JBL4344をMark Levinson No.27/20.5でBi Amp Driveする

早瀬文雄

ステレオサウンド 9号(1990年9月発行)
「マルチアンプシステムに挑戦! JBL 4344をバイアンプドライブする」より

 さて、スレッショルドの組合せによるバイアンプドライブの直後に、マークレビンソンNo.20・5Lによるシングル駆動に戻してみた。
 率直にいってやや物足りなくなる部分と、逆にまとまりがよくなる部分が相半ばする結果だったと思う。たとえば、低域に強い音が連続して加わった時の高域の繊細感や解像力がやや希薄になる、あるいは低域のゆったりとした柔らかさ、ふくよかさが弱まる。音色変化のダイナミックレンジが狭くなるような面もわずかだが聴き取れる。しかし、それは量としてごくわずかなもので、シングルアンプとしてはトップレベルのスピーカー駆動能力を持っていることには変りない。
 陰影感に富む立体的な音像表現をとるものの、いわばリファレンス的で中立的だと言う印象が強い。それはソースの響きに一切の印象を加えない真面目さにもつながる。シングルで、バイアンプに優るとも劣らない音場感を再現できるのは、もちろんこのアンプのもつポテンシャルの高さによるものだろうが、モノーラル構成を取ってるということもその原因の一つになっているに違いない。右チャンネルと左チャンネルを別個のアンプでドライブできるということに起因するチャンネル間の干渉のない、すっきりとしたセパレーションが確保できるというメリットはやはり大きい。
 さて、ここでNo.20・5Lを低域に使い、No.27Lを高域に配したバイアンプドライブを試みる。
 No.27L単体の音は何度か本誌試聴室でも聴いているが、その高域の美しさ、透明感に関して言えば、マークレビンソンのパワーアンプの中でも最も高いものだと思っている。
 僕個人の不満は低域がやや軽くなって表情が単調になる点にあったが、その部分をここではNo.20・5Lがサポートするわけだから期待は大きい。
 チャンネルディバイダーJBL5235との音色面でのマッチングもマークレビンソンの方がスレショルドよりいいはずだ。結果は、想像以上にもの凄いものだった。
 No.27Lの繊細感の下に隠れていたすさまじい求心力が明らかになる。低域負荷を切り離され290Hz以上の信号だけを増幅し、しかもウーファーからの逆起電力が戻ってこないというのだから、この結果は当然といえば当然すぎるものなのかもしれない。それにしても、たとえばシンバルのアタックのエネルギー感は強烈だ。
 それも、下品な輝きがついてまわるような上っ面のエネルギーではなくて、トップシンバルにスティックがぶつかった瞬間の凝縮された音に続いて、シンバル全面に振動が拡散し空中にそのディスパージョンが爆発的に拡散する、そして間髪をいれず次のアタックが重なった時の、まさにシンバルの重畳爆撃みたいなエネルギー感をひねりだす。
 4344のホーンドライバー2425Jがその限界まで鳴りきっているといった印象すら受ける。それは、切れ込むなどというなまやさしい感じではなく、音像をえぐり出すとでもいいたくなるような、冷汗が背中に吹き出してくるような迫真のリアリティがつく。
 古楽器オーケストラの弦にもスムーズさ、倍音の豊かな艶のある響き、毅然とした澄んだ空気感、そういった要素がぐんと純度を高めていることがはっきりと聴き取れる。しかも、こういった透明感がボリュウムをしぼり込んでいっても、部屋全体にいつまでも残ろうとする。ぎりぎりまで浸透力を維持するところはすごい。
 No.27L単体でジャズ系のソースや編成の大きな演奏を大音量で再生した時に、やや硬質な感触が頭を覗かせるようなこともここではまったく見られなかった。
 アンソニー・ニューマンのチェンバロは不思議なことにオーディオ臭さがむしろ薄まり、オーバーシュート気味になりがちなパルシヴな響きも、アコースティックな楽器の複雑なニュアンスの変化を短調にせず、タッチの違いや音色の変化、演奏上の技巧的な解釈のディテールをたぶん、これ以上細分化できないレベルまで掘り下げて克明に提示する。
 エンヤでの雷鳴のリアリティは思わず首をすめたくなるほどだし、録音そのものの凝り具合やエンジニアの意図、あるいは完璧主義者といわれているエンヤ自身の音に対するこだわりが手にとるように見えてくる。
 音場の奥行き、音像のイメージングのよさに彼女が意図したいわば音像の浮遊感のようなものが実体感を失わずに再生される。これはもう文句のつけようがない空間描写力である。
 ふと気がついたことだが、シングルアンプでは気になっていた4344のやや箱鳴り的な付帯音がなぜかピタリとな 鳴り止んで、なんだかとても静かな鳴り方になっていたのだ。スピーカーそのもののS/Nがぐんと良くなったように聴こえる。これにより、エンクロージュアの響きがとても綺麗になったように聴こえ、音楽の再現力もいっそう優れたものになったのだ。
 どうしてだろう? 一つには電気的にウーファーのクロスオーバーポイントが320Hzから290Hzに下がり、遮断特性が12dB/octから18dB/octになっているということが効いているのだろう。
 しかし、No.20・5Lがネットワークを介さず、38cmウーファー2235Hをダイレクトにドライブしていることのメリットのほうが大きいのかもしれない。No.20・5Lはただでさえドライブ能力の高いアンプなのに、高域ユニットからの逆起電力も受けず完璧にウーファーそのものを制御している、そんな印象だ。
 コーン紙はピストンモーションを正確に行なうことで、不要な動きが抑制され、そのおかげでフレームからバッフル、バッフルからエンクロージュア全体と拡散していく複雑な共振を発生させないことにも繋がっていると思う。

