Daily Archives: 1976年12月15日 - Page 4

アルテック 620A Monitor

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 もう20年も前に焼跡の中に立ったバラックの並ぶ、銀座の裏のちっぽけなジャズ喫茶の紫煙にけむる奥から聴えたディキシーを、本物の演奏とすっかり間違えさせたのが、アルテックの603Bだった。それ以来アルテックの15インチ・コアキシャルは、深く脳裏にきざみこまれた。やがてレコード会社でモニター用に鳴っている604Eに耳を奪われて、一生のうちに一度はこのアルテックの15インチ・コアキシャルを自分の手元で、と心に誓った。だから僕にとっては、アルテック604Eは他のいかなる愛用者にも劣らぬ、もっとも強いあこがれそのものとして、オーディオの象徴的な存在であった。その後アルテックのシステムを仕事の上で接触することはあっても、高価なこのユニットは、なかなか手にできなかった。
 604Eが8Gとなってワイドレンジ化した際に、やっと20年の念願かなって入手できたとき、それはやはり何にも増して感激に満ちたわが部屋での音出しであったし、それは20年前のあのディキシーランドと同じキッド・オリーの10インチ・モノーラル盤で始めたものだ。トロンボーンの雄大な力強さは、やはりこの604−8Gでなければ出せ得ない響きだった。しかし、ステレオ版になって604は、より以上の真価を発揮してくれた。それはもうしばしばいわれるように、コアキシャル独特のユニット配列から得られるステレオ音像の定位の確かさで、業務用としてアルテック・コアキシャルでなければならぬ理由も、ただこの一点が大きくものをいいそうだ。

アムクロン DC300A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 今、日本のアンプが、さかんにハイパワー、DCアンプ化への血道を上げている。アムクロンDC300は今を去る10年近くも前にこの2点「ハイパワー」「DCアンプ」として米国にデビューし、米国でのハイパワー時代のトリガーとなった製品である。150/150Wのこのアンプの出現によってすべての高級メーカーは100ワット以上の出力を目指すことに踏み切らざるを得なくなったといってもよい。ところがアムクロンDC300、決してこうしたオーディオ高級アンプとしての目的で作られたものではない、あくまでラボラトリーユースの産業用アンプであり、そのためのDCアンプであったわけだ。アムクロンというメーカーが当時超高級デッキのシェアーでもっともよく知られた点でオーディオ用としても使われたとみるべきだろう。さてDC300、今日純粋なオーディオ用として300Aに生まれ変り、その内容の大要は変ることなく、もっとも伝統ある誇り高きハイパワーアンプとして今日も存在するが、その存在は色あせることなくまだ続こう。

アキュフェーズ M-60, T-100

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 アキュフェーズのブランド名でケンソニックからスタートして、もはや数年の月日がたつ。ケンソニックの名は伝統の深からざるオーディオ業界にあってもなおもっとも日が浅い。それだけに、一流ブランドとしての成り立ち、あるいは信頼を勝ちとるための努力はなみのものではなかったろう。
 それにしても僅かな期間に世界的に高い製品評価と高級メーカーとしての信頼とを得たのは十分にうなずける根拠を容易に求められる。そのひとつは高級機種のみを限定して製造することであり、その二は一応発表した製品は決して競合すべき新型を出さず、また中止もしないということだ。
 この一流品たる資格の基本条件たる二つの点を当事者たるメーカーが製品発表の事前にはっきりと明言しているというケースは、めったにあるものではないがアキュフェーズの場合がこれだ。高級製品メーカーとしての見識と誇りの高さとを知らされ、それが信頼への深いきずなとしてユーザーとメーカーとを結びつけている。
 プリアンプC200と共に最初に発表したパワーアンプP300こそケンソニックの名を世界に知らしめた最初のアンプであり、その時にペアーとなるべきチューナーとして出たのがT100である。
 この三機種こそ、アキュフェーズブランドの名を代表するべき3つの象徴といってもさしつかえなかろう。しかしこの後のハイパワー時代の急激な拡大に伴ってパワーアンプはさらに、2倍のパワーアップを図った国産初と思われる300Wの大出力を秘めたモノーラルパワーアンプ、M60となった。そこでP300に代ってM60がアキュフェーズ・ブランドの旗頭となったのだ。M60は、300Wのハイパワーながら、その価格28万円を考えると、今日はっきり国際的な市場を視点としてもなお価格的に妥当なものであろう。
 日本製アンプが、日本国内市場でごく割高なる価格をつけられた海外製アンプと競争でき得るとても、当事国では日本製アンプが、あまりに高価になり過ぎる例が多い中でアキュフェーズ製品はすべて価格的に国際市場のどこにおいても十分に納得でき得る価格であるという点は、見逃せない大きな特徴であり、この点こそがアキュフェーズ製品が国際的な意味からも優秀製品であることの、もっとも大きな理由だ。
 ケンソニックの中核がかつてはトリオの主脳陣であったことはよく知られており、さればチューナーの文字通り開発者としてアキュフェーズのチューナーもまた大いに期待できる製品だ。その期待は海外の評価が早くも、T100デビュー早々に、「FMチューナーのロールス・ロイス」という賛辞で示された。アンプ同様、豪華な仕様と風格とはその底知れぬ深い完成度を感じさせ、そのまま製品の高い品質への信頼感へもっとも大きな支えとなっているからだ。

ソニー TC-5550-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ソニーが世界の一流ブランドであることには異論はないだろう。私自身も日本人として、ソニーを多方面から眺めているので、外国人が信頼するほどには必ずしもソニーを見てはいないが、やはり、世界の最高級ブランドであることには違いないと思う。そのソニーの製品を一流品に挙げるとすると、私自身は〝ジャッカル〟のような、テレビとラジオとカセットを組み合わせてコンパクトにまとめた製品をソニー的一流品だと思うのだが、残念ながらこの製品はオーディオの分野にはいれられない。
 コンパクトということからいえば、ソニーが昔からデンスケという名称を付けた製品を持っていたぐらい、携帯用の録音機に関しての技術的キャリアは非常に古いのである。現在でも放送局などで活躍しているEM3というプロフェッショナルユースのオープンリール・デンスケは、その分野では有名な存在である。
 コンシュマーユースのオープンリール・デンスケを挙げるとすると、やはりTC5550-2という製品になる。外形寸法は、333×136×296(W×H×D)mmとコンパクトに仕上げられ、重量も乾電池を入れた状態で6・8kgと軽量だ。ポータブル型テープレコーダーであるだけに、電源も一般的なAC100Vのほか、乾電池8個、充電式電池、カーバッテリーの4電源方式で、どこででも使用可能である。このように、機動性がよく、高性能な、このTC5550-2を一流品として推選したいと思う。

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 イギリスのスペンドール・オーディオ・システム社は、英国のBBC放送局のモニター仕様によるスピーカーBCIを開発して以来、それを基礎にしてさらに改良を加えたBCII、BCIIIという、家庭用のハイファイ・スピーカーを製品化してきた、比較的新しいメーカーである。しかし、これらのシステムは一聴すればわかることだが、まさに英国の伝統的なスピーカー技術をしっかりと受け継いでいる。
 同社のスピーカーシステムの中で、最も家庭で使いやすい製品、私自身が最も音が充実していてバランスのいいシステムと考えているのは、BCIIである。このスピーカーが持つ素晴らしいハイフィデリティ・リプロダクションと、魅力とあえていってもいいような、素晴らしい品位を持った音楽的な音とが、巧みに結びついて、まさにソフィスティケィテッドなヨーロッパサウンドを醸し出してくれる。いかにも音楽好きな英国人らしい、レコード音楽の再生を熟知した音のバランスが聴ける。もともと英国は、音楽の市場として世界一であり、英国の演奏会でデビューすることが、世界の檜舞台といわれているように、音楽を聴くマーケットとして、英国の歴史は大変に古く、それに呼応してハイファイ・リプロダクション・システムの歴史もかなり長い。そういう英国の長年の伝統をバックグラウンドに持つスペンドールを一流品として推したい。
 社長スペンサーと夫人ドロシーの名をとって〝スペンドール〟というブランド名を冠しているところも、心にくいところである。

SAE Mark IB, Mark 2400

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より
 この7年間、70年代に入って米国市場のオーディオメーカーに新しい名が目立って多くなった。
 その中でSAEはもっとも早くからいち早く成功を伝えられたメーカーで、アンプ・メーカーとして今ではもっとも生産数を誇る実績を確立している。この成功は、SAEが、いかにも現代的な技術の優秀さで裏付けされた技術的集団であることを、初期の製品から一貫してはっきりと示しているからだ。SAEの製品は、一見して今までのそれらとは一線を画する飛躍した電子技術を内に秘めていることを、受け手がよく技術的知識を蓄えていればいるほど感じるであろう。しかもこうした新進メーカーによくみられる未熟さが全然なく、その初の製品からでさえ、きわめつくされた完成度を、あらゆる点で知らされるのも例がない。
 どこをとっても一分の隙もないパネル・デザイン、しかも一本のライン、つまみのいちカットにさえ細心の誠意と合理性とをつめ込んだ技術的なセンスの高さ。技術が芸術に昇華するほどの、高いレベルだ。
 MK2400も、決してプラックフェイスという外観だけに止まらず、技術的な内容もさらにその音にも、はっきりと感じられる。きわめてスッキリして、透明そのもの、無駄を廃した端正の極地といったような音だ。使い方により機能をどこまでまとめ上げ、どこで妥協するか、という点のむずかしいコントロールアンプでのSAEの腕前がこのMKIBにぞんぶんに発揮されて、いかにもSAEオリジナルらしい、すばらしい傑作となった。

スチューダー A80/VU MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ウィリー・スチューダー社はスイスの高級テープレコーダー・メーカーとして、名実共に、世界の一流である。民生用機器はルボックス・ブランド、プロフェッショナル機器はスチューダーのブランドで製造販売している。ヨーロッパのスチューダー、アメリカのアンペックスと、世界の最高級テープレコーダーの名声を分ち合ってきた事は有名である。テープレコーダーのトランスポートにも、最近ではエレクトロニクスが大幅に取入れられ、各種のサーボ機構、コントロール機構はスムーズになってきた。もともと、スチューダーのメカニズムは、精密工作機械の粋といってもよい精巧無比な緻密さと堅牢な信頼性に溢れたもので、トランスポートのムーヴメントの滑らかさと安定性では右に出るものがなかったといってよい。この点ではアンペックスのメカニズムをはるかにしのいでいたといえるであろう。保守的なヨーロッパらしく、マルチ・トラックやエレクトロニクスのソリッド・ステイト化などでは、アメリカより遅かったけれど、このA80シリーズに至って、そうした現代化が、完全に終了し、完成度の高いモダーンなマシーンになったといえる。フィーチャーを数え上げればきりがないが、アルミダイキャスト・シャーシーにがっちり固定されたメカニズムは、ACサーボ・モーターのキャプスタン駆動で、テープテンションは電子コントロール式でいかなる状態においても最適のテンションをテープに与え、ワウ・フラ・スクレイプは極めて低く安定した走行は、静粛そのものである。ICが多用された電子コントロール機構は、スムーズかつ、多機能で、プロのマルチプルな要求に対応する。
 A80MKIIシリーズは、きわめて多くのヴァリエイションを持ち、もっともシンプルなA80VU-1というフルトラックから、2トラックは無論のこと、2インチ幅テープの24トラックに至るまでのワイド・チョイスが準備されている。テープ速度も、76cm/secで、NAB17・5㎲のイクォライザーとの組み合せで使える。現在のテープレコーダーの最高峰としての内容と性能を持った見事なマシーンだといえるであろう。
 スイスという国は、いうまでもなく精密工作機器の製造で有名だが、このスチューダーというメーカーでは、テープレコーダーのような比較的大型のメカニズムにもかかわらず、まるで時計並みの精度のメカニズムと現代エレクトロニクスの粋を盛り込んでいる。加えて、ヨーロッパ各国でのレコード制作の現場からの意見が直接フィードバックしてくるために洗練された操作性と、音楽的な音質検討が一つとなって結集しているのが大きな強みといえるであろう。うがち過ぎかもしれないが、アメリカ系の機械が、ジャズやロック系の音楽に、たくましい力強さと、熱っぽい音を聴かせるのに対し、このスチューダーのもつ音色は、より洗練された柔軟さと透明度を持ち、クラシック、特に弦楽合奏などの滑らかさと繊細さには無類の美しさが聴けるようだ。さすがに、一流品ともなると、ただ単に、機械としての物理理特性の優秀性にとどまらず、それが誕生したバックグラウンドが個性として生きてくる。

