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JBL 4301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 アン・バートンの唱う “Go away little boy”(オランダCBS盤。日本盤とは音が違う)の冒頭から入ってくるシンバルのブラッシュ音は、かなりくせの強い録音なのだが、それにしてもアルテックやキャバスやダイヤトーン等では、この音がこう自然な感じで鳴ってはくれなかった。ベースの量感も、このちっぽけなスピーカーを目の前にしては、ちょっと信じがたいほどきちんと鳴る。アン・バートンの声に関してはもう少し滑らかさや湿った感じが欲しいと思わせるようにいくらか骨ばってクールなのだが、それにしても、4301が現代ワイドレインジ・スピーカーでありながら、少し古いジャズ録音をもかなりの満足感を持って聴かせることがわかる。シェフィールドのダイレクトカットの中の “I7ve got the music in me” でのテルマ・ヒューストンの声も、黒人特有の脂こい艶と張りが不足するが、バックの明るく弾みよく唱う音を聴けば、こまかいことをいう前にまず音楽を聴く楽しさが身体を包む。
 要するにそれは、輸入してこの価格、まして小さめのシンプルな2WAYから鳴ってくる音にしては……という前提があるのだが、それにしても4343以来のJBLが新しく作りはじめたトーンバランスは、右のようにポピュラー系の音楽をそれなりの水準で鳴らし分けることはむろんだが、クラシックのオーケストラを鳴らしたときでも、その音色のややドライで冷たい傾向にあるにしても、そして中音域全体をやや抑え込んだ作り方が音の肉づきを薄くする傾向はあるにしても、かんどころをよくとらえた音で鳴る。たとえばブラームスのピアノ協奏曲のオーケストラの前奏の部分などで、低音をアンプで1~2ステップ補整しないと、分厚い響きが生かされにくいし、ハイエンドにはややピーク性のおさえの利かない音がチラチラ顔を出すため、レコードのスクラッチノイズをいくぶん目立たせる弱点もある。
 それにしても、ラヴェルの「シェラザーデ」、バッハのV協、アルゲリチのショパン、ブラームスのクラリネット五重奏……と、それぞれに難しいプログラムソースも、こういうサイズと価格のスピーカーにしては、そしてくり返しになるが総体に質感が乾いているにしては、一応それらしく響きにまとめるあたり、なかなかよい出来栄えの製品ということができる。
 ただ、これを鳴らしたプレーヤーやアンプが、スピーカーの価格とは不相応にグレイドの高いものであったことは重要なポイントで、こうんいうクラスのスピーカーと同等クラスのアンプやプレーヤーで鳴らしたのでは、音の品位や質感や、場合によっては音のバランスやひろがりや奥行きの再現能力も、もう少し低いところにとどまってしまうだろう。しかしコンシュマー用のL16をモディファイしたような製品なのに、よくもこれほどまとまっているものだと、ちょっとびっくりさせられた。

JBL 4301

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 JBLのモニターシリーズ中、最も小型かつ低廉なモデルがこの4301で、20センチ・ウーファーと3・6センチ・トゥイーターの2ウェイシステムである。こういうモニターシステムは、たしかにプロフェッショナルのフィールドでの用途はあるが、決してメインモニターとはいえない。極端ないい方をすれば、キューイング・モニターといってよいかもしれないが、場合によっては、一般家庭用スピーカーの代表的なサンプルとして使われるケースも或る。つまり、スタジオのメインモニターは、ほとんど大型システムで平均的家庭用スピーカーとは差があり過ぎるから、このクラスのモニターで再チェックをするという方法だ。この説明から御理解いただけると思うが、これは大変優れた家庭用のブックシェルフとして、その明解、ウェルバランスの音が高く評価される。音像の輪郭はいかにもJBLの製品らしいシャープな再現であり、音の質は、プログラムソースのもつ特色を立派に生かしてくれる高品位。スケールは小さいが、全帯域バランスがよく整っているし、位相的な音場空間の細かい再現もよい。マスタリングモニターとしては、許容入力15Wは、あくまで特殊だが、録音対象によっては勿論、使えなくはない。他の大型モニターのもつ特質を小型化して、ちゃんと持たせた音の鮮度は立派である。

