最新ブックシェルフ型スピーカーの傾向

瀬川冬樹

ステレオサウンド 16号(1970年9月発行)
特集・「スピーカーシステム最新53機種の試聴テスト」より

 本誌10号以来、一年半ぶりにブックシェルフ型スピーカーの総合テストが行われた。オーディオ・ファンがスピーカーシステムを購入しようとすると、現実に売られているスピーカーの大半はブックシェルフ型なのだから、いかに本質論を唱えようと、ブックシェルフ型が市販品の主流の座を占めている事実だけは否定のしようがない。
 この春の北海道オーディオ・フェアでのスピーカーの新製品発表をみると、半数以上のメーカーが、ブックシェルフ型ではない、いわゆる大型や、変り型のスピーカーを発表してはいたのだが、そういうものが実際にはまだ豊富に出まわっているわけではないし、昨年来からの内外の話題になっているオムニ・ディレクショナル(omni-directional)タイプ=無指向性スピーカー=も普及にはまだいくらかの時日を要するだろう。つまりブックシェルフ型は、まだ当分のあいだ、主流の座にすわりつづけるだろうし、ブックシェルフ型意外のタイプが出まわりはじめたとしても、少しぐらいのことでは姿を消さないだけの商品としてのメリットを持っている。つまり、小型にできて、作るにも運ぶにも売るにも楽だし、ユーザー側からみても小型で場所をとらず、その割には音が良いし、小型に作れる有利さは、とうぜん、得られる音にくらべて価格の安い、コストパフォーマンスの高い商品ということで、まあ容易には廃れはしないだろうと考えられるのである。
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 そんなことをくだくだしく論じるのが目的ではなく、ともかく、現実にブックシェルフ型がスピーカーシステムの主流であることは是認した上で、本誌10号以来の変化やその傾向を探ってみた。あわせて、ブックシェルフ型を選ぶ場合の簡単なヒントのようなものを記してみよう。
国産ブックシェルフ型の傾向
 総括的にみれば、国産の中級ブックシェルフ・スピーカーは、10号のテストのときからみると全体に水準が上っている。裏返していえば、わずか二年足らずのあいだに大半の製品が姿を消して新製品と入れ替ったし、
新製品でないまでもII型とかB型といった形で改良型──中には改良というより全くの新製品に近いものもあるが、──に替っているわけで個人的には、スピーカーのように原理的にも技術的にも大きな変化のないものに、一年や二年で変ってたまるかといった気持がないではないが、ほんとうの意味で「改良」されているとすれば、まあ歓迎すべきことなのだろう。
 価格でいえば二万円台から三万五千円クラスまでの製品が大半を占めるようになり、この辺が、国内メーカーが最も力をそそいでいる──つまり最も売れる──クラスであることがわかる。それだけに強奏もはげしく、各メーカーが自社の特徴をいかにして打ち出すかに苦心している姿勢がありありと伺える。
 全体にレベルが上ったというその最も目立つ部分は、音のバランスのとりかたがうまくなったという点だろう。とくに片よった個性がおさえられ、フラットな、ナチュラルな傾向のものが増えてきた。
 しかしこの傾向には一つだけ問題がある。いま現実に市販のアンプの音質が互いによく似てきたように、あるいはカートリッジの音質がひところみなフラットにナチュラルにつくられた結果よく似てしまったように、スピーカーも目ざす方向がひとつになれば、音質もみな似てきてしまうようなことにならないだろうか──。
 これには肯定論と否定論がある筈だ。かりに原音の再生といった方向に焦点を合わせてゆけば、音が似てゆくのは当然ということになるかもしれない。しかしそれを物理的にとらえるのでなく心理的、感覚的にとらえてゆけば、どのメーカーのどの製品も同じ音になるのはおかしいということになる。
 いずれにしてもしかし、カートリッジの例を上げるまでもなく、中級ブックシェルフ・スピーカーの音質は、一度はみなよく似るべきだ──こういう言い方に誤解があるなら、一度は、すべてのメーカーがフラットな、ナチュラルな音質を作るテクニックを完成させるべきだ、といってよいだろう。カートリッジはその目標を達成し、その基盤に立って、いま、各メーカーがメーカー独自の個性を意識して作りはじめた。これにくらべてブックシェルフ型スピーカーの多彩な音質は、それと意識して作ったというよりも、技術的に未完成の部分があるために結果として出来てしまったといったところが多分にある。この辺の問題になると、メーカーの技術力のレベルがまだひどく不揃いなために、一概に断定してしまうわけにはゆかないが、少なくともある時期には、一度は、同じ技術水準で、スタートラインに勢揃いすべきだ──つまり一旦はよく似た音が作られるようになるべきだ、と、全くの個人的感想だが、わたくしはそう思うのである。
 そういう意味からは、フラットに、ナチュラルなバランスを作る方向を、わたくしはいまは肯定する。その考え方の延長として、国産ブックシェルフは、全体としてレベルが上った、という言い方をするわけである。少なくとも10号のときは、クラシックは聴くに耐えないがムード音楽ぐらいならまあ聴けるというような、ひどく片よった製品が少なくなかった。その点今回テストしたスピーカーの大半は(少数の製品を除いては)あまりおかしなバランスの音はなく、広くあらゆるプログラムソースに対して、(個性が強ければ強いなりに)楽しめる作り方になってきている。やはりそれだけ進歩したのだろう。とくにローコスト・グループが総合的に向上したと思う。
 しかしその半面、二万円台に集中していた製品の主力が三万円台以上に移行し、全体的にやや値上げムードが伺える。
海外ブックシェルフ型の傾向
 海外製品は、作りかたも音質も、よくも悪くも、個性的で、それだけに強い性格を持っている。その性格が、さきにふれたように技術力のレベルを越えたところから出てくるものか、それ以下なのかはよくわからない。あるいは、そういうわれわれの考え方とは全然別の発想から、こういう音が出てくるのかもしれない。
 いずれにしても、それぞれにアクの強い音を、一応は是認しなくては評価もできないわけだから、自から国産品に対するのとはその評価の基準を多かれ少なかれ変えなくてはならない。
 ともかく国産品とは何か違った音づくりと云うか、アプローチの違いを探ってみると、おおよそ次のようなことがいえるのではないかと思う。
 たとえば国産の多くの製品は、作りかたの姿勢として、音域の広さや音のバランス──言いかえれば、低音や高音がどれだけ出るか、どれだけ伸びるか、あるいはその音域の中で特定の音域が出っ張ったりひっこんだりしないか、フラットに出るか、各音域を分担するユニット相互の音のつながりがよいか……等々、いわば物理的に、計測的にとらえ、物理的に特性を向上(正確にはそれが向上といえるかどうかわからないが)させようとするのに対して、海外製品は逆に、音域をことさら広げるわけでなく、むしろ聴感上の音のつながりやバランスや、ことに出てくる音の味わいそのものに注意を向けているように、わたくしには思える。少なくとも商品である以上、価格の枠というものがあり、その限界内で音域を広げ同時に音の品位も上げようとするには限度がある。その場合、品位を多少落としてもまず低域や高域を十分に伸ばそうと作るか、レンジをせまくしてもそのせまい範囲内での品位を上げるか、むろんそんな単純に割り切れる問題でないにせよ、どちらにウェイトをかけた作りかたをするか、この点はなかなか重要な問題になる。
 もうひとつ、整いすぎて欠点のない人間よりも、多少の弱点はあってもどこか人を惹きつける魅力を持った人間の方が、つきあってみて飽きがこないというように、スピーカーもまた、フラット型、優等生型よりも、どちらかといえば弱点を持ちながらそれをカヴァーするだけのチャームポイントを持った製品の方が、自分にとってより深いものをもたらしてくれる場合が多い。もちろんフラットでナチュラルで、欠点がなく、品位が高く、その上に何か強く惹かれる魅力のあるスピーカーなどというのがないわけではなかろうが、片側二~三万円の商品にそういう理想が実現できるというような錯覚は、きっぱりと捨てるべきで、もっと大局的に、その製品に何を望むべきかを、はっきり見きわめる目を、ユーザーよりもむしろメーカーに期待したい。
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 ところで今回のヒアリングテストが前回と大きく異なる点は、すべての製品をカーテンで隠すことなどせず、テスターにはあらかじめ一欄表が流されて、製品を知った上で試聴したという点である。その理由について詳しく書くスペースがないが、本誌の創刊号以来の主張として、商品はすべて音ばかりでなく外観や仕上げや使い勝手の良しあしを含めて評価すべきであるという立場と、それに加えて10号や12号であえてブラインドテストを試みた結果、先入観や概念を取り除いてみても、訓練された耳には良いものがやはり良く、欠点のあるものはむしろブラインドテストであるだけにきびしく評価されるという事実に確信を持ったからで、むろんブラインドテストで聴く場合と逆の場合とに、それぞれに得失もあるし、テストの目的によってはブラインドの方がより一層有効な場合も必ずあるが、少なくとも今後、商品の総合テストに、本誌がブラインドテスト形式をとることはあまりないだろうといえる。
 次のページに、今回の53機種の一覧表を載せ、そのあとでテストの方法についてさらにくわしく解説しよう。

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