偶然の結晶を求めて

早瀬文雄

ステレオサウンド 96号(1990年9月発行)
「Music Consolette 偶然の結晶を求めて」より

新しいスピーカーやアンプに出会った時、漠然とした予感が意識の奥に淡く広がっていくのを感じることがある。やがて予感が予感を呼び、記憶に埋もれていた過去の感動をふいに思い出すきっかけになることすらある。もし、そんな感動の記憶をうまく繋ぎとめることができたとすれば、予期せぬほどすばらしい装置を組み合わせることができるかもしれない。ふと思いついた組合せが、一見オーディオの常識や一般論からやや外れたものになってしまったりしても、そこからただの偶然の悪戯と思えないような響きが得られた時、最初の予感が実はきちっとしたオーディオセンスに支えられたものであることに気づかされる。つまり、結果は単なる偶然じゃなかったのだ……と。そんなことを感じた今回の三つの世界。そこには一般論では言い尽くせない、私的に深化した響きの説得力というものが確かにあった。

ヤンキー FPR-72

早瀬文雄

ステレオサウンド 96号(1990年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 アメリカ、カリフォルニア州ビスタから、実に陽気なネーミングを持った新しいスピーカーが登場した。ヤンキー・オーディオ社のFPR72がそれで、学生の頃からオーディオが趣味であったJ・タイラー氏が、自身の好む究極のサウンドを求めて、1985年に会社を設立し、スピーカーシステムの開発に着手して完成したものという。
 本機はプレーナータイプで、これはアポジー同様、リボン型スピーカーである。しかし、アポジーとは異なり、ヤンキーはシングルダイアフラムで正真正銘のフルレンジ。表面積はコーン型に換算すると、なんと45cm口径のユニットで4個分もある。このメーカーの主張は、そのシンプルな全体の構成や、音から、実にはっきりと感じとることができる。それはもう、気持ちがいいくらいに単純にして明快なのだ。何も小細工をしていないプレーンなダイアフラム。ネットワークなんて当然ない。音楽信号が通過する経路には、L成分もC成分もない、シンプルそのもの。
 そのせいかどうかわからないけれど、音にはアポジーのようなエネルギー感は望めない。でもいいのだ、これはこれで。
 なにしろスピーカーのインピーダンスは3Ωと公表しているのに、メーカーは必要なパワーアンプとして、アポジーのように大袈裟なものを要求していない。クレルやマークレビンソンは要らないのだ。50Wから75W。ソリッドステートでも真空管アンプでも可。これが公式見解である。驚きだ。
 つまり、そのくらいのパワーで十分な音量で聴きなさいと指定されていると解釈していいと思う。じっさい、試聴時もボリュウムをぐいぐい上げていっても音圧は実に遠慮しがちにしか上がっていかない。
 それに幅の広い平面振動板により純平面波が作られるせいで水平の指向性がやけに鋭く、頭をわずかに動かしただけで、音像はコロコロ移動する。
 さらに、聴感上の周波数特性も激変してしまう。ダイアフラムを垂直に貫通する軸をしっかりとリスナーの耳に向けておかないと、ぼんやりとした寝ぼけた音にもなってしまう。
 それでも、小音量で、ピシッとピントを合せ、頭を動かさないようにして聴くバロックやアコースティックギターの繊細感やヴォーカルの不気味なほど生々しい定位感は、傅信幸さんの言う『イメージがぽっと浮かぶ』をはるかに通りこして、もはやある種の形而上的な雰囲気さえ漂っている。
 音はすべからく浮遊し、蜃気楼のごとく宙で揺らめくのだ。もの凄い個性であるといえるだろう。
 これが気にいればもうほかの製品はいらないという人がいてもおかしくないだろう。

