Daily Archives: 1976年12月20日

サンスイ AU-607, AU-707

岩崎千明

音楽専科 1月号(1976年12月発行)
「YOUNG AUDIO 新製品テスト」より

 サンスイのアンプが、この秋大きく変った。変ったといってもその特長たるブラック・パネルはそのまま踏襲され重量級の風格は変ることがない。しかしよくみると、その仕上げは、艶消しのソフトな感触に変り、今までの鋭どさがぐっとやわらいだ。つまみも角を丸くおとしてまろやかなタッチで、つまみの数も、いままでにくらべてずっと抑えて、全体にシンプルだ。こうした一段とソフトな感じがこの新シリーズ、607、707の大きな特長であることは、その音を聴くと、一層はっきりすることになる。従来、サンスイのアンプは「中音が充実し、やや華麗な中に、鮮明な迫力一ぱい」として受けとられて来た。
 人気絶頂の米国JBL・スピーカーの総代理店たるサンスイの特典が、アンプにいかんなく発揮されている、ともいえそうな鮮度の高い迫力ある音がブラックパネルのサンスイのアンプの共通的な特長であり、さらに中音から中高音にかけてのクリアーな力強さが感じられてきた。
 ところが、今度の新シリーズは今までのこうした特長からははっきりと変化を知らされる。路線が変ったというよりも、今までのすべてを突き破ったといえる。鮮明さは少しも失わずに、しかも、全体に受ける印象は、まろやかな音だ。どぎつさが全然なく、すべてに落ち着きとゆとりを感じさせる、高い水準の完成度が見事なほどだ。
 外観のイメージから受けることのできる、大人っぽい高級感は、音の方にもはっきりと感じることができるのが、今度の新シリーズ、607、707なのである。
 サンスイのアンプは今までもハイクラスのマニアの愛用者が多い。逆にいえば、高価格のアンプがよく売れる。1年前のAU7700といい、2年前のAU9500といい価格的には一般的平均よりもずっと高い高級品であった。こうした高価なアンプであれば、内容的には当然優れているわけで、それを十分使いきり、生かせることのできるファンが、サンスイの愛用者に多いといえる。
 新シリーズはこうした点をもっとはっきりと意識して、製品の企画に反映した、といえるだろう。初心者やレベルの低いファンにとっては今までのサンスイのアンプにくらべ物足りないと思われるほど、おとなしい音、おとなしいデザインにまとめられているのは、実はこいうした、大人のファンのための高級品だからであろう。
 607は65/65Wの、家庭用としては十分にして無駄のないパワーをもち、機能面でも、余り使うことのないものを整理し、しかも、若いファンのための必要なアクセサリーともいうべきテープ録音再生の端子は2台分を用意してあり、その使いやすい切換つまみでまとめたパネルつまみは、新製品にふさわしく、便利で有効だ。
 707は出力を一段と上げて80/80Wと強力でしかも機能面はマニア、音楽ファンの愛用者のあらゆる望みをかなえてくれるに違いないほどいっぱいだ。
 最近のアンプはかなり技術志向が強くて、「DCアンプ」「電源左右独立」といったアンプの内部を理解していないとつかみにくい面が強調されることが多い。サンスイの新シリーズもむ論、この面で同様の新技術を採用しているが、要はそうした技術が、サウンドにいかに生かせるか、である。サンスイの707、607、デビュー早々若い音楽ファンが熱いまなざしをもって迎えられているというのも本当の理由は、こうした実質的な、真の良さのためだろう。

ソニー SS-G7

菅野沖彦

スイングジャーナル 1月号(1976年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ソニーが私の感覚のアンテナにひっかかるスピーカーを出してくれた。長年にわたって同社は、スピーカー・システムに力を入れてはきたが、不幸にして、これはいけるという感じを率直に持てたものがなかった。
それも大型システムほど不満があって、スピーカー・システム作りの困難さを推察していたのである。もっとも、同社が、ユニット作りから本腰を入れ始めたのは、比較的最近のことであるらしい。しかしながら、このソニーSS−G7のようなシステムを作ることが出来たのは、明らかに開発者の熱意と、オーディオの実体への認識が支えになったことを思わせるのである。変換器としての物理理論とデータの確認だけでは、良いスピーカーが出来ないという過去の事実を謙虚に受けとめ、より緻密な科学的分析と、録音再生のメカニズムのプロセスへの一層の理解と実体験を積み重ねた結果の、一つの成果が結実したことは同慶にたえない。
 SS−G7は、38cm口径をベースにした3ウェイ・システムで、ミッド・レンジが10cm口径のバランス・ドライブ型と同社が呼称するコーン・スピーカーだが形状は、ドームとコーンの中間的なもの、ツイーターは3・5cmのドーム型である。ウーハーのコーンはカーボコーンと称する同社のオリジナルで、炭素繊維とパルプの混合による振動系にアルニコ系鋳造マグネットによる効率のよい磁気回路、駆動ボイス・コイルは100φの強力型で、優れた耐入力特性と高いリニアリティを得ている。スコーカーはコーンだが、実効的にはドームに近く、ツイーターは、20μ(ミクロン)厚のチタン箔の振動板だ。これらのユニットは、バッフル上にプラムインラインという方式で取付けられているが、これは、各ユニットの取付位置をただバッフル平面上につけるのではなく、振動板の放射位相関係を調整し、音源の等価的位置をそろえるという考え方のものだ。エンクロージャーは位相反転型だが、造りのしっかりしたもので、バッフル面は、これまた同社らしい特別な呼称がつけられている。AG(アコースティカル・グルーヴド)ボードというそうで碁盤の目のように表面がカットされていて、これによって、指向性の改善が得られているという。 たしかに、このスピーカー・システムの音は、豊かな放射効果を感じさせるもので、プレゼンスに富み、音像の定位も明解だし、豊潤なソノリティが、楽音をのびのびと奏でるものだ。ユニット配置の工夫や、AGボードが生きているとしたら、これ1つをとっても、従来の無響室における軸上特性の測定などが、いかに微視的な氷山の一角を把えていたに等しいかが評明されるだろう。ユニットやネットワークにもやるべきことを真面目にやって、さらに、それを音響的に多角的な検討をしてシステムとしてのアッセンブルに移すというオーソドックスなスピーカー作りの基本を守りながら、聴感を重視して試行錯誤をくり返した努力の跡がはっきりわかるのである。とにかく、このスピーカー・システムは、音楽が楽しめる音であり、楽器らしい音が再現される点で、ソニーのスピーカー・システム中、飛び抜けた傑作であると同時に、現在の広く多数のスピーカー・システムの水準の中で評価しても、まず間違いなくAクラスにランクにされる優れたものだと思う。
 この、SS−G7の試聴感を率直にいえば、やはりウーハ一に大口径特有の重さと鈍な雰囲気がつきまとうのが惜しい。しかし、これは、この製品、SS−G7に限ったことではなく38cmクラスのウーハーのほとんどが持っている音色傾向であるといえよう。
今後の課題として、この中高域の質に調和した、より明るく軽く弾む低音も出せる大口径ウーハーが出現すれば文句なしに第一級のシステムといえる。しかし、この価格とのバランスを考慮して、商品として評価をすれば、これは賞讃に価いする。今後の同社のスピーカーにさらに大きな期待を抱かざるを得ない傑作だと思う。

