Category Archives: パイオニア - Page 5

パイオニア C-Z1

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

タテ長のユニークなプロポーションで゛NFBを使用しないアンプとしては世界初のコントロールアンプ。イコライザーは無帰還型の特長を活かした独得な一種のCR型。素直で反応が早く、伸びやかな音は非常に魅力。

パイオニア SX-2020

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

ミニサイズコンポーネントの本来の魅力である小型、多機能、高性能を薄型デザインにまとめた開発時期の早さはさすがにパイオニアらしい。小出力ながら通常電源採用で粘り強いパワー感十分な音だ。

パイオニア A-900

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

EXCLUSIVEシリーズのセパレート型で示したスイッチング歪ゼロの世界をプリメインアンプに導入した最初のノンスイッチング方式採用の製品。柔らかく滑らかで豊かな音だ。

パイオニア S-933

井上卓也

コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より

S955のトーンポリシーを受け継いだ標準的なサイズのブックシェルフ型3ウェイ。新開発ベリリウム振動板のドーム型中音とリボン型高音ユニットはつながりがよく、滑らかで美しい音が特長。

パイオニア PL-L5

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 世界初のリニアモータードライブのリニアトラッキングアーム採用のマニュアルプレーヤーシステムPL−L1の開発に代表されるように、パイオニアは、一般的なオフセット型アームに比べて基本性能が一段と高いリニアトラッキング型アームを採用したプレーヤーに意欲的であるが、今回発売されたPL−L5は、リニアモータードライブ、リニアトラッキングアーム採用の電子制御フルオートプレーヤーシステムである。
 ターンテーブルは、独自のクォーツPLL・DCホール素子切替型で、モーター軸受を重心に近づけたSHローター方式のモーターで駆動される。
 トーンアームは、リニアモーター駆動でSN比が高く、ショートアームのため等価質量が少なくトラッカビリティが高い特長がある。オート機構はIC制御型でリピートは盤面上で再リードインするクイックリピート型。モーターとアームはサブシャーシーに固定され、これをスプリングとダンパーゴムでダイキャストベースからフローティングしたコアキシャルサスペンション方式だ。

パイオニア C-Z1, M-Z1

菅野沖彦

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか(下)最新セパレートアンプ25機種のテストリポート」より

 NFBという素晴らしい回路技術のおかげで、オーディオアンプは大きく発展してきた。まるで、マジックともいえるこの回路のもたらした恩恵は計り知れないものがある。特にトランジスターアンプにおいては、このNFB回路なしでは、今日のような発展の姿は見られなかったであろう。出力信号の一部を入力段にもどし、入力信号と比較して、入出力信号波形を相似にするという、このループ回路の特効を否定する人はいないだろう。位相ずれによる不安定性も発振の危険の可能性は常に指摘されていることだが、巧みな回路の使い方をすれば、事実、現在のような優れたNFBアンプが存在するわけだし、その音質も充分満足出来るものになっている。オーディオに限らず、ものごとすべて、表裏一体、メリットもあれば、デメリットもある。要は、そのバランスにあるといえるだろう。目的に沿ってメリットが大きければ結構。メリットと思えても、その陰に、より大きなデメリットがひそんでいたら要注意というものだ。オーディオ機器が、ここまで進歩して、微妙な音質の追求がなされてくると、ありとあらゆる問題点を解析して、細部に改善のメスが入れられて、よりパーフェクトなものへのアプローチがおこなわれるようになる。そして、その姿勢もまた大変重要なことなのだ。これで充分という慢心こそは、最も危険であり悪である。
 パイオニアが発売したC−Z1、M−Z1というセパレートアンプは、まさに、この姿勢の具現化といってよいだろう。思想としては、NFBを否定したわけではないだろうが、たしかに、その問題点ゆえに、ノンNFBアンプを開発したからである。入力信号とNFBループ進行との時間差によって発生する諸々の動的歪が現在大きな問題として議論されている中で、このループを取り払って、裸のアンプを商品化してくれた事は、かなりショッキングなことにちがいない。今までになかった試みでは勿論ない。しかし、ここまでの特性のノンNFBアンプは商品として初めてである。その鍵は、きわめて独創的な発想によるスーパー・リニア・サーキットと同社が称する新回路の開発にある。簡単にいってしまえば、もともと、半導体素子のもっている固有の非直線性を、逆特性の非直線性により完全に吸収して優れた直線性を得る回路である。トランジスターの非直線性が見事にそろっていることを逆手に利用した興味深い回路に、これが大いに活かされている。このノンNFBアンプのメリットは、いうまでもなくNFBループに起因する問題は全くないし、安定したNFBをかけるために必要とされる複雑な回路も必要がないことだが、それだけに、基本的に良質のアンプを作らないと、パーツや構造の問題が率直に音に現われてくるものだろう。ガラスケース電解コンデンサー、非磁性体構造、ガラスエポキシ140μ厚銅箔基板などの採用は、こうした観点から充分納得できるものだ。
C−Z1の特徴
 C−Z1は、ユニークな縦長の、M−Z1と同形のコントロールアンプで、フロントパネルにスモークドガラスが使われ、内部の素子が透視出来るというマニアライクなもので操作スイッチ類はフェザータッチの電子式によるもの。スイッチ切替えの雑音発生は全くない。機能は簡略化され、コントロールアンプとしてユニバーサルなファンクションは持たないが、トーンコントロール、サブソニックフィルターなどの必要最少限のものは備えている。MCヘッドアンプも内蔵していない。当初から高級マニアを意識した開発ポリシーである。先にも述べたように、負荷抵抗値の変化で利得が変るノンNFBアンプの特性を利用した独特なCRタイプのカレント・イコライザーも興味深い。このアンプの形状は、パワーアンプと違って、コントロールアンプとしては必ずしも好ましいとは思えない。無理にパワーと同形にすることもなかったような気がする。
M−Z1の特徴
 M−Z1パワーアンプは、前述したノンNFBループの60WのオーソドックスなモノーラルA級アンプで、入力から出力まで全段直結回路で構成されているという純粋派の代表のような製品である。コントロールアンプ同様、中点電圧の変動はダブルロックド・サーボ・レギュレーターで二重に安定化が計られている。電源部はインピーダンスを低くとるため2個をパラレル接続して使われている。アルミ・ブラックパネルのヘアーライン仕上げという、最近のパイオニアの高級機器が好んで使い始めたフィニッシュが、フロントパネルのみならず全体に使われているというこりようだが、個人的にはあまり好ましいフィニッシュとは感じない。こったほどには品位の高さが出ないように思う。コントロールアンプ同様、フロントパネルにはスモークドガラスが使われているが゛何が見えるのかと思ってのぞくと、なんのことはないトランスケースにプリントされた結線図だった。20ポイントのLEDによるパワーインディケーターは、数秒間ピークホールドして見やすいものだ。
C−Z1+M−Z1の音質について
 ところで、このC−Z1、M−Z1の音だが、まず感じることは、音の密度の高いことだ。まるで粒子の細かい写真をみるように緻密なのである。楽器の質感が、出過ぎるほどリアルに出る。そのために、プログラムソースの長所も弱点も、余すことなく出てくるという感じで、荒れたソースが適度にやわらかく丸く再現されるというような効果は期待できない。60Wとは思えないパワー感で、音が前面に貼り出してくる。曖昧さの全くない、骨格と肉付きのしっかりした充実したサウンドだ。

パイオニア A-700

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 パイオニアのA700はA500と並べてみても重ねてみても、奥行きまで含めた外観は見分けがつかないほどよく似ている。細かい比較をすると、ボリューム・コントロール周りにA500の方はパネルを切り替えてリングが入っているが、A700の方はそういうことをしていない。
 またボリュームの左にあるレバースイッチの数がA700の方が一つ多い。それからMMカートリッジの負荷抵抗あるいは負荷容量切り替えも多少細かくなっている。また、A500ではサブソニック・フィルターのところのボタンが、A700ではMCカートリッジのハイ・ロー切り替えになっていたりというように多少細かなニュアンスの違いはある。しかし、少なくとも見た限りでは大変よく似た兄弟のアンプだといえる。
音質 このアンプの音質だが、まず大づかみにいって基本的に持っている性質というのはA500と同じ。パイオニアというメーカーの昔からの大変手慣れたバランスの取り方、過不足のなさ、そして聴きづらい刺激的な音を一切出さないようにきちんとコントロールされているところ、クラシック、ポピュラーという区別なしにそれぞれほどよい感じで鳴らしてくれるところなど、その印象は全く一貫している。しかし、その音の中身はA500に比べてだいぶ濃くなっている感じがする。A500のところでは多少とも薄くなるという印象があったが、A700になると、そういうことはあまり感じられない。音の質がグンと上がる。価格差よりは中身の充実の方が上回っていると思う。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプは大変よくできている。テストしたアンプの中でSN比ということではこれが最もいい出来栄えを示した。つまりオルトフォンのMC20MKIIでは他のアンプすべてがゲイン不足あるいはノイズが増えるという傾向があったのに対して、このアンプはSN比がよくとれており、ゲインも十分だ。ボリュームをいっぱいにあげなくても実用になるし、しかもMCヘッドアンプとしての音も必ずしも悪くない。ましてそれがデンオン103Dになればボリュームを相当絞った状態でも十分なゲインが取れるので完璧に実用になる。内蔵MCヘッドアンプに関していえば、テストしたアンプの中で一番だった。裏返していうと、この価格差というのがかなりMCヘッドアンプに投入されたのかなという感じをもった。
トーン&ラウドネス ライン・ストレートとノーマルの音の差がA500に比べて少し大きい気がする。
 この700の方が高級アンプだということで、こちらの聴き方がわずかに厳しくなっていることもいえるかもしれない。しかし、そういうことを考えに入れてもやはりもう少し音の差が少なくなってほしい。言い換えればライン・ストレートの音がそれだけよくみがかれていて細かな回路を通らないでストレートに出てくる音がいいということの裏付けにもなるわけだが……。
 半面トーン・コントロールその他を使おうとすると、わずかながら700の場合、音の広がり感、あるいは音の伸びといった面でちょっと物足りなさを感じる。しかしバス、トレブルともトーン・コントロールの効き方はやはり手慣れた感じで効きすぎず、とてもバランスのいい効き方をする。もちろんラウドネス・コントロールも同じだ。
ヘッドホン ヘッドホン端子に出てくる音、これはスピーカーを聴いた場合とレベル的な印象がよく合う。ヘッドホン端子の方がやや低めだが、これはごく標準的なことで出てきた音も大変いい。そういう点を含めて、トータル・バランスは大変よく、まとめ方も手慣れており、安心して使うことができるアンプには違いない。

