Category Archives: ダイヤトーン - Page 2

ダイヤトーン 2S-3003

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 最も日本的な特徴を凝縮した一流品と呼べるスピーカーシステムといってよいのが、今ならこのダイヤトーン2S3003であろう。この製品の原器といってよい2S305というシステムは、1958年にNHKとの共同開発によりBTS(放送技術標準規格)に基づいて生まれたものであるが、実に、その後35年もロングランを続け、放送局、録音スタジオ、そしてオーディオファンの間で広く愛用されてきた。これを現代の技術で再検討し、現代のモニター・スピーカーシステムとして通用するようにという考え方によって生まれたのが、この2S3003。2ウェイという構成や、コーナー・ラウンドのバスレフ型エンクロージュアという基本構造は変らない。外形は幅が狭くなり、高さが縮んだ代りに奥行きが深くなったが重量は10kg近く増している。
 音質的には、現在のデジタルソースへの対応性が高まり、鋭敏なレスポンスと広いDレンジに余裕をもって応答できるものとなり、パワーハンドリングの強化が最も大きな相違点だ。モニターレベルが昔と今では全く異なって、大音量モニターが要求されるようになったことへの対応だろう。音楽の性格もハードロックなどの激しい音源が多くなり、しかも、モニタースピーカーは演奏者へのプレイバックスピーカーをも兼用する場合がほとんどなため、よりヘヴィデューティな性能が要求されてくるのである。
 冒頭に書いた、最も日本的特質の凝縮した一流品という意味は、このシステムに使われている諸々の技術の新しさ、製品作りの細部に至る完璧主義といってよい丁寧さなどにあり、それが結果としてのサウンドにも現われている。
 もともと、プロ用モニターとして作られた製品であるが、一般のオーディオファンが使う上でも特に難しさや不都合はないと思う。ただ、強い個性や説得力を求める人には物足りなさとして感じられるかもしれない。

ダイヤトーン DS-V9000

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 ダイヤトーンは日本のスピーカーの代表といってよい。三菱電機という大電機メーカーが、スピーカーシステムという分野にここまで根を下ろしたことは興味深い。電気製品の中では最もソフト要素の強い、今流行の言葉でいえばファジーでありニューロなものだし、サウンドという嗜好性の強い趣味的な世界は、このような電機メーカーにとって扱い難い分野である。NHKのモニタースピーカーを戦後間もなく開発したのが縁でダイヤトーンは今やスピーカーでは名門になってしまった。技術志向が必ずしも音のよいスピーカーに連らないこの世界で、ダイヤトーンは技術とヒューマニティのバランスを真面目に追求してきたメーカーだ。高級な大型システムの開発を常に中心においてスピーカー作りを進めてきている努力が、ダイヤトーンを国産スピーカーメーカーNo.1の地位を得さしめたのだ。その一つの項点が、このDS−V9000というモデルである。無共振思想、剛性第一主義を貫きながら、適度に柔軟な姿勢で戸惑いながらも妥協点を求める以外にスピーカーとしての完成度は得られないように思えるが、ダイヤトーンは一見、技術一点張りに見えながら、この術を心得てもいる。このバランスを保つことがいかにむずかしいか、DS−V9000はその困難を克服した現時点での成果であると思えるのだ。これをダイヤトーンはハイブリダート・シリーズと呼ぶ。高剛性と最適内部損失の調和である。トゥイーターとミッドハイに使われているB4Cという素材が現在のダイヤトーンのアイデンティティ。確かにB4Cドームユニットはレスポンスの鋭敏さにもかかわらず、音に硬質な嫌味がなく品位の高い再生音が得られる。コーンは同社得意の高剛性ハニカム構造材である。長年の使いこなしにより、この材料も使い方がこなれてきた。曖昧さのない造形の確かな再生音は立派である。味とか風格といった個性の魅力とは違うところにダイヤトーンはある。

ダイヤトーン DS-77Z

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

口径30cmを超すウーファーベースの伝統的3ウェイブックシェルフ型の典型的存在であり、現在生き残っている数少ない機種だ。3ウェイらしく中域のエネルギーが充分にあり、情報量が多いため、使いこなしを誤れば圧倒感のあるアグレッシヴな音になりやすく、このあたりを使いこなせないようではオーディオは語れない。

ダイヤトーン DS-V9000

井上卓也

’89NEWコンポーネント(ステレオサウンド別冊・1989年1月発行)
「’89注目新製品徹底解剖 Big Audio Compo」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムには、数字構成のモデルナンバーの末尾にアルファベットを付けた型番を採用することはあったが、今回の新大型システムDS−V9000のように、数字の前にアルファベットを置く型番は、大変に異例ともいうべき印象で受け止められるようである。
 高級機のジャンルで、独自のミッドバス構成と名付けられた4ウェイ方式のシステムを開発する、いわば定石めいた手法を採用することが他に類例のないダイヤトーンスピーカーシステムの特徴であり、4個のユニットで構成する比較的にコンベンショナルなシステムアップの実力を備えたメーカーは、世界的にもさほど多いものではない。
 基本的に40cmウーファーをベースにした4ウェイ方式のフロアー型システムという点では、数年前に開発され、現時点でも日本を代表するフロアー型として活躍をしているDS5000系の流れを受け継いでいるシステムである。
 外観上のイメージは、基本構想が同一であるだけに非常に類似したイメージを受けるが、比較をすれば、中低域ユニットの位置がかなり下側に移動していることと、エンクロージュア両サイドの部分にわずかにカーブがつき、バッフル面より前方にセリ出しているデザインに気がつくであろう。
 音響理論とデザインの一致が、ダイヤトーンスピーカーの基盤であるが、このところのラウンドバッフル流行の原点である2S305の理論に基づいた流麗なラウンドバッフルと、V9000でのサイドブロックに見られる考え方の差には、大変に興味深いものがあるようだ。
 バッフルボード上で、もっとも大きく目立ち、かつ魅力的に思われるのは超大型とも表現できる中高域ユニットだ。
 従来からも独自のボイスコイル巻枠部と振動板を一体化したDUD構造を開発した時点以来、振動板材料にはこれも独自の開発によるボロナイズドチタンが、ボロンの略称でダイヤトーンDUDユニットを推進してきたが、今回の新製品にはそれ以来の画期的な新材料ともいうべきB4C(炭化硼素)が振動板材料として、中高域と高域ユニットに採用されることになった。
 B4Cを実用化するに当り、摂氏2450度という高融点であることがドーム状に成型することを困難にしていたが、プラズマ溶射法による製造条件の確立と熱処理の方法が完成され、実用化された。これはチタンの5倍、ボロン化チタンの2・2倍の物性値を示し、実測値でも1万1000m/secを越える値が得られているが、特に注目したいことは、金属系振動板でありながらほぼ1桁違う内部損失を備えていることで、固有音が極めて少なく、振動減衰が早いことにより、広帯域化と素直なレスポンスが得られるメリットは絶大なものがある。
 中高域と高域のB4Cを支える中低域と低域は、ハニカムコアの両側をアラミッドスキンでサンドイッチ構造とした従来のコーン構造の前面に、カーボン繊維のアラミッド繊維を混繊したイントラプライスキンを加えた、表スキンが2重構造のイントラプライ・ハイブリッド・カーブド・ハニカム振動板を採用したことに特徴がある。
 全ユニットは、DS9Zで採用された球状黒鉛鋳鉄採用の、高剛性で振動減衰特性に優れたフェライト系磁石によるハイピュアリティ防磁構造と、実績のあるDM及びDMM方式を採用している。
 低域と中低域ユニットでは、新開発の新磁気回路方式(ADMC)採用が最大のポイントだ。ボイスコイルで発生する交流磁束の影響が磁気回路の動作を不安定にする問題を、有限要素法により直流磁界解析および交流磁界解析した結果がADMCであり、ユニットの音圧歪みは2次、3次ともに0・1%を達成、ボイスコイルの駆動力が常にボイスコイルの中心に位置する理想の動作状態が保たれる成果は大きい。
 ネットワークは、コイルにコンピューターシミュレーションにより設計をした低歪み、低抵抗型を採用。コア材料は珪素鋼板をラミネート構造とし、エポキシ樹脂でコーティングしたコア鳴きの少ない圧着鉄芯、コイルは1・4mmφのOFC線材採用などの他、素子間の配線は金メッキ処理OFCスリーブによる圧着型という伝統的な手法が見受けられる。
 エンクロージュアはパイプダクトをバッフル面に付けたバスレフ型。バッフルは堅く響きが良いシベリア産カラ松合板の直交張り合せ、他の部分はカナダ産針葉樹材2プライ・パーティクル板で、両面はスワンプアッシュ材突板サンドイッチ張り構造により、高い剛性と耐候性を得ている。バッフル表面には低音用上部にソリッド・スワンプアッシュ材を溝に埋め込んだ表面波に対する隔壁が設けてあり、低域と中低域以上のユニット用の相互干渉を避ける設計だ。また、中低域用内部キャビティは、新しく二つのラウンドコーナーをもつ新設計によるもので、低域に対しても定在波の発生が少なく、高剛性化をも達成している。
 ユニットの不要振動の発生を避ける取付けビス部のゴムキャップ、ハイブリッド構造の中高域ユニット保護ネットなど、徹底した高SN比設計は同社のポリシーの表われでもあるようだ。
 百聞は一聴にしかず、が、このシステムの音であろう。異次元の音でもある。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 早くから、デジタルプログラムソース時代を先取りしたデジタル・リファレンス・スピーカーシステムをテーマにして取組んできたダイヤトーンのトップモデルであり、フロアー型システムとしては、同社でも、コンシュマーユース唯一のモデルだ。
 基本構成は、独自のアラミドハニカムコンストラクションコーンと、ダイヤフラムとボイスコイルが一体型のDUD構造採用のドーム型ユニットを組み合わせ、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型としての第1弾製品DS505を大型化し、エンクロージュア形式をバスレフ型にして完成したフロアー型システムである。このバスレフ型採用は、同社の高級シリーズでは唯一の存在で、本機の大きな特徴だ。
 各構成ユニットは、DS1000以降のユニット構造を発展させたタイプとは異なるが、中域と高域ユニットの2段積み重ね型マグネットに代表される物量投入型の設計は、明らかにブックシェルフ型とは一線を画した、フロアー型ならではの魅力がある。
 基本特性は十分に押えられ、製品としては、発売以来すでに熟成期間もタップリと経過をしているため、信頼性は非常に高い。フロアー型ならではの、ゆったりとしたスケールの大きさと、反応の速いレスポンスが特徴だが、セッティングに代表される使いこなしで、結果としての音は大幅に変化をし、モニター的にも、音場感型にも使用可能だ。