ダイヤトーン DS-35B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ブックシェルフ型システムのベストセラー機種であるDS28Bの上級モデルとして開発されたブックシェルフ型のシステムである。したがって最近のバスレフ型エンクロージュアを採用することが多い傾向に反して、本機は完全密閉型である。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムで、中音用は10cmコーン型、高音用は3cm口径のドーム型である。ウーファーは、機密性に富み腰が強いコルゲーション付コーン紙と耐熱性が高いボイスコイルボビンとコイルの組合せで、磁気回路は低歪化されている。スコーカーは、エッジ部分にリニアリティが高いポリエステルフィルムにダンピング処理を施して使い、パルシブな入力に対して立上がりの良い再生を可能としている。また、磁気回路はウーファー同様な低歪磁気回路である。トゥイーターのダイアフラム材質には、ガラス繊維強化プラスチック、GFRPを使っている。また、音色は、レーザーホログラフィーでの振動解析や、新しく導入されたインパルス応答による累積スペクトラムなど最新の技術とヒアリングにより検討されている。
 エンクロージュアは、分散共振型で補強桟は不均一に配置してあり、箱鳴りを抑えた設計である。
 DS35Bは、タイトで明快な低音をベースとして、粒立ちがよく、エネルギー感のある中域と滑らかに伸びた高域が巧みにバランスし、密度が濃い音を聴かせる。この音は、個性を聴かせるタイプではなく、オーソドックスな安定感、充実感が魅力であり、併用するアンプ、カートリッジで、かなり結果としての音をコントロールできる余裕があるようだ。価格帯から考えるともっとも正統派のシステムで信頼性が高い。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLパラゴン家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

スカリー 280B

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 スカリー社は、現在アメリカのカリフォルニア・マウンテンビューにあるメトロテック社の傘下に入っているメーカーで、プロフェッショナル用のテープレコーダーを製造している。同社は、元来メカニズムを得意とするメーカーで、最も有名な分野はカッティングレースである。われわれレコードになじみの深い人間にとっては、スカリーのカッティングレースとウェストレックスのカッターヘッドのコンビネーションは、実になじみの深いレコードの原盤製作のカッティングマスター機として、親しみがあるものだ。
 そのスカリー社で現在製造しているテープレコーダーとして、この280Bという製品があるわけだ。このテープレコーダーは、アンペックスと名声を2分するといっていい、アメリカを代表するプロフェッショナルユースの製品ということが、一流品として躊躇なく挙げる理由である。
 280Bシリーズには、この他に1/2インチおよび1/4インチ幅テープ用の4チャンネル機284Bと、1インチ幅テープ用の8チャンネル・マスターレコーダー284B-8がある。いずれもスカリーらしい、ガッチリとした、信頼性の高いモデルである。
 デザイン的には必ずしも美しいテープレコーダーとはいえないが、実際に使ってみても、実に堅牢で安定性があり、信頼性も高く性能のいいテープレコーダーである。地味な存在ではあるが、いかにもアメリカらしいマシーンだと思う。レコード製造機器の名門から生まれた一流品である。

グレース G-714

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 グレースは、日本のトーンアーム、カートリッジの分野における現存するメーカーとして、最も歴史が長い一流のメーカーである。このG714と名づけられたトーンアームは、そのグレースの持っている、いかにも専門メーカーらしいものがよく表われた、珍しい木製のフレームのモデルである。材料はテンダーチーク材を使用しているが、これをグレースの技術陣が大変な苦労をしてこの材質をいかす加工業者を探して、自分たちのトーンアームにかける夢を一つの形にまとめ上げた一品として、一流品に推したいと思う。
 支持方式は、ワンポイントサポートのオイルダンプで、ヘッドシェル部は一般的なSMEのコネクタータイプではなく、専用のカーソルによってカートリッジ交換を行なう方法がとられている。仕上げも、いかにもグレースらしいキメの細かい神経の行き届いた製品である。

グラド Signature I

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 グラドというブランド名は、日本ではそれほどポピュラーではないが、かなり古くからトーンアームやカートリッジの分野で実績をもつ、ニューヨーク市ブルックリンにある会社である。
 この会社の最新型であり、最高級のカートリッジがこのシグナチェア1だ。このカートリッジは、ずば抜けた特性をもつ手づくりの製品で、ジョセフ・グラドというこの会社の社長であり、エンジニアである人が、一途に情熱をかたむけてつくりあげた製品である。このカートリッジの前面には、社長のイニシャルであるJFというマークが刻印され、このモデルの由緒正しさを表わしていると同時に、ハイクォリティ・カートリッジであることを示唆しているようだ。
 MI型のカートリッジであるこのシグナチェア1は、商品づくりという域を脱した手仕事から生まれ、それに見合った性能の良さ、音質の良さが感じられる。一流品に価するカートリッジである。