★★

パイオニア A-500

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 これはパイオニアの新シリーズの中の一機種。パイオニアのアンプが昔から受け継いできた音のバランスのよさ、まとめ方のうまさがうかがえる。しかし、いろいろなプログラム・ソースを聴いて、特にこの曲に向くというようなところはない。言い換えれば、この曲に向かないといったような強い個性を持っていないところがパイオニアのアンプの特徴であり、それはこの新シリーズでもそのまま受け継がれている。
音質 バランスの取り方は実に手慣れているな、という感じを思わせる。耳あたりはどちらかといえば柔らかい。刺激的な音をきちんと取り除いた、うまい音作りをしている。
 また、細かいことをいうと、レコードの無音の部分で聴こえてくるスクラッチノイズは軽く非常にきめ細かく聴こえてきて、アンプの持っている質そのものは、なかなかいいということを感じさせる。ただ、音が薄味というか音の充実感というものをもう少し望みたい。いわゆる、聴きごたえのする音ではない。例えば、しみじみと歌いかけるようなヴォーカルの場合でも、そのしみじみとした感じがもう少し出てほしいし、あるいは非常に迫力を要求するパーカッションの部分なども、本当の意味での力を出してほしい。何かバランスはとれて円満だが、もうひとつ踏み込みが足りない。そこがパイオニアという会社の性格と言えないこともないが……。
MCヘッドアンプ 次にMCヘッドアンプだが、オルトフォンのMC20MKIIの場合にはやはりゲインが低い。それからボリュームを上げて出てくるノイズが少し高調波の混じったハムが出てくるので、割合に耳につきやすいということで、ちょっとMC20MKIIは苦しい感じだ。デンオン103Dの場合は全く十分。デンオンを使ったときのヘッドアンプ自体の音質はなかなか優れており、どうもデンオン系でこのMCヘッドアンプはチューニングされたらしい。
トーン&ラウドネス ところでこのアンプは、パネルの中央、ボリュームの左端の二つ目のつまみのレバーに、ライン・ストレート、ノーマル・ポジションがあり、ライン・ストレートというところにくると、いわゆるストレート・アンプになって、トーン・コントロール、その他のファンクションを全部飛び越して非常にシンプルな構成のアンプになる。実はその状態でいま言ったような音が聴こえたわけで、さてトーン・コントロールを使うと言うことになると、そのレバーを下に押してノーマルにしなくては鳴らない。ノーマルにすると、多少音がくもってくる。しかし、これはごく注意深く聴かないと差がわからない程度だが……。トーン・コントロールはさすがに手慣れた設計で低音、高音ともに妥当な、非常に自然な効き方をする。
 ラウドネス・コントロールも、あまり強調された効き方はしない。トーンと同じくごく自然な効き方をする。このへんはうまい作り方だ。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音はなかなかうまく出てくる。レベルの設定もいいし、ヘッドホン端子での音質もアンプの基本的な音質をそのままそっくり素直に出してくる。
 トータルしてみると、フロントのパネルファンクションの並べ方、整理の仕方、あるいは背面の端子など、さすがに手慣れたそつのない作り方で、そのへんでユーザーを遊ばせる術を心得たアンプということが言える。ライン・ストレートとノーマルを切り替えた時に、グリーンのきれいなランプがパッとついて一目でファンクションのある場所を表示したり、あるいはパイロットランプが電源スイッチを入れて待機の状態では赤、それが動作状態になるとパッとグリーンに変わるなど、なかなかきめが細く、手元に置いて楽しいアンプではないかと思う。

パイオニア A-900

パイオニアのプリメインアンプA900の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

A900

パイオニア Exclusive Model 2301, Exclusive Model 3401W, Exclusive C3a, Exclusive C10, Exclusive M4a, Exclusive M10, Exclusive F3, Exclusive P3, Exclusive P10

パイオニアのスピーカーシステムExclusive Model 2301、Exclusive Model 3401W、コントロールアンプExclusive C3a、Exclusive C10、パワーアンプExclusive M4a、Exclusive M10、チューナーExclusive F3、アナログプレーヤーExclusive P3、Exclusive P10の広告
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

Exclusive

パイオニア Exclusive C3a, Exclusive M4a

菅野沖彦

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より

 エクスクルーシヴはともともパイオニアの最高級品につけられたシリーズ名だが、いまや、そのラインアップが独立して、販売経路も独自のものとなった。しかし、その製品開発のバックグラウンドは、まぎれもなくパイオニアである。このメーカーは、オーディオ専門メーカーとして伝統に輝く名門であるが、企業規模が驚異的に拡大し、大量生産大量販売の態勢をとらざるを得なくなった。そこで、小規模の専門メーカーとして、少数のオーディオマニアとのコミュニケイションを大切にしようとする心意気と、最高級品を開発しテクノロジーの水準を高め、それを量産品にフィードバックしようとする好ましい考え方、プレスティッジ商品を持つことによる有形無形のイメージアップなど、利口なパイオニアなら当然考えるであろう政策から生れたのが、エクスクルーシヴ・ブランドなのだ。そして、このC3a、M4aの前身であるC3、M4、そしてM3といったセパレートアンプが5年あまり前に、このブランドで初めて登場した。今、その製品群はプレーヤーシステムにまで拡大されるに至ったが、おそらく、近々全ジャンルの製品群が顔をそろえることになるのだろう。同社によれば、最新のテクノロジーとクラフツマンシップのバランスの上に立って、「音楽に陶酔する」ことを目的としたロングセラーのハンドメイドの最高級品をエクスクルーシヴ・ブランドの主旨としている。確かに趣味の対象としてのオーディオ製品は当然こうあらねばならないが、この姿勢が単なる政策に終らないように祈りたい。パイオニアがなくなってもエクスクルーシヴだけは残ったというような世の中にでもなったら最高だ。半分冗談、半分真面目にである。これだけの多くの電気メーカーがあるのだから、各々、それぞれ特徴をもち、存在の必然性に支えられて反映すべきだと思うからだ。パイオニアのオーディオ製品作りの実力を見せつけられたC3、M4は5年前から魅せられ、特に、M4については、絶賛し、愛用し続けてきたかのであるが、今度、そのマークIIとでもいうべきa型の登場には、一抹の期待の不安の交じり合った気持をもっていたものである。
C3aの特徴
 どちらの製品も、デザイン的には大きな変更はなく、内容的に従来のものを基本として現時点でリファインした製品だ。C3aは豊富な機能を持ったコントロールアンプで、そのオーソドックスなコンセプトは、マランツ♯7に基本を置いたコントロールアンプのクラシックといってよい機能レイアウトを持っている。入力端子は豊富で、フォノ2回路とライン3回路はロータリースイッチで切替式、別にレバースイッチで、フォノとチューナーが切替えて使えるようになっているから、フォノは3回路ということになる。しかし今流行のMC用ヘッドアンプは内蔵していない。C3からC3aになって、ちょっとしたらMCヘッドアンプでもつくのかと思っていたが、それをしなかったことに、私はむしろ好感を持った。これでMCヘッドアンプを入れることになったら、相当な設計変更を要するし、とってつけたようなヘッドアンプ追加なら、しないほうがよいと考えたのであろうオリジナル尊重の気持を感じたからである。パーツ、配線などの地味なリファインにとどめてくれたことはよかったと思う。真の高級品には、頑固さがあるものだ。
M4aの特徴
 M4aも同様、細部のコンストラクション、線材、パーツのリファインなど、そして、電源の強化といったベイシックなポイントに手を入れたと聞くが、今流行のDCアンプ構成でも、サーボアンプでもない。たぶん、今回試聴したアンプの中では、もっともオーソドックスなものであろう。このアンプの音を聴くと、いったい、DCアンプのどこがいいのか? という疑問が涌くほどである。A級動作のアンプで、パワーも50W×2だが、その力のあること! 下手なオーバー100Wクラスのアンプに勝るとも劣らぬパフォーマンスを示したのであった。スピーカーのエフィシェンシーが93dBのJBL4343でなら、強烈なダイナミックレンジをもつプログラムソースを十分なラウドネスで鳴らしても、低音のピークが全く安定しているのには驚いた。
C3a+M4aの音質
 しなやかで、ふくよか、艶のあるヴァイオリンの音の美しさは、ちょっと他のアンプでは得られない次元の異なる緻密さであり、美しさであった。音色の分解能は秀逸で、ごく微妙な楽器の音色ニュアンスをはっきりと再生し分け、音の粒子の細やかさは魅力的というほかはない。その力感については先に述べた通りだから、あらゆるプログラムソースに品位の高い再生音を聴かせてくれることになる。M4との差を強いていうならば、M4の持っていた中音域の豊麗さが、ややコントロールされてしまったために、その色気の魅力が少々薄れたといえるかもしれない。しかし、全帯域のエネルギーバランスは、M4aのほうが明らかに充実したといえるだろう。この辺はもう好みの領域といってよいもので、普遍性をもって、どちらがよいかをだんていすることは私には困難である。M4の中域の特徴がやや好みに合わない人にはM4aは明らかな改良であろうし、私のように、M4の中域の甘美な、とろっとした魅力が好きな人間にとっては、正直なところ、もう、どっちでもよいという気持である。その分、M4aが、全帯域が高密度化しているからである。M4aのほうへの賛辞が多くなってしまったが、C3aとM4aは、明らかにM4aのほうが魅力がある。唯一の欠点、冷却ファンの音がやや耳障りな点を除いては、そのシンプルなデザインも品がよくて大変好ましいからだ。C3aのデザインは、先にも書いたようにオーソドックスで特に悪さもないが、オリジナリティに欠ける。ツマミ類のバランスもいいとはいえないし、質感と風格にも欲をいう余地があるからだ。

