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ソナス・ファベール Minima

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 アコースティックな楽器がもつ音色感の変化に対する描きわけに、独特の緻密さがあり、しかもその色一つ一つにある種の強さが感じられる点が、総じて淡白な国産スピーカーにはない魅力である。濡れたような質感と艶は、クリアカラーの吹きつけ塗装をしたみたいな光沢をつけ、この点が好みの別れるところかもしれない。エンクロージュアの作りのよさが、響きのよさに正しく反映されており、弦やピアノをよく歌わせてくれる。低域の量感はミニマムだが、不思議によく歌う性格の明るさに助けられ、音楽を楽しく聴かせててくれる。ディティールの描写力もあり、あいまいな音楽性という言葉で、情報量という絶対的物理量を誤魔化さない真面目さも併せもっている。

インフィニティ Modulus

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 ローインピーダンスでハイパワーアンプでないと鳴らないという風評だったが、常識的な音量で聴くかぎり、とくに破綻をみせることはなかった。というより、僕はこのスピーカーはやや音量をしぼって、しんと静まりかえったプライベートな空間で楽しむべき存在だと聴けた。なにしろ麻薬的に音がやわらかであり、ハイエンドが繊細なのだ。これほど傷つきやすく損なわれやすい個性は昨今めずらしく貴重だ。うっかりすると寝ぼけた音と誤解されそうなほど、音の輪郭、エッジは淡くあやうい。けだるくアンニュイな、まるで陽炎のような音の漂いにそっと耳をそばだて、やわらかな空気に浮ぶような浮遊感に遊ぶのも、またひとつの行き方だと納得させられる。

プロアック Response 2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 サイズやユニット構成からすると割高感もあるだろう。しかし近年の注目株だけに、かなり手なれた作り手の存在を感じさせる、したたかな製品だ。モニター的な分解能の高さと耳あたりの良さを両立させ、上品によくのびた高域と、類型他製品に散見する、ポリプロピレンくさい響きをよくコントロールした低域が、巧妙にバランスしている。各楽器の音像サイズが、音程で不自然に小さくなったり肥大したりもせず、演奏のデリケートな陰影感を端正に提示するあたり、価格を納得させるものがある。
 ソフトドーム型のトゥイーターは、一見、スペンドールそっくりだが、随分と鳴り方が違うものだ。

アカペラ Fidelio

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 専用スタンドの背が高く、音が上方から降りてくるような感じだが、それにしてもよくひろがる雰囲気の良い音だ。声のもつエネルギー感がやや薄くなるものの、これがむしろ僕にとってはよい方向に作用して、春の霞たなびく、といった独特のエコー感とあいまって、情緒的でしっとりしたニュアンスが堪能できる。ふっくらした低域の支えも充分で、うっすらと甘い弦の艶や、弾力性のあるピアノの質感は、素直な自然さが感じられ、わざとらしさがない。ドイツにもこんなにマイルドな音があるのだと、越境的に変化するオーディオの個性より、やはり作る人の個性の差の方が大きくなりつつある、昨今のオーディオ界を暗示する象徴的な作品。

サンスイ SP-1000

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 硬質でメタリックな光沢が、あらゆる楽器の音色に乗ってくるところが、よくもわるくも、この製品の個性になっている。ふっくらとしたやわらかさや、しっとりとしたうるおいという世界からは、遠く、かっちり、きっちり、剛性追及、物理量優先、といったある種の真面目さがある。ピアノのアタックは凄いがやや人工的。弦は僕の認識している弦の音とはかなり違う、独特の輝きが耳に眩しい。シンバルの炸裂するエネルギー感はたいしたものだが、何かしらガラスを叩き割ったような音になるのはどうしてだろう。ローエンドの伸びはこのサイズとしては見事。特に単音より、低く重く持続するシンセサイザーの音などそれらしさがたっぷり出る。

ネイム・オーディオ Nac63, Nac72, Nap90, Nap140, Hi-Cap

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 1974年、ジュリアン・ベリカーという一人のオーディオマニアの手によって設立されたネイムオーディオ社は、現在英国のソールズベリーに64名のスタッフを擁する工場を持つに至っている。
 かつてコンパクトでこざっぱりしたデザインを持つプリメインアンプのNAIT2を目にした時、新鮮な驚きを覚えたことを思い出す。スリムなアルミ引き抜き材を使った堅牢なシャーシは、新しいプリアンプ/NAC62及びNAC72にも継承されている。目をひくのはフロントパネルのネイムのロゴで、バックライトによって文字の厚み部分が鮮やかなグリーンで照明され、文字そのものが黒いパネルから薄く浮き上がったように見える。ファンクションの文字が同様に見えるとなおよかったのだが、残念ながらブラックのままなので、逆にこの部分はかなり見にくく、しっかりと光りをあてたいと、何が何処にあるのかさっぱりわからない。
 入力はフォノ(MM、MC、およびリンKarmaとTroika専用のモジュールがある)、AUX(入力感度調整可能)、テープ(NAC72はテープ二系統)、チューナーの4回路をもち、一般的なRCAピンプラグではなく、以前のクォードの製品のようにDINプラグを採用している。
 プリアンプは両者とも内部にパワーサプライを装備していないため、実際の使用にあたっては、今回同時にご紹介するパワーアンプ/NAP90およびNAP140から専用の接続ケーブルで電源の供給を受ける。これは4ピンのDINプラグを持つケーブルでシグナルラインもその中に含まれ、電源と音楽信号は同一ケーブル内に同居する格好である。
 一方、オプションの電源ユニットHI-CAPを追加すれば、より一般的なプリアンプとしても使用可能だ。
 さて、価格順にNAC62とNAP90のペア、次にNAC72とNAP140、そして最後にプリアンプを単体電源のHI-CAPで駆動した音を順番に聴いていった。スピーカーは本誌リファレンスのJBL4344とはせず、この組合せでより一般的なものとして考えられる製品を選んで行なった。
 やや硬質の質感をもつ真面目な音作りで洒落た感じというよりは、見た目のとおり沈思黙考型の響きとでもいいたくなるような、無駄な光沢感を抑制した地味な印象を受ける。上級機ではさすがにスケール感の拡大を示し、音像にも立体感が徐々につきはじめる。別電源の使用では、さらに音場の広がりがぐっと奥行きを増し、このクラスとしては標準的なまとまりを見せてくれた。