エレクトロ・アクースティック STS455E

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ドイツのエレクトロ・アクースティック社は、最も早くからMM型ステレオカートリッジを開発したという実績をもつメーカーである。この455Eは、そのメーカーの最新モデルの一つだが、最も音のバランスのよいカートリッジとして一流品に挙げたい。

アカイ PRO 1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 アカイというブランドは、日本のテープレコーダーのメーカーとして世界にとどろいている。もともと、メカニズムを専門とする機械屋さんで、その昔はフォノモーターも作っていたが、本命はやはりテープレコーダーである。
 アカイの長年の間に培われたテープ技術とノウハウの蓄積が、きわめて高い密度で結集しているのが、このPRO1000である。さすがにアカイのトップランクの機種だけに、ハイクラスのアマチュアが使うにはこうありたしという要求が、ほぼ完全な形で満たされているのである。テープレコーダーとしての基本性能がきわめて素晴らしいというだけでなく、ファンクションも豊富で、しかも実用性が高い、価値ある製品だと思う。そういう意味から、このPRO1000を一流品として推したい。
 PRO1000は、2トラック38cm/sec、19cm/sec、9.5cm/secのテープレコーダーで、可搬型仕様になっていてテープトランスポート部とアンプ部に分けられ、それぞれにハンドルが付けられている。可搬型にはなっているが、トランスポート部28・3kg、アンプ部10・2kgとかなり重いがこの内容からすれば仕方がない。テープ走行系にはクローズドループダブルキャプスタン方式が採用され、安定した録音・再生が可能であるとともに、テープ走行切替スイッチは、任意にどのポジションへもすぐに切替えられるダイレクトチェンジ機構など使いやすいテープレコーダーである。

SAEC WE-308 New

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 WE308は、トーンアームに情熱をかける一人の男の姿が思い浮かぷような製品として、一流品に挙げることにしたい。トーンアームを振動系という理論大系から眺めた、ユニークなオリジナリティをもつ製品で、軸受け部には、特殊鋼材の精密研磨による無直径、無抵抗といえるダブルナイフエッジ方式が採用されている。このようにかなり精密なトーンアームをつくっているSAECは、小さな専門メーカーで、歴史もまだ浅いが、むしろ将来が楽しみだということで、あえて一流品にとりあげたわけである。
 そういう意味では、まだまだ推選したい一流品がある。たとえばオンライフリサーチのダイナベクターDV505やオーディオクラフトのAC300C、AC400Cである。前者は質量分離型のダイナミックバランス型のトーンアームで、アーム内にバネのダンパーを設けるとともに電磁粘性ダンパー使用して、トーンアームのレゾナンスピークを低減しようとした製品である。このアームはもう一つの特徴として、アームボードに穴をあける必要がなく、ボード面据置型であるのもユニークだ。
 オーディオクラフトのトーンアームは、基本に忠実につくられた製品で、オイルダンプ方式のオーソドックスなモデルといえる。

QUAD 33, 303, 405, FM3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 創設者のP・ウォーカーは英国のオーディオ界でも最も古い世代の穏厚な紳士で、かつて著名なフェランティの協力を得てオーディオの開拓期から優秀な製品を世に送り出していた。ロンドンから一時間ほど車で走った郊外にあるアコースティカル社は、現在でもほんとうに小さなメーカーで、QUADブランドのアンプ、チューナーとコンデンサースピーカーだけを作り続けている。
 QUADは、なぜ、もっと大がかりでハイグレイドのアンプを作らないのか、という質問に対してP・ウォーカーは次のように答えている。
「もちろん当社にそれを作る技術はあります。しかし家庭で良質のレコード音楽を楽しむとき、これ以上のアンプを要求すればコストは急激にかさむし、形態も大きくなりすぎる。いまのこの一連の製品は、一般のレコード鑑賞には必要かつ十分すぎるくらいだと私は思っています。音だけを追求するマニアは別ですが……」
 こうした姿勢がQUADの製品の性格を物語っている。
 管球アンプ時代から、QUADはアンプをできるかぎり小型に作る努力をしている。ステレオプリアンプの#22は、それ以前のモノーラル・プリアンプと全く同じ外形のままステレオ用2チャンネルを組み込むという離れわざで我々をびっくりさせた。必要かつ十分な性能を、可能なかぎりコンパクトに組み上げるというのがQUADのアンプのポリシーといえる。
 この小さなアンプたちはデザインもじつにエレガントだ。ブラウン系の渋いメタリック塗装を中心にして、暖いオレンジイエローがアクセントにあしらわれる、というしゃれた感覚は、QUAD以外の製品には見当らない。このデザインは、どんなインテリアの部屋にも溶け込んでしまう。ことに、プリアンプとFMチューナーを一緒に収容するウッドキャビネットは楽しいアイデアだと思う。
 必要にして十分、と言っていたQUADも、一年前にパワーアンプの新型#405を発表した。100W×2というパワーをこれほど小さくまとめたアンプはほかにないし、そのユニークなコンストラクションは実に魅力的でしかも機能美に溢れている。
 アメリカや日本のアンプのような贅を尽した凄みはQUADの世界にはないが、33、303のシリーズの音質は、どこか箱庭的な、魅力的だがいかにも小づくりな音であった。405はその意味でいままでのQUADの枠を一歩ひろげた音といえる。この小柄なシャーシから想像できないような、力のある新鮮な音が鳴ってくる。クリアーで、いくらか冷たい肌ざわりの現代ふうの音質だ。アメリカのハイパワーアンプと比較すると、ぜい肉を除いた感じのやややせぎすの音に聴こえる。そして、405の音を聴くと、QUADはおそらく33よりも一段階グレイドの高いプリアンプと、やがてはチューナーも用意するのではないかと想像する。しかしそれはあくまでも良識の枠をはみ出すことのない、QUADらしいコンパクトな製品になるにちがいない。