ダイヤトーン DS-10000

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 国産のスピーカーの中で、オンキョーのGS1とまったく異なるコンセプトと構造をもち、第一級のレベルに到達したと思われるダイヤトーンのDS10000である。ドーム型のダイレクトラジェーターによるマルチウェイシス
テムをブックシェルフ型としてまとめたものである。私の評価するこのシステムの音は、いかにも日本のスピーカーらしい淡彩で、きわめて緻密でデリケートな細部の表現が特徴である。一糸乱れぬ演奏といわれるが、このシステムにはそういう整然としたイメージがあり、強烈な説得力をもつ海外スピーカーとは違った控え目な美徳をもっているところが、世界のスピーカー群の中でユニークだ。スピーカーのように、どんなに努力しても、技術的に攻め切ることが難しいものについての製作者の感性の反映は、意識下のところにあるものこそ重要であり恐ろしいものなのだ。DS10000には西欧を意識した姑息さがない。これはGS1にもいえることだ。本物なのである。こういうスピーカーなので組み合わせる5台のアンプもすべて国産製品を選んでみた。ブックシェルフとしては高価なスピーカーシステムだが、その性格と極度にずれる価格のものは現実性の点でも選びたくなかったことにもよる。200万以上のクレルやマーク・レヴィンソンでは、鳴らしてみたくても非現実的であろう。各アンプの音は当然JBLでの試聴とはニュアンスの違ったものもあって興味深い。

ダイヤトーン DS-2000

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 従来からのオリジナル技術である、ハニカムコンストラクションコーンとボロナイズドDUD構造という振動板材料の熟成を待って、これにフレーム関係の高剛性DMM構造やDM方式を加え、さらにエンクロージュア関係でのディフラクションを抑える、2S305以来の伝統のラウンドバッフル採用のエンクロージュアを使った新世代のダイヤトーンの高級シリーズは、小型高密度設計のユニークな製品DS1000をもって出発点としたが、昨年の4ウェイ・ミッドパス構成のDS3000に続き、3ウェイ構成のDS2000が新製品として発売された。
 外観上は、DS1000の単なる上級版とも、DS3000の3ウェイ版とも受け取られやすいが、構成ユニットは、何れとも関係のない新開発ユニットである。
 低音の30cmユニットは、ポリアミドスキンのカープドハニカムコーン型で、このタイプとしては初採用の口径である。DMM方式フレームは、高剛性化が一段と進められ、フレームの脚は、平均的な4本から8本に倍増され、3次元的な剛性を高め、脚の延長線上の止め穴でエンクロージュアに固定する設計。DMM方式の基本構想はコーンが前に動けば、磁気回路はその反動として後に動くため、これをフレームでガッチリと支えようという単純明快なもの。
 中音ユニットは、これも初めての口径である60mmボロナイズドDUD型で、特殊な硬化処理が施され、従来よりもー層高遠応答型に改良されている。この振動板にDM方式が組み合わされユニットとなるが、この方式の基本構想もDMM方式と共通な面がある。一般的な構造では、振動板を取付けたフレームに磁気回路をネジ止めしているが、中域以上の帯域では、その接合面の強度とフレーム自体の強度が高速応答を妨げる要素となる。解決策は、フレームレス化だ。現実の手法では、従来構造のフレームを小型化し、磁気回路の前のプレートを拡大し、これをフレーム替わりとして直接エンクロージュアに取付ける方法が採用されている。
 高音の23mm口径ボロナイズドDUDユニットは、DS1000以来、DS3000と受継いできたDMタイプで、ユニットナンバーから見れば、DS2000用の新設計であることが判かる。
 ネットワーク関係は、スピーカーシステムでは、スピーカーユニットほどに重視されない傾向があるが、ユニットの性能が向上すればするほど、ネットワークの責任は重くなるものだ。簡単に考えてみても、ネットワークを通らなければ、ユニットには信号が来ないわけで、この部分で歪を発生していたらお手上げである。
 本機のネットワークは、コイル間の電磁結合はもとより、磁気回路のフラックス、ボイスコイル駆動電流によるリケージフラックスや主にウーファーからの音圧、振動による干渉などを避けるために、高、中、低と独立した3ピース型を初めて採用し、配線は半田レスの無酸素銅スリープ圧着式DS3000での成果であるラジアル分電板採用のダイレクトバランス給電方式などかなり入念な設計である。
 エンクロージュアは、ラウンドバッフル採用の完全密閉型で、基本となる6面の接合強度を高め箱を剛体構造としながら、伝統の分散共振構造で中域以上の色づけを抑え、全体の振動バランスをとる方法が行われているが、このあたりのコントロールがシステムの死命を制する重要な部分である。
 試聴を始めるにあたり、適度なシステムのセッティング条件を探すことが必要だ。DS2000用の専用スタンドは、現在はなく、DS3000用のスタンドも試聴室にはないため、とりあえずビクターのLS1を使って音を出してみよう。
 最初の印象は、素直な帯域バランスをもった穏やかな音で、むしろソフトドーム型的雰囲気さえあり、音色も少し暗い。LS1の上下逆など試みても大差はない。いつもと試聴室で変わっているのは、聴取位置右斜前に巨大なプレーヤーがあることだ。この反射が音を汚しているはずと考え仕方なしに薄い毛布で覆ってみる。モヤが晴れたようにスッキリとし音は激変したが、低域の鈍さが却って気になる。置台が重量に耐えかねているようだ。ヤマハSPS2000に変えてみる。これなら良い。帯域バランスはナチュラル、表情は伸びやかで明るくオープンなサウンドで、いかにも高速応答という印象はない。プログラムソースにより、激しいものは激しく柔らかいものは柔らかくと、しなやかな対応ぶりは従来では求められなかったダイヤトーンの新しい音の世界への提示だろう。

