Daily Archives: 1969年3月15日

クライスラー CE-1a

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 悪口が先になるが、ベルリン・フィルが明るく軽く、アメリカのハリウッドのオーケストラのように響く。これがこのスピーカーの音色的不満。しかし、バランスはよくとれているし、プログラム・ソースの選り好みも少なく、大変よくできた万能型のシステムだと感じた。この明るく軽やかな音色は、ジャズにはちょうど視聴に使ったシェリー・マンなどウエスト・コースト派の連中のサウンドにはぴったり来る。華やいだソプラノも魅力的。

ラックス 25C44

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 明るく明解な音で好感がもてる。バランス的には中音域がやや出過ぎの気もするが、これが決してマイナスにはなっていない。むしろ中域の充実感として受け取れるといってもよい。全体の音質は決して品位の高いものではなく、軽く、迫力不足だが、そうしたユニットを巧みに使いこなしてまとめた音づくりがうまい。どちらかといえばクラシック、ポピュラーに向き、ジャズには向かない。質感と力量感が物足りないからである。

オンキョー F-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルが明るく軽くなり過ぎる。中低域の繋がりに、やや不連続感があり、高域に一種の響きが感じられるが、全体のまとめは美しく均整がとれている。ジャズでは、ベースの上音がやせ気味で、解像力をもう一つ要求したい気がするし、力量感が不足する。しかし、声楽の明るい抜けや、ムード音楽の甘美な雰囲気はなかなか魅力がある。深刻型の音を求める向きには不適当だが、明るいムード派にはよくまとまった好ましいシステム。

デンオン VS-220

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 音の品位が悪く、中音の下のほうに不自然な鳴きがあるし、高音域も制動不足のようなトランジェントの悪さが感じられる。音の印象は派手だが、ジャズを聴くと平板で、奥行き厚みがなくて物足りない。ポピュラー・ヴォーカルのかなり音づくりのきいたソースやムードものでは華やかさがプラスとなって効果的な響きがするが、価格的にも、もう一息オーソドックスな品位の高い音を要求したくなる。

ダイヤトーン DS-33B

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 まず、水準以上のシステムだと思う。しかし、最高水準という点からものをいえば、質がやや安っぽく、高域のざらつきが気になる。低域のダンピングも充分とはいいにくい。ベルリン・フィルの重厚なソノリティは生きてこなかった。ジャズでは高域がとげとげしく、シンバルの厚味や、豊かさが不足し、中域の迫力も今一歩という感じだった。全体によくまとまっているだけに、質的な点で不満が残るシステムだ。豊かさ、柔らかさ、重厚味がほしい。

サンスイ SP-1001

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 中低域に適度な脹らみをもたせた充実した音は、誰の耳にも快感として感じられるだろう。バランスづくりが大変効果的である。カラヤン、ベルリン・フィルの音がやや、甘味が加わるが、分厚いソノリティがよく再現された。シンバルのスティックによる打音、ブラッシングによるハーモニックも実にリアルで、高域の質がよい。欲をいうと、中低域にもっとソリッドでしまりのある品位の高い音がほしいところだが、総じてすばらしいまとまり。

コーラル BX-610

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルの音が他のオーケストラのように品位のない音になった。全域にわたって制動がきかず、歯切れの悪い、また、高低域のバランスも悪い再生音である。音像がよく立たず、軽く平板な音となり、厚みや深さの再現がまったくなく不十分である。シュワルツコップやアンナ・モッフォのヴォーカルもキャラキャラと上が響くだけで、声の丸味や陰影が不思議にどこかへ消えてなくなる。価格バランスの点でも大きな不満が残る。

アコースティックリサーチ AR-4x

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 何ともいえない暖かみのある、やわらかい音質で、たとえばNo.3、14、25などから切替えると、高域が急に無くなったように見えることがあるが、単独にしばらく聴き込んでみると、柔らかい中にもかなり高い方までよくのびた特性が感じられる。とくにヴォーカルやムードでは、すばらしい雰囲気を再現した。面と向かって肩ひじ張って聴くというより、素敵なデザートを楽しむようなゆったりした気持で聴き流していたくなるような、またそんな目的のためにちょっと欲しくなるようなスピーカーだった。

テスト番号No.36[特選]

オンキョー F-500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 前項(No.26)の製品と一脈通じる点がいくつか見受けられる。たとえば音のつながりがよい点、やわらかな音の印象、絞り込んでも音像がぼけない、そして、あらゆるソースに対して適応するクセの無い(おそらく物理特性も良い)音質、特選機種の中では最もローコストらしいが、このスピーカーだったら、逆にアンプやプレイアーの方で、少々おごってやりたい感じである。というよりも、普及型といったアンプでは、こういうスピーカーはかえって取り柄のないつまらない音になりやすいからだ。むろん他のスピーカーにもあてはまることだが……。

テスト番号No.33[特選]

テクニクス SB-2510 (Technics6)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 今回のヒアリングで、第一日目からまっ先に浮かんできて、最後まで評価が殆んど変わらなかったスピーカー。音の品位という点ではもう一歩の感があるが、あらゆるレコードに対して過不足なく、楽器も声も割合素直に再生する。難をいえば、低域がいくらかこもり気味であること。しかし、やわらかく、フラットな印象の再生音である。どちらかといえば、小さめの音量で静かに聴くことの好きな人によいだろう。

テスト番号No.26[特選]

フォスター FCS-250

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 このスピーカーは、スケールが小さく、迫力を要求されるプログラム・ソースでは多少物足りなさが感じられる。しかし、音質は柔らかく、しかも腰があって好ましいし、全帯域にわたってのバランスも大変素直で抵抗感がない。ブックシェルフ・タイプとしてはもっとも標準的な音という印象を受けた。これで、切れ込みが今一歩鋭く、締まりが利いてマッシヴな音となればいうことなし。小じんまりとした美しさとまとまりをとるべきだろう。

デンオン VS-120

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 音のキメが荒いが、よくこなしたシステムといえる。つまり、高域が派手な音色のために全体にややどぎつい印象を受けるが、まとまりとしては悪くない。オーケストラのスケール感は十分ではないが、多彩な音の綾がよく出るほうだ。ポピュラーものには小じんまりまとまりで、効果的な音が聴ける。ジャズでは、要求をシビアーにすると、さすがに無理といった感じで、再生音の品位、スケールに不満がでてくる。

JBL Lancer 77

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 もしも、レベルコントロールがあるとしたら、中高域をもう少し抑えたい感じだが、とにかくすばらしいスピーカーであった。くっきりと澄んでいて、楽器の音に余分な音が全然まつわりつかない。明るく、抜けがよく、しかも軽い。相当なハイパワーでも、また絞り込んでもこの特徴がほとんど変わらない。これで室内楽の微妙な陰影がもう一段美しく再生されれば文句ないが……。どちらかといえば硬い方の音質だから、No.1の系統の音の好きな人には好まれないかも知れない。

テスト番号No.25[特選]

タンノイ IIILZ MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 特選機種の中では、このスピーカーが最もクセが強く、ずいぶん考えたのだが、何よりも音の素性の良さが、ただものではないので、あえて推した。相当にムラ気のある製品らしく、四日間を通じて、その日によって三重丸と□の間を行ったり来たりする。休憩時など、立会いの編集氏がパチパチ切替えているのを隣室で聴いていると、中に二つ三つ、ハッとするほど美しい再生するスピーカーがあって、No.14もそういう製品のひとつだった。中低音の音質から想像して、キャビネットをもっと上等なものに作りかえたら(経験上だが、どうもこの音は安もののベニアの音だ)、総体的にすばらしいシステムになると思う。わたくしの採点で、室内楽に三重丸をつけた唯一のスピーカーである。

テスト番号No.14[特選]

テレフンケン TX-60

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 明るく抜けて、のびのびとした音、それでいて、こくのある重厚味もあり、興味深いシステムだ。決してクオリティの高い音ではないが、切れ込みのよい明解な音がする。音楽的な音といってよい。Fレンジは決して広い方ではなさそうで、再生音場のスケールも小さい。ジャズにはそうした物理特性面での貧困が目立ち、迫力に欠けたが、やはり、まとまりのよさで聴かされてしまう。小憎らしいほどに巧みな、音まとめの妙だ。