JBL L200B

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音は、くっきり、輪郭たしかに立つ。
❷低音弦のスタッカートの力は感じさせる。
❸くっきりとそれぞれのひびきの特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズにもう少しキメこまかさがほしい。
❺腰のすわった音でクライマックスを迫力にとんだものにする。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶力を感じさせるひびきで、ピアノは中央にくっきり定位する。
❷音色対比の提示にいささかのあいまいさもない。
❸多少ひびきのキメが粗い。もう少ししっとしてもいいだろう。
❹ひびきのしなやかさがたりない。誇張しない良さはあるが。
❺鮮明ではあるが、キメこまかさに欠ける。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶くっきりと音像を示す。言葉の表情をきわだたせる。
❷アイゼンシュタインの接近感を、思いきりよく、すぱっと示す。
❸クラリネットのひびきの特徴を、きわめて明快に提示する。
❹声は全体的に硬めだが、特にはった声は金属的なひびきになる。
❺さまざまなひびきの個性を、くっきり示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声が強調ぎみに示されて、不自然だ。
❷声の強弱を拡大して示す。とってつけたようなところがある。
❸余分なひびきがつきすぎていて、言葉のたち方は不充分だ。
❹微妙なひびきに対しての反応でものたりないところがある。
❺「ラー」はとってつけたようにのびる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンの硬質な性格をよく示し、音場的な対比も充分だ。
❷シンセサイザーのひびきのクレッシェンドはみごとだ。
❸一応の浮遊感を示し、提示される空間も狭くるしくない。
❹前後のへだたりは充分にとれて、音の飛びかい方もいい。
❺ピークは力をもっていて、圧倒的な迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶重力を感じさせないひびきの奥の方でのひろがりはきわめていい。
❷ギターの音色のきりかえを充分に示して、ひびきそのものも積極的だ。
❸あいまいにならず、実在感たしかにひびく。
❹さらにキメ細かいひびきであってほしいが、充分に光る。
❺せりだしてくるギターとの対比はなかなかいい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をよく示し、フレッシュだ。
❷ひびきの厚みをよく示し、効果は歴然だ。
❸ここできこえるハットシンバルのひびきはなかなか有効だ。
❹ドラムスは、切れ味鋭く、アタックの強さもいい。
❺バック・コーラスの、声としては乾いたひびきがよく伝わる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きくふくらむ。もう少しひきしまるべきだろう。
❷オンのなまなましさを伝えるが、いくぶん誇張ぎみだ。
❸消える音の尻尾を拡大ぎみに示す傾向がある。
❹細かい音に対して反応はさらにシャープであってほしい。
❺両ベーシストの対比は、ほぼ順当である。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶リズムがシャープに切りこんでくるので効果的だ。
❷ブラスのつっこみは、音色的にも、力の点でも、まずまずだ。
❸フルートによるひびきが横にひろがらないのはいい。
❹奥行きもたっぷりとれて、ひろびろとしている。
❺ひびきにふやけがないので、めりはりはよくついている。

座鬼太鼓座
❶尺八までの求められる距離感は明らかにされる。
❷尺八のひびきとしては、やはり脂がつきすぎている。
❸もとが大太鼓の音だということを感じさせる。
❹消える音を示しはするが、スケールゆたかとはいいがたい。
❺ふちをたたいているとは思える音は、それしらく示しされる。

JBL L200B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 L200もBタイプになって格段に音質が向上して、JBLはこのところ乗りに乗っていると実感できる。実に音の質が高く緻密で、これが鳴り始めると、これ以前に聴いた数多くのスピーカーとは格が違う、と思わせる。もちろん、タンノイのARDENやKEFの105や、ルヴォックスのBX350など、イギリスやドイツのスピーカーの鳴らすあのしっとりと潤いのある、渋く地味な音、しかしそこにえもいわれぬ底光りのするような光沢を感じさせるような音とくらべると、JBLの音は良くも悪くも直接的だ。ことにL200Bのようにスーパートゥイーターのついていな、ハイエンドを延ばしていないスピーカーの音は、骨太で、よくいえば男性的なたくましさのある反面、クラシックなどでは図太さあるいは音の構築の細部に対して見通しの利かない部分がある。いわば本当のデリカシーやニュアンスを欠いている。しかし、音量を絞ってもまた逆にどこまで上げていっても、少しも危なげのない、ピアノの打鍵音で全くくずれずに安心して身をまかせられる良さは、ヨーロッパ系のスピーカーにはとうてい望めない。ことにポップス系では、最高域をあえて伸ばさない良さがはっきり聴きとれる。床に直接置いても低音が重くなったりこもったりすることが全くない。ただし、アンプにはグレイドの高いセパレート型が欲しくなる。

