Category Archives: スピーカー関係 - Page 3

タンノイ Westminster Royal/HE

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伝統的デュアルコンセントリック同軸2ウェイユニットLSU15の最新作を、前後2個のホーンをもつエンクロージュアに収納した、古典的ファンが「ラッパ」と呼ぶに相応しい構造、外観、仕上げ。大型スピーカーが過去に達成した偉大の成果を現時点で聴かれる、一種素朴な感銘を受ける金字塔的な大作である。

JMラボ Mezzo Utopia

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ユートピア・シリーズの第3世代としてMiniとともに登場した注目作。高/中/低域エンクロージュアの表面波による音の汚れを避けるための独自なスタック構造は、一面に問題点を残すが、結果の音は、サスガに第3世代ならではの革新的な魅力がある。価格の割に少々小柄だが、潜在能力の高さは計り知れない。

レヴェル・オーディオ ULTIMA GEM (HGBK-AL)

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ベースモデルの側板部分を25mm厚アルミに変えたスペシャルモデル。ベース機にある、やや軟調傾向で、しっとりした独特の魅力は充分にあるものの、鮮鋭さを要求すると価格相応の悩みがある部分を見事に解消した音の魅力は絶大である。エネルギー量タップリの製品ではないが、研ぎ澄まされた感性のサエは凄い。

マッキントッシュ XRT26

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

XRTシリーズの上級機種。23基のトゥイーターを持つコラムとメイン・エンクロージュア部がセパレートされている。低音を歪なく20Hzまで確実に再生する数少ない既成のシステムだ。全帯域のタイム・コヒレント、無指向性に近い高域の拡散、そしてエネルギー・フラットを実現する再生音は自然感に満ちている。

B&W Nautilus 801

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

クラシックの録音モニターとして広く使われている同社のMatrix801シリーズの後継機となる最新モデルだが、今回は大幅な変更を受けて801という型番が不自然なほどである。作りも音も充実した力作である。従来の801にあった甘さと繊細さは姿を変え、より精緻な解像力を持ちスケールもいちだんと大きくなった。

カーマ Ceramique 2.0

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オランダの製品で、この2.0は現在本邦に輸入販売されているCeramiqueシリーズのミドルクラス機である。このシリーズはセラティック・コーンを使っているのが特徴で、音は精緻である。本機は13cmのセラティック・コーンを3ウェイの中域用に使ったものだ。

ソナス・ファベール Guarneri Homage

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

このイタリアのメーカーは、まさに工房と呼ぶに相応しい。特にヴァイオリンの名工の名前が付けられたオマージュ・シリーズは同社を主宰するフランコ・セルブリンの思い入れが作らせた入魂の作品。気の遠くなるような入念な手仕事によるエンクロージュアは芸術品だ。音は明晰かつ豊潤で音楽が生き生きと躍動する。

アクースティック・ラボ Stella Opus (Lacquer)

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ボレロ・シリーズの馴染みの深いスイスのメーカーの最新製品である。同シリーズは今年、全面的にステラ・シリーズに入れ代わったが、これはその上級機種である。従来のボレロ・グランデに相当するものだ。美しいエンクロージュアとチューニングの巧みなバランスの音がさらに洗練され、いっそうの特性向上が感じられる。

BOSE 901WB

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

前面に1基、背面に8基のユニットを持つ、この901シリーズこそ、BOSEスピーカーシステムの基本的コンセプトが体現されたモデルであり、今も創業以来、ユニットの改良を重ねて常にトップモデルとして存在させているのは立派である。このWBは美しい仕上げのシリーズ最高のモデルである。実にユニークで素晴らしい。

タンノイ Turnberry/HE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

プレスティッジ・シリーズの中では手頃な価格の製品だが、100リッターの内容積を持つ。天然無垢材によるクラシックで上質のエンクロージュアはディストリビューテッドポート型である。25cmデュアル・コンセントリック内蔵の本機はスターリングの系譜である。

ソナス・ファベール Concerto

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伊ソナス・ファベール社は工芸的とも言える上質のシステムを作るメーカーだが、これはその中では普及型のブックシェルフ機である。とは言え、やはりエンクロージュアはウォールナットの無垢材で皮張りの本体を両サイドから挟み込んだ手の込んだものであり美しい。ぴりっとしたエッジとグラマラスな中低域が魅力だ。

ダリ Evidence 470

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

デンマークのダリの代表機種と言ってよいポジションにあるトールボーイ型の新製品。このメーカーらしいバランスのよさが特徴であるが、これは質も高い。ブックシェルフ並みの床の専有面積ながらトールボーイの利点を生かし、音のスケール感は大きいし、このタイプにあるこもりがちな不明瞭さはなく、解像力もいい。

ダリ Menuet Royal 2

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

’95年発売のデンマークの製品でコンパクト・ブックシェルフ型の傑作と言っていい。メヌエットの上級機で良質のチェリーのつき板張りのエンクロージュアは品位が高いし仕上げも上質である。11cm口径ウーファーはポリプロピレン製で、トゥイーターはソフトドーム型。小型スピーカーの生命であるバランスが絶妙だ。

BOSE 314

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

20cm口径のウーファーをベースにした3ウェイ3ユニット構成のスピーカーシステム。同社の214をスケールアップしたもので、ボーズ独自のステレオ・ターゲッティング・トゥイーターは、指向性可変のダイレクト・リフレクティング方式で臨場感の豊かな再生を聴かせる。

ビクター SX-500DE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オブリ型ドームをトゥイーターに採用し、20cm口径ウーファーとの2ウェイでまとめられた中型のブックシェルフシステム。この大きさとしては異例のワイドレンジ感と情緒的な音の魅力を兼ね備えるものだ。500シリーズ初のバスレフ・エンクロージュアのチューニングが成功している。