サンスイ SP-50

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 オーケストラのスケールの再現は物足りないが、よくまとまったスピーカーである。いわば箱庭的まとまりとでもいうのだろう。全域にわたって、バランスのよい再現が得られる。中低域のしまりがなく、軽い鳴きをともなった音だが、これが全体の効果的な音づくりに利いているのかもしれない。高域にやや甘さがあるが、ムード音楽の艶っぽい弦楽器のユニゾンなどではかえって効果的。よくまとめられたシステムだと思う。

サンスイ SP-100

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 ベルリン・フィルの響きは中音域がよく、前へ出ず、低音ののびとしまりも物足りなかった。全体のバランスはとれているのだが、質的に充実感が足りない。よくいえば柔らかく、甘い、快い音だが、悪くいえば、にごってもごもごした不明瞭鈍重な音といえる。したがって、ジャズにも、抜けた明るさと積極的に前へ出るパンチがなく食い足りないもどかしさがでる。解像力のなさが一番の問題点として残るだろう。

フォスター FCS-200

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 高域の制動不足と暴れが感じられ、高弦がちりついて耳障りだった。そのために全体のバランスがやせ気味になり量感に欠けている。オーケストラの豊かな迫力が小さくまとまってしまって雰囲気が十分出てこない。シンバルの響きもシンシンと細い棒をたたいているようで不自然。音づくりの派手なソースを軽く聴き流す程度にはともかく、がっしり対峙して機器込むシステムにはなり得ない。

ラックス 25C43

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 力感はないが、量感はある音で、豊かである。オーケストラのスケール感がよく再現され全域にわたって明解なディフィニションが得られている。強い個性やアトラクティヴな魅力がないのが特長でもあり、弱さでもある音で、技術的にはよく検討されまとめられたといった感じがする。ジャズではガッツに物足りなさがあり、説得力の弱いのは先述した個性のなさによる。この個性と、まともな技術的精度の兼ね合いは、スピーカーの悩みの種。

ラックス 25C44

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 高域にわずかに強調感があって、たとえばNo.29ににたような安っぽさが多少残る点が気になったが、どんなレコードをかけても一応ソツなく聴かせる適応性の広さを買って特選にした。組み合わせるアンプやカートリッジに、高域のおとなしいものを選ぶと、総体に質の良い再生をしてくれるだろう。

テスト番号No.13[特選]

JBL Lancer 44

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 中域が張り出す傾向が、多少硬めであるが、総体には音の質がなかなか良く、楽器のひとつひとつの音像がくっきりと浮き彫りにされる印象である。音量の大小にかかわらず、音色がほとんど変わらない点は見事である。弱音の解像力もなかなか良い。中域から高域にかけての独特の音色には、好き嫌いがありそうだ。

テスト番号No.3[特選]

ブラインド試聴者の立場から

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 50機種のスピーカー・システムをブラインドで聴いてチェックするという、無茶苦茶な難行苦行をやらされた。なんとも物凄いテストで、どこから手をつけていいかといった状態が何度もあった。単独でのクオリティ・チェックと、相互の比較試聴を限られた時間内でおこなうのだから楽ではない。比較試聴などでは、隣合わせの10種類ぐらいが限度ではないかと思う。1・2・3と比較していって20ぐらいになれば1、2はごちゃごちゃになってしまう。
 そこで、元へもどっていると、今度は先を忘れてしまうという、ていたらくであった。そこで何日かのデーターをそろえて総合して判定したわけだが、とにかく疲労困憊の仕事だった。それにしても、いろんな音のスピーカーがあるもので、興味深くあきれたことだった。

