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JBL L65 Jubal

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧型のL101に代るべき製品だが、低音はより明るく弾み、しかも高音は格段にレインジが拡張され、従来のJBLからみると別もののように繊細な高音を聴かせる。したがってクラシックのオーケストラものでも、一応こなせるようになった。L101と比べると、中音の品位は少し落ちるのでポピュラー系には中域の多少の粗さも明るさ、華やかさといった長所として生かせるが、クラシックの弦を主体に聴くには、アンプやカートリッジに、中~高域のややウェットな、滑らかで緻密なタイプを組み合わせる必要がある。音量をしぼっても細かな音が失われないし、ハイパワーにもきわめて強いのがJBLの良いところだが、このL65は音量を上げても音像がばかげてふくらむようなことのない点がことに好ましい。ブロック一段程度の台に乗せた方が音の抜けがよく、左右に思い切り拡げて設置して定位を確保したい。背面は壁に近づける。レベルセットは中音を-1、高音を0とした。タンノイ等と同様長期間馴らし運転しないと音の鋭さがとれないので注意。

採点:94点

ダルクィスト DQ10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 低音から高音までの音のこまかな起伏を塗りつぶしてしまうような、良くいえば細かな欠点もくるみ込んでしまうような、そして艶消しの感じの乾いた質感。オーケストラのレコードで総体のバランスに注意して聴いても、ピアノの音でもヴォーカルでも、大掴みなところのバランスは問題なくまとまっているのだが、例えば楽器の演奏にともなう附帯雑音──たとえば弦合奏のざわめくような、楽器の周囲に漂うような雰囲気感──までも塗りつぶしてしまう感じで、たとえばアンバーとンやバルバラのレコードで、ほかのスピーカーでは聴きとれる唇の湿った感じが出てきにくいし、どこか音の鮮度が落ちたようでいわゆるインティメイトな雰囲気が出にくい。まるで歌手が向うを向いて唱っているみたいだ。細かいことをいえば全域の中で低音域の質感が少し落ちる感じだが、そういうことより、すべてを無難にまとめたような作り方が私には全く魅力の欠けた音にしか思えない。いわば高級なイージーリスニング用には悪くないかもしれない。能率は低い方だ。

採点:82点

モーダウント・ショート MS737

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中~高音域にほどよい艶の乗った滑らかな品の良い音質だ。同じイギリス製品の中で比較すると、スペンドールBCIIのやや細身の自然さと、セレッション・ディットン66の味わいの濃さとの、ほぼ中間的存在といえそうだ。弦合奏、合唱、あるいはヴォーカルに良い面をみて、ことに女性の声(アン・バートン、バルバラ)など暖かく湿った唇を思わせ、滑らかでやさしく品が良い。音量を絞っても、キーソニックほど抑え込んだ感じでなくむしろ解き放たれたといいたいような自由で、派手やかな明るい音を響かせる。弱点といえば、これはイギリス系に共通の性格だがハイはワーに弱く、実演に近い音量に上げてゆくと骨張ってやかましくなる。あくまでも中程度以下の音量で美しさを楽しむスピーカーだ。低くとも台に乗せた方が音離れがよくなる。背面を壁にぴったりつけても低音がダブつくようなことがない。全域にわたってキメ細かくコントロールさせた秀作スピーカーといえる。

採点:91点

アリソン Allison:One

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 雑草を刈りとり間引きして上品に整理した感じのARと対照的に、雑草もまつわりつくが自然の勢いにまかせた元気のいい音といえようか。少しぐらい粗くとも大掴みなバランスの良さで開放的に音を鳴り響かせるという感じである。中~低音の土台がしっかりしていて、オーケストラやピアノの低音域が豊かに鳴るし、コンボジャズのバスドラムやベースのファンダメンタルも実感的に聴こえる。中~高音域は、ARやKLHよりは延びている印象。ただシンバルやスネアドラムで、切れ味はそんなに悪くないがトゥイーターだけが離れて鳴るという感じがわずかながらある。全域を通して、音の品位は必ずしも高級とはいいにくいが、音をむやみに抑えこんでいないところがこのスピーカーの長所といえそうだ。カートリッジはシュアー、エンパイア系がアリソンのこの性格を生かすと思う。音像定位は形状から想像するより良いが、どちらかといえば部屋の長手方向の壁面に、左右に広く(3メートル以上)離して設置するのがよいと思う。