パイオニア A-900, A-700

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアのパワーアンプのスイッチング歪を軽減する方式はノンスイッチング方式と名付けられ、この方式を採用した製品は、米国市場を優先して発売されているが、A級動作に類似した名称をつけていない点は、このあたりの問題に対して特にシビアな米国市場を考慮した結果でもあろう。
 A900は、サーボ回路方式を導入したMCヘッドアンプ、イコライザーアンプ、それにパワーアンプはカップリングコンデンサーがないDCアンプであり、別に独立したトーンアンプの4ブロックで構成する標準型ともいえるブロックダイアグラムをもっている。
 MCヘッドアンプは入力感度0・1mVで、負荷抵抗切替付。インピーダンスが大幅に異なっている各種のMC型に対応可能であり、別系統にMCポジション検出回路を備え、セレクタースイッチがMCの位置にあるときは、電源ON時にヘッドアンプ回路が安定化するまで約15秒かかるため、特別にミューティング時間を15〜25秒遅らせ、クリックノイズの防止をはかっている。
 イコライザーアンプは初段FET差動カスコードブートストラップ負荷とし、カートリッジ実装時の低歪化をはかり、2段目差動と3段目との間でカレントミラー差動回路を構成し、偶数時歪率を打消す設計。
 トーンアンプは、初段をFET差動カスコードブートストラップ負荷とし、初段と2段目でカレントミラー差動回路とするNF型で出力にはカップリングコンデンサー使用のAC構成でパネル面のラインストレートスイッチを切替えるとトーンアンプと出力部のモードスイッチ、バランサーまでを含みバイパスできる特長がある。
 パワーアンプは、基本構想はイコライザーアンプと同様な設計で、ノンスイッチングブロックを備えたDCサーボ型である。
 電源部は、各増幅部毎に専用安定化電源を置き信号の相互干渉を抑えるダイレクトパワーサプライ方式で左右独立型である。
 信号系の切替スイッチは、リモート操作型を多用し、パネル面での操作は周囲が照明された角形プッシュスイッチで、メモリー回路を内蔵し、最終便用状態を記憶し電源プラグを抜いても最低3日間はメモリー状態を保っている。
 A700は、A900同様の4ブロックのアンプ部を備えたシリーズ製品で、MCヘッドアンプがDCサーボ型でなくなり、フロントパネルの操作がフェザータッチスイッチでないことを除き、ほぼA900と同じ特長を備えた新製品である。
 A900は、音の粒子が全帯域を通じて細かく、滑らかであり、かつシャープであることに特長がある。低域は柔らかく豊かで音色が軽く、高域も自然に伸びている。音場感は前後、左右とも十分に拡がり定位もクリアーである。音の反応は速い。
 A700は、間接音が比較的に豊かな音で、滑らかで、細やかな表情が特長。

パイオニア S-180

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 32cmウーファーとボロン合金振動板のスコーカー、トゥイーターによる3ウェイシステムで、アトラクティブなサウンドの世界が魅力である。

組み合わせ型プレイヤー

瀬川冬樹

別冊FM fan No.21(1979年3月発行)
「メーカーメイドプレイヤーに満足できない読者のために組み合わせ型プレイヤーを考える」より

メーカーメイドプレイヤーに満足できない読者のために
組み合わせ型プレイヤーを考える

 DDプレイヤーの出現で、ディスク・プレイヤーの性能に疑いを抱かなくなってしまってから久しい。多くの人たちがあの軽い30センチ径のLPを、1・5グラム前後といった超軽量の針圧でトレースするのだから、ダイレクトドライブ、クオーツロックのフォノモーター(ターンテーブル)の性能は、レコードを定速で円滑に回転させという目的からは、もう十分以上であると、大多数の人々が思い込んだのも無理もない。
 ところが誰いうとなく、いまのDDモーターの性能はほんとうにこれでよいのか、現在のディスク・プレイヤーは、レコードに刻まれた音の忠実な再現という面からみて、ほんとうにももう十分なのか、といった疑問がここ数年来投げかけられはじめた。
 たとえば、ターンテーブルとレコードのあいだにあるゴムのシート(マット)を、別のものに交換してみると音色が変わる。ヘッドシェルやアームを交換しても音が変わる。いやヘッドシェルやアームはそのままでも、接続してあるコードを交換してみるとそれでも音が変わる。フォノモーターをとりつけてあるベース(キャビネット)を補強すると音質が良くなる……。要するに、メーカーサイドであまり重視してなかった(あるいはメーカー自身では知っていても、本格的に対策を講じれば非常に高価になるため、できなかった)ような部分に、アマチュアたちが気づいてしまった。
 そして、かんじんのターンテーブルも、レコードの溝に刻まれた音のエネルギーは、想像をはるかに越えるほど強大なもので、実際に針先がレコードをトレースする状態では、力の弱いモーターでは問題が生じるらしいことも、少しずつわかりかけてきた。
 このことは、アンプやスピーカーやチューナーや、レコードの録音といった周辺の性能の向上にともなって、いっそう問題視されはじめ、昨年秋の全日本オーディオ・フェアあたりをきっかけにいくつかのメーカーが、それまではアマチュアがいわばバカげた道楽でしか作らなかったような、超ド級のプレイヤーの試作品を、それぞれに発表しはじめた。
 たまたま今回の規格で、それらの試作品あるいは製品のうちのいくつかを実際に聴いてみようということになった。中でもかなり興味を持ったのは、トリオが〝原器〟と(いささか大げさに)名づけた試作機で、これは、いまのところたった一台。重量が約150kgというものすごい作品で、同社の中野会長のお宅にあるということなので、拝聴に参上した。会長邸には、私も使って最も信頼している西独EMTのプロ用プレイヤー927Dstがあるので、比較もしやすい。そして、このほかにマイクロ、エクスクルーシヴ(パイオニア)、及びサエクを、それぞれ自宅に借りて試聴した。
 中でも、トリオの試作機とマイクロの糸ドライブ(これは市販する製品)は、音質の良さでは印象に残った。各社とも、サンプルがまだわずかしかないため、試聴の翌日にもうわが家から引き上げて行ったが、マイクロは、返すのが惜しいくらいだった。
 これらの試作品は、アンプやスピーカーの発展の影に埋もれていたプレイヤーの音質向上にいろいろな角度から光りをあてて、問題提起をしているといえる。その、プレイヤーの音質上の問題とは、どういう部分にあるのか、それを、十分とはいえないが以下に考えてみようというわけである。

PART1
試聴編
国産、海外最高級プレイヤー・システムを試聴して、プレイヤーの問題点を探る

 今回のこの話をするに当たって、ひとつの参考という形で、幾つかのメーカーがかなり実験的な意味も含めてトライしている、何て言ったらいいのかこういうものを一括する言葉がないが、パイオニア・エクスクルーシヴのP3、マイクロのRX5000、サエクのスチール製のターンテーブルデッキ・システム、それとトリオが原器と今のところ呼んでいる、実験的な超ど級のプレイヤーと、そして私の常用しているEMTの927といったプレイヤー・システムでいろいろなレコードを聴いてみた。とにかく同じカートリッジでも、それぞれのプレイヤー・システムに付け換えてみることによって、なんと同じレコードが非常に違ったニュアンスに聴こえたことか!……。
 ステレオサウンド48号のブラインドテストでも体験していたことではあるが、今回のようにオーディオ専業メーカーがベストを尽くしたと思われるプレイヤー・システムでも、やはり音の差が大きく出るのだということを改めて再確認した。参考という形で、たまたま家にあったパイオニアのごく標準的なセミオートのプレイヤーシステム、これは非常にコストパーフォーマンスのいい、一般愛好家用としては、非常に取り扱いのやさしい、便利のいいプレイヤーだが、これに対して、それの大体十倍前後の価格の開きがあるプレイヤーが同じカートリッジを取り付けて、本当にそれだけのことがあるのか、という興味もあったのだが、確かに出てきた音が、十倍払うだけの値打ちがあるかどうかということは、僕は個人個人の価値観の問題だと思ったが、けれども一人一人の主観だなんていうこと言うと、何か逃げてるみたいに思われるので、僕がかなり主観的な言い方をあえてここでさせていただければ……同じカートリッジをパイオニアの普及品に付けたときと、それからたとえばマイクロRX5000に付けた場合とでは、同じレコードから受ける音楽的な感銘はもう根本的に違った……。
 普通のローコスト普及型のプレイヤー、たまたまパイオニアを例に出したが、パイオニアが悪いという意味ではなしに、市販のプレイヤーというのは、みなこの水準だということをはっきりここで言っておいた方がいいと思う。そういう五万円近辺の、ごく普通のプレイヤーというのは数年前のプレイヤーからみたらモーターはきちんとしているし、回転ムラなども全くない。モーターのゴロが出るわけでもない。非常に安定にトレースする。全く見事で、これだけ聴いてればちっとも疑問は持たないだろう。ところがやはり、例えばマイクロの、これはもうアームなしで四十三万円というような、豪華なプレイヤーだけれども、これでパイオニアに付けたのと同じカートリッジ(EMT XSD15)を付け換えて、同じアンプの音量を、少しも変えずに、そのまま聴いてみると音量感が違う、それから音楽のダイナミックスが全然違う。音楽がとにかく躍動してくる。非常にやはり聴き手にインパクトを与える。それから音がとても立体的に聴こえてくる。例えば歌を聴けば、歌い手がスピーカーの間にふわっと浮び上がり、また歌い手とバンドとの距離感がよく感じとれる。いやそういう細かなことをいう前に、まず音楽がとても聴き手を楽しませて、何かもっと聴いていたい、一枚のレコードを途中でポリュームを絞るのが惜しいような、そして一枚聴き終わると、このレコードはどうだろうと、また次のレコードをどんどん間髪を入れずかけ換えたくなるという、これは実は僕の長いオーディオ体験からいって、いいオーディオ機器とそうでないものとを判別する、大切なカギにしているのだが……。
 レコードをひとつの音楽として楽しんじゃおうと、もうテストなんてやめちゃおう!。とにかくレコードを後から後から聴いてみたい、という装置があるのだ。逆に何かレコードをしばらく聴いていると、ボリュームを絞りたくなってしまう音というのがある。絞りたくならないまでも何か気持ちが弾んでこない、白けた気持ちで、耳がやれ音のバランスだとか、定位だとか、歪み感とか、ついそっちの方で聴いてしまうというような、こういう機械は決して本当の意味で優れたオーディオ装置ではないと僕は思っている。
 このことはプレイヤー以外のアンプやスピーカーにもいえて、いい音響機器というものは、レコードのボリュームを絞りたくならない、何となくもっと先を聴いてしまう、つい長い時間聴いてしまう、一枚ターンテーブルから下ろすと、またすぐ次のレコードを乗せたくなる。全然違ったレコードを後から後から思い出して、そうだあのレコードはどうだろう、あんなレコードがあった。あのレコードはどう聴こえるだろうなんて興味を尽きさせないものだ。