ダイヤトーン DS-10000

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「日本的美学の開花」より

 ぼくは、我とわが耳を疑った。今、聴こえている音はただものではない。音が鳴り出して数秒と経ってはいないが、すでに、そのスピーカーからは馥郁たる香りが感じられ、この後、展開するいかなるパッセージにも美しい対応をすることが確実に予測された。曲は、マーラーの、あのポピュラーな第4交響曲、演奏はハイティンク指揮のコンセルトヘボウ管弥楽団、フィリップスのCDである。第一楽章の開始に聴かれる鈴と木管の透明な響きが右寄りから中央に奥行きをもって聴こえ、その余韻は、繊細に、たなびくように、無限の彼方への空間を、あえやかに構成しながら消えていく……。
 やがて左チャンネルに現われる第一主題を奏でる弦楽器群はしなやかで優美、流れ込むように右チャンネルの低弦のパッセ−ジへ引き継がれていく。豊かで、しかも、芯のしっかりしたコントラバスの楽音には、実在感が生き生きと感じられ、聴き手の心に弾みがつく……。そして、チェロの歌う第二主題は、第一主題に呼応して十分、明るく暖かく、のびのびと柔軟な質感の魅力をたたえている。
 これは、目下のぼくの愛聴盤の一枚で、わが家のシステムをぼく流に調整して、いまや、その悦楽に浸りきれる音にしているものだった。この音が、わが家以外の場所で、しかも、全く異なるスピーカーシステムから、ほとんど違和感なく響いたことはない。それが、なんと、今、ここで、違和感なく響き始めたのである。しかも、新たなる魅力を感じさせながら……。つまり……、決してわが家とは同じ音ではないのだが、不思議になんの違和感もなく、わが家とはちがう新しい魅力を感じさせられたであった。
 DS10000というダイヤトーンのスピーカーシステムがぼくの眼前にあった。そして、ここは、福島県郡山市にある三菱電機の郡山製作所の試聴室内である。何から何まで、わが家とは異なる雰囲気と条件であることはいうまでもない。これはたいへんなことだ! そういう驚きにぼくは囚われていた。
 正直、率直にいって、ぼくは今まで、ダイヤトーンのスピーカーには常に違和感の感じ通しであったから、その驚きはひときわ大きなものであったのだ。これについては後でもっと詳しく述べるつもりである……。
 そして、第四楽章では、ロバータ・アレクサンダーのソプラノを導入するフルートとヴァイオリンが、そして、ハープやトライアングルも、天上的なト長調の響きと、ゆれるような四分の四拍子の揺籃を、限りない透明感とやさしさをもって開始し、ぼくを魅了したのであった。ブルーノ・ワルターをして「ロマン主義者の雲の中の時鳥の故郷」といわしめた天国的悦楽感が、いやが上にもぼくの心を虜にするのに十分な美音であった。ソブラノは程よい距離感をもって管弦楽と溶け込みながら、かつ際立って明瞭に、「天国の楽しさ」を歌い上げるのであった。
 ある意味では、ケチをつけるのもぼくの仕事であって、この日も、ダイヤトーンの新製品に建設的な意見を述べるべく、無論、その中に、「よさ」を発見し、製品を正しく認知する覚悟で、はるばる郡山まで呼ばれて釆たのであったが、このDS10000に関しては我を忘れて惚れ込んでしまうという「だらしなさ」であった。
 かろうじて立ち直ったぼくは、このスピーカーを自宅で聴いてみるまで、最終的結論を保留したのである。その結果、後日、このスピーカーはわが家に持ち込まれ、第一印象と食い違わないものであることが確認をされたのであったが、それは、ほんの短時間での試聴であったため、今回、改めて本誌のM君を通じ、数日間借用し、ゆっくり、いろいろな音楽を聴いてみることにしたのである。前記のマーラーの他、アナログディスクの愛聴盤、ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送管弦楽団による同じくマーラーの交響曲第三番ニ短調、第六番イ短調、ぼくがずっと以前に録音したルドルフ・フィルクシュニーのピアノ・リサイタルのニューヨーク録音などのクラシックレコードと共に、カウント・ベイシーのやや古い録音『カウント・オン・ザ・コースト’58』、アート・ペッパー『ミート・ザ・リズム・セクション』、メル・トーメの『トップ・ドロワーズ』、ローズマリー・クルーニーなどのジャズやヴォーカルのディスク、そしてまた、CDによる数々の音楽をゆっくり試聴するほどに、このスピーカーの素晴らしさをますます強く認識するに至ったのであった。
 特に、フィリップスのCDによる、アルフレッド・ブレンデルのピアノ・ソロの『ハイドン/ピアノ・ソナタ第34番他』の再生に聴かれるピアノ・サウンドの美しさは特筆に値いするもので、その立上りの明快さと、余韻の素晴らしさは、このディスクの理想的ともいえる直接音の明瞭度と、豊かなホールトーンのブレンドの妙を余すところなく再生するものであった。
 多くのレコードを聴くうちに、このスピーカーの音の美しさについてぼくはあることを考えさせられ始めたのであった。それは、この音の美は、まぎれもなく欧米のスピーカーの魅力の要素とは異なるものであることだった。この美しさは、決して、強烈な個性をもったものではないし、激しさを感じるものではない。花に例えれば、大輪のダリヤなどとは異なるもので、まさに満開の桜の美しさである。.それも決して、重厚華麗な八重桜のそれぞれではなく染井吉野のもつそれである。いいかえれば、これは日本的美学の開花であるといってもよい。かつてぼくは、同じダイヤトーンの2S305について、これに共通した美しさを認識したことがある。この古いながら、名器といってよい傑作は、外国人にとっても、素晴らしく美しい音に感じられるらしく、ぼくの録音関係の友人達が、「日本製スピーカーで最も印象的なもの」として、この2S305をあげていたのを思い出す。その中の一人であるアメリカ人エンジニアのデヴィッド・ベイカーは、2S305の美しさは彼等にとってエキゾティシズムであることを指摘していたが、これはたいへん考えさせられる発言であると思う。美意識の中からエキゾティシズムを排除することは出来ないとぼくは思っている。ぼくたちが、外国の優れた魅力的スピーカーに感じる美の中にも、大いにエキゾティシズムが入っているのではなかろうか。異文化の香りへの強い憧れと、その吸収と昇華創造は、人の感性の洗練や情操にとって大切なものであるはずである。
 もう、二十年も前の話だが、亡くなったピアニスト、ジュリアス・カッチェンの録音をした時に、カッチェン氏がヤマハのピアノに大いに魅せられ、横にあるスタインウェイを使わずに、ヤマハを使いたいといったのを思い出す。ぼくたち録音スタッフは、そこで弾きくらべられた二台のピアノを聴いてスタインウェイによる録音を強く希望したのだが、カッチェン氏は「こんな美しい音のピアノに接したことはない……」といってヤマハの音を愛でていた。そういえば、ぼくの外国の友人達で日本の女性を恋人、あるいは妻にした人が何人かいるが、そのほとんどの女性は、きわめて東洋的な造形の容貌の持主で、その顔は、早いえばば「おかめ」の類型に属する人達だ。眼が大きくて二重まぶたで、鼻の高い日本女性は、外人の眼にはエキゾティシズムが希薄なのだろう……。ぼくなんかは、そっちのほうに強い魅力を感じてならないのであるが……。しかし、今や、外国文化への憧れも落ち着いて、日本的な美への認識が高まり、誇りをもって日本文化に親しむようになったようにも思う。時代もそうなったし、ぼく自身も年令のせいか、年々、日本文化への強い執着と回帰を意識するようになっている。だから、一時のように、日本のスピーカーメーカーが、自ら『アメリカンサウンド』や『ヨーロピアンサウンド』などを標榜する浅はかさには腹が立ってしかたがなかった。
 こんなわけで、日本のスピーカー技術が、世界的に高いレベルにあって、そのたゆまぬ努力のプロセスが、いつの日にかスピーカーの宿命である音の美と結びつかなければならない時にこそ、日本的『美学』を感じさせるようなスピーカーが誕生するはずだし、そうなって欲しいものと思い続けてきたのである。
 ダイヤトーンというメーカーは、音の面だけからぼくの個人的な感想をいわせてもらうなら、2S305以来、これを越えるスピーカーを作ったことはなかったと思うのである。その技術力や、開発力、そして真面目さは、常々敬意を払うに値いするものだと思ってきたし、変換器テクノロジーとして、その正しい主張にも共感するところは大きかった。しかし、ぼくがいつもいうように、部分的改善と前進はバランスをくずすという危険性を承知の上で、あえてその危険を犯し続けてきたメーカーでもあったと思う。今から10年前、ハニカム構造の振動板を採用した時に、ぼくはその音の質感に大いに不満をもってメーカーに直言したものである。したたかな技術集団が、こんなことで後へ引かないことは十分承知していたが、かといって、その音を全面的に容認することは出来なかった。後へ引いては技術の進歩はないわけだろうが、かといって、進歩のプロセスでバランスを欠いた妙な音を、局所的に優れた技術的特徴で説得し、「美しい音ではないかもしれないが、これが正しい音なのだ」と強引にユーザーを説得をされてはたまらない。10年間の長い期間、ぼくはダイヤトーンのスピーカーの音の面からは批判し続けながら、その技術的努力を高く評価してきたのである。
 こうした過程を経て遂に、音楽の愉悦感を感じることの出来るスピーカーシステムが誕生したのであるから、これはぼくにとっても大きな出来事であった。
 ここ数年、ダイヤトーンが、剛性を強く主張する姿勢と共に、音楽を奏でるスピーカーにとって『美しき妥協』が必要なことを認識しているらしい姿勢は感じとることが出来るようになってはいた。特にエンクロージュアについての認識が、片方において冷徹なモーダル解析を行いながら、天然材のもつ神秘性を発見することによって高まってきたことが、ぼくにとって陰ながら喜びとするところであったのだ。『美しき妥協』と書いたが、これは『大人としての成長』というべきなのかもしれない。このスピーカーに限らず、ダイヤトーンの全てのスピーカーにはコストの制約こそあれ、一貫して見られる高剛性、軽量化の思想が、振動系、構造系の全てに見られる。もちろんこれはダイヤトーンに限らず、すべてのスピーカーメーカーが行っていることなのだが、ダイヤトーンはその旗頭である。
 今年は、多くの日本のメーカーが、期せずして、優れたスピーカーを出し、実りの多い年であったが、これは、日本のスピーカー技術のレベルが一つの頂点に達し、その高い技術レベルを土台にして、技術と美学の接点に立って精一杯、音の錬磨をおこなった結果であろうと思われる。
 音楽的感動を最終目的とするオーディオにあっては、この両面のバランスこそが優れた製品を生む必須条件であって、これこそが真の『オーディオ技術』というものだとぼくは信じている。だから、そこに人がクローズアップされざるを得ないのだ。つまり、技術はデータに置きかえられやすいし、保存も積み重ねも可能である。そして、グループの力が必要であり、時として他分野の協力も得なければならない。しかし、美学的領域に属する仕事はそうはいかない。多くの人の協力や、英知を集める協議はもちろん有益だが、絶対に中心人物の存在が必須である。よきにつけ、あしきにつけ、一人の人間、一つの個体を中心とするファミリー的構成がなければ、美の実現は不可能なものである。それが、プロデューサーとかディレクターと呼ばれる人人間の必要性だ。ダイヤトーンの場合、三菱電機という大メーカーの一部門であるから、プロデューサーは社長である。現実には、その意を帯びた部長ということになるのだろ。DS10000を試聴した時、ぼくの傍らで熱心に説明してくれた一人の青年技師がいたが、彼が、このスピーカーの担当ディレクターに違いない。矢島幹夫氏がその人だ。そして、ダイヤトーン・スピーカー技術部には佐伯多門氏という、大ベテランがおり、プロデューサーとして矢島氏を支えたと思われる。これはぼくの勝手な推測であって確かめたわけではないのだが、ほぼ間違いあるまい。もちろんこのような大会社では、さらに多くの周囲の人達の熱意がなければ動くまい……(ここが大会社とオーディオの本質とのギャップになるところなのだが……)と思われるし、この製品が、ダイヤトーン40周年記念モデルになったことをみても、社をあげての仕事といえるであろう。しかし、中心人物の並はずれた情熱と努力がなければ、こういう製品は生れるはずはないと思われるのである。そういえば、あのオンキョーのグランセプターGS1という作品も由井啓之氏という一人の熱烈な制作者がいてこそ生れたものだった。GS1が、ホーンシステムにおいて刮目に値する製品であるのに続いて、ダイヤトーンがこのDS10000で、ダイレクトラジエーターシステムによって、このレベルの製品を誕生させたことは、日本のスピーカー界にとって大きな意味をもっていると思うものである。
 ところで少々話がスピーカーそのものからはずれてしまったが、もう少し、細部にわたって、このシステムを眺めてみることにしよう。また、詳細については、編集部が、別途取材したダイヤトーンのスタッフの談話があるので、併せて参考に供したいと思う。
 DS10000は、27cm口径のウーファーをベースにした3ウェイシステムである。スコーカーは5cm口径のドーム型、トゥイーターは2・3cm口径の同じくドーム型である。
 ウーファーの振動系はハニカムをアラミッド繊維でサンドイッチしたもので、カーヴドコーンである。アルミハニカムコアーとアラミッドスキン材との複合により、高い剛性と適度な内部損失をもち、このタイプのウーファーとして高い完成度に到達したと思われる。27cmという口径からくるバランスのよい中域への連続性と、質感の自然な、豊かでよく弾む低音を実現していて、ハニカムコーンの可能性を再認識させられた。
 スコーカーの振動系はボロンのダイアフラムとボイスコイルボビンの一体型で、トゥイーターもこれに準ずるものだ。磁気回路とフレームを強固な一体型としているのは従釆からのダイヤトーンの特徴であり、振動系の振動を純粋化し、支点を明確化して、クリアーな再生を期しているのも、DS1000、DS3000以来の同社の主張にもとづくものである。
 エンクロージュアはランバーコア構造材の強固なもので、バッフルと裏板の共振モードを分散させるべく、そのランバーコアの方向性を変えている。漆黒の美しい塗装はポリエステル樹脂塗装で、グランドピアノの塗装工場に委託して仕上げられているそうだ。好き嫌いは別として、この漆黒塗装仕上げによる美しい光沢をもつた外観は、このシステムにかける制作者達の情熱をよく表現していると思うし、わが家に置いて眺めていると、初期の軽い違和感はだんだん薄れ、その落着いたたたずまいと、高密度のファインフィニッシュのもつ風格が魅力的に映り出す。ユニットのバッフルへの固定ネジには一つ一つラバーキャップがとりつけられる入念さで、音への緻密な配慮と自己表現が感じられ好ましい。別売りだが、共通仕上げの台のつくりの高さも立派なもので、ブックシェルフスピーカーの最高峰として、まさに王者の気品に満ちている。
 DS10000は 『クラヴィール』という名前がつけられており、これはピアノ塗装の仕上げイメージからの名称と思われるが、ぼく個人の好みからいうと、こんな名称はつけないほうがよかった。あらずもがな……である。
 磨き抜かれた外観の光沢にふさわしい、このシステムの美しい音は、バランスの絶妙なことにもよる。アッテネーターはなく、固定式であるが、このシステムがアンバランスに鳴るとしたら、部屋か、置き方に問題があるといってもよい。ウーファーからスコーカーへのクロスオーバーがきわめてスムーズで、中域の明るい豊かな表現力が、これまでのダイヤトーン・スピーカーのレベルを大きく超えている。4ウェイ構成をとっていたDS5000、DS3000は別の可能性をもっているのかもしれないが、これを聴くと3ウェイのよさがより活きて、ユニットの数が少ない分、音はクリアーである。剛性の高いウーファーのため、低域の堂々たる支えが立派で、27cmという口径が、「いいことづくめ」で活きているように思われる。
 現代スピーカーとして備えるべき条件をよく備え、曖昧さを排した忠実な変換器としての高度な能力が、かくも美しき質感と魅力的な雰囲気を可能にしたことがたいへん喜ばしい。これが、今後、どういう形で、他製品への影響として現われるか楽しみである。
 こう書いてくると、いいことずくめで、まるで世界一のスピーカーのように思われるかもしれないが、スピーカーには世界一という評価を下すことは不可能であることを最後に記しておきたい。オーディオのうに、オブジェクティヴなサイドからだけの判断では成立しない世界においては、これは自明の理である。スピーカーに限らず全てのコンポーネントは、そう理解されなければならないが、特にスピーカーには、この問題が大きく存在する。要は、オブジェクティブなファクター、つまりは物理特性のレベルがどの水準にあって、その上に、いかにサヴジェクティヴな音の嗜好の世界が展かれるかが問題である。技術の進歩は、たしかに、このオブジェクティヴなレベルを向上させるものではありるが、そのプロセスにおいては時として、サブジェクティヴな美の世界を台無しにする危険もある。ダイヤトーンのDS10000は、オブジェクティヴなレベルが、ある高みでバランスしたからこそ生れたものであり、優れた変換器として讚辞を呈するものであるが、なお、嗜好の余地は広く残されているのである。だから、ぼくには、単純に世界一などというレッテルを貼る蛮勇はない。

