Category Archives: スピーカーシステム - Page 46

KEF Model 105(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 聴き手(リスナー)の前方、左右2ヶ所に設置された1対のスピーカーから、もしも理想的にステレオの音の再生されるのを聴けば、ただの2点から音が出ているとはとうてい信じ難いほど、あたかも歌手はそこに立って唱っているようだし、ピアノトリオはおのおのの楽器が実際に、右、左、中央と並んでいるかのよう。オーケストラを鳴らせば、広いホールに管弦楽団が奥行きさえともなって並び、前方の空間いっぱいにひろがり、満ちあふれ、まるでスピーカーの背面の壁がくずれ落ちて、その向う側にほんとうに演奏会場が現出したかと錯覚するくらいにリアルなプレゼンス(臨場感=あたかも聴き手が実演の場に臨んでいるかのような感じ)が得られる。
 ただし、そういう感じを体験するには、かなり理想的に作られたスピーカーを用意し、そのスピーカーをよく生かすアンプリファイアーやレコードプレーヤーを慎重に組合せ調整し、そして前後左右に少なくとも2.5メートル以上ひろげたスピーカーから、同じ間隔ほど離れて中央(左右のスピーカーから等距離)のところに座って聴く、という条件を守ることが最少限必要になる。むろんレコードも、音楽的に優れていると共にステレオの音場再現に気を配って録音されたものを選ぶ必要もある。
 KEF105は、上記の聴き手(リスナー)との関係位置の配慮されたスピーカーで、グリルクロスを取ると、中〜高音用のハウジング中央に、聴き手との関係位置調整用のインジケーターランプが点灯するようになっていて、スピーカーを正しく耳の方向に調整できるようになっている。このスピーカーの指定する聴き方を守るかぎり、従来聴き馴れたレコードのすべてを、もういちど全部聴き直してみなくてはならないと思うほど、レコード音楽の新しい世界を聴かせてくれる。「’78のために」というテーマに推すゆえんである。

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥195,000×2
コントロールアンプ:ラックス 5C50 ¥160,000
パワーアンプ:ラックス 5M20 ¥210,000
トーンコントロールアンプ:ラックス 5F70 ¥86,000
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:SME 3009/S3 ¥65,000
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS455E ¥29,800
計¥1,075,900

JBL 4343(組合せ)

菅野沖彦

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 JBLのスピーカーは大きな可能性をもっている。高級機機というのはみんなそうだが、それを持てばそれでいいというものではなく、それを使いこなしていく可能性が大きいと理解すべきだろう。この4343は、JBLの本格的な4ウェイ・4スピーカー・システムで、使いこなしの如何によっていかようにも、使用者の感性と嗜好を反映した音を出してくれるだろう。そして、このホーン・ドライバー・システムは特に、ある程度の期間、鳴らし込まないと、本当の音が出てこない事も知っておくべきである。いわゆるエイジングといわれるものだが、この影響は大きい。新品スピーカーは、どこか硬く、ぎこちのない鳴り方をするが、使い込むにしたがって、しっとりと、高らかに鳴るようになるものなのである。これをドライブするアンプは、ケンソニック社のプリ・アンプ……というよりは、同社でもいっているようにフォノ・イクォライザー・アンプC220とモノーラル・パワー・アンプM60×2を用意する。片チャンネル300Wものアンプが果して必要なのだろうかと思われる向きもあるかもしれないが無駄ではない。そして、もしトーン・コントロールを必要とする場合には、別に、グラフィック・イクォライザーを(例えばビクターのSEA7070)をそろえるといいだろう。今年の新製品から、ソニーの超弩級プレイヤーシステムPS−X9を選んだが、たしかにマニアを惹きつける魅力をもったプレイヤーだ。その重量級のメカニズムから生れる音は、まさにソリッドで堂々とした風格がある。しかし、あまりに、抑制が利いていて、戸惑うほどである。このぐらいのシステムになれば、テープデッキも、カセットというのでは少々アンバランス。勿論、日常の便利に、カセット・デッキも1台は欲しいが、ここでは、スカーリーの2TR38cm/secのマスター・レコーダーを組合せ、次元のちがう圧倒的なサウンドの世界を味わっていただこうというわけだ。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥730,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-220 ¥220,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:テクニクス Technics 38T ¥65,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-X9 ¥380,000
オープンリールデッキ:スカーリー 280B2 ¥2,700,000
計¥5,385,000

ソニー SS-G7

ソニーのスピーカーシステムSS-G7の広告
(スイングジャーナル 1977年12月号掲載)

SS-G7

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その3)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 第2の中音用ユニットを加えるプランは、ベースとなるシステムが2ウェイ構成であるときに使いやすい。実際に、現在シリーズ製品としてメーカーから発売されているブックシェルフ型システムのなかには、同じウーファーとトゥイーターを使用し、上級モデルにはコーン型スコーカーを加えて3ウェイ構成としている例が多い。エンクロージュアの外形寸法では、2ウェイにくらべて3ウェイ構成のほうが、コーン型スコーカーのバックキャビティを必要とするために1サイズ大きくなるが、ウーファー用としてのエンクロージュア内容積では変わらず、低音の性能はほぼ同じと考えてよい。
 かつて、JBLのシステムにあったL88PAには、中音用のコーン型ユニットとLCネットワークが、M12ステップアップキットとして用意され、これを追加して88+12とすれば、現在も発売されている上級モデルのL100センチュリーにグレイドアップできる。実用的でユーモアのある方法が採用されていたことがある。
 ブックシェルフ型をベースとして、スコーカーを加えるプランには、JBLの例のように、むしろLCネットワークを使いたい。マルチアンプ方式を採用するためには、もう少し基本性能が高い2ウェイシステムが必要である。例えば、同軸2ウェイシステムとして定評が高いアルテック620Aモニターや、専用ユニットを使う2ウェイシステムであるエレクトロボイス セントリーVなどが、マルチアンプ方式で3ウェイ化したい既製スピーカーシステムである。この2機種は、前者には中音用として802−8Dドライバーユニットと511B、811Bの2種類のホーンがあり、後者には1823Mドライバーユニットと8HDホーンがあり、このプランには好適である。
 また、アルテックの場合には、511BホーンならN501−8A、811BならN801−8AというLCネットワークが低音と中音の間に使用可能であり、中音と高音の間も他社のLC型ネットワークを使用できる可能性がある。エレクトロボイスの場合には、X36とX8、2種類のネットワークとAT38アッテネーターで使えそうだ。
 マルチアンプ方式では、クロスオーバー周波数の選択、ユニットの出力音圧レベルやボイスコイルインピーダンスの制約がないために、スコーカーユニットの追加は大変に容易である。つまり音色の傾向さえ選択を誤らねば、他社のユニットホーンの採用も可能であり、実は、このように他社のユニットが自由に選べるのがマルチアンプ方式の本当の魅力だ。中音ユニットの音色傾向は、構造にも関係するが、ドライバーユニットなら主に振動板であるダイアフラム材質により左右される。アルテックが現在の主流である軽金属のダイアフラムであることにくらべて、エレクトロボイスは伝統的に硬質フェノール樹脂製のダイアフラムを採用している特長があり、これが、エレクトロボイスのサウンドの特徴になっている。このタイプのダイアフラムは、よくPA用と誤解されやすいが誤りであり、ナチュラルで軽金属ダイアフラムの苦手な弦やボーカルに優れた再生能力をもつ。
 その他のバリエーションには、3ウェイ構成のシステムの低音と中音の間に、主にコーン型の中低音ユニとを加える方法がある。この場合には、追加したユニットを置く位置がポイントになる。この方法は、クロスオーバー周波数が低くなるため、マルチアンプ方式のほうにメリットは大きいものがある。

●スピーカーシステム
 アルテック 620A Monitor
 エレクトロボイス SentryV
●ドライバー
 アルテック 802-8D
 エレクトロボイス 1823M
●ホーン
 アルテック 511B
 エレクトロボイス 8HD
●コントロールアンプ
 GAS Thoebe
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:GAS Son of Ampzilla
 中音域:GAS Grandson
 高音域:GAS Grandson

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その2)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 このところ、ヨーロッパ系を中心として、国内製品のスピーカーシステムにも超小型の主に2ウェイ構成の製品が増加の傾向がみられる。その多くは、10cm口径程度のウーファーとソフトドーム型トゥイーターを組み合わせているがこの種のシステムは、ウーファーを追加してマルチアンプ方式で3ウェイ化するために大変な魅力的な存在である。追加するウーファーに専用アンプを用意する、2チャンネルのマルチアンプ化をおこなうのがもっとも好ましい方法であるが、そのバリエーションとして、最近復活しはじめた3D方式もある。低音の指向性がゆるやかなこと、波長が長いために左右チャンネルの位相の狂いが少ないことなどを利用して、低音だけは両チャンネルの信号をミックスして1本のウーファーで再生するのがこの3D方式である。
 超小型システムをベースとし、ウーファーを加える方法は、ベースとなるシステムがこの種の製品独特な音像定位のクリアーさとステレオフォニックなプレゼンスの再現に魅力があるため、わずかに追加したウーファーにより低音を補えば、かなりのフロアー型システムに匹敵するスケール感の大きい、それでいてプレゼンスのある音を再生することができるはずである。この場合には、スピーカーと聴取位置との距離は短いほうが超小型システムの特長が活かされる。
 小型のブックシェルフ型をベースとして、超小型システムと同じアプローチが可能だ。このタイプになれば、ウーファーの口径ももっと大きいものが使用可能で標準的に部屋にセットしてもさらに大音量でフロアー型の音が楽しめる。
 その他のバリエーションとしては、小口径シングルコーンユニットを採用した超小型や小型システムをベースとして、まずウーファーを追加して低音の改善を計り、その次にトゥイーターを加えて3ウェイ化するアプローチがある。広い帯域を中音ユニットに受け持たせるため安定した音が独特の魅力だ。

●スピーカーシステム
 パイオニア CS-X3
 ブラウン “Output Compact” L100
 ヴィソニック David50
●ウーファー
 KEF B139MKII
●プリメインアンプ
 サンスイ AU-607
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:サンスイ BA-2000
 中高音域:サンスイ AU-607(パワーアンプ部)

●スピーカーシステム
 ヤマハ NS-10M
 セレッション Ditton 11
 ロジャース LS3/5A
●ウーファー
 セレッション G15C
●プリメインアンプ
 マランツ Model 1180
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 パイオニア D-70
●パワーアンプ
 低音域:マランツ Model 170DC
 中高音域:マランツ Model 1180(パワーアンプ部)

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(アルテック A5)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 アルテックA5システムは、一般によく知られているA7−500−8システムを内容的に一段とグレイドアップしたタイプで、ザ・ボイス・オブ・ザ・シアターシリーズ業務用スピーカーシステムのなかでは、A7とならび、実用上、家庭内に持込んでコンシュマー用として使用できるもっとも小型な製品である。
 現在、国内でA5システムと呼ばれているタイプは、A5Xシステムといわれるタイプをベースとして、ハイフレケンシーユニットと組み合わせるホーンを、マルチセルラ型から大型セクトラルホーン311−90に置換え、コンシュマー用に相応しい指向性を得ようとしたシステムである。
 もともとA5システムは、開発された時点においては、現在のタイプとはまったく異なったより大型のエンクロージュアを採用しており、システムとしては、ウーファーと高音用のドライバーユニットの基本的な構造や規格で同じであることに類似点があるのみであるから、このA5システムも、A5シリーズのヴァリエーションのひとつとして考えてもよいと思われる。
 エンクロージュアは、A7−500−8システムと共通のフロントホーンとバスレフ型を複合した独特の828Bで、ウーファーは、416−8Bの強力型ユニットである515Bを組み合わせている。このユニットは、コーン紙を含む振動系は、ほぼ416−8Bと同等だが、磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用した強力なタイプで、出力音圧レベルは105dBと発表されている。
 高音用には、振動系が改良され、モデルナンバーが異なる291−16Aが指定されていたこともあったが、現在では、オリジナルともいうべき288−16Gドライバーユニットと311−90セクトラルホーンを組み合わせて使用している。
 クロスオーバー周波数は、より大型のドライバーユニットとホーンの組合せにもかかわらず、より小型なA7−500−8システムと同じ500Hzが指定されている。LC型ネットワークは、超大型のN500F−Aがマッチする。この場合の聴感上の特長は、A7−500−8にくらべ中音のエネルギー感と密度が格段に優り、低音も引締まった充実した響きで、いかにも業務用システムらしい堂々とした音が得られる点である。
 また、A5システムは、フロントホーン付の828Bエンクロージュアを採用し、高音ユニットとのエネルギー的、音色的つながりが意図されていると同時に、低音と高音の両ユニット間の位相が調整されている特長があることも見落とせない重要なポイントとしてあげることができる。
 マルチアンプ化のプランには、GASのアンプをベースにDBシステムズのエレクトロニック・クロスオーバーを使う。家庭用としての使用では、クロスオーバー周波数を指定より下げてみるのも大変に興味深い。

