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インフィニティ IRS-Beta

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ハイエンドスピーカーシステムをつくるメーカーとして、伝統と独自の開発技術を持つ米国のインフィニティは、コンデンサー型スピーカーメーカーとしてスタートをしたという興味深い会社である。
 コーン型、ホーン型、ドーム型など、磁気回路のリング状ギャップの内側にボイスコイルを置き、これに信号を加えて振動板を介して電気音響変換をするダイナミック型が、現在においても、スピーカーユニットの主流を占めるメカニズムだ。
 しかしインフィニティは、静電型の利点と動電(ダイナミック)型の利点を併せ持つタイプの変換系としてEMI型ユニットを開発した。これは耐熱樹脂カプトンフィルムにボイスコイルを貼り付け、前後双方向に音を放射する平面振動板方式の動電型ユニットである。
 インフィニティのトップモデルシリーズであるIRS(インフィニティ・リファレンス・スタンダード)シリーズは、次第に小型化され、独自のEMIユニットは、ドーム型やコーン型に移行しているようである。おそらく、製造技術面での問題と経費をはじめ、感度、許容入力と最大振幅リニアリティなど数多くのネックをクリアーすると標準的なコーン型が最も高効率となるからであろう。
 しかしIRSベータが開発された時期は、世界的にインフィニティのIRSシリーズが、ハイエンドオーディオのスピーカーシステムとして認められたころであり、IRS−Vを筆頭に、ベータ、ガンマ、デルタと揃った一連のIRSシリーズの展開は、物凄くゴージャスなラインナップであった。
 トップモデルのIRS−Vが天井から床まで低音、中音、高音の各専用ユニットを一直線に配置した、いわゆるインライン配置のユニット取付方法を採用した伝統的なインフィニティタイプであることにくらべ、ベータ、ガンマ、デルタの3モデルは、基本的に床面に近いほうから低域、中低域、中高域と高域の各ユニットを配置したコンベンショナルレイアウトの採用が一般的であり、特徴ともいえるだろう。
 ベータならではの特徴は、低域用タワーと中低域以上用のタワーの2ブロック構成であることにある。
 低域タワーには、グラファイト強化ポリプロピレンコーンの30cmウーファーが4個搭載され、その1個は、いわゆるMFB方式を採用したサーボコントロール型ユニット。このコーンに指を軽く触れ、少し押すと瞬間的に押し返されるような反応があり、部屋の条件や駆動状態にアクティヴに制御されるサーボ系独自の特徴が実感できるのが楽しい。
 中高域以上のタワーは、基本的には、EMI型が双方向(前後)に音を放射するバイポーラ型であるため、平板にユニットを取付けたプレーンバッフル構造である。
 興味深いのは、使用帯域が高い周波数になる、つまり中低域、中高域、高域になるにしたがい、ユニットの左右のバッフルがカットされ、あたかもユニットが中空に浮かんでいるような、バッフルの反射を避けた独自の発想が感じられる部分だ。なお、高域用EMITは、バイポーラ音源とはいっても絶対的な寸法が小さく、背面放射が少ないため、背面放射用のEMITがもうひとつ後方放射用に取付けてある。
 独自のサーボコントロールユニットはシステムのコントロールセンター的な働きを備え、一通りの調整を覚え、効果的に扱うまでには半年は必要だろう。
 予想以上にコンパクトで6畳の部屋にも置ける魅力と、双方向放射型独自の音場感や風圧を感じさせる低域は絶妙の味わいだ。

インフィニティ IRS-Beta

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 アメリカのインフィニティは創立が1968年。創立者のアーニー・ニューデル氏がNASAの物理学者だったということで、きわめて理詰めの技術的特徴を打ち出した当時のニューウェーブであった。しかし、ニューデル氏は同時に大の音楽ファンで、特にクラシック音楽の造詣が深かったようだ。したがって、技術的にハード面の新しさを強く打ち出したことも事実だが、そのサウンドの基調には強烈なこだわりがあったと思う。後にニューデル氏は引退し、現在は3代目の経営者ヘンリー・サース氏に引き継がれている。
 2代目のクリスティ氏はニューデル氏と長年同社の技術に直接たずさわってきた人であり、創業以来一貫したスピーカーシステムの設計姿勢は守られながら、年々、リファインメントが続けられてきたメーカーだ。すでに4半世紀の歴史を持つメーカーではあるが、現代のアメリカのスピーカーシステムの潮流を創り出したといえる存在である。
 このIRS−・Betaという大型システムは、ウーファー4基をもつトールボーイ・エンクロージュアと、EMIM、EMITと呼ばれる独特の平面振動板によるスコーカー/トゥイーターが分離されたユニークなもので、低域は専用サーボコントロールアンプによる調整が可能。
 きわめてワイドレンジな再生周波数帯域と、L−EMIMが中低域、EMIMが中域、EMITが高域というように、ほとんどの音楽帯域はプレーナータイプの平面波によっていて、しかも、さらにシステムの前後面に高域をEMIMで放射させることで、特有の音場感を聴かせる点が特徴である。
 この平面波を再生するトゥイーターとスコーカーのもつ繊細なサウンドの美しさがインフィニティ・サウンドの大きな特質で、これを支える強力なサーボコントロールによる低音が音楽の基礎を安定させるバランス感覚に満ちている。大きな可能性を秘めているだけに、それだけの覚悟が必要だろう。