JBL XPL90

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 音場の温度がほんのりと低下したような、やや醒めた表情がつく。冷徹、あるいは冷酷なまでにすべてを分析していくような厳しさは、ここにはなく、ある種の穏やかさや丸さ、おとなしさ、と言った、これまでのJBLの音を語る時に出てこなかったような修辞が並ぶ。それでも、情緒過多になったり、軽薄さに近いあっけらかんとした明るさとは無縁の、知的響き、無駄をそぎ落としたようなある種のストイシズムというJBLの特質の一側面はあわせ持っている。JBLフリークには良い子になりすぎた存在で、個人的にもかつての鋭敏さがもう少し欲しいとも思う。しかし、一般的にはニュートラルになった個性、中和された鋭敏さはむしろメリットになろう。

BOSE Model 501SE

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 同社イルソーレでシステムのスピーカー部分を単売したようにも思えるが、音の傾向は微妙に違い、こちらの方がいわゆるこれまでのボーズ・カラーをよく持っているように聴けた。いわば洗練よりおおらかさを感じさせる。かといってピーキーなじゃじゃ馬的な要素はなく、むしろ家庭用のイージーハンドリングな製品として、実にうまい音作りがなされている。刺激的な音は出ず、サテライトスピーカーのサイズの小ささが、功を奏して音の広がりはなかなかだ。
 とりわけサックスの響きには形而上的な黒っぽい雰囲気がついて楽しめる。ディテールにこだわった聴き方をする製品ではないことを承知していれば、使いこなしも楽しめる。

アヴァロン Eclipse

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 前号この頁に初登場した米国アバロン社のスピーカーシステム/アセントIIの下位モデルであるエクリプスが発表された。
 アセントIIが3ウェイであったのに対し、今度のモデルは2ウェイ構成で、チタン製ドームスコーカーが省かれている。チタンドームトゥイーター、およびノーメックスケブラーと呼ばれる繊維を織り込んだ複合素材からなる22cm口径のウーファーは、同様のユニットがそのまま採用されている。また、アセントIIではサブエンクロージャー内に別付けされていたネットワークが、本機では一般的スピーカーシステム同様、本体エンクロージュア内に収められるようになった。
 エンクロージュアのサイズからすると、わが国の感覚ではややウーファーが小さいように感じるかもしれないが、これは完全密閉のエンクロージュアで理想的な特性を得るためのものと考えたい。密閉型では、エンクロージュアの内圧が相当に高くなるわけで、ユニットの口径を大きくするには、振動板の強度を高める必要があり、振動板の重量増を招きかねない。
 したがって、密閉型では低域の再生限界を補うため、ユニットにたいしてエンクロージュアを十分に大きくし、強度を高め、かつユニット自体の磁気回路や振動板の質量、エッジの硬さ、あるいは内部の吸音材の量、そういった多面的な要素をふまえた上でバランスを取る必要がある。
 スピーカーシステムの実際の低域特性は、ユニットそのもののf0のほかにf0における制動状態=Q0に影響されるのだが、エクリプスでは42Hzで0・5のQを設定している。一般的には0・7以上はアンダーダンピング、0・7以下ではオーバーダンピングといわれているが、ケースバイケースでの検討が必要だろう。
 実際の再生音は反応が早く造形のたしかな低域が聴けた。
 ユニットは完璧な新品であり、鳴らし込みが十分にされていないため、ややニュアンスにぎこちないさが感じられた。2ウェイでもあり、クロスオーバーポイントが下がってトゥイーターにかかる負担が増え、下方に距離を置いてマウントされたウーファーの高域特性の是非にも大きく依存することになるため、上級期アセントIIの圧倒的な透明感や精鋭ながらも、スムーズな響きにはやや水を開けられてると言う印象はいなめない。価格も100万円ほど安くなっているのだから、直接的な比較は意味がないのかもしれないが……。
 それでも手の込んだ贅沢なエンクロージュアのおかげで、音場の自然な広がりや安定した定位感のよさは楽しむことができる。おそろしく立派な装丁を施された分厚いオーナーマニュアルや、今時めずらしい板による厳重かつ堅牢な梱包がなされていることにメーカーの意気込みやプライドというものを如実に感じた。