BOSE AM-5III

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

サテライトスピーカー+アクースティマス・ベースボックスというボーズ独自のシステムは常に進化している。これは’98年発売のものでサテライト部が音質的に向上し、より豊かな再生を可能にした。置場所に限界のある6畳以下のスへースで威力を発揮するが、かなり広い部屋でも外見から信じられないほどのスケール感の大きな再生が可能。

CSE A-3000

菅野沖彦

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「SPUND SCOPE」より

 オーディオの周辺機器には様々なものがあって、にわかには、どれを信じていいやらと惑わされることが多い。「君子危うきに近寄らず」ではないが、日頃はできるだけ、そうした自分に明確に判断できないものは避けている。とはいえ、何かのチャンスで使ってみて、わずかでも効果があると無視できないのが、この道に狂ったものの人情であろう。音というものは、瞬間、直感、実感しかない抽象の世界だからである。
 じつは最近、珍しいものに出会った。スピーカーの周囲の空気をマイナスイオン化することで音がよくなるという、信じていいのやら悪いのやら……、つまり僕の知識では、その動作原理は理解困難なものなのだが、しかし、文字通り、論より証拠、機会が与えられたので聴いてみることにした次第。
 それが、ここにご紹介するCSEのA3000というトゥイーターシステムである。わが家でも本誌試聴室でも、これをつなぐとたしかに音が澄んで、魅力的になるのを体験してしまった! これを実際に体感した以上、否定するわけにはいかない。
 無論、なにかをすれば音は変る。問題はよく変るか、悪く変るかの判断である。
 トゥイーターは最近輸入されたスイス製の「エルゴ/AMT」というヘッドフォンが採用しているものと同じハイルドライバーを搭載。トゥイーターとしては、メインスピーカーにあえばいいユニットだと思う。僕の家ではJBL/075にパラレルにつないで実験したのだが、再生帯域15kHz〜30kHzをもつこのユニットは、うまくつながった。しかし、それは別にどうということはない。ただたんに、「いいトゥイーターがあらたに一つ見つかった」というだけのことで、マジックはないのである。
 問題は、これが音声信号に同期してその発生量を変化させるマイナスイオン発生器をもっていることだ。かつてない代物である。つまり、ポイントはマイナスイオン化によって音がよくなるという現象の真偽である。そこでトゥイーターの接続をはずして、イオン発生器だけを動作させて音を聴いてみたのだが、これがいいのである! 音が明らかに、独特の柔らかさ、滑らかさ、清々しさに変って聴こえるのだ。
「スピーカー周辺の空気をマイナスイオン化することの効果である!」と、開発者である、クリーン電源システムでおなじみのCSEの真壁社長はいわれるのだが、そんなものであろうか? さらに、「振動板の微小振動を妨げている原因は、振動板周辺の空気の粘性にある。その空気をマイナスイオン化すれば、粘性が低減して微小振動が生かされる」のだそうだが、理論的な証明はまだできないともいわれるのだ。
 したがって、商品としてはトゥイーターシステムとして発売されるのであろうが、しかし、マイナスイオン化による効果を経験すると、音声信号同期式の「マイナスイオン発生器」単体で少しでも安く発売されるほうが有り難いと、私は思うのだが……。

ソニー MDR-R10

菅野沖彦

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 環境さえ許されるのならヘッドフォンを常用することは薦めない。ヘッドフォン・ステレオは、スピーカーによる空間を介在させて聴く自然さに欠けるからである。そのかわり、室内空間が持つ固有の音響現象による悪影響がない利点がある。私がヘッドフォンを使うのは、条件が限られた録音のモニターとしてか、スピーカーの置かれた室内の音響条件の影響を回避して、プログラムソースそのもののバランスをトータルにマクロ的に確認したい時である。そうは言っても、譬えスピーカーシステムよりヘッドフォンのほうがバランスのいいものが多いとしても、何でもいいわけではない。ある意味では、限られたサイズと、音源が鼓膜から至近距離にあるという特殊な条件のもとでバランスを取るということには、設計製造上、また別の難しさがある。肉体に直接密着させるものだけに、スピーカーとは違う配慮も必要である。スピーカーのコーンやダイアフラムと呼ばれる振動体には、材質の持つスティフネスやロス、そして比重といったような固有の物性が、音の質感にデリケートだが重要な影響として現われることがよく知られているが、ヘッドフォンについても例外ではない。いや、むしろ耳もとで振動するものであるだけに、より敏感に音のタッチ、風合いといった質感が感知されると言ってもいいだろう。
 こうしたことにこだわり抜いて作られたのが、このソニーのMDR-R10という高級かつ高価格のヘッドフォンである。バイオセルロースの振動膜、響きがよくて軽量な、樹齢200年以上の樫材のハウジングを使うという徹底ぶりだが、価格が3300種近くある同種製品中の最高のものであろうと思われる。発売以来10年以上経つと思うが、その音質の良さとバランスの良さは抜群であり、物としても作り手の気概が感じられるヘッドフォンの逸品である。