●スピーカーシステム
 アルテック A5
●コントロールアンプ
 GAS Thaedra
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 DBシステムズ DB-3+DB-2
●パワーアンプ
 低音域:GAS Ampzilla II
 中高音域:GAS Son of Ampzilla

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 ヴァイタヴォックスCN191コーナーホーンシステムは、英国をふくめたヨーロッパ製品のなかで、コンシュマーユースのスピーカーシステムとしてはもっとも大型なフロアーシステムである。
 エンクロージュアにはクリプッシュKタイプといわれるフロントロードホーン型の一種が採用されている。フロントロードホーンでは、その名称のように、ウーファーコーンの前面の音だけをホーンを使って放射しているが、バックローディングホーン型では、ウーファーコーンの前面の音は直接放射され、後面の音がホーンを使って、低音の一部だけをホーン効果により補うタイプである点が異なる。このクリプッシュKタイプでは、ウーファー前面からの音が、特殊な形状に折り曲げられたホーンから一度エンクロージュア背面に導かれ、さらに部屋のコーナーを低音ホーンの延長として利用し、エンクロージュア両側の開口部から前面に放射される。
 クリプッシュKタイプホーンは、ホーン型エンクロージュアらしい、厚みがあり緻密な堂々とした低音が得られる大きなメリットがある。しかし、折曲げ型ホーンのためにウーファーコーンからの中音は減衰しやすく組み合わせる中音用や中音から高音用のスピーカーユニットには、十分に低い周波数から使用できるタイプが必要である。
 ウーファーは、CN191システム用に指定されているAK157、中音から高音用には、直径76・2mmという大型軽金属製ダイアフラムと16、000ガウスの磁束密度をもつドライバーユニットS2と、アルミ合金製のセクトラルホーンCN157を組み合わせ使用する。なお最近のCN157ホーンは、ホーンのカーブが設計変更されて改良されているようで、一段と音質面でのグレイドアップが期待できる。指定LC型ネットワークは、クロスオーバー周波数500Hzの典型的な12dB型NW500である。
 しーぁぬ191は、部屋の壁面を低音ホーンの一部として利用することが前提として設計されているために、強度が十分にある、レンガやコンクリートなどの壁が相応しい。そうでない場合には、少なくとも、30mm以上の厚さの良質な板で、エンクロージュア後側の壁と接する面に使う衝立をつくり使用することが望ましい。
 マルチアンプ化のプランは、CN191がトラディショナルな英国の音をもつことを考えれば、少なくとも、スピーカーとダイレクトに結合するパワーアンプには,英国系の製品を使用したい。ここでは、QUADの2機種のパワーアンプを選んでいるが、低音用の303Jは、モノーラル構成で、出力部分にインピーダンスマッチング用のトランスをもつ特長があり、適度に最低域がカットされるため、ホーン型ウーファーには好適である。コントロールアンプその他は、管球タイプで音色的なバランスを重視して選んである。

●スピーカーシステム
 ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn
●コントロールアンプ
 ウエスギ U-BROS-1
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 ウエスギ U-BROS-2
●パワーアンプ
 低音域:QUAD 303J(×2)
 高音域:QUAD 303

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL 4350A)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのプロフェッショナルモニターシリーズのモニタースピーカーには、現在、30cmウーファーをベースにした4311から、38cmウーファーをパラレルドライブする大型の4350まで多くの機種がある。そのなかでは、スタジオモニターとして多く使用されている中型の4331A、4333Aは、マルチアンプ化のプランの対象として十分なクォリティの高さを備えた、優れたユニットを採用したシステムといえよう。しかし、2ウェイ構成の4331Aは、そのままマルチアンプ化することよりも、高音用に2405トゥイーターを追加して、3ウェイ化することのほうがグレイドアップの効果が高い。3ウェイ構成の4333Aでは、中音用ユニットのほうが高音用ユニットよりも高能率であり、低音を一台、中音と高音を一台のパワーアンプで駆動する2チャンネルのマルチアンプ方式には好ましくなく、完全にスピーカーユニットに対応したパワーアンプを使う3チャンネルのマルチアンプ化が必要である。むしろ、この場合は、コンシュマーユースとしての使用を前提とすれば単なるマルチアンプ化よりも、グレイドアップにおける投じた経費と結果での効率の高さにポイントをおくべきだ。マルチアンプ化は、2チャンネルとして、中音と低音の間に中低音用のコーン型ユニットを追加するか、超低音を補うために46cm型以上の専用ウーファーの追加や、3D方式なら、さらに大口径の60cm型や76cm型のウーファーを採用するプランが考えられる。
 それに対して、さらにマルチウェイ化され、4ウェイ構成になっている4343や4350は、ともに中低音用のコーン型ウーファーが採用されているのが大きな特徴だ。このため、これをベースとして中音用、高音用の能率的なバランスが保たれ、マルチアンプ方式の基本型である2チャンネル方式のために最適な条件を備えている。
 4343は、これらの条件が備わっているため、システムとして最初からスイッチ切替で2チャンネルのマルチアンプ使用が考えられており、4350では、全帯域をLC型ネットワークで使用することは考えられてなく、中低音以上と低音は、2チャンネルのマルチアンプで分割して使用することを前提とした設計である。そのために、ボイスコイルインピーダンスは、中低音以上は8Ω、低音は、ソリッドステートパワーアンプでは8Ωよりもパワーが得やすい4Ωになっている点は、見逃せないポイントである。
 マルチアンプ化は、各使用ユニットの数に応じたパワーアンプを使う本来の意味でのマルチアンプのプランを採用するのが、これらのシステムのもつ性能をさらに一段と飛躍させるためには好ましいことになる。しかし、ここでは、性能が高い、ハイパワーアンプによる2チャンネルの例をあげておく。これを使い、さらにマルチアンプ化していくことが、アプローチとしてはオーソドックスと思う。

●スピーカーシステム
 JBL 4350A
●コントロールアンプ
 マークレビンソン ML-1L
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 マークレビンソン LNC-2L
●パワーアンプ
 低音域:マランツ 510M
 中/高音域:マランツ 510M

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL D44000 Paragon)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのD44000パラゴンは、現在の大型スピーカーシステムとしては異例な性格をもった、極めてユニークな製品である。
 ステレオのスピーカーシステムは、一般的には左右チャンネルそれぞれ専用のスピーカーシステムを使う方法が標準であるが、パラゴンでは、左右チャンネル用のスピーカーシステムを一体化して使う構想で設計されている。構造上では、独立した左右対称型のフロントロードホーン型エンクロージュアを金具を使用して中央部分で結合し、デザイン的には、中央から左右に円弧状のカーブをもつ反射板で連続して、このまま家具として置いても素晴らしいオブジェとして眺められるユニークな完成度の高さが感じられる。しかも、エンクロージュアは、床面の影響を避けられるように、脚で床から離れているため、音楽的な面での処理も完全である。
 JBLには、かつて、このパラゴンのシリーズ製品として、同じ構想に基いた小型のミニゴンシステム、各種のユニットによりバリエーション豊かなシステムができるメトロゴンがあった。このシリーズのもうひとつの特長として、2チャンネルステレオでは、とくに左右スピーカー中心の音が弱くなり、実体感が薄れる点を補うために、エンクロージュア前面にある円弧状の反射板に主に中音ユニットの音を当て、その反射を左右のスピーカーに対して第3の音源として利用していることがあげられる。
 2チャンネルステレオでは、中央の音が弱く感じられない程度に左右のスピーカーシステムの間隔を調整することが、ステレオフォニックな音場感を再生する基本である。しかし、左右スピーカーの位置にある音源は、直接スピーカーからの音を聴くために、仮りにこれを実像とすれば、スピーカーの内中央の音源は、そこに定位をしたとしても、虚像にたとえることができる。パラゴンに採用された反射板を利用して第3の音源をつくる方式は、中央の音もスピーカーからの反射音を聴く実像である点が大きな特長である。
 パラゴンは、このように音響的に特殊な方式を採用しているため、最適リスニングポイントの範囲は一般のスピーカーシステムよりも狭く、制約がある。おおよその位置は、両側のトゥイーターの軸上を延長した線の交点あたりで、かなりスピーカーシステムと最適リスニングポイントの距離は近い。
 パラゴンを巧みに鳴らすキーポイントは低音にあるが、特にパワーアンプが重要である。ここではかつて故岩崎千明氏が愛用され、とかくホーン型のキャラクターが出がちなパラゴンを見事にコントロールし、素晴らしい低音として響かせていた実例をベースとして、マルチアンプ化のプランとしている。このプランにより、パラゴンを時間をかけて調整し、追込んでいけば、独得の魅力をさらに一段と聴かせてくれるだろう。

●スピーカーシステム
 JBL D44000 Paragon
●コントロールアンプ
 クワドエイト LM6200R
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 JBL 5234(×2)
●パワーアンプ
 低音域:パイオニア Exclusive M4
 中音域:パイオニア Exclusive M4
 高音域:パイオニア Exclusive M4

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(テクニクス SB-10000)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 テクニクスのSB10000は、現在までに発売されたフロアー型システムのなかでは、国内製品でもっとも大型なシステムである。低音用に46cm型ウーファーを採用し、中音と高音に開口角度の広いラジアルホーンを採用したホーン型ユニットを使用している。
 同社からは低音用の46cm型ウーファーとしては、すでにEAS46PL80NAが発売されているが、この単売ユニットとSB10000に採用されたユニットの関係は不明である。しかし、世界的にみても46cm型ウーファーは、製品数も少なく、国内製品で現在発売されているのはテクニクスだけということになる。
 このシステムの中音用、高音用ユニットは、ラジアルホーンとドライバーユニットを結合する部分のスロートが極めて短縮された、特長のある方式を採用しているのが従来に見られなかった方法である。中音用のドライバーユニット部分のダイアフラムは、直径100mmと非常に大口径型で、受持帯域の下側、つまり中音から低音にクロスオーバーするあたりのエネルギーが、より直径の小さいダイアフラムより一段と強く、ウーファーとのつながりが大変にスムーズである。
 高音用は、中音用が磁気回路の後部にダイアフラムをセットした、いわゆるリアドライブ方式であることにくらべ、一般的にトゥイーターに採用されることが多い、磁気回路の前部にダイアフラムをセットしたタイプだ。このダイアフラムは直径35mmで、材料にはチタン箔の両面に軽量で非常に硬度が高いボロンを真空蒸着させた新材料を使っているが、これは世界最初の試みである。
 ウーファー用のエンクロージュアは、バッフル盤の両側にスリット状のポートをもつバスレフ型である。この上に、中音用と高音用のユニットが前後方向に、リニアフェイズ方式に従って、スタガーしてレイアウトされている。
 このシステムは、LC型ネットワークにも位相補正方式が採用されているとのことであるから、マルチアンプでドライブするプランは単純に各ユニットを直接パワーアンプにつないでドライブして、LC型ネットワーク以上の音質が得られるかどうかがポイントになる。
 しかし、現実的に、マルチアンプドライブ化したシステムを調整する場合には、各ユニットの位置的な関係を移動できるタイプでは、相対的なユニット一のコントロールで、最良の音に追込むプロセスは、いわば、マルチアンプの実施面での定石である。したがって、SB10000でも、少なくとも、聴取位置を原点として聴きながら、中音と高音ユニットを前後させてベストポイントを探すべきであろう。アンプには、一連のテクニクス製品を選んだが、低音用には、左右それぞれにモノ接続としたパワーアンプを使用することにしたい。このシリーズのアンプは、性能、価格などからマルチアンプ方式には好適な製品だ。

