する場合にも、その点に留意しなくなはならない。

ソニー ST-5000F

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 改めていうまでもない国産最高クラスのチューナーで、大型のダイアル窓に、実効長23センチという長大なスケールが、完全に等間隔で目盛ってある。FM専用機である上に、余計な文字が全然書いてないから、ダイアル面が非常にすっきりしているし、書体もメーター目盛もシャープで格調が高く、いかにも高級感に溢れている。
 同調ツマミを素早くまわしてもゆっくり動かしても、メーターの針のふれの応答速度やダンピングが適当であるため、同調をとりやすいという点、高級品ならとうぜんのことながら、このフィーリングが、5300や5500にまで受けつがれているのはたいへんによいことだ。
 とくに5000Fの場合は、ダイアル目盛がかなり正確に合っている。高級チューナーの中にも、目盛の不正確な製品が少なくないが、目盛の正確さは内容の精度にも結びつく。ただし本機の場合ダイアル指針を控え目にしすぎて、やや暗いところではバックの黒に埋もれてしまう点は一考をわずらわせたい。また、このクラスの製品であれば、アンテナ端子にも同軸ケーブル用のコネクターを設けるよう望みたい。

マランツ Model 23J

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 大きさはトリオなどの製品とほぼ同等。ごく標準的といえるが、パネルの高さがやや大きく、ダイアル窓が左右に長く上下に細いパターンのために、よけいにこのプロポーションが強調されている。同調ツマミは、マランツ♯18以来の、大型フライホイールの摺動する独特のスタイル。窓の右半分をこの大型ツマミ、左半分を二個のメーターが占有している結果、ダイアルスケールの有効長は約12センチ弱と、このクラスのチューナーとしてはごく短かく、この狭いスペースにたくさんの表示を入れて繁雑になることを避けたためか、FM、AMとも周波数の明確な位置が刻まれていないので、ちょっと同調はとりにくいようだ。
 また、同調ツマミを廻す操作とチューニングメーターの針の応答速度がうまく合わないので、す早く同調をとりたいと思うとき、うまくゆかずにイライラしてしまう。メーター指針のふれの早さと針のダンピング(制動)に一考をわずらわせたい。
 音質はたいへんバランスがよく、おとなしくなめらかでありながら適度のツヤも躍動感もある。このあたり、さすがに価格だけのことはあると感心させられる。

ティアック AT-200S

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 日本で最初に直結回路を採用したプリメイン・アンプ200誌リースが最近マイナー・チェンジされたが、それにともなって新たに製作されたチューナーである。パネルの下半分、木目の化粧貼りを施した部分に、同調ツマミ以外のすべてのコントロール類を収容しているので、ふたをしめた状態ではたいへんすっきりした意匠である。
 ダイアルスケールは有効長約16センチ。本体の大きさにしてはやや短かい方だが、目盛は等間隔で簡潔に表示され、指針が赤く光るので指示は明確で、しかもダイアル目盛は、FMのスケールが上半分、AMのスケールは下半分にあって、使用中のバンドの文字だけが照明で浮き上がり、不要の帯域は消えているので、誤読がなく人間工学的に優れた設計である。また目盛の文字の明るさが明暗二段に切換えられる。
 バックパネルにもこの親切さは行きとどいて、75Ω同軸ケーブルをハンダづけせずに接続できるようになっていたり、別売のAZ200(スコープインジケーター=マルチパス等を観測できる)に接続するための専用のコネクターがあるなど、マニアにはうれしい製品である。ごく標準的な、バランスの良い中庸を保った音質であった。

ビクター MCT-105

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 これはなかなかユニークな意匠だ。ブラック・パネルの大きな部分をダイアル目盛板が、上半分をFMバンド、下半分をAMバンドと占有して、切換によって必要なバンドのみ文字とスケールが照明される。これはシャープのST503Jなどと同様のアイデアでおもしろい。ダイアルスケールの有効長は約15センチ。等間隔目盛ではない。FMバンドの左端にセンター指示のチューニングメーター、AMバンドの左端(つまりTメーターの下)にシグナルメーターがあり、FMの場合は二つのメーターが点灯し、AM手はTメーターの方は消えてしまう。どちらの場合も、ダイアル指針はオレンジ色に明るく光っている。AMとFMが完全に独立しているので、AM局とFM局をあらかじめ選局しておいてひとつ切換えることができるのは便利だ。簡単なアンプが組み込まれて、ヘッドフォンをじかに接続できる点も利用価値が多かろう。FMのアンテナ端子に、75Ω同軸ケーブル専用のM型シールドコネクターがついているのも本格的だ。
 音質はMCT104bと共通点があり、音域をうまく丸めておとなしく聴きやすい音に意識的に作られているように感じた。