ダイヤトーン DS-3000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 プログラムソースのデジタル化は、コンシュマーサイドでは、EIAJフォーマットのPCMプロセッサー、CD、ごく最近でのLDをデジタル化したLDDとバラエティも豊かになり、かつては、特別な響きをもって受け止められていた『デジタルプログラムソース』の言葉も、最近は身近な存在となり、伝統的なアナログプログラムソースと共存のかたちで定着しつつあるようだ。
 デジタルプログラムソースの一般化により、その桁外れに優れた基本特性に裏付けられた情報量豊かなサウンドと素晴らしい機能の両面から、従来の伝統的なアナログプログラムソースで育ち、発展してきたオーディオコンポーネントの全ジャンルにわたって、少なからぬ影響を与え、非常に興味深い結果が生じているようである。
 ダイヤトーンの新世代の到来を感じさせた500シリーズの第1作DS505は昭和55年に発売されたモデルだが、いち早くデジタルプログラムソース時代に対処して開発された、いわばデジタル対応スピーカーシステムの第1号機ともいえるコンセプトをもつシステムであった。
 今回、発売されたDS3000は、4ウェイ方式完全密閉型エンクロージュア採用というアウトラインから判断すれば、DS505を受継ぐモデルと思われるだけに、いわゆるマークII的なモディファイによる開発なのか、または、似て非なる完全な新製品であるかについて、DS505以来のDS503、DS501と続く500シリーズ、一昨年から始まった1000シリーズともいうべきDS5000、DS1000などとの相関性から探ってみることにしよう。
 最初に、ユニット構成、使用ユニット、スペックなどからDS505とDS3000の比較をしてみよう。基本コンセプトが同一だけに、両者の相違点を探せば結果は明瞭に出るはずだ。
 まず、エンクロージュア関係では、外形寸法的な高さと幅が3cm大きくなり、外容積では13ℓ増加しているが、内容積は70ℓから78ℓへの増加だ。外観的には判らないが、ミッドバス用バックチャンバーは、DS3000用のユニットの磁束密度が向上しているため、チャンバーに取り付けたときのQを臨界制動の0・7にする目的で、容積は12ℓから9・7ℓに縮少された。また、使用材料の変更で、本体重量は42kgから52kgに増加した。
ユニット関係では、低域と中低域振動板はアラミドハニカム・ストレート型コーンを採用し口径も同じだが、磁気回路とフレームの相対的な構造はDS1000で初めて採用されたDMM方式になっている。
 中高域と高域は、チタンベースにボロンを拡散した独自の製法による材料を使い、ボイスコイルと振動板を一体成型した直接駆動DUDドーム型採用は同じだが、中高域ユニットの口径が40mmから50mmに大型化され、ダイアフラム周辺に取り付けられた6個のディフューザー的なフィンは廃止された。なお、構造的には、低域や中低域ユニットと同様に、DS1000での技術を受け継いだDM方式が採用された高剛性設計である。
 また、発表された定格からは、再生周波数帯域、最大許容入力、定格入力などに相違を認めるが、決定的な差はなく、周波数特性、指向周波数特性での僅かな改善と、高調波歪特性で現状の限界値と思われる、100Hz~10kHz間で-60dBというラインに、DS505より一歩近付いたようだ。
 これらかち判断すると、デジタル対応スピーカーシステム第1号機として誕生した昭和55年当時のDS505において既に、ユニット関係の、とくに振動板周辺技術は完成されており、現在でもトップランクの性能を当時から獲得していた先進性は、発表された定格値が示している。
 一方、DS505以来の500シリーズの歩みを考えてみると、翌年の昭和56年に、口径65mmDUDボロン振動板採用の中域ユニットを開発し、ダイヤトーンの3桁シリーズは完全密閉型が原則という禁を破ったバスレフ型3ウェイシステムDS503を開発し、続く、昭和57年に新材料ωチタン採用の3ウェイ密閉型システムDS501と、DS502での開発の成果である65mm口径のDUDドームユニットに、新開発のアラミドハニカム・カーブドコーン採用の27cm口径ミッドバスユニットを中核とした4ウェイ構成バスレフ型のフロアーシステムDS5000を完成させている。このDS5000は、モデルナンバー的には500シリーズを受け払いだ♯1000シリーズの第1弾製品であるが、使用ユニットからみれば、500シリーズの技術の集大成として頂点を極めたモデルであり、モデルナンバーもDS500+0と考えられ、500シリーズのスペシャリティという類推もなりたつように思う。
 CDが実用化され、実用面での安定度が高まり、ソフト側のプログラムソースも数を増しはじめた昨年秋に、ダイヤトーンが新製品として発売したDS1000は、DS5000やDS505以来の500シリーズのシステムとは、一線を画した内容をもつコンパクトなブックシェルフ型システムである。表現を変えれば、500シリーズが新世代のダイヤトーンを象徴するとすれば、DS1000は新々世代、つまり、近未来型ダイヤトーンシステムの出発点となるモデルである。その技術的内容は500シリーズで展開し、完成されたアラミドハニカムとDUDボロンの2種類の振動板の優れた性能を一段と高め、より次元の高い音の世界への進化を目的として、振動板周辺のユニット構造を再検討し、構造面での性能アップを図っている点が最大の特徴である。
 この構造面での新技術は、きわめて基本的な部分での検討に端を発したもので、コーン型ユニットのフレームと磁気回路の相対関係にメスを入れたDMM方式と、ドーム型ユニットのフレームレス化を計ったDM方式が2本の重要な柱であり、DMM方式の採用で問題点として浮上してきたことがらが、変形8角フレームよりも振動減衰モードが単純で、音質向上ができる円形フレームの採用と、均等分割8点止めのユニット取付方法、さらに、フレームの不要輻射を抑えるための前面露出面積の縮少などがあげられる。
 これらの新構造ユニットの完成でクローズアップされたものが、ディフラクションを抑えるラウンドバッフルの採用へとつながった。ダイヤトーンにとってはこのラウンドバッフルは、放送用モニター2S305に初採用し2S208へと続く、いわば伝統的な手法であるが、このタイプを最初にコンシュマー用に採用したのがDS1000だ。
 このように、スピーカーシステムを歴史的に開発の流れに従って眺めてみると、今回発売されたDS3000は、1000シリーズのモデルナンバーが意味するように、DS1000をベースに4ウェイ構成化をしたシステムであることが判るであろう。
 DS3000で採用された4ウェイ構成は、帯域の分割方法により各種のバリエーションが存在するが、ここでは当然のことながら、DS505、DS5000での成果が反映された設計になるであろう。
 DS505の開発時点でダイヤトーンが名付けた、ミッドバス構成4ウェイシステムという考え方は、一般的な3ウェイシステムの場合に、低域を受持つウーファーは重低音から中低域までをカバーしており、これは音楽の最もエネルギー量の多いところだが、1個のユニットでこの帯域を完全にカバーすることはたいへんに難しいようだ。
 大ホールのライブネスやライブハウスのプレゼンスを重視すれば、中低域のレスポンスはタップリ必要となるが、それでは重低音が弱くなり、いわゆる重心が高い腰高の低音になってしまう。逆に、重低音を要求すれば、線が太くゴリゴリとした、力感めいたものがある低域になるが、いわゆる楽器の低音とは少し異なったものになる。
 現実は、二者択一で、重低音型のチューニングのほうがユーザーに判りやすく、いわばオーディオファン好みでもあるため、このタイプのほうが一般的であり、巷の評価も高いように思われる。
 この3ウェイ方式での問題点である低域ユニットの受持帯域を、重低音を受持つウーファーと中低音を受持つミッドバスユニットに分割したものが、ミッドバス構成4ウェイ方式とダイヤトーンで名付けたタイプで、それぞれの帯域を専用ユニットで再生するだけに制約は少なく、理想に近い低音の実現が可能である。
 この構想に至るまでには、ダイヤトーンにも、かなりの期間が必要であったようだ。もともと、コンプリートなスピーカーシステムとして市販されている製品では、4ウェイ構成のシステムはそれほど多くないが、ダイヤトーンではコンシュマーユースのシステムを手がけた第1作のDS301が4ウェイ構成を採用している。しかしこの場合の帯域分割の方法は、1500Hz以上を3個のユニットで分割したタイプで、放送用モニターシステム2S305の高域ユニットTW25の受持帯域を3ウェイ化したような特殊な4ウェイ化である。
 DS301の次期モデルとして開発されたDS303も4ウェイ構成のシステムだ。この場合は、低域と中域のクロスオーバー周波数が600Hzあたりで、標準的な3ウェイシステムにスーパートゥイーターを加えたとも考えられる帯域分割である。
 この2モデルの開発を通じて得られた結果が、ミッドバス構成4ウェイシステムに到達し、ユニット開発面での性能向上の要求が、コーン型ユニットではハニカムコンストラクションコーンの開発 スキン材のCFRPからアラミドへの発展と進化し、ドーム型では、フェノール系、紙などを使った従来型のタイプから、ボイスコイルボビンとダイアフラムを一体成型したDUDボロン型が開発され、従来のモデルにくらべて驚異的ともいえる性能と内容をもったDS505が完成されたわけだ。