●スピーカーシステム
 テクニクス SB-10000
●コントロールアンプ
 テクニクス SU-9070II (70AII)
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 テクニクス SH-9015C (15C)
●パワーアンプ
 低音域:テクニクス SE-9060II (60AII)×2
 中音域:テクニクス SE-9060II (60AII)
 高音域:テクニクス SE-9060II (60AII)

ソニー SS-G7

ソニーのスピーカーシステムSS-G7の広告
(スイングジャーナル 1977年10月号掲載)

SS-G7

Lo-D HS-530

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは湿りがちだが、木管のまろやかさはいい。
❷奥の方にひろがるが、スタッカートのシャープさはたりない。
❸フラジオレットの特徴は一応はこのましく示されている。
❹第1ヴァイオリンのひびきはかなり魅力的。
❺クライマックスでひびきが硬くなるが、つぶれない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は幾分大きめだが、音色的にはこのましい。
❷音色的な対比はついているものの、もう少しすっきりしてもいい。
❸軽やかさは不足ぎみ。こまやかな反応とはいいがたい。
❹ヴァイオリンの音色は、硬くならずこのましい。
❺音色的には、音像が大きくなりがちだ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にまろやかさがある。近づいてくる感じもつかめる。
❷声についている残響が強調される傾向がある。
❸クラリネットの音色も、オーケストラと声のコントラストも良。
❹はった声が硬くなっている。ひびきにのびやかさが不足のためか。
❺オーケストラの各楽器のきこえ方に無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶メンバーの並び方は、ほとんどわからない。
❷声に残響がつきすぎているので、言葉はかなり不鮮明だ。
❸子音のたち方が弱いために、言葉がききとりにくい。
❹ひびきに軽みがないので、各声部の動きはききとりにくい。
❺充分に残響をともなって、まろやかだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的なコントラストはついている。奥ゆきもとれている。
❷クレッシェンドは自然だが、透明感に不足している。
❸ひびきに重さがあり、そのために浮遊感は感じとりにくい。
❹一応のへだたりは感じさせるが、ひろびろとはしない。
❺ふくれあがり方は自然だが、ピークで金属的な音になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶なめらかにひびくところはいいが、ひろがりはたりない。
❷ギターの音像がふくれがちだ。せりだしてくるのはわかる。
❸ひびきの特徴をきわだたせないために、アクセントがつかない。
❹きこえるが、他のひびきの中にうめこまれがちだ。
❺ききとりにくい。なめらかさが優勢のためか。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶とげとげしないのはいいが、もう少しシャープでもいいだろう。
❷厚みは感じとれる。ベースのひびき方はこのましい。
❸乾いているとはいいがたいが、一応の成果はおさめている。
❹つっこみの鋭さは示す。ひきずってはいない。声も良好だ。
❺言葉のたち方もよく、バックコーラスの効果もでている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感があり、スケール感も、十全とはいえぬが、まずまずだ。
❷鮮明にききとれる。なまなましさもある。
❸誇張駆んなく消え方を示しているところがいい。
❹こまかい動きが、ほんの少しあいまいになる。
❺音量的にペデルセンのものの方が大きいようにきこえる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープとはいいがたいが、一応の効果はあげる。
❷もう少し鋭くてもいい。力は感じさせる。
❸音像的に大きくなりすぎているので、おしつけがましくなる。
❹距離感はある。接近も感じとれるが、もうひとつすっきりしない。
❺幾分ふくれぎみのため、メリハリがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八の比較的近くでひびいているように感じられる。
❷ひびきは、幾分脂っぽく、尺八らしさが希薄だ。
❸ききとれるが、かならずしも充分ではない。
❹スケール感がたりない。力強さは感じさせるが、消え方はきこえない。
❺ききとれなくはないが、きわめて弱い。

パイオニア CS-955

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに力があり、木管は積極的に示される。
❷低音弦のスタッカートにはたっぷりと力がついている。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹主旋律は、たっぷりと、表情ゆたかにひびく。
❺クライマックスでの堂々たるもりあがりはなかなかのものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きくない。ひびきの点でも確実さがある。
❷音色の対比をしなやかに示している。
❸室内オーケストラのキメ細かいひびきへの対応も充分だ。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、誇張感なく提示できている。
❺個々のひびきの特徴は描きだし方に無理がない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声にまろやかさが感じられていい。
❷接近感をゆとりをもって示す。表現に余裕がある。
❸声とオーケストラのからみ方が自然でいい。
❹はった声でもまろやかさを保ち、声の艶を失わない。
❺とけあい方がよく、しかも各々を鮮明に示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位は、鮮明とはいえないが、一応ききとれる。
❷前半と後半とで、鮮明さにおいて、さほど差がない。
❸残響はむしろ多めだが、細部も一応ききとれる。
❹横へのひろがりが充分なので、各声部のからみも明瞭だ。
❺無理なく、しなやかに、ひびきののびているのがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比は充分に示されていて効果的だ。
❷後方でのシンプルなメロディは、ひろがりを示す。
❸暖色系のひびきながら、浮遊感は獲得できている。
❹ひびきに自在さがあり、提示される空間が広々としている。
❺ひびきは、大きくひろがり、圧倒的な力でせめてくる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきのひろがりは充分だ。
❷ギターの音像は大きいが、ここでの効果は明らかにしている。
❸ほどほどのひびき方だが、まずは充分というべきだろう。
❹すっきりときこえるが、明度の点でいま一歩だ。
❺一応きこえるが、必ずしも効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶たっぷりとひびく。もう少し硬度があってもいい。
❷サウンドの厚みとひろがりをたっぷりと示す。
❸ハットシンバルのひびきは、かなりひろがってきこえる。
❹ドラムスは大きくひびくが、鋭さもある。
❺声とほかの楽器とのバランスも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きいが、充分に力強いので、はえる。
❷指の動きは、鮮明に示すが、部分拡大にはなっていない。
❸消えていく音は、スケールゆたかな再生に有効な働きをしている。
❹力強く、しかもこまかい音の動きにも対応できている。
❺音像的な対比の点で、多少ものたりなさがなくもない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、重く、迫力充分で、効果的だ。
❷ブラスのつっこみは、力があり、輝きもある。
❸申し分なく前方にはりだして効果をあげる。
❹トランペットの後方へのひき方も示せている。
❺リズムは幾分重めに感じられるが、めりはりはつけている。

座鬼太鼓座
❶尺八は、大きく、前の方できこえる。
❷ひびきとしては、脂がのりすぎている。
❸かすかな音が、あいまいにならず、きこえる。
❹迫力、音の消え方、両者において、かなり好ましい。
❺きこえて、ひろがりを暗示しえている。

ゲイル GS-401A

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきは、はれやかで効果的だ。
❷低音弦のひびきは、しっかりしていて、充分にひろがる。
❸木管と弦楽器のとけあいもよく示している。
❹響きが重くひきずりがちにならないのがいい。
❺クライマックスの力と鋭さをよく示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さくまとまり、すっきり提示されるのがいい。
❷音色的な対比を軽やかに、さわやかに示す。
❸室内オーケストラ特有のひびきのさわやかさがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、実にすっきりしている。
❺特に木管楽器の音色の示し方がいい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がしっかりしていて、セリフの声に誇張感のないのがいい。
❷接近感を鮮明に示す。子音のひびき方も自然だ。
❸声とオーケストラとのバランスはよくとれている。
❹はった声はかたくならない。もう少し力が感じられてもいい。
❺さまざまなひびきがよくとけあっている。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきの性格としてはたっぷりしたものだが、定位は確かだ。
❷声量をおとしても言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響は感じられるが言葉の細部もききとれる。
❹ひびきに敏捷さがあり、誇張感のないのがいい。
❺自然にしめくくりのひびきがのびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は、はなはだ鮮明である。
❷後方へのひきが充分でひろがりが感じられる。
❸ひびきの飛びかうさまが無理なく感じられる。
❹ひびきはさわやかにひろがり、前後のへだたりも充分に示す。
❺ピークでの圧倒的なもりあがりがすばらしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきがすっきりと示されている。
❷ギターの音像がふくれていないのがいい。
❸ことさらめだつわけではないが、一応の効果はあげる。
❹軽やかにひびいて、音色的なアクセントをつけている。
❺はなはだ望ましい感じで示されている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶幾分かためのハイコードが効果的に示されている。
❷この部分で求められる効果を提示しえている。
❸ハットシンバルのひびきのぬけでてき方がいい。
❹重低音をそぎおとしたドラムスの感じがよくわかる。
❺言葉のたち方、声の重なり具合、いずれも好ましい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶特に迫力を強調するわけではないが、鮮明な提示がいい。
❷指の動きをくっきり示すが、部分拡大にはなっていない。
❸必要最少限には音の消え方を示している。
❹こまかい音の動きをあいまいにならずに示している。
❺サム・ジョーンズとの対比が不自然でなくていい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのアタックの鋭さがよくわかる。
❷ブラスのひびきにもうひとつ力がほしいが輝きは充分だ。
❸求められる効果はあげているが、もう少しワイルドでもいいだろう。
❹音の見通しがいいために、トランペットの参加は効果的だ。
❺ここでのリズムは切れが鋭くすばらしい。

座鬼太鼓座
❶充分に距離がとれているために、ひろがりが感じられる。
❷尺八のひびきは、脂っぽくならず、のびのびときこえる。
❸ことさらではないが、一応ききとれる。
❹大きさは提示しないが、力強さは示す。
❺きこえる。効果的なひびきのまとまりがある。

ヤマハ NS-1000M

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは力があっていきている。木管との対比も充分だ。
❷スタッカートはくっきりひびいて、ひろがりを感じさせる。
❸特徴的なひびきをわざとらしくならずによく示す。
❹第1ヴァイオリンによる旋律がたっぷりひびく。
❺クライマックスでのまとまりがいい。一応の迫力もある。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中くらいだ。ピアノの音に力があるのがいい。
❷音色的な対比ができている。ひびきのとけあい方もいい。
❸室内オーケストラのこまやかなあじわいが感じとりにくい。
❹模し少し柔らかで、しなやかであってもいいだろう。
❺個々の楽器のキャラクターはよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きめで、息づかいなどを誇張する。
❷接近感は示すがセリフの声のなまなましさは不足している。
❸楽器の音色を示しはするが充分とけあっているとはいいがたい。
❹はった声は、ききにくいという程ではないが、かたい。
❺ひびきにコントラストをつけすぎる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きく、バリトンやバスが強調される。
❷ひびきに軽みがなく、敏捷さに欠けるため、不鮮明になりやすい。
❸残響をひっぱってきすぎるので、言葉の細部はききとりにくい。
❹各声部のバランスが必ずしもよくはないので、明瞭さがたりない。
❺余韻をきかせはするが、響きが重いので効果はでない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも音場的にもコントラストがついている。
❷後方からのひびきは、力をもってクレッシェンドする。
❸音のとびかいは感じられるが、ひびきがばらばらになっている。
❹前後のへだたりは示されるが、ひろがりは感じとりにくい。
❺ピークでかたくなる。力があるのはいいが、おしだしすぎか。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でひろがるが、ひびきに透明感がとぼしい。
❷ギターの音像は大きめである。せりだし方がつかみにくい。
❸このひびき本来の効果をうみだしえない。
❹このひびきは、金属的になって強調される。
❺ききとれることはききとれるが、効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴をきわだたせる。
❷サウンドの厚みを示して、効果的である。
❸ハットシンバルの音はさらに乾いてきこえてもいいだろう。
❹ドラムスは力はあるが、鋭くはない。
❺声はごりおし風に前にでる。重なった時にまろやかさがほしい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きく、部分拡大的なひびきになる。
❷指の動きはききとれるが、誇張感がある。
❸音の消え方を示すものの、不自然さがある。
❹力強さは示すが、こまかい音の反応は鈍い。
❺サム・ジョーンズの音像が極端に小さく感じられる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきは、重く、アタックの鋭さがでない。
❷ブラスは力をもってつっこんでくるが、輝きは不足ぎみだ。
❸フルートは大きくふくらんで、せりだす。
❹音の見通しがよくないので、トランペットの効果はいきない。
❺ふやけてはいないが、切れが鈍い。