QUAD FM II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 同社のトランジスター・アンプ・シリーズ303、33とペアに設計されたFMチューナーで、たいそう小柄に作ってある。FM専用とはいうものの、同調ツマミ一個のほか、手をふれる部分がなにもないというさっぱりした外観で、電源のON-OFFもプリアンプの方に依存するという簡潔さだから、QUADのアンプと併用するのでなくては、かなり使いにくい面がある。それでいて、もしも性能が良かったらサブ・チューナーとして使ってみたいと思わせるチャーミングな雰囲気を持っているのはさすがだ。
 ダイアルスケールは有効長約14センチの等間隔目盛。上品で読みとりやすい。メーターはなく、同調をとると二個のネオンランプがシーソー式に点灯し、二個同時に同じ明るさに光った点が同地うょてんを示すというのも変っていておもしろい。ステレオ/モノの切換はオートマチックで、ネオンで表示される。かんじんの音質だが、意識的に(だろう)レンジをせまく作ってあり、それはよいとしても左右の音量バランスがよくないなど、ちょっと期待はずれの感があった。日本で受信バンドを変更した製品なので、これが本来のQUADの性能なのかどうかは断じ難いが。

トリオ KT-7000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 トリオとは商売敵のメーカーのある男に言わせると、トリオのアンプがよく売れるのは、アンプ自体の性能よりもKT7000の性能の良さに引きずられて売れる、のだそうだ。むろん私自身はそんなふうには考えていない。それどころか新製品のKA7002、5002あたりは実にすばらしいプリメインだと思っているが、裏がえしていえば、そういう「伝説」が生まれるくらいにKT7000の性能は高く評価されている、とみることができるだろう。つややかでのびのある美しい音質に特徴がある。この本質はゲーT5000、30000にも共通していえる。
 しかし操作上では、やはり本機にもいくつかの難点が見うけられる。第一に、ダイアル目盛の色の光りかたにどことなく安っぽさが残っていて、高級感を損なっている。メーターのスタイルや光の洩れもそれに輪をかけている。ダイアル面はシンメトリーにこだわりすぎたのか、同調メーターとシグナルメーターが左右両端に配置されているが、これを一ぺんに見ようとしたら、目はロンパリになる。指針がやや不明瞭。スケールは約20センチと長くてよいが、そろそろ目盛を等間隔に改善して欲しい……等々。

パイオニア TX-100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 TX50、70、90が、色調など共通のイメージでデザインされていたのに対し、TX100は、新型のSA100(プリメイン)と一体に設計された製品だけに、パネルの色調が従来のゴールドでなく、日焼けした肌を思わせるブロンズ色で、ダイアルスケールも集来のグリーンにかわるスカイブルーというように、旧UAシリーズと明確に区別されている。
 ダイアルの有効長も約21センチとたいへん長くなり、リニア(等間隔)目盛も採用され、非常に見やすくなった。赤く光るスポット指針(同調するとさらに明るく光る)はTX90からそのまま受け継がれ、二個のメーターも大型化し、読みとりやすく適度に高級感を持たせている。最も新しい製品だけに、現時点でかなり完成度の高い高級チューナーといえるだろう。
 アンテナ端子は、75Ω同軸ケーブルを、TVのマッチングトランスの容量でハンダづけ不要で接続できるように改良されたが、このクラスであれば、さらにシールドの完ぺきなコネクターを採用してもらいたいところだ。
 中~高音域のやわらかくおとなしい、パイオニアのチューナーに共通の音質である。