採点:82点

アコースティックリサーチ AR-10π

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 出力計をにらみながら、ピアノや管弦楽のフォルティシモの一瞬でしばしば100ワットを越すくらいまでパワーを上げてみる。ピアノが眼前で鳴るくらいの音量にしたときでも危なげのない安定な鳴り方。ソフトな肌ざわりを失わないバランスの良さ。とても気持ちの良い音だ。ピアノの実体感、スケールの大きさ、あるいは管弦楽のことに中~低音楽器群の音のふくらみや腰の強さの描写力は素晴らしい。反面、アルゲリッチのタッチの鋭さとか、弦合奏にともなう一種ざわめくような雰囲気、またはチェンバロの繊細な響きという面になると、たとえばスペンドールでは音の余韻が空気の中に溶け込んでゆくように消えてゆくのに対して、ARはそれを鋭い刃物で断ち切るようで、音量を絞ればなおのこと音の冴えや艶を失う。あくまでも柔らかなタッチの上等な音だ。50センチの標準台にインシュレーターを開始横位置にセット。背面を壁から離し、コントロールはLOWを4π、MIDを-3dB、HIGHを0dBにセットした。

採点:88点

セレッション Ditton 66

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 イギリスの製品の中では総じて温かく穏やかな音をねらうのがセレッションの特徴だが、66は中でも豊かで厚みのある、スケールの大きい音を聴かせる。リークやタンノイの硬質な艶は持っていないし、スペンドールBCIIの自然なワイドレンジよりももう少し意識的にふくらみをつけた音だから、ちょっと聴くとシャープさに欠けた、おっとりした音に聴こえるが、管弦楽曲やオペラをわりあいに音量を上げて鳴らしたときの、少しのやかましさもなくそれでいて音の実体感豊かな、身体を包みこむような快い響きは、ほかに類似のスピーカーがちょっと思い浮かばない独特の世界だ。決して鋭敏なタイプでないが柔らかい響きの中にも適度の解像力を保ち、抑えこんだ感じが少しもないのにあばれるのでなくほどよい色づけで、これがイギリス人のいうグッドリプロダクションかと納得させられるような練り上げられたレコードの世界を展開する。ただ、国内プレスに多い乾いた音のレコードでは、この良さは聴きとりにくいかもしれない。

採点:94点

タンノイ New 12″ Lancaster

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 タンノイに限ったことではないが。、中~高域に英国系の振動板を持ったスピーカーは、数ヵ月鳴らしこまないと、どこかトゲの生えたような鋭さの取れない音を鳴らす。この製品もそうだったので、トランジスターアンプをやめて、ラックスのSQ38FDIIとオルトフォンのSPU-GT/Eを組み合わせてみたら、弦や声の金属的な響きが一応抑えられた。にもかかわらず本質的な性格として、中音域がやや薄手であると同時に高音の倍音領域の高い方に細い刺が残っていることが、特徴というよりはやや弱点として、少し音にクセをつけすぎるように思える。あるいはそれが特徴のある個性というところまで仕上っていないといった方が正しいかもしれない。以前の12インチにもこの傾向はあったが、基本的には同じ線のようだ。エンクロージュアのサイズがもうひとまわり大きくないと、たとえばピアノでも、もうひと息スケール感が出にくい。低音の一部で少々ふくらみすぎる音を置き方などでうまくおさえないと気になりそうだ。