座鬼太鼓座
❶かなり近くできこえて、距離感がでない。
❷ひびきに脂がのりすぎていて、尺八らしさがとぼしい。
❸かなりくっきり、力をもってきこえてくる。
❹力は感じさせるが、消え方をとらえているとはいいがたい。
❺きこえるものの、雰囲気を高めてはいない。

アルテック Model 15

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、うすく、多少のへだたりをもってひびく。
❷低音弦のひびきは、重く、ねばりぎみである。
❸フラジオレットの音色を伝えるものの、充分とはいえない。
❹ここでのピッチカートは、大きくふくらみがちだ。
❺迫力があり、力も感じさせるが、鮮明とはいいがたい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくれぎみで、音の質としてはたくましい。
❷音色的な特徴を拡大ぎみに示し、大柄だ。
❸室内オーケストラのものとしては、たっぷりひびきすぎる。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、肉がつきすぎている。
❺個々の楽器の音色を示すが、鮮明にとはいいがたい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像が大きく、表情をきわだたせる傾向がある。
❷残響をかなりひっぱり、接近感を誇張する。
❸クラリネットをクローズアップぎみに示す。
❹はった声は、かたくなって、のびない。
❺オーケストラと声とのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きい。定位ははっきりしない。
❷ひびきに多少のねばりがあるために、不鮮明になりがちだ。
❸残響をひっぱりすぎているために、細部があいまいになる。
❹バリトン、バスが強調されぎみなので、各声部のバランスが悪い。
❺のびてはいるが、軽やかさがない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷奥へのひきはいいが、クレッシェンドが自然でない。
❸一応の浮遊感を示すものの、ひびきはねばりきみだ。
❹前後のへだたりは示せているが、広々とはひびかない。
❺ピークでの、ひびきのふくらみは圧倒的で、迫力も充分だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきに力がつきすぎていて、透明感が不足だ。
❷ギターの音像は大きく、そのひびきは力強い。
❸きわめて積極的に自己主張して、前にはりだす。
❹このひびきの輝きがききとりにくい。
❺他のひびきの中にうめこまれて、ききとりにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、ふくらみ、重くきこえる。
❷重厚にきこえるが、音の重なり具合はよくわからない。
❸ハットシンバルの音が湿ってきこえる。
❹ドラムスの音像が大きく、鋭くつっこんでこない。
❺バックコーラスの効果は一応示せている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が大きく、入れものの中でひびいているかのようだ。
❷指の動きを、なまなましくきわだたせる。
❸弦をはじいた後の音の消え方をくっきり示す。
❹ある種の力感は伝えるものの、シャープな反応に不足する。
❺サム・ジョーンズとの音像的対比が不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶迫力はあるが、リズムが重く感じられる。
❷ブラスのひびきに力があり、効果的だ。
❸積極的に大きく前にはりだしている。
❹へだたったところからきこえるが、効果的とはいえない。
❺ふやけてはいないが、重くリズムが刻まれている。

座鬼太鼓座
❶尺八は左奥からきこえるが、距離感は足りない。
❷尺八のひびきに脂がつきすぎている。
❸かなりたっぷりと、力をもったひびきできこえる。
❹スケール感ゆたかなひびきをきかせる。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいえない。

KEF Cantata

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはすっきりさわやかにひびく。木管の音色もいい。
❷スタッカートにはもう少し力がほしい。べとつかないよさがある。
❸フラジオレットの特徴的な音色を細身なひびきでだが示す。
❹美ッ血カートはふくらまない。ヴァイオリンの音色はさわやかだ。
❺スケールの点で充分とはいえないが、のびやかなひびきがいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さくすっきりまとまるのが好ましい。
❷音色対比は充分についていて、バランスもいい。
❸室内オーケストラのさわやかさを感じとれる。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはまことにさわやかだ。
❺各楽器の音色をキメこまかに示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどよい大きさで、定位もいい。
❷接近感をよく示す。セリフの部分の声のなまなましさを伝える。
❸クラリネットの音色に問題はない。声とのバランスもいい。
❹はった声がかたくもならず、自然にのびる。
❺ひびきにゆたかさはないが、すっとりきける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左から右へのメンバーの並び方を充分にききとることができる。
❷音にべとつきがないので、声量をおとしても不鮮明にならない。
❸残響を程よくおさえているために、言葉がよくたつ。
❹ひびきに軽やかさがあるため、音の響きに敏感に反応できている。
❺かすかな余韻を残しているので好ましい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比が充分についている。
❷後方へのひきは申し分ない。ひびきに透明感がある。
❸熱をもたない青い音がさわやかに浮遊する。
❹充分にひろがりを感じられる。前後のへだたりも充分だ。
❺導入は自然だが、ピークでの迫力は示しきれない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきをわざとらしくならずにすっきりと示す。
❷ギターの音像は大きくならず好ましい。
❸多少消極的にすぎるひびき方でとどまる。
❹さわやかに、輝きをもって効果的にひびく。
❺ことさら耳を近づけなくともきくことができる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をシャープに伝える。
❷サウンドの厚みは十全とはいえない。
❸ひびきの乾き方は順当である。すっきりぬけてくる。
❹もう少し力強さがほしいが、つっこみはシャープだ。
❺声の特徴はよく伝える。言葉も鮮明だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶一応の力は示すが、迫力の点でいま一歩というべきだろう。
❷指の動きをきかせるものの、なまなましいとはいえない。
❸音の消え方を伝えるものの、それがスケール感にはつながらない。
❹力強いとはいいがたい。こまかい音の動きはよく示す。
❺音像的、音色的、音量的対比に不自然さがない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスはシャープだが、力強さに欠ける。
❷ブラスは輝きにみちているが、迫力の点で不足している。
❸多少上品にひびきすぎるきらいがなくもない。
❹音の見通しがいいために、トランペットの効果がいきる。
❺リズムが鋭くきざまれて、充分にめりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶尺八との距離はとれているが、充分になまなましい。
❷奏者の息づかいまでわかるかのようだが、脂っぽくない。
❸きこえないことはないが、ほんのかすかにきこえるだけだ。
❹大太鼓の音の消え方をきかせるが、迫力にはとぼしい。
❺大太鼓のゆたかなひびきと対比されて効果をあげる。

スペンドール BCIII

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、軽やかに、鮮明にひびく。
❷低音弦のひびきは、幾分腰がたかいかのようだが、シャープでいい。
❸さまざまなひびきをくっきりさわやかに示す。
❹ここでのピッチカートはふくれず好ましい。
❺クライマックスでのひびきのもりあがり方は大変いい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、すっきりと示される。
❷寝ロイ対比も十全で、とけあい方もいい。
❸室内オーケストラならではのさわやかなひびきがきける。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはほぼ理想的だ。
❺さまざまなひびきがさわやかさをもって鮮明に示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声に誇張感がなく、なまなましい。音像は小さい。
❷接近感を自然に無理なくすっきり示す。
❸オーケストラと声とのバランスはきわめていい。
❹はった声はかたくならず、充分にのびる。
❺個々のひびきを鮮明に示しつつ、全体のまとまりをつける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左から右へ、6人のメンバーの並び方がよくわかる。
❷声量をおとしても、鮮明さが不足することはない。
❸残響をおさえぎみにきかせるため、言葉のたち方はいい。
❹ひびきに敏捷さがあるため、まことに明瞭にききとれる。
❺ポツンと切れてしまうことなく、余韻を残す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶軽いひびきでピンとポンの差を明らかにする。
❷はるか後方からきこえてくる好ましさがある。
❸浮遊感が充分に示されているので、効果的だ。
❹音の遊泳が自然ですみやかなために、ひろびろと感じられる。
❺もりあがり方は自然だが、ピークではひびきがきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきの透明感はほぼ申し分ない。
❷ギターの音像は小さく、したがってせりだし方をくっきりと示す。
❸くっきりひびいて、あいまいさがなく、有効だ。
❹このひびきのきらめきをよく伝えている。
❺ここでもまたうめこまれることなくいきている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をくっきりと示している。
❷厚みという点ではものたりなさもあるが、重なり方をよく示す。
❸充分に乾いたひびきで、すっきりとぬけでてくる。
❹ドラムスのひびきも、声も、質的に充分だ。
❺音楽のたち方も、音の重なり方もよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感を誇示するわけではないが、強いひびきをよく示す。
❷部分拡大にならず、なまなましさをもたらす。
❸元の音がしっかりしているので、消え方もあいまいにならない。
❹こまかい音に対しての対応も充分だ。
❺サム・ジョーンズによる音との対比の面でも秀れている。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶もう少し力強さがほしいが、シャープなつっこみはいい。
❷幾分ひかえめながら、一応の効果はあげる。
❸背後のひびきも明らかにしつつ、音色対比をくっきり示す。
❹空間が広くとれているので、トランペットの参加は有効だ。
❺リズムの刻みは、はなはだシャープである。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、その消え方も明らかだ。
❷尺八らしい音色ですっきりと示される。
❸ほとんどききとりがたいといっていいだろう。
❹大太鼓の大きさも強さも明らかになっていはいない。
❺ききとれるが、幾分とってつけたようだ。

ダイヤトーン DS-50CS

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートはまろやかにひびくが、前にでる。
❷奥ゆきがとれていてひろがる。スタッカートに力がほしい。
❸フラジオレットの特徴はよく示されている。
❹多少ふくれぎみだが、切れはよい。
❺クライマックスでかたくならないよさがある。迫力を示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きめで、たっぷりひびくが、定位はいい。
❷音色的な対比は充分についている。
❸もう少しすっきりひびいてもいいだろうが、こまやかさがある。
❹このフレーズの特徴は、充分にいきている。音色は暖色系だ。
❺各楽器の特徴は、キメこまかに示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にまろやかさがあり、息づかいなども自然に感じられる。
❷接近感を無理なく示し、強調感がない。音像はいくぶん大きい。
❸クラリネットの音色はよく伝える。声とのバランスもいい。
❹はった声もかたくならず、なまなましさを失わない。
❺各楽器のひびきを、ほどよく、自然にきかせる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きめのため、定位はよくない。
❷声量をおとすと、言葉は不鮮明になる傾向がある。
❸残響をひっぱるため、言葉の細部はききとりにくい。
❹バリトンが強調されがちなため不鮮明になりがちだ。
❺一応の余韻は伝えるが、効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音像的対比は充分について、効果的である。
❷クレッシェンドは、無理なく示される。
❸ひびきに浮遊感があり、重くひきずらない。
❹前後のへだたりが充分に示されて、ひろびろと感じられる。
❺幾分ピークでひびきがかたくなるが、一応の迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきが暖色系のため、透明感が幾分うすれる。
❷ギターの音像が大きめのため、せりだしが感じとりにくい。
❸軽く、浮いてひびく。充分な効果をあげられない。
❹ひびきに輝きがなく、他のひびきにうめこまれがちだ。
❺耳をかたむけて、どうやらきける程度だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきが幾分甘くなっている。
❷サウンドの厚みはでているが、さらにくっきり示されてもいい。
❸ハットシンバルのひびきが幾分湿っている。
❹ドラムスの音像が大きい。声はまずまずた。
❺バックコーラスの効果はでているが、言葉はたちにくい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ペデルセンのベースがエネルギー充分にひびく。
❷指の動きを明らかにし、オンでとったよさを示す。
❸音が尾をひいて消えていく感じを一応は伝える。
❹こまかい音の動きに対しての対応は充分とはいえない。
❺音像的な面でのサム・ジョーンズとの対比が不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、重くひびいて、アタックの鋭さはない。
❷ブラスは、本来の輝きに不足しているものの、効果はあげる。
❸フルートは、前にせりだしてきて、有効な働きをする。
❹全体に音像が大きめなので、音の見通しがよくない。
❺幾分ふやけぎみだ。もう少しすっりしてもいい。