 DS3000の低域と中低域ユニットは基本となるDS1000の27cmウーファーの帯域を拡張し2分割するために、結果としてはDS505での成果を受け継いだ32cm口径のウーファーと16cm口径のミッドバスユニットとなったが、ユニット構造はともにDMM方式を採用している。
 DMMとは、ダイレクト・マグネティックサーキット・マウントの略で、簡単にいえば、スピーカーフレームと磁気回路を機械的な強度を上げて結合しようというものである。国産ユニットでは一般的に、磁気ギャップがある前側の磁気プレートはフレームとネジで国定してあるが、マグネットとポールを含む後側磁気プレートは接着剤で糊付けする方法がとられている。
 ボイスコイルにパルシブな信号が人り、例えば前に動けば、その反動でフレームと磁気回路は後に動くのは当然であるが、このときに、フレームと前側のプレートと、マグネットと後側プレートは、接着剤で固定されているため個別な運動をするわけだ。
 海外製品ではマグネットのフェライト化にあたり、古くは米ポザーク、昨今では英タンノイ、米JBLなどは、この糊付部分は、ネジで固定し強度的にも問題はないようにしている。
 DS3000で採用されたDMM方式は、低域はフレームと別ピースのブロックで磁気回路を抑えるタイプ、中低域が磁気回路全体をフレームが包み込むタイプと、構造的違いはあるが、保持する部分が後側プレートのボールピース外側を抑えるアウターサポート方式と呼ばれるタイプで、DS1000のボールピース中心を抑えるセンターサポート方式と異なった方法を採用している。
 両者の得失は、モーダル解析の結果から、一次モードに対しての制動効果はセンターサポートが強烈だが、高次モードの高い周波数では効果が激減するのとくらべ、アウターサポートは広い周波数帯城のモードに安定した効果があり、ミッドバスを含めた中低域までの高剛性化では、アウターサポートが優れるという。この結論から、DS3000ではアウターサポート方式が採用された。
 中高域ユニットと高域ユニットは、独自のボロナイズドチタンDUDドーム型でDM構造採用である。DMとは、ダイレクトマウントの略で、従来型がフレームに振動系を組み、これと磁気回路をネジで固定していたが、DM方式では、磁気回路の前側プレートに振動系を組み、このプレート自体をエンクロージュアに取り付ける構造で、磁気的なエネルギーロスにより、わずかに磁束密度に影響は出るが、フレームの固有音や共振が皆無となり、シンプルで高剛性化が達成でき、非常に優れた応答性を実現している。
 中高域ユニットは、外観はDS1000の中域ユニットと類似するが、バックチャンバーレスとなり、バックチャンバーの形状、材質などに起因する固有音の発生や鳴きがなく、一段と純度が高い再生音が得られるユニットに発展している。なお、振動板関係は、DS1000の中域ユニットとエッジ部分を除いて共通である。このタイプのダイアフラムは、DS505の中高域ユニットと比較して、口径のほかに、ボロンが強化拡散化され物性値の向上と、ボイスコイルボビン部分までボロン処理が行なわれ、ボビンの長さも短縮してある。
 高域はDS1000のトゥイーターと同じ振動系に、φ85×φ32×13tからφ100×φ50×16tのストロンチュウムフェライト磁石を採用し、これはDS505の高域ユニットと同じものだ。
 エンクロージュア内部の吸音材も音質を左右するポイントとして、一部では古くから研究が続けられてきた。DS505時点でも、聴感上でのSN比を向上させるために、ナイロンロック、アセテートファイバーにグラスウールを加えた吸音材が採用されていたが、フレームを含めたユニット関係やネットワーク関係での高SN比が促進されたために、DS3000ではグラスウールは全廃され、ピュアウール、フェルト、ナイロンロックの3種のノイズの少ない吸音材が使われている。ちなみに、グラスウールはノイズの発生が目立つが、繊維状のガラスとほぼ同量の粒子状のガラスが混っているのがその原因であろう。この点で少しは、米国系のグラスウールは粒子の混入が非常に少なく、ノイズの発生も少ない。いずれにせよ、吸音材関係の研究は、いまだにメーカーサイドでもあまり意欲はなく、マンネリな吸音材の使用をしているのが実態のようで、音質に非常に有害なアッテネーターやレベルコントロールの問題を感知していない点も含み、使う側の使いこなしの欠如とも相まって、スピーカーの問題点は山積しているようである。
 ネットワーク関係も、ユニットと同等に音質を左右する重要なファクターである。基本的には、フィルムコンデンサーを主体としたDS505当時とは逆に、フィルム系独特の音的な強いキャラクターを避けるため、音質面で充分に検討されたバイポーラ電解コンデンサー主体の方向に進んでいる。
 アッテネーター、レベルコントロールの類を全廃しているのは、DS1000に続く見事な英断である。レベルコントロール用のツマミ類は、それ自体が、パッシブラジエーター的に中高域あたりの周波数でノイズを発生することにはじまり、アッテネーターをバッフル面に設けることにより、配線経路の延長と磁気フラツクスの影響による歪の発生、接点の存在や半田付処理の必要、さらに経時変化的接触不良の問題、バッフル板に穴あけが必要で、バッフルの響きを損うなどの問題が発生する。性能、音質を極限にまで追求する高級スピーカーシステムにおいては諸悪の根源といっても過言ではない存在だ。
 コイル関係は、ダイヤトーン独自の特殊コア採用の低歪型。配線材料は一種OFC、1・4スケアを中低域と中高域に、LC-OFCを低域と高域に使い分けている。素子間の接続などは、すべてノンプレーティングOFCスリーブを使用した庄着によるもので、入力端子部分のターミナルはDS5000と同一仕様の大型金メッキターミナルを採用し、各ユニット間の電流密度を均一化する特殊給電方式が採用されている。
 DS3000の試聴を始めることにしよう。このクラスの完成度が高いシステムでは、結果を決定的に支配するのがセッティングである。セッティングに関係なく、だれが使っても良い音で鳴るスピーカーが優れた製品とされた時代があるが、基本性能を向上させ、細部のモディファイを続けて追い込んでいくと、スピーカーシステムは、反応がシャープになり、無視されるようなセッティングの差や、わずかのアンプやプレーヤーシステムの使用条件の変化も音の変化として聴かせるようになるものだ。
 現在の優れたスピーカーシステムは、適当なセッティングでも程よく鳴り、正しく使いこめばシャープに反応を示し、圧倒な素晴らしいサウンドとプレゼンスが得られるものだと考える。このことは、いわゆるシャープな音からソフトな音まで、ダイナミックなサウンドからキメ細やかな繊細な響きまで、かなりの幅でコントロールできるだけのフレキシビリティを備えることを意味している。
 最初のラフなセッティングは、重量級のブロックや硬質な木製のブロックなどを置き、その上にスピーカーをのせて、ガタガタしないように置くことが条件である。ブロックを2段積む場合は、ブロック間に数mm厚のフェルトを挟む必要があり、スピーカー底板とブロック間にもフェルトを敷くべきだ。
 調整は、左右のブロックの幅をコントロールして低域と高域のバランスをとり、続いて前後方向に移動をさせてシステムの鳴りっぷり、表情をコントロールする。ポイントは、左右、前後ともに大幅に置き方を変えてみて、変化量を試してから細かい調整をすることだ。細かいコントロールを要求するときには、ブロックの穴は吸音材などで塞ぐべきであるし、スピーカー底板と床面、左右のブロック間の反射を避けるために、スピーカーに当らぬように吸音材を軽く入れるとよい。この吸音材にグラスウールの使用は不可だ。詳しくは、本誌71号の特集を参照されたい。
 本誌試聴室での試聴は、硬質な木製ブロックを1段で使ったが、床がコンクリートの上にカーペットを直接貼った仕上げのためか、この木製のブロックでは、やや重く、鈍く、反応が遅い傾向の音になるようだ。この条件では、重量級ブロックかビクターのLS1のような木組みのスタンドがマッチするだろう。使用コードはLC-OFC。手元にあったのは4本の芯線がパラレルになったタイプだけで、しかたなくそのうちの2本のみを使い、残りは使用していない。
 全体の傾向としては、柔らかく芯がクッキリとした安定感のある低域をベースに、、厚みのある中域、シャープな分解能が高い中高域から高域という広帯域型のバランスをもつが、聴感上のSN比が非常に優れ、音像定位がクリアーに立つ、音場感情報の豊かさが他のシステムと一線を画した特徴で、聴感上のSN比は、ブロック周辺の吸音材の使用と密接な関係がある。
 注意点としては、システム全体のメインテナンス、つまりコード関係のクリーニングやAC極性のチェックと機器の給電方法、プレーヤーやアンプの置き方などをあらかじめ整えてからヒアリングを始めることだ。システムに不備があれば、それはそのまま音に出て、スピーカーの責任と受け取りやすいことが往々にしてあるからである。DS3000はまず、整備された試聴室などで試聴をし、少しセッティングを変えながら、自分にとって好ましいかをチェックすることが必要であろう。イージーに使っても、優れた特質の片隣は聴かせるが、どのように使いこなすかによって、結果は大幅に変わるだろう。これが、試聴の印象を最少限にとどめた理由である。DS3000は使い手の力量が試されるシステムである。しかしそれにもまして、内に秘めた力をとことん引き出してみたいという強烈な誘惑にかられるシステムである。

