ソニー SS-G7

菅野沖彦

スイングジャーナル 1月号(1976年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ソニーが私の感覚のアンテナにひっかかるスピーカーを出してくれた。長年にわたって同社は、スピーカー・システムに力を入れてはきたが、不幸にして、これはいけるという感じを率直に持てたものがなかった。
それも大型システムほど不満があって、スピーカー・システム作りの困難さを推察していたのである。もっとも、同社が、ユニット作りから本腰を入れ始めたのは、比較的最近のことであるらしい。しかしながら、このソニーSS−G7のようなシステムを作ることが出来たのは、明らかに開発者の熱意と、オーディオの実体への認識が支えになったことを思わせるのである。変換器としての物理理論とデータの確認だけでは、良いスピーカーが出来ないという過去の事実を謙虚に受けとめ、より緻密な科学的分析と、録音再生のメカニズムのプロセスへの一層の理解と実体験を積み重ねた結果の、一つの成果が結実したことは同慶にたえない。
 SS−G7は、38cm口径をベースにした3ウェイ・システムで、ミッド・レンジが10cm口径のバランス・ドライブ型と同社が呼称するコーン・スピーカーだが形状は、ドームとコーンの中間的なもの、ツイーターは3・5cmのドーム型である。ウーハーのコーンはカーボコーンと称する同社のオリジナルで、炭素繊維とパルプの混合による振動系にアルニコ系鋳造マグネットによる効率のよい磁気回路、駆動ボイス・コイルは100φの強力型で、優れた耐入力特性と高いリニアリティを得ている。スコーカーはコーンだが、実効的にはドームに近く、ツイーターは、20μ(ミクロン)厚のチタン箔の振動板だ。これらのユニットは、バッフル上にプラムインラインという方式で取付けられているが、これは、各ユニットの取付位置をただバッフル平面上につけるのではなく、振動板の放射位相関係を調整し、音源の等価的位置をそろえるという考え方のものだ。エンクロージャーは位相反転型だが、造りのしっかりしたもので、バッフル面は、これまた同社らしい特別な呼称がつけられている。AG(アコースティカル・グルーヴド)ボードというそうで碁盤の目のように表面がカットされていて、これによって、指向性の改善が得られているという。 たしかに、このスピーカー・システムの音は、豊かな放射効果を感じさせるもので、プレゼンスに富み、音像の定位も明解だし、豊潤なソノリティが、楽音をのびのびと奏でるものだ。ユニット配置の工夫や、AGボードが生きているとしたら、これ1つをとっても、従来の無響室における軸上特性の測定などが、いかに微視的な氷山の一角を把えていたに等しいかが評明されるだろう。ユニットやネットワークにもやるべきことを真面目にやって、さらに、それを音響的に多角的な検討をしてシステムとしてのアッセンブルに移すというオーソドックスなスピーカー作りの基本を守りながら、聴感を重視して試行錯誤をくり返した努力の跡がはっきりわかるのである。とにかく、このスピーカー・システムは、音楽が楽しめる音であり、楽器らしい音が再現される点で、ソニーのスピーカー・システム中、飛び抜けた傑作であると同時に、現在の広く多数のスピーカー・システムの水準の中で評価しても、まず間違いなくAクラスにランクにされる優れたものだと思う。
 この、SS−G7の試聴感を率直にいえば、やはりウーハ一に大口径特有の重さと鈍な雰囲気がつきまとうのが惜しい。しかし、これは、この製品、SS−G7に限ったことではなく38cmクラスのウーハーのほとんどが持っている音色傾向であるといえよう。
今後の課題として、この中高域の質に調和した、より明るく軽く弾む低音も出せる大口径ウーハーが出現すれば文句なしに第一級のシステムといえる。しかし、この価格とのバランスを考慮して、商品として評価をすれば、これは賞讃に価いする。今後の同社のスピーカーにさらに大きな期待を抱かざるを得ない傑作だと思う。

Leave a Comment


NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください