ビクターのスピーカーシステムSX-V1、プリメインアンプAX-V1、CDプレーヤーXL-V1、カセットデッキTD-V1の広告
(サウンドステージ 26号掲載)
Category Archives: スピーカーシステム - Page 7
ダイヤトーン DS-200ZA, DS-600ZA, DS-800ZA, DS-1000ZA, DS-2000ZA
ハーベス HL Compact 7, LS5/12A
ダイヤトーン DS-1000Z, DS-2000Z, DS-800Z, DS-600Z, DS-200ZA
ハーベス HL-Compact7
タンノイ Stirling/TW
オーディオ・フィジック Brilon1.0, アディトン OPERA, パワー・ウェッジ Power Wedge 116
オンキョー D-102A, A-915R
ダイヤトーン DS-A1
井上卓也
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
ダイヤトーンのコンシューマー用スピーカーシステムは、受注生産となったDS−V9000、V5000、V3000のシリーズと、中堅モデルとして開発されたDS2000Z、1000Z、800Z、600ZをラインナップするZシリーズがその基本路線であり、同社の標榜する「ダイヤトーン工房」的な構想のモデルが、スペシャリティモデルのDS20000や、このDS−A1と考えることができる。
DS−A1は、最初に目に触れたのがプロジェクションTV用スクリーンの両脇に置かれた総合カタログであったため、AV用システムとの誤解を招いた。基本的にはディフラクションを避けるために楕円断面のエンクロージュアを設計し、その天板部分をラウンド形状とするプロポーションがベースであり、各社ともに、このタイプのエンクロージュアを試作し検討した例は多い。これを実際に商品化するモデルとして、制約のなかで出来上がったプロポーションが本機採用のデザインであろう。
本機に組み合せるユニットは、新世代のデジタルリファレンス放送モニター、2S30003のユニット開発の成果が投入されたもので、B4C・5cmコーン型高域と三軸織りアラミッドスキン・ハニカム振動板と三軸織りエッジは、システム価格をはるかに超えた超豪華設計といえる。低域用のネットワークレスの全域ユニットは、2S30003直系の設計である。エンクロージュアは剛性重視設計ではなく響きの豊かさを狙った設計で、開放感があり、のびやかによく鳴り、これは本機以降の同社システムの新しい方向性のようだ。
使いこなしポイント
全域ユニット+トゥイーターの2ウェイ方式とバスレフ型の組合せは、反応がシャープかつセンシティヴで、プログラムソースに素直に反応するため、オーソドックスなアンプが不可欠。設置周囲の影響にも敏感で、設置には細心の注意が必要だ。
ダリ Skyline 2000
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
デンマークのダリのフラグシップモデルが、この製品である。ダリというメーカーは、スピーカーに対するキャリアも浅いし、一貫した設計思想を見出すのも難しく、製品群は創業以来バラエティに富んでいる。多彩なスピーカーアッセンブルの手段をいろいろ試し、自己の求めるサウンドへのアプローチの試行錯誤と、その時点での商品性との接点を求める段階にあると考えられる。しかし、このスカイライン2000というモデルは、こうした段階にあるメーカーが幸運に恵まれた例といってよいだろう。もちろん、それはただの偶然によるものではなく、その前提には、この製品への開発意欲と情熱が感じられる。同社のプレスティツジとして開発を意図したことから大胆な構想が生まれたのであろう。
本機の3ウェイ4ユニット構成は、38cm口径のウーファーをベースに、スコーカーが11cm口径コーン型2基、そして縦に長いリボントゥイーターで高域を受け持たせている。この1・5cm幅1m長のリボントゥイーターが一大特徴だが、このトゥイーターの質感を全帯域の中で遊離させなかったことがこの製品の成功の鍵だろう。大口径ウーファーを後面開放で使ったことは実に見事なノウハウだと思う。200Hz、3kHzというクロスオーバーの設定も妥当で、ダイナミック型のユニットの選択も適切だ。このメーカーには、社長がその人かどうかは知らないが、耳のいい人が中心となってシステムをまとめていることがわかる。それも、ここ3年ぐらいにシステム化がうまくなった。そして、このデザインの現代的な美しさが、そのサウンドやネーミングと一致して、この製品の存在を一際、浮き彫りにしていると思う。コスメティックな要素と構成がぴたりと一致した傑作となった。デンマークのモダンなデザイン感覚を十分反映したもので、デニッシュ・メイドというアイデンティティにあふれたスピーカーシステムの一流品といえよう。
ヴァイタヴォックス CN191 ConerHorn
井上卓也
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
モノーラル時代のスピーカーシステムでは、コーナー型エンクロージュアの採用がそれ自体でトップモデルを象徴していた。JBL・ハーツフィールド、EV・パトリシアン600/800、タンノイ・オートグラフなど、これらはオーディオを語るには欠かせない存在であり、その伝統を今日まで伝えている世界唯一のモデルが、このヴァイタヴォックスCN191である。低域用クリプッシュK型ホーンを駆動するユニットは、7・5Ω仕様のフェライト磁石型AK157。高音用ホーンは初期のCN157から77年にセクトラル型のCN481に変り、ドライバーユニットはアルニコ磁石型S2採用だが、高域はフェライト型S3のほうが伸びている。ネットワークは、’73年に素子にカバーが掛かった型に変更された。