ダイヤトーン DS-1000

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの当初からの伝統的なコンセプトともいうべき、小型高密度設計の思想を現在に伝えるモデルが、このDS1000である。
 外観上は、この価格帯のシステムとしてひとまわり小型であり、サイズが重要な商品価値とすれば、物足りない印象を受けることもあるだろう。しかし、エンクロージュア形状に、回折効果を抑えて音場感情報が豊かなラウンドバッフル構造を採用しているあたりは、放送モニター2S305のイメージを残した、高性能タイプらしい主張が感じられる。
 基本的な構想は、新世代のダイヤトーンシステムとして開発されたDS505以来培われてきたハニカムコンストラクションコーンとDUD構造が、すでに完成期を迎えたことをひとつの契機として出発している。つまり、ユニット全体の完成度をさらに一段と高める目的で、ユニットを構造面から再検討し、見直すというアプローチである。
 この構造面からの検討というのは、逆に考えれば、独自の材質と構造をもつハニカムコンストラクションコーンやDUD構造の潜在的能力をさらに引出そうという意図でもある。つまり、従来構造をベースに検討された振動系の可能性の限界が、新しく、理論的に合理化さされた構想を土台とすれば、さらに未知の領域にまで発展する可能性があることを意味している。
 ウーファーフレームは異例に大型で、磁気回路全体を覆い、後から磁気回路をフレームに強固に保持する構造が特徴である。
 現在の国内製品では、磁気回路とフレームはネジ止めされているが、それは、前側のプレートとフレームのみであり、磁石とボールを含む後側のプレートは、接着材で固定されているのが普通だ。
 磁気回路とフレームの重量は、振動系の重量よりは圧倒的に大きく、振動系の動きに対しての反動は無視できる値とするのが常識的な様子である。しかし、海外製品を見ると、アルテック、JBL、タンノイなどでは、前後のプレートは、磁石を間にはさんでネジ止めされ、そして、前側のプレートとフレームが別のネジで固定されるという構造である。このあたりは、機械的な部分に伝統的な強みをもつ彼等らしい確実な手法である。
 このタイプを一段と発展させ、フレームで磁気回路を抑え込む構造がDS1000のウーファーの特徴だ。
 中域と高域ユニットは、ウーファーとは異なった手法である。いうなれば、シンプル・イズ・ベストの考え方による単純化が行われている。従来は、ユニットをエンクロージュアに取付けているフレームにまず振動系を取付け、さらにこれを磁気回路に、ネジ止めしていたわけだが、DS1000では、磁気回路の前側のプレートそのものをフレームとし、これに振動系を取付けるという単純化がなされている。振動系にとっては、支持されている位置が、磁気回路自体なのか、間接的なフレームなのかの違いだが、この差は大きく、高速応答性面での改革が果されている。
 音としての基本ラインは、ワイドレンジ高速応答タイプのサウンドであるが、中、高域ユニットのSN比が向上し、いわゆるダイレクトで、シャープなDUDボロンドームのキャラクターと従来いわれていたものの大半が実はフレーム関係の共振や共鳴が原因であったことが判かったようだ。
 一方、土台を受持つウーファーは、余裕があり、安定感が増し、音が鮮明になったことが特徴だ。また、音場感的な空間情報の量が大幅に増大したことは、このDS1000独自の特徴で、これは新しい次元への展開を予感させる。
 使いこなしのポイントは、まず関連機器のメインテナンスが先決条件であり、システム系の問題点を、サラッと音として聴かせるため、これをスピーカー自体のキャラクターと誤認することが多いであろう。
 試聴時でも、置台は平均的な左右間隔、前後位置も基準位置としたままで、CDプレーヤーの置きかた、アンプの位置決めなどの差が、かなりクリアーに聴きとれた。とくにアンプ系の筐体構造面から生じる機械的な共振や共鳴は、中域から中高域のメタリックな響きとなってかならずと言っていいほど音に出るため、細心の注意が必要である。
 置台の間隔は、ブロックの幅2/3程度が底板に重なる位置、前後方向は、中低域の量感で伸びやかに鳴るように、中心からやや後に偏った位置が良かった。このシステムも、響きの美しさを引き出す意味においては、ブロックよりも、木製ブロックかキューブを是非とも使いたい。ブロックの場合には、上にフェルトを敷く必要があり、またブロックの孔の部分、および床とスピーカー底板の間の空洞には、吸音材を入れ、中域から高域の良い意味での高い分解能、ハイスピード応答の魅力を引き出したい。、本来の意味でのハイスピードとは、ナチュラルな反応のしなやかさと鮮度感であり、むしろ、物足らないほどの印象を受けることもあるだろう。
、ネジ類の増締めは、順序を追って適度を守って行えば、反応はかなりシャープに変化をする。とくに、スピーカーターミナル部分の増締めは、全体に音が静かになり、音場感の空間情報量が確実に増す。しかし、取付けネジが木ネジのため、取扱いに注意が必要なことは他のモデルと共通の要点だ。
 左右は、メーカー推奨のLRでよい。アッテネーター、バッジなどのオーナメントがいっさいないため、この部分での問題は生じないが、サランネットを取付けると平均的システム+αの範囲に留るため、質的な要求度が高いときには、ネットは取り外したい。
 コード関係は、大きくその影響を受けるため、OFCやLC−OFC系の同軸タイプで追い込みたい。少しのキャラクターを残しても情報量の豊かさが重要で、あとは置台の選択と、台上でのわずかな位置調整で、バランスの修整は比較的に安易である。