採点:82点

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 過去多くの機会に私は紹介したが、今回の試聴では、初期のものからみると音の傾向が少し変っている。以前の製品では、中域を抑えすぎるほど抑制して、低音と高音の両端をやや強調するという、イギリスの製品に多いバランスで聴かせたが、今回聴いたものは、高・低両端をむしろ抑えて中域をかなり(といってもイギリス製にしては)張り出させて、総体にやや硬い傾向の音質になっていた。中程度の音量で鳴らす限り、音域全体に緻密さが増して、以前のようにやや上澄みが強調される感じあるいは高域にこなれない鋭さのあったところが改善され、クリアーでしっとりした印象が出てきた。ところが反面、左右に思い切り広げて設置したとき、たとえばソロイストが中央におそろしいシャープさで定位する、あの薄気味悪いくらいの雰囲気が一歩後退したところが私には少し残念だ。とはいってもこの製品の鮮鋭な雰囲気描写と解像力のよさは、やはり特筆の部類に入ると思う。背面は壁から離して設置し、解像力の優れたカートリッジを組み合わせる。

採点:91点

QUAD ESL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 いろいろな機会に何度もとり上げられて、今さら何も言うことはなさそうに思えるのだが、実のところこのスピーカーは、アンプやカートリッジやレコードの録音が新しくなるにつれて潜在的に持っていながら評価されにくかった本質を少しずつ我々の前に現わしてくるようなところがあって、それを見抜けなかったことを恥じなければならないにしてもしかし、周辺機器の進歩ということをつくづく考えさせられる。総体的な印象は、本誌22号でのテストリポート(199ページ参照)や、『別冊1975コンポーネントの世界』でのシンポジウム(71ページ以降)で発言したことで尽くしているので、ここでは使いこなしの面について多少の補足をするが、第一に、二つのスピーカーと聴取位置の選び方。かなり近寄って、スピーカーの面が耳を向くように位置すると、すばらしく鮮度の高いクリアーな現実感が得られる。第二に、背面の空間を十分にあけて置くこと。ピアノの実音までの音量は鳴らせないが、大出力の安定なアンプが必要だ。

採点:95点

キャバス Sampan Leger

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 張りつめたような華やかな音を聴かせる。中音域のやや上の、基音から倍音の領域にまたがるあたりの音域に、ほかのスピーカー(あるいはほかの国という方がたたしいかもしれないが)では聴くことのできない音の明るさがあって、それがたとえば弦合奏などで私の感覚ではわずかにきついとさえ思えるが、反面、バスーンのような木管楽器の倍音に独特のふくらみと艶をつけて魅力的に仕上げるあたり、妙に惹きつけられるところのある音だ。この音を特色として生かすも欠点とするも、使いこなし次第といえる。たとえばアンプやカートリッジに、硬質でしっかりした音よりも柔らかなニュアンスのあるものを組み合わせた方が良いと思う。台は20~30センチがよさそうだ。背面を壁に寄せた方が音のバランス上では低音の量感が補われると思ったが、いろいろやってみると、壁から多少離した方が音のパースペクティブがよく出るので、その状態でアンプの方で低音を補う方がよかった。

採点:85点

ワーフェデール Kingsdale 3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 フロアにじかに置き、次にブロック1個分上げて、さらに2個にしてもまだ音がこもって抜けが悪い。ついに50センチの台に乗せて、さらにインシュレーターを噛ませて、おまけにEMTのカートリッジとマークレビンソンLNP2/ヤマハBIのシャープな音で引締めて、まあ納得のゆくバランスになった。イギリスの音の長所も短所も合わせ持った音とはいえ、たとえばバルバラのシャンソンなど、瑞々しい艶で唇のぬれたような感じまで出てくるが、ピアノは弱腰というか上澄みだけというか、実体感の薄い音だし、オーケストラも大編成は無理で、しかしバロックや室内楽など、ややひっこむ感じながら一種独特の柔らかい雰囲気を出す。しかし一般的にいえばそういう特徴を生かすには相当に手間のかかるスピーカーというべきで、いい素質を持ってはいるが、正面切って音楽を鑑賞するのでなく、一家団らんの場で、気にならない音を鳴らしておくというような目的に使うのがせいぜいかと思う。