床と左右壁面を利用してホーンの延長部とするコーナー型Kホーンは、低域の再生効率が高く、重厚で力強い低音を聴かせる。ホーンの改良により中〜高城はホーン鳴きが抑えられ、大口径ドライバーならではの余裕のあるマッシヴな音が楽しめる。
全体に音色は抑え気味で、聴感上のfレンジは、現在ではややナロウレンジに感じられる。しかし、その分だけ再生帯域内の密度感や力感は現在では異例な存在で、CD復刻盤ではなく古い時代の名曲名演奏をアナログディスクで聴くときに、このCN191は実に見事な形容し難い優れた音を聴かせる。まさしく、かけがえのない存在というほかはない。
使いこなしポイント
コーナー型だけに部屋の長手方向の壁面を利用するのが標準的な設置方法。だが最適な聴取位置の選択は完全を目指せば予想よりも難しく、部屋の残響コントロールも、床、壁面とも充分に剛性があり、デッドに過ぎないことが必要条件。駆動するパワーアンプは、出力トランスをもつマッキントッシュやA級パワーアンプが好ましく、マッチングトランス使用も一案か。
インフィニティ IRS-Beta
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
アメリカのインフィニティは創立が1968年。創立者のアーニー・ニューデル氏がNASAの物理学者だったということで、きわめて理詰めの技術的特徴を打ち出した当時のニューウェーブであった。しかし、ニューデル氏は同時に大の音楽ファンで、特にクラシック音楽の造詣が深かったようだ。したがって、技術的にハード面の新しさを強く打ち出したことも事実だが、そのサウンドの基調には強烈なこだわりがあったと思う。後にニューデル氏は引退し、現在は3代目の経営者ヘンリー・サース氏に引き継がれている。
2代目のクリスティ氏はニューデル氏と長年同社の技術に直接たずさわってきた人であり、創業以来一貫したスピーカーシステムの設計姿勢は守られながら、年々、リファインメントが続けられてきたメーカーだ。すでに4半世紀の歴史を持つメーカーではあるが、現代のアメリカのスピーカーシステムの潮流を創り出したといえる存在である。
このIRS−・Betaという大型システムは、ウーファー4基をもつトールボーイ・エンクロージュアと、EMIM、EMITと呼ばれる独特の平面振動板によるスコーカー/トゥイーターが分離されたユニークなもので、低域は専用サーボコントロールアンプによる調整が可能。
きわめてワイドレンジな再生周波数帯域と、L−EMIMが中低域、EMIMが中域、EMITが高域というように、ほとんどの音楽帯域はプレーナータイプの平面波によっていて、しかも、さらにシステムの前後面に高域をEMIMで放射させることで、特有の音場感を聴かせる点が特徴である。
この平面波を再生するトゥイーターとスコーカーのもつ繊細なサウンドの美しさがインフィニティ・サウンドの大きな特質で、これを支える強力なサーボコントロールによる低音が音楽の基礎を安定させるバランス感覚に満ちている。大きな可能性を秘めているだけに、それだけの覚悟が必要だろう。
インフィニティ Renaissance 90
井上卓也
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
IRS(インフィニティ・リファレンス・スピーカー)系のIRS−Vをスペシャリティとし、IRSベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンのハイエンドモデルに続くルネッサンス・シリーズは、当初、カッパ・シリーズの後継シリーズとして発表された。そして、新カッパ・シリーズの登場により、リファレンス・シリーズを含み、4シリーズ構成が現在の同社のラインナップ。
ルネッサンス90は2モデルある同シリーズの上級機で、床の設置面積を極限にまで抑えながら、充分な量感のある低域と平面振動板ユニットによる独自のハイディフィニションで、そのサウンドイメージを目指した。
低域ユニットはかつて同社が開発した2組のボイスコイルをもち、一方を通常の低域用に、他方を重低音専用に使うワトキンス方式を再び採用。中低域にはIMGコーンを採用。そして中高域と高城には独自のEMI型と、帯域を4分割しながら振動板材料を2種類とし、音色の調和を図っている点は見逃せない本機の特徴。
エンクロージュアは二等辺三角形に近い台型断面のトールボーイ型で、伝統的な密閉型採用でエンクロージュア内部に発生するノイズが音質を損なうことのない設計。
基本的に前後両面に音を放射する中高域ユニットEMIMは、理想的条件とはいきにくい部屋とのマッチングが考慮され、後方への放射をコントロールする新手法が採用されている点が長所だ。本機は使用ユニットの改善で、音のクリアーさが格段に向上し、ディテールを見事に引き出す。広帯域でスムーズなレスポンスを聴かせ、とくに低域の余裕ある鳴り方には驚かされる。音場感情報は豊かで見通しが良く、遠近感を素直に聴かせるプレゼンスの豊かさは、こよなく楽しい。
使いこなしポイント
脚部は、前2点・後1点支持となっており、後部の高さを調整するとバッフル面の仰角が変り、聴取位置での最適な音軸が得られる。
B&W Matrix 801S3
井上卓也
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
B&Wはヨーロッパ系スピーカーメーカーの中にあって、熟成された独自のユニット開発技術をベースに、最新の振動板材料を充分にコントロールしている。また、エンクロージュアも補強材を兼ねて、内部構造に数多くの隔壁を設けて剛性を上げ、さらに定在波をコントロールするマトリックス方式に代表される技術を加えてシステムアップする技術そのものも、世界のトップランクに位置づけされる。