マイクロ RX5000
 僕は今までに長いこと、マイクロの製品をいいと思ったことは実際なかったのだが、特にこのシステムのアームのMA505は多少二、三改良されて今までの505と違うという話だったが、505というアームは、全体に何か音が軽々しく、かん高くなる傾向で、この事はアマチュアからも同じことを言われたので、僕だけの偏見ではないはずだ。
 ところがこのアームも含めて、少なくともこのプレイヤー・システム全体としては、きょう聴いたプレイヤーの中では一番音が楽しかった。音のバランスがきちんと整っているし、それからこれは今までのマイクロと違って、ターンテーブルシートを使わず、ターンテーブルの金属にじかにレコードを乗せるということになって、このやり方というのはえてしてターンテーブルの共振で弊害が出るという体験を僕はしているのだが、このプレイヤーではそんなことは感じなかった。音の彫りが深く躍動感があって、ダイナミックスが感じられて立体感が出て、何よりも音が楽しく、聴き手が引き込まれてしまうという、その意味で、僕はいいプレイヤーだなと思った。これは発表されているデータからもターンテーブルそのものの機械的な精度と強度に着目したということになっているが、やはりターンテーブルのシャフトというものは、重いターンテーブルを支える、いわば土台なので、そのシャフトをきちんとするためには、ダイレクトドライブでは絶対にだめだという信念をもって、ナント糸でドライブするという、これは本誌17号で紹介された高城さんも昔からおやりになっているが、これは高城さんだけに限らず、以前からわれわれの仲間も一時はやっていた方法なのだが。この古いというよりか、おそらく今まではメーカーだったら製品化するのをためらったような方式にトライしている。この点でも面白い。僕は見本製品を見たときに、その形はなかなかきちんとしてると思ったけれども、実際に物を手にとって聴くまでは一抹の不安を持っていたのだが、実物を見ても、なかなかこなれた形をしている。このマイクロのプレイヤーはちょっと話題になっていい製品だ。
 僕はマイクロの製品、初めていいなあという気がした。細かいことをいえば、ストロボの入れ方とか、全体のもっていき方、あるいはアームとか、いろいろな細かい部分にいくらでも注文をつけたくなるけれども、やはり注文つけたくなるというのはその製品がある程度水準に達しているから、自分としてはそれが気に入ったから、それがもっと気にいるためには、こうして欲しいみたいな注文だと思ってほしい。とにかくいいプレイヤーだ。

エクスクルーシヴ P3
 次がパイオニアというよりエクスクルーシヴのP3だが、これは今のマイクロがもちろん製品として、発表しているけれども、駆動モーターとターンテーブルも別々になっていて、しかも糸の長さによって位置を変えなくてはならないとか、かなり実験機的な様相を多分にもっているのに対して、こちらは製品として完全にこなれたものにしようという意図がうかがえた。
 エクスクルーシヴのアンプや、スピーカーと同じように非常に上質のローズウッドでキャビネットができていて、中の仕掛けはいろいろ凝っているにもかかわらず、それを表にあまり出さないである程度デザイナーの手が入って全体をできる限りこなれた形に仕上げ、そして品位を保とうという意図が十分うかがえる。それからプレイヤーのふたもかなり重いふたが付いている。全体が非常にしっかりとして大変重くできてる。
 モーターとアーム部は一体化してそれをサスペンションしているとか、インシュレーターの方法が今までと全然違うとか、とにかく非常にぜいを尽くした作り方だ。操作してみても、ながめてみてもかなりこなれている。音はマイクロとはずいぶん違ったニュアンス、というよりも僕は非常に面白いと思うのは、エクスクルーシヴのアンプ、C3とM4の組み合わせ、またはC3とM3の組み合わせなどが聴かせる一種の重厚なそして危げのない、ちょっとハラハラするような音は絶対に出さないで何となく音が一粒一粒がウェットに重い感じで、何か音一つひとつうまく湿めらせて重みをつけた……。これはエクスクルーシヴのアンプの特徴だが、このプレイヤーにもその音がある。だからその点で、僕はやはりエクスクルーシヴのアンプを作った人と同じ耳が、この音決めに参加しているのではないか、というふうに思った。特にアームがオイルダンプでダンプ量を調整できるので、ダンプをオーバーにかけると、ちょっと音に生気が失くなるがダンプ量をクリティカルに調整したときに、すばらしい音がする。でマイクロの場合は非常に音のダイナミックレンジを広げて聴かせる感じがしたのに対して、これはちょうど逆で、ダイナミックレンジをむしろ少し抑えるような、ピークがパァーッと伸びるのではなくて、そこはうまく何かリミッターを非常に上手にかけたような感じと……そういう印象を受けた。
 別な言い方すると、オーディオファンがひとつひとつの細かな、よく解像力という言葉使うが、そういう解像力というような聴き方とは逆に、音の細かなところまでも見通すというよりも、そういう聴き手の耳をそばだたせない、むしろそばだたせないところがこのプレイヤーの意図ではないか。全部音をくるみ込んで、きわどい音を出さない。だからオーディオファンよりもこれはやはり音楽ファンが何かハラハラしないで聴きたいプレイヤーが欲しいといった場合には、これは確かになかなか特徴のある製品ではないかなという気がする。ただ僕の主観を言わせていただけば、マイクロを聴いてるときは、いまも言ったように、レコード一枚一枚もっと聴きたい、もっと聴きたいという気持ちになるけれどもエクスクルーシヴだとそこまでは面白くはさせてくれない。何か聴いていてとにかくこっちが、何というか、でれっとくつろいでしまってあんまり神経質にならない、そこがこのプレイヤーのよさでもあるし、またややシビアな聴き方をしたときの物足りなさにもなるのではないか。
 しかしこのクラスのプレイヤーで、こういう見た目も含めて、きちんとまとまったプレイヤーというのはあまりない。

サエク ターンテーブルデッキ
 さて、このサエクの考え方というのは、エクスクルーシヴとは対極にあって、エクスクルーシヴができるだけ音を全体に抑えていこう、例えばアームの作り方ひとつみても、P3のアームがオイルダンプで、それからアームの後ろのウエイトを非常に柔かいサスペンションで、ダンピングをして、とにかく共振を全部ダンプしようという意図が構造にも出ているし、音にも明らかにそういうところが出ているのに対して、サエクの場合には、アーム自体の考え方が、もうサエク社の当初のアームから一貫して、ゴムのようなあいまいな材料を使わないという基本方針があって、それがついにこのターンテーブルシステムというか、これは何と呼んだらいいのか。やはりデッキか? その方向にもきちんと表われてきて鉄のブロックという非常に重く密度の高い材料をとにかくできる限りの、まあこれは機械工場で使う定盤に、ほとんど近い感じのものを真っ平らな面に仕上げて、それにモーターとアームをできるだけがっちり取り付けて、それをこの重量で支えてしまおうという考え方だ。
 サエクのアームは機械工学の専門家が設計しているアームだが、このターンテーブルデッキにもその機械屋さんの感覚というのを僕は非常に強く感じる。少なくともエクスクルーシヴが家具としても、ある程度の部屋の中に溶け込ませようという配慮があるのに対して、このサエクの方はそういうことは一切考えないで、とにかく機械設計家の感覚からいってやれるだけのことはやっていくという発想のように思えた。とにかくあいまいな共振のダンプをしないということらしい。
 あいまいな共振ではなくて、共振のあいまいなダンプをしないということ、つまり共振をダンプするのではなくて、共振が出ないようにとにかく各部をきちんと作っていって、その結果として各部はきちんとサスペンションされているというのがこのプレイヤーだ。確かにこのシステムから出てきた音というのは音の輪郭をきちんと正直に出してくれるという感じだった。ただひとつちょっと難点といえるのは、インシュレーターが上下方向の振動も十分、よく吸収するのだけれども左右方向に割に無防備なインシュレーターなので、この辺は僕はちょっと研究していただきたいなぁという注文はつけさせてもらいたい。とにかくひとつのはっきりしたポリシーが打ち立てられているのは立派だ。アーム単体は、このターンテーブルデッキに付けたのとは別に、ごく僕らが耳になじんだプレイヤーでこのアームだけ付けて聴いたことがあるが、これは僕は大変いいアームの一つだと思うし、実際いい音のするアームだ。音の輪郭ひとつひとつをあいまいなくきちんと出す、いかにも、設計方針がそのまま音になっている感じだ。とにかくサエク社の初期のアームに比べて、形が随分こなれていて、初期のものは、ちょうどこのターンテーブルデッキを見るみたいに、材質とその構造が、もうそのままむき出しになったという感じで、それはそれでひとつの機械加工ぎりぎりまで突き詰めきたというすご味を僕は感じていたが、半面ちょっときわどくてもう少しこなれた形にならないかというような面があった。しかし、この新しいアームは僕は随分形もこなれているし、とにかく初期のアームが少し共振性の音を出したのに対して、これはほとんどダンプしないで共振をきちんと抑えて、しかもダンプしたアームとは、明らかに違う、輪郭のきちんとした音を出す。ダンプ型のアームの対極にあるけれどもかなりいいアームの一つだ。ただ今回のこのプレイヤーシステムでデッキという格好で組み上がったものは、たまたまモーターにテクニクスのSP10MK2が付いてるので、聴いた感じはSP10MK2の音を、かなり僕としては感じた。やはりSP10の音というのは非常に真面目な音がする。ひとつひとつの音をとにかくきちん、きちんと出していこうという傾向があってそこをSP10を非常に好きだという人と、それから少し音が真面目すぎるのが難点で、もっと何かニュアンスとか、味があってもいいんじゃないか、という人もいる。けれどもターンテーブルにニュアンスとか味というのを求めるというのは、おそらくテクニクス側からいえば、おかしいというだろう。そういう性質のものがターンテーブルなのだから……これはこれでいいのだ。つまりその音がきちんと正直に出ていた。

EMT 927
 EMT927に関しては、何しろ僕は初めてこのプレイヤーと会って以来、ほれっ放しなものであまりあれこれと言わない方がいいのではないかと思う。それは冗談半分として、このプレイヤーというのはやはり、いま聴いたようなプレイヤーを含めて、おそらくこれから出てくるであろうプレイヤーにまで、相当その陰の影響を与えているのではないか、と思う。つまりいま頃われわれがやっと気が付いてきたターンテーブルの重さの問題、そのターンテーブルを支える軸受の問題、あるいはターンテーブルシートの問題、それからプレイヤー・システムとしての全体のバランスというか、重さのバランス、組み上げ方のバラン、操作上のバランス、そういうことが音質に影響することを、恐ろしく古い時期に気がついていて、それらをすべてやっていたプレイヤーだ。しかも現在のダイナミックレンジの広いレコードをかけてもちっとも聴感上おかしいと思わない。なにしろ音に底力が感じられる。底力というと、これは誤解されそうだが、つまり非常にエレガントな、静かな音楽をかけているとき、このプレイヤーは何にも自己主張しない、もう実にエレガントなのだが、そこに例えば急激に立ち上がる力のある打楽器の音とか、力強い楽器の音が入ってくると、ほかのプレイヤーよりも一回りも二回りも音がグンと伸び切る感じがして、それが明らかなエネルギーとして聴こえてくる。それは今聴いたこの三つと比べても十分あった。
 これは本当に不思議なのだけれども、結局いろいろ想像するに、やはりレコードを回す土台の頑丈さと、回転力の強さだろう。まずターンテーブルが非常に重くて慣性能率が大きい。メーカーではそんなことは何も発表してはいないが、本当にターンテーブルを計量して計算すれば出てくるのだろうけれども、僕はそんなことやる気は全くない。とにかく大きな重いターンテーブル、そしてけたはずれに長くて丈夫なシャフト、そしてその軸受け、それをまたけたはずれに強力な、しかもけたはずれに精密で静かなモーターで、ものすごい力でドライブしている。従って、レコードのどんな強力な音のところでも、ターンテーブルの回転が妨げられることは少しもない。それからプレイヤー・システム自体の重さも相当強力なので、インシュレーターなしで床の上にじかに置いてるのにハウリングなどは起こさない。そのことからも、これがいかに頑丈なものかわかるわけで、それとアームとカートリッジと内蔵のトランス、及びイコライザーアンプといったもののトータルの性能がいかんなく発揮されてるということで、とにかくレコードに入っている音のすご味を感じさせる。レコードってこんなすごい音が入ってるのか! と。これを聴く限りまだまだ国産の実験的なプレイヤーというのはまだやることがいっぱいあるのではないか、またそしてやることによって、またいっぱい出てくるのではないかと、思わせるほどだ。

トリオ〝原器〟
 これはトリオの実験機なのだそうだが、アームを研究中に、アーム本来の音を聴きとるプレイヤーを追究していったら、このようなものが出来上がったらしい。とにかく中野会長のお宅にうかがって、EMT TSD15カートリッジをこの原器とEMT927で聴いてみた。
 いままではEMT927がTSD15の情報量を最大限に引き出すと信じていたが、このトリオの原器からは、927からは聴こえなかった音が出てきたのには、びっくりした。
 僕はいままでTSD15がこんな風に鳴ったのを、聴いたことはないし、それはたとえば、927にチューニングされているTSD15が、トリオの原器と称されているプレイヤーに付けられたために、その弱点が補正されずに出てきた、あるいはバランスが変わって、このように聴こえた……といった種類のものでないことはたしかだ。とにかくプレイヤーとは何かを考えざるをえないシステムだった。

聴き終わって
 以上五機種のプレイヤー・システムを聴いて、ではローコストの四、五万クラスのプレイヤーと、どこが違うんだ! といわれた時に、僕はうまくいえないが……。
 要するにローコストのプレイヤーでかけたレコードが、例えば明らかになくなっちゃう音があるわけではない。低音も出てくるし、高音も出てくる、そんな素朴な問題は起きない。ただ、このローコストプレイヤーでかけたレコードをそのままEMTに乗せてプレイバックしてみると、具体的にひとつひとつの音がどうってことはないのだけれども、ローコストプレイヤーでは出なかった音が出てきたような気がしてくる。何かそのレコードの情報量が何倍にも増えたような気がする。聴こえるということは明らかに何か、言葉でうまくいえない音が確かに出てきているのだ。しかしそういう説明では説明しきれないところがあって、それは何かというと、僕がよくオーディオのビギナーの人に、オーディオの楽しみを説明するときに、レコードというものは中途半端な形で聴くと、何年か聴いてる間にレコードというのは大体こんなもんだ、オーディオというのはこんなもんだという、気持ちになることがあるのだが、ところがきょう聴いたなかでも、例えばマイクロ、あるいはEMTのプレイヤーで聴いていると、これはプレイヤーに限らず、アンプでもスピーカーでも、僕がさっきマイクロのところでちょっと言ったように、もっと聴きたい、もっと聴きたいというぐらいの気にさせるような音がしてきて、レコードの世界というのは恐ろしく底が深いなぁと思わざるをえない時がある。一枚のビニールの円盤で、人間を何か魂の底から揺すって感動させるようなオーディオ・システムが存在し、そこにオーディオの楽しみがあるのだということを僕はいってきている。
 魂の入った音楽が一枚のビニールの円盤になって、それをエレクトロニクスで復元していくと、そんなものは消えてしまうはずなのに! 大体ある時期まではレコードってのはやっばりそういうものだってあきらめがあったかもしれない。ただ要するにうんと古い時代の人はレコードをそう思ってない。SPレコードでやはり魂揺すぶられている人がいた。レコードをまともに再生すると、それは音の歪みがそんなふうに思われてたとか、歪みをちゃんとなくすとレコードってのはこんな程度の音しか出ないとか、少しさめた言い方になってくる。しかし現在のレコードには音楽の感動が絶対はいっている。しかし現在のプレイヤーの研究段階では、それがプレイヤーのどこをいじるとどうして再現できるのかということはつかめていない。またレコードに、そういう音が入っているのだということを本気で信じる人がすべてかというと、プレイヤーを作っている当事者のなかにも、そんなことを信じてない人も少なからずいる。しかしやはりレコードを聴いて、一瞬背筋にあわが立ったり、あるいは一瞬涙をこぼしてみたり、一瞬どころかそれで一晩考え込んでみたりというような体験を何度かしてみると、やはりそういう音が出るプレイヤーが本当だと思うし、あるいは本当に嘘ではなくて、そういう音が出ないプレイヤーはおれはいやだ、というようになってくる。本当でなくてもいい、つまり、例えばマイクロが出した音とEMTが出した音が、これはそれぞれの機械が作った音ですよと言われても、それは理屈家さんの話で、やはりレコード聴いてどちらがうれしくなるかといえば、やはりマイクロの音、EMTの音、がうれしくなって、もっとレコードを聴きたいという気にさせられる。僕はそういう音でなければオーディオではないと思う。オーディオであるかないかではない、どちらが正しいか、正しくないかでもない。一方にそういう音を出すプレイヤーがあり、一方にそういう音を出さないプレイヤーがあるとしたらどちらを選ぶだろうか。
 それではPART2で、そんな音をレコードに求めて、メーカーメイドのプレイヤーに飽き足らない読者のために、組み合わせ型プレイヤーを組み上げる際の考え方を、僕のつたない経験から話してみよう。

PART2
試聴の結果と、今までの経験をもとにして、組み合わせ型プレイヤーのノウハウを考える

 レコードプレイヤーを自作しよう、あるいはパーツを買ってきて組み上げよう、または既製品にいろいろ工夫を凝らして手を加えようといった傾向が、近ごろ盛んになってきた。振りかえってみると、これはなかなか面白い。現在のように既製品の比較的性能のいいレコードプレイヤーが出そろったのは、大体DDモーターが出てきて以来、ここ四、五年だ。それ以前はいいプレイヤーが欲しくても、既製品になかったので、音質を重視する愛好家は、いいパーツを買ってきて、自分で納得のいくように組み上げるしか方法がなかった。そこへDDモーターが出現し、従来プレイヤーを全く手がけていなかったオーディオメーカーまでが、DDモーターを応用して、かなり性能の優れたプレイヤーを容易に作れるようになって、自作派は影をひそめてしまった。
 ところがいつの間にか、誰いうとなく、どうもDDのモーターは、音に潤いがないとか、味わいがないとか、余韻がスパッと切れてしまうとか、聴いていてしらけるとか、いわれはじめた。その理由は未だに完全に解明されているわけではない。しかしプレイヤーというのは、何もモーターだけでできているものではなく、ほかの部分──軸受け、キャビネットの重さ、構造、アームの取り付け、全体のバランスなどに見落としがあるのではないかということで、昨年のオーディオ・フェアあたりから、いくつかの専業メーカーから従来ではとても考えられなかった、アマチュアライクな、プリミティプな実験機の形で発表されはじめた。それがマイクロのRX5000であり、P3であり、サエクのターンテーブルデッキなのだが、我々アマチュアもメーカーメイドプレイヤーに満足することなく、音の良いプレイヤー・システムに挑戦してみたらどうだろうか。以下はPARTIの試聴もふまえての、組み合わせ型プレイヤーに対する私のノウハウ集である。