座鬼太鼓座
❶尺八との距離感がさほどついているとはいいがたい。
❷尺八の響きが、幾分脂っぽくなっている。
❸あいまいにならず、かなりくっきりききとれる。
❹スケール感ゆたかに示される。エネルギーも感じられる。
❺大太鼓の音の消え方とのバランスがよく、雰囲気をだしている。

デンオン SC-107

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートが軽くひびく。木管も音色の特徴を示すが、軽い。
❷スタッカートは鮮明だが、ひびきにもう少し力がほしい。
❸フラジオレットの音色はわかるが、効果的とはいえない。
❹きれいにまとまるが、フランスのオーケストラのようにひびく。
❺迫力はとぼしいが、バランスよくまとまっている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像が小さめで、オーケストラとのバランスがいい。
❷音色対比は充分にできている。それぞれの特徴をよく示す。
❸ひひきにさわやかさがあり、こまやかなあじわいを示す。
❹このフレーズの特徴はよく示していて、このましい。
❺木管楽器の特徴は示すが、ピアノの音は軽くなりすぎている。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がふくれすぎないよさがある。すっきりした定位もいい。
❷接近感を示す。声もなまなましい。
❸クラリネットの音色もよく示されている。
❹はった声も硬くなることなく、オーケストラとのバランスもいい。
❺それぞれの楽器が、きれいに、くっきりとうかびあがる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶すっきりした音できこえるので、定位ははなはだいい。
❷声量をおとしても、言葉は不鮮明にならない。
❸残響をほどよくおさえているので、細部があいまいにならない。
❹ひびきにみがるなところがあるので、明瞭にききとれる。
❺ほどよくひびきがのびているので、ポツンとは切れない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも、コントラストがついている。
❷ひびきが軽いので、しのびこみは自然で、のびもいい。
❸ひびきが浮遊するので、ひろがりがある。
❹前後のへだたりはとれているが、もう少しひびきに力がほしい。
❺ピークで刺激的なひびきになり、迫力の点で不足を感じる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきに透明感があり、さわやかでいい。
❷ギターのひびきがたたない。せりだし方も不足している。
❸しずみこんでしまって、充分な効果をあげえない。
❹さわやかに、輝きのあるひびきで、はえる。
❺ききとることはできるが、決して充分とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色は、多少薄味になっているが、いきている。
❷サウンドの厚みは感じとりにくい。
❸この部分についてはこのましいが、一面的なひびきになりがちだ。
❹つっこみはシャープだが、軽くひびきすぎる。声はまずまずだ。
❺言葉もたち、バックコーラスの効果もいきている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶スケール感が示されず、しかも音像が大きくふくれがちだ。
❷指の動きは示すが、それがなまなましさにはつながらない。
❸一応示すものの、その際のひびきに力がない。
❹力強さは充分とはいえないが、音の動きはわかる。
❺ペデルセンがとびだしすぎて、いささか不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープに切りこむが、ひびきに力がほしい。
❷ブラスに輝きはあるが、力感にとぼしい。
❸音色的には充分な成果をあげているが、さらに強くてもいい。
❹音の見通しがつくために、後からきこえるトランペットがいきる。
❺リズムはシャープにきざまれているが、力がほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八のひびきはこのましい。ひびきのひろがりも感じられる。
❷脂っぽさはまったくなく、このましいひびきになっている。
❸ぼんやりとひろがってだが、ききとることができる。
❹乾いた音になり、大きさも迫力も、示されない。
❺かなりくっきりききとれるものの、幾分わざとらしい。

最新スピーカーシステムの傾向をさぐる

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

最新テクノロジーと基礎技術の蓄積が実った国産フロアータイプシステムの台頭
 本誌36、37号でスピーカーテストをしてから、また2年の歳月が流れた。この二年間を、長いといっていいのか短いと言うべきなのか──。個人的にはついこのあいだのことのような気もしていたが、改めて今回テストした製品の一覧表をみると、再登場している製品はヤマハ1000M、フェログラフS1それにセレッションのディットン66の三機種、つまりたった一割で、結局残りの大半はそれ以後に登場した新製品ということになるわけで、やはり二年という歳月は、長い、というべきなのだろうか。
 しかしまた一方、たった二年のあいだにこれほどまでに製品が入れ替るというのは、私たちユーザー側からみれば、ほんとうに新製品としての価値があるのだろうか。一年そこそこで新型に替るだけの必然的な理由が、いったいどこにあったのだろうか、と考えさせられる。そうした視点から、今回テストした30機種をふりかえって、スピーカーシステムの最新の傾向を展望してみようと思う。ただ、おそらく今年のオーディオフェアをきっかけに年末にかけて発表される新製品は、ほとんど次号でのテストの予定に入っているので、つまりほんとうの意味で最新の傾向は、後半のテストのあとでなくては論じにくいことになる。私自身もまだその後半のグループを知らずに書いていることをお断りしておく。

輸入スピーカーに実力の差がはっきりとみえはじめた
 輸入スピーカーの日本国内でのマーケットに、多少の異変が起きはじめている。というのは、数年前の一時期は、ヨーロッパやアメリカ製の比較的廉価なブックシェルフ・スピーカーが、国内製品を翻弄するかのような売れゆきをみせていたことがあった。国内の主力メーカーでさえ、なぜ、こんなに安くて良いものが作れるのか、と頚をかしげて残念がっていた。しかしそのことが、日本のスピーカーを逆に刺激する結果になって、いまでは一台5万円あたりを境にして、それ以下の価格のスピーカーには、輸入品であることのメリットが少なくなってきた。言いかえれば、輸入品の必要のないほど国産で良いスピーカーが作られはじめた。そういう傾向は、すでに前回(36~37号)のテストにもみえはじめている。もう少し具体的にいえば、これを書いている昭和52年8月という時点で、あえて輸入品をとるだけのメリットのある価格の下限といえば、たぶんセレッションUL6やB&W DM4/IIなど、5万円台後半以上の価格の製品からが、考え方の分れ目になるだろう。これ以下の価格の輸入品を探すと、たとえばジョーダンワッツの〝フラゴン〟やタンバーグの〝ファセット〟のような形や色やマテリアルのおもしろいもの、あるいはヴィソニックの〝DAVID50〟やブラウンL100などのミニサイズで音の良いスピーカー、それにセレッション〝ディットン11〟のようにサブ用として楽しい音を鳴らすスピーカー……などのように、国産には類似品の少ない何か特徴を持った製品に限られてくる。ただ、ひとつひとつ細かくはあげないが例えばヨーロッパ製の小型車のように、性能にくらべて割高につくことを承知の上で、国産にない個性を買うというのであれば、5万円以下でもまだいくつかの製品が考えられる。がそれにしても、性能(音質)本位で買おうというときに5万円以下では、もはや輸入品をあえてとるほどのメリットが、数年前にくらべてほとんどなくなりつつあるというのは明らかな現象だ。
 しかしそれでは、もう少し高価な方のグループに目を移すとどうなるのか。ここでは、国産品の実力が必ずしも未だ海外品を不必要というレベルまでは行っていない。あるいはそれは時間の問題なのかもしれないが、しかし現時点では、同じような価格のスピーカーどうしで、海外の著名品と国産品を聴きくらべてみると、少なくとも音楽を聴く楽しさという点では、海外の著名品にまだ一日の長を認めざるをえないのではないか。
 むろん、同じ価格で比較すれば、その大きさや構成や作りの良さ、という面では、国産に歩があるのはあたりまえだ。地球を半廻りする輸送費と関税と業者のマージンが加わって、生産地での価格の二倍ないし三倍で売られる輸入品が、内容の割に高くつくのはあたりまえだ。けれどもう何度もくりかえした話だが、そういうハンディをつけてもなお、輸入されて割高についているスピーカーが、同じ価格で作られた国産品より、音楽の本質を伝えてくれることの未だ多いことは、やはり認めておくべきだ。その上で、国産品のどこに何が欠けているのかを、考えてみるべきだ。
 ──と書いてくると、私が相も変らず輸入スピーカー一辺倒であるかのように思われてしまいそうだがそれは違う。輸入スピーカーといってもその中から一応ふるいにかけられて水準以上の音で鳴るものに対して、国産の方は特定の少数の優秀品ばかりでなく国産全体の平均的水準を比較してみると……という話なので、これでは比較の上でずいぶん不公平だ。実際のところ、海外スピーカーがすべて優秀だなどという神話は、もうとうの昔にくずれ去っている。従来のスピーカーの中には、あきれるほどひどい製品がいくらもある。というより欧米の製品には、スピーカーに限らず常に、ピンとキリの差がきわめて大きい。そしてその中から厳選されて輸入された優秀製品だけが国産と勝負するのだから、強いのがあたりまえ、だったわけだ。
 だが、その状況が少し変ってきた。というのは第一に、海外製品の平均水準が、必ずしも国産より上ではなくなってきた。もう少し正確にいえば、先に書いたようにある価格帯に限っていえば、海外よりも国産の方が、明らかに水準が上になってきた。
 第二に、これは必ずしも海外製品に限った話ではないが、優秀な製品を作り世評の高かったメーカーが意外に駄作を連発したり、いままであまり目立たなかったメーカーや全く新顔のメーカーから、非常に優秀な製品が生まれはじめたり、どうやらこのマーケットに世代交替のきざしがみえはじめた。
 ひとつの例をあげればアルテックだ。この名門メーカーは、ここ数年来明らかに低迷している。ウェスターンエレクトリックの設計を伝承して、ヴォイス・オブ・ザ・シアターや604SERIESの名作を生んだアルテックの、技術自体は少しも衰えていない。ただこのメーカーはいま、自分の技術をどういう方向にまとめたらいいのか、よくわからずに暗中模索を続けているのではないかと私には思える。ただその模索の期間が少々長すぎて最近数年間に発売された新製品では、620Aエンクロージュアを除けば、タンジェリン・ドライバー・ユニットの開発と、それを生かしたモデル19スピーカーシステム以外には、あまり見るべき成果をあげていない。個人的なことを書いて恐縮だが、私自身に海外スピーカーの音の良さを初めて教えてくれたのはイギリス・グッドマンだが、その次に私を驚かせたのは(本誌別冊のアルテック号にも書いたが)M氏の鳴らしたアルテックのホーンスピーカーだった。あのときの音がいまでも耳の底に残っているだけに、アルテックよいま一度蘇ってくれ、と切望したい。
 EV(エレクトロボイス)とマッキントッシュも、それぞれに優秀なスピーカーを作っていた。1950年代に作られたEVの〝パトリシアン〟は、今でもこれを凌駕する製品の出現しない大作だった。マッキントッシュも、スピーカーの専門メーカーではないがそれでも、以前のSERIESはいかにもこの会社らしい重量感と厚みのある音で独特だった。
 たまたま今回のテストに加わったアルテックやEVやマッキントッシュのスピーカーは、必ずしもそれぞれのメーカーの最高の製品ではないから、これをもってメーカー全体を判断してはいけないことは百も承知だが、しかし逆説的にいえば、数多くの製品の中のたったひとつをランダムに拾い出してテストしてみれば、そのメーカーの体質を知ることはできる。たまたま今回のテストにのったメーカーであったために右の三社の名を上げたのだが、しかし目を広く海外全体に向ければ、それぞれ何らかの事情から、かつての栄光を維持できなくなりつつあるメーカーは、決してこれら三社ばかりではなく、たとえば、イギリスのグッドマンとワーフェデールといえば、かつては一世を風靡する勢いのあるメーカーだったが、イギリス手はKEFやセレッションやスペンドール等の方が、いまでは良いスピーカーを作っているというように、やはり世代の交替はみられる。ある時代に築いた技術と名声を維持し続けてゆくことの、いかに難しいかは、他の多くの分野でもいくらでも例にあげられる。