コンシューマー用のシルバーシグネチェアに始まった新世紀のB&W路線は、論理に基づく形態的にも究極モデルともいえるノーチラスのように、従来のスピーカーシステムの概念を根本から覆す、ユニークかつユーモラスな独特な遊び心のあるシステムに発展するかもしれない。同社の今後の動向は、ヨーロッパ系スピーカーシステムの台風の眼となる可能性が大きい。
801システムはS3となり、基本ユニット構成は変らないが中域と高域の内部配線が独立給電型となり、共通アースが廃されサーキットブレーカーが省かれたため、音のディテールの再生能力が向上した。同時に分解能が高まり、バランス的に低域の質感が改善され、システムとしてのトータルの性能、音質が一段とグレードアップした。よりフレキシビリティが高く、いわゆるモニター的なサウンドが皆無に等しいあたりが、素晴らしい成果の裏付けであるように思う。なお、この中・高音ユニットのブロックは802S3と同じものである。
使いこなしポイント
モニター仕様のため、移動に便利なキャスターを取り付けたまま使用される例も多い。しかし、コンシューマー用に使うなら、脚部を含めて床面にどのように設置するかが、このモデルに限らずスピーカーを使う基本的手法であり、死命を決する重要ポイントだ。駆動用パワーアンプは電流供給能力の充分にある、色づけが少ない正統派のアンプが好ましく、ケーブルを含め充分な選択が必要
タンノイ Canterbury 15
井上卓也
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
基本的に1個の磁気回路の前後に低域用と高域用の2個のボイスコイルを備えた、同社独自のデュアルコンセントリック型と呼ばれる同軸2ウェイ型ユニットを、38cm、30sm、25cm型とラインナップしている。それぞれにグレードや目的により専用のエンクロージュアを開発し、システムアップするというタンノイならではの設計思想そのものが、世界的に類例のない見事な存在である。
最高級家具にも匹敵する入念な工作と仕上げをもつエンクロージュアは、工芸製品のレベルにあり、最終の音の見事さを加えた三味一体のシステムアップによるすべてのモデルが、世界のトップランクにあるオーディオコンポーネントである。
カンタベリー15は、現在の製品中ではもっとも伝統的な設計である、シルバー型、レッド型、HPD型と続く独自のデュアルコンセントリックエニットの流れを受け継いだ38cm型ユニットが採用されている。同じアルコマックスIII磁石採用でも、ウェストミンスター・ロイヤルのユニットは、センターキャップ状のダストカバーがなく、磁気回路内のホーンスロート部が金メッキ処理されている点が異なる。
エンクロージュアは、伝統的に全体にほどよく鳴り響かせる方向の設計で、楽器のようにエンクロージュアを巧みにコントロールして美しく響かせる技術は、タンノイのコンシューマーシステムならではの魅力だ。また、ディストリビューテッドポートはエレクトロボイスが最初に製品化した方式だが、このスライドする板で開口部の面積を連続可変とした方式はタンノイ独自の改良によりスターリングで最初に採用されたシステムである。
使いこなしポイント
2種のレベルコントロールはノーマルとし、ポートの開口部の開閉を組み合せて最適なサウンドバランスと音場感が得られるように微調整を行ない、じっくりと時間をかけてエージングを待つことが必要。
マッキントッシュ XR290
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
アメリカのアンプメーカーとして今や最も伝統の一貫性に輝く名門マッキントッシュだが、スピーカーも独自の設計思想と、アンプに共通したサウンドのアイデンティティで知られている。このXR290は、同社の現行ラインナップのフラグシップモデルであると同時に、多くのアメリカ製スピーカーシステムの中でも、その風格と実力の両面でまさに王者の貫緑をもっているものだ。
同社のスピーカーシステム群はいくつかのシリーズに分けられるが、高級シリーズはXRTシリーズが代表する。ウーファーとスコーカーを収納したエンクロージュアと、トウイーターコラムを完全に分離しているのが特徴の一つ。そして、もう一つの特徴は、ウーファーが2基、スコーカー1基、トゥイーターが23基という構成のXRT22(生産終了し、次期モデルのXRT26に交代する端境期にあるが……)に見られるように、マルチユニットを縦一列に並べた独特の構成にある。同社があえてステレオスピーカーシステムと呼ぶように、2チャンネル・ステレオフォニックの創成する豊かな音場の立体感を忠実に再生し、自然な音色を得るために必要な変換器としての特質に、独自の着眼点をもって長年の技術開発に精魂を傾注して完成させた力作だ。
これを基本に、このXR290は一体型としてまとめたものだが、使用ユニットはウーファー4、スコーカー12、トウイーター24と合計40基ものユニット構成に拡大されている。見た眼には2メートルを超える高さのため巨大に見えるが、床の専有面積はLPレコード2枚分にすぎず設置場所は小さい。ただ、これだけの大型システムだから、その実力をフルに発揮させるには12畳以上の部屋が望ましいし、専用イコライザーMQ107によるルームアコースティックへの対応を念入りに調整するべきだ。よく調整されれば至高の再生音が奏でる夢のような音響世界が実現し、レコード音楽の至福を満喫できる。
JBL 4344
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