ニッコー FAM-1200

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 FAM14の方は、いろいろとユニークな仕掛けで楽しませてくれたが、こちらは概観も使用もずっとオーソドックスな作りかたをしている。ブラックフェースのダイアル面はかなり拾いが、ダイアルスケールの実効長は14センチとこのクラスではやや短かい。FMの目盛は等間隔。書体や配列も適当である。指針は照明されないがシルエットは割合に読みとりやすい。AM/FMの切換にともなって、必要なバンドだけが照明される点も合理的。二個並んだメーター窓は明るく、指針も明快である。ヘッドフォン・ジャック及びレベル切換スイッチが設けられている点もFAM14と同様。
 ただ、FAM14でも指摘したように、このメーカーの考え方はユニークだが、本機の場合でも、チューニング・メーターの針のふれの方向がダイアル指針の動きと逆の方向に動いてしまうとか、パネルのふちの切断面の仕上げが粗く手ざわりがやふ危険だとか、こまかな処理や仕上げにややこなれきっていない点が散見される。あらゆる意味で製品をリファインすることが望まれる。しかし音質そのものは中高域にのびのびと明るい張りがあって、明快な音はなかなかみごとだった。

サンスイ TU-999

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 AU999とペアにデザインされたためか、チューナー単体としてはやや大柄な部類に入る。しかし大型であるだけに、ダイアルスケールの有効長は約21センチと、ソニーのST5000Fに次いで最も長く、しかも目盛が等間隔なので見やすく、且つ指針自体もランプで明るく光るため、同調点の指示がたいへん明瞭である。高級チューナーらしくメーターもシグナル強度と同調点指示と二個。かなり大型のものがついていて、その目盛もすっきりして美しい。応答速度も適当だった。
 ところが、チューニングメーターのふれが、同調ツマミと逆の方向にふれる。これはぜひ針のふれる方向をいまと逆に改善するべきだ。
 もうひとつ、プリメイン・アンプ(AU999)を含めて、パネル周囲を厚手の額ぶちでふちどりしているが、この額ぶちの角のつきあわせの部分が、まるで刃物のようる鋭く、たいへん危険である。これは早急に改めて欲しい点である。
 いかにもチューナーらしくクセのないバランスのよい音質だが、抑制が利きすぎたというか、なにか精彩を欠く印象で、個人的にはTU888の方に好感が持てる。

テクニクス ST-3600

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 やや大柄なチューナーだが、これはプリメインのSU3600と大きさをそろえて設計してあるためだ。シャープな直線で分割されたパネル面の構成は明快で美しい。
 操作上の特徴は、①等間隔目盛、有効長約17センチの長いダイアルスケール。②細いスリットの中にシルエットでくっきり照らしだされる明快な指針。③同調点の指示に、独特の Distortion Null メーターを採用し、針のぶれが最小のところに同調させれば、ひずみが最小になり、容易に最適同調点が得られる、など人間工学的によく考えられてあり、同調をとることが非常に容易だ。
 操作上の弱点は二つ。せっかくのメーターがややアンダー・ダンピングで、同調ツマミをまわす手の動作をメーターの針の応答速度に時間的なズレを感じさせること、および同調ツマミの手ざわりが、指にねばりつくようで、感触がやや粗い点、改善されるとありがたい。また外観上からは、メーターの機構部をもう少し上手にかくすこと、及びメーター目盛のグリーンとダイアル目盛の黄緑とが、やや不調和のように感じられる点である。音質は中低域があたたかく高域がきめこまかく粗っぽさのないみごとなものだ。

パイオニア TX-90

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 新製品TX100が出るまではUAシリーズの中の最高級品だったが、意匠的にもその感じは現われていて、大きなダイアル窓に赤く小さく光るスポット型の指針が走り、しかも同調するとその光が一層明るく輝くという、たいへん凝った設計である。これに加えてS(入力強さ)メーターとT(同調点指示)メーターの二つがあり、指針の光具合でおおよその同調点の検討をつけた上で、メーターによってさらにこまかく調整するという三段がまえの操作になる。
 窓が大きい割にはダイアルスケール有効長は約14センチと短かいし、リニアスケール(等間隔)でもないが、光るスポット指針のおかげで同調のとりやすさは抜群である。ただ、比較的高価な製品の割にはメーターが小さく、ここだけがやや安手にみえる。
 音質の点では、ごく微妙な差だがTX50、70の音が確実にグレードアップしてくる。耳あたりのよいやわらかい音質は、パイオニアのアンプなどと共通のイメージである。

