菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
アメリカのインフィニティは創立が1968年。創立者のアーニー・ニューデル氏がNASAの物理学者だったということで、きわめて理詰めの技術的特徴を打ち出した当時のニューウェーブであった。しかし、ニューデル氏は同時に大の音楽ファンで、特にクラシック音楽の造詣が深かったようだ。したがって、技術的にハード面の新しさを強く打ち出したことも事実だが、そのサウンドの基調には強烈なこだわりがあったと思う。後にニューデル氏は引退し、現在は3代目の経営者ヘンリー・サース氏に引き継がれている。
2代目のクリスティ氏はニューデル氏と長年同社の技術に直接たずさわってきた人であり、創業以来一貫したスピーカーシステムの設計姿勢は守られながら、年々、リファインメントが続けられてきたメーカーだ。すでに4半世紀の歴史を持つメーカーではあるが、現代のアメリカのスピーカーシステムの潮流を創り出したといえる存在である。
このIRS−・Betaという大型システムは、ウーファー4基をもつトールボーイ・エンクロージュアと、EMIM、EMITと呼ばれる独特の平面振動板によるスコーカー/トゥイーターが分離されたユニークなもので、低域は専用サーボコントロールアンプによる調整が可能。
きわめてワイドレンジな再生周波数帯域と、L−EMIMが中低域、EMIMが中域、EMITが高域というように、ほとんどの音楽帯域はプレーナータイプの平面波によっていて、しかも、さらにシステムの前後面に高域をEMIMで放射させることで、特有の音場感を聴かせる点が特徴である。
この平面波を再生するトゥイーターとスコーカーのもつ繊細なサウンドの美しさがインフィニティ・サウンドの大きな特質で、これを支える強力なサーボコントロールによる低音が音楽の基礎を安定させるバランス感覚に満ちている。大きな可能性を秘めているだけに、それだけの覚悟が必要だろう。
0 Comments.