JBLの3文字ほど説得力の強いスピーカーもあるまい。ジェームス・バロー・ランシングという人の名前のイニシャルであることはいうまでもない。イタリア系移民の子として生まれた彼だが、名前を変えたらしい。ジェネレーションからして、オーディオの創成期から発達〜円熟期にかけて生きて、この名門の基礎を作った天才的な人物であった。
JBLの商標は1950年代中頃に有名になったものだが、それを生み出したランシング・サウンド・コーポレーテッドという会社の創立は1946年だ。1902年生まれの彼だから44歳の時ということになる。もっとも、それ以前に彼はランシング・マニファクチェアリングという会社を創立し、すでにスピーカー作りに手を染めていた。1927年のこと、彼が25歳の頃だ。
このJBL初の会社が後年、ウェスタン・エレクトリックから別れて出来たオール・テクニカル…つまりアルテック・サービス・コーポレーションと一緒になり、アルテック・ランシング・コーポレーションとなったわけで、ここから、さらにJBL・サウンド・インコーボレーテッドとして独立したのが、現在のJBL社の始まりなのである。したがって、そのルーツは1927年にまで遡ることができるから、実に67年もの歴史を持つメーカーだ。その彼も1949年に47歳で死んでいるが、その後今日まで45年間も彼の技術を基本としたスピーカー、アメリカを代表するスピーカーとして生き続ける。
4344は、JBL全盛期を作った傑作モニターシステムで、わが国ではベストセラーを記録した。現在でも、このユーザーはJBL愛好者の中で最も多いのではないだろうか。4ウェイ4ユニット構成で、中高域にJBLらしいコンプレッション・ドライバーを持つ代表作。
現在も現行製品としてカタログにあることは心強く、この製品へのユーザーの支持が強いことを証明している。素晴らしい製品だ。
ダイヤトーン 2S-3003
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
最も日本的な特徴を凝縮した一流品と呼べるスピーカーシステムといってよいのが、今ならこのダイヤトーン2S3003であろう。この製品の原器といってよい2S305というシステムは、1958年にNHKとの共同開発によりBTS(放送技術標準規格)に基づいて生まれたものであるが、実に、その後35年もロングランを続け、放送局、録音スタジオ、そしてオーディオファンの間で広く愛用されてきた。これを現代の技術で再検討し、現代のモニター・スピーカーシステムとして通用するようにという考え方によって生まれたのが、この2S3003。2ウェイという構成や、コーナー・ラウンドのバスレフ型エンクロージュアという基本構造は変らない。外形は幅が狭くなり、高さが縮んだ代りに奥行きが深くなったが重量は10kg近く増している。
音質的には、現在のデジタルソースへの対応性が高まり、鋭敏なレスポンスと広いDレンジに余裕をもって応答できるものとなり、パワーハンドリングの強化が最も大きな相違点だ。モニターレベルが昔と今では全く異なって、大音量モニターが要求されるようになったことへの対応だろう。音楽の性格もハードロックなどの激しい音源が多くなり、しかも、モニタースピーカーは演奏者へのプレイバックスピーカーをも兼用する場合がほとんどなため、よりヘヴィデューティな性能が要求されてくるのである。
冒頭に書いた、最も日本的特質の凝縮した一流品という意味は、このシステムに使われている諸々の技術の新しさ、製品作りの細部に至る完璧主義といってよい丁寧さなどにあり、それが結果としてのサウンドにも現われている。
もともと、プロ用モニターとして作られた製品であるが、一般のオーディオファンが使う上でも特に難しさや不都合はないと思う。ただ、強い個性や説得力を求める人には物足りなさとして感じられるかもしれない。
タンノイ Westminster Royal
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
イギリス(スコットランドに工場がある)のタンノイといえば、オーディオに興味のある人で知らない人はいないであろう。特にわが国では、タンノイは神格化されているほど、絶大な存在感をもって信奉されている。それはこのメーカーの長い歴史と伝統、つまり、半世紀以上の社歴と、その間に一貫して守られてきた設計思想や製品作りの基本理念に対するもので、一朝一夕に築かれたものではない。長い歴史の中には、いろいろ困難な時代もあったし、製品にそれが反映したこともある。しかし、常に保ち続けてきた精神は、温故知新と自社の技術への信念に満ち溢れていた。そして、イギリスという国の持っている趣味性への価値観も見逃せない。イギリス趣味は基本的には合理的であり、貴族趣味と大衆性との間に明確なカーストのようなものが存在する。オーディオ趣味が大衆化するにつれ、イギリスのオーディオ製品にも、小さくて安価な大衆趣味製品が増えてきた。現代のイギリス製オーディオ機器の大半はそうした製品といってよい。しかし、その中にあって、この製品のような堂々たる風格をもつものを作り続けてきたからこそタンノイの存在は、ますます尊敬されることになる。
内蔵するユニットは、有名なデュアル・コンセントリック・システムという15インチ口径の同軸2ウェイで、基本的に1940年代の設計から脈々と継承されてきたものだ。
そして、そのエンクロージュアも、フロントロードのショートホーンとバックローデッドホーンのコンパウンドシステムという伝統的なもので、これはオートグラフと呼ばれた50年代のプレスティッジモデルで採用された方式。
細部はその時代時代の技術でリファインされ続けているが、この製品は1989年に発売されたもの。そろそろ、新ユニットに代わるかもしれないが、そうなっても旧作としての価値が失われないのがタンノイの凄いところである。
ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する
井上卓也
ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より
当初のセッティング、部屋の音響的処理、試聴などの全プロセスを加えると、ほぼ24時間ほどS9500を聴いたが、デザイン的な制約のある独自な構成の2ウェイシステムとしては使いやすく、モニター的に前に出るJBLの音に、奥深い音場感のプレゼンスと素直に立つ音像などの新しい魅力を加えた、見事なシステムであることを実感できた。
プロトタイプで聴いた時の、必要帯域内のエネルギーをビシッと聴かせたナローレンジ型の音が印象に鮮明に残るが、最新モデルでは、やや低域の量感重視型と変り、量感はあるが音の芯が甘く、軟調な低域となり、この部分をいかに制御するかがポイントで、ここが使い難いシステムという印象につながっているようだ。しかし、駆動側のアンプを、今回聴くことができたグレードのモデルとすれば、極限を望まなければ、この試聴条件でも、すべて調整範囲にある。
スピーカーシステムとしては、公称インピーダンスが3Ωであるため、駆動するアンプは低負荷時のパワーリニアリティが要求され、今回の試聴でもアンプとスピーカー間が有機的に結合した音を望むと、8Ω負荷時のパワーが200Wは必要である。また、TV電波の外乱が少ない平均的な場所での條用では、高域のクォリティは明らかに1ランク高くなり、8Ω負荷時100Wあれば、本誌試聴室の200W級よりは、明らかに優れた結果が得られると思う。
TV電波の外乱による音の劣化は、単一の症状として表われるものではないが、全般的に、電波障害が少ない環境の良い地区で作られる海外製品は、電波対策が施されていないのが普通のようで、かなり中高域以上が乱れ、高域が遮断されたナロ−レンジ型の音となることがほとんどである。
国内製品は、電波対策は必須条件として設計されるが、非常に強力な電界下では、当然影響は避けられず、音の透明感、鮮度惑をはじめ、音の表情が抑えられ、マットになるのは止むをえないことであろう。
高級アンプにとり、ウォームアップによる音質、音色などの変化は、現状では必要悪して悠然と存在する事実で、これを避けて通ることは不可能なことと考えたい。
このウォームアップ期間の変化を、どのようにし、どのように抑えるかは、まったく無関心のメーカーもあり、今後の問題といわざるをえないが、アンプを選択する使用者側でも、どの状態で今アンプが鳴っているかについて無関心であることは、寒心にたえないことである。
今回は、各アンプとも、試聴数時間以上前に電源を入れプリヒートを行ない、試聴時間はそれぞれ2時間程度を要している。
各試聴アンプの設置場所、AC100V系の電源の取り方、などの基本的な部分はステレオサウンド試聴室の標準仕様ともいうべきもので、同誌連載中のトリヴィアのリポートとして掲載したものを参照していただきたい。
接続用ケーブルは、トーレンスCE100スピーカーケーブル、平衡/不平衡(バランス/アンバランス)ケーブルは、オルトフォンの7Nケーブルであり、すべて試聴室常用のケーブルである。
CDプレーヤーは、アキュフェーズの新製品DP90とDC91の組合せで、これはすべてのアンプに共通に使用したが、出力系の平衡/不平衡は適宜、そのたびにケーブルを差し替えて使い、平衡/不平衡間の干渉を避けている。
プログラムソースは、1960年代の録音から最新録音にいたる、各ジャンルを用意した。
JBL 4344(組合せ)
井上卓也
ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「4344 ベストアンプセレクション」より
JBLの4344は、’82年に発売されて以来ずっと、わが国において、スピーカーの第一線の座を守り続けている製品であると同時に、わが国のオーディオを語るうえでも決して忘れてはならないきわめて存在意義の大きな製品である。本機は、4ウェイシステムならではのエネルギー感溢れる音が魅力であり、機器をチェックする際のリファレンススピーカーとして、いまでも数多くのオーディオメーカーやオーディオ関連の雑誌社が使用している事実は、このスピーカーの実力のすべてを物語っているともいえよう。4344はJBLを代表するスタジオモニターであるばかりでなく、スピーカーのなかのスピーカーとして位置づけられるきわめて重要な製品である。
*
JBLの4344は、スタジオモニターシリーズとして、’82年に発売されて以来、JBLを代表する製品であるのはもちろんのこと、日本におけるあらゆるオーディオ製品の基準(リファレンス)として、このスピーカーが果たしてきた役割と実績は、もはやここでは語り尽くせないほど大きい。10年以上のロングランを続けているということは、初期の生産ラインと比べて、いまの生産技術は格段に向上しているため、特性面では確実にクォリティアップしている。実際それは音の面に現われおり、現在の4344は、ざっくりとしたダイナミックな表現力を基盤とする、メリハリの利いた音が特徴であり、モニターライクにディテールを描きわける、使いやすいスピーカーとなっている。
4344をこれまで何百種類のアンプで鳴らしてきたかは定かではないが、ここでは、3種類のアンプを選択し、その音の表情の違いをリポートしようというものである。
アキュフェーズ C280V+P500L