私的な音に潜むもの

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

知的洗練で無駄を削ぎおとし、自らの希求する世界にストイックによりそわせた装置の音は、無造作に高価な物ばかりを寄せ集めた表面的な超弩級システムからは聴くことができない独自の世界をかもし出すものだ。自分の音やそれにまつわる話を、照れながらぽつりぽつりと語ってくれた言葉には、語り尽くせないもどかしさの余韻というものがある一方、言葉にしてしまえばその瞬間から致命的にそこなわれてしまうようなとてもデリケートなニュアンスが、そこで鳴った音楽の中に染み込んでいたような気もしている。個人的によく知ってる人から初対面の方まで、その音を僕が分析的に聴いて勝手なレッテルを貼るのではなく、ちょっとした文学的作品のページをめくっていくような気持ちで接した。それはなにかのテストリポートを書くときの意識をとどめたままでは感じることができないような、貴重な体験だった。そうした私的空間で素敵な音に接する機会を与えてくださったことを、この場を借りて一言お礼を言っておきたいと思う。

NHT Model 1

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 鈍いスピーカーでは、とってつけたように人工的なエコー感でべったりとおおわれたようになる録音でも、嫌味なく再生しうる透明感がある。
 音の輪郭は硬質だが線が細いために固いという印象にはならず、むしろ繊細でやわらかなイメージをつくっている。声には、淡白さともいえる微妙なニュアンスもでかかっていた。
 音像の実体感を強調するより、全体の響きの綺麗さをねらっているようで、たとえば、シンバルのアタック感は弱まるが、パッと水面に石を投げ込んだ時にひろがる波紋のように、ディスパーションをとても爽やかに表現していた。サックスの響きは、やや上品すぎるか。

アコースティックエナジー AE2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 プロアック同様、イギリスの注目株。顔つきは正反対で、真っ黒けでそっけないが、音は見かけによらず無骨さは微塵もない。一見スタティックな面があるや、とおもわせるほど、響きに定着感のよさがあり、ブレたり浮き上ったりしない、安定した音像定位が得られる。情緒的な色艶をやや抑制するが、各楽器のまわりには曖昧なもやつきがなく、すっきりと広がる響きのディスパーションパターンが綺麗に再現された。やわらかい音はやわらかく、硬い音は硬く、きちんと描き分けることのできる数少ないスピーカーで、どちらかに偏る傾向もない。
 ニュートラルなモニターとして有用。家庭用としても見た目を気にしなければ特選。

スペンドール SP2/2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 やや箱の響きが重いと感じる。特に中低域から低域にかけてややボンつくようなこもり感が、どうしても気になってしまう。たぶん試聴で使用した置き台との相性、あるいはアンプやCDプレーヤーとのマッチングが致命的に悪かったのかもしれない。弦も響きがドライで、ピアノも左手の低い音域がかぶり気味になる。アタックののびも頭打ちで平板なのだ。こんなはずはない。高域はトランジェントがやや穏やかに過ぎ、このクラスとしてはディティールの再現性がもう少しあってもいいのではないか、の不満ばかりだ。本機そのものが不調だったのかもしれず、不本意な結果だった。しかし、これは純粋に僕の嗜好と生理的にミスマッチだったのかもしれない。

エレクトロボイス Sentry30

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 低域を比較的たっぷり聴かせる英国系のスピーカーに比べると、この引き締った中低域からローエンドにかけてのニュアンスは、量的に不足感をいだきやすい。しかし、よく聴いてみると、張りのつよい明快な表現で音像の立体感をくっきりとマクロ的に押し出し、サックスの実体感はサイズを忘れさせる。シンバルのアタックにも凝縮されたエネルギー感が乗る。反面、弦の繊細感がややドライのタッチになるが、音楽そのものに求心力をつけてくれるために、ムードに流れず、のめり込んで聴く、といった聴き方には、ジャンルを超えた適応性を持つかもしれない。しなやかで柔らかな音や、透明感に富んだ洗練された音を求める人には、やや不向き。

ローランド E-660

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「SS TOPICS」より

ローランドから業務用デジタル・パラメトリック・イコライザーが登場して、すでに一年以上の月日が流れた。その間、一部のオーディオマニアから、これは相当に面白い補助機器だという話を耳にする機会が増えた。
 そこで、今回このE660デジタル・パラメトリック・イコライザーを実際に数日間にわたり自宅で試してみることにした。
 そもそもこういう製品は、どういう目的で使用するのかという使い手自身の意識、認識を明確にし、機器のもつメリット、デメリットを秤にかけて、なお使い込む価値ありということでなくては、途中で放棄してしまいかねない種類のものだと思う。
 かつて、音響条件の劣悪な環境で両チャンネルで66素子のグラフィックイコライザーを採用し、音のバランスを整えることで、安心して音楽が聴けたという、ありがたい恩恵を受けたことがあったが、やがてもう少しバンド数が少なく、簡単に音楽のバランスを整えることのできる機器に変更した。それはルームアコースティックを調整するということより、むしろ積極的に自分が望む音のバランスを作ってみたいという発想からだった。その時の経験から感じていたことだが、一般的なアナログ回路によりイコライジングが宿命的にもつ位相のずれ、いわゆるフェイスシフトがどうしても気になるのだ。
 今回試聴したE660は、デジタル化された演算によって周波数をコントロールするものであり、フェイズシフトが事実上皆無という点で、コントロールを加えることにより音像定位が不明瞭になったりすることがないのが特筆できよう。
 こうした製品は余分なものだと頭ごなしに否定する人や、ある種のアレルギーを持ってる人には勧めにくいが、一度試してみると、何か違ったオーディオの側面が見えてくるかもしれない。デジタル化されたメリットは、実際の使用にあたって、たとえば今回使用したソニー/CDP-R1a+DAS-R1aとの間にデジタル接続が可能であることをはじめ、本機はD/Aコンバーターを内蔵しているのでデジタルアウトを装備したあらゆる機器とのデジタル接続が可能である(アナログ接続も無論可能で、キャノン端子によるバランスデンソーも可能)。
 昨今、デジタル・プリアンプの登場も取り立たされており、近未来的なフルデジタル・システムの可能性の一端を垣間見ることができる。
 実際の音だが、なにしろコントロールに際して、まるっきりフェイズシフトを伴わないと言う事実には、耳がなれるまでやや戸惑いを覚える。
 まるで人工的に整理整頓され、こざっぱりと片づいた感じのする音場感は、これまでに耳にしたことがない感覚だ。ミクロ的に言えば、かすかに硬質なタッチがつく場合もあるとはいえ、メリットを活かす方向で使いこなしができれば、これは物凄い武器となるに違いない。既成のイコライザーに不満をもっている方には必聴の製品だ。

メリオワ The Melior One

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 カナダのミュージアテックス・オーディオ社より、同社の〝マイトナー〟及び〝メリオア〟ブランドのCDプレーヤー、アンプにひき続き、メリオワ・ブランドから新たにスピーカーシステム/メリオアOneが登場した。
 一見エレクトロスタティック型のように見えるがこれは平面振動板を持った完全なるダイナミック型スピーカーである。
 平面振動板というと、かつての国産スピーカーで大流行したような、分割振動を抑制した剛性の高いダイアフラムに、ハイコンプライアンスエッジを組み合わせたユニットを思い出す。しかし、メリオアOneに採用されているユニットは全くその対極に位置するような構成をもっている。
 薄いダイアフラムの素材は、マーチン・ローガンの一連のスピーカーと似たようなマイラーフィルムの透明な膜で、パリッとしたある程度の硬さを持ったものだ。しかもエッジ部分はリジッドに固定されていて、一定のテンションで、ピンと張られ、膜の中心に貫通固定されたボイスコイルが前後にピストンモーションするようになっている。メーカー側はそのために自然な球面波が作られると説明してもいる。球面波になぜこだわるのかというと、平面波では、音像が遠のきがちになり、距離感がやや曖昧になる傾向があるからだ。
 正面から見て、ダイアフラムの反対側には、一辺が1cm程度の格子上に組んだスリットがあり、そのスリット上に薄いフェルトを貼付することで、ピーク性の音が出ないようにコントロールしている。
 どうやらメリオアOneは、ダイアフラムが分割振動することを積極的に音造りに活かしたアプローチがされているらしく、特に低域の音像が陽炎的な浮遊感をともない、オーケストラの再現に独特な広がりをつけてくれるのだ。
 事実は定かではないが、音の印象からすると、この水面のごとくフラットなマイラー膜は、分割共振を起こし、ユニット正面からも逆相成分の音を少なからず放射しているように聴ける。そのことが広がり感を演出しているらしいのだ。
 そうした、やや特殊な面もあるとはいえ、バロック系の古楽器オーケストラなどでも高弦群の定位は綺麗だし、音の漂いには、独特の浮遊感がついて楽しい。フルレンジユニットでネットワークを持たないが故の鮮度感もある。さらっとした軽やかな繊細感はないが、響きにある種の緊迫感がつく点もいいと思う。
 スピーカーのインピーダンスが過度に下がることがないから、大袈裟なパワーアンプを用意しなくても鳴ってくれる。ソースを選ぶ使いにくさはあるが、貴重な個性をもった製品であり、高価格ではあるが、一聴に値するスピーカーではないかと思った。

チャリオ HiperX

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 同じイタリアながらソナースファベルともずいぶんちがって、これは相当にアクの強い響きを持った製品。なにしろ、中高域におそろしくテンションの高い張出しのようなものがあって、かん高い感じの鳴り方をする。個人的にはもっとも苦手とする音だ。およそ繊細という表現からはほど遠い、不太くて硬質な線で音像をたくましく描き出す。エージングによってどれほどの変化があるか興味のあるところだ。はたしてこの音が、ひよわな音が嫌いな人にも好まれるのものなのかどうか、僕にはよくわからない。インフィニティの対極にある、押し出しの強さを持った好事家向きの超個性的サウンド。エンクロージュアとスタンドの仕上げは絶品だ。