ビクター SX-V1X

菅野沖彦

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 このビクターの小型スピーカーシステムSX−V1Xは、長年の日本製スピーカーシステム特有の弱点を払拭しただけではなく、日本製であるアイデンティティと美徳を備えた傑作であると思う。変換器としての物理特性や、物としての作り、仕上げの高さにおいて国際レベルでの一級品の技術水準を達成しているだけではなく、音楽を奏でる音として、心のひだに浸透する「響き」を持っているのである。そして、この日本製ならではの風情を感じさせる音の純粋さやデリカシーが、海外製品にはない魅力なのである。しかも、これがわれわれが聴く西欧の音楽表現に違和感を感じさせることなく、発音に新鮮で美しい感覚を与えるというところが素晴らしい。
 では、その日本製特有の弱点とは何か? それは、わが国のオーディオ技術が一世紀もの長きに渡り、外来の理論技術の学習を基礎に発展してきたことをバックグラウンドにもつ宿命がもたらしていた、物理特性偏重姿勢による手軸足棚と言ってもいいものだと私は考えている。それは、真面目で勤勉な国民性と、西欧への憧れは強くても、残念ながら、一人一人の血となり肉となり得ていなかった社会の文化性が要因として考えられるのではないだろうか。この20年間に、オーディオの技術水準では欧米を追い越すまでになったわが国だが、より忠実な音を再生するという技術の進歩発展の過程にあっては、さして問題にならなかったことでも、オーディオ文化が成熟し、スピーカーによる再生音が音楽表現の芸術性や美の対象としての観点から論じられるようにまでなった今日では、より人の感性が評価する「音質」が重要視されるようになった。日本製オーディオ機器の輸出の実態から見ても、国際的に高く評価されているエレクト三クス機器は多いが、スピーカーシステムだけはふるわない。多くの伝統芸術、工芸の水準の高さは世界的であり、料理の世界では日本料理はもちろんのこと、西欧の料理でさえ、世界のグルメを驚歎させる水準にある日本人の感性が、なぜ世界的に評価されるスピーカーシステムを作り得なかったかは、私の長年の疑問であった。このスピーカーシステムはそのブレークスルーの可能性を感じさせてくれた。
 オーディオ機器全般に言える大事なことだが、特にスピーカーシステムには作る人の情熱と感性が絶対に不可欠だ。しかし、工業製品であるからには、これを製品化し得る企業の理解と力のバックアップもまた重要である。この製品が14・5cm口径ウーファーの2ウェイ小型システムであるということは、多くの人が広く良質のオーディオ再生音の素晴らしさを知ることに役立つという意味でも大きい。なお、専用スタンドは、音と美観の両面からも必要である。

インフィニティ Kappa 8.2i

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 最近では、小型ブックシェルフはもちろん、比較的にコンパクトなトールボーイ型システムもヴァラエティ豊かに品揃えされるようになり、小型システムからいかに豊かな低音再生を可能にするかという、スピーカーシステムの理想像は具現したかのようにも思われる。いっぽうで、大口径ウーファーを採用した、十分にキャビティのあるフロアー型システムならではの、余裕があり、かつセンシティヴな音の魅力は、いささかも色越せていない。このあたりは、大変に興味深いことだ。
 いわゆるフロアー型ならではの音の魅力は、平均的な音量以下で、豊かでストレスフリーの低音と音場感が楽しめることにあるようだ。つまり、小音量で豊かな低音を楽しむためには、ある程度大きなサイズのフロアー型システムが必須であることになる。住宅環境を考慮すれば、これは相当に贅沢なことでもあるようで、このあたりにコダわるのが趣味なのかもしれない。
 実際の有無は別にして、存在して欲しいフロアー型システムの具体像を考えてみる。
 ウーファーの口径による音色、音質、固有のキャラクターを考えれば、ややエネルギーバランス的には中低域寄りの音にはなりやすいが、やはり30cmウーファーは必要不可欠であろう。
 システム構成は、エネルギーバランスや指向特性から考えれば、2ウェイ型独特の個性を求めないかぎり、3ウェイ方式は最少のユニット構成であり、家庭用を考慮すれば、中域以上のユニットはコーン型もしくはドーム型となるであろう。
 エンクロージュアは、聴盛上のSN比を重視すれば密閉型に優位性があるが、雰囲気のよい、豊かで柔らかく、しなやかな音が好まれる現在の傾向では、バスレフ型を採用するのがベターに思われてくる。
 さて、以上を最低条件として、しかも、リーズナブルな価格のフロアー型システムを、現実に国内で市販されている製品から選んでみたら、どのようになるのであろう。
 必ずしも知名度の高いブランドにコダわることはないが、製品の信頼性、安定度、バラツキのなさ、アフターサービスなどを加味すれば、しかるべきブランドの製品になるのは当然の帰結というところだろう。
 このように必要な条件を設定していったときにクローズアップされるのが、インフィニティのカッパ・シリーズ(現行はiヴァージョン)である。
 現在、カッパ・シリーズには6・2i/7・2i/8・2i/0・2iの4モデルがラインナップされており、30cmウーファー採用の条件をつければ、8・2iと9・2iの2モデルになる。もしも、リスニングルームの空間にタップリと余裕があれば、ダブルウーファー採用の9・2iに多くの可能性と魅力があるが、平均的な使用では、シンプルな構成の8・2iになるであろう。
 カッパ・シリーズは、前シリーズ以来の同社中堅シリーズとして定評があり、多くのファンに愛用された実績の高さは抜群のものがある。とくに、8・2iと9・2iは、ウーファー同様のIMGコーンを使う中低域ユニットを含む4ウェイ構成のシステムで、独特なポリドーム型中高域と、同社が誇るEMIT採用の高域が、絶妙なバランスを保ってシステムアップされている。
 エンクロージュアはリアルウッドを使う偏平なタイプのバスレフ型。これは密閉型だった従来のカッパ・シリーズから変更された部分である。リアバッフル部分には、中高域と高域の連続可変レベル調整があり、それによる変化はおだやかでありながら、かなりの幅でサウンドバランスを調節ができるという、使い易さに優れた点にも注目してほしい。
 さらに、低域のレベルを上げるLCチューニングスイッチも付属しているので、4バンド・グラフィックイコライザー的なコントロールが容易にできる。
 スピーカー端子はバイワイア一対応型の4端子構成で、クォリティを重視するなら、バイワイア一便用が望ましい。ただし、安定度の高いシステムだけに、通常のシングルワイア一便用でも、音の姿・形を巧みに聴かせ、音楽的に十分に納得のいく高いレベルで楽しめるのは見事である。
 8・2iは、柔らかく豊かで、ほどよくパワー感のある低域をベースとした、スムーズでナチュラルな中域と、繊細感のあるクリアーで反応が速い高域が巧みにバランスした素晴らしい音が聴かれる。しかも、この音をベースに相当な幅でコントロール可能であるので、手軽に使って楽しめると同時に、しかるべき調整能力がある人であれば、かなり高度な再生能力をもつシステムにチューンアップできる。実に素晴らしい傑作だ。