ソナス・ファベール Minima

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 小型スピーカーとしては、あまり音の細部にこだわらず、大人っぽい雰囲気でスッキリとした面をもちながら、柔らかく甘さのある音を聴かせる特徴が目立つ製品だ。
 聴感上の帯域バランスは、スケールは小さいが量感のある低域と、しなやかで細かくスムーズな高域が、わずかにハイバランス傾向をもつレスポンスを聴かせる。しかし、高域にこれといったキャラクターがないために、平面的な聴き方では気づかないレベルである。
 基本的に、雰囲気よく音を聴かせる特徴をもつため、プログラムソースには穏やかに反応を示し、やや間接的な表現にもとれるが、専用スタンドを用意し、組み合わせるアンプを選べば結果は大幅に変わる印象が強い。

推薦

ソナス・ファベール Minima

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 アコースティックな楽器がもつ音色感の変化に対する描きわけに、独特の緻密さがあり、しかもその色一つ一つにある種の強さが感じられる点が、総じて淡白な国産スピーカーにはない魅力である。濡れたような質感と艶は、クリアカラーの吹きつけ塗装をしたみたいな光沢をつけ、この点が好みの別れるところかもしれない。エンクロージュアの作りのよさが、響きのよさに正しく反映されており、弦やピアノをよく歌わせてくれる。低域の量感はミニマムだが、不思議によく歌う性格の明るさに助けられ、音楽を楽しく聴かせててくれる。ディティールの描写力もあり、あいまいな音楽性という言葉で、情報量という絶対的物理量を誤魔化さない真面目さも併せもっている。

プロアック Response2

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 高級システムには、専用スタンドは不可欠な存在であるが、ここではターゲットオーディオ製のスタンドに組み合わせての試聴となった。
 基本的には、音が柔らかいタイプではあるが、抑え気味の低域と、硬質で線をクリアーに描く高域が合さった、個性の強い音である。ただ、硬く強度が十分ののエンクロージュアと柔らかいウーファーコーン、それに個性の強いスタンドの組合せを考えると、当然の結果と納得できる。
 プログラムソースとの対応は、スピーカーの個性が強く、ひとつの音の姿、形として聴かせるもの。今回の試聴用CDプレーヤーとアンプは、このシステムにとっては最も好ましくない組合せの典型といった音である。

ビクター SX-500II

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 スッキリ爽やかに音を整理し、音楽をクォリティ高く聴かせる傾向が明瞭なスピーカーシステムである。
 聴感上の帯域バランスは、2ウェイ構成にしては十分に広帯域型でありながら、それなりに中域のエネルギー感も備えている。さらに低域と高域の音色、リニアリティなどが巧みにコントロールされているのは、このシステムの注目すべきポイントだろう。
 音場感は、水準以上の広がりと奥行きを聴かせ、音像は小さく、シャープなまとまり方だ。特に、ローレベル時の抜けの良さ、ディテールの再現能力は見事である。ただ、表現が予想よりも遥かに淡白で、モーツァルトでは箱庭的なまとまり方となったのが印象に残る。