JBL 4343

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 いまや日本でも最も注目されているスピーカーのひとつになって、おそらくマニアを自称されるほどの愛好家のほとんどの方は一度は耳にしておられるはずなので、音質をこまかく言うよりもそれ以外で気づいた点を書く。まず第一に、いまでもこの♯4343が、ポピュラー系には良いがクラシックの弦やヴォーカルには音が硬いと言われる人が少なくないのに驚いている。もしほんとうにそういう音で聴いたとすれば、それは、置き方の調整、アンプやカートリッジや、プレーヤーシステムや、プログラムソースの選定、そして音を出すまでの数多くの細かな調整の、いずれかの不備によって正しく鳴っていないのだ。ただ、輸送の際の不手際か、トゥイーターの特性が狂っているのではないかと思えるものを聴いたこともある。また、店頭やショールームでというよりもこれはいくつかの試聴室での体験だが、もしも4343をこんなひどい音で鳴らして、これが本当に4343の音だと信じているのだとしたら、そういう試聴条件で自社のスピーカー開発し仕上げをしてゆくそのこと自体に問題があるのではないか、と感じたことも二度や三度ではなかった。それは4343が唯一最上のスピーカーなどという意味ではない。弱点や欠点はいくつもある。けれど、それならこれを除いてもっといい製品がが、現実にどれほどあるのか……。

JBL 4343

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきにあかるさがあり、鮮明で、あいまいさがない。
❷奥の方で力をもって、輪郭たしかに提示される。
❸個々のひびきへの対応のしかたがしなやかで、無理がない。
❹たっぷり、余裕をもったひびきで、細部の鮮明さはとびぬけている。
❺ひびきに余裕があり、クライマックスへのもっていき方はすばらしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレとロザリンデの位置関係から、ひろがりが感じられる。
❷声のなまなましさは他にあまり例がないほどだ。
❸声のつややかさが絶妙なバランスでオーケストラのひびきと対比される。
❹はった声もしなやかにのびていく。こまかいニュアンスをよく伝える。
❺オーケストラの個々のひびきを鮮明に提示する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに妙な癖がないので、すっきりと鮮明だ。
❷声量差をデリケートに示し、言葉はあくまでも鮮明だ。
❸残響をすべてそぎおとしているわけではないが、言葉の細部は明瞭だ。
❹ソット・ヴォーチェによる軽やかさを十全に示す。
❺声のまろやかさとしなやかさ、それにここでの軽やかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の音色的特徴を誇張するようなことは、まったくない。
❷シンセサイザーのひびきのひそやかなしのびこみはすばらしい。
❸ひびきはこのましく浮びあがり、飛びかう。
❹前後のへだたりが充分にとれ、ひろがりが感じられる。
❺もりあがり方に不自然さはまったくなく、ピークは力にみちてみごとだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかな音のしのびこみ方が絶妙だ。透明なひびきのよさがきわだつ。
❷ギターの進入と前進、途中での音色のきりかえが鮮明。
❸このひびき特徴をあますところなく伝える。
❹わざとらしさがない。ひびきはきらりと光る。
❺ギターとのコントラストの点でも充分だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶反応の鋭さによってさわやかなサウンドがもたらされる。
❷充分なひびきの厚みが示され、効果的だ。
❸ハットシンバルが金属でできていることをひびきの上で明快に示す。
❹ドラムスによるアタックは鋭く、声との対比もいい。
❺言葉のたち方は自然で、楽器によるひびきとのコントラストも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はふくれすぎず、くっきりしている。
❷不自然な拡大・誇張はないが、充分になまなましい。
❸消え方をすっきりと示す。しかしこれみよがしにはならない。
❹反応は、シャープであり、しかも力強い。
❺音像的な対比にはいささかの無理もