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オンキョー F-500M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 F500にマルチアンプ端子を追加した、小改良モデルである。以前の型にくらべて、前面ネットの色調があかるくなった点は好感が持てる。
 音質そのものは、F500とそう違うようには思われず、バランスのよい、各音域間のつながりのよい聴きやすいまとめ方は従来どおりだが、改めて切換比較してみると、今回のテスト機種の中では、中~低域がやや盛り上った感じで、そのこともあってか聴感上の能率がかなり高い方で、よく響いて元気の良い鳴り方をする。新製品のR4000と切換えると、よけいこの特徴が強調されて聴こえる。聴感上の低域は豊かだが、重低音のファンダメンタルが充分に出るという特性ではない。ただ、R4000あたりとくらべると、豊かに響くがやや大まかな点もあって、4000の方が抑制が利いてキメが細かく感じられる。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

アカイ SW-155

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 ブックシェルフ・タイプとしては、キャビネットがわずかながら大きめのためか、中域から低域にかけてふくらみを持った、量感のある音を響かせる。中高域以上をおさえてあるので、うるさいという音はあまり出てこないが、半面、音源が遠くの方で鳴る感じで、ホール・トーン的というか、音が距離感を持って鳴る。低域の質と豊かさは、なかなか悪くないと思う。つまりボッテリ型で、打てば響くような敏感さではなく、丸い甘い、ムード的な音質である。
 低域のよく出る感じは、箱鳴りもいくぶんあるようで、アラ探し的な聴きかたをすれば、もっと音に締まりがほしいし、キャビネット自体が響きすぎるようにも思われる。そのためか、音がかぶった感じで総体に品位をやや損ねている。外観は少々凝りすぎといった印象。音もまた、外観同様に重々しく飾った感じである。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★
コストパフォーマンス:★★

コロムビア VS-450

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 ウーファーとトゥイーターのつながりが良いためか、中音以上のバランスはなかなか良く、きれいな音を聴かせてくれる。超小型のシステムを音質本位に作れば、とうぜん能率は悪くなるわけで、それを承知で聴いてみたが、それにしても聴感上の能率では、テスト機種中、最低といえるほど、ほかのシステムからこれに切換えると音量がガクンと下がる。そこでボリュームをグンと上げようと思うのだが、残念なことに、意外とハイパワーに弱く、あまり大音量では鳴らせなかった。とくにフラットな音をと意識したためか、音に冴えたところがなく、曲によって何となくボール紙くさい音にきこえるときがある。中低域以下の厚みに欠けるため、すべて小じんまりと、薄くスケールの小さい音になってしまう。いいところも少なくないが、使いこなしの難しいスピーカーのようだ。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★

Lo-D HS-250F

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 HS500という名作をものした日立の普及品だが、音のバランスのとりかたは、HS500とは相当に違っている。片や非常にフラットな、素直で自然な音質を目ざしているのに対し、HS250Fでは、中域から高域にかけて相当に強調されたバランスのとりかたで、全く違う。同じメーカーの製品とは思えないほどの違いかただ。
 低音域は音がしっかりしてなかなかよいが、中音域では、音の強調とともに軽いエコーがつくような、ホールトーン的な響きかたをする。クラシックの渋い曲などでは、やや品位に欠けるひびきかたをする。プライヴェートな試聴では、これより価格の安い2ウェイのHS201Fの方が、HS500的なバランスの良さを持っていたように思う。
 中音域の、それもかなり広い音域全体について検討を望みたい。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★
コストパフォーマンス:★★

デンオン VS-260

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 スピーカー・ユニットを数多くとりつけたシステムの場合ほど、各音域のあいだのつながりを滑らかにするのが難しく、バランスをとることもまた困難になるようだが、このDENONブランドの新製品は、この点にずいぶん苦労したのだろうと思わせるような製品である。キャビネットの工作などかなり手がこんでいるし、背面のマルチ・アンプ用端子を含めてレベル・コントロール等のまとめかたも、マニアライクなところがあって、眺めて楽しい要素もあるが、かんじんの音の方は、なんとなく音のつながりがよくないし、各ユニットがそれぞれ少しずつ違った音色を持っているようにも思われ、それよりも音の質そのものがやや品位に欠けるのが残念だ。低音の質は必ずしも悪くないが、中域から高域にかけて、もうひとつなめらかさがほしくなる。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★

サンスイ SP-150

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 サンスイのスピーカーの中では最も新しい製品で、今回初めてテストするシステムだが、音質には、みごとといいたいほどサンスイ・トーンが表現されて、強い個性を持っている。一聴して感じられるのは中域が強く張り出した明瞭度の高い硬質の音色で、これはむろん今回テストした同社の各製品に共通した性格だが、中でもこのSP150では、中域にホーンを使っているのではないかと思えるほど、特徴のある中音を響かせる。そこでバランス上は、とうぜん低音・高音ともやや抑えられた感じに聴こえるわけだが、どうやら山水の場合、ポピュラーやジャズ・ヴォーカル系のレコードで音決めをするのではないかと想像され、そういうプログラムソースでは、このバランスの作りかたが、結果として好ましい方向になるとも考えられる。これぐらい全製品に個性を主張できれば立派なものだ。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

パイオニア CS-500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 低音と高音をかなり強調した、いわゆるドンシャリ型の音づくりで、とくに中高音域にかけての独特の軽快で華やかな音質は、ラテン系など歯切れのいい曲を聴き流すには良いのかもしれない。能率も割合に高い。
 パイオニアのスピーカーは、ひと頃、音が重いとか音の抜けが悪いなどと評価された時期があって、そういう評判を一掃しようというわけか、今回の製品はこのcS500にかぎらずどれもすべて中高域をチリチリいうぐらいに強調していたが、こうなると、以前の反動とはいえ少々やりすぎやしないかと、またもやイチャモンをつけたくなる。
 前面ネットを外したパネルフェイスを含めて、重い感じを拒否して、明るく、軽くという雰囲気を意識しているらしく、これはこれなりに、ひとつのキャラクターとして認めるべきなのだろうか。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★

ダイヤトーン DS-251

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 とび抜けて高音が強調された感じに聴こえる。ちょうど、アンプのトーン・コントロールで高音を上げたような、しり上がりの強調感で、そういう部分に影響されてか、中音がひどく引っ込んで聴こえてしまう。念のために、バランス調整スイッチをDECREASEにしてみたが、それだけではバランスがとりきれない。そこでアンプのトーン・コントロールでハイを相当に絞ってみると、一応バランスの良い音質になって、しかもそうしてみると、各音域の質そのものは決して悪くなく、ユニットの素性はなかなか良さそうに思えた。キャビネットの工作やグリルネットの意匠なども美しく、ネットを外したときのユニットの仕上げもみごとなものだ。低音から中高音にかけての音のつながりに、もうひと息、スムーズさがあれば相当に良いシステムだろうと思う。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★

ビクター BLA-205

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 ビクターの場合も、トリオなどと同様に今回の新シリーズから、従来の製品と性格を一変させて、一貫したポリシーがどの製品にも共通してあらわれてきた点はみごとである。たとえば新しいダイアフラムや、米松合板のキャビネット、羊毛混紡の吸音材など、セールスポイントも豊富だが、その成果が音質の上にも反映して、ナチュラルで聴きやすい、おとなしい音質に統一された。BLA205は、シリーズ中でも最もローコストの製品だが、構成が小規模なためかやや抑えすぎた感じで、たとえばコーラスなど唱っている人数が減る感じがしたり、ヴォーカルがややラジオ的な響きにこもるなど、2~3の弱点はあるものの、市販品に最も多い二万五千円グループの中では目立ったクセの少ない使いやすい製品のひとつといえる。平均的優等生、といった感じのスピーカーだろう。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

クライスラー CE-5aII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 昨年の秋から暮にかけて、各誌のテストや紹介で好評を得て一躍ベストセラーになったCE5a(およびac)の改良モデルで、スコーカーが新型に変り、マークIIと型番が変った。発売後一年を経ずしての改良型は、ちょっと早すぎるような気がしないでもないが、はたしてどんなものだろうか。ひと言でいうと、中域が明るく元気よくなって、同社がモデルにしているというアルテックの音色に一脈通じるところが出てきた。以前より中域が盛り上って、しかも旧型同様中域から高域にかけて圧迫感のないきれいな音を聴かせる。旧型にくらべると、バランス調整ツマミの指定の位置でほぼうまいバランスがとれるようになった。しかし半面、旧型の良さであった中域ぜんたいの品のいい繊細で軽やかな美しい音色がやや失われて、ときに何となく粗っぽいところが感じられる場合がある。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

ソニー SS-2800

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 SS1800のところで、でさいんのことでひどい悪口を書いたけれど、この2800の方は、単にソニー製品の中でというにとどまらず、国産ブックシェルの中で比べても、相当に水準の高い意匠ということができる。同じメーカーでこれほど性格の違うスタイルが生まれること自体ふしぎなことだが、音質の方も、1800と2800では5千円という価格差を考えに入れても、かなり違う音色を持っている。但し音のバランスの作り方からみれば、中高域がややひっこんだ感じは、1800程ではないにしても一脈通じるところがあるが、総体に耳あたりの良い柔らかい作り方である。プログラムによっては少々こもった感じのにぶさが感じられる場合もあるが、中域から低域にかけての音質はなかなか美しい。中高域での品位がもう一歩改善されると、かなりいいシステムになりそうだ。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★