■試聴テストのポイント
 これほど多くのスピーカー・システムを瞬時切換して聴く場合には、条件として実に困難な問題が起ってくる。つまり、すべてのスピーカーを同条件化で鳴らし、しかも、同条件の聴き方をすることの難しさは、テストにとって大切な問題なので初めにこれについて私の考えを述べておくことにする。
 スピーカーが設置場所によって大きくその再生音にちがいが出ることは周知のことだ。そして50機種を一つの室内の同じ場所に置くことは神さまでも無理だ。そこで、私の場合、配置を三回変更した状態で聴いて総合して判定したが、なおかつ、部屋とその場所による音質傾向を私自身の頭の中で適宜補整して聴いたつもりだ。次に能率の差だが、これはその都度ボリュームをコントロールして感覚的にはそろえて聴いた。また、極度によく聴こえたり、その逆に悪く聴えたものについては特に時間をかけて数多くの比較確認をおこなった。プログラム・ソースは試聴に際して用意されたものと私自身の愛聴盤を併用した。
 さて、このような配慮をしても、それはもとより、ほんのわずかなコントロールにすぎず、問題の解決にはほとんど役立たないだろう。この試聴テスト・リポートは、あくまで、この条件下におけるものとして受取っていただかないと問題が残ると思う。
 だが、こうした条件下で試聴した時に、いくつかの着眼点ならぬ着耳点があるが、それについてここに書いておくので、採点表、ならびに各スピーカー・システムについてのメモと照合して判断していただきたい。
 第一のポイントはバランスである。これは単に周波数特性の問題ではないが結果的には再生周波数の凹凸、分布の平均性ということで、プログラム・ソースの音楽的情報がスピーカーからいかなる感覚的エネルギー・バランスで再生されるかということである。私にはあらゆる音響器材の諸特性の中で、このバランスを第一に考える。それだけに置き場所のちがいの条件は厳しかった。派ランスは音色と連なると思う。
 第二にクオリティ。音質である。これは、周波数特性のパターンなどで左右されない本質的な性格、いわば、金物が鳴るか、木が鳴るかという類のものだ。振動系の質量、コンプライアンス、材質、磁気回路、箱の性質など多くのファクターによって出来上るクオリティなのだろうが、これはスピーカーの特性になかなか現われない大事な要素だと思っている。勿論、測定に現われる諸歪みによっても大きく影響を受けるものだろうが、この辺のところは専門家に聴いても明確ではない。興味の的である。
 第三が左右のペアで聴いた時のプレゼンス。スピーカーとしては指向特性による影響の最も大きいファクターである。これも、位置関係が鋭く関係するので、あまり今回の試聴では重点をおかなかった。
 音の分解能、抜け、ダンピングなどといった細かい特徴はすべて、これらのポイントに含まれると思う。今回テストの対象にできなかった重要な特徴として、音量に関するものがある。小音量と大音量の音量のちがい、入力特性などについての細かい聴感試聴は残念ながら能力的にも時間的にも余裕がなかった。勿論、ブックシェルフの性格上ある程度のパワーを入れるべきもののあることなどは充分考慮して試聴したつもりである。

ブックシェルフ型スピーカーのタイプと原理

井上卓也

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

50機種を分類する
 ブックシェルフ型と呼ばれるように本棚に載るくらいの小型ながら、大型スピーカーシステムと十分比較できるくらいの低音を再生する製品が実用化されはじめたのは、やはり45/45方式の2チャンネル・ステレオディスクの開発によって2台のスピーカーシステムが必要になった、時代の要求からであろう。
 もちろん、それまでにもスピーカーシステムの小型化の試みはされていたが、なかなか実用化はできず、音響技術者にとっては、彼岸にも似たものだった。それが米AR社のアコースティック・サスペンション方式の開発から端を発して、今日のブックシェルフ時代に至っている。
 このARの開発以来、今日まで、すでに15年余りの年月が経過しているが、ブックシェルフ型が実用期に入るまでには、スピーカーユニット自体の進歩もさることながら、トランジスターアンプがちょうど足並を揃えて開発され、今日のように比較的容易にハイパワーアンプが入手できるようになったことも、ブックシェルフ型の普及に大きな役割を果したことも見逃せない。
コーラルがわが国初めてのブックシェルフ型を完成
 ARでAR1発表後、しばらくして日本でもブックシェルフ型が製作された。主として輸出用として開発されたものらしいが、25cmウーファーをベースとした2ウェイシステムだった。
 比較的小口径のウーファーで、低域まで再生するには、当然コーンの大振幅が要求される。この要求を満たすための一部として、ボイスコイルの巻幅を、ヨークの厚みより長くしたロングボイスコイルが使われるため、能率が急激に低下する。この能率低下を防ぐために、強力な磁気回路をもたせるわけであるが、それでもなお能率の悪化はさけられないのが普通である。
 スピーカーの能率の悪いものは、アンプの方でカバーすることが必要となってくるが、コーラルのブックシェルフ型が発売された頃は、真空管アンプ全盛であり、パワーの小さいアンプはほとんどであったため、国内で目の目を見なかったことを思い出されるファンも少なくないだろう。
主流となったブックシェルフ型
 この頃のブックシェルフ型スピーカーシステムの能率の悪さが語りつがれて、いまだにブックシェルフ型は能率が悪いとか、インスタントコーヒーのように、間に合わせ的に思われているのはあたらないとおもう。
 現在のブックシェルフ型スピーカーシステムは、今回の50機種テストに立ち合った感想からも、能率の改善とトランジスターアンプのハイパワー化の相乗作用??で、住宅事情の悪いわが国で主流を占めるまでに成長しているのが感じられた。

テスト機種をタイプ別に分類する
 今回のブラインドテストのために集められた50機種を中心にして、ブックシェルフ型の分類をしてみたい。
 もっとも大きく分類すると、
1 密閉型エンクロージュア
2 バスレフ型エンクロージュア
3 後面開放型エンクロージュア
 の三種類になる。
 さらに50機種を細かく分類すると
1 密閉型
 A密閉型(8機種)
 B完全密閉型(19機種)
2 バスレフレックス(通称バスレフ型)
 Aダクトをもたないバスレフ型(2機種)
 B角型ダクトをもつバスレフ型(3機種)
 Cパイプダクトをもつバスレフ型(6機種)
 D複数個のパイプダクトをもつバスレフ型(1機種)
 E複数個のダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型(3機種)
 Fダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型(2機種)
 Gダンプド・バスレフ型(1機種)
 Hドロンコーンをもつバスレフ型(4機種)
3 後面開放型(1機種) 計50機種

分類したシステムの解説
■密閉型
 ここで密閉型を完全密閉型と密閉型に分類したが、単なる密閉型とは、一機種を除いて取り外しのできる裏板とエンクロージュア本体との接合面に、空気もれを防ぐためのパッキング材が使われていないものにした。完全密閉型とは、ほぼ完全に空気もれを防いでいるエアタイトなシステムをいう。
 ブックシェルフ型に多くみられるロングボイスコイル型と呼ばれる大振幅に耐えられるユニットは、能率の低下を補うために強力な磁気回路をもっている。これらのユニットは小型の密閉型エンクロージュアに入れても十分な低音が再生できるが、ただ、専用ウーファーの大振幅動作時に生ずる強大な音圧に耐えるため、極めて丈夫に作らなければならない。この辺の問題については前項の岡氏の記事に詳しいので参照されるとよい。
密閉型エンクロージュア
 完全なエアタイト型でなく、エンクロージュアの裏板が取り外せるようになっており、一枚の吸音材がエンクロージュアの側面四面と裏板に張られている普通の密閉型エンクロージュア。
完全密閉型エンクロージュア
 エンクロージュアの各面を糊などで固着した後に、バッフル板前面からスピーカーユニットが取りつけられて、ほぼエアタイトな状態にあり、内部が計算などで決められた適量の吸音材で満たされたもの。
■バスレフ型
 バスレフ型エンクロージュアは、密閉型エンクロージュアにスピーカーを取りつける開口以外の低音共振用の筒を取りつけたものである。現在の進歩したスピーカーユニットでは、バスレフ型本来の特徴である低域再生周波数を伸ばすことや低域の歪みの減少などに生かされ、今日のエンクロージュアの標準的なものとなっている。
 この型はスピーカー後面から放射される逆相の音は、中音以上がエンクロージュア内部で衰えて、低音だけが内部の空気のバネと、内部と外気をつなぐダクト内部と付近の空気の質量で位相を反転し、スピーカー前面から直接出る低音を補う動作をする。
 密閉型が低域に向かってゆるやかに下がるレスポンスをもち、かなり低い周波数まで再生できるのに比較して、このバスレフ型では再生可能な最低周波数では劣るが、ある周波数までは、ほぼフラットに再生できる。
Aダクトをもたないバスレフ型
 スピーカーの開口面積に比べて小さい開口の丸孔をもったもので、動作上ではバスレフ型の特徴は少なく、スピーカーコーン紙にかかるエンクロージュア内部の背圧を逃がすための効果の方が大きいとおもわれるが、外観上の点からバスレフ型の分類に加えた。
B角型パイプダクトをもつバスレフ型
 木製の角型パイプダクトをもったエンクロージュアで、最近までは、一般にバスレフ型といえば、ほとんどが、このタイプのエンクロージュアであった。バスレフ型エンクロージュアのスタンダードともいえるタイプ。
Cパイプダクトをもつバスレフ型
 ブックシェルフ型スピーカーではじめて使われたように思われるが、大型スピーカーシステムでは、早くからYLの製品に見られた。合成樹脂製の丸いパイプをダクトに使ったエンクロージュアでバスレフ型としての動作は角型パイプダクトをもつものと同じである。
D複数個のパイプダクトをもつバスレフ型
 二本以上の合成樹脂製のパイプダクトをもつもので、今回のテストで見られたものは同じ寸法のパイプを二本使った製品があった。
 動作は二倍の面積をもったパイプ一本と、ほぼ同じものと思われる。
E複数個のダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型
 複数個のパイプダクトをもつタイプと同じことであるが、パイプ内部にダンプ用の吸音材がシリンダーにたいするピストンのようにつめられている密閉型とバスレフ型の中間的動作と思われる。
Fダンプしたパイプダクトをもつバスレフ型
 パイプダクト内壁に吸音材が巻かれてあったがHよりはバスレフ型本来の動作に近いものに思われる。
G ダンプドバスレフ型
 EFがパイプダクト内部に吸音材を使ってダンプしてあるのに比べて、エンクロージュア内部に余分な量の吸音材がつめられているのが異なり、動作は、やはり密閉型とバスレフ型の中間的動作である。
Hドロンコーンをもつバスレフ型
 ダクトでなくボイスコイルと磁気回路を外したスピーカーが代りに取りつけられている一種のバスレフ型である。ダクトをもつものに比べて低域共振周波数付近だけでなくピストン運動の範囲内での改善ができるタイプ。
■後面開放型
 スピーカーのバッフルは、無限大バッフルが理想的だが、よほど条件に恵まれない限り実際に使うことは不可能である。スピーカーの初期には小型の平面バッフルを家庭用などにも使っていたが、次いで平面バッフルの周囲を折り曲げたような形を下後面開放型エンクロージュアが使われ始めた。その形状からくる、強度な共鳴音が固有の低音を作り出す効果がある。
 HIFI用スピーカーシステムとしては、ほとんど使われることがないが、特に超大口径のウーファーとか広い面積の振動板をもつ平面型スピーカーと併用されることがある。
 一般に薄型の製品が多いが、これは奥行きを深くすると後面開放型に独特の特定周波数の低域共振がおこり、低音の品位を悪くするためである。
 今回のテスト機種の中では、特異な振動板をもつヤマハNS15が一機種あったが、本来のブックシェルフ型とは少し異なるものである。

 今回のテストに集められた50機種の分類は上記のように3つのタイプになるが、まだこの他にブックシェルフ型として使うことのできるエンクロージュアがある。これらは以前から小型エンクロージュアで、いかにして十分な低音を再生するかという目的で開発されたものである。
(イ)RJ型エンクロージュア(ワーフデールで製品化したもので、レモン型の開口をもった前面バッフルとその後部にスピーカーユニットをとりつけるバッフルの二重式になったもの)
(ロ)音響迷路型(ラビリンス型)エンクロージュア
(ハ)バックローディング・ホーン型エンクロージュア
(ニ)ディストリビューテッド・ポート型エンクロージュア
(ホ)アコースティック・レジスタンス型(ARU型)エンクロージュア
(ヘ)複合駆動型エンクロージュア(エンクロージュアの実効的容積を増すために、密閉型エンクロージュアの中に、メインスピーカーともう一つのサブスピーカーを取りつけ補助的に駆動する方式)
(ト)複数個の同じ小口径スピーカーを使った密閉型またはバスレフ型エンクロージュア
 ほぼ以上の如くであるが、ここで密閉型エンクロージュアで加えておかなければならないことがある。ARで開発されたアコースティック・サスペンション方式と類似の方式がLPの初期にすでにわが国でも考案されていたことである。
 これはオーディオ歴のあるファンなら誰でも知っていることだろうが、オルソンの「音響工学」の訳者として知られる東京工大の西巻氏が提唱した、「フラフラ型6半」のスピーカーシステムである。
 息を吹きかけるとコーン紙が動くくらいf0を下げた16cm型スピーカーを小型の密閉型エンクロージュアに入れて使う方式で、当時の大口径ウーファーに比較して、軽く伸びのある低音が再生できるため、HiFiファンに当時大いにもてはやされたものである。
 もちろんボイスコイルを巻きなおしてロングボイスにするのが正しい使い方なのだが、一般には従来のままのボイスコイルが使われていた。これを製品化したのが有名なミューズSF6Pという鹿皮エッジの16cmスピーカーである。
 この西巻氏の発想が、実際のエンクロージュアまでを含めた製品に発展することがなく、埋もれてしまったのは、ブックシェルフ全盛のいま、かえすがえすも残念に思われる。