①フォノモーターは……
 どうせプレイヤーシステムを組み合わせるのなら、フォノモーターはDD以外にしたらどうだろうか、なにもDDが悪いというほどの証拠があるわけではないが、最近のDDの音質に問題がある、と指摘する人は、必ずしもDDまたはクオーツロックという方式そのものが悪いのではなくDDターンテーブルの機械的、物理的強度、構造、あるいは精度が問題なのだと言っているようだ。
 つまり、ちょっと簡単な実験をしてみるとわかるが、ターンテーブルのフチのところを垂直に軽く下へ押し下げるような力を加えてみると、DDモーターのほとんどがガタガタする。というのは、DDはターンテーブルシャフトそのものがモーターのシャフトで、そのモーターも動力用のモートルではなく、非常にデリケートな精密モーターなので、しかもそれを電子制御するために特殊な構造になり、どうしてもシャフトの長さが短かく、細くなる。したがってそれを支える軸受けもガッチリ作りにくいというDDの泣きどころを指摘している。そういうところがもしかするとDDモーターの音がつまらない理由なのかもしれない。
 というわけで、DDでない方向に目を向けると、リンソンディック、アメリカのQRK(アイドラー・ドライブ)。完成品だがエンパイア、それからもう市販されていないで、中古マーケットでだんだん値が上がっているガラードのモデル301、あるいはその後に出て改悪ともいわれたモデル401、国産では最近出てきて話題になっているマイクロのRX5000、同じくBL91、そういったものが頭に浮かぶ製品だ。
②フォノモーターのトルク
 モーターの第二のポイントはトルクだ。すなわち回転する力の強さは、レコードをターンテーブルにのせて回転し、そこに針が下りてトレースする時に、再生音に微妙に影響する。レコードの溝は、音の強いところでは、大きくうねる。そこを針がたどっていく時にはレコードの回転に針がブレーキをかける形になる。したがって力の弱いモーターだと実際にブレーキをかけられた形になって、楽音に変化が起きる……といわれているが、はっきりしたことはわからない。しかしトルクの強いモーターはトルクの弱いモーターよりきちんとした音を出すことは間違いのない事実である。
③プレイヤー・キャビネットの役目
 プレイヤー・キャビネットに要求されることは、まず全体が非常に丈夫で重いこと、密度の高い重い材料で構成されていることが必要である。プレイヤーを自作した人なら経験していると思うが、同じターンテーブル、同じアームを付けても、薄い板でガランドウの箱に組んだ場合と、非常に密度の高いキャビネットに取りつけた時とでは、音が全然別ものといっていいくらい違ってしまう。
 プレイヤーのキャビネットというものは、とにかく回転しているターンテーブルを、できるだけ微動だにせず支えて、しかも、アームの先端についたカートリッジの針先がレコードの溝をたどった時に、カートリッジの振動が、アームの根元まで伝わってくるので、その振動もがっちり受けとめてあげなければならない使命がある。以上の理由から、プレイヤーのキャビネットはできるだけ重く、密度の高い材料が望ましい。
④メーカー製のキャビネット
 レッドコンソールのように鉛という非常に共振しにくい粘った材料と、木材の積層材の張り合わせもある。レッドコンソールのキャビネットは一部に非常に強い支持がある。またテクニクスのSP10MK2用のキャビネットのSH10B3とか、SP15用のSH5B1といったものは、天然石を細かく砕いて、改めて再構成したのもある。
⑤スチールを傭ったプレイヤー・キャビネット
 非常にユニークなアームを作っているサエクが昨年のオーディオ・フェアで発表した、鉄のブロックに機械加工して、アームも三本ないし四本取り付け可能なターンテーブルデッキと称するのがあるが、材料の持っている重さと密度で、何が何でも振動させまいとする、普通のメーカーでは二の足を踏むであろうアマチュア的発想を勇敢に製品化している。
 マイクロのRX5000のベースもかなり密度の高い金属を使っている。鉄の固まり、鉛の固まりといった金属の重さと密度をプレイヤー・キャビネットに応用するのも面白い。
⑥キャビネットの自作
 アマチュアがキャビネットを自作する場合は、やはり木材を主に使うのが実用的である。木材の中でも一般的なものは、合板とパーティクルボードだろう。ただし合板でも、それだけで考えないで、間に厚味のある鉛のシートをサンドイッチしたり、さらに固めのゴムもサンドイッチにして、木材、鉛、木材、ゴムシート、木材といった構造にして、とにかくきつく締め上げて、一つの固まりとするのが、特定の共振からのがれられるという点からも、重さからも理想的といえる。
⑦インシュレーター
 インシュレーターの役目は、プレイヤーのキャビネットから、床から伝わってくるスピーカーの振動をシャットアウトして、ハウリングを防ぐこと。そして、もう一つ、スピーカーから出た音が空気を振動させ、それがひいては、プレイヤー、アーム、カートリッジを振動させてハウルのを防ぐ。インシュレーターで巧妙にフロートされたプレイヤーは、その両方をうまくしゃ断できるのだが、ただフワフワ浮いていればいいというものではない。またもう一つのインシュレーターの考え方として、モーターが一方向に回転する場合、モーターを支えているすべての部分が反作用で、反対方向に振られるので、少なくとも、インシュレーターは垂直方向のみの振動の吸収を考え、水平方向は微動だにしないのが理想といえる。このことはトリオの技術者が最初に言いだしたが、私ももっともだと思う。そういう観点からみると、いまのインシュレーターは、水平方向にあまりにも無防備だという気がする。ラックスのプレイヤーシステムもこの点に留意してある。
⑧ターンテーブルシート
 いわゆるターンテーブルとレコードの間にあるシートだが、いままでは、ほとんどゴムが使われてきた。ところが最近、このターンテーブルシートが、音質にかなり大きな影響があると言われはじめ、ただいま暗中模索の段階といえる。現在販売されているシートの材質をあげても、ゴム、皮、ガラス、金属、コルクなど諸説ふんぷん。このことは、条件を一定にしてシートだけ変えれば、確かに異なった音がするが、ただし客観的にどれが一番いいかということは、まだはっきりしていないということだ。自分のシステムでは、あるいは自分のリスニング・ルームのコンディションではこれが良かったということは言えるが、万人に共通の最大公約数的な結論がないのだ。したがって情熱と興味のある人は全部自分で試してほしいし、それ以外にない。
⑨スタビライザー
 プレイヤーのダストカバーでさえ共振が問題になるのだから、レコード演奏中に、ターンテーブルのシャフトに小さなオモリを乗せることを一部のメーカーで提唱している。これはEMTのスタジオプレイヤーは昔からやっている方法で、レコードのセンターに、軽いオモリを乗せてシャフトにピッタリ押しつけることはいいことだと思う。
⑩ダストカバー
 プレイヤーのダストカバーは音質本位に考えた場合には多少問題がある。というのは、ダストカバーは、スピーカーからの音で簡単に共振してしまう。この現象は開けていても、閉じていても起こる。
 では振動を防ぐためには……二つの方法がある。一つはカバーをしないこと。もう一つは、きわめて重量のあるカバーをすることである。
⑪アーム
 まずアームの選び方ということになると、本誌17号でも言ったように、アームとはどんなものがいいかという問いに対しては、アーム単独で言えない。アームというものは、カートリッジをベストに生かすパーツなので、カートリッジの性能に見合ったものを選ぶ必要がある。またカートリッジの性能に見合った調整が必要だ。
 そしてアームの目のつけどころとしては、アームの重さと、機械的な強度の問題がある。アームを大ざっぱに二つに分けると 重いアームと軽いアームに分けられる。
⑫力-トリッジのコンプライアンス
 カートリッジを選ぶときに、カタログを見ると、コンプライアンスという項目があるが、これはカートリッジの針先がレコードの溝の中をたどっていくときの針先の硬さの度合いをいう。
 これが非常に柔らかく、弱い力でも針先が敏感に動くのはハイ・コンプライアンス型といい、硬くて動かすのにやや力が必要なのをロー・コンプライアンス型といっている。この両極の間にミディアム・コンプライアンスといわれるタイプが存在している。そしてほとんどのカートリッジはミディアム・コンプライアンスに属する。
 それでロー・コンプライアンス型、つまり針圧をやや重くかけないと性能が発揮しにくいタイプのカートリッジには、軽いアームを選んではいけない。またハイ・コンプライアンス型、つまり針先が非常に柔らかく、軽い針圧で動作させなくてはいけないカートリッジには、重いアームを選んではいけない。
 大まかな目やすとして、コンプライアンスを表す数字に20×10のマイナス6乗cm/dyneという数字が出てくるが、この頭に出てくる数字が5から10くらいをロー・コンプライアンス型。10から30くらいをミディアム・コンプライアンス型。30から50くらいをハイ・コンプライアンス型と思えばよろしい。
⑬アームのいろいろ
 アームの選び方を整理すると、まず一本のアームを選ぶ場合には、自分が一番主力にしたいカートリッジのコンプライアンスに応じてアームの重量を選ぶ。
 もしアームを二本つける場合には、軽量級と重量級の両極端を選ぶのが一番いい。三本つける場合には、その中間を加える。
 ただし同じ軽量アームでも、アームのタイプが違うと音質が大幅に変わることがある。たとえばSMEのS3などは軽量化されたアームだがオイルダンプされている。一方その正反対にADCのアームLMF1あるいは2は、極度に軽量化され、感度も高くしたアームといえる。したがって、ハイ・コンプライアンス型のカートリッジを使う場合でも、SMEのS3と、AADCとでは音が違う。
 それから比較的軽量級であっても、ダイナミック・バランスになっているアーム、たとえばマイクロのMA505は、決して重量級ではないが、ダイナミック・バランスという別な構造のために、独特の音が楽しめる。