インフィニティ IRS-Beta

井上卓也

’89NEWコンポーネント(ステレオサウンド別冊・1989年1月発行)
「’89注目新製品徹底解剖 Big Audio Compo」より

 高級スピーカー市場でトップランクの地位を占めるインフィニティ(Infinity Systems Inc. USA)が、創立20周年を記念して1980年に登場させた新シリーズが、IRS(Infinity Reference Standard)だ。
 今回、新しいラインナップとなり、デノンラボにより輸入が開始されたIRSシリーズは、従来からの床面から天井付近まで各専用ユニットを直線状にトーンゾイレふうに配置する、独自のラインソース理論に基づくアンプ内蔵タイプの究極のスピーカーシステムIRS−Vがトップモデルとして受注生産されるが、それ以外のBETA、GAMMA、DELTAの3モデルは完全に新設計されたIRSシリーズのフレッシュなラインナップである。
 BETAは、Vのラインソース理論に対して、無限小の振動球からすべての周波数を全方向に等しく放射するというポイントソース理論に基づく開発である。
 実現不能のこの理論を近似的に実現させるために、再生周波数が高くなるほど放射面積を小さくすることにより、音源は常に放射させる音の波長より小さくなるように、ユニットサイズの異なる5種類の専用ユニットを組み合せてあり、さらに両面に音を放射するダイボール配置も新シリーズ共通の特徴になっているが、これもポイントソース理論に近似させるための手段である。
 BETAシステムは、IRS−Vと同様に低音と中低音以上の帯域を受け持つエンクロージュアが独立・分離した2ブロック構成に特徴がある。
 低音エンクロージュアは、新素材ポリプロピレン・グラファイトを射出成型した30cm口径のユニットが垂直方向に4個配され、110Hz以下の帯域を受け持っているが、上から2段目のウーファーには、キャップ部分にMFB用のセンサーが組み込まれており、サーボコントロールにより、歪みの低減の他に、15Hzの超低域から110Hzまでのほぼフラットな再生を可能としている。
 全ユニットのサーボコントロール化をしない理由を開発者に尋ねたところ、1個のユニットをサーボコントロール化したときが、聴感上で最も良い低音再生が得られる、との回答があったそうで、音楽再生を重視した、いかにもインフィニティならではの回答である。
 中高音用エンクロージュアは、むしろ下部のネットワーク用素子をバランスウェイトに利用した、平面バッフルと呼ぶ方がふさわしい構造である。
 中低域を受け持つ新開発のL−EMIM(大型電磁誘導型中域ユニット)は、30cm口径に匹敵する放射面積をもつダイナミック型平面振動板ユニットで、前後双方向放射のバイポーラー型を2個使う。中高域の750Hz〜4・5kHzを受け持つEMIM、4・5kHz〜10kHzを受け持つEMIMTは、従来型の改良版である。超高域用には10kHz以上を受け持つSEMIMを採用。背面には、双方向放射をするために専用のネットワークにより、約3kHz以上を再生するEMITが横位置で取り付けてある。
 この中低域以上を再生するフラットバッフル部で注目したいことは、中高域、高域、最高域の各ユニットの取付部分の両側が完全にカットされ、双指向性を円指向性に近づけている点である。一般的にも中空に高域ユニットを吊り下げたりして使うと、ディフィニッションの優れた高音が楽しめることもあり、かなり実際の音質、音楽性を重視した設計が感じられるところである。
 専用のサーボコントロールユニットは低域専用の設計であり、BETAを使うためには2台のパワーアンプが必要だ。
 高域カットフィルター部は、60HzからHz164間の6周波数切替型で、BETAの標準は110Hzである。低域調整は、40、30、22、15Hzとフィルターなしの5段切替低域カットスイッチと、上昇・下降連続可変の低音コントロール、低域と中低域以上のレベル調整用ボリユウムとサーボゲイン切替スイッチ、サーボ用入力端子などが備わり、これらを組み合わせた低域コントロールの幅の広さ、バリエーションの豊富さは無限にある。使用する部屋との条件設定の対応幅が広く、経験をつむに従ってコントロールの幅、システムとしての可能性の拡大が期待できるのが素晴らしい点だ。
 シリーズモデルのGAMMAとDELTAは、1エンクロージュア構成で低域と中低域の使用ユニットは半分になるが、基本はBETAと変らない設計だ。
 GAMMAが、サーボコントロール使用のバイアンプ方式であるのに対して、DELTAはLCネットワーク型で、低域にはLCチューニングのエキストラバススイッチを備え、KAPPAシリーズと共通の使いやすさがあるうえに、サーボコントロールを加えて、GAMMA仕様にグレードアップする楽しみをも備えているモデルだ。
 BETAは、中低域ブロックの外側に低音ブロックを少し後方に配置した位置から設置方法を検討し、各ユニットのレベル調整、サーボコントロールユニットの低域調整、レベル調整と高度な使い方が要求されるが、比較的に容易に想像を超えた柔らかく豊かな低音に支えられた音楽の世界が開かれるはずだ。