スペンドール SP2/2

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 しっとりとしなやかで軽く、雰囲気の良い音を聴かせるシステムである。
 聴感上の帯域バランスは、柔らかくしなやかな低域をベースにしながら、やや中域を抑えた、少し線の細い適度にスパイシーな伸びのある高域がバランスを保つといった、2ウェイシステムの典型的なまとまり方である。
 試聴はビクターのスタンドを流用したため、ややスピーカーが高い位置になり、中低域の残響成分をたっぷりと聴かせるあたりのエネルギーが少ない。音場感はスピーカーの奥深く距離感をもって広がるタイプで、音像は小さい。プログラムソースに対しては、雰囲気良くキレイに聴かせるタイプであり、巧みな仕上げだ。

推薦

インフィニティ Modulus

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 ローインピーダンスでハイパワーアンプでないと鳴らないという風評だったが、常識的な音量で聴くかぎり、とくに破綻をみせることはなかった。というより、僕はこのスピーカーはやや音量をしぼって、しんと静まりかえったプライベートな空間で楽しむべき存在だと聴けた。なにしろ麻薬的に音がやわらかであり、ハイエンドが繊細なのだ。これほど傷つきやすく損なわれやすい個性は昨今めずらしく貴重だ。うっかりすると寝ぼけた音と誤解されそうなほど、音の輪郭、エッジは淡くあやうい。けだるくアンニュイな、まるで陽炎のような音の漂いにそっと耳をそばだて、やわらかな空気に浮ぶような浮遊感に遊ぶのも、またひとつの行き方だと納得させられる。

チャリオ HiperX

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 独特の軽快さと華やかさをもった、アンバランスの魅力とでもいえる不思議な個性と雰囲気をもったユニークなシステムである。
 聴感上での帯域バランスは、やや腰高で膨らみのある低域から中低域は線が細く、華やかな印象の高域にやや偏った音を聴かせる。ただしこれは、分厚いソリッド材採用のエンクロージュアの響きの良さに助けられたもので、このシステムの大変に興味深いところでもある。
 この帯域バランスは、左右スピーカーの角度を過剰に内側に向けその交点の外側で聴くといった、古くから欧州系で使われる設置方法をとれば、自然な帯域バランスと見事なプレゼンスが楽しめる設計なのだろう。

推薦

セクエラ Metronome7 MK II

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 海外製品としては比較的個性が少なく、ストレートな音を聴かせる特徴がある。
 聴感上での帯域バランスは、ややナローレンジではあるが、中域の量ともども巧みにコントロールされている印象がある。国内製品の場合とは少し異なるが、正確に反応を示し、音として聴かせる面は大変に興味深いところである。
 プログラムソースに対しては、適応性の広いメリットも注目したいところである。やや淡白な表現ではあるが、ヴォーカルのサ行、カ行の発音のまとまり、キース・ジャレットの雰囲気をマクロ的に描き出す、聴かせどころを抑えた音作りの巧みさは、この曲ならどう聴かしてくれるか? という楽しさがある。

プロアック Response 2

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 サイズやユニット構成からすると割高感もあるだろう。しかし近年の注目株だけに、かなり手なれた作り手の存在を感じさせる、したたかな製品だ。モニター的な分解能の高さと耳あたりの良さを両立させ、上品によくのびた高域と、類型他製品に散見する、ポリプロピレンくさい響きをよくコントロールした低域が、巧妙にバランスしている。各楽器の音像サイズが、音程で不自然に小さくなったり肥大したりもせず、演奏のデリケートな陰影感を端正に提示するあたり、価格を納得させるものがある。
 ソフトドーム型のトゥイーターは、一見、スペンドールそっくりだが、随分と鳴り方が違うものだ。

ワーフェデール Coleridge

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 音の輪郭の線を太くクッキリと描きながら、硬質な音として納得させるだけの説得力を持った個性的なスピーカーである。
 聴感上の帯域バランスは、とくに問題を意識させない安定したバランスであり、とくに中域の薄さが感じられない点が、このシステムの特徴である。硬く、やや乾いた面もあるが、とくに目立つ固有音や付帯音がなく、十分にコントロールされているため、ヴォーカルでのサ行、カ行の発音や息つぎの音も不自然とならない。楽器の演奏される空間の再現能力なども、サッパリとしたプレゼンで聴かせるだけの力を持っている。しかし、ジャズなどのプログラムソースには、反応の速さ、過渡的な音の再生といった点にやや不満が残る。

ワディア System 2000(WT2000 + 2000SH)