ダイヤトーン DS-700

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 先に聴いたビクターの優等生的な音にも、少し色がついていたことを教えてくれるような、蒸留水的な透明感がある。ヴォーカルの口元も小さくなり、音場の空間、とくに天井の高さがスッと増して、部屋全体の空気が軽くなったような気がする。高域にエネルギーが分布する楽器群の音像が引き締ってタイトだが、低域が時として脹らみ気味になるようだ。部屋との相性の問題か。弦はウェットで、やや人工的な艶や、光沢感が乗るが、ピアノのアタック感や、シンバルのエネルギー感には実体感がある。ウッドベースの質感が音程の上下でややニュアンスを変えてくるような感じがあり、この辺りが、スタガー駆動の難しさかもしれない。

ワーフェデール Coleridge

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 デザインの小粋さがそのまま音になったみたいな、とても素敵なスピーカーだった。
 ほどよく明るく、情感たっぷりの女声は、子音の抜けもよく、品のいい華やぎがつく。
 ふんわりとやわらかくひろがる音場感は、中低域から低域にかけての豊かな量感と、中域の張りをやや緩めたバランスのためだろう。ホールの中ほどでゆったり聴いているような気分にさせる。そうした距離感の提示のせいで、直接音成分のエネルギー感はやや弱まるものの、各パートが放射する響きの拡がり具合がとてもきれいに聴こえ、やがて一つに溶け合っていく様は、このサイズとしては異例の描写力だと思う。伝統の底力とはこういうものだろう。説得力がまるっきり違う。

セクエラ Metronome7 MK II

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 とても懐かしい感じのする音だ。からっと乾いた軽い音で、今日的な水準からするとややナローであり、高域も低域もそれほどのびていない。部屋がデッドになったような鳴り方がする。弦の響きはややマットな傾向で、艶やうるおい、色彩の精緻さに欠ける。キース・ジャレットのあの知的で、クールな世界に耽溺するような部分や、ウェットで感傷的な要素をすげなくやりすごし、情緒に溺れず距離をつけて表現するのは一つの個性かもしれない。少なくとも、ディティールの精緻さや透明感を第一に望む人向きではないようで、おおらかな素朴な響きが欲しい人向きだ。
 ユニット配置の特殊さからくる音の広がりを生かすため、セッティングには要注意。

ミッション 781

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 コストの枠の中で、知的に音をまとめてみせる、英国製品ならではの見識を感じさせる。音楽の情緒的な振幅の大きさにも追従できる表現力があり、音像を輪郭だけなぞっておしまいにしてしまわない密度をもつ。
 特にピアノの実体感は立派だ。
 弦は新品ということもあって、うっすらと硬質なニュアンスが乗るが、エージングで解消できるレベルだ。シンバルワークのディティールを精緻に描きだしてくる方ではないが、エッジが丸くつぶれることはない。ウッドベースはやや暗く粘る印象があるものの、ポリプロピレンのウーファーとしてはよくコントロールされている方だと思う。音場はやわらかくおだやかに奥に広がるタイプだ。

ビクター SX-500II

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 音場の透明感が、さすがにこのクラスになると一段向上する。国産機らしくまんべんなく物量と手を入れられた優等生的な音だ。ビクターの伝統か、国産の中では音色が明るく色彩感に富み、かといって、油っぽさが少ない品のよさもある。音像定位にも正確さが出てきて、センターで聴く限り、ジャック・デジョネットの精妙なシンバルワークにおいて、サイズも音色も異なるいくつかのシンバルを叩きわけている様子がよくわかる。各楽器の位置関係の描写力が、国産で9万円というここへきてやっと出てきたということか。マルサリスのスタジオ録音では、冒頭の声の掛け合いがリアルで、遮蔽板の存在がみえそうなほど、音場の再現性が高まっている。