テクニクス SB-M1000

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 SB−M1000は、密閉型とバスレフ型の特徴を兼備するといわれる独自のケルトン方式を活かすためのデュアル・ダイナミック・ドライブ(DDD)方式の低域と、パルプとマイカを混ぜた中低域と中高域、超高域再生に最適と言われるスーパーグラファイト・ドーム型を組み合せた4ウェイ構成のトールボーイ・フロアー型システム。
 シリーズ製品には、MK2化されたSB300M2と500M2をはじめ、小型のSB−M01、トップモデルのSB−M1000がラインナップされている。
 DDD方式は、内部に駆動用コーン型ユニットがあり、これによりパッシブラジェーターを駆動して低域を再生するイン・ダイレクト型のシステムがベースで、これに駆動用ユニットの振動板の反作用でコーンと逆方向に向く力を打ち消す目的で、背面に向かってさらに1組の同じシステムを組み合せ、エンクロージュアの前後方向に低域を放射する方式である。
 SB−M1000では、18cmパッシブラジェーター4個と14cm駆動用ウーファー4個がベースで、これに中低域14cmコーン型、中高域8cmコーン型、高域に2・5cmドーム型を採用した4ウェイ7スピーカー(4パッシブラジェ−ター)スシテムである。
 本機では、DDD方式は90Hz以下を受け持つサブウーファー的な使用方法で、データ的には問題はないが、ヒアリングチェックをすると低域にある種のディレイタイムが感じられ、量感タップリの柔らかい低音の魅力は十分にあるが、反応が穏やかで、スピード感や躍動感に少々気になる点があった。単純音での聴覚データでは問題はなくても、音楽再生をすると違和感が生じるのは、デジタル用光ファイバーの切断面の精度による聴感上での音の違いなどと同様に、音楽を再生する機器ならではのデータと感覚の不一致で、これは昔から厳然として存在し、将来も永遠に続く解決しなければならない重要なテーマである。
 SB−M1000の特徴が活かされ、この方式のメリットが感じられたのは、昨年の新製品であるプリアンプSU−C3000とパワーアンプSE−A3000を組み合せて聴いたときのことである。
 CDトランスポートのサスペンションによる固有振動が、ある種の音の遅れ(ディレイタイム)を感じさせることに似て、常に遅れが気になった本機の低音が、豊かで柔らかい見事な低音として聴かれたのである。簡単に言えば、駆動するパワーアンプのドライブ能力によって低音域が大幅に変ることはバスレフ型でも往々にしてあるが、駆動アンプの性能向上がDDD方式のデメリットを殺し、メリットを活かした好例のようである。この組合せは再度試みたが、結果は変らず、SB−M1000の魅力を再発見した楽しい体験であった。

ビクター SX-V7

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 SX−V7は、伝統的なHMV」の名が付けられたSX−V1系の上級機種に位置付けされるトールボーイ型スピーカーシステムで、昨年の新製品では高級トールボーイ型として国内製品中で唯一無二の存在であったSX9000のベースモデルとも考えられるシステムである。
 このモデルの魅力は、独クルトミューラー製コーン採用のウーファーと、絹ソフトドーム型トゥイーターで2ウェイ構成とした、同社スピーカーシステム中で最高のベストセラーモデルとして知られるSX3の技術と伝統を現在に伝えた開発構想にある。
 継続は力、という表現があるが、伝統を維持することは、いずれのジャンルでも至難なことと考えるが、基本構造は1920年代から変っていないスピーカーは、エレクトロニクスと比較すれば、伝統を継承する上では有利ではあるが、少なくとも、伝統を受け継ぎながら今日のスピーカー技術を加え、現代のスピーカーシステムとして開花させたこの成果は、スピーカーファンには注目していただきたいことといえる。
 ユニット構成は、独クルトミューラー製パルプコーンウーファーと、絹の羽二重を使った中域と高域のソフトドーム型ユニットによる3ウェイ。HMVの超高級手巻き蓄音機の筐体にも使われていたマホガニー材を採用し、樹脂含浸処理をしたテーパー形状エンクロージュアは、フラッシュサーフユイス仕上げで、高級家具的フィニッシュが美しい。
 低/中/高域各ユニットの磁気回路は、ビクター独自の音質、音色面でのコダわりからツボ型アルニコ磁石を採用。非常にヴァラエティ豊かな開発で活気づく海外のスピーカーシステムでも、アルニコ磁石採用のモデルは皆無に等しいであろう。
 磁気回路の磁石と音の傾向との関連については古くから語られているが、振動板の反動を受ける磁気回路の固有音は、振動板自体の音をS(音楽信号)とすればN(ノイズ)となり、この関係は、聴感上でのSN比に相当するため、ユニットのオーバーオールの性能、音質、音色、音場感などと複雑に絡む、非常に重要な要素である。とくに、扱う周波数が高くなると、磁気回路材料の固有音が大きく音に影響を与える傾向があるようだ。
 エンクロージュアは、データをベースに、経験量を加えた各社各様の開発が見られる興味深いところだ。本機の内部構造は類例のない機械的チューニングが行なわれているよようで、 マホガニー材と砲金の組合せで良い音を目指したHMVの伝統が感じられる。このシステムの、重厚さ、渋さ、しなやかさ、柔らかさ、豊かさが、ほどよい力感に支えられて聴かれるオーディオならではの醍醐味のある音には、海外製品には求められない濃やかな気配りが感じられる。