国産スピーカーの技術の向上とフロアータイプへの傾向
 いわゆる基礎技術の蓄積という面では、いまや国産スピーカーの方は、海外メーカーを大きく引き離しているといえそうだ。たとえばスピーカーの測定や解析のための設備──無響室、残響室および各種の精密測定器とそのオペレーター──に関していえば、いま日本のメーカーの装備は世界一だ。日本のメーカーならどこでもすでに持っている無響室ひとつさえ、アメリカやヨーロッパのメーカーではまだ珍しい。
 逆にいえば、アメリカやヨーロッパ、ことにイギリスでは、たとえばBBC放送局の研究所などの公的機関で開発した資料を基礎にして、各メーカーが互いに感覚と個性を発揮してシステムをまとめあげる、という形が多い。つまり基礎開発から手をつけるほどの大きな規模のメーカーはほとんどなくて、いわゆるアセンブリーメーカーとして、ユニットは他社のを購入してきて、自社独特のシステムに組みあげるメーカーが大半を占める。このことは一面、非常に脆さを孕んでいる。
 日本のメーカーのように、ユニットの解析から始めて自社開発するという大がかりな手順で作る、しかもそれが各社ごとに行われる、というようなことは、欧米のメーカーの多くにとっては信じがたいすさまじさであるらしい。彼らが日本製品の海外進出に危機感を抱くのは当然だ。しかも日本のスピーカーは、数年前までは誰の耳にも欧米の有名製品に劣っていたが、最近では事情が大きく転換しはじめた。たとえばヤマハのNS1000Mが、スウェーデンの放送局に正式のモニターとして採用されたり、BBC放送局で、テクニクスのリニアフェイズにかなりの興味を示したり、という具合に──。
 すでにアンプやDDモーターが、世界のオーディオ界を席巻しているように、かつては駄もの呼ばわりされた日本のスピーカーが世界中に認められるようになるのは、そう遠い先の話とはいえなくなってきたことは右の事実からも容易に読みとれる。
 ところで、改めて言うまでもなく日本のスピーカーの流れの中で目立ってきたのが、昨年あたりからのフロアータイプの開発だ。これには大別して三つの背景がある。
 第一は、数年来言われてきたブックシェルフ型のあまりの能率の低下を何とかしたいという要求である。プログラムソースからアンプまでの性能が向上して、ほとんどナマの楽器同様のダイナミックレンジで鳴らすことも不可能ではなくなってきた(そういう音量を出せる環境の問題は別として)反面、そのためには現在ハイパワーアンプで得られる実用上の限界の300Wのパワーでさえもまだ不足、といわれるほど、スピーカーが特性の向上とひきかえに能率を低下させてしまった。
 古いフロアータイプには、昨今のブックシェルフタイプの平均値よりも20dB近くも高能率の製品が珍しくなかった。アンプのパワーに換算すれば、ブックシェルフに必要とされるそれの百分の一でよいということになる。
 こんにち要求されるワイドレンジとダイナミックレンジの要求を満たすには、古いフロアータイプの設計そのままでは具合が悪いにしても、ブックシェルフという形態の制約から離れてみることによって、スピーカーの高能率化が容易になる。これがフロアータイプ出現の第一の理由だ。
 第二に、国内スピーカーメーカーが、永いあいだブックシェルフの開発途上で身につけてきた技術の蓄積が、ようやくフロアータイプの高級機にも生かせるだけのレベルに達しはじめた、ということ。
 そのことは第一の理由とも関連するが、アンプの分野で、プリメインという形態での限界がほぼ見えはじめて、いま高級機はセパレートタイプに移行しつつることと同様に、スピーカーでもまた、ブックシェルフで達成しうる性能の限界がみえはじめた一方で、ユーザーサイドからも、より良い音の製品が欲しいという要求が高まってきた。またメーカー側でもようやくそれにこたえるだけの技術力がついてきた、という次第で、これらの理由が重なって、急速にフロアータイプ開発への動きが積極化しはじめたのだと私はみている。ただ、あちらが出したのならウチでもひとつ……式の、単に時流に阿ただけの製品がないとはいえないが、これはいまや必ずしも日本のマーケットだけの悪い癖とはいいきれない。海外のスピーカーシステムにも、フロアータイプがひところより増える傾向がみえてきたことからもそれはいえる。
 しかし──これは言わずもがなかもしれないが──スピーカーの良否あるいはグレイドを、単にフロアー型かブックシェルフ型かというような形態の面からきめつけるような短絡的発想はぜひとも避けたいものだ。ブックシェルフという形態は長い経験の中で練り上げられたそれなりに完成度の高いスピーカーだけに製品も多彩だし、また一般家庭での音楽鑑賞に、大げさでないこの形はやはり好ましい。
 これに対してフロアータイプは、本来は古くからあった形だがしかし現在のフロアータイプへの要求は、昔のそれに対してとは大幅に異なっている。そうした新しいフロアータイプを完成させる技術について、まだ未知数の部分が少ないとはいえない。良いものもある反面、柄が大きく高価なだけで何のとりえもないというようなものも、中にはないとはいえない。

特性をコントロールできるようになって、かえって音作りの姿勢や風土の差がよく聴きとれるようになってきた
 海外製のスピーカーと国産スピーカーとの比較は、しかし単に音質や特性の良否や形態だけでは論じきれない。同じレコードを鳴らしても、スピーカーが変ればそれが全く別のレコードのように違った音で鳴る。が、数多くのスピーカーを聴くうちに単にメーカーや製品系列の違いによる音の差よりも、イギリスと日本、イギリスとアメリカ、アメリカと日本……というように、その国あるいはその地方の製品に共通した鳴り方のニュアンスの差があることに気づかざるをえなくなる。そのことを私はもうずいぶん前から指摘しているが、今回のテストでもそのことは改めて、というよりも一層、それこそスピーカーの音の決定的な違いのように受けとめられた。くわしいことは、本誌36号(現代スピーカーを展望する)を併せてご参照頂けるとありがたいが、たとえば同じシンフォニーのレコードでも、イギリスのスピーカーは概して良い音楽ホールのほどよい席で、ホールトーンの細かな響きをいっぱいに含んで、左右のスピーカーの向う側にまで広い空間のひろがりと奥行きを感じさせる。同じレコードをアメリカのスピーカーは、もう少し演奏者に近づいたように、力と輝きを感じさせ、日本のスピーカーは概してクラシックの弦の音が苦手で、合奏をやや金属的に不自然に鳴らす。
 こうした違いは、単に特性上の違いがあるだけに、いわゆる風土とは違うというような見方もある。単に現象を物理的に解析すればそのとおりかもしれない。音の違うのは特性が違うからだ、というのは説明としても最も正しい。が私は、そこにそういう音に仕上げた──といって悪ければあえてそういう特性に仕上げた──人の姿勢、を感じとる。
 ただ比較的最近までは、スピーカーの特性のうちで人為的にコントロールできる部分が比較的少なかったために、結果として出てくる音が、それを最初から意図して作られたものかそれとも半ば偶発的に出てきた結果にすぎないのか、という判断に難しさがあった。
 けれど最近になってたとえばKEFの開発になるパルスは系をコンピューター処理して特性を動的に解明しようというような試みや、レーザー光線によるスピーカー振動板のモードの解析や、材料素材にまでさかのぼる新しい解析法などの研究のつみ重ねによって、スピーカーの物理特性が、以前よりは人為的にコントロールできるようになってきた。むろんスピーカーの物理特性には、まだ全くわからない部分や、解析上はわかっている欠点もそれをどうしたら改善できるのか正しい見通しのつかない部分がいくらもあるが、少なくとも周波数特性に関しては、意図した特性にかなりのところまで近づけることも不可能ではなくなってきた。
 現実に、スピーカーは設計者が作りっぱなしでそのまま製品化するというようなことはない。試作したものを比較試聴し特性を測定し、何回かの修整をくりかえしながら、設計者の意図した製品に近づけてゆく。言いかえれば、出てきた音はそのまま設計者の意図した音にほかならないのだから、七面倒くさい理屈をこねようとこねまいと現実の問題として、数多くのスピーカーを聴けば、メーカーや製品による音の違いよりもそれを生んだ国に共通の、つまり風土に共通の、同じ感性の仕上げた音と言うものがあることは、誰の耳にも明らかなはずだ。
 にもかかわらず、たとえば最近のJBLのモニタースピーカー(例えば4343)の特性が、古いJBLの特性にくらべてはるかに平坦にコントロールされるようになってきたのみて、「JBLが国産スピーカーの音によく似てきた」などと見当外れの解説が載っていたりする。いったいレコードから何を聴きとっているのだろうかと思う。周波数レインジの広さはどうか──、帯域内での低・中・高音のバランスはとうか──、音のひずみ感は?、にごりは? 楽器の分離や解像力は?……こうした聴き方をする範囲内では、なるほど、JBL♯4343も国産のワイドレンジスピーカーも、たいした違いはないかもしれない。だがほんとうにそうならスピーカーの音の差など、いま私たちが論じているほどの大問題ではなくなってしまう。いや、JBLより国産の方が、レインジも広いし帯域バランスも優秀だし、特性の凹凸も少なくて音のクセが少ない、という聴き方もある。が、それはあまりにも近視眼的だ。試みに、クラシックの管弦楽もの、オペラ、宗教曲、室内楽、ピアノ、声楽……とプログラムソースをかえて聴いてみる。さらにモダンジャズ、歌謡曲、ヴォーカル、クロスオーバー……等のレコードを、次々と聴いてみる。JBL♯4343なら、そのすべてのレコードが、音楽的にどこかおかしいというような鳴り方はしない。
 ところが国産では、割合ローコストのグループ(それだから必ずしも万能とはいえないし、また高級機ほど厳しい聴き方もしない)を除くと、とくにクラシックのオーケストラものや合唱曲、宗教曲、オペラ等のレコードで、音が強引すぎたり、複雑に織りなしてゆく各パートのバランスがひどくくずれたり、陰で支えになっているパートが聴きとれなくなってしまったり……というようなものが多く、その点だけでも満足できるものは窮めて少数しかない。さらにJBL♯4343では(必ずしもこのスピーカーを唯一最上と言うわけではなく、たまたまひとつの例としてあげているのだが)、右のような内声の旋律が埋もれてしまうなどという初歩的なミスのないことはむろんだが、それよりも一層、鳴っている音楽の表情に生き生きした弾みがあり、音の微妙な色あいが生かされて、そのことが聴き手に音楽を楽しませる。ところが国産スピーカーの中には、音のバランスまでは一応整っていても(そのことさえ問題が多いのだが)、音楽の表情や色あいという点になると、概して抑えこんで抑揚に乏しい、聴き手の心をしぼませてしまうような鳴り方をするものが、少ないとはいえない。
 再生音の物理的あるいはオーディオ的な意味あいからは弱点の少ないとはいえないイギリス系の比較的ローコストのスピーカーが、音楽を楽しませるという面で、まだまだ国産の及びにくい良さを持っていることを見逃すわけにはゆかない。
 たしかに国産全体の水準は向上した。ただそれはあくまでも、過去のあの欠陥商品と言いたいような手ひどい音の中から、短時日によくもこれほど高い技術に到達できたものだという感想をまじえての話、である。
 音楽の再現能力──それはよく〝音楽性〟などという言葉で説明された。が、あまりにもあいまいであるために、多くの誤解を招いたようだ。たとえば、「特性は悪いが音楽性に優れている」などという表現にあらわれているように。しかし厳密にいって、特性さえ良くないスピーカーが、音楽の再現能力で優秀ということはありえない。そういうスピーカーは、たいていの場合、あらゆる音楽ジャンルのうちの或る特定のレパートリィについてのみ、ほかのスピーカーで聴くことのできない独特の個性的な音色が魅力として生きる、というような意味合いで評価されていた。そうしたスピーカーは、ある特定の年代のレコーディングについては良い面を発揮するが、最近の新しい録音の聴かせる新鮮な音の魅力は聴かせてくれない。
 本当の意味で〝音楽性〟というならそれは、クラシックかポピュラーかを、また録音年代の新旧を問わず、そのレコードが聴かせようとしている音楽の姿を、できるだけありのままに聴き手に伝える音、でなくてはならない。

