ブラインド試聴者の立場から

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 50機種のスピーカー・システムをブラインドで聴いてチェックするという、無茶苦茶な難行苦行をやらされた。なんとも物凄いテストで、どこから手をつけていいかといった状態が何度もあった。単独でのクオリティ・チェックと、相互の比較試聴を限られた時間内でおこなうのだから楽ではない。比較試聴などでは、隣合わせの10種類ぐらいが限度ではないかと思う。1・2・3と比較していって20ぐらいになれば1、2はごちゃごちゃになってしまう。
 そこで、元へもどっていると、今度は先を忘れてしまうという、ていたらくであった。そこで何日かのデーターをそろえて総合して判定したわけだが、とにかく疲労困憊の仕事だった。それにしても、いろんな音のスピーカーがあるもので、興味深くあきれたことだった。

■試聴テストのポイント
 これほど多くのスピーカー・システムを瞬時切換して聴く場合には、条件として実に困難な問題が起ってくる。つまり、すべてのスピーカーを同条件化で鳴らし、しかも、同条件の聴き方をすることの難しさは、テストにとって大切な問題なので初めにこれについて私の考えを述べておくことにする。
 スピーカーが設置場所によって大きくその再生音にちがいが出ることは周知のことだ。そして50機種を一つの室内の同じ場所に置くことは神さまでも無理だ。そこで、私の場合、配置を三回変更した状態で聴いて総合して判定したが、なおかつ、部屋とその場所による音質傾向を私自身の頭の中で適宜補整して聴いたつもりだ。次に能率の差だが、これはその都度ボリュームをコントロールして感覚的にはそろえて聴いた。また、極度によく聴こえたり、その逆に悪く聴えたものについては特に時間をかけて数多くの比較確認をおこなった。プログラム・ソースは試聴に際して用意されたものと私自身の愛聴盤を併用した。
 さて、このような配慮をしても、それはもとより、ほんのわずかなコントロールにすぎず、問題の解決にはほとんど役立たないだろう。この試聴テスト・リポートは、あくまで、この条件下におけるものとして受取っていただかないと問題が残ると思う。
 だが、こうした条件下で試聴した時に、いくつかの着眼点ならぬ着耳点があるが、それについてここに書いておくので、採点表、ならびに各スピーカー・システムについてのメモと照合して判断していただきたい。
 第一のポイントはバランスである。これは単に周波数特性の問題ではないが結果的には再生周波数の凹凸、分布の平均性ということで、プログラム・ソースの音楽的情報がスピーカーからいかなる感覚的エネルギー・バランスで再生されるかということである。私にはあらゆる音響器材の諸特性の中で、このバランスを第一に考える。それだけに置き場所のちがいの条件は厳しかった。派ランスは音色と連なると思う。
 第二にクオリティ。音質である。これは、周波数特性のパターンなどで左右されない本質的な性格、いわば、金物が鳴るか、木が鳴るかという類のものだ。振動系の質量、コンプライアンス、材質、磁気回路、箱の性質など多くのファクターによって出来上るクオリティなのだろうが、これはスピーカーの特性になかなか現われない大事な要素だと思っている。勿論、測定に現われる諸歪みによっても大きく影響を受けるものだろうが、この辺のところは専門家に聴いても明確ではない。興味の的である。
 第三が左右のペアで聴いた時のプレゼンス。スピーカーとしては指向特性による影響の最も大きいファクターである。これも、位置関係が鋭く関係するので、あまり今回の試聴では重点をおかなかった。
 音の分解能、抜け、ダンピングなどといった細かい特徴はすべて、これらのポイントに含まれると思う。今回テストの対象にできなかった重要な特徴として、音量に関するものがある。小音量と大音量の音量のちがい、入力特性などについての細かい聴感試聴は残念ながら能力的にも時間的にも余裕がなかった。勿論、ブックシェルフの性格上ある程度のパワーを入れるべきもののあることなどは充分考慮して試聴したつもりである。

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