サンスイ TU-888

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 サンスイお家芸のブラックフェースだが、従来の777や999のような額ぶちをやめて、JBL式のサイドフレーム・タイプで、AU666などと共通のイメージを持つ新シリーズである。
 AU999も大柄な印象を与えるが、888のパネルはそれよりさらに左右に広く、市販チューナーの中でも最も横巾が広い。その点を別にすれば、パネルの配置や背面の端子類の配列などよく整理され、総じて999よりもリファインされた製品という印象を受ける。ダイアル面は999とよく似ているが、999で指摘したメーターの振れのちぐはぐさもなく、ダイアル指針もシャープだというように、全体にサンスイ製品の中では上品でしゃれた雰囲気があって、なかなか楽しい。ただし外観上では二個のメーターの周囲の光の洩れがやや目ざわりであることと、サイドパネルの角が鋭利な刃もののようで危ないという点を、指摘したい。見た目にはシャープな感覚を与えながら、手ざわりはあくまでも温かく安全にというのが、製品を作る本質だろう。
 音質は良い。バランス良く低域が温かく、ふわりと漂う雰囲気など、999よりも良いのではないかと思う。

ローテル RT-620

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 全体の構成やパターンは、RT320と共通のイメージでまとめられた製品だが、それよりもひとまわり大柄で、ゆったりと作られている。
 ダイアルスケールの実効長は約17センチ。割合に長い方だがFM目盛は等間隔ではない。ダイアル面の文字やメーターの目盛は、もう少し明るくはっきりさせたいような気がする。わずかだが照明ムラも感じられる。スケール面がやや暗いのに、ダイアル指針がかなり明るくしかも原色に近い赤い色なので、総体的にはちょっと目ざわりである。針を暗くするよりは、色調をもう少しおさえて、バックを明るくすれば、もっとずっと良い雰囲気になるにちがいない。しかし総体的に、なかなか美しくまとめられたチューナーだといえる。
 価格の割に、いろいろなアクセサリーを省いて実質的な性能をあげるという作りかたのように思われ、試聴の結果も、同クラスの先発メーカーと十分に比肩できる音質を持っていた。高域をやや甘くまるめた感じで、聴感上はややレンジがせまいような気がしないでもないが、耳あたりのよいウォームな音色である。

パイオニア TX-70

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 同社のUAシリーズの中の一連のデザインだが、プリセット・チューニング機構が組みこまれているため、この製品だけは同じシリーズの中でやや表情が違う。
 プリセット・チューニングというのは、あらかじめ選局しておいたボタンを押せば、ワンタッチで目的の放送局を選局できるというメカニズムで、現在のところ5局まで選べるようになっているが、東京でもいまはまだ2局しかないのだから、プリセット・チューナーは時期尚早という意見が強い。しかしTX70は、マニュアルに切換えれば従前どおりダイアル面での選局もできるのだし、プリセットでFMを選局し、ダイアルはAM局に合わせておく、などの使いかたもできるのだから、むしろ使いこなしの楽しいチューナーというべきだろう。
 パネルやダイアル面は当然にぎやかになっているが、よく整理され、メカニックな楽しみがある。音質はたいへんバランスが良く、聴きやすい。プリセット・メカニズムの分だけ割高になりはしないかと意識してテストしたが、それはよけいな思惑だったようで、むしろ買徳なチューナーではないかと感じられた。

ソニー ST-5300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 市販品のなかでは最も標準的なサイズの外形寸法で、同社のTA1166プリメイン・アンプと最もよく合うようにデザインさて居る。パネル中央を大きく窓にして、その中央に同調ツマミを置くというユニークな意匠で、ソニー特有のたいそう理性的な、クールな印象を与える。
 大型の同調ツマミの上側に、実効長約20センチと比較的長いダイアルスケールが置かれ、FM目盛は等間隔で明快に刻まれている。ツマミの左側に二個のメーターがあるが、右手でツマミを廻し、メーターのふれを目で追うにはこの位置が適当で、当然のことながらよく考えられた配置といえる。さすがにメーター指針の応答速度やダンピングもよく調整してあり、同調はたいへん容易にとれる。ただ、ダイアル指針はやや不明瞭で、周囲の明るさによっては少々見えにくい場合がある。パネル面の操作機能も、バックパネルの端子面もよく整理され、色調や視覚表示なども手堅く渋い。
 その音質も誇張がなく抑制が利いたクールな音質を聴かせる。しかしあまりにも無色でむしろ素気ないほどドライな感じで、何かプラス・アルファを望みたくなるのは好みの問題だろうか。