オンキョー R-4000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 同社のF500、600のシリーズよりもひとまわり小型のRシリーズは、ドーム型トゥイーターを使った新型のシリーズとのことで、音質の傾向がガラリと変っている。Fシリーズが、どちらかといえば中~低域を豊かに、音に厚みを持たせようとしているのに対して、Rシリーズでは、むしろぜい肉を極力おさえて、そっけないほど抑制の利いた音質に作られている。能率は良い方ではなく、中低域から中高域にかけてやや引込んだ感じのバランスなので、ラフな比較では損をしやすい音づくりといえるが、パワーを上げても圧迫感のないおとなしい音質はちょっと類がない。コーラスのハーモニイもきれいだし、弦もやわらかい。しかしプログラムによっては、トゥイーターの鳴きが耳ざわりになることもあった。かなりハイパワーのアンプを用意しないと、こなし難いスピーカーのようだ。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

KEF Chorale

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 同じ兄弟だけに「クレスタ」とよく似た音のつくりかたである。低音用のユニットもキャビネットもひとまわり大型になっているだけに、低域の量感はクレスタよりもかなりよく出る。バス・ドラムの音なども小型のシステムとしてはかなり立派な方だ。クレスタの場合は、ハイパワーにひどく弱かったが、コラールではそういう欠点はなく、一応、相当の音量にも耐えられる。
 クレスタ同様に高級ラジオの音質という感じで、国産の一部のスピーカーのように、中域も高域もジャンジャン出ます、といった押しつけがましいところがなく、レンジ等決して広くない。箱が小型のせいか、スケールの大きさなどはあまり出ないし、何となく音が水っぽく、そっけない。高域では、スクラッチ・ノイズに独特の音色がともなう点がやや耳ざわりである。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★
能率:★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★

トリオ KL-3060

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 トリオのスピーカーは、新しいKLシリーズになってから、ガラリと音が変った。総体に中高域に独特のツヤが出て、音のバランス、音域間のつながりなどに欠点が少なくなかった。
 低音域は、たとえばオルガンやバス・ドラムのようなファンダメンタルの低い音域でも、一応不満を感じない程度には再生する(今回のテストでは、これ以前のローコスト・グループから、この点でははっきり一線を画した)。中低域はなめらかで美しいが、もう少し厚みが出ればなお良い。中高域はやや冷たい。高域は特別にワイドレンジではないが、一応不足はない。音の品位という点ではもうひと息というところだが、価格の安さを考慮に入れれば、なかなかうまい製品といえよう。ただ、前面サランネットの色は暗くて頂きかねる。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★
デザイン:★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

クライスラー CE-6a

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 このところ好評の上げ潮に乗っているクライスラーは、たて続けに改良型や新製品を発表しているが、この製品は今回初めてお目にかかった新製品だ。ユニットそのものは、CE5a/IIと同じものらしいが、キャビネットが違い、構成がやや違うだけで、こうも音が変るというサンプルである。ひと言でいうと、CE5a/IIよりも、饒舌なところが少なく、やや抑え目に作られている。むろん音の質そのものには共通点が多いが、総体にこじんまりと、やわらかく耳あたり良くうまくまとめた感じで、大きさからいっても重低音は不足だが、中低域以上のバランスがなかなか良い。クラシック、ポピュラー、大編成、小編成などのソースのちがいに対しても、比較的オールラウンド的に上手に音を作っている。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★
独奏:★★★
声楽:★★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

フィリップス RH493

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 今回のテスト機種の中で、KEFクレスタに次いでローコストの外国製品である。一本二万円ということだが、日本製品の一万円相当というところか。
 一聴すると、高域がシャリシャリと出すぎて、反面、低域がまるで鳴らないように聴こえるが、BASSをかなり上げてHIGHをおさえてバランスをとり直すと、この素晴らしく格調の高い、分離のよい、きれいで刺激のないよく澄んだ音質は、ただものでないことがわかる。箱の大きさから言っても、決してスケールの豊かな音にはならないが、オーケストラでも結構量感が出るし、弦合奏のオーヴァートーンがふわりと漂う雰囲気など、泣けてくるようなうれしさだ。どんなにばらんすを とり直しても、生れの品位の悪いスピーカーだったら、こうは鳴らない。値段から考えても、たいしたユニットでもあるまいと思えるのだが。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★★★
独奏:★★★★
声楽:★★★
音の品位:★★★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★★
能率:★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★
(推薦)

ソニー SS-1800

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 ほんの10年も前までの日本の工業製品は、外国製品のアイデアを頂き、デザインはそっくり盗用で悪名高かった。その日本製品で、最初に、外国にイミテーションを作らせたのが、ソニーのポータブル・トランジスタ・ラジオだった。20年も前の話である。それ以来、ソニーのデザイン・ポリシーは、広く世界に評価された。
 そのソニーが、どうしてこんなデザインのスピーカーを作ったのか。これがあのソニーの製品とはとても信じられない。もうひとつのSS2800の方は、いかにもソニーらしい格調高い意匠なのに。
 音のバランスは、中低域がやや盛上り、中域が引っこんで、高域がチリチリするというドンシャリ型で、録音のよいレコードでは一応きれいに鳴るが、古い録音のレコードでは汚れっぽい音を強調してしまう。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★★
デザイン:★★
コストパフォーマンス:★★