たとえば一枚のレコードをあげるとすれば
 あまり抽象論が続いても意味がないと思うので、ここで仮にただ一枚のレコードをあげて、その一枚でさえいかに再生が難しいかを考えてみる。クラシックからロックまでの幅広いジャンルのほぼ中ほどから、ジャズを一枚。それも、あまり古い録音や入手しにくい海外盤を避けて、オーディオラボの菅野沖彦録音から、“SIDE by SIDE Vol.3”をとりあげてみよう。今回の私のテストの中にも加えてあるが、私のその中で SIDE A/BAND 2の“After you’ve gone”をよく使う。
 SIDE by SIDEは、ベーゼンドルファーとスタインウェイという対照的なピアノを八城一夫が弾き分けながら、
ベースとギター、またはベースとドラムスのトリオで楽しいプレイを展開する。第一面をベーゼンドルファー、第二面をスタインウェイと分けあって、それにひっかけてSIDE by SIDEのタイトルがついている。
 After you’ve goneは、まず八城のピアノと原田政長のベースのデュオで始まる。潮先郁男のギターはしばらくのあいだ、全くサイドメンとして軽いコードでリズムを刻んでいる。ところがこのサイドのギターに注意して聴くと、スピーカーによってはその存在が、耳をよく澄まさなくては聴き分けにくいような鳴り方をするものが少なくない。またギターそのものの存在が聴き分けられても、それが左のベース、中央のピアノに対して、右側のギターという関係が、適度に立体的な奥行きをもって聴こえなくてはおかしい。それが、まるでスクリーンに投影された平面像のように、ベタ一面の一列横隊で並ぶだけのスピーカーはけっこう多い。音像の定位とは、平面だけのそれでなく前後方向に奥行きを感じさせなくては本当でない。適度に張り出すとともに奥に引く。奥行き方向の定位感が再現されてこそ、はじめてそこにピアノ、ギター、ベースという発音体の大きさの異なる楽器の違いが聴き分けられ、楽器の大きさの比が聴きとれて、つまり音像は立体的に聴こえてくる。
 次に注意しなくてはならないのは、ベーゼンドルファーというピアノに固有の一種脂こい豊麗な音色がどれだけよく聴きとれるかということ。味の濃い、豊かに丸味を帯びて重量感のあるタッチのひとつひとつが、しっとりとしかもクリアーに聴こえるのがほんとうだ。ことに、左手側の巻線の音と、右手側の高音域との音色のちがい。ペダルを使った余韻の響きの豊かさと高音域のいかにも打鍵音という感じの、柔らかさの中に芯のしっかりと硬質な艶。それらベーゼンドルファーの音色の特色を、八城の演奏がいかにも情感を漂わせてあますところなく唄わせる。この上質な音色が抽き出せなくては、このレコードの楽しさは半減いや四半減してしまう。
 ところで原田のベースだが、この音は菅野録音のもうひとつの特長だ。低音の豊かさこそ音楽を支える最も重要な部分……彼(菅野氏)があるところで語っているように、菅野録音のベースは、他の多くのレコードにくらべてかなりバランス上強く録音されている。言いかえれば、菅野録音のベースを本来の(彼の意図した)バランスで再生できれば、それまで他のレコードを聴き馴れた耳には、低音がややオーバーかと感じられるほど、ベースの音がたっぷりした響きで入っているのだ。
 ところがこのレコードを鳴らしてみて、むしろベースの音をふつうのバランスに聴かせてしまうスピーカーが意外に多い。むろん、同じ一つのスピーカーで、菅野録音とそれ以外のレコードを聴きくらべてみれば、相対的にその差はすぐわかる。だが、このレコードのベースの音は、ふつう考えられているよりもずっとオーバーなのだ。それがそう聴こえなければ、そのスピーカー(またはその装置あるいはリスニングルーム)は、低音の豊かさが欠如していると言ってよい。
 お断りしておくが、私はこのレコードのベースのバランスが正しいか正しくないかを言おうとしているのではない。あくまても、レコード自体に盛られた音が、好むと好まざると、そのまま再生されているかいないか、を問題にしているので、その意味でもこのレコードは、テストに向いている。
 ところで最後に、テストに向いているというのはあくまでもこのレコードのほんの一面であって、ここで展開される八城トリオの温かく心のこもったプレイは、そのまま、音楽そのものが聴き手をくつろがせ、楽しませる。良いスピーカーでは右の大別して三つの要素が正しく再現されるということは良いスピーカーの最低限度の条件にすぎないので、その条件を満たした上で、何よりもこの録音が最も大切にしているアトモスフィアが、聴き手の心に豊かに伝わってくることが、実は最大に重要なポイントなのだ。面倒な言い方をやめへてたったひと言、このレコードが楽しく聴けるかどうか、と言ってしまってもよい。ところがこのレコードの「音」そのものは一応鳴らしながら、プレイヤーたちの心の弾みや高揚の少しも聴きとれないスピーカーがいかに多いことか。
     *
 たった一枚のレコードをあげてでも、そしてその中のたかだか3分間あまりの溝の中からでも、ここに書いたよりさらに多くの音を聴きとる。スピーカーテストとはそういうことだ。そういうレコードを十枚近く用意すれば、そのスピーカーが、「音楽」を聴き手に確かに伝えるか否かが、自ずから明らかになってくる。クラシックから歌謡曲まで、一枚一枚のレコードについて言い出せば、ゆうに本誌一冊分も書かなくてはならないが、逆にいえばどんなレコードでもいい。聴き手にとってより知り尽くした一枚のレコードに、いかに豊かな音楽が盛られているかを教えてくれるスピーカーなら、おそらくそれは優れたスピーカーだ。
 こういう聴き方をしてみたとき、国産の多くのスピーカーが、何度もくり返すようにまず楽器どうしのバランスの面で、ことにプログラムソースをクラシックにした場合に、おかしな音を出すものが多いし、第二に音の豊潤さ、第三に音楽の表情、といった面で、まだまだ注文をつけたくなることの多いことを、今回のテストを通じて感じた。むろん海外製品の中に、いまや国産以下のひどい音が氾濫しはじめていることは前にも書いたが、国産スピーカーが、一日も早く「音楽」と聴き手の「耳」にでなく「心」に染みこませてくれるような本ものの音に仕上ることが、いまの私の切実な願いだ。
 本誌創刊のころ、知人のコピーライターが、すばらしい名言を考えついて、これが今でも私たち仲間内での符牒のようになっている。
 それは「音(オン)」だけあって「楽(ガク)」の聴こえない音、または「音」だけあって「響」のない音、というのである。あれから十余年を経たいまでも事情は同じだと思う。いま切実に望まれるのは、「音」だけでなく「楽」も「響」もある美しい音の鳴ることではないだろうか。

マッキントッシュ XR5

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、鮮明だが、遠くでひびく。
❷低音弦のひびきはなめらかさが足りず、妙にがさつく。
❸一応の音色的な特徴を示すにとどまる。
❹ここでのピッチカートは、幾分ふくれがちだ。
❺もうひとつきりっとした力が望まれる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はかなり大きくふくれる。
❷音色的な対比を一応は示すものの、鮮明さに不足する。
❸室内オーケストラのひびきのさわやかさが足りない。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは太くひびく。
❺もう少しさまざまなひびきがあってほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きめだが、強調感のないのがいい。
❷接近感はかなりなまなましく示す。
❸声よりオーケストラのひびきの方がめだつ。
❹はった声がかたくならないのはいいが、のびやかさがない。
❺さまざまなひびきのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はふくれがちながら、横一列に並んでいるのがわかる。
❷ひびきが重いので、言葉は鮮明になりきれない。
❸残響をかなりひきずっている。言葉のたち方が不充分だ。
❹バリトンが強調されがちで、各声部のからみに問題がある。
❺ひきずりがちなひびきがぽってりと残る。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンとポンの音色対比はくっきりとついている。
❷奥へのひきはいいが、音質的に問題がある。
❸浮遊感に欠ける。ひびきが重いためだろう。
❹示される空間がとうしても狭くなる。
❺ピークで刺激的なひびきになってしまう。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥へひいているが、ひろがりが示せているとはいえない。
❷ギターの音像はかなり大きく、せりだし方がはっきりしない。
❸一応はききとれるものの、効果的とはいえない。
❹妙にきわだってきこえる。一応のアクセントはつける。
❺きこえなくはないが、特にめだつということもない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのハイコードの特徴は示す。
❷サウンドの厚みは明らかにするが、さらにくっきりしてほしい。
❸ハットシンバルのひびきは、乾き方が足りない。
❹ドラムスは、音像が大きくなった分だけ、シャープさがない。
❺声は総じてひっこみがちになり、物たりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶なにかの入れものの中でひびいているかのようだ。
❷きこえなくはないが、かなりききとりにくい。
❸音の消え方を示すものの、それが効果にはつながらない。
❹こまかい音の動きに対しての対応はよくない。
❺音像的、音量的、音質的対比は好ましい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのアタックには弱々しさがある。
❷ブラスのつっこみにしても、鋭さが足りない。
❸大きくはりだすものの、力が不足している。
❹音の見通しがよくないので、トランペットの効果はでない。
❺さらにリズムがくっきり刻まれないとめりはりがきかない。

座鬼太鼓座
❶不思議なことに、天井のあるところで吹かれたようにきこえる。
❷尺八の枯れたひびきからは少なからずへだたっている。
❸きこえるものの、実体をきき定めがたい。
❹音の消え方を示しはするが、力強さに欠ける。
❺きこえるものの、効果を発揮しているとはいいがたい。

テストの結果から私の推すスピーカー

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

■セレッション DITTON66
 今回のテストを通じて最も印象に残った音といえばこれを第一にあげる。とくにクラシックの管弦楽や協奏曲やオペラ等での、おだやかでありながら適度に厚みと艶のある響きの美しさは──もちろんあくまでもこの価格でという前提つきで、だが──ちょっと類のない素晴らしさだ。新製品とはいえないが、そして前にも何度かとりあげられているが、初期の製品は、ペアで購入してみるとネジが左右で違っているのがついていたり、どこか町工場で作られたような部分があったが、最近の製品はすっかりこなれてきて、非常に完成度の高い、思わず聴き惚れるような、そして永く聴いていても少しも人を疲れさせない、本ものの音楽のエッセンスをたっぷりと響かせる。名作のひとつ、と言っても過言ではないだろう。
     *
 いまも書いたように、私たちが「推選機種」などのタイトルで評価する製品は、すべて、「この価格の中では」という条件がつく。もう少し正確にいえば仮に10万円とすればそれと同じ価格帯の、その時点でのその価格の製品の平均的な水準が、いつでも頭の中に整理してあって、それと照らしあわせた上で、テストした時点でこの価格帯の中では水準以上か、以下か、という観点から推選機種が浮かんでくる。
 したがってたとえば、一方に30万円という価格の割にはやや水準を下まわる、と判断して「推選」にならなかった機種があるとする。そして他方に、10万円という価格帯の中では水準をやや上まわると判断して、「推選」にした機種があるとする。その場合、30万円で推選にならなかった製品が、10万円の推選機種より音が悪いとは限らない。むしろ逆に、価格を考えずに音だけ比較すれば、推選にならなかった30万円の方が、10万円のより音が良いのがふつうだろう。このことがよく誤解されるらしいので、あえて蛇足を加えた次第である。
 そのことを前提として、以下に各価格帯別に推選機種を列挙すると──
■50万円以上では
 JBL L300(もしも4333Aが加わればもちろんこれも推選に入る)
 このほかにテクニクス SB10000が試聴記でも書いたようにかなりの音を聴かせたが、試聴した製品がまだ量産以前のものなので、今の時点では推選はさしひかえたい。量産に移ってからもこの水準が間違いなく保たれれば(あるいは量産に移ってから逆にいっそう性能が向上することもあるが)、問題なく推選機種にあげられる。
■20万円台の中から
 スペンドール BCIII
 JBL L65A
■18万円台の中から
 B&W DM6
 パイオニア CS955
 タンノイ BERKELRY
■10~15万円台まで
 フェログラフ S1
 ゲイル GS401A(専用スタンドと共に)
 ヤマハ NS1000M
■8~10万円まで
 KEF CANTATA
■7万円台では
 デンオン SC107
■6万円台では
 トリオ LS505
■5万円台では
 ビクター SX55N
■4万円台では
 デンオン SC104
(次点ヤマハ NS-L325)
 などがあげられる。