 このへんがアームを選ぶもうひとつの難しさになるので、その時には経験者の意見を聴くとか、お店の人によく相談した方がいい。
⑭オイルダンプアーム
 近ごろでは、昔行なわれていた、アームをシリコンオイルなどで共振を制動しようという傾向がチラホラ見えてきた。
 ただし、本来の重量級オイルダンプとそれからSMEのS3というニュータイプのアームが提唱し始めたアームの外側にオイルのタブ、漕を取り付けて、そこでアームの動きを制動しょうといったアイデアもある。
 軽くダンプしたオイルダンプのアームというのは、なかなかいいものだなあというのが私の実感だ。
⑮スタティック型とダイナミック型
 アームは大別して、スタティック・バランス型とダイナミック・バランス型とに分けられる。
 スタティック・バランスというのは、天びんばかりのようにオモリでバランスをとり、針圧を加えるアーム。ダイナミック・バランスというのは、オモリでまず平衡状態を作っておいて、針圧をゼロにして、バネで針圧を加える。概してスタティック型アームは軽針圧カートリッジに対して非常に長所を発揮する。ダイナミック型アームはMCカートリッジを中心としたコンプライアンスのやや低めのカートリッジに最適といえる。
⑯ラテラルバランサー
 ラテラルバランサーは、どうもひところ、アームの働きをよく理解しない状態で、少し騒がれ過ぎたようだ。
 少なくともスタティック・バランス型のアームに関しては、あまり大きな意味はないと思う。ラテラルバランサーの必要なアームは、第一に一点支持型つまりワンポイントサポート型のオイルダンプ。第二にSMEなどに代表されるナイフエッジ型のアーム。この二つには必要不可欠。第三にはこれは必要不可欠とまでは言い切れないが、ダイナミック・バランス型のアームには、あった方がいいと思う。
⑰インサイドフォースキャンセラー
 インサイドフォースとは、レコードの回転と、それに対してアームが、先端が内側に曲がっていることから、ベクトルの和で、アームが内側に引き込まれる力で、それをキャンセルするために、アームを外側に引っ張る力をインサイドフォースキャンセラーという。ただインサイドフォースキャンセラーという言葉が、何か必要以上に誇大解釈されている。たとえば、インサイドフォースで片チャンネルの音が歪むとかいわれたが、最近では、インサイドフォースを打ち消すというよりも、むしろ従来から欧米で言われていたアンチスケーティングという意味合いに考えた方がいいと思う。
 アンチスケーティングというのは、要するに、レコードの外側のガイドグループに針を落とした時に、針がスーッと中に引き込まれて、曲の頭が飛んでしまうのを防止する意味で、インサイドフォースキャンセラーというようにシビアな考え方をしないで、横滑りをいくらか押えるというぐらいに考えた方がいい。僕自身、自分のアームの調整で、インサイドフォトスキャンセラーをほんの少し変えたことで歪みがガタッと減ったという体験はない……。
⑱アームの高さ調整
 僕はアームの上下方向の高さというのは、あまり神経質になる必要はないと思う。理論的に言うと、高さを大幅に変えると、バーチカルアングルが変わるが、アームの長さ、たとえば国産のアームの平均値、アームの支点から針先までを240mmとすると、根元で、2mm高さが狂ったとして、針先の角度で何度狂うかと考えてみれば……、あまり神経質になる必要はない。もちろん、いろいろなシェルを混用した場合は、調整が必要だ。
⑲アームの長短
 以前のSMEのアームには3009と3012という二種類があったが、その型番の由来というのが、アームの回転中心から針先までが、およそ9インチと12インチだったからで、それは昔レコードに16インチ盤(40センチ盤)というプロ用のがあって、それをプレイバックするために必然的に長いアームが必要だったためだ。その名残りが、現在でもオルトフォンのRMG309とかEMTの長いアームである。
 ここでアームの長短を、性能の面からみると、アームを長くすればトラッキングエラーが少なくなり、一方レコードのそりを考えると、安定にトレースするためには、短いアームの方が追従性、トラッキングアビリティーが向上するはず。と両者がゆずらず、レコードの追従性を重視する人は短いアーム、トラッキングエラーを少なくしたい人は長いアームという使いわけをしていた。
 ところでトラッキングエラーは、アームを長くしたところで、せいぜい一度か一度半の差しか出ないんだ! と短いアーム派が強力になって、長いアームがいっせいに姿を消したことがあった。
 ところが、最近になって、アームの音質がいろいろ言われはじめて、私自身も、アームの音質という面に着目していろいろ実験してみると、長いアームと短いアームは、共振の現れ方が全然違うらしいことに気がついた、同じメーカーのアームでも、長さが変わると音質がガラッと変わる。
 これはトラッキングエラーとか、アームの追従性は抜きにして、レコードを安定にトレースしているときの音質の違いで言うと、私自身、今までの短いアーム派から長いアーム派に変わってきた。16インチ用の超ロングアームの方が音質がいい。
 その理由は、長いアームの方が共振の出方が、いまのアームの構造だと、いいところへいっているのではないかという気がする。
⑳アームの形状
 アームの形状は、オルトフォン、SME型のコネクターが普及して以来パイプアームが全盛をきわめているが、パイプを何らかの格好で曲げないと、トラッキングエラーの修整ができないので、S字型とかJ字型に曲げている。ただ曲げることによってアームの材質が一部分不均一の個所が生じたり、有害な共振を生じることもあるとして、なるべく曲げ加工をしない方がいいという考え方が一部でいわれている。S字型は二カ所、J字型は一カ所。例外的にEMTの927についているアームのようにアーム全体にアールをつけて、弓型というかアーチルッキング型もある、少なくともパイプをゴチャゴチャ曲げない方がいいみたいだ。そこで出てきたのが、最近のストレートアームだ。ただし、ストレート型にすると、オルトフォン・SMEのコネクターが使えなくなる。ストレートアームの音がいいといわれるのは、パイプを成形したままで、何ら加工を加えないために、パイプ本来の軽量かつ強度が高い性質が生かされているためだろう。
㉑パイプと交換可能なアーム
 アームの根元でパイプごと交換できるアームというのはスタックスが始めて、ごく最近になってSMEのS3、オーディオ・クラフトが追随。最近ではエクスクルーシヴのP3も交換可能のアームを装備している。
 SMEの場合は、あくまでアームの先端にマスを集めないようにということからきていると思うが、オーディオ・クラフトのアームはストレート、S字型、あるいはパイプ材質、直径、などいろいろなスペアパイプがあって、かなりマニアックな実験的なことが出来るアームだ。一種のシステムアームといっていいのではないか。
㉒自作プレイヤーのパーツ・レイアウト
 プレイヤーを自作する場合には、モーターの取り付け位置をかなり自由に選べるので、アームのレイアウトを紹介すると、
❶アームを比較的前方にレイアウトする方法
 この方法はアームのお尻があまり出っ張らなくて、プレイヤーの奥行きを浅くできる。(図一のB)
❷アームを思いきって後ろにレイアウトすると、プレイヤーの幅を狭くすることができる(A)。この二つを操作してみると、カートリッジが手前から引っ込んだ位置にある❷の方が針を乗せやすいことがわかる。❶のようにカートリッジがぐっと手前にあるレイアウトは、カートリッジを真横から見ることになり、針先を特定の音溝に乗せようとするとなかなか難しい。
 それからアームを二本取り付ける場合にも二つの方法がある。
❶従来の位置、すなわち右真横と、プレイヤーの奥に一本目と直角に
❷プレイヤーの奥行きを増やしたくない場合は、ターンテーブルをはさんで、右と左にアームをつける。(図二)
❸ところがアームの構造によっては図三のように、ターンテーブルをはさんで、二本のアームが平行にレイアウト出来る場合もある。ただし左側につけるアームはストッパーのないフリーなアームであることが条件となる。
 最後に、何もプレイヤーのキャビネットを四角形で考える必要はないとすれば、マイクロのDDX1000のように円型で考えてもよいと思う。
 それからキャビネットにターンテーブル、アームをマウントする場合には、とにかくできるだけしっかりと締めつけることに尽きる。いったん締めて、数カ月使っているうちにネジがゆるんでくるので時々締めてやれば、次第に落ち着いて、ゆるんでこなくなる。
㉓オーバーハング
 オーバーハングというのは、アームの支点と、ターンテーブルの中心、および針先が一直線上に並んだ状態で、ターンテーブルのセンター(スピンドル)から針先までの長さをいう。ところがオーバーハングを調整するときに、スピンドルというのは、かなり出っ張っていて、針先までの長さを測定することがたいへんむずかしい。
 そこで僕が昔からやっている方法を紹介する。本誌17号でも紹介したが、SMEがはじめた方法で、別掲のゲージを使ってもらうのが一番実用的な方法だ。
㉔アームコード
 アームからの引き出しコードについては、サエクとかオーディオ・クラフトから、三種類のコードが発売されているように、MM型、ミディアムインピーダンスのMC型用、ローインピーダンスのMC型用と、カートリッジの出力インピーダンスによって選ぶことが望ましい。MM型カートリッジに適したアームコードは、MC型には不適当だし、MC型用のコードはMM型にはまずい。
 つまりMM型のようにインピーダンスが高いカートリッジはコードの直流抵抗分より、コードの線間容量が少ないことの方が重要で、MC型の場合には内部抵抗と内部インピーダンスが低いために線間容量は増えてもあまり影響を受けず、むしろコードの抵抗分の極力少ない方が理想的なのである。一般的なプレイヤーシステムのアームコードはMM型にピントを合わせているのでMC型カートリッジを使用する場合は注意が必要だ。