フィデリティ・リサーチ FR-64S

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 フィデリティ・リサーチは、比較的歴史の新しいメーカーだが、歴史を遡れば、グレース、その前のパーマックスという、日本の錚々たるカートリッジ、トーンアーム・メーカーの技術的バックグラウンドを引き継いだメーカーである。そして、この会社の社長の、この分野にかける情熱は並々ならぬものがあるのである。そういう技術的背景から生まれた最新のFR64Sという、ダイナミックバランス型のトーンアームは、トーンアームのあるべき姿を、オーソドックスに技術的に追求し、実に繊細高度な加工技術と選び抜かれた材質で仕上げた、文字通り高級トーンアームの代表的存在だといえるだろう。

KEF Model 5/1AC, 104AB, 103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 #5/1ACは、デュアル・チャンネルのパワーアンプとデバイダーを内蔵したモニタースピーカーだが、その原形は1950年代までさかのぼり、英国BBC放送局の研究スタッフと、KEFの社長レイモンド・クックとの長期に亙る共同研究の結果完成したモニタースピーカーLS5/1Aが基本になっている。
 LSというモデル名は、BBC放送局で正式に採用されるモニタースピーカーだけに与えられる。中でもLS5/1Aは、NHKでのAS−3001(市販名は2S−305。現在は改良型のAS−3002が主力)に相当するマスターモニターの主力機としてBBCで長期間活躍している。これをもとに、いっそうの耐ハイパワー化と、解像力に優れた現代のモニターに成長させた製品がKEF#5/1ACで、これを機にKEFでは、一般市販用の〝C〟シリーズに加えて、新たに〝リファレンス〟シリーズを作りはじめた。その名のとおり音質比較の基準としても使えるだけの優れた特性のシリーズとして、まず#104が発表され、小型であるにもかかわらずフラットでワイドな周波数特性で世界の注目を集めた。またKEFはこれらのシリーズ開発のプロセスで、コンピューターによる全く新しいスピーカーの測定・解析法を考案し、今ではこの方法が、日本でも多くのメーカーによってとり入れられて成果が上がっている。
 104に続いて発表された103は、指向性改善のためにスピーカーバッフルの向きを変えられること、そしてより一層にハイパワーに耐えることに特徴がある。最近になって、さらに進んだ解析の結果ネットワークを改良した104ABを発表したが、低音ユニットと高音ユニットり音のつながりが明らかに改善されて、見事に洗練された繊細で自然な音を聴かせる。イギリスのスピーカーの概してハイパワーに弱い性格はKEFも同様だが、家庭用として常識的な音量で鳴らすかぎり、このこまやかで上品な音質は、音を聴き込んだファンには理解されるにちがいない。

エレクトロボイス Sentry IVA

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 エレクトロボイスは、名実ともに一流メーカーと呼ぶにふさわしいアメリカの名門である。本社はミシガン州ブキャナンにあり、一九二七年創立以来、数々の高級スピーカーユニットおよびPAシステムを世に送り出してきた。同時に、量高級スピーカーシステム、パトリシアンに代表される家庭用の大型フロアータイプや、近年ではブックシェルフ型まで幅を広げ、製品化してきたのである。
 現在では、残念ながらパトリシアンは製造中止になってしまったが、今日発売されているスピーカーシステム中、最も高級なモデルがこのセントリーIVAである。外観は、明らかにプロフェッショナル・ユースであり、かつてのパトリシアンに見られたような、ファニチュアライクなフィニッシュは見られない。この点では、一流品として登場する他のスピーカーに比べて、少し味けなさすぎるという印象を持たれるかもしれないが、しかし、現在のエレクトロボイスからすれば、やはりこの機種を挙げるべきだろう。
 アルテックのA7に一脈通じるシステムだが、同社のドライバーユニット、あるいはスピーカーエンクロージュアづくりの、長年のノウハウの蓄積が凝縮した高級スピーカーシステムといえるだろう。
 エレクトロボイスとしては、私はやはり一時代前につくっていた、きわめて緻密な木工技術をいかした家具調の大型スピーカーシステムの再現を、いま希望したいところだが、同社の歴史、実力からこのシステムを一流品として挙げておきたい。

JBL 4343, 4350

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 その音を耳にした瞬間から、価格や大きさのことなど忘れてただもう聴き惚れてしまう。いい音だなあ、凄いなあ、と感嘆し、やがて音の良し悪しなど忘れて音楽の美しさに陶酔し茫然とし、鳴り止んで我に返って改めてああ、こういうのを本当に良い音というのだろうな、と思う……。スピーカーの鳴らす音の理想を書けば、まあこんなことになるのではないか。それは夢のような話であるかもしれないが、少なくともJBL#4350や#4343を、最良のコンディションで鳴らしたときには、それに近い満足感をおぼえる。
 JBLの創始者ジェイムズ・B・ランシングは、アルテックのエンジニアとしてスピーカーの設計に優れた手腕を発揮していたが、シアター用を中心として実質本位に、鋳物の溶接のあともそのままのアルテックの加工法に対して、もっと精密かつ緻密な工作で自分の設計をいっそう生かすべく、J・B・ランシング会社を設立した。その最初の作品である175DLHは、ショートホーンに音響レンズという新理論も目新しかったが、それにもまして鋳型からとり出したホーンの内壁をさらに旋盤で精密に仕上げるという加工法、また、アルニコVと最上級のコバルト鉄による漏洩の極度に少ない高能率の磁気回路の設計や、油圧によるホーン・ダイアフラムの理想的な整形法に成功したことなどにあらわれるように、考えられる限りの高度で最新の設計理論と、材料と手間を惜しまない製造技術によって、1950年代の初期にすでに、世界で最も優れたスピーカーユニットを作りあげていた。続いて設計された375ドライバーユニットは、直径4インチという大型のチタンのダイアフラムと、24000ガウスにおよぶ超弩級の磁気回路で、今に至るまでこれを凌駕する製品は世界じゅうにその類をみない。375のプロ・ヴァージョンの#2440は、#4350の高域ユニットとして使われているし、175の強力型であるLE85のプロ用#2420が、#4343の高域用ユニット、という具合に、こんにちの基礎はすでに1950年代に完成しているのである。驚異的なことといえよう。
 JBLのユニット群は、エンクロージュアに収めてしまうのがもったいないほどのメカニックな美しさに魅了される。1950年代はむろん飛び抜けて斬新で現代的な意匠に思えたが、四半世紀を経た今日でも相変らず新しいということは、不思議でさえある。が、その外形は単に意匠上のくふうだけから生れたのではなく、理想的な磁気設計や振動板の材質や形状、それらを支えて少しの振動も許さないダイキャストの頑強なフレーム構造……など、高度な性能を得るための必然から生まれた形であり、その性能が今日なお最高のものであるなら、そこから生まれた外観がいまなお新しいのも当然といえるだろう。
 JBLのエンクロージュア技術も、ユニットに劣らず優れている。最大の特長は、裏蓋をはじめとしてどこ一ヵ所も蓋をとれる箇所がなく、ひとつの「箱」として強固に固められていること。そしてユニットのネットワーク類はすべて、表からはめ込む形でとりつけられる。現在では多くのメーカーがこれに習っているが、長いあいだこの手法はJBLの独創であった。それはエンクロージュアが絶対に共振や振動を生じてはならないものだ、というJBLの信念が生んだ考案である。その考案を生かすべくJBLのエンクロージュアは板と板の接ぎ合わせの部分が、接着ではなく「溶接」されている。JBLではこれをウッドウェルド(木の溶接)と呼ぶ。パーティクルボードまたはチップボードは、木を叩解したチップ(小片)を接着剤で練り固めたものだ。その一端を互いに突き合わせ高周波加熱すると、接触部の接着剤が溶解して、突き合わせた部分は最初から一枚だった板のように溶接されてしまう。だからJBLのエンクロージュアは、輸送や積み下ろしの途中で誤って落下した場合つき合わせた角がはがれるよりも板の広い部分が割れて破壊する。ふつうのエンクロージュアなら、接着した角の部分がはがれる。そのくらいJBLのエンクロージュアは、堅固に作られている。
 ユニットやエンクロージュアへのそうした姿勢からわかるように、JBLのスピーカーシステムは、今日考えられる限りぜいたくに材料と手間をかけて作ったスピーカーだ。多くのメーカーには商品として売るための何らかの妥協がある。JBLにもJBLなりの妥協がないとはいえないが、しかし商品という枠の中でも最大限の手間をかけた製品は、そうザラにあるわけではない。JBLが高価なのは、有名料でもなければ暴利でもなく、実質それだけの材料も手間もかかっているのだ。JBLだからと、ユニットだけを購入してキャビネットを国産で調達しようとする人に私は言おう。ロールスロイスが優れているのは、エンジンだけではないのだ、と。あなたはエンジンだけ買ってシャーシやボディを自作して名車を得ようというのか。材質も加工法も全然違うエンクロージュアに、ユニットだけを収めてもそれはJBLの音とは全然別ものだ。
 JBLの栄光に一層の輝きを加えた作品が、新しいプロ用モニタースピーカー#4350であり#4343である。どちらも、低・中・高の3ウェイにさらにMID・BASSを加えた4ウェイ。#4350は低音用の38センチを2本パラレルにした5スピーカー。こういう構成は従来までのスピーカーシステムにあまり例をみない。その理由について解説するスペースがないが、JBLは必要なことしかしない、と言えば十分だろう。こんにちのモニタースピーカーに要求される性能は、広く平坦な周波数特性。ひずみの少ない色づけ(カラーレイション)の少ない、しかも囁くような微細な音から耳を聾せんばかりのハイパワーまで、鋭敏に正確に反応するフィデリティ、そして音像定位のシャープさ……。そうした高度な要求に加えてモニタースピーカーは、比較的近接して聴かれるという条件を負っている。こういう目的で作られた優れたスピーカーが、過程での高度なレコード観賞にもまた最上の満足感をもたらすことはいうまでもない。
 #4350も#4343も、外観仕上にグレイ塗装にブラック・クロスのスタジオ仕様と、ウォルナット貼りにダークブルーのグリルがある。どちらのデザインも見事で、インテリアや好みに応じていずれを選んでも悔いは残らない。

