パイオニア A-700

瀬川冬樹

別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より

 パイオニアのA700はA500と並べてみても重ねてみても、奥行きまで含めた外観は見分けがつかないほどよく似ている。細かい比較をすると、ボリューム・コントロール周りにA500の方はパネルを切り替えてリングが入っているが、A700の方はそういうことをしていない。
 またボリュームの左にあるレバースイッチの数がA700の方が一つ多い。それからMMカートリッジの負荷抵抗あるいは負荷容量切り替えも多少細かくなっている。また、A500ではサブソニック・フィルターのところのボタンが、A700ではMCカートリッジのハイ・ロー切り替えになっていたりというように多少細かなニュアンスの違いはある。しかし、少なくとも見た限りでは大変よく似た兄弟のアンプだといえる。
音質 このアンプの音質だが、まず大づかみにいって基本的に持っている性質というのはA500と同じ。パイオニアというメーカーの昔からの大変手慣れたバランスの取り方、過不足のなさ、そして聴きづらい刺激的な音を一切出さないようにきちんとコントロールされているところ、クラシック、ポピュラーという区別なしにそれぞれほどよい感じで鳴らしてくれるところなど、その印象は全く一貫している。しかし、その音の中身はA500に比べてだいぶ濃くなっている感じがする。A500のところでは多少とも薄くなるという印象があったが、A700になると、そういうことはあまり感じられない。音の質がグンと上がる。価格差よりは中身の充実の方が上回っていると思う。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプは大変よくできている。テストしたアンプの中でSN比ということではこれが最もいい出来栄えを示した。つまりオルトフォンのMC20MKIIでは他のアンプすべてがゲイン不足あるいはノイズが増えるという傾向があったのに対して、このアンプはSN比がよくとれており、ゲインも十分だ。ボリュームをいっぱいにあげなくても実用になるし、しかもMCヘッドアンプとしての音も必ずしも悪くない。ましてそれがデンオン103Dになればボリュームを相当絞った状態でも十分なゲインが取れるので完璧に実用になる。内蔵MCヘッドアンプに関していえば、テストしたアンプの中で一番だった。裏返していうと、この価格差というのがかなりMCヘッドアンプに投入されたのかなという感じをもった。
トーン&ラウドネス ライン・ストレートとノーマルの音の差がA500に比べて少し大きい気がする。
 この700の方が高級アンプだということで、こちらの聴き方がわずかに厳しくなっていることもいえるかもしれない。しかし、そういうことを考えに入れてもやはりもう少し音の差が少なくなってほしい。言い換えればライン・ストレートの音がそれだけよくみがかれていて細かな回路を通らないでストレートに出てくる音がいいということの裏付けにもなるわけだが……。
 半面トーン・コントロールその他を使おうとすると、わずかながら700の場合、音の広がり感、あるいは音の伸びといった面でちょっと物足りなさを感じる。しかしバス、トレブルともトーン・コントロールの効き方はやはり手慣れた感じで効きすぎず、とてもバランスのいい効き方をする。もちろんラウドネス・コントロールも同じだ。
ヘッドホン ヘッドホン端子に出てくる音、これはスピーカーを聴いた場合とレベル的な印象がよく合う。ヘッドホン端子の方がやや低めだが、これはごく標準的なことで出てきた音も大変いい。そういう点を含めて、トータル・バランスは大変よく、まとめ方も手慣れており、安心して使うことができるアンプには違いない。

★★

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