採点:76点

デッカ London Enclosure

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 小型のスピーカーの割に、オルガンのペダル音、バスドラム、ベースの低音などで、意外なほど低音のファンダメンタルがよく延びているように聴こえる。もちろんそういう音を出すスピーカーはほかにもたくさんあったが、この大きさにしては、という印象が強い。ただしこのときは、ゆかから約15センチほどの低い台で、背面を固い壁に近づけて置いた。トーンコントロールで多少の補正も加えている。しかしそうやっても、ファンダメンタルの出ないスピーカーではこうはいかない。ところで全体の感じだが、イギリスのスピーカーが概して中~高音域に強調感のある作り方が多いことを頭に置いて聴いてみても、どうもやかましさすれすれのところでこしらえてあるように思われ、ことにパワーに弱く、音量を上げると総体にキャンつくので、平均80dB以下ぐらいの音でひっそり鳴らさないとだめのようだ。面白半分にデッカMKVのカートリッジで、デッカ録音のレコードをかけてみたら、当然とはいえ、個性が強いながら楽しい音がした。

採点:82点

リーク 2060

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中音域の上の方から高音域にかけて、鈍い金属の光で隈どったような特有の線の細い光沢感がある。あるいは彫りの深い目鼻立ちのことさら強調されたような音ともいえ、そういう特徴に惹かれもする反面、部分的には辟易かもしれない。いわば好き嫌い分かれる音質かもしれない。高音域に線の細い艶が乗るのはイギリスのスピーカーに概して共通の特色だが、リークの音はその中でもやや硬質の艶が目立つ。それが良い面に働いた場合、たとえばピアノでUL6よりもスケール感が出るし、またBCIIよりも現実感があるオーケストラの斉奏では、硬質の光沢が彫りの深い立体的な構築を聴かせる。オルトフォンVMSやB&Oの4000等、音の柔らかな系統のカートリッジの方が、短所を抑えてくれる。また、あまりパワーを上げないときの方がいい。ハイパワーでは音のキャンつく傾向が出てくるし、スクラッチノイズを部分的に強調するクセがあり、決して万能型ではないが長所の多いスピーカーだと思う。台はブロック1~2個程度がよさそう。

採点:88点

ブラウン L715

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 たとえばリークの音に艶があるという印象が、ブラウンと並べて聴くとリークがどこか湿っぽく聴こえる。そのくらい独特の艶があって当然これはドイツのスピーカーが昔から持っている特徴だが、そのドイツの音という枠の中では、従来の製品より全音域でのバランスがより自然に、音域ごとの強調感や欠落感が少なく、たいへんみごとにコントロールされた製品であることを感じる。ステレオの音像の定位やひろがりや奥行きも、明確に再現する。この独特の艶は、弦合奏にもピアノにも、われわれの耳にはときとして過剰気味に思える場合があるが、そこに一種の透明な──といっても空気の透明というより上等の硬質なクリスタルガラスの光沢のような──感覚が生じ、鳴っている音楽の鮮度を上げるような働きをする。むろんそれはこの製品に限った話ではないが、エンクロージュアの大きさからいっても、本もののスケール感を望むのは無理で、あくまでも虚構の枠の中での話だが、高め(50センチ)の台、左右に広げる方がよかった。