KEF Cresta

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 現在入手できる海外製品の中では最もローコスト。しかもキャビネットごとオリジナルで買えるとなると、やはり国産品とは別な興味が湧くが、テストの方法を、他の機種と変えるような手加減は一切していない。
 音のつくりかたはさすがにうまいもので、中域がいっぱいにつまっているという感じで、ヴォーカルなどが暖かく聴ける。キャビネットの大きさからみても内蔵のユニットの口径から云っても、低域の量感はそう期待できないし、高域にも独特の音色があって、全体として、ハイファイ・スピーカーというより高級ラジオの美しい音、といったイメージである。低域を補おうとローブーストすると、ウーファーのコーンがバタバタとはためくので、あまりパワーを入れるわけにゆかない。小音量でバックグラウンド的に楽しむという製品のようだ。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★
能率:★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★

テクニクス SB-100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 超小型のブックシェルフ・スピーカー〝テクニクス1〟の改良モデルと思われ、トゥイーターに新型のドーム・タイプを採用した点が特徴になっている。
 こういう小型スピーカーでは、構造上豊かなといった形容詞の低音を望むのはもともと無理だから、テストはその点でハンディを持たせているが、その意味は比較的バランスよく、とくに音が張り出すとか抜けるとかいうことなく、割合にクセのない、素直な音を聴くことができた。たいへんきれいな音質だと言ってもいい。
 しかし、さすがに小型なだけに、能率もあまり良い方ではないし、そういう点をボリュームで補整しても、なんとなくスケール感が不足して、音に伸び伸びしたところがなく全体にしめっぽい音色になる。サブ・スピーカーとして、静かに楽しむという目的のものだろう。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★
能率:★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★★

サンスイ SP-70

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 SL7とよく似た音のつくりかたをしている。ただし、SL7がドロン・コーンを採用しているのにこちらはパイプダクトのままであるためか、低音域ではSL7の方が抜けがよいように感じられた。いずれにしても、SL7の場合でも聴感上では低域が少々抑えられすぎると思ったのだから、SP70ではいっそう低域に不足を感じてしまう。
 山水独特の中高域の張り出した硬質の音づくりが、この感じを一層強調して、聴感上は、中高域を盛り上げて低域と高域の両端をおさえたような、特徴あるバランスだから、トーンコントロールで低音・高音をややブーストするとか、置き場所のくふうで低域を低域を補ってやるなどする方がいいように思われる。
 山水のこの特徴あるバランスは、ポピュラー・ヴォーカルなどに対しては非常にうまい作り方といえる。

採点表
大編成:★★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★
能率:★★★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★
(準推薦)

サンスイ SL-7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 JBLのトリムライン54をモデルにしたと思われ、前面を広く奥行を極度に薄くした、独特のスリムラインがタダが、スピナール(木材)の明るい色調が、華やかな雰囲気を持っていて楽しい。
 明るく華やいだ外観は音を聴いてみてもそのままの雰囲気に受けつがれている。つまり中高域が強く張り出す例のサンスイ・トーンが一層強調されていて、これがヴォーカルなどではすばらしく歯切れのよい明瞭度を感じさせる。SL7専用の脚をつけてフロアタイプとして、広いサロンなどで鳴らしたら、この音質はよく透ってなかなか魅力的なのではないかと思う。ただ、こういう音は、本誌試聴室のような比較的狭い小住宅では(つまり一般家庭では)、いわゆる鑑賞用としてのオールラウンド的な作り方とは違うように思われ、そういう性格を理解して使いこなすべきだと感じた。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★
音域の広さ:★★★
能率:★★★
デザイン:★★★★★
コストパフォーマンス:★★★

フォスター G-11

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 小さいくせによく鳴るスピーカーだというのが第一印象である。聴感上の能率は全機種を通じての中ぐらいだから普通だが、小型グループの中では山水SP10などと並んで能率が良い方であることと、中高域の張り出した音質とによって、そう感じられるのだろう。
 高域が爽やかによくのびて、レンジの広さを感じさせるが、中音域がやや固いことと、全体のバランス上、低音がもの足りないために、アンプのトーンコントロールで低域をかなり上げ、高域をやや抑えるぐらいにして、ちょうど聴きやすい音質になる。このSRシリーズよりも、旧型のFE103Σの方が、音の品位の点で優れていたように思われる。
 アルミ・サッシュを生かしたキャビネットの意匠がしゃれていて、プロポーションも悪くない。

採点表
大編成:★★
小編成:★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★
能率:★★★
デザイン:★★★★
コストパフォーマンス:★★★

サンスイ SP-10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 16センチの全域型スピーカー一本だけを、こんな小さな箱に押し込んでしまうと、ふつうならのびない貧弱な音になりがちなのに、SP10にはそういう欠点がみあたらず、中低域に(こういうシステムとしては)意外なほどの厚みがあって、小さいくせにスケール感の豊かな、堂々とした響きを聴かせてくれた。しかも同社の各機種と共通した独特の張りのある、いわばサンスイ・トーンともいうべき中音域の音質は、ちゃんと備わっているのだから立派というべきだろう。小型のくせに、音量を相当に上げても音のくずれが割合少ない。それらの特徴を総合すると、小柄の割に派手な音づくりをしているという印象である。中低域の響きや、高域でのスクラッチノイズの独特のシリシリというくせが長く聴いているとやや耳障りだが、なにしろローコストにうまくまとめたものだと感心させられた。

採点表
大編成:★★
小編成:★★★
独奏:★★
声楽:★★★
音の品位:★★
音のバランス:★★★
音域の広さ:★★
能率:★★★
デザイン:★★★
コストパフォーマンス:★★★★★
(推薦)

最新ブックシェルフ型スピーカーの傾向

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 本誌10号以来、一年半ぶりにブックシェルフ型スピーカーの総合テストが行われた。オーディオ・ファンがスピーカーシステムを購入しようとすると、現実に売られているスピーカーの大半はブックシェルフ型なのだから、いかに本質論を唱えようと、ブックシェルフ型が市販品の主流の座を占めている事実だけは否定のしようがない。
 この春の北海道オーディオ・フェアでのスピーカーの新製品発表をみると、半数以上のメーカーが、ブックシェルフ型ではない、いわゆる大型や、変り型のスピーカーを発表してはいたのだが、そういうものが実際にはまだ豊富に出まわっているわけではないし、昨年来からの内外の話題になっているオムニ・ディレクショナル(omni-directional)タイプ=無指向性スピーカー=も普及にはまだいくらかの時日を要するだろう。つまりブックシェルフ型は、まだ当分のあいだ、主流の座にすわりつづけるだろうし、ブックシェルフ型意外のタイプが出まわりはじめたとしても、少しぐらいのことでは姿を消さないだけの商品としてのメリットを持っている。つまり、小型にできて、作るにも運ぶにも売るにも楽だし、ユーザー側からみても小型で場所をとらず、その割には音が良いし、小型に作れる有利さは、とうぜん、得られる音にくらべて価格の安い、コストパフォーマンスの高い商品ということで、まあ容易には廃れはしないだろうと考えられるのである。
     *
 そんなことをくだくだしく論じるのが目的ではなく、ともかく、現実にブックシェルフ型がスピーカーシステムの主流であることは是認した上で、本誌10号以来の変化やその傾向を探ってみた。あわせて、ブックシェルフ型を選ぶ場合の簡単なヒントのようなものを記してみよう。
国産ブックシェルフ型の傾向
 総括的にみれば、国産の中級ブックシェルフ・スピーカーは、10号のテストのときからみると全体に水準が上っている。裏返していえば、わずか二年足らずのあいだに大半の製品が姿を消して新製品と入れ替ったし、
新製品でないまでもII型とかB型といった形で改良型──中には改良というより全くの新製品に近いものもあるが、──に替っているわけで個人的には、スピーカーのように原理的にも技術的にも大きな変化のないものに、一年や二年で変ってたまるかといった気持がないではないが、ほんとうの意味で「改良」されているとすれば、まあ歓迎すべきことなのだろう。
 価格でいえば二万円台から三万五千円クラスまでの製品が大半を占めるようになり、この辺が、国内メーカーが最も力をそそいでいる──つまり最も売れる──クラスであることがわかる。それだけに強奏もはげしく、各メーカーが自社の特徴をいかにして打ち出すかに苦心している姿勢がありありと伺える。
 全体にレベルが上ったというその最も目立つ部分は、音のバランスのとりかたがうまくなったという点だろう。とくに片よった個性がおさえられ、フラットな、ナチュラルな傾向のものが増えてきた。
 しかしこの傾向には一つだけ問題がある。いま現実に市販のアンプの音質が互いによく似てきたように、あるいはカートリッジの音質がひところみなフラットにナチュラルにつくられた結果よく似てしまったように、スピーカーも目ざす方向がひとつになれば、音質もみな似てきてしまうようなことにならないだろうか──。
 これには肯定論と否定論がある筈だ。かりに原音の再生といった方向に焦点を合わせてゆけば、音が似てゆくのは当然ということになるかもしれない。しかしそれを物理的にとらえるのでなく心理的、感覚的にとらえてゆけば、どのメーカーのどの製品も同じ音になるのはおかしいということになる。
 いずれにしてもしかし、カートリッジの例を上げるまでもなく、中級ブックシェルフ・スピーカーの音質は、一度はみなよく似るべきだ──こういう言い方に誤解があるなら、一度は、すべてのメーカーがフラットな、ナチュラルな音質を作るテクニックを完成させるべきだ、といってよいだろう。カートリッジはその目標を達成し、その基盤に立って、いま、各メーカーがメーカー独自の個性を意識して作りはじめた。これにくらべてブックシェルフ型スピーカーの多彩な音質は、それと意識して作ったというよりも、技術的に未完成の部分があるために結果として出来てしまったといったところが多分にある。この辺の問題になると、メーカーの技術力のレベルがまだひどく不揃いなために、一概に断定してしまうわけにはゆかないが、少なくともある時期には、一度は、同じ技術水準で、スタートラインに勢揃いすべきだ──つまり一旦はよく似た音が作られるようになるべきだ、と、全くの個人的感想だが、わたくしはそう思うのである。
 そういう意味からは、フラットに、ナチュラルなバランスを作る方向を、わたくしはいまは肯定する。その考え方の延長として、国産ブックシェルフは、全体としてレベルが上った、という言い方をするわけである。少なくとも10号のときは、クラシックは聴くに耐えないがムード音楽ぐらいならまあ聴けるというような、ひどく片よった製品が少なくなかった。その点今回テストしたスピーカーの大半は(少数の製品を除いては)あまりおかしなバランスの音はなく、広くあらゆるプログラムソースに対して、(個性が強ければ強いなりに)楽しめる作り方になってきている。やはりそれだけ進歩したのだろう。とくにローコスト・グループが総合的に向上したと思う。
 しかしその半面、二万円台に集中していた製品の主力が三万円台以上に移行し、全体的にやや値上げムードが伺える。
海外ブックシェルフ型の傾向
 海外製品は、作りかたも音質も、よくも悪くも、個性的で、それだけに強い性格を持っている。その性格が、さきにふれたように技術力のレベルを越えたところから出てくるものか、それ以下なのかはよくわからない。あるいは、そういうわれわれの考え方とは全然別の発想から、こういう音が出てくるのかもしれない。
 いずれにしても、それぞれにアクの強い音を、一応は是認しなくては評価もできないわけだから、自から国産品に対するのとはその評価の基準を多かれ少なかれ変えなくてはならない。
 ともかく国産品とは何か違った音づくりと云うか、アプローチの違いを探ってみると、おおよそ次のようなことがいえるのではないかと思う。
 たとえば国産の多くの製品は、作りかたの姿勢として、音域の広さや音のバランス──言いかえれば、低音や高音がどれだけ出るか、どれだけ伸びるか、あるいはその音域の中で特定の音域が出っ張ったりひっこんだりしないか、フラットに出るか、各音域を分担するユニット相互の音のつながりがよいか……等々、いわば物理的に、計測的にとらえ、物理的に特性を向上(正確にはそれが向上といえるかどうかわからないが)させようとするのに対して、海外製品は逆に、音域をことさら広げるわけでなく、むしろ聴感上の音のつながりやバランスや、ことに出てくる音の味わいそのものに注意を向けているように、わたくしには思える。少なくとも商品である以上、価格の枠というものがあり、その限界内で音域を広げ同時に音の品位も上げようとするには限度がある。その場合、品位を多少落としてもまず低域や高域を十分に伸ばそうと作るか、レンジをせまくしてもそのせまい範囲内での品位を上げるか、むろんそんな単純に割り切れる問題でないにせよ、どちらにウェイトをかけた作りかたをするか、この点はなかなか重要な問題になる。
 もうひとつ、整いすぎて欠点のない人間よりも、多少の弱点はあってもどこか人を惹きつける魅力を持った人間の方が、つきあってみて飽きがこないというように、スピーカーもまた、フラット型、優等生型よりも、どちらかといえば弱点を持ちながらそれをカヴァーするだけのチャームポイントを持った製品の方が、自分にとってより深いものをもたらしてくれる場合が多い。もちろんフラットでナチュラルで、欠点がなく、品位が高く、その上に何か強く惹かれる魅力のあるスピーカーなどというのがないわけではなかろうが、片側二~三万円の商品にそういう理想が実現できるというような錯覚は、きっぱりと捨てるべきで、もっと大局的に、その製品に何を望むべきかを、はっきり見きわめる目を、ユーザーよりもむしろメーカーに期待したい。
     *
 ところで今回のヒアリングテストが前回と大きく異なる点は、すべての製品をカーテンで隠すことなどせず、テスターにはあらかじめ一欄表が流されて、製品を知った上で試聴したという点である。その理由について詳しく書くスペースがないが、本誌の創刊号以来の主張として、商品はすべて音ばかりでなく外観や仕上げや使い勝手の良しあしを含めて評価すべきであるという立場と、それに加えて10号や12号であえてブラインドテストを試みた結果、先入観や概念を取り除いてみても、訓練された耳には良いものがやはり良く、欠点のあるものはむしろブラインドテストであるだけにきびしく評価されるという事実に確信を持ったからで、むろんブラインドテストで聴く場合と逆の場合とに、それぞれに得失もあるし、テストの目的によってはブラインドの方がより一層有効な場合も必ずあるが、少なくとも今後、商品の総合テストに、本誌がブラインドテスト形式をとることはあまりないだろうといえる。
 次のページに、今回の53機種の一覧表を載せ、そのあとでテストの方法についてさらにくわしく解説しよう。

テストの実践方法

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 本誌10号で50機種のブックシェルフ・スピーカーをテストしたときと今回とでは、テストの方法、採点法、およびテストに参加したメンバーにかなりの違いがあるので、その点を中心に解説を加えたい。なお、本誌10号の井上卓也氏の解説と比較していただければ、前回との相違点について詳細にご理解頂けると思う。
■試聴室
 本誌四号以来同じ本誌の試聴室で行なった。広さ約12畳の洋室。床面は二重にカーペットを敷きつめ、ガラス窓の面には厚手のカーテンをひいてあり、洋間としては反響の少ない、ややデッドな吸音状態になっている。
 この部屋の四方の壁面の一面だけ残して、あとの三面に、コの字型にぐるりとスピーカーが配置された。53機種もあると、ほとんど床から天井近くまで積み上げられる。これだけ大量のスピーカーを並べると、互いにレゾネーター(共鳴体)として動作するので、その影響は必ずしも無視できないが、方法としてやむをえないだろう。加えて、スピーカーは置き場所によって相当に音のバランスが変る。前回では、一回の試聴が終るたびに配置を少しずつ変えるという手間をかけたが、今回は編集部の事情によって積み変えは行なわれなかった。しかし前回でも、配置を変えてみても音の素性の悪いものはそんなことぐらいでは良くならないし、素性の良いスピーカーは少しぐらい不利な場所にあっても時間をかけてていねいに聴きこんでゆけば、必ず浮かび上ってくるという事実を体験しているので、置き場所による採点ミスは、ほとんどあるまいと思われる。もしもこの点で正確を期すのなら、ひと組ずつ全く同じ場所に53回入れ換えるべきだということになる。それでは瞬間切換はできないし、実際問題としても不可能に近い。
■テストのメンバーと試聴の方法
 ヒアリングテストに参加したメンバーは前回どおり四人だが、前回は、岡、菅野、山中、瀬川で、今回は上杉佳郎、岡俊雄、長岡鉄男の各氏と瀬川の四人でテストを行なった。なお井上卓也氏が53機種の構造及び特徴について解説されているのは前回同様である。
 試聴の方法は、互いの話し合いを避けることと、一人ひとりが納得のゆく形で自由に時間を使えるように、一日一人ずつ、後退で試聴した。14号のアンプのように、音の微妙なニュアンスを云々する場合には合同テストの良さがあるが、試聴者の立脚点によって大きな違いの生じるスピーカー・テストでは、テスターの一人としてみてもこの方がやりやすい。今回は結果からみると、一人あたり平均二十時間、四人の合計で八十時間をかけた。時間の使い方はテスターに一任されていたので、短かい人は二日足らず、長い人は四日を使っている。平均して前回よりやや短かいが、前回のようなブラインド(目かくし)テストでないために、音の傾向を掴むまでの暗中模索の時間が少なくて済んだのだろう。
■テスト装置
 別図のブロックダイアグラムに示すように、プログラムソースはディスク・レコードによった。これについては何度も解説しているように、同じ部分を即座に反復再生できることや、レコードのかけかえなど、操作上最も有利だというのが主な理由である。
 ピックアップ・カートリッジは、NHKのFM放送の標準であるデンオンDL103が主に使われたが、テスターの好みや馴れによって、他の製品も自由に使われている。デンオンの場合、トランスはFRのFRT-3を使った。
 アンプは、これほど数多いスピーカーをごちゃまぜにするテストには、管球式よりトランジスター式が──というよりも出力トランス付きのアンプよりOTLアンプの方が──有利である。というのは、出力トランス付きのアンプでは、インピーダンス4Ωと8Ωの切換えをしなくてはならない。そういう理由からTRアンプを、そしてスピーカーを最良の状態で鳴らすために、今回のJBLが使われた。なお参考として国産のプリメイン・アンプ数機種が一応用意されたが、アンプがローコストになるにつれて、スピーカーの良否の幅が減る──というより、本来良いスピーカーでも、アンプのグレードが下ると、スピーカーの良さもおさえられてしまい、高級品には損な評価になる。しかし逆に、今回のようにアンプに良いものを使うと、ローコストのスピーカーが実力いっぱいの音で鳴ることになり、ローコスト製品には徳な結果が出る。それに加えて、スピーカー・キャビネットを隙間なくぎっしり積み重ねると、互いのバッフル効果を助長するため、小型のスピーカーでも実力以上の低音が出るということもあって、なおのことローコスト製品が点数をかせぎやすい。そういう採点エラーをどうカヴァーするかは、テスター個人個人の判定にまかされている。
 53機種のスピーカーは、レベル・コントロールのあるものは、メーカーが指定したノーマル・ポジションに固定してある。例外的に2~3確認のため変更したものもあるが、原則として、メーカーが作ったバランスをそのまま評価するという立場をとった。厳密には1台ごとに最適レベルセットを探るべきかもしれないが、前述の置き場所の問題ともからんで、へたにいじるとかえって評価をあやまらせるおそれがある。
■前回と大きく変えた採点の項目
 10号では、オーケストラ、室内楽、ジャズ、ポピュラー、ムード……というように、音楽のジャンル別に採点したが、こういう採点法は、スピーカーのキャラクターによって、音楽の内容に適不適があるといった誤解を招く結果になりかねないことと、前回の項目からは、スピーカー音質の全体的な傾向が必ずしも正しく浮び上らないという問題があったため、今回は次のような項目に分類してみた。これも実際に採点してみると、まだ多くの不備があることがわかったが、いままでの採点法に今回の経験を加えて、さらに完璧なステレオサウンド誌独特の採点法を完成するよう、いっそう研究したい。以下、項目別に補足を加えると──
①大編成/クラシック、ポピュラーを問わず、シンフォニー、管弦楽、ビッグバンド、映画音楽、ムード等あらゆるジャンルの音楽の、編成の大きなオーケストラを包括している。いわばスケール感、音のひろがり、トゥッティでの音の解像力等が聴きどころになる。
②小編成/室内楽、コンボ・ジャズ等、小人数での演奏の音像再現性や、キメのこまかさが聴きどころ。
③独奏曲/ピアノでも弦でも、楽器ひとつだけの場合の音色やニュアンスの再現性。
④声楽/独唱も合唱も含めて、人の声の自然さは、音質判定の重要な項目になる。ここまでが楽器別楽曲別の採点項目である。
⑤バランス/低音がとくに強いとか、中音が張り出すとか、目立ったくせがあるかないか、要するに音域全体でのバランスの問題。
⑥音域の広さ/音のバランスが良くても音域がそう広くないものもあるし、重低音も超高音もたっぷり出るが、バランスの悪いものもある。
⑦音の品位/音域の広さとか低音や高音がどんなバランスで出るかという前の項目は、料理でいえば甘さ辛さや香辛料の入りぐあいにそうとうするが、この「品位」とは、たとえてみれば、スープやつゆの旨さに相当する。一見何でもない味が、舌に乗せて味わうほどに奥ゆかしい深い味わいを持っていたり、はじめうまいと思っても味わってみると、安っぽい香辛料でごまかされていることに気がついたり、というように、これは物理的に絶対測ることのできない項目で、しかもリスナーが熟練を積まないとごま化されやすい。音の品位さえ良ければ、塩あじ砂糖あじはトーンコントロールでもある程度加減できるが、生まれついて品位が悪いものは、いかに音域が広く、音のバランスが良くても、永く聴いていられない。
⑧能率/これはJISできめた物理的な、算術平均知的な能率でなく、聴感上の音量感といった意味からの採点で、とうぜん、⑤のバランス項目とも関連がある。つまり中低音域が盛り上っていれば、音がたっぷり豊かに聴こえるし、中高域が盛り上れば、張りのある明快さで音が張り出して聴こえる。とうぜん、音のバランスにくせのある製品は、試聴するプログラムソースによって大きくバラつきが出るから、テスターによってかなり変る筈だ。いずれにしても、能率の良いスピーカーはパワーの小さいアンプでよく鳴るし、能率の悪いスピーカーにはハイパワーアンプを用意しなくてはならない。一方、能率は許容入力とも関係がある。能率が悪いのにパワーを入れると音が割れてしまうようなものは、ダイナミックレンジのせまい、貧弱な音になる。
 今回テストした53機種の能率のいちばんいいものと最も悪いものとでは、音量感で20デシベル近くの差があったから、アンプのパワーでいえば、ざっと100倍の開きがあるわけだ。とにかく、能率のよくないスピーカーには、予想以上にパワーにゆとりのあるアンプが必要になる。
⑨デザイン/外観の意匠、プロポーション、仕上げ、あるいはネットをとり外せるものは外したときの感じなど、毎日手もとに置いて愛用する以上、デザインは無視できない。しかしこれは、あるレベル以上になると好みそのものといったことになるので、この項目によって、逆にテスター各自の好みの性向を探られる結果になるかもしれない。
⑩コスト・パフォーマンス/以上の9項目の採点を総合した上で、価格とみあわせて、コスト・パフォーマンスの採点がきまる。価格が高くても、各項目の評価が高ければお買徳品になるし、いくら易くても、安かろう悪かろうでは採点も悪くなる。多少の弱点があっても、価格がそれ以上に安ければ、コスト・パフォーマンスは良い点をとるというように総合点であるだけにきわめて流動的である。
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 以上のような採点と、あわせて簡単な印象記によって、製品の性格は10号の場合よりも性格に浮き彫りされるのだろうと思う。総合的な採点の結果、特選、推薦、準推薦の機種を各テスターが選び出している。
 なお、今回はテストレコードについて一切ふれてないが、テスター個人個人が自宅から持ち寄ったものと、編集部が用意したものとで、枚数で云えばきわめてぼう大な数に上る。クラシック、ジャズ、ポピュラー、ムード、歌謡曲、ドキュメント等々、あらゆる分野に亘っている。