シャープ ST-503J

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 STT31の一段うえの製品で、AM/FMのバンドを上下に分けて、必要な帯域だけ照らし出すというデザインのポリシーは同様だが、31の方はAM/FMとも1コの同調ツマミで操作しているのに、こちらは高価なだけにFM、AMの同調ツマミがそれぞれ独立しているので、スイッチ切換えだけであらかじめ選局しておいたFM、AM各局を瞬間に選択できる点は、ビクターのMCT105と同様に機能上のひとつの特徴である。
 ダイアルスケールはSTT31とほぼ同じ10センチ強。文字の書体や大きさ、その配列はスッキリして明瞭である。赤い小さなスポットライトが、指針として黒バックの中に明快に浮かび上るが、ダイアル目盛とスポットがちょっと寄りすぎているようだ。
 メーターはチューニングとシグナルの二個。AMの場合は一方が消える。総じて、デザインの意図と仕上げとがうまくバランスして、破綻なくよくまとまっている。

オンキョー Integra 423

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 これもごく新しい製品で、プリメインの新形インテグラ725と同じプロポーションでデザインされている。ほかのメーカーとくらべると、シャーシの奥行が比較的深い。要するに真上から見おろすとほほ正方形に近く、パネルの幅が約31センチ強と小さいため、割合せまい場所にでもチューナーとプリメインを並べて置くことができるのはひとつの特徴である。二台並べて約63センチだから、長い方の横綱であるサンスイ888の二台合計約92センチとくらべると30センチもの差になる。
 多くのチューナーが左右に長くダイアルスケールをとっているのに対し、この製品では目盛を上下方向に使っているため、スケールの有効長がわずか7センチと短かくなるのは致し方ないが、チューニングメーター(針のふれ最小点が同調点を示す Null タイプ)の応答速度とダンピングが、手の動きとうまく合わないように思われる。
 おそらく、いわゆる色づけのないフラットな音色をねらった設計と思われるが、実際とりたてて書くべきところがなくて困るほど、まともで正統的な音質である。

トリオ KT-5000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 KT3000と7000の中間に位置するごく標準的な製品で、とうぜん全体の感じやダイアル面などはほとんど同じ印象だが、AM-FMのセレクターすいっ,地が、3000と7000は共に右端にあるのに、どういうわけか5000だけがセレクターのツマミを左端に置いて電源スイッチとセレクターをひとつのツマミで兼用させている。こういう操作上の約束事のようなものは何もないから自由だが、同じシリーズのデザインをした場合、中の一機種だけ操作の手勝手が違うというのは賛成しかねる。こういう点に、デザインの(単にみてくれの意匠だけでない、機能的な意味まで含めての)スジを通してもらいたいものだと思う。
 音質の方は、ふつうに切換え比較したのでは3000、7000との区別がつきにくいほど、三者はよく似ている。しかし今回のテストに限っていえば、むしろ3000とくらべてこちらの方が、強音の部分で飽和的というか、心もち音ののびが不足しているように(ごくわずかの違いだが)感じられた。

ニッコー FAM-14

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 一風変ったデザインで割合小柄にまとめられたユニークな、なかなか楽しいチューナーである。
 たとえば左下ピアノ・キイ・タイプのスイッチのわきにヘッドフォンのジャックがあり、背面パネルの半固定ボリュームによって、最適音量をあらかじめセットしたうえで、フロントパネルのキイ・スイッチによって、さらに高・低二段の音量にセットできる。しかも音量の変化にともなって、ダイアル面の照明の明るさも二段に変化する。
 しかし、ダイアルスケールの実効長が約20センチと、このクラスとしては短かいことや、文字の書体や配列や色の選び方にやや稚拙さが感じられること、また、照明ムラがかなり目立ってところどころ、文字の明るさが違うなど、この価格の製品としての仕上げにキメの粗さが多少感じられる。さらに、このユニークなデザインの意匠をさらに生かすには、パネルの仕上げやツマミ、スイッチ類の感触に至るまで、もう一歩練り上げる必要があるのではないかと感じられた。
 ちょっとおとなしすぎると思われるくらい、きれいにまとめてある。