菅野沖彦

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 DSPによるデコーディングコンピューターでCD再生に大きな反響を呼んでいるワディア・デジタル・コーポレーション。ウィスコンシン州ハドソン市にあるこのコンピュータ技術集団は、現在までに俗にD/Aコンバーターと呼ばれるデジタルプロセッサーだけを作ってきた。同じDSPによるデジタル/アナログのプロセッサーを作るクレルが、CDプレーヤーとしてディスクトランスポートも同時に発売したのとは対照的だ。それは、クレルがオーディオメーカーを母体としてスタートしたのに対して、ワディアの方はコンピューター技術集団を母体としていることによる。デジタルテクノロジーというハイテクノロジーの産物であるCDプレーヤーだが、その実、プレーヤーのメカニズムの音への影響は大きく、ディスクトランスポートの諸々の機械特性は年々重要視されている。つまり、ある意味では、ローテクといってもよいオーソドックスなメカニズムをおろそかにしてハイテクのエレクトロニクスだけに頼っていては高品位な音の再生は難しいことがわかってきたわけだ。したがって、エレクトロニクスに並はずれた高度な技術をもって臨んだワディアとしては、それにバランスしたクォリティのメカニズムを作る体質が自社に備わっていないことを十分知っての上の慎重さであったと私は見ていた。ワディアのハイテクは今さら説明するまでもないが、〝フレンチカーブ〟と称する独特のデコーディングアルゴリズムのソフトウェアで駆動される高精度コンピューターによる信号処理に加え、昨年末にはさらに、これにラグラジアンとスプライン、ポリノミアルという2つの多項式を重畳したプログラムを実現し、ソフトウェアのヴァージョンアップを果し〝デジマスター〟という商標で発売している。その高い演算速度のDSP処理はただ単に数学理論に優れた技術成果だけではなく、多くの困難な機構設計技術の成果の結果でもある。
 また今回さらに、アナログ回路の出力バッファーアンプに〝スレッジハンマー〟と称されるモジュールがグレードアップ用に用意され、試聴に際してはこのモジュールが組み込まれた、現在のところトップに位置する状態のものを聴くこととなった。
 ワディアの製品が、その一つ一つのパーツ、ディバイス、基板、シャーシ構造に桁はずれの高品位ぶりを見せるのは、決して高級品のための高級指向ではないのであって、材料、機械加工の全ては性能を得るための必然なのである。
 2000SHの筐体は、アルミのムク材から削り出した航空機用コンピューター規格と同級のハイグレードなものだが、これを見ても、同社が安易にプレーヤーメカニズムに自ら手を出すはずがない……というのが私の観測であった。
 ワディアWT2000は、このような状況の中で登場したわけであるが、実は、このメカニズムをエソテリックのP2を原器とするものである。例の大型テーパードクランパーでCDを圧着して回転する高安定度を誇るメカニズムで、レゾナンスや耐振性に配慮のいき届いた好設計であり、精度の高い仕上がりでもある。P1をオリジナルとするP2は、すでに本誌でも度々紹介され、現在最も優れたCDプレーヤーメカニズムの一つとして定評のあるものだ。コンピューター技術集団にとって、この開発はリスキーだし一朝一夕にいくものではない。ティアックからこれを買うことにしたのは、(一般のOEM供給のメカからすると目の玉が飛び出るほど高価なはずだが……)卓見である。
 P2を元に、さらに機械的制動を施し、ワディア仕様のエレクトロニクス設計を加えたものだが、最大の特徴は次の二点といえるだろう。まずはドライブ系と制御系の独立した二電源トランスを外に出しセパレート仕様としたこと。そして、これが最大の特徴だが、ワディア独自のプロ規格STターミナルによってAT&T社製の高精度高効率の50Mbits/S、850nm波長グラスファイバー出力素子の光出力を取り出せることである。従来は、この光入力専用に作られたデコーディングコンピューター/2000側に通常のEIAJ光出力を変換するトランスミッター(デジリンク30)を必要としたが、WT2000を使う場合は直接、2000SHに入力できることになる。試聴はこの状態でおこなった。
 そのサウンドの素晴らしさは、圧倒的であったというほかはない。広がりと奥行きが一回りスケールを増し、細部のディテールは一段と明晰さを増した。楽音の感触の自然なことは、同社のDACの魅力であったが、このプレーヤーの使用で、さらに緻密で繊細になる。かつてこんなに肌ざわりのよいCDの音を聴いたことがない。ウィーンフィルのしなやかで艶と輝きに満ちたあの音が、こまやかな音のひだの陰までもが聴けるかのようで、まるで宝石箱をひっくり返したような美音の饗宴に呆然とさせられた。この空間感の透明さと深々とした暖かいプールエフェクトを明らかに並のCDプレーヤーとは、異次元の音響的境地であり、音楽世界であった。