パイオニア PL-L1

パイオニアのアナログプレーヤーPL-L1の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

PL-L1

パイオニア S-140, S-180

パイオニアのスピーカーシステムS140、S180の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

S180

パイオニア A-8800X, F-8800X

パイオニアのプリメインアンプA8800X、チューナーF8800Xの広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

A8800X

パイオニア PL-380, PL-370, PL-350, PL-340, PL-M340

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアから59、800円〜39、800円の価格帯に300シリーズのプレーヤーシステムが6モデル発売された。これらを分類すると、PL380/370/360の3機種は、基本性能は同じで機能面でフルオート、セミオート、マニュアルの違いがあるグループであり、PL350/340は、共通なデザインをもつフルオート機で、モーター部分がクォーツロックPLL型とDCサーボ型の違いがある。またPL−M340は、PL340と同じ仕様で外形寸法が小型化された、いわゆるミニコンポーネント対応モデルである。
 PL380は、フルオート動作用ロジックICと専用モーター駆動ICを使った電子フルオート方式のモデルである。モーターは1・3kg・cmとトルクをもつ全周積分型クォーツPLL・DCサーボホール型で、ターンテーブルは重量1・8kg、直径33cmのアルミダイキャスト製、トーンアームはピボットにスプリングを組み込んだスタビリティサポート型で、このクラスのフルオート機としてはアーム高さ調整可能な点が特長である。またプレーヤーベースは、コアキシャル支持方式と呼ばれる耐ハウリング性の強い構造である。
 PL350は、オート動作専用モーター使用のフルオートモデルで、モーターはPL380と同等、ターンテーブルが重量1・5Kgである点のみ異なる。アームはS字型スタティックバランス方式で有効長がPL380系より6mm短かい。PL340は、モーターがブラシレスDCホール型のため速度徴調が可能であるほかはPL350と同じ特長をもつ。

パイオニア Exclusive P3

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアからパックスに移管されたエクスクルーシヴ・ブランドに初めて本格派の重量級プレーヤーシステムP3が登場することになった。価格的制約や妥協を一切排除し技術開発力を結集して商品化するというエクスクルーシヴの思想は、このモデルにもはっきりと現われている。異方性磁石採用の10kg・cmのカッターレースに匹敵する強大なトルクをもつデュアルローター構造のリニアトルク・クォーツロックDDフォノモーターEM03は、全周積分型の回転数検出周波数を従来より3倍高くし正確かつ応答性の早いサーボ過渡特性を実現し、外乱に強く、0・003%WRMS以下の低回転ムラとし、回転系の軸受側圧と回転部分の重心を下げるため軸受構造を天地逆転させたSTABLE・HANGING・ROTER構造としている。
 トーンアームEA03は、低等価質量とトラッカビリティ、低域大振幅時の混変調歪を解決する目的で軸受上部に着脱自在レベル可変型のオイル制動をかけ、フロントのパイプは軸受に近接した位置にもコネクターのある二重構造で、P3専用のカーボンファイバーストレートパイプと汎用シェル用S字型パイプの2種類を選択可能だ。
 構造面ではモーターとアームは硫酸バリュウム積層10mm厚のアルミ板に一体懸架され総重量は12kgで、全体はインシュレーターでキャビネットから完全フロート状態にしてある。キャビネットインシュレーターは、62mm直径のスプリングとピストン構造のオイルダンプ、さらに特殊ゴムの3重構造で25kgの全重量を支え、固有振動周波数は5Hz以下である。
 機能はマニュアル専用型だがプレーヤーシステムの基本を忠実に守り重量で振動を吸収させようとする開発思想は、音質面にダイレクトに現われ、情報量が格段に大きく緻密で引締まり、充分な低域の安定度をもつため、レコードにいかに多くの音が入っているかが実感として体験できるほどのパフォーマンスを示した。

パイオニア A-8800X

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 数多くの機種を揃えた00シリーズとは別系統の新プリメインアンプで、ベストセラーを誇ったSA8800、8800IIの型番を踏襲したパイオニアの意欲作である。MM/MC切替使用のできる高利得イコライザー段、DC構成のフラット段、パワー段の3ブロック構成である。電源回路は、イコライザー段、フラット段とパワーアンプにそれぞれ専用の定電圧電源採用のダイレクトパワーサプライ方式が特長で、電源インピーダンスを下げ、相互干渉を防ぐメリットがある。パワーは、75W+75Wで新開発RETを使用した高出力、高クォリティ設計だ。

パイオニア S-180

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 明るく高能率、優れたパワーリニアリティ、明確な音像定位の3点を開発ポリシーとしたパイオニアの新スピーカーシリーズの製品である。
 ユニット構成は、32cmウーファーをベースとした3ウェイタイプだが、中音、高音にダイヤモンドの次に硬いボロンを、真空中で特殊熱処理により振動板形状にした特殊金属薄膜の両面に強力な熟エネルギーで深く入り込ませたボロン合金を振動板に採用しているのが最大の特長である。このシステムは、新しいパイオニアの低音──CS516以来のソリッドで厚みのある音をベースとし、軽く反応が早く、適度に輝きのある中音、高音がバランスを保ったフレッシュな音を聴かせる。この音は、あたかもホーン型ユニット使用のシステムのようなシャープさと、クリアーさを持ち、音の粒子は細かく、滑らかで、柔らかな雰囲気も充分出せるのが魅力である。

パイオニア Exclusive Model 3401W

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 昨年から今年にかけて、国内各メーカーから本格派のフロアー型スピーカーシステムが製品化され、世界的にも数が少なくなったこの分野にも、国内製品の占めるウェイトが徐々に大きくなってきたことは喜ばしいことである。それらのなかでも、EXCLUSIVEブランドのMODEL3401Wは、その性能、デザイン、価格を含めて極めてリーゾナブルであり、趣味的に眺めても非常に魅力的な雰囲気をもっているのが楽しい。
 MODEL3401の開発にあたっては、一切の妥協を許さない究極のオーディオ製品をつくりだすというEXCLUSIVEの思想に基づき『豊かな情感の中に、大きなスケールと解像力に優れた音の世界を実現し、スピーカーシステムの存在を感じさせずに音楽に陶酔しきれるスピーカーをつくりたい』との理想をかかげ、忠実に技術的な基本を守り、ひとつひとつのユニットの完成度を高めるとともに、全体のバランスを重視して作りあげた、といわれている。
 構成は、40cmウーファーをベースとし、ホーン型の中音と高音を配した3ウェイシステムで、エンクロージュアは比較的にキュービックなプロポーションをもつバスレフ型である。各使用ユニットは、反応の早い軽量振動系とリニアリティの高い支持系と駆動系を組み合わせ、あらゆるマスキング現象を徹底的に解明して防ぎ、どのような微妙な音もクリア一に聴きとれる解像力を引き出すことにポイントがおいてある。
 40cmウーファーEL403は、大型のアルニコ系マグネット使用の低歪磁気回路、コルゲーション入りの強じんな新開発のコーン紙と、巻幅23mmで振幅16mmに耐える超ロングトラベルボイスコイルを使用しながら、出力音圧レベルは97dBと高く、しかも300Wの許容入力をもっている。
 中音用には、ハイフレケンシードライバーユニットED915と独自の形状をもつホーンEH351の組合せで、500Hz〜22kHzの広帯域再生が可能である。ED915は、直径48mm、重量1170gのベリリウムダイアフラムに、アルマイト絶縁により極限まで導体体積占積率を高めたボイスコイルを組み合わせ、磁気回路はアルニコ系マグネット使用で、磁極には純銀ショートリングを付け、イコライザーは高域再生を優れたものにするために、3重スリット型を採用している。EH351Sは、平面波伝播部、球面波変換部、球面波伝播部を順次組み合わせたオリジナリティ豊かなホーンである。ホーンは2ブロックに分割され、第1ホーンはアルミ鋳造、第2ホーンは合板製で、ホーン材料による固有音の発生を抑え、かつ充分の強度を得ている。このホーンのメリットは音源中心が常に取付けるバッフル面にあるため、音響レンズのようにインダイレクトむ音にならず、シャープな音像定位とパースペクティブがとれることにある。
 ホーン型トゥイーターET703は、直径35mmで重量55mgのベリリウムダイアフラムと、希土類マグネット使用で19500ガウスの磁束密度をもつ磁気回路との組合せで、ED915と同じ107dBの高い出力音圧レベルと45kHzまでのレスポンスをもつ。ホーンはディフラクションタイプである。
 これらのユニットに使用するディバイディングネットワークEN907は、900Hz、7kHzのクロスオーバー周波数をもち、コイルは低抵抗・低歪型のコア入り、コンデンサーはメタライズドフィルムタイプ、音質に直接関係をもつアッテネーターはオートトランス型で最大300Wの入力に耐え、パネル面にはマルチチャンネルアンプ端子付である。
 エンクロージュアは、高密度、高弾性、高損失という理想的特性をもつアピトン合板製で、内部にもアピトン集合材の補強が充分におこなわれている。なお、外装にはグレー塗装仕上げの3401と、木目仕上げの3401Wの2モデルが用意されている。
 MODEL3401は、最近素晴らしく完成度が高まり、反応が早く明るく豊かな低音をベースとし、ホーン型ユニットにありがちな固有音がほとんどなく鮮明な音を聴かせる中音、爽やかに伸びきった高音がスムーズにバランスした魅力的な音を聴かせる。

パイオニア F-8800X

井上卓也

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 A8800Xのペアチューナーとして開発されたモデルである。低価格で高性能を目標としたためSN比で利点のあるバリコン使用のフロントエンドを採用し、選局は一般的な同調ツマミによるタイプとなっている。機能は標準型で、PLLシンセサイザー方式ほどの華やかさはないが、安定度、信頼性の高さが特長である。

パイオニア PT-100

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 半球面に10分割のマルチセルラホーンを組込んだ異色のデザインをもつホーン型トゥイーターである。発売時期からみれば、同様なマルチセルラホーンPH101とドライバーユニットPD100の高音用として開発された製品である。ダイアフラムは、アルミ軽合金箔を採用し、磁気回路は11、520ガウス、出力音圧レベルは100dBで、マルチセルラ型としては高い。ホーン開口部の上下の半円球は、ディフューザーとして働き、音の干渉や乱れを少なくする効果がある。

パイオニア PT-50

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 厚さ20ミクロンのチタン箔をダイアフラムとしたドーム型の製品である。ダイアフラムのエッジは発泡ポリウレタン製で、ボイスコイル直径は25mm、ボイスコイルのリード線はベリリウム銅線を使い、大振幅動作時にも充分に耐えられる設計である。磁気回路はアルニコ系磁石採用で、磁気回路内部には制動用フェルトが、ダイアフラムの内側にはミクロングラスウールが入っており、f0附近での歪の発生を抑え過渡特性が向上している。音のキャラクターからは2ウェイ構成で使いたい。