ダイヤトーン DS-1000

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンの新世代のスピーカーシステムは、大型フロアーシステム、モニター1で採用された、アルミハニカムコアにスキン材を両面からサンドイッチ構造にしたハニカム・コンストラクション・コーンの低域ユニットに、新開発のDUD(ダイヤトーン・ユニファイド・ダイアフラム)構造のダイアフラムとボイスコイルボビンを一体成形したドーム型ユニットを組み合わせ4ウェイ構成としたDS505がその第一弾だ。そして翌年のDS503、これに続くフロアー型DS5000と一年一作のペースで、そのラインナップを充実させ、デジタルプログラムソースに対応するハイスピードのサウンドを追求し続けてきた。
 今回、発売されたDS1000は、型番そのものはDS5000系を受継いではいるが、その内容は従来のシリーズとは、異なった構想に基いて開発されたオリジナリティにあふれた新製品である。
 開発の基本構想は数年にわたりモディファイを繰り返し、発展改良が加えられ完成期を迎えた、ハニカム・コンストラクション・コーンやDUDの娠動系をベースとしている。それをもとに、ユニットの原点ともいえるフレームに代表される機械的な構造面を見直し、従来よりも一段と優れた振動系の特徴を積極的に引き出し、性能が高く、音質が優れたユニットをつくり、これを従来のエンクロージュアの大小で製品の位置付けを決める手法ではなく、ダイヤトーンスピーカーシステムの出発点の主張である、小型高密度設計アコースティックサスペンション方式の小型エンクロージュアに収納しようというものである。
 エンクロージュアは放送モニター2S305で実績のある、回折効果を抑えて中音域を改善し、ディフィニッションが優れ、音質定位が明確な特徴をもつラウンドバッフルを、コンシュマー用システムとして最初に採用している。バッフルボード上には、従来モデルのようにレベルコントロール、サブパネルなどがない。これらは固有共振をもちバッフル面の振動やウーファーの背圧により駆動され、中域から高域にわたり一種のパッシブラジエーターとなる。その不要輻射を生じ音を汚していた部分を全廃し、ダイレクトプリント方式でデザイン処理を施しているのである。
 この部分の不要輻射による音質の劣化は、かねてより指摘していたことだが、やっとDS1000において初採用されたことは大変に好ましいことだ。ちなみに、どのスピーカーシステムに限らず、アッテネーターツマミ、パネルなどをガムテープなどでマスキングして聴いてみていただきたいものだ。想像を絶するほどの音質改良の効果は、誰にでも容易に聴き分けられるだろう。
 現状のシステムで、重要なバッフル板に余分な穴を開けデザイン上でのアクセントとすることは百害あって一利なしの典型だ。優れたユニットの性能、音質を劣化させる重要なファクターと知るべきである。
 ユニット構成は、27cmカーブドハニカムコーン採用ウーファー、5cmと2・3cmDUDチタンドーム型の中、高域ユニットの3ウェイ方式だが、各フレーム部分は完全な剛体構造の新設計である。低域用フレームは、振動板の反作用を受ける磁気回路の反動をフレーム自体で受けるDMM方式が特徴。ちなみに一般的フェライト磁石の磁気回路は、国内製品では構成部品は接着材で固めてあり強度的に不足しているが、海外製品は基本的に前後プレートをネジで強固に結んで固定しているのが原則である。JBLはもとより、古いボサークでさえネジ締めを行なっている。つまり反動を受ける磁気回路が宙ぶらりでは仕方ないわけだ。
 中高域ユニットも、従来型のように磁気回路をフレームで受ける方式ではなく、前プレートに振動系を直接マウントし、この部分でバッフルに取付けるダイレクトマウント方式が単純明解な処理である。
 詳細は省くが、とにかくスピード感、反応の鋭さ、早さは、このシステムの異次元の魅力である。設置方法、使用機器にわずかでも不備があれば、それを音として露呈するシビアさは物凄い。まず、これを正しく使いこなすことができれば、その腕は第一級であろう。恐ろしい製品の登場だ。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
基本をしっかりおさえた音のきこえ方とでもいうべきか。硬に対しても軟に対しても、過不足なく、バランスよく対応しているのはさすがである。❶での総奏の、力を感じさせながら、同時にひびきのひろがりもしっかり示す。❸ないしは❺でのコントラバスは、ひびきの円やかさを保ちつつ、くっきりと輪郭を示し、しかもぼてつかない。ひびきの力を示しながら重くならないところがこれのいいところである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノを、くつきり示す。しかし音像的にはいくぶん大きめである。❷での声も積極的に前にはりだす。しかしこれもまた音像的にはいくぶん大きめである。❸でのギターの音は、太く、輪郭をしっかり示しながら、提示される。決して雰囲気的にならないところがこのスピーカーのいいところである。❺でははった声の力を示しながら、それでもきつくならないところがいい。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
ひびきの力の提示、あるいはひびきの力の変化を、いささかもあいまいになることなく示す。❷でのティンパニの音などは迫力充分である。音場感的な面での前後のひろがりも充分ではあるが、しかしだからといってスペースサウンド的な性格をきわだたせるかというと、そうともいいがたい。❶でのピコピコとか❺でのポコポコは音像的に多少大きいが、充分な効果をあげているということはいえる。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音には独自の実在感がある。ベースの音にも似たようなことがいえる。❷でのバランスとまとまりはとびぬけてすぐれている。❸と❹でのシンバル等の打楽器のひびきの特徴も十全に示す。❺での木管楽器の一種独特の軽さと乾きの感じられるひびきにもこのましく対応して、それ以前の部分との対比にも問題ない。基本的なところをしっかりおさえているよさがこのましく発揮されている。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 決して皮肉な意味でいうのではないが、優等生的なスピーカーというべきであろう。きわだった、いわゆる個性的な魅力ということではいいにくい、しかし肝腎なところをしっかりおさえたスピーカーならではの、ここでの音だと思う。
 提示すべきものをしっかり提示しながら、しかし冷たくつきはなした感じにならないところがいい。①のようなタイプのレコードに対しても、そして③のようなタイプのレコードに対してもひとしく反応しうるというのは、なかなか容易なことではない。それをなしえているところにこのスピーカーの並々ならぬ実力のほどを感じることができる。まさに文字通りの実力派のスピーカーというべきであろう。
 安心して、神経をつかわずにつかえるということは、それだけつかいやすいということである。その点で傑出したスピーカーだと思う。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「THE BIG SOUND」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの源泉は、放送業務用のモニターシステムとして開発された2S305にある。口径5cmと30cmのコーン型ユニットを2ウェイ構成とし、それも、クロスオーバー周波数を1・5kHzと低くとり、ウーファー側は、いわゆるLC型ネットワークを介さずに、コーンのメカニカルフィルターのみでクロスオーバーし、レベルバランスは、トゥイーターの出力音圧レベルそのものをコントロールしておこない、直列抵抗やアッテネーターは使用しないという設計は、まさに芸術品とも呼べる精緻な見事さを備えている。
 新型ユニットとして急激に台頭したソフトドーム型ユニットが登場以後、スピーカーの分野では、軽合金系のアルミ合金、チタン、ベリリュウムなど、振動板材料を従来の紙以外に求める傾向が強くなっても、ダイヤトーンでは、コンシュマー製品を開発するスタート時点にこれほどのシステムが存在していただけに、伝統的な紙をダイアフラムに採用する手法がメインであった。例外的には、ドーム型スコーカーでのフェノール系ダイアフラムや、スーパートゥイーターでのアルミ系合金の採用があるが、これを除けば、ペーパーコーンがその主流であり、このあたりはいかにも2S305での成果をいかし、紙のもつ能力を限界まで使いきろうとする開発方針は見逃すことのできない設計者魂だ。
 このダイヤトーンが突然のように新振動板材料を登場させたのが、宇宙技術の成果をいかしたハニカムコンストラクションコーンである。しかも、一般的な中域以上のユニットではなく、ウーファーユニットから新材料を導入した点が、他社にない大きな特徴である。スピーカーシステムは、良いユニットと良いエンクロージュアを組み合わせて初めて完成する。当然の話であるが、ダイヤトーンの最初の製品が発表された当時、よく設計者から聞いた言葉である。
 これからも、ベーシックトーンを受持つウーファーに新振動板を導入し、単に材料の置換法ではなく、新しい振動板にふさわしいエンクロージュア設計を確立するのを第一歩とする方針は、きわめてオーソドックスな手法である。
 その第一弾がハニカムコンストラクションコーンで、1977年秋の業務用モニター4S4002Pでは中域、低域ユニットにCFRPをスキン材として採用し、DS90Cの低域ユニットではガラス繊維系のスキン材を使っていた。その後一年を経て、DS401とDS70Cの低域用にDS90Cと同様な構成の振動板が使われている。これ以後、1970年代が、この新型振動板を発展させ、使いこなすための基礎となった期間であろう。
 80年代に入ると、その成果は急激に実り、スキン材に、防弾チョッキにも使える強度と適度な内部損失をもつアラミド系繊維が導入され、ハニカムコンストラクションコーンは完成の域に達する。低域ユニットが紙の振動板では得られぬ高速応答性を得ると、次は中域以上の振動板材料の開発である。その回答として、ダイアフラムとボイスコイル巻枠部分を一体成型する加工法と、材料にチタンをベースとし、その表面をボロン化する独自の製法が開発される。
 この結果としての製品が、80年9月のDS505であり、クロスオーバーを350Hzにとったミッドバス構成4ウェイと、システムの高速応答性を意味するデジタル対応システムという表現が新しく提唱されたのである。続いて翌年の大口径DUDドーム型中域ユニット開発に基づくDS503の開発。別系統のトライである80cm、160cm口径の超弩級ウーファーの完成の過程を通り、集大成された結果が今回の4ウェイ・フロアー型という構想のDS5000であり、CD実用化の時期に標的を絞ったデジタルリファレンスに相応しい自信作である。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムは、低域振動板材料として軽金属ハニカムコアにスキン材を使うハニカム構造の採用から、新しい世代への展開が開始された。つまり、低域の改善からスタートした点が特徴である。DS401、90C、70Cなどが最初に新ウーファーを採用した製品であり、スキン材をカーボン繊維系に発展させたタイプが、大型4ウェイ・フロアー型のモニター1である。
 これらのプロセスを経て、全面的に使用ユニットが見直され、一段と飛躍を示した製品が、伝統的なDS301、303に続く高密度設計の完全密閉型システムDS505である。低域用スキン材に芳香族ポリアミド系のアラミド繊維を導入、軽量で、防弾チョッキにも使われる強度と適度な内部損失を活かし、ハニカムコーンの完成度を高めた。同時に、ボイスコイル部分と振動板を一体構造とした、DUDと呼ばれるボロン振動板採用のハードドーム型ユニットも新登場している。
 引き続き、昨年は大口径ボロンドーム型スコーカーとバスレフ型エンクロージュア採用のDS503が開発された。一方では、80cm、160cm口径の超大型ウーファーでのトライなどを経て、現時点のスピーカーシステムでのひとつの回答が、4ウェイ構成フロアー型という形態をもつ新製品DS5000であると思う。
 一般的には、DS505のフロアー型への発展とか、DS503の4ウェイ・フロアー型化というイメージで見られるだろうが、内容的にはDS505以来の2年間の成果が充分に投入された完全な新製品だ。
 基本的構成は、業務用としてスタートした40cm口径の伝統的な低域ユニットに、初めてアラミド繊維スキン材を導入してベースとしている。直径200mmのフェライト磁石採用で、ボイスコイル直径75mmは、4ウェイ構成専用ウーファーとしての設計。
 中低域用25cmユニットは、アラミド・ハニカム構造とダイヤトーン初のカーブドコーン採用が注目点で、システム中で最もシビアな要求が課されるミッドバス帯域での高域再生限界を高める効果を狙っている。このあたりは、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型の名称で登場したDS505の設計思想を踏襲したものだ。
 中高域用6・5cm口径ボロンドーム型ユニットは、DS503系がベースである。しかしユニットとしての内容は、ほとんど関連性がない新設計によるものだ。まず、振動板はチタンベースのボロン採用は同じだが、ボイスコイルを巻いている部分までボロン化が進められ、ボイスコイルの振動が、よりダイレクトにドーム振動板に導かれるようになった。磁気回路も強化された部分で、直径156mmのフェライト磁石は二段積重ね使用、磁気回路の厚みが増しているだけに、ポール部分の形状、バックキャビティなどは変更されている。また外観上では表面のダイキャストフレームに真ちゅう製金メッキ仕上げの特殊リングが組み込まれ、主としてフレーム共振のコントロールに使われていることも目新しい。
 高域用2・3cm口径ボロンドーム型ユニットも中高域同様にDS503系だが、2段積重ね型磁気回路による強化で、磁気飽和領域での低歪化の手法は中高域と同様な設計である。また、4ウェイ化に伴い、最低域のレスポンスの向上に見合った最高域レスポンスの改善のため、振動板関係でのリファインがおこなわれたユニットだ。
 なお、磁気回路の低歪化は、低域、中低域ともに、ダイヤトーン独自の磁気ギャップ周辺に特殊磁性合金を組み込む方法が採用されている。
 ネットワーク関係は、DS505で新採用された圧着鉄芯を使う独自の技術開発に基づく低歪みコアと無酸素銅を使うコイルと、適材適所に測定と試聴の結果で選択されたコンデンサーを従来のハンダ付けを廃した圧着接続で使うのはDS505以来の手法だが、圧着用スリーブに金メッキ処理を施したのは、今回が初めてのことだ。なお、ネットワークは、マルチアンプ駆動用に低域と中低域以上が分割使用できる4端子構造が採用されているが、端子、ショートバーともども金メッキ処理になっている。
 エンクロージュアは、針葉樹系合板を直交して貼り合せた2プライ構造のバッフルが板厚30mm、側板と裏板などは、同じく針葉樹系チップボードの2プライ構造で板厚24mmの材料を使う。内部補強棧関係も、減衰特性のきれいなシベリア産紅松単材を採用、表面はウォールナットのオイルステン調仕上げである。エンクロージュア型式は大口径のアルミパイプを使ったバスレフ型で、重量は約90kgとヘビー級である。
 試聴は、約10cmほどの硬質な木材のブロック4個で床から浮かしたセッティングから始める。プレーヤーは試聴室リファレンスのエクスクルーシブP3、カートリッジはデンオンDL305にFR Xf1の組合せ。アンプはスレショルドFET TWOプリアンプとS/500パワーアンプのペアだ。
 大口径ウーファー採用のフロアー型らしく、量感タップリでやや柔らかい低域をベースに、軽い質感で反応の速い中低域、シャープで解像力が高く、スピード感のある中高域が、鮮映なコントラストをつけて飛び出してくる。この音は非常にソリッドに引き締まり、情報量が極めて多い。プログラムソースの音を洗いざらい引き出して聴かせたDS505的なキャラクターを数段階スケールアップし、聴感上でのSN比を一段と向上したタイプにたとえられる。
 置台の材料を硬質な約10cm角、長さ50cmほどの角材に変えたり、位置的に、極端にいえば1cmきざみに変更し追込むと、DS5000は極めてシャープに反応を示す。トータルバランスを大きく変えることなく、ある程度の範囲で、柔らかいウォームトーン型バランスからシャープなモニターサウンド的イメージまでの幅でコントロールすることができる。
 表現を変えれば、置き方、スピーカーコードの選択、さらにスピーカー端子での接続を低域側と中低域以上の端子に変えることでの音質的変化を含み、結果は使いこなしと併用装置で大幅に変る。即断を許さないのがこのシステムの特徴である。
 ちなみに、アンプ系をより広帯域型に変え、適度なクォリティをもつCDプレーヤーと組み合わせて、CDの音をチェックしてみた。いわゆるCDらしい音は皆無であり、CDのもつDレンジが格段に優れ、SN比が良い特徴が音楽の鮮度感やヴィヴィッドさとして活かされる。音場は自然に拡がり、定位はシャープで、楽器の編成まで見えるように聴きとれる。これは、アナログには求められない世界だ。デジタルのメリットは、相応しい性能をもつスピーカーでないと得られないというのが実感。