採点:94点

ダイヤトーン DS-50C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 DS38Bとおそらく同じユニットをフロアタイプにまとめた製品だと思うが、念のため、38Bと一緒に比較試聴してみた。まず大づかみにいえば同じ範疇の音である。そのことをまず言っておいてこまかな比較をすると、38Bではことに重く鈍く感じた低音域に、開放感ともいえる軽さ、(といってもあくまても同じ兄弟という枠の中での話だが)が出てくる。また全音域を通じて、38Bよりも音が空間に浮かび漂う感じが出てくる。それらの差はわずかとはいっても、総体には38Bより聴き疲れしにくい。あるいは38Bほど自己主張が強くないといおうか、ランクが上がった音質といえる。なお、この製品にかぎらず、フロアタイプであっても概して台の上に乗せた音が、音のもやつきがなくなる傾向があるが、50Cの場合も、ブロック1~2個分上にあげた方がよい。カートリッジについては38Bのところで書いたと同じことがいえる。これだけの音の密度にさわやかさが加わったら、もっと好ましい音になるのにと思う。

採点:85点

Lo-D HS-400

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 低音から高音にかけて音域上の欠落感はほとんどなく、たとえばHS500で中低域にやや音の薄い部分があったのにくらべると確実に改善されている。国産でたとえばテクニクスやトリオの音の輪郭に毛羽立ったような、またはどこか粉っぽいような感じのつきまとうのにくらべると、HS400の音はきわめてクリアーという感じがする。ところがこのクリアーさは、私にはとても独特で奇異な音に思える。というのは、たとえば弦楽器の合奏の際に、いわばざわめきのような、楽器の周囲に漂うような雰囲気が生じ、それはレコードにもたしかに録音され、たいていのスピーカーではそれが再現されると私は思うが、HS400からはそういう音がまったくといっていいほど聴こえてこない。もうひとつ、すべての音に独特の色がつく感じで、いわば音楽を淡い黄色の半透明ガラスを通して眺めるような、あるいはゼリーで練り固めたような、土産物によくあるプラスチックで鋳固めた置き物のように音楽が聴こえる。奇妙な体験だった。

採点:65点

テクニクス SB-6000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 左右に思い切り広げて設置して、適度に壁から離し、ブロック1~2個程度の頑丈な台に乗せる。そして、両スピーカーから等距離の正しい聴取位置で聴くと、眼前に、幕を一枚取り除いたような空間の広がりと奥行きが展開する。こういうエフェクトを楽しく聴かせるのが、今回のSB5000と7000を含むテクニクスの新シリーズの共通の特徴だ。この感じは、最近のヨーロッパ系の優秀なスピーカーシステムが聴かせてくれるエフェクトと同質だがSB6000の場合、この価格、ということを考えに置くと、音質の方に2~3注文をつけたくなる。第一二、SB5000のところでも書いたが音を隈どる輪郭の質感に、なんとなくザラつく感じ、この価格としてはもうひとつ磨きが不足しているような感じが残ること。もうひとつ、小音量のときは良いがパワーを上げると、弦や声で中域に多少きつい感じが出てくることだ。むろん、それらは水準以上のスピーカーシステムであることを認めた上での注文だが。

採点:88点

ダイヤトーン DS-38B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 DS28B(36号237ページ)やDS261で、ダイヤトーンのスピーカーにしては中域をおさえてよりナチュラルな方向に近づいていることを書いたが、38Bになると、再び中域に密度を持たせてがっしりと構築した特徴のある音色が出てきている。楽器の音ひとつひとつが、ほかのスピーカーよりも重く聴こえる。眼前に奥行きをともなって爽やかに展開する傾向のレコードをかけても、厚手の緞帳を通して鳴ってくるような、鈍い錆色のような音に聴こえがちだ。ジャズのコンボでは中域の密度の高さが一種力強い迫力を聴かせるが、低域がそれにくらべて重く、高域ももっと爽やかに延ばしたくなる。総じてハードなタイプのポピュラー系が最も無難で、それもオルトフォンVMS20EやB&O・MMC4000のようなカートリッジだと音がベタついて鈍くなるので、シュアーV15/IIIのようなアクの強いカートリッジで強引にドライブする方が合うと感じた。台はあまり高くない方(20~30センチ)がよかった。