逃げ込む場所

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

「悪いけど、夜中にしてくれないか。そう、二時でどうだ?」
「なぜ?」
「昼夜完全に逆転しているんだよ」
 彼はまるで僕の来訪を拒絶するようにそう言った。
「そうじゃないんだ、俺だって会いたいさ。つもる話もあるしね。だけど、来週から地球の裏側に行って過酷な現場の仕事をしなきゃいけないのさ。その準備を今からしているんだ。時差ボケの調整をこっちにいるときにやっちまわないといけないんだ」
 彼は、とある大手の建築会社の土木設計課に所属している建築エンジニアだった。
 去年結婚してすぐに女の子が生まれた。
「ほら、家にいるとさ、悪気はないわけだけど、子供の泣き声がうるさい。判るだろう?」
 というわけで、僕は彼の仕事場から車で五分ほどの場所にあったワンルームマンションに、夜中の二時に出かけることになったのだ。
 そこは彼の隠れ家だった。
 ワンルームの狭い部屋だったが、深夜に及ぶ仕事のせいで、片道二時間もかかる郊外に長期ローンでマイホームを買いこんだ彼にとってはどうしても必要な場所だった。
AM1:45。
 都会のコンクリートジャングルを走りぬける。
 朝の人の洪水が嘘のように、しんと静まりかえったオフィス街はまるで廃墟のように暗く、凍りついたような沈黙が氷河のようにあたりを圧していた。
 まだ冬の尾を引く深夜の空気にひきかえ、彼の部屋は朝の地下鉄みたいに生温かくよどんでいた。なにしろドアを開け中に入ったとたん煙草のけむりが目にしみ、わけの判らない匂いがしてくらくらした。
 よく見ると、ドラフターの脇には食べかけのカップラーメンが箸をつっこんだまま忘れられたように放置してある。
「今、窓あけるよ」察した彼はすぐにそう言った。
「すごいな、まるで受験時代を思い出すよ」
「仕方ないんだ」
 肩をすくめそう言うと、彼はくしゃくしゃになったワイシャツのポケットからねじれた煙草を取り出し火をつけた。
「時々女房が掃除に来てくれるけどね」
 そう言って笑う。
 やがてコーヒーの香りが空気を入れ換えた部屋の中にゆっくりと広がっていく。
 彼は真っ白い磁器のコーヒーカップとソーサーを一組、テーブルの上に並べポットから熱いコーヒーを注いだ。
「情けないけど俺はミルクにしとく」
 そう言って、彼はコンパクトな冷蔵庫からミルクのパックを取り出すとストローをつかって子供みたいにそれを飲んだ。
 ドラフターの向こうに小さなスピーカーがおいてあった。
「ボーズじゃない?」
「ああ」
「嫌いだったんじゃないの、たしか?」
「これはちょっと違うんだよ、ま、いいから聴いてくれよ」
 それはヨーロピアンデザインの、真新しいイル・ソーレだった。
 軽いものからいこうかな、と言って、スパイロジャイラのライツ・オブ・サマーというアルバムをかけた。
 たしか、相当にワイドレンジを意識した音作りがされた、すっきりした響きのCDのはずだ。
「ボーズはナローで、脂ぎった音がするから嫌いだ」と言ってた彼。
 トップシンバルの軽い響きで始まるその曲。僕は音が出た瞬間びっくりした。
 たしかにさらっとした軽い響きでハイエンドがすっきり伸びてとても綺麗なのだ。
 それに、凄い低音。
 CDプレーヤーとFMチューナーを内蔵したアンプ部のデザインも奇妙にあか抜けしている。
「ボーズもずいぶん洗練されただろ?」と彼。
「たしかに」音も見た目も、とても洗練されていた。
 綺麗によく広がる透明感があった。
 ボーズじゃない。僕はそう思った。
 しかし、よく聴くと、音には国産にはない粘り気がきちんと残っていて、アメリカを感じさせるものもたしかにある。かつての黒っぽい雰囲気からホワイトカラーのヤッピーになった。スーツを着込んだボーズの音なんだ。これは。
「クラシックだって、ちゃんときけるんだ」
 そう言って彼が次にかけたのは、なんオワゾリール盤のバッハ管弦楽組曲だった。
 彼はシャドーベースの裏に手をいれ何ごとかをおこなった。
「?」と僕。
「少しだけハイを落としてみたんだ。トーンコントロールがついてるんだね」
 なるほど、ヒリヒリしがちな弦の響きがいっぱいくわされたみたいに、ちゃんと鳴っているではないか。
「ディテールがしっかりしているし、響きが脂っこくなくて、ちょうどいいんだ。俺の好きなECM系のジャズだってきりっと引き締めて、すっきり鳴らしてくれる」
 たしかに、キース・ジャレットのトリオによるスタンダードナンバーはその透明できりっとした音楽の構築がしっかりと出ていた。彼は僕の驚いた顔をみて、楽しそうに言った。大人が無邪気な子供にもどる瞬間だ。
 ここはビジネススーツに身を送るんだ戦士、俗称「おとうさん」が現実から逃避し、ひそかに自己回復および療養を果たすための場であった。

このボーズ・イルソーレシステムの核となるのは、スリムなデザインが新鮮な、ミュージックコントローラーLS4810であり、CDプレーヤーおよびFM/AMチューナーとプリアンプ機能を持つ。これは2系統の出力を持ち、2セットのスピーカー部を駆動できる。
パワーアンプを内蔵したパワード・アクースティマストスピーカーシステム、PAM5、サテライト・スピーカー(5.7cmフルレンチ2本使用)とアクースティマス・ベースボックス(16cmウーファー2本使用)からなる。
ベースボックスにはパワーアンプが内蔵され、独立したボリュウムとトーンコントロールを持っている。
別売のリモコンは一般的な赤外線方式とは異なり、FMバンド帯域の信号を使用しており、障害物に対して強いという特徴をもっている。