デンオン POA-1001

岩崎千明

スイングジャーナル 1月号(1976年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 76年秋、デンオンはトランジスタ・アンプらしからざるマイルドな音色のソリッドステート型高級アンプとして、コントロール・アンプPRA1001、パワーアンプPOA1001を発表した。ちょうど1年前の秋には、同じデンオンが真空管アンプらしからざる透明感あふれる音色の、管球式高級アンプ1000シリーズを発表しているが、外観的にはこの1年前の管球式1000シリーズとはっきりした共通点が認められる。今回の1001シリーズは、こうした外観的な特長からも、またこの型番からも、1000シリーズのアンプの技術を土台にして、その上に結実した結果ということができよう。
 ところで、オーディオ界におけるデンオン・コロムビアのブランドは、ビクターと並んで、最も古くからその中核をなしその企業組織内にレコードを主とした音楽産業を併せ持つ、音楽的色彩の強いオーディオ・メーカーであることはよく知られているだから、デンオン・ブランドのオーディオ機器は、一般に他社とははっきりとした違いを持ち、受け手の側が音楽との関わりを深めていくにつれて、「デンオン」の製品のこうした音楽的特長に気付いてくるに違いない。
 ひとくちに言って、デンオンの製品は、スピーカーにしろアンプにしろ、あるいは、プロフェショナルに永く問わりを持ち、業務用という言い方で誰をも納得させてしまうデッキやプレイヤー関係の機器に至るまでのすべてにおいて、他とは違うサウンド上の特質ともいうべき「いきいきとした生命感ある音」を大変はっきりと示してくれている。
 このため、デンオンのプリメイン・アンプは数あるライバル製品の中にあって、どちらかというと割高の傾向をみせながらもなおその愛用者が少なくない。プロ用機器の技術を土台としたデッキやプレイヤーに比べて、サウンド感覚そのものが大きく判断を支配してしまうスピーカーやアンプにおいての成功は、デンオンのオーディオ機器の優れた本質を示してくれる裏付けであると言ってよいだろう。
 だから、デンオン・ブランドのプリメイン・アンプは、最近ますます音にうるさい愛用者の用うべき高級品だと評判も高い。
 当然のことながら、こうしたプリメイン型アンプのより高級なる地位を占めるべきセパレート型に対しての期待が大きかったわけだ。しかし、一般に、期待の大きい場合にはその大き過ぎたがゆえに、期待外れの失望感を味わいやすいものだ。
 ところが、今回発表された1001シリーズは、こうした危倶をまったく感じさせない。すっきりとした外観は、見るからに高級品然とした高い品位の風格を示し、プリメイン・アンプの高級品とも格段の相違をはっきりと示す。確かに、プリアンプ、パワーアンプあわせて30万を上まわるのだから、これは当然の配慮というべきだが、それが、一見して感じられるところも商品作りのうまい点だ。こうしたことは、最近のようにデザイン重視の傾向が進めば進むほど、意外にも見逃されがちのようである。例えばほとんど同じ系列の製品群に対して同一デザインを踏襲してしまい、仕上げまでも同一程度のため、安いものほど高級感が出てきて、高価なものではその逆にその高級感が物足りなくなってくることがままある。パワーアンプのような実質本位な製品は、デザインが軽視されがちだ。
 デンオンPOA1001は、ごくあっさりとした外観ながら、実はきわめて緻密な配慮のもとにデザインされていて、サブ・パネルの下に使用頻度の少ないツマミを収め、扱いやすさと風格とをあわせ持つ。スイッチを入れると、そのスピーカー保護回路が働くのも、高級アンプにふさわしいタイム・ラグを感じさせる。
 あくまで澄みきったサウンドのうえに、切れこみの良さと、耳になじんだ快さは、マイルドで芳醇なコーヒーの味にも似て、じっくりと味わうにつれ、その深みを増していくようである。