まず最初に聴いたのは、アキュフェーズのC280VとP500Lという組合せである。アキュフェーズのアンプは、私自身、国内製品のリファレンスのひとつとして捉えている。リファレンスの定義づけは、まず第一に安定した動作を示すこと、第二にあまりでしゃばらないニュートラルな性格をもっていることである。このふたつの要素を兼ね備えた製品が国内アンプでは、アキュフェーズであると思う。そのなかでもこのペアは、いつ聴いても安定感のある信頼性の高いものだ。このペアと4344の組合せというのは、ステレオサウンドの試聴室のみならず、あらゆる場所でのリファレンスとして私が考える組合せである。
ラックスマン C06α+M06α
次に4344を鳴らすアンプは、ややゴリッとしてエッジの立ったきつい音をもつこのスピーカーの特徴を少し抑え、音楽を雰囲気良く聴く方向で選択した。アキュフェーズとの組合せの場合は、リファレンスシステムという色合いが濃いために、音楽が生々しく聴こえすぎて疲れるため、あまりゆったりと音楽を楽しむことができない。しかし、これはあくまでもアキュフェーズのアンプを私がリファレンスアンプとして捉えているために、ここではこういう言い方になるのであり、決してアキュフェーズのアンプがオーディオ・オーディオした音楽性に乏しいアンプであるようなイメージを抱かないでほしい。アキュフェーズのアンプは、リファレンスアンプであるという、確固たる存在として認めたうえでの話である。そこで、肩肘はらずに音楽を楽しもうというのがここでのプランである。
この狙いに相応しいアンプとして、ラックスマンのC06α+M06αを選択した。このペアの音は、穏やかでしなやかな感触のなかに、鮮度感の高いフレッシュな響きを聴かせるラックスマン独特のものである。4344との組合せでは、この特徴がストレートに現われた、いい意味でのフィルター効果を伴った音を聴くことができた。国産アンプならではのディテール描写に優れた面と4344の音の輪郭をがっちりと出す面が見事にバランスした音は、単に音楽をゆったりと聴かせてくれるだけでなく、細かい音楽のニュアンスさえ再現してくれた。
マランツ PM99SE
最後は、4344をセパレートアンプではなく、よりシンプルな形で鳴らしてみたいというのが狙いである。これは、使いこなしの面を含めた意味で一体型のプリメインアンプがセパレートアンプの場合ほど、気を使わずに音楽を楽しむことができるというメリットを優先したプランだ。
ここで選択したプリメインアンプは、マランツのPM99SEだが、この選択にはそれなりに理由がある。それは、かつて4344の前作である4343を納得できる範囲で鳴らしてくれたプリメインアンプが同じマランツのモデル1250(130W+130W)であり、このPM99SEはその1250の現代版であると私が認識しているからだ。現代のようにドライヴ能力の高いプリメインアンプが数多く揃っていなかった時代の話である。
前記のように、現在市場に出回っている4344は、非常に鳴らしやすいスピーカーとして生まれ変っているため、わざわざセパレートアンプを使ってラインケーブルや電源ケーブルを引き回したり、いい加減にセッティングして鳴らすよりは、プリメインアンプ一台でシンプルにドライヴした方が好結果を引き出しやすいはずだ。
その結果は、当然のことながらセパレートアンプで鳴らしたときと比べれば、聴感上の拡がりや奥行き感は一歩譲るものの、一体型アンプならではのまとまりの良さのなかで、安定感のある再現を示してくれた。この一体型というプリメインアンプの良さは、一体型CDプレーヤーにも共通するものだが、安定感という点に関しては、セパレートアンプでは決して得られない世界なのだ。
また、もうひとつプリメインアンプのメリットとして挙げられるのは、ウォームアップの速さである。現代の大型パワーアンプの場合は、パワースイッチをONにしてから、アンプ本来の音を引き出すために何時間ものウォームアップが必要であることは、ご承知の通りである。このPM99SEは、最初にA級で鳴らしてどんどん発熱させられるため、他のプリメインアンプよりウォームアップタイムがさらに速い。この点も、このアンプを選択した理由のひとつだ。
現在の時点で、この4344ほど、さまざまなアンプと組み合され、また、オーディオ機器の各々の個性を引き出してくれるスピーカーもないだ
JBL S5500(組合せ)
井上卓也
ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「Project K2 S5500 ベストアンプセレクション」より
旧来のJBLを象徴する製品が43、44のモニターシリーズならば、現代の同社を象徴するのは、コンシューマーモデルであるプロジェクトK2シリーズだ。S5500は、このプロジェクトK2シリーズの最新作で、4ピース構造の上級機S9500の設計思想を受け継ぎワンピース構造とした製品である。この結果、セッティングやハンドリングがよりしやすくなったのは当然だが、使用機器の特徴をあかちさまに出すという点では、本機も決して扱いやすい製品ではない。エンクロージュアや使用ユニットこそ小型化されたものの、S9500の魅力を継承しながらも、より音楽に寄り添った、音楽を楽しむ方向で開発された本機の魅力は大きい。
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JBLが’92年の末に発表したプロジェクトK2シリーズの最新作が、S5500である。プロジェクトK2とは、’89年にセンセーショナルなデビューを飾ったS9500 (7500)に始まる同社のコンシューマー向けの最高峰シリーズで、本機は、上級機S9500の設計思想を受け継いだワンピース構造のシステムである。S9500が35cmウーファーと4インチダイアフラム・ドライバーを搭載していたのに対し、本機は30cmウーファーと1・75インチドライバーを搭載しているのが特徴である。また、S9500で同一だったウーファーボックスの内容積が、本機では、下部のそれの内容積がやや大きい。ここに、IETと呼ばれる新方式を採用することで、反応の速い位相特性の優れた低域再生を実現している。また、チャージドカップルド・リニア・デフィニションと呼ばれる新開発のネットワークの採用にも注目したい。ネットワークのコンデンサーには、9Vバッテリーでバイアス電圧を与え、過渡特性の改善を図っている。
本機は、S9500譲りの姿形はしているものの、実際に聴かせる音の傾向はかなり異なり、アンプによって送りこまれたエネルギーをすべて音に変換するのではなく、どちらかというと気持ち良く鳴らすという方向のスピーカーである。
こうした音質傾向を踏まえたうえで、ここでは、ホーン型スピーカーならではのダイナミックな表現と仮想同軸型ならではの解像度の高い音場再現をスポイルせずに最大限引き出すためのアンプを3ペア選択した。
マッキントッシュ C40+MC7300
まず最初に聴いたのは、マッキントッシュのC40+MC7300の組合せである。C40は、C34Vの後継機として発売されたマッキントッシュの最新プリアンプで、C34VのAV対応機能を廃したピュアオーディオ機である。サイズもフルサイズとなり、同社のプリアンプとしては初のバランス端子を装備している。これとMC7300といういわばスタンダードな組合せで、S5500のキャラクターを探りながら、可能性を見出すのが狙いだ。
可能性を見出すというのは、C40に付属する5バンド・イコライザーやラウドネス、エキスパンダー、コンプレッサー機能などを使用して、スピーカーのパワーハンドリングの力量を知ることである(現在、マッキントッシュのプリアンプほどコントロール機能を装備したモデルはきわめて少ない)。また、マッキントッシュの音は、いわゆるハイファイサウンドとは異なる次元で、音楽を楽しく聴かせようという傾向があるが、この傾向はS5500と共通のものに感じられたためこのアンプを選択した。
S5500+マッキントッシュの音は、安定感のある、非常に明るく伸びやかなものである。古い録音はあまり古く感じさせず、最新録音に多い無機的な響きをそれなりに再現するのは、マッキントッシュならではの魅力だ。これは、ピュアオーディオ路線からは若干ずれるが、多彩なコントロール機能を自分なりに使いこなせば、その世界はさらに広がる。
その意味で、このアンプが聴かせてくれた音は、ユーザーがいかようにもコントロール可能な中庸を得たものである。ウォームアップには比較的左右されずに、いつでも安心して音楽が楽しめ、オーディオをオーディオ・オーディオしないで楽しませてくれる点では、私自身も非常に好きなアンプである。
カウンターポイント SA5000+SA220
S5500のみならずJBLのスピーカーが本来目指しているのは、重厚な音ではなく一種のさわやかな響きと軽くて反応の速い音だと思う。この線をS5500から引き出すのが、このカウンターポイントSA5000+SA220である。
結果は、音楽に対して非常にフレキシビリティのある、小気味よい再生音だった。カウンターポイントの良さは、それらの良さをあからさまに出さずに、品良く聴かせてくれることで、音場感的には、先のマッキントッシュに比べて、やや引きを伴った佇まいである。美化された音楽でありながら、機敏さもあり、非常に魅力的である。たとえるなら、マッキントッシュの濃厚な響きは、秋向きで、このカウンターポイントのさわやかな響きは、春から夏にかけて付き合いたい。
ゴールドムンド ミメイシス2a+ミメイシス8・2
次は、S5500をオーディオ的に突きつめて、そのポテンシャルを最大限引き出すためには、このあたりのアンプが最低限必要であるという考えの基に選択したのが、ゴールドムンドのミメイシス2a+ミメイシス8・2である。
結果は、ゴールドムンドならではの品位の高い響きのなかで、ある種の硬質な音の魅力を聴かせる見事なものであった。
モノーラルアンプならではの拡がりあるプレゼンス感も、圧倒的である。オーディオ的快感の味わえるきわめて心地の良い音ではあるが、反面、アンプなどのセッティングで、音は千変万化するため使いこなしの高度なテクニックを要するであろう。ここをつめていく過程は、まさにオーディオの醍醐味だろう。
S5500がバッシヴで穏やかな性格をもった、音楽を気持ちよく鳴らそうという方向の製品であることは、前記した通りである。しかし、これは、本機が決して〝取り組みがい〟のない製品であることを示すものではない。一言〝取り組みがい〟といってもランクがあり、手に負えないほどのものと、比較的扱いやすい程度のものと2タイプあるのだ。本機は、後者のタイプで、そのポテンシャルをどう引き出すかは、使い手の腕次第であることを意味している
ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する
井上卓也
ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より
この企画のタイトルは「ハイエンドアンプでプロジェクトK2/S9500を堪能する」となっているが、オーディオシステムはスピーカーがその頂点に立つものであって、この意味からは、「S9500はハイエンドアンプの音をどのように聴かせたか」となるはずである。
ここで少しばかりこだわった理由は、試聴に使ったステレオサウンド試聴室は、リファレンススピーカーシステムに、JBL4344を使っており、ほぼ10年の歳月を通して部屋とスピーカーがなじみ、経時変化に合せて、それなりの音響処理を施しながら部屋のチューニングをしきているからである。つまり、今回のように、S9500をリアァレンススピーカーシステムとする場合には、現在のチューニングに関係なく、最初から部屋をS9500の専用チューニングとしなければ、超弩級アンプの音を聴くことにはならないであろう。