B&W Nautilus 805

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 ご存じのように、小型2ウェイ機マトリク805Vをボトムとし、おもにクラシック系録音スタジオのリファレンスモニターシステムとして知られるマトリクス801S3を頂点に置く「マトリクス」シリーズが、B&Wを象徴するスピーカー・シリーズとして有名である。
 昨年、このシリーズが、これまでのスピーカーデザインの概念を超えた、音響的構造体そのものが、未来型のフォルムをもつ造形的作品になったとも受け取れる「ノーチラス」での成果とコンバインされ、「ノーチラス800」という新シリーズに置き換えられた。
 ノーチラス805は、従来のマトリクス805Vの後継モデルで、シリーズ中でもっとも小型なシステムである。
 ユニット構成が、16・5cmケブラーコーン型ウーファーと2・5cmハードドーム型トゥイーターの組合せというモデルは、B&Wには現在、CDM1SE、CDM2SE、DM601の3機種がある。さらにはウーファー口径を18cmにサイズアップしたDM602や、価格は大幅に異なるが同社25周年を記念したSS25も、同じカテゴリーに入れられるシステムである。
 以上のように、使用ユニットは同等もしくは近似してはいるが、価格的に、DM601のペア5万円からSS25のペア130万円まで、大きな格差がある製品造りは、ウーファー口径の大小やエンクロージュアの外形寸法/重量などの違いを基準として、性能・音質・価格などが決定される一般的なシリーズ展開とは完全に異なっている。外形寸法/重量/ユニット構成などの外観的要素は同等ではあるが、内容の違いによってグレード分けをするという、量的な差ではなく質的な差がグレードを決定する、いかにも趣味のオーディオにふさわしいラインナップと言えるだろう。
 マトリクス805Vは、キュービックなエンクロージュアの天板部分に独立したトゥイーターを取り付ける、SS25の設計であった。新しいノーチラス805は、新シリーズ共通の積層合板を馬蹄型に成形した、一般のエンクロージュアでは側板と裏板に相当する1ピースの材料の前に
バッフルを取り付け、上下を蓋でカバーする巨大なリア・ラウンド形状の低域エンクロージュアを採用する。さらに、高域ハウジングは、高域ユニットの背面を密閉構造とせず、逆テーパー状の開放管を介して空気中に導く「ノーテラス構造」とし、かつ、特殊な放射線処理で加工された、制振作用がありながら材料自体の固有の鳴きがない形状記憶性を備えたクッション材で、低域エンクロージュアとフローティングマウントしている。こうしたユニークなエンクロージュア構成が、従来のスピーカーシステムとは一線を画した本機の類稀な特徴であろう。
 低域ユニットには、センターポール上に、コーン各部から放射される音をコントロールして中高域〜高域の特性を改善するイコライザーが組み込まれている。これによるレスポンス特性の向上は、クロスオーバー特性のコントロールに余裕を生み、いちだんと好ましいクロスオーバー特性が得られる利点は大きな意義を持つ。
 機械的なフローティング構造と、バックプレッシャーを抜きながら巧みに減衰させる逆テーパー状パイプの相乗効果により、低域振動による変調がかかるために生じる高域の混濁感がなく、さらに、バックプレッシャーを除去し減衰させる構造は、伸びやかで反応が速く、固有音の少ないストレスフリーな高域が得られるようだ。メタルドーム的な硬質さが非常に少ないのは、この構造独自のメリットであろう。
 一方、独特なバック・ラウンド形状とでも言うべきエンクロージュア構造は、エンクロージュアのコーナー部分で生じる不要輻射が本質的に存在せず、エンクロージュア表面からの2次輻射が滑らかに均質にラジエーションをするために、ナチュラルな音場感と音像定位が得られるメリットがある。聴取位置に対するスピーカーシステムの水平面での角度を微調整すれば、かなり空間的な音場感再現性をコントロールできる、素晴らしい特徴を備えているのである。
 さらに、一般のキュービックなエンクロージュアと比較すれば、内部定在波のコントロールにも有利で、独自のマトリクス構造との相乗効果による音質向上は、予測を超えた成果があるように思われる。
 本機の音は、ノーチラス801をスタジオモニターとすれば、同系統のコンパクトモニター的性質があり、同802/803が持つコンシューマー的な音の姿・形とは完全に異なったキャラクターである。内容が充実し、完成度が高いだけに、簡単に使ってもそれらしくは鳴ってくれるが、本腰を入れて取り組まなければベストサウンドへの道は険しい。

ピエガ P2

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「TESTREPORT ’99 話題の新製品を聴く」より

 ピエガは、’84年にLDR型トゥイーターを開発したレオ・グレイヤーとカート・シュークによって’86年にスイスのチューリッヒで設立されたオーディオメーカーである。ピエガとは伊語でカーテンのひだという意味で、リボンの形状やアナログ波形をイメージしたもののようだ。LDR型トゥイーターは、超微振動/最高のインパルス特性/超広帯域/ナチュラルな減衰特性/高感度/低歪みなどを特徴としており、また、ウーファーユニットは、前記の特徴を持つLLDR型ユニットにふさわしい他社製品を選別しているという。
 新しく輸入発売されたモデルは、バスレフ型のP2/P3と密閉型のP5である。今回試聴したP2は、18cm口径の低域ユニットとLDR型トゥイーターを組み合せた2ウェイスピーカーシステム。専用スタンドは用意されておらず、試聴にはターゲットオーディオ社製R2スタンドを使用した。
 リボン型トゥイーターとコーン型ウーファーの組合せは、音色的、音質的に大変難しいものであるが、さすがにLDR型を独自に開発しただけに、P2は見事にコントロールされた広帯域型で、ディフィニションがすぐれ、爽やかに伸びきったすばらしいレスポンスを聴かせる。基盤になる低域は組み合せたR2スタンドが大変見事なバックアップを示し、ほどよくソリッドで小口径とは思えないスケール感と伸びと安定感がある低音で、聴いていて楽しい。ユニット間のつながりは違和感がなく、たくみにコントロールされていて音色的にも音質的にも見事なまとまりを聴かせる。聴きこめば、クロスオーバー周波数付近は少々薄めである。しかしこの薄さは絶妙で、システム設計におけるノウハウといえよう。
 音はダイミックによく鳴り、響きあい、スケール感も豊かで、大型システム的な余裕があるので楽しく、またこの透明感のある音は小気味よい。