メリディアン 206

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 英国、ブースロイド・スチュワート社よりすでに発表されている200シリーズコンポーネントは、201プリアンプを核として204FMチューナータイマー、205モノーラルパワーアンプ、209リモートコントロールユニットから構成され、そのデザインや機能のユニークさで話題を集めていた。
 今回同シリーズ中の、プリアンプ機能をあわせ持つCDプレーヤー/207MKIIの派生モデルとして、このプリアンプ機能を排し、よりコンプリートな単体CDプレーヤーシステムとして、音質や機能の細部をリファインしたCDプレーヤー/206が登場した。
 従来通り、エレクトロニクス部とCDトランスポート部を独立した筐体に納めているが、使い勝手の向上を期して、ジョイントバーで結合された一体化構造をとる。
 従来通り、D/Aコンバーターは16ビット4倍オーバーサンプリングを採っているが、ディスクユニット部は最新のフィリップス製CDM4を採用している。
 メカニズムおよびサーボ部は、3ポイントサスペンション(ゴム系緩衝材のソルボーテン)によってフローティングされ、振動による悪影響を排除している。
 出力は3系統あり、固定アナログ、同軸デジタル、および光デジタル出力を備え、より組合せの自由度を増している。
 見慣れたとはいえ、やはりこのデザインの美しさは、単に個性的と言うレベルをつきぬけ、メカニカルの機能美と趣味線の高さを高いレベルで融合させている。
 過度にコスメティックな要素でゴテゴテと飾りたてるのではなく、洗練と簡素化を究めたより純粋な意味でのインダストリアルデザインのあるべき姿の良い見本となっていると思う。
 これは、北欧のB&Oと並び、究めて貴重な存在であり、わが国にも、そろそろこういったコンセプトの瀟洒なシステムが登場してもよいような気がする。
 音質についても同様なことがいえる。そこには、あざといメリハリ強調型の紋切り的音作りは皆無で、落ち着いた穏やかな表現がまず印象に残る。
 従来の弾力性のあるやや暖色系の暖かさは引き継いでいるが、よりニュートラルで中立的といえる大人っぽさを仕上げの要素に含んでいるように聴けた。
 中庸を得た破綻のなさが、どんな装置に組み入れても、全体のバランスを掻き乱すことなく、安心して使用できる汎用性を高めたといえよう。
 プリアンプ機能を省略したために回路がシンプルになり、電気的に洗練された結果だろうが、明らかに響きの透明感や音場の再現性の向上が聴き取れた。

マイ・フェアリーオーディオ

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

 白金台にある古い住宅街のはずれに、白い高層マンションがある。その十二階に彼女の部屋はあった。
 さきほどまで耳を圧していた都会の暗騒音は夜の闇に吸い取られたみたいにすっかり消え、濃紺の夜空に影絵のようにひろがる雑木林のシルエットがときおりふきぬける風にかすかにざわめく音しか聞こえなかった。
 エレベーターを十二階で降り、絨毯をしきつめた廊下を歩く。彼女の部屋は廊下のつきあたりにあった。
 2LDKのすっきりした部屋の中は、あからさまに女の子の部屋であることをしめす象徴的なものは何もなく、うまく冷たさと暖かさを均衡させた空間だった。
 板張のフロアーには寒色系の色をつかった精緻な幾何学模様が織りこまれたファブリックのソファが、弧を描くようにしてゆったりと置いてあり、北と西側の壁全体が窓になっている。大都会の夜が目の前に広がり、闇に浮かびあがるようにして見える東京タワーには昼間の姿とは違った美しさがあることに気付く。
 反対側の真っ白な壁には、シックなリトグラフが掛かっていた。
 彼女は翻訳の仕事をしながら、雑誌にエッセイや詩を書いているフリーランス・ライターだ。外交官を父にもついわゆる帰国子女だった彼女は、語学力をいかし大学大学中から翻訳の仕事をしていた。
 僕が知ってるのはその頃からの彼女だ。1941年、早春のウーズ河に身を投じ自殺した英国の女流作家、ヴァージニア・ウルフの著作The Waves『波』という作品が一番すきだという彼女。
象徴散文詩といわれる繊細であやうい詩的な世界を好む彼女は、まだ二十三歳になったばかり。ほっそりとした、やや背の高い女の子だ。以前から今様の即物的な価値観からは距離を置いたところにひっそりと潜行した、いわばミニマルマイノリティーな存在だった。
 リトグラフがかかった壁に接するもう一方の壁には、B&Oのウォール・ハンキングタイプのスピーカーが、まるでなにかの抽象絵画か彫刻のようにとりつけられていた。
 サイドボードの上には同じB&OのレシーバーとCDプレーヤーがあった。
 漆黒とクロームの面で構成された直線的で清潔なフォルムには一見、無機的で人工的な感じがあるけれど、なぜか柔らかな部屋の空気にも自然に溶け込んでいた。
 僕は部屋に入った時からその存在に気付いていたが、いったいどんな経緯でB&Oのシステムがこの部屋に収まることになったのか、あえて訊ねなかった。以前は、もっと大袈裟で神経質な音を出す装置があったはずなのだ。
 彼女もそれについて、いちいち説明や弁明をすることはなかった。
 テーブルの上には細長く精巧な感じのするリモコンが置いてある。彼女は華奢な腕をのばし、繊細な指つかいでそっとそのボタンに触れた。
 ほどよい音量で音楽が鳴りはじめる。
「ティム・ストーリーのグラス・グリーンというアルバムなの。飲み物は何がいい?」
 僕は水割りをもらうことにした。
「彼が先週ヨーロッパで買ってきたロイヤル・サリュートがあるんだけど、それでいいかしら?」
 僕は黙って頷いた。
 金属成分が多いクリスタルグラスの冷たい透明感が琥珀色な液体をきりっと引き締めるようにして包み込む。
 恐る恐る一口、舐めるようにして舌の上でころがしてみた。トロっとした絶妙の味わい。そして濃縮された税金の味がうっすらと喉に残った。
 彼の存在は僕もよく知っている。
 来月、カメラマンである彼の三冊目の写真集が発刊される予定だが、僕の手元にはすでに彼自身から送られた、その写真集があった。
「『写真なんていうのはね、見る人の皮膚や神経に現実的な存在感の印象をダイレクトに刻み込んでくれる。だから、無意識にものを眺めているときの視覚より鋭利に対象にくいこむんだ』たしか、そんな風に言ってたっけ」
 彼女を手に持ったグラスの氷をときおり細い指でつつきながら、そのことについてじっと考えていた。
「多分、ファインダーを通して眼に映ったものだけは彼の網膜で記号化され、きちんと記録されるのね……二進法の記憶」彼女はたしかそんな風に言った。
 僕は水割りをすすりながら、しばらく黙ってその事の意味を考えてみた。
 その時、彼の写真集の表紙になっていた北欧のとある風景が目に浮かび、スピーカーがかなでるティム・ストーリーのピアノの響きがそこに霞のようにひろがった。
 透明感を大切にした音造りには、儚い記憶のぬくもりを呼びさますような優しさや柔らかさが溶け込んでいて、それを音楽そのものがもつ孤独感、硬質な哀しみ、といった対立的な要素と、うまくつりあいをとっている。そんな微妙な陰影をぼかさないで、きちんと再生していた。
 無感動に飽和した質と量の偏った均衡より、彼女のB&Oが聴かせた知と情がやわらかく均衡した響きには、不思議な説得力があった。これは彼女が選んだ装置だ。
 その時、僕はそう確信した。
     *
今回のシステムは、厚さがわずか8cmのスピーカー、ベオラブ5000を中心に、レシーバーとして、B&O最新のベオマスター4500、CDプレーヤーはベオグラムCD4500を使用。どちらも操作はアクリルパネルに軽く触れるだけでよいが、リモコンでの操作も可能だ。ベオマスター4500は、FM/AMあわせてして20局までプリセット可能で、アンプ部のパワーは片チャンネル55W。このスピーカー出力を直接パワーアンプ内蔵(120W×2)のアクティブ型スピーカーであるベオラブ5000に接続する。一見パワーアンプがだぶるようだが、長い接続ケーブルの引き回しでも有利な点があり問題はない。なお、アナログプレーヤーのベオグラム4500とカセットデッキのベオコード4500も別にある。