B&O Beogram4002, Beogram6000

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 デンマークのバンク・アンド・オルフセン社は、家庭用のミュージックシステムからテレビに至る、普及品から高級品までの非常に製品バリエーションの豊かな、いわゆる総合電機メーカーである。一九二五年にピーター・バンクとシュベント・オルフセンという二人のニンジニアによって屋根裏部屋の一室からスタートしたこの会社は、その後次々に斬新なアイデアに満ち、二人の卓越した技術の結晶ともいえる魅力ある製品が、今日もなお生まれ統けているのである。
 およそデンマークという国柄は、クラフツマンシップを伝統的に持っているが、いわずもがな、私の好きなデンマークのパイプには、世界のファンシーパイプとして、クラフツマンシップの粋が見られる。またデンマークは、ファニチュア、モダンアート、インテリアデザインの面でも世界の最高水準を確保している国でもあるのだ。そういう国柄のバックグラウンドをも感じさせるオーディオ製品として、私はこのベオグラム・プレーヤーシステムを一流品として挙げたわけである。このプレーヤーシステムが持っている一流品としての所以は、私はデンマークという国が持っているセンスとテクノロジーの風格だとあえていいたい。
 一九七二年に発表されたベオグラム4000、その改良型の4002、6000は、必ずしも現代のプレーヤーの中で、最高の性能をそなえているというわけではない。しかし、ユニークなエレクトロニクスコントロールのフルオートプレーヤーを、これだけ美しいデザインで、しかもリニアトラッキングという理想的なトーンアームのムーブメントを備えたプレーヤーを、かくもフラットな、誰が見ても素敵というデザインでまとめたことは、一つの驚異的な仕事であると同時に、ずば抜けたセンスの良さを感じないわけにはいかない。実際に使ってみても、カートリッジを自由に交換ができないというハンディもあるが、操作性がスムーズであり、素晴らしいプレーヤーのひとつに数えられるものだと思う。
 ベオグラム6000は、同社のベオシステム6000用として特別に設計されたプレーヤーシステムで、このスリムなプレーヤーべースの中にCD-4用のディモデュレーターが内蔵され、2チャンネル再生時と切り替えて楽しむことが可能だ。カートリッジには、同社のムービング・マイクロクロス型という独特の発電方式によるトップランクの製品MMC6000が専用としてビルトインされている。
 ベオグラム4002は、前記のベオグラム6000からCD-4ディモデュレーターを省略したモデルと考えてよい。両者は外観からはほとんど区別がつけにくく、わずかにエレクトロニクスコントロール・パネル上部の型名表示と、ペオグラム6000の右サイドに付けられている2チャンネル/CD-4切替スイッチの有難を調べる以外にない。外形寸法は全く同じである。
 いまやダイレクトドライブ全盛といえるプレーヤーシステム部門において、この2モデルはベルトドライブ方式だが、そのメリットを巧みにいかした美しい薄型のデザインは、まさに一流品としての品位を備えている。

JBL 4333A, L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLのスタジオモニター・シリーズの中で最初に評価されたのが#4320であることはよく知られているが、さかのぼればその原形は、プロフェッショナル部分を設立するよりはるか以前のC50SM型モニタースピーカーにはじまっている。C50SMにはS7(LE15A+LE85の2ウェイ)とS8(LE15A、375、075の3ウェイ)の二つの型があった。エンクロージュアのデザイン(外観および外形寸法)は#4320も全く同じだがC50SMの構造は密閉箱だったため、低音の伸びが悪く寸詰まりの感じで、良いスピーカーだという印象があまり残っていない。そのC50SM−S7を位相反転型に改良し、クロスオーバー周波数を800Hzに変更(S7は500Hz)したものが#4320だと思えばいい。こまかいことをいえばユニットその他相異はあるが大づかみにはそういう次第で、したがって#4320はプロ部門設立と同時にある日突然生まれたモニターではなく、C50SM−S7以来の十数年のつみ重ねがあったわけだ。
 #4320は、低域およびウーファーとトゥイーターのクロスオーバー附近での音質の問題点が指摘された結果、#4330および31に改良された。さらに高域のレインジを拡げるためにスーパー・トゥイーター#2405を加えた3ウェイモデルの#4332、#4333が作られた。しかしこのシリーズは、聴感上、低域で箱鳴りが耳につくことや、トゥイーターのホーン長が増してカットオフ附近でのやかましさがおさえられた反面、音が奥に引っこむ感じがあって、必ずしも成功した製品とは思えなかった。
 #4333を基本にして、エンクロージュアの板厚を、それまでの3/4インチ(約19mm)から、1インチ(25mm強)に増し、補強を加えて作ったコンシュマーモデルのL300は、家庭用スピーカーとしては大きさも手頃だし、見た目にもしゃれていて、音質はいかにも現代のスピーカーらしく、繊細な解像力と徴密でパワフルな底力を聴かせる。音のぜい肉を極力おさえた作り方で、ダブついたような鳴り方を全くせず、やや線の細い鋭敏でシャープな音がする。
 こうしてL300が完成してみると、#4333の問題点、ことにエンクロージュアの弱体がかえっていっそう目立ちはじめた。そのことにJBLもとうぜん気付いたのだろう。#4333のエンクロージュアの板厚と強度を増すと同時に、位相反転のチューニングを変更し、タテ位置にもヨコ位置にも自由に使えるよう、ユニットの取付け方にくふうを凝らすなど、こまかな改良を加えた#4333Aを発売した、という次第である。#4333よりはL300が格段に良かったのに、そのL300とくらべても#4333Aはむしろ優れている。従来、内蔵ネットワーク型とマルチアンプドライブ専用型とに分かれていた#4332と33とが、#4333Aでは兼用型となったのも便利だ。

EMT TSD15, XSD15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 オルトフォンSPUの音の渋い豊かさに加えて、レコードの溝のすみずみまで拾い起こすようなシャープな解像力の良さ、音の艶と立体感の表現力の幅の広さ、これ以上のカートリッジは他にない。TSDはEMTのプレーヤー専用で、日本で広く普及しているSME型コネクターつきのアームにとりつけられるようにしたものがXSDだが、そのことでEMTの真価を誤解する人もまた増えてしまった。このカートリッジは昨今の一般的水準の製品よりもコンプライアンスが低いため、アームを極度に選ぶし、高域にかけて上昇気味の特性は、下手に使うと手ひどい音を聴かせる。トランスやプリアンプを選ばないと、その表現力の深さが全く聴きとれない。難しい製品だ。

EMT 930st, 928

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 EMTは Elektromesstechnik の頭文字をとったもので(最近の同社発行の資料には Elektronik, Mess-& Tonstudiotechnik となっているが)、1940年にウィルヘルム・フランツが創立した。プロフェッショナルのスタジオ用機器と測定器が主要製品で、日本のプロの間ではターンテープルよりもむしろエコーマシン(EMT140、240。鉄板共振型のリヴァブレイションユニット)の方がよく知られているほどだ。
 ドイツの有名な Schwarzwald(黒い森)に本拠を置き、スイスにも工場を持っている。スチューダーやルポックス、トーレンス等とも親戚の関係にある。
 EMT930スタジオターンテーブルの原形は25年以前に作られているが、ステレオ用の#930stになってからでもすでに10年以上を経過している。この製品の特長を列挙すると—-
(1)きわめてトルクの強く、ダイナミックバランスの完璧で振動皆無といえる大型のシンクロナスモーターによって、超重量級のアルミ鋳造のターンテーブルをリムドライブで回転させている(78、45、33の3スピード)。周辺にストロボスコープを目盛ったプレクシグラス(硬質プラスチック)のサブターンテーブルと電磁ブレーキによって、クイックスタート(スイッチONから500ミリセコンド)とクイックストップの働作は明快。スタートとストップはリモートコントロールが可能で、そのためのスイッチと連動したリニアスライド型のアッテネーターが用意され、このアッテネーターをミクシングコンソールに組み込める。
(2)専用のカートリッジTSD15と、ダイナミックバランス型のアーム#929を標準装備し(アメリカ向きにカートリッジ/アームレスのUSAモデルもある)、さらに、イコライザーカープの切替えと遮断周波数を2〜20kHzまで変化できる高域フィルター(10dB/oct)を内蔵したイコライザーアンプ#155stが組み込まれ、200Ωまたは600Ωのラインアウトプットで、+17・5dB(約6V)までの出力が得られる。
(3)全体が強化プラスチックの堅固なシャーシに高い精度でマウントされている。針先を照明する強力なランプがついているが、ランプハウジングの凸レンズの巧妙な設計によって、アーム先端の可動範囲をきわめて明るく有効に照明する(専用カートリッジ・シェル先端のレンズは、このランプによって針先と音溝の観察を容易にするためのもの)。
(4)カートリッジは、モノーラルLP用のTMD25、SP用のTND65を追加できる。旧型のOFD、OFSシリーズもある。また最近になって新型のイコライザーアンプ#153stが発表され、交換が可能である。
 #928型はトーレンスの125を強力型に改造し、イコライザーアンプ、ブレーキ装置、照明ランプなどを加えた簡易型だが、操作感はトーレンスとは別もので、コンシュマー用とは明らかに一線を画している。

オーディオテクニカ AT-15Ea/G, AT-14Ea/G

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 オーディオテクニカのVM型カートリッジは、発電方式としてはMM型であるが、V字型に配置された2個のマグネットをもつために、同社ではVM型と呼んでいる。このタイプは、1967年の開発以来、カッターヘッドと相似形の動作を理想として数多くの製品が開発され、発展してきたが、今回のニューGシリーズは、従来のモデルをベースとして蓄積された、細やかなノウハウを集めて、一段と完成度を高めたシェル付カートリッジでいずれもオーソドックスな2チャンネルステレオ専用のタイプである。ヘッドシェルは、音質追究の結果から採用されたマグネシュウム合金製のMG10型で、すでに音の良いヘッドシェルとして高い評価を得ているものである。なお、高級モデルのAT15にかぎり、ヘッドシェルなしのタイプも用意されている。
 AT15Ea/Gは、とくに、セレクトされたプレステージモデルであるAT20型を除けば、事実上のオーディオテクニカのトップモデルであり、ニューGシリーズでは最高級製品である。
 カートリッジボディは、軽合金のダイキャスト製で、従来のAT15型の金色から銀色に変わった。また、スタイラスホルダー部分は、ボディカラーの変更にともなって、インディゴブルーとなり、ボディ前面のテクニカのマークの色も同様に変わった。また、新しくスタイラスホルダーのプロテクターの部分に、型番が記されるようになったため、ヘッドシェル装着時にも型番の識別が容易になった。
 振動系は、大幅に改良が加えられているようだ。カンチレバーは、超硬質軽合金と発表されているが、表面の色が、従来のいわゆるアルミ色から、ちょっと見には鉄に見える色に変わっているが、明らかに非磁性体である。テーパード型カンチレバーは、新開発のツイステッドワイアーで支持されるが、ダンパーの色も従来とは異なっている。また、マグネットは、これも従来の円柱状から角柱状に変わっている。
 AT14Ea/Gは、AT15Ea/Gに準じたモデルである。変わっている点は、カンチレバーを支えるワイアーが、金メッキをしたピアノ線となったことと、コイルのインピーダンスが高く、AT15Ea/Gよりも、25%高い出力電圧を得ていることである。ボディフレームは、軽合金ダイキャストと同等なシールド効果をもち、強度を高める硬質メッキ処理が施されている。スタイラスホルダーの色は、エメラルドグリーンで、ボディのシルバーと鮮やかにコントラストをつくっている。
 ニューGシリーズは、振動系が大幅に改良されているために、音質的には、従来のトーンを一段とリファインし、さらに、力強く、粒立ちがカッチリとしたクリアーさが加わっているのが目立つ。音場感的にも、前後方向の奥行きが明瞭に再現され、音像定位が安定で、明快になっていると思う。