サンスイ SP-1000

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 独特の3線式スピーカーケーブルを使用し、スピーカーユニットのフレームアースを取ることを前提として設計、開発が行なわれた、非常に細部にまでこだわりを持って作られた、稀にみるシステムである。ここでは、通常の2線式スピーカーケーブルで試聴を行った。
 穏やかで安定感のある音を聴かせるシステムである。聴感上での帯域バランスは、ややナローレンジ型にまとまり、全体に音の鮮度感、反応の速さ、聴感上のSN比の良さなどの本来の特徴が、一枚ベールに包まれたような音を聴かせる。聴感上の低域の音感もミニマムのレベルにあり、中高域に一種の粗さがあり、音色が暗くなるあたりは、この試聴条件では当然の結果でもあるといえる。

インフィニティ Modulus

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 本機は、サラッとしたクォリティの高い音と、見通しの良い清澄な印象のプレゼンスを持った音場感、そして小さくクリアーな音像定位を聴かせるスピーカーシステムである。
 聴感上の帯域バランスは、基本的には広帯域指向型のまとまり方で、低域と高域バランスは、音色、リニアリティ、SN比などで十分に追い込んで作られたようだ。とくにローレベルでの再生能力は聴きどころで、ヴォーカルの声を抑えたところの表現の素直さ、モーツァルトのヴァイオリンの弦と弓が当たる瞬間の音などを、かなりリアルに聴かせる。システムとしてのSN比が非常に高く、音場感は見事である。

特選

アコースティックエナジー AE2

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 超重量級の内部をダンピングした鉄製スタンドと組み合わせた、ダブルウーファー採用の91dBの出力音圧レベルを誇る2ウェイのスピーカーシステムである。
 基本的には、柔らかくしなやかで、雰囲気のよい音を持っているが、音量が上がるに従って、加速度的に音のエッジがクリアになり、一種のダイナミックエキスパンダーのような力強い音に変るのが、このシステムの音のキャラクターである。
 聴感上の帯域バランスはナチュラルタイプで、柔らかい低域と線が細くシャープな高域は、低音量時の音からすれば、システム自体は素直で、かなり質的にも高いものがあるように思われる。

BOSE Model 501SE

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 ボーズ独自の3点セット方式の本機は、設置方法で結果が大きく変る。今回は左右スピーカーをチャリオ用のスタンド上に、ベースボックスはダクトを上にして左右の中央に置くセッティングである。
 聴感上のバランスは、低域から中低域にかけては少しディップ気味のバランスである。しかし、固有の付帯音が少なく、小口径フルレンジユニットならではの活き活きとした音離れの良い音は、柔らかく深みのある低域に支えられて、力強く豊かだ。予想よりもしっとりとした音を聴かせるのは、木製スタンドとアンプ系のバックアップが大きく効いているようである。ソースにはしなやかに対応し、音楽の外側をしっかりと掴んで聴かせるマクロ的な魅力は大きい。

特選

アカペラ Fidelio

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 専用スタンドの背が高く、音が上方から降りてくるような感じだが、それにしてもよくひろがる雰囲気の良い音だ。声のもつエネルギー感がやや薄くなるものの、これがむしろ僕にとってはよい方向に作用して、春の霞たなびく、といった独特のエコー感とあいまって、情緒的でしっとりしたニュアンスが堪能できる。ふっくらした低域の支えも充分で、うっすらと甘い弦の艶や、弾力性のあるピアノの質感は、素直な自然さが感じられ、わざとらしさがない。ドイツにもこんなにマイルドな音があるのだと、越境的に変化するオーディオの個性より、やはり作る人の個性の差の方が大きくなりつつある、昨今のオーディオ界を暗示する象徴的な作品。