シャープ STT-31

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 シャープ製のチューナーは、今回二機種テストしたが、このSTT31ともうひとつのST503Jとは、型番のつけかたもデザインも別もののように違えてあるが、これは意識的にそうしたものだろうか。一方はオール・ブラックであり、こちらはアルミの地色を生かした白っぽいパネルである。ダイアル窓の位置やあり方には共通点がみられるが、STT31では、窓の四隅に丸みを持たせたやわらかいパターンに特徴がある。
 FMは上にAMは下に目盛られて、切換によって必要なバンドだけが照明されるので誤操作が避けられるのはうまい設計である。スケールの実効長は約9・5センチ。FMバンドは等間隔ではない。周波数を表わす数字が小さいことと、その下の明るい帯の中の目盛の刻みが細かすぎるために、読みとりに多少わずらわしさが感じられる。
 ダイアル指針はちょっと変っていて、小型計算尺のカーソルのような凸レンズが目盛の上を走るので、細かく刻まれた周波数目盛が大きく拡大されるわけだが、そういう構造を採用するにしては、目盛の精度がちょっとつり合わないのではないかと思う。しかし総体的にユニークな意匠だと云える。

ラックス WL-717

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 もう必ずしも新製品とは云えなくなってしまったSQ707と同時に発表されながら、どういうわけか発売が遅れていたペアーのチューナーである。大きさは従ってSQ707と全く同じだが、プリメインの方が全面金属パネルであるのに対して、こちらは上半分がブラックフェースのプラスチックで、この部分にダイアル・スケールが明るく浮き出るようになっている。一見したところは、このパターン自体はマッキントッシュのMR71にそっくりの印象だ。
 ダイアルスケールの実効長は13センチ弱、ほぼリニアーな(等間隔な)目盛で読みとりやすく、中央の明るい帯の中に、指針が浮かび上がり、きわめて明快なダイアル面だ。スケールや文字の色はわずかに空色を帯びた白に近く、パイロットランプ特有の安っぽい黄色が完全に抑えられているのが気持が良い。せっかくここまでやったのなら、左端のメーターのスケールも、もう少しきれいな色で光らせてくれればさらによいだろう。メーターの指針も、ダイアル面とは逆にかなり読みとりにくく、ここだけがちぐはぐな印象で惜しい。

ビクター MCT-104b

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 ビクターのお家芸であるSEAを組み込んだMCA104(プリメイン)と組み合わせるべくデザインされた製品で、最初のモデルはパネルの周囲がアルミの地色で白く光っていたが、小型でパネル同様にブラック仕上げに変った。ダイアル目盛は丸型で、サンスイを意識したわけではないのかもしれないが、テスト中も、しばしばサンスイと取りちがえたりした。MCT104bでは、ダイアル目盛の中央にメーターを置き、且つ指針を赤く光らせるなど、なかなかに凝った意匠で、FM目盛は等間隔ではないが割合読みとりやすく、同調をとりやすい。背面のアンテナ端子には、近距離受信にそなえて減衰器(アッテネーター)を設けるなど、キメの細かい設計である。
 音質は、意識的にビクター独特のトーンを作っているように思われる。もしかすると、かつてAST140T等がそうしていたように、可聴周波の上の方をカットしているのかもしれない。少なくとも聴感上はそんなようにも感じられた。そのせいかどうか、入力信号との一対比較をすると、演奏者の人数が減るような、情報量の一部を意識的にカットしているような、そんな印象を受けた。

サンスイ TU-666

瀬川冬樹

ステレオサウンド 18号(1971年3月発行)
特集・「FMチューナー最新33機種のテストリポート」より

 AU666とペアにデザインされた、サイドパネル型のブラック・フェースに、特徴ある丸形ダイアルを採用した、ユニークな外観のチューナーである。この基本形はTU555で試みられ、山水の中級及びローコスト・チューナーを非常にユニークな形にしている。
 円形の窓の中に、100等分スケールとFM、AMの目盛が書かれて、へたをすると繁雑になるところだが、嫌味のない素直な文字で、可能なかぎり簡潔に表示したという配慮が感じられる。FM目盛はほぼ等間隔なので、慣れると目盛の角度で同調は容易にとれるだろう。ただ、指針まで光が廻らないため、暗いところでは指示がやや見にくくなる。
 パネルの両わきの金色のサイドパネルの切口が危険なことは、888、999で指摘したとおり。まだバックパネルのアンテナ接続端子は、ワンタッチ式の山水独自のターミナルだが、666、999に使われている大きい端子は、888の新しい小型のものにくらべると少々接続しにくい。
 音質は、高域をやや丸めたように耳あたりがよく粗さのない点は良いが、中高域でやや音の固いところもある。