JBLテクノロジーの変遷

井上卓也

JBLモニタースピーカー研究(ステレオサウンド別冊・1998年春発行)
「伝統と革新 JBLテクノロジーの変遷」より

 1946年の創業以来50年以上にわたり、JBLはオーディオ界の第一線で活躍してきた驚異のブランドである。この長きにわたる活躍は、高い技術力なくしては不可能であろう。創業者ジェームズ・バロー・ランシングの設計による卓越した性能のスピーカーユニットは、オーディオ・テクノロジーのいわば源となったウェスタン・エレクトリックの流れをくんだもので、現在にいたるまで、内外のスピーカーに多大な影響を与えた偉大なるユニット群であった。それに加え、エンクロージュア、ネットワークなどを含めた、システムづくりの技術力の高さもJBLの発展を支えてきたといえる。この伝統のうえに立ち、さらに時代とともに技術革新を行なってきたからこそ第一線で活躍できたのであろう。
 ここではJBLのテクノロジーの変遷を、モニター機を中心にたどっていくことにしたい。

コンプレッションドライバー
 それでは、スピーカーユニット/エンクロージュア/クロスオーバー・ネットワークの順でテクノロジーの変遷をたどっていくことにしよう。
 まずユニットであるが、最初はコンプレッションドライバーから。コンプレッションドライバーは、プレッシャードライバー/ホーンドライバーなどとも呼ばれ、振動板に空気制動がかかるようにして振幅を抑え、ホーンにとりつけて使用するユニットのことである。
 コンプレッションドライバーは、振動板(ダイアフラム)の後ろをバックカバーで覆うことで小さなチャンバーをつくり、また振動板前面にはイコライザー(フェイズプラグ)と呼ぶ、一種の圧縮(コンプレッション)経路を設けるのが一般的で、JBLもその例外ではなく、むしろこの形態をつくりだしたのがウェスタン~ランシングなのである。
 さて、JBL最初のコンプレッションドライバーは175の型番を持つモデルで、ダイアフラム径は1・75インチ(44mm)、その素材はアルミ系金属、そしてホーンとの連結部であるスロート開口径は1インチ(25mm)のもの。周知のことであるが、J・B・ランシングはJBL創業前は、アルテック・ランシング社に在籍しており、アルテックでも数多くのユニットを設計している。アルテックには、ランシングが設計した802という175相当のモデルがあるが、この両者を比べてみるとじつに面白い。すなわち、ダイアフラムのエッジ(サラウンド)はタンジュンシヤルエッジといって、円周方向斜めに山谷を設けた構造になっているのは両者共通だが、そのタンジュンシヤルの向きがアルテックとJBLでは逆、ボイスコイルの引き出し線はアルテックは振動板の後側(ダイアフラムがふくらんでいる方向)に出しているのにたいしJBLは前側、そして、極性もアルテックが正相にたいしてJBLは逆相……というように基本設計は同じでも変えられるところはすべてアルテックと変えたところが、JBLの特徴としてまず挙げられる。
 これらは目で見てすぐわかる部分だが、設計上非常に大きく違うのが、ボイスコイルが納まるフェイジングプラグとトッププレートの間隙、つまり磁気ギャップの部分がJBLのほうが狭いということと、磁気回路がより強力になっているということだ。アルテックは業務用途を主とし、ダイアフラム交換を容易にするためギャップを広くとっているのだが、JBLはその部分の精度を上げ、より高域を伸ばす設計に変えたのである。また磁気回路の強力化は、より高感度を求めたものと考えられる。
 この磁気回路を強力にするというのもJBLの大きな特徴で、175をさらに強力にした275、そしてLE85を開発していくことになる。この磁気回路の強力化は高感度化と、後述するホーンの話につながるのだが、磁気制動をかけて、空気の制動が少ない状態でも充分に鳴らせることにつながってくる。
 175~275~LE85は、1インチスロートであるが、4インチ・アルミ系金属ダイアフラム、2インチスロートという大型のコンプレッションドライバーが、有名な375である。375は磁束密度が2万ガウス以上という極めて強力なユニットで、ダイアフラムのエッジはロールエッジである。これらJBLのコンプレッションドライバーはすべてアルニコ磁石を用いており、このアルニコ磁石の積極的な導入は、J・B・ランシングの設計上のポイントでもあったようだ。
 ここまでが、JBLのスタジオモニター開発以前の話である。しかし1971年に登場した4320に搭載されたコンプレッションドライバー2420は、LE85のプロヴァージョンであり、事実上、同じモデルとみなせるものだ。したがってモニタースピーカー登場後しばらくは、これらランシング時代からのドライバーを用いていたのである。しかし、’80年代に入り、変革がおとずれる。それはまず、ダイアフラムのエッジ部分から始まった。それまでのタンジュンシャルエッジ/ロールエッジから、ダイアモンドエッジと呼ばれる、4角錐を組み合せた複雑な形状のものに変化したのである。これは高域特性の向上を目指した改良ということである。
 つぎなる変革は磁性体の変化である。これはウーファーなどコーン型ユニットが先行していたが、アルニコの原料であるコバルトの高騰により、フェライト磁石に移行したのだ。アルニコからフェライトに変れば、当然素材自体の鳴きも変り、磁気回路そのものも変化するためかなりの設計変更が必要となるが、高域ユニットでは低域ユニットに比べ比較的スムーズに移行できたようだ。磁性体材料ではもうひとつ、ネオジウム磁石への変革がある。これはアルニコからフェライトのように全面的な移行ではなく、現在でも限られたユニットだけにネオジウムを搭載しているが、軽量化と高感度/高駆動力を両立させる手法であろう。ユニットが軽量になれば慣性が減るため、より音の止まりが速くなる効果が期待できる。
 ダイアフラムに話を戻すと、アルミからチタンへの変更が’80年代に行なわれた。チタンは音速の速い物質であり、物性値の向上という意味で、技術的に魅力ある素材である。しかし、チタンの固有音のコントロールには苦労したあとがみられ、4インチ振動板モデルでいうと、最初にチタンを搭載した2445ではダイアフラムの頂点に小さな貼り物をしたり、つぎの2450ではリブ(これは軽量化と強度を両立させるためのものでもあったが)を入れたり、475Ndでは一種のダンピング材であるアクアプラスを塗布したりして、現在では固有音を感じさせない見事なコントロールが行なわれているようである。
 イコライザーにも変化があった。当初は環状(同心円状)スリットの、経路が直線で構成されるものであったが、2450/475Ndには、経路が曲線で形成されるサーペンタインと呼ばれる形状が採用されている。この形状にすることで、ダイアフラムの真ん中とその周辺での音の時間差をコントロールして、より自然な音をねらったものと思われる。
 コンプレッションドライバーから発展したものとして、075に代表されるリングラジエーターというホーントゥイーターがある。これはコンプレッションドライバーのダイアフラムをドーナツ型にしたようなもので、リング型の放射部分にあるダイアフラムの裏側に、ちょうどボイスコイルがくるようにして(ボイスコイルの部分がもっとも高城のレスポンスがいいため)、耐入力と高域特性の向上の両立を図ったものだ。モニター機にはもっばら2405が使われたが、基本的には075をベースにイコライザー部分を変えて、高域を伸ばしたものであり、この基本部分を同じくして各種のヴァリエーションをつくるというのも、JBLの大きな特徴である。モニター機では低音が比較的伸びたウーファーを使用するため、バランス上、075では高域が足らず、2405を使ったと思われるが、この低域と高域のレスポンスのバランスはオーディオで非常に大事なことである。なお、リングラジエーターと175/LE85等のボイスコイル径は同一である。