サンスイ SP-1000

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 硬質でメタリックな光沢が、あらゆる楽器の音色に乗ってくるところが、よくもわるくも、この製品の個性になっている。ふっくらとしたやわらかさや、しっとりとしたうるおいという世界からは、遠く、かっちり、きっちり、剛性追及、物理量優先、といったある種の真面目さがある。ピアノのアタックは凄いがやや人工的。弦は僕の認識している弦の音とはかなり違う、独特の輝きが耳に眩しい。シンバルの炸裂するエネルギー感はたいしたものだが、何かしらガラスを叩き割ったような音になるのはどうしてだろう。ローエンドの伸びはこのサイズとしては見事。特に単音より、低く重く持続するシンセサイザーの音などそれらしさがたっぷり出る。

JBL XPL90

井上卓也

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
特集・「最新スピーカーシステム50機種 魅力の世界を聴く 小型グループのヒアリングテストリポート」より

 ややスケールは小さいが、ほどよくメタリックなスッキリとした、明るく、伸びやかな音を聴かせるスピーカーシステムである。
 聴感上の帯域バランスは、やや腰高で柔らかく、反応の速そうな低域と、輝かしくシャープな高域が、2点バランスを保つという、いかにも2ウェイらしいまとまり方である。ただし、低域の量感はミニマムのレベルにあるため、聴き方を変えれば、いわゆるモニター的な印象を抱かせるところが興味深い点だ。プログラムソースとの対応はかなりしなやかに適応性を示す一方、しっかり自分の音としてまとめて聴かせるタイプである。本機は楽しい音を聴かせる魅力を備えているが、組み合わせるアンプ選びはそれなりに難しそうだ。

推薦

ネイム・オーディオ Nac63, Nac72, Nap90, Nap140, Hi-Cap

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 1974年、ジュリアン・ベリカーという一人のオーディオマニアの手によって設立されたネイムオーディオ社は、現在英国のソールズベリーに64名のスタッフを擁する工場を持つに至っている。
 かつてコンパクトでこざっぱりしたデザインを持つプリメインアンプのNAIT2を目にした時、新鮮な驚きを覚えたことを思い出す。スリムなアルミ引き抜き材を使った堅牢なシャーシは、新しいプリアンプ/NAC62及びNAC72にも継承されている。目をひくのはフロントパネルのネイムのロゴで、バックライトによって文字の厚み部分が鮮やかなグリーンで照明され、文字そのものが黒いパネルから薄く浮き上がったように見える。ファンクションの文字が同様に見えるとなおよかったのだが、残念ながらブラックのままなので、逆にこの部分はかなり見にくく、しっかりと光りをあてたいと、何が何処にあるのかさっぱりわからない。
 入力はフォノ(MM、MC、およびリンKarmaとTroika専用のモジュールがある)、AUX(入力感度調整可能)、テープ(NAC72はテープ二系統)、チューナーの4回路をもち、一般的なRCAピンプラグではなく、以前のクォードの製品のようにDINプラグを採用している。
 プリアンプは両者とも内部にパワーサプライを装備していないため、実際の使用にあたっては、今回同時にご紹介するパワーアンプ/NAP90およびNAP140から専用の接続ケーブルで電源の供給を受ける。これは4ピンのDINプラグを持つケーブルでシグナルラインもその中に含まれ、電源と音楽信号は同一ケーブル内に同居する格好である。
 一方、オプションの電源ユニットHI-CAPを追加すれば、より一般的なプリアンプとしても使用可能だ。
 さて、価格順にNAC62とNAP90のペア、次にNAC72とNAP140、そして最後にプリアンプを単体電源のHI-CAPで駆動した音を順番に聴いていった。スピーカーは本誌リファレンスのJBL4344とはせず、この組合せでより一般的なものとして考えられる製品を選んで行なった。
 やや硬質の質感をもつ真面目な音作りで洒落た感じというよりは、見た目のとおり沈思黙考型の響きとでもいいたくなるような、無駄な光沢感を抑制した地味な印象を受ける。上級機ではさすがにスケール感の拡大を示し、音像にも立体感が徐々につきはじめる。別電源の使用では、さらに音場の広がりがぐっと奥行きを増し、このクラスとしては標準的なまとまりを見せてくれた。