ブラインドテストに立会って
 今回50機種のブックシェルフ型システムのブラインドテストに立会って感じたことだが、この一年余りの期間に国産ブックシェルフのグレードが、かなり向上し、輸入高額品との格差が少なくなってきたことである。
 テストの標準機種にしたAR3aの数分の一の国産製品がおや!! と思わせるくらいの高品位の再生音を聴かせてくれたものもあり、このことは非常に嬉しいことである。中でも、価格的制約の中で、スピーカーメーカーから供給されるユニットを使いながら、かなりグレードの高い製品を送り出しているメーカーの健斗をたたえたい。
 しかし、各氏のブラインドテストの結果では、輸入品が比較的良い点数を得た。選ばれたポイントがどこにあったかということがこの際大きい意味をもつとおもうが、それは、海外製品の安価なシステムでさえ、音楽再生をする上に必要な点をうまくおさえているのを認めないわけにはゆかない。これは、周波数特性だとか、歪特性だとかの物理的なものからさらに上の問題もあろうが、設計製作する彼等の音楽との触れ合いに歴史があること、製品開発のデーターの蓄積の多いことは当然考えられよう。
 加えて海外製品の多くに見られるのは、必要なところにはおしげもなく物量を投じる姿勢である。ユニット一つをみてもそれは立証される。
 海外製品は価格が高いから当然といえばそれまでだが、今後国内メーカーに望みたいことは、高級な海外製品に匹敵するブックシェルフ型を開発してもらいたいことである。そのためには、最初から十分な物量を投じたブックシェルフ専用のユニットから開発し、システムにまとめ上げてもらいたい。例えば日立HS500、あるいはパイオニアCS10に代表される製品の開発である。
 それらの製品が国内に出揃った時にこそ、初めて輸入品にない、本来あるべき日本の音が創り出されるとおもうし、またそれが、音響専門メーカーとしては当然のあり方ではなかろうか。
 従来、とかくブックシェルフ型というと、高級マニアから軽視され勝ちであったが、比較的小さな部屋で使うことの多いわが国の事情では、今後とも、ブックシェルフ型がスピーカーシステムの主流となることは疑う余地はない。

アコースティックリサーチ AR-3a

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 このスピーカーは、まずバランスが申し分なく、次に音色が艶やかで滑らかだ。聴き馴れたレコードの感じな情報は全て再生され、余計な音は出てこないという印象で、端正なイメージである。オーケストラの迫力、ジャズのガッツがもう一つ物足りないが、室内楽やヴォーカルのキメの細かさ、柔らかさは大変品位が高く魅力的であった。やや抜けの悪いのが不満といえばいえなくもないが、暴れのない点では比類がない。

トリオ・ボザーク B-313

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 大変キャラクターの濃いスピーカーだ。重く厚い低域、引き締まった控え目な中音、高質の高音、それらが一つとなって再生する音はマッシヴで重厚な安定感がある。しかし、私の好みからすると、いかにも明るさと軽やかさが即し、デリカシーとニュアンスの再現に難がある。全体にダンプされ過ぎた感じで、特に中音域のふくよかさ、陰影といった点で不満があった。シェリー・マンのブラッシングのピアニッシモはどこかへ消えた。