試聴テストを終えて

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

各スピーカーの評価ばかりでなく、組合せや使いこなしのヒントまでをテーマに聴いた
 上下二回に亙る予定の試聴テストの前半を終えた。30機種のスピーカーに共通のテストの方法について書いておく。
■試聴装置の選定──アンプ──
 各スピーカーの評価ばかりでなく使いこなしを含めて解説するように、というテーマが私には与えられていたので、アンプやカートリッジには、それぞれ性格を異にする製品を数多く集めて、幅広くテストするよう配慮した。アンプはプリメイン型の中から大幅にキャラクターの違う三機種として
 ①トリオ KA7300D
 ②ヤマハ CA2000
 ③ラックス SQ38FD/II
 を選んだ。②と③については42号の試聴記および推選機種の解説で書いたように、一方は最新型のTR(トランジスター)高級機、他方は旧製品ながらユニークな管球式ということで、全く対照的な音がするが共に優秀な製品だ。ただいずれも十五万円以上のいわゆる高級機に属するので、スピーカーによってはもう少し価格の安いプリメインアンプとのマッチングを確認する意味で、42号以降に発売された新製品の中から、私のテストした中では最も優秀だと思うトリオKA7300Dを加えた。中級機の中では音の品位の高いことと、音楽の表情をとてもよく生かす秀作だと思う。このトリオのいくらか味の濃い音に対して、ヤマハのややサラリと軽く明るい音との二つで、スピーカーの傾向をかなりよく掴むことができたと考えている。またSQ38FD/IIの場合は、この少々古めかしいところのある音を、暖かい良さとして生かすスピーカーと、逆に弱点として鳴らすスピーカーとがあって興味深かったが、結果的にはみれば、トランジスターの最新モデルのフレッシュな音と、38FD/IIのことに弦やヴォーカルで聴かせる滑らかな暖かさとを、それぞれに魅力として聴かせるようなスピーカーの方が、総じて優秀なスピーカーだと言える。こまかくは各試聴記をご参照頂きたいが、しかし私に与えられた枚数の中では、こういうこまかな面についてまで補足を加えるスペースがとれなくて残念な思いをした。
 アンプとしては右以外に、セパレートの高級機を加えておく必要もあると考えて、
 ④ラックス 5C50+5F70+5M20+5E24
 ⑤マーク・レビンソン LNP2L+SAE MARK2500
 の組合せを用意した。⑤は私の個人用のシステムで最も扱い馴れたいわばリファレンス用としての意味も持っているが、④の方は、最近の国産セパレートタイプの中でも、プリとメインの両方の出来栄えでバランスのとれたアンプという意味で使ってみたが、音質の点では十分に満足できた。またトーンコントロールアンプ5F70によって、周波数特性をかなり細かく調整して各スピーカーのくせを掴むことができたし、ピークインジケーター5E24でスピーカーに送り込まれるパワーを正確に読むことができてとても安心できた。ただ、5M20にはこういうテストには少々パワー不足に思えることがあって、せめて200W×2以上の出力が欲しかったが、その面はSAEの300W×2で補った。
■試聴装置の選定──プレイヤーとカートリッジ──
 レコードプレーヤーは、それ自体しっかりしたものであればスピーカーのテストにはそう厳密なことを考える必要がないと思ったので、おそらく延べ数十時間に亙るであろうテストのあいだじゅう、レコードを何百回となくかけるたびに不愉快な思いをさせないでくれるように、デザインや操作性の面で個人的に気に入っているラックスのPD121とオーディオクラフトのAC300Cの組合せを用意した。
 カートリッジは、オルトフォンMC20+マーク・レビンソンJC1AC/Pと、エレクトロアクースティック(エラック)STS455Eを最も多く使った。日頃常用して素性がよくわかっているからだが、このほかに、ADC(ZLM、XLM/III)、エンパイア(4000D/III)、EMT(XSD15)、ピカリング(XSV3000、XUV4500Q)、シュアー(V15/III)、オルトフォン(SPU-G/E、VMS20E)、テクニクス(EPC100C)などを、確認のために準備し、スピーカーによって使い分けてみた。なおこれ以外にも、本誌試聴室には市販のほとんどのカートリッジが揃っているので、必要に応じて随時各種を試みた。それらについても、アンプ同様、スペースの制約から細かなことを書けなかった点は残念だった。
■レコードについて
 試聴用に選ぶレコードについてかなり誤解があるようなので解説を加えておきたい。おそらく別項にあるように、私の使うレコードは必ずしもすべてが最新録音ではないし、いわゆる話題の名盤というわけでもない。中にはここ数年来変らず使うレコードもある。それは、ごく限られた短い時間の中で、ほとんど瞬間的に音を聴き分け、評価するという目的のためには、自分の身体に染み込んでしまうほど永いあいだ何百回となく聴き馴染んだプログラムソースを使う方がよいと考えているからだ。最新録音盤では、まだそのどこにどういう音が入っているのかが、身体に染み込むほど耳に入りきっていない。少なくとも数ヵ月以上、毎日のように聴いた部分でなくては、自信の持てるようなテストができない。
 また、いわゆる話題の名演、名盤をあまり使わないのは、私自身の全くの個人的な理由による。というのは、もしも自分が本当に音楽そのものを楽しみたいほどの良いレコードであれば、総試聴といういわば仕事の場ではなるべく耳にしたくない。プライベートの場で、菊機会を十分に選んで、音楽にのめり込みたい。そう思わせるほどのレコードを、何百回もの荒っぽい反復使用でキズものにしたくないし、どんな名演でも部分的に何百回も耳にすれば、感激も薄れてしまうだろう。そういうレコードは、原則としてテストには使わない。
 もうひとつ、いまも書いたようにテストの場合は、一枚のレコードの中のせいぜい3分から長くても5分あいだぐらいの特定の部分だけを、何百回も反復して使う。とうぜん傷みも激しい。しかしまた、部分的にビリつきやポップノイズを生じはじめたような傷んだレコードも、その部分を正確に知っていれば、ポップノイズはトランジェントレスポンスのテストになるし、ビリついたプログラムソースが潜在的な歪を露頭させるため
に有効に働くことがままあるのだ。
 要するに、テストソースというのは私にとってオシレーターの波形同様に音源としての方便のひとつにすぎないので、このレコードのこの部分がこう聴こえれば、あのレコードのあの部分がああ聴こえるはずだという計算が、頭の中で正確にできるような、自分にとって有用な基準尺度として使えることが条件だ。そのためには、あえて録音のよくないレコードを使うこともあるが、そういうレコードを私以外の人が入手しても、どの部分をどう聴きとるか、の基準が違えば何の約にも立たないだろう。
     *
 試聴装置およびレコードを選んだ理由は以上のとおりである。これをもとに、本誌試聴室に用意してある各種のスピーカー置台やインシュレーターをいろいろ試み、レベルコントロールを大幅に動かしてみ、音量も大幅に変えながら、それぞれのスピーカーの隠れた性格まで読みとるべくテストした。
 なお今回の試聴直前に、本誌試聴室に一部改修が加えられて音響特性が変ったが、部屋の音を十分に耳に馴染ませる時間が少なかったので、判断に誤りの生じないよう、リファレンス用としてJBL♯4343を用意して、常時参考にして比較した。今回の改修で従来よりも残響時間が短めになったせいとリファレンスを用意したために、むしろいままでよりも各スピーカーの差がはっきりと掴めたと思う。

■試聴レコード
●ベートーヴェン序曲集
 カラヤン/ベルリン・フィル(独グラモフォン 2530 414)
●ブラームス:ピアノ協奏曲第1番・第2番
 ギレリス/ヨッフム/ベルリン・フィル(グラモフォン MG8015/6)
●ベートーヴェン:七重奏楽曲 op.20
 ウィーン・フィル室内アンサンブル(グラモフォン MG1060)
●シューマン:リーダークライスop.24
 フィッシャー=ディスカウ(グラモフォン MG2498)
●孤独のスケッチ/バルバラ(フィリップス SFX5123)
●サイド・バイ・サイドVol.3
 八城一夫ほか(オーディオ・ラボ ALJ-1047)
●アイヴ・ゴット・ザ・ミュージック・イン・ミー/テルマ・ヒューストン(米シェフィールドラボ-2)
その他、数枚適宜使用

JBL L65A

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、いきいきとひびいて積極的だ。
❷低音弦の動きは、ひびきに力があり、鮮明だ。
❸個々のひびきをくっきり示し、とけあい方もいい。
❹第1ヴァイオリンは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❺クライマックスのひびきは、幾分刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中位だ。ひびきに力がある。
❷音色的な対比は明らかだが、ひびきがかたすぎる。
❸室内オーケストラのひびきのまとまりは示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはかたい。
❺個々の楽器のひびきの特徴は示すものの、しなやかさが不足だ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどほどで、好ましいが、子音を強調する。
❷接近感を示すものの、表情が濃くなる。
❸ひびきにとけあった気配が希薄で、ばらばらにきこえる。
❹はった声がかなりかたくなり、前にせりだす。
❺オーケストラと声とのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きく感じられ、そのためか定位の点で問題がある。
❷声量をおとした分だけ、不鮮明さが増す。
❸残響をかなりひきずっているのがわざわいしているようだ。
❹ひびきに本来の敏捷さがないために明瞭にはききとれない。
❺重いひびきをたっぷりとひっぱっている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンとポンのひびきの性格的な違いがくっきりと示される。
❷ひびきの後方へのひきは充分にとれている。
❸充分に浮遊感はあるが、ひびきにやわらかさがほしい。
❹ひろがりはとれている。目のつまった感じのしないのがいい。
❺ピークは力にみち迫力充分なものだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥へのひきはできているが、ひびきが幾分かたい。
❷ギターの音像はほどほどだ。せりだし方がわかる。
❸ほぼ十全な、くっきりとした提示のされ方をする。
❹かなり目だって、ひびきにアクセントをつけている。
❺意外なことに、ここではあまりよくはきこえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの特徴的なひびきがよく示されている。
❷ここでは、厚みより、力が増したように感じられる。
❸ハットシンバルのひびきのちらばり方がみごとだ。
❹ドラムスの音像は幾分大きいが、つっこみはシャープで有効だ。
❺声の重なり方、全体とのバランス等でまずまずだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像がふくらみすぎず、力感充分なのがいい。
❷指の動きを鮮明に示すが、部分拡大のいやみはない。
❸ことさら目だたせるわけではないが、充分にききとれる。
❹力強いひびきだ。こまかい動きにも対応できている。
❺音像的な面でも無理がなく、はなはだ自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックはシャープで、しかも力がある。
❷ブラスのひびき方は、パワフルで、効果的だ。
❸フルートによるとは思えないほどの積極的なひびきだ。
❹見通しがいいために、トランペットの効果がいきている。
❺リズムの切れが鋭く、めりはりをくっきりつけている。

座鬼太鼓座
❶尺八は、かなりへだたったところからきこえる。
❷脂っぽさはなく、しかも余韻を残している。
❸不自然でない、本来のきこえ方がする。
❹大きさも、力強さも、それに音の消え方もよく示す。
❺効果的なきこえ方をして、アクセントをつけている。