ダイヤトーン DS-32B MKII, DS-37B, DS-503, DS-505

ダイヤトーンのスピーカーシステムDS32B MKII、DS37B、DS503、DS505の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

Diatone

ダイヤトーン DS-503

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 コーン型ウーファーの振動板材料に早くからハニカム構造振動板を採用したダイヤトーンの技術は、これを発展させアラミドハニカム振動板とダイアフラムとボイスコイルボビンを一体成型をする新技術によるボロンのドーム型ユニットを組み合わせた大型4ウェイブックシェルフ型システムDS505を昨年登場させ、デジタルオーディオ時代に対応するスピーカーシステムのありかたを提示し、反響を呼んだ。今回は、この設計方針に基づく第2弾製品として、3ウェイ構成のブックシェルフ型システムDS503が発売された。
 システムとしての特長は、従来からブックシェルフ型の高級機種には完全密閉型エンクロージュアを採用する伝統があり、これがダイヤトーンの特長であったわけだが、本機では初めてバスレフ型が採用されている点が目立つ。エンクロージュアは、包留柄接ぎ方式を採用し、ポート部分にはアルミパイプダクトを採用しているのが特長。
 ユニット構成は、新スキン材採用の32cmウーファーをベースに、ダイヤトーン・ユニファイド・ダイアフラムと名付けられた一体成型型直接駆動振動板採用で、新設計の65mmボロンドーム型スコーカーと同構造の23mmボロンドーム型トゥイーターの組合せである。ダイヤトーンDUDユニットの他の特長としては、ハードドーム型で一般的な手法である振動板の内側に制動材などによるダンピング処理がなく、そのうえ振動板前面のイコライザーもない設計があげられる。この利点は、アンプ関係の裸特性を向上してNFB量を少なくする設計と共通点がある。前面に障害物がなく、フリーダンプの振動板によるダイナミックで活き活きとした再生能力は、DUDユニットの隠された特長であり、魅力である。
 ネットワークはスピーカーシステムの成否を握る重要なポイントだが、本機では圧着方式配線と2分割型新固定方法の採用で、単純な従来の固定方法とは一線を画した成果を得ている。
 DS503は、床から30cm程度の台に乗せて最良のバランスとなる。低域は豊かで紙独特のノイズがなくクリアーである。中域のエネルギー感はたっぶりとあり、インパクトの強烈な再生能力は凄い。音の表情は505よりフレキシブルで親しみやすいが、併用装置による変化はかなり大きい。

ダイヤトーン DS-505

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 オーディオ帯域を専用ユニットで4分割する4ウェイは理想に近いユニット構成である。低音と中低音はアラミド・ハニカム構造コーン、中高音と高音はボイスコイル部分をも一体成型した特殊なボロン振動板採用で、振動板に制動材を使わずに性能を引出した技術は見事だ。ワイドレンジ、高分解能型の典型で、使用機器さらにプログラムソースのクォリティに敏感に反応する性能の高さは他とは次元が異なり、試聴上の注意点だ。

ダイヤトーン DS-37B

ダイヤトーンのスピーカーシステムDS37Bの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

DS37B

ダイヤトーン DS-505

井上卓也

ステレオサウンド 56号(1980年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムは、長期間にわたる放送用モニタースピーカーを主とした業務用機器での技術開発と実績を背景として、これをコンシュマーユースの製品開発に活かすという、他のメーカーにはない特長がある。
 業務用機器では要求される物理的な特性をベースに、高信頼度、高安定度が必須の条件である。たとえば、ユニット構造ひとつを例にあげても、同社の製品はコーン型ユニットを主とし、これにドーム型ユニットを中域、高域に配する手法が基本的である。振動板材質でも長期にわたり安定した性能を備え、充分に使いこなした紙がメインであり、高分子化合物のフィルムや金属などの採用は、むしろ例外的な使用ということもできるほど同社の設計方針は堅実である。
 今回発表されたDS505は、ユニット構成、新種振動板材料の全面採用、新型ネットワークなど、いずれの点からみても従来の製品とは一線を画した80年代の新システムともいうべき意欲的な製品である。エンクロージュアは完全密閉型を採用した大型ブックシェルフ型であり、同社の製品のなかでの位置づけは、小型、高密度設計をテーマとした高性能ブックシェルフ型の3桁のモデルナンバーをもつ、最初期のDS301、これに続くD303という、それぞれの時代に存在したブックシェルフ型システムのトップモデルを受け継ぐ同社のプレスティッジモデルである。
 DS301、DS303、DS505はともに4ウェイ構成である点は共通であるが、それぞれの時代のプログラムソースであるディスクの基本性能、それを再生するスピーカーシステムに対する要求の相関性から、4ウェイ構成のクロスオーバー周波数の設定には非常に興味深い変化があることに気付く。
 DS301が低域と中域のクロスオーバー周波数を比較的高い1・5kHzとし、それ以上を3ウェイ構成とした、いわば2S305のトゥイーター帯域を3個のユニットに分担させた高域重視の設計であったのに対して、次のDS303は、低域と中域のクロスオーバー周波数が約1オクターブ下った600Hzとなり、標準的3ウェイ構成プラス・スーパートゥイーターという設計に発展している。今回のDS505は、さらにクロスオーバー周波数が低く、350Hzとなり中低域と中高域が1・5kHz、中高域と高域が5kHzというブックシェルフ型システムとしては異例の本格的な4ウェイ構成に発展している。
 また、中域以上の振動板材質でも、DS301が紙系を主としたドーム型と超高域にメタルコーン型を採用していたのに対して、DS303では中域がフェノール系ダイアフラムのドーム型、中高域がパルプ系のドーム、超高域が軟質アルミのドーム型という材料の分散使用に変る。D得する505は、定位機中低域が数年前にダイヤトーンで開発し、製品に一部採用されたハニカムコンストラクションコーンのスキン材を改良し、新しくスキン材に芳香族ボリアミド系樹脂であるアラミド繊維で強化された可撓性レビンを特殊配合し、内部損失をもたせた新ハニカムコンストラクションコーンを採用した32cmと16cm口径のコーン型を使用している。
 一方、中高域と高域には、従来のドーム型の構造を抜本的に発展させた、ボイスコイルボビン部分とドーム型ダイアフラムを深絞り一体構造とし、 
これにサスペンション用のダンパーを接合した直接駆動型ボロン化ダイアフラムを採用している。ボロン化は、チタン箔を深絞り加工した後に、高温ボロン化処理をしたサンドイッチ構造の従来の方法とは異なるタイプで、全て社内で製造されている。
 その他、低域、中低域ユニットボイスコイルボビンを従来のポリアミドフィルムの約3倍のヤング率をもち、耐熱性、耐寒性が優れたポリイミドフィルムの採用、磁気回路のストロンチウム磁石と独自のニッケル系磁性合金を使った低歪磁気回路などがユニットで注目すべきところだ。
 エンクロージュアは、モーダル解析をベースに、ヒアリングをも加えて検討された完全密閉型であり、丈夫の中低域ユニット部分は独立した大型のバックチャンバーを備え、高音ユニットは、このバックチャンバー部分に取り付ける構造を採用している。ネットワークは、12dB/Octタイプだが、コイル関係の硅素鋼板を特殊樹脂で熱圧着積層した新タイプの採用、二重防振構造のポリエステルフィルムコンデンサーなどの主な素子を分散配置し、配線剤の無酸素銅化をはじめ、素子や配線の圧着方式によるワイヤリングをベースに新しい構想に基づくネットワーク理論の導入により、従来とは一線を画した低歪ネットワークとし、各ユニットの基本性能を充分に発揮できるように検討されている。
 DS505は、ステレオサウンドのリファレンスシステムで駆動したときに、従来には聴かれなかった広い周波数レスポンスとナチュラルなエネルギーバランス、全域にわたる高い分解能を示し、ここには、慣例的に持っていた、いわゆるダイヤトーンサウンドを感じさせるイメージはほとんど存在しない。
 とくに、各種ディスクの録音状況、製盤プロセスの優劣に対する反応はシャープでありマルチトラック録音でトラックダウンをしたディスクでは、エンジニアのテクニックが目に見えるように聴き取れる。また、使用コンポーネントに対する反応もシャープでアンプやカートリッジの得失をクリアーに引き出す。
 したがって、使用方法、使用条件によって、結果としての音はかなり変化をし、短時間の試聴では新世代のリファレンスモニター的傾向は把握できるが、にわかには、これがDS505の音と判断することはできない。それほど、異次元のシステムであるわけだ。

ダイヤトーン DP-EC3

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 光学センサーによる30cmと17cm盤の自動サイズ選択と速度、、ターンテーブル上のレコードの有無をはじめフールプルーフに使えるフルオートプレーヤーである。ナチュラルな帯域感と素直な音は常用するにふさわしい製品である。

ダイヤトーン DP-EC1MKII

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 光学センサーによる電子制御フルオート機の国産第1号であるEC1の改良モデルだ。前面操作方式、クォーツロック化などが変更されたポイント。低域を充分に制動したシャープで抜けのよい音をもち、クォリティはこの価格帯にふさわしい高さだ。

ダイヤトーン DS-35BMKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ダイヤトーンDS35B/IIは、このクラス(1本5万円〜10万円)として最も低価格といえる位置にあるが、その再生音は、このクラスを代表するといってよい充実したものだ。よく練り上げられたシステムといえるだろう。確度の高い明解な解像力をもち、よく弾む,豊かな低音に支えられた中、高域は明るく緻密である。周波数特性の広さは、よく最新のレコーディングのレンジをカバーする。

ダイヤトーン DS-25BMKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ダイヤトーンDS25B/IIは、25cmウーファーと5cmトゥイーターのオーソドックスな2ウェイで、かなりスケールの大きな再生音を聴かせてくれる。それだけに、やや透明度、柔軟性といった品のよさに欠ける嫌いがある。力強い低音と輪郭の鋭い高音域を埋める、中低域、中高域の柔らかさと豊かさが不足するためだろうが、明解な軽やかな音を好まれる人には向いている。

ダイヤトーン DS-32B

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ダイヤトーンDS32Bは、このクラス(1本5万円未満)としては最大のシステムだ。25cm、10cm、5cm各口径のオールコーンシステムは、同社の長年の技術の蓄積の上に成立った、けれんみのないものであるが、さすがにスケールの大きなワイドレンジの再生が可能で、ハイパワーでドライヴすると圧倒的迫力を十分楽しめる。