クレル MD-1 + SBP-64X

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 アンプメーカーとしてその名を馳せた米国クレル社から、デジタル機器専門メーカーとして独立して創立されたクレル・デジタル社より、既発表のCDターンテーブル/クレル・デジタルMD1と、シグナルプロセッサー/SBP64Xがついに正式発売となった。
 昨今アメリカ国内では、ハイエンドメーカーのデジタル機器への参入が活発化しているが、これは、先に発表されて話題を独占している感のあるワディアに続く存在として期待されていた。
 ワディアが単体のD/Aコンバーターのみであったのに対して、こちらはシステムとして完成した、いわゆるセパレート型CDプレーヤーシステムの形態をとっている点にマニアの関心が集中しているのだろう。
 元来、アナログディスクの信者として自他ともに認めるクレルの創始者、ダニエル・ダゴスティーノ氏の作品であるだけに、まずCDターンテーブル/MD1は、ディスク再生時に、アナログ再生に等しい儀式を要求する。
 分厚いアクリル製ダストカバーをゆっくりと持ち上げ、おもむろにCDをセットしたあと、クランパーの代りともなるディスクスタビライザーを乗せる。
 ダストカバーを閉める時、途中で手を離しても、重いカバーはゆっくりと自動的に下降するようになっており、一切のショックはない。
 ディスクトランスポート部はフィリップスのCDM3を使用しており、これをスチューダーのA730と同じものだが、その固定方法などを含め、きわめて対照的なアプローチがみられ、ここではアナログプレイヤー的剛性を追求しているようである。
 本体四隅の丸いカバーはサスペンションタワーと呼ばれ、中には多重構造のインシュレーターが隠されている。
 内部の詳細は明らかにされていないが、周辺機器に対する高周波ラジエーションの問題なども充分考慮されているとのことだ。
 一方SBP64X/ソフトウェアベース・デジタルプロセッサーは、デジタルフィルターに56ビットアキュムレーターを備えるモトローラ製DSP56001をチャンネルあたり2個の計4個使用しており、これまでにない演算精度を獲得しているという。
 SBP64Xではワディア/2000同様、DSPを用い毎秒6000万回余りの速さで独自のソフトウェアアルゴリズムを実行するのに必要な演算を行う。DSP56001の24ビット幅データパスと56ビットアキュムレーターが、デジタルデータの入力に厳密な18ビット64倍オーバーサンプリングで信号を補完し、バーブラウン製PCM64、18ビットD/AコンバーターでD/A変換を行う。さらに、完全ディスクリート構成の電流・電圧変換器からデグリッチ回路を経て、ディスクリートバランス型出力段に至る構成である。
 DSPにより、一般のデジタルフィルターとして用いられるFIR(Finite Impulse Response=有限インパルス応答)フィルターでは克服できなかった過渡特性的な欠点をクリアしている。
 電源部は3個のトロイダルトランスを独立させ、デジタル回路、DAC回路、アナログ回路に独立して電源供給を行なう。
 電源部から本体へのパワーケーブルも2本あり、1本がアナログ部とDAC部へ、もう1本がデジタル回路へと分かれており、デジタルノイズの混入を防いでいる。
 聴き慣れたディスクを国産最新のセパレートCDプレーヤーと比較しつつ聴いた。その上で、これは物凄い情報処理能力をもった画期的な製品であることが、じわりと実感できる。音の密度、音場の空間再現性において、まるで同じソースを聴いていると思えないほどの圧倒的なクォリティ差を一聴して感じさせ、まさによく出来たアナログディスクを極上の状態で聴くに近似した心地良さを提供してくれるものだった。
 複雑にからみあう楽音を精緻に分解して聴かせながら、響きの有機的なつながりが緻密で、弦楽器群のオーバートーンの重なりやローレベルでの透明感、情報量がすばらしく、余韻の消え方は圧巻だった。
 パルシヴなソースでも、叩きつけるようなエネルギー感がありながら、響きに高い品位が維持されるあたり、ただものではないという印象を強くした。