ホーン/音響レンズ
 JBLのホーンでもっとも特徴的なのはショートホーンであるということだ。通常コンプレッションドライバーは、ホーンでの空気制動を見込んで設計するのだが、先ほど述べたように、JBLのドライバーはもともと磁気制動が大きく、あまり長いホーンを必要としない。ホーンが短いメリットは、何といってもホーンの固有音を小さくできるということであるが、そのためには組み合わせるドライバーに物量を投入しなければならず、この方式の追従者は少なかった。強力な磁気ダンピングをかけるもうひとつのメリットとして、ダイアフラムが余計な動きをせず、S/Nがよくなるという点も挙げておきたい。
 しかし、いくらショートホーンといっても固有音がなくなるわけではなく、また、ウーファーと同一のバッフルにマウントしたときに発音源が奥に行き過ぎ、なおかつ平面波に近い状態で音が出てくるために、距離を感じてしまう。そこで考案されたのが音響レンズである。音響レンズによって指向性のコントロールができ、仮想の音源を前に持ってくることも可能となり、さらには、球面波に近い音をつくることが可能になった。たとえばスラントプレートタイプの音響レンズを見ると、真ん中が短く、両端が長い羽根が使われているが、こうすることによって真ん中の音は速く、端の音は遅くと極めてわずかではあるが時間差がついて音が放射されることになり、波の形状が球面になると考えられるのだ。パーフォレーテッドプレートというパンチングメタルを多数重ね合わせたタイプのレンズが、真ん中が薄く、端にいくにしたがって厚くなっているのも、同じ理由によるものと考えられる。
 モニター機にはもっぱらショートホーン+スラントプレートレンズが使われたわけだが、4430/35で突如姿を現わしたのがバイラジアルホーンである。音響レンズにはメリットがあるものの、やはりレンズ自体の固有音があり、ロスも生じる。
 また、ダイアフラムからの音はインダイレクトにしか聴けないわけであり、もう一度原点に戻って、ホーンの形状だけで音をコントロールしようとして出てきたのがバイラジアルホーンだと思う。レンズをなくすことで、ダイアフラムの音をよりダイレクトに聴けるようにして、高域感やS/Nを上げようとしたものであろう。また、通常のホーンは、高域にいくにしたがって指向性が狭くなり、軸をずれると高域がガクッと落ちるのであるが、この形状のホーンでは周波数が上がっても指向性があまり変らず、サービスエリアが広くとれるということである。現在のJBLは、このバイラジアルホーンに加え、スラントプレートタイプのホーンもつくり続けている。