採点:79点

サンスイ SP-6000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 SP4000と並べて切り替えながら比較試聴したが、当然のことながらまったく同じシリーズとして、よく似た音質につくられていることがわかる。その上でこまかな比較をするなら、エンクロージュアやウーファーがひとまわり大きくなったために音にゆとりが生じている。たとえばピアノの音が、SP4000よりもピアノという楽器の大きさにいっそう近づいている。低音域での音のスケール感が改善されることによって、中~高音のユニットはほとんど同じものらしいにもかかわらず聴感上では、たとえばシンバルのような楽器の場合にも4000よりも楽器の大きさがよりよく再現され、迫真感あるいは現実感が(その差はわずかであるが)確実に増している。しかしその反面、たとえばバルバラの唱うシャンソンなどで彼女の声がいくらか重くあるいは太くなる傾向があって、比較上は4000の方が線が細いが演奏されている場の空気感のような要素がいくらか優れていることがわかる。他の点は4000の項を参照して頂きたい。

採点:82点

ビクター SX-5II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 どちらかといえばスタティックで控えめな、彫りの深さや音の艶に不足を感じる柔らかな音色だが、ことにクラシック系のオーケストラを鳴らしたときの、弦の自然な響きには、国産の攻撃的な音の多い中で改めて評価をし直した。細かいことをいうと、弦のオーヴァートーンにややケバ立つところがあったり、そのせいか倍音だけがやや離れるというか、または基音と倍音との間に僅かな不連続があるともいえるが、クラシックのコンサートプレゼンスとでもいうべき自然な柔らかい響きは、国産スピーカーの多くについて最も不満な部分であるだけに、多少の弱点はあっても価格とのかねあいその他で、良いスピーカーのひとつに数えてよいと思った。ピアノや打楽器のアタックには少し弱い。また、スピーカー自体の音は平面的な傾向なので、カートリッジやアンプの方に、表象の豊かさ、彫りの深さ、音の艶など生かす製品をうまく組み合わせて弱点を補う方がいい。高い目の台、左右にひろげて、背面は壁面から離した方がいい。

採点:91点

セレッション UL6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 外形の小さいこと、それに価格を頭に置いて聴くと、小型らしからぬ低音の厚みやスケールの豊かなことに驚いてしまう。といってもたとえばアルゲリッチの新しい録音(36号120ページ)を鳴らすと、グランドピアノの実体感を鳴らすのはとても無理なことがわかる。が、その点を割引いても、十分広い全音域に亘って上品な艶と品位を保って、イギリス製品にありがちの中域の薄手なところも感じられず、みごとなバランスで聴き惚れさせる。あまり神経質でないところがいい。しかしそれでいて、トーンコントロールでハイを上げるとおもしろいほど敏感に反応するし、カートリッジやアンプの音色の違いにも正確に応える。私個人の聴き方からすると、EMTのような解像力の鋭いカートリッジや、そういう傾向のアンプでドライブする方がいっそう音が生きてくる。大きさから考えても、ピアノの再生能力から考えてもサブ(セカンド)スピーカー的な存在だが、しかしそれではもったいないと思える程度のクォリティを示す。

採点:91点

オンキョー M-6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 オンキョーのスピーカーが、また変身を試みた。まず感心したのは低音のよさだ。楽器の動きが実に軽やかで自在。箱鳴り的なブーミングがほとんど感じられず、ベースやピアノの低域の実体感をニュアンスをこめてよく再現する。ただし以上のような低音を聴くには、ブロック1~2個分の(低めの)台に乗せて背面を壁に近づける方がいい。高い台で壁から離すと低音が不足する。2ウェイにもかかわらず、中音域の抜けた感じが全くないという点、低音・高音両スピーカーの中音のコントロールがうまくいっているのだろう。ただ、手放しで感心してもいられないのは、中~高域以上の音色に、硬い頑固な表情がつきまとう点で、ことに弦やヴォーカルを不自然に聴かせる。反面、コンボジャズ等のスネアやシンバルの音が、腰くだけにならず実感豊かに輝くあたり、ふっと聴き惚れさせる良さがある。ただしこの製品も試作の段階で、市販までに中~高域はもう少し改善されるそうだから、期待のもてるスピーカーのひとつといってよいだろう。