アヴァロン Ascent MKII

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 米国、カリフォルニア州ボゥルダーに本拠を置くアバロン社製スピーカーシステム/アセントMKIIが輸入されることになった。
 写真のように、やや個性的ともいえるプロポーションを持つが、この形こそコンピューターシミュレーションと聴感から追い込んで作られた必然の形態だったという。
 バッフル面からの一次反射と、回折によるユニット周辺の残留音響エネルギーが付帯音として作用し、システムトータルとしての響きの透明度を濁す原因ともなるトランジェント低下をきたすことに留意して、トランジェントの向上という点に偏執狂的なこだわりをもってアプローチした、という印象が強い。
 ユニットは、22cm口径のウーファーをベースに、5cm口径のチタンドームスコーカーと2・5cm口径の同じくチタンドームトゥイーターという3ウェイ構成をとっている。いずれも、ドイツ製のユニットということだ。バッフル面は、なんと板厚15cmという恐ろしくぶ厚いもので、基本的にエンクロージュアの共振によるエネルギーロスを最少に止めるという、ハードな作りがなされている。
 そのエンクロージュアの作りは、熟練した職人芸を要求されるような高度で複雑な携帯をとり、実際、細部の作りは見事な仕上りを見せる。
 エンクロージュア本体の後ろに設置される。サブエンクロージュアともいえそうな黒いボックス(片チャンネルにつき一本)はネットワークを収める専用の独立した箱で、下部に取りつけられたネットワークはエポキシ系樹脂で封印固定されている。これは、ユニットから浴びることになる磁気的悪影響や振動、温圧による揺さぶりからネットワーク素子を守るためだ。
 一方、使用素子は厳密に選別され、1%以内という誤差許容度を確保しているという。またネットワーク本体に、プリント基板を使用していないとのことだ。
 パワーアンプとの接続はバイワイヤリング接続のみならず、トライワイヤリング接続も可能で、バイアンプ駆動にも対応している。
 先端指向のアプローチがなされた結果は、音そのものに見事に反映しており、トランジェント特性の良さゆえの、本物の柔らかさがあり、透明で濁りのない響きは、特にアコースティックな楽器の持つ響きのリアルさや、澄み切った再現性において第一級の冴えをみせる。
 ギターを弾く音、管楽器のエネルギー、怒涛のような音の盛り上がり、そういったものが、見た目の瀟洒な作りからは想像できないレベルで再現された。これは家庭用の羊の顔をかぶったモンスターといえそうだ。

マイクロメガ CDf1 Premium

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 フランス・マイクロメガ社製CDプレーヤー/CDF1プレミアムが本邦でも発売されることになった。
 同社はヨーロッパ圏で唯一のCDプレーヤー専業メーカーであり、CDF1プレミアムはその代表的な位置を占める製品である。
 写真からもわかるようにトップローディングタイプであるため、分厚く丁寧な作りのアクリル製ダストカバー(という表現がしたくなるような)をまず開けるところから〝儀式〟は始まる。
 ディスクを乗せ、さらに専用スタビライザーを装着し、ゆっくりとカバーを閉めるという一連の動作が必要なのだ。
 コンパクトですっきりとしたデザインから、軽くて可愛らしい音を想像していたのだが、実際に音が鳴り始めるや、そうしたあらぬ先入観は直ちに吹き飛んだ。
 さすがフランス製というだけあって、響きには、絵画的な色彩感や艶がのり、つぼを押えた音の隈取りの明快さにまず驚かされた。弾力のある暖かい響きには、味わいの豊かな個性的な面もあり、聴きごたえ十分だ。さらに適度な重量感もあり、ほどよく広がる音場にはどこか大人っぽい雰囲気があった。
 決して個性だけで聴かせる製品ではなく、現代的な情報処理能力も十分にもっていて、すっきりしたデザインに精度感が音の面からも感じることができた。したがって、現代的な録音の透明感や繊細感も十分に表現可能だ。
 注目のドライブメカは、すでに高い信頼性を獲得しているフィリップス製アルミダイキャストベースのCDM1IIにCDM4ピックアップを搭載している。
 フローティングには、同社のオリジナル機構が採用され、徹底した防振対策がとられているという。
 ディスクスタビライザーは、内部損失の大きいケブラー繊維とカーボンファイバー、そして直径がおよそ30mm、重さ約120gの真鍮製ウェイトから構成されている。
 D/Aコンバーターには、フィリップス製クラウンマーク付ヴァージョンS1仕様を採用し、アナログ回路はディスクリート構成クラスAオペレーションアンプとし、左右独立の大型トロイダルトランスを定電圧回路に採用している。
 またアナログアンプ部は、電源プラグをコンセントに差し込むと常に通電され、フロントパネルの電源スイッチのオン/オフによらず、ヒートアップが準備された状態で聴くことができるようになっており、短時間のウォームアップで所期の性能が得られるよさばかりでなく、動作の安定性も高めているという。