コーン型/ドーム型ユニット
 コーン型ユニットに移るが、ここではウーファーに代表させて話を進めていく。ウーファーの磁気回路の変遷は、コンプレッションドライバーとほぼ同様だが、しかしフェライトへの移行に際し、JBLではウーファー用にSFGという回路を開発し、低歪化にも成功したのである。また、マグネットは過大入力によって磁力が低下(滅磁)する現象が起きることがあり、アルニコのひとつのウイークポイントであったのだが、フェライトには減磁に強いという性格があり、モニタースピーカーのように大パワーで鳴らされるケースでは、ひとつのメリットになると考えられる。
 JBLのウーファーは軽いコーンに強力な磁気回路を組み合わせた高感度の130Aからスタートしたが、最初の変革は1960年ごろに登場したLE15Aでもたらされたと考えられる。LE15Aは磁気回路が130系と異なっているのも特徴であるが、それよりも大きいことは、コーン紙にコルグーションを入れたことである。コルゲーションコーン自体は、その前のD123で始まっているのだが、ウーファーではLE15が初めてで、特性と音質のバランスのとれた画期的な形状であった。ただし、130系に比べてコーンの質量が重くなったため(これはコルゲーションの問題というよりも振動系全体の設計によるもの)感度は低下した。現在でも全世界的に大口径コーン型ユニットの大多数はコルゲーションコーンを持ち、その形状もJBLに近似していることからも、いかに優れたものであったかがわかる。またLE15ではロール型エッジを採用して振幅を大きく取れる構造とし、低域特性を良くしているのも特徴である。
 モニターシステム第一号機の4320には、LE15Aのプロヴァージョン2215が使われたが、以後は、130系の磁気回路にLE15系の振動系を持ったウーファーが使いつづけられていくことになる。また、ボイスコイルの幅が磁気ギャップのプレート厚よりも広いために振幅が稼げる、いわゆるロングボイスコイル方式のウーファーをほとんどのモニター機では採用している。特筆すべきは、ことモニター機に使われた15インチウーファーに関していえば、4344まで130系のフレーム構造が継承されたことで(4344MkIIでようやく変化した)、JBLの特質がよく表われた事象といえよう。
 ロールエッジの材料はLE15の初期にはランサロイというものが使われていたが、ウレタンエッジに変更され、以後連綿とウレタンが使われつづけている。ただし、同じウレタンでも改良が行なわれつづけているようである。スピーカーというものは振動板からだけ音が出るわけではなく、あらゆるところから音が発生し、とくにエッジの総面積は広く、その材質・形状は予想以上に音質に影響することは覚えておきたい。
 コーン紙にはさらにアクアプラストリートメントを施して固有音のコントロールを行なっているのもJBLの特徴である。ただしそのベースとなる素材は、一貫してパルプを使用している。
 S9500/M9500では14インチのウーファー1400Ndが使われたが、これはネオジウム磁石を用い、独自のクーリングシステムを持った、新世代ユニットと呼ぶにふさわしいものであった。またこのユニットは、それまでの逆相ユニットから正相ユニットに変ったこともJBLサウンドの変化に大きく関係している。
 なお、モニター機に搭載されたユニットのなかで、最初にフェライト磁石を採用したのは、コーン型トゥイーターのLE25であるが、SFG回路開発以前のことであり、以後のトゥイーターにも、振幅が小さいためにSFGは採用されていない。
 ドーム型ユニットのモニター機への採用例は少ないが、メタルドームを搭載した4312系の例がある。素材はチタンがおもなものだが、途中リブ入りのものも使われ、最新の4312MkIIではプレーンな形状で、聴感上自然な音をねらつた設計となっている。

エンクロージュア
 JBLのエンクロージュアの特徴は、補強桟や隅木をあまり使わずに、まずは側板/天板/底板の接着を強固にして箱の強度を上げていることが挙げられる。材質はおもにパーティクルボードで、ほとんどが、バスレフ型。バスレフポートは当初はかなり簡易型の設計であった。これは、とくにスタジオモニターの場合、設置条件が非常にまちまちであり、厳密な計算で設計をしても現実には反映されにくいため、聴感を重視した結果であろう。
 エンクロージュアのプロポーションは、比較的奥行きが浅いタイプであるが、一般的に奥行きの浅いエンクロージュアのほうが、反応の速い音が得られるために、こうしたプロポーションを採用しているものと思われる。
 時代とともにエンクロージュアの強度は上がっていき、いわゆるクォリティ指向になっていく。材質は最近MDFを使うようになったが、これはバラツキが少なく、かなり強度のある素材である。JBLがMDFを採用したのには、システムの極性が正相になったことも関係しているだろう。すなわち、逆相システムはエッジのクッキリした音になりやすく、正相システムはナチュラルだが穏やかな音になりやすいため、MDFの明るく張った響きを利用して、正相ながらもそれまでのJBLトーンとの一貫性を持たせたのではないかと推察される。モニタースピーカーは音の基準となるものであるから、この正相システムへの変化は重要なことではあるが、コンシューマーに限れば、どちらでもお好きな音で楽しめばよいように思う。そのためにはスピーカーケーブルのプラスとマイナスを反対につなげばよいだけなのだから。
 エンクロージュアの表面仕上げも重要な問題である。JBLのモニター機は当初グレーの塗装仕上げであったが、これはいわゆるモニターライクな音になる仕上げであったが、途中から木目仕上げも登場した。木目仕上げは見た目からも家庭用にふさわしい雰囲気を持っているが、サウンド面でもモニターの峻厳な音というよりも、もう少しコンシューマー寄りの音になりやすいようだ。M9500ではエンクロージュアの余分な鳴きを止めるためにネクステル塗装が行なわれており、モニターらしい設計がなされているといえる。
 吸音材の材質/量/入れ方も音に大きく 影響するが、とくに’70年代に多用されたアメリカ製のグラスウールは、JBLサウンドの一端を大きく担っていたのである。

クロスオーバー・ネットワーク
 JBLのネットワークはもともと非常にシンプルなものであったが、年とともにコンデンサーや抵抗などのパラレル使用が増えてくる。これはフラットレスポンスをねらったものであるが、同時に、音色のコントロールも行なっているのである。たとえば、大容量コンデンサーに小容量のコンデンサーをパラレルに接続する手法を多用しているが、この程度の容量の変化は、特性的にはなんらの変化ももたらさない。しかし音色は確実に変化するのである。また、スピーカーユニットという動作時に複雑に特性が変化するものを相手にした場合、ネットワークはまず計算どおりには成り立たないもので、JBLの聴感上のチューニングのうまさが聴けるのが、このネットワークである。ネットワークの変化にともなって、音はよりスムーズで柔らかくなってきている。
 こうして非常に駆け足でテクノロジーの変遷をたどってきたわけだが、JBLがさまざまな変革を試みてきたことだけはおわかりいただけたのではないだろうか。そしてその革新にもかかわらず、JBLトーンを保ちつづけることが可能だったのは、ランシング以来の50年以上にわたる伝統があったからではないだろうか。