採点:88点

サンスイ SP-4000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 中域の密度が濃く、音がよく張り出しながら抑制を利かせたやや硬質な音。これは日本人の持っている音の感覚のパターンの中のひとつの典型といえるのかもしれないが、音をコントロールしてゆくにつれて、中域を張り出させ、しかもピークやディップなどの欠点をおさえこんでゆくプロセスで、どちらかといえば音楽の柔らかな表情をも少々抑えこみすぎてしまう傾向を生じる。また、ポピュラー系の音でなくクラシックのオーケストラを鳴らしたとき、中~高域の倍音の方に引きずられて音がハスキーになったり厚みを欠く傾向を聴かせやすい。非常に凝ったホーントゥイーターだがオーヴァートーンの領域でもう少し爽やかさを出して欲しい。ただし試聴の当日、本機が量産試作の段階であったことをお断りしておく必要がある。ビクターJS55と同様、とても良い素質を持っている。いままでの山水のスピーカーとはずいぶん変って、オーソドックスにアプローチした製品だ。うまく仕上げて久々に喜ばせて欲しい。

採点:82点

ビクター JS-55

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 とても輝きのある積極的な音、とまず感じたが、聴き込んでゆくにつれてその輝かしい音は、どうやらトゥイーターの部分でつくられた音で、それ以下の中音や低音の音域では意外に渋い音色を持っていることに気がつく。ただし試聴当日の製品は期日の関係でまだ量産に移る前の試作品だったそうで、市販までにもう少し音の変わるというコメントつきであったが、試聴記についていえば、コーン型の低音や中音の表情の豊かで、しかし中庸な音色に対して、ホーン型トゥイーターがひときわ線の細いキラキラ輝く倍音を乗せてゆくという感じで、それが曲に酔ってとても効果的に聴こえたり、低~中音に対して高音の倍音領域だけ音色がかけ離れて鳴る感じがしたりで、まだ十分に練り上がった音とはいいかねた。ただ本質的にはなかなかいい素質を持っている。この特徴のある高域の輝きと爽やかさ、または音の切れこみのよさを、表面の華やぎでなく内面の魅力として生かすことができたら、かなり特徴のあるスピーカーが生まれそうだ。

採点:82点

トリオ LS-101

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 すべての音にやや響きをつけ加えるという感じから、あるいはヨーロッパ系のスピーカーの良さを手本にしているのか、と思われる。DS261と較べるとその点がまず対照的で、三菱がすべての音に抑制を利かせて音の輪郭をかっちりとくまどってゆくのに対して、トリオの音には手綱をゆるめた自在さが聴きとれ、華やかさ、明るさを感じる。そういう音色のせいか、音像の定位は比較的シャープだが奥行きが出にくい傾向があり、やや張り出しぎみの平面上に定位する。ただ、音の響きのつき方は、たとえばフルートのソロでいえば息の漏れる音が少々サワサワとノイズっぽくなる傾向で、中~高域にもう少しまろやかで滑らかな磨きをかけて欲しい気がする。そういう音のせいだと思うが、このスピーカーは、価格的にはやや不相応の品位の高いアンプやカートリッジで鳴らしてやらないと、右の傾向が裏目に出やすく、組合せに失敗すると、汚れっぽい音を出すことがありそうだ。しかしこういう、弱点スレスレのところでまとめた音は国産には珍しいといえそうだ。

採点:85点