今回の試聴は、辛か不幸か、編集部で前もって4344用に位置決めしてあった位置に、S9500のベースのフロント面と4344のフロントバッフル面が等しくなる位置にセッティングされていた。
ご存じのように、基本的に4ブロック構成になっているS9500は、一度セッティングをしてしまうと、位置の移動はもとより、聴取位置に対する角度の付け方といった、スピーカーシステムに必須のコントロールが非常に困難であり、これが使いこなしの上で大きな制約になっでいくるのである。結局、今回の試聴はスピーカーのセッティング位置は変更しないこととした。また、組み合されていた最初のアンプがマッキントッシュのペアとなっていたために、この個性的なアンプを通しての使いこなしは、想像を超えて大変なことになった次第である。
ちなみに、アンプに信号を通してからのウォームアップによる音の変化を確かめながら聴きとった、おおよそのこの試聴室におけるS9500の音の印象は、必要帯域内のエネルギーを十分に聴かせる2ウェイシステムらしいものであった。そしてその特徴をベースに、柔らかく豊かで、JBLモニター系とは対照的な低音と、ホーン特有のメガフォン的な固有吾が少なく、やや粗粒子型で、ゆるやかに穏やかにロールオフする高域がバランスした、おっとりとした大人っぽい、細部にこだわらぬ音だ。同社のモニター系の音の明るさとは逆に、やや抑制の効いた穏やかな喜色が特徴である。したがって音の反応も穏やかで、ふところの深い、ゆったりとしたキャラクターが、このシステムの本質であろう。
ただし、この状態では、スピーカーが各アンプの個性をすべて受け止め、S9500の音として聴かせることになり、一段とスピーカーシステムの反応を速め、的確にアンプの音を聴かせるようにする必要がある。
そこで、再生の基盤に戻り、部屋の音響コントロールで、目的であるアンプ試聴用というべき音にすることとした。
S9500は、仮想同軸型といわれる、上下の低域ユニットが高域ユニットを挟みこむ方式を採用している。システムはモジュールで構成されており、下から、コンクリート台座、下部低域用エンクロージュア、ホーンブロック、上部低域用エンクロージュアと積み重ねる。各モジュールの接触部は、軽金属製の先端が尖った円錐形コーンの頂部を下側の軽金属製カップで受ける構造である。上下低域用エンクロージュアは、同じ内容積ではあるが、下側はホーンブロックと上側低域用エンクロージュアの重量で抑えられていることに比べ、上側低域エンクロージュアは、単にホーンブロックの上に乗っているだけで、非常にフリーな状態にあり、位置的にもかなり高い位置に置かれることとが特徴である。
S9500の場合、上側低域ユニットの直接音、反射音を基準に、部屋の壁、コーナー、天井部分の反射と固有音の発生を総合的に、いかにコントロールするかが使いこなしのキーポイントとなる。このことは上側低域エンクロージュアを取り外し、シングルウーファーシステム(S7500)として使えば、使いこなしの要素が少なくなり、かなり簡単になることからも証明できる。
部屋のコントロール用の材料は、試聴室常用の2個の中型QRDと、円形と半円形のチューブトラップの各種組合せである。基本的には柔らかく、ソフト側に偏る音質傾向はあるものの、かなり明解な準モニターサウンドから、ホームユースに相応しい、かなり陰影の色濃い音にいたる音質・音色の変化を示し、2時間あまりの時間でS9500は使いやすく親しみのもてる2ウェイシステムとしての性格を見せ、造型的に見事なデザインと、ホームユースに相応しいマイルドな音をもった素晴らしいシステムであることが実感できた。
BOSE 901VC
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
アメリカのボーズ社については、もう今さら説明の必要もないほど有名なブランドになった。MITの教授であるアマー・ボーズ博士が創立したこのメーカーの理念といってよいのが、この901である。1966年に8分の1球体というユニークな呼吸球フルレンジユニット22個を使った2201がその原形として作られたが、翌年、これを商品性を高めてリデザインしたシステムが901である。つまり、901はすでに四半世紀の歴史をもつているが、その現行モデルが901VCである。
901というナンバーが示すように、システムは11・5cm口径の全帯域ユニットを9個内蔵し、その中でリスナーに向かって直接音を放射するユニットは1個だけ。残り8個はすべて後面に取り付けられている。アコースティックマトリックス型と呼ばれるエンクロージュアもユニークで、9個のユニットの内圧を実に巧みに処理してアコースティカルコントロールをしている。アクティヴイコライザーが付属しているが、スタンドや吊金具は別売である。ボーズ博士の直接音と間接音の比率が、自然な音の録音再生の重要なファクターとなるという理論を実践したのがこのシステムであるから、ボーズある限りこのシステムは存在し続けるであろう。小口径ユニットの高リニアリティの技術はボーズ社の得意とするところだが、それはこの901シリーズのために必要な技術であった。今や小型システムを一つのカテゴリーとして確固たるものにしたばかりではなく、そのハイリニアリティ性とパワーハンドリングの大きさでPAやSR用としても大きなシェアをもつボーズ社のシンボル的銘器といえるのだから、この901VCの存在感は大きい。一流品たる所以である。大き目の部屋で、このシステムと壁との距離をカット&トライで調整し成功した時の901の音の素晴らしさを知る人は意外に少ない。それだけ、取組み甲斐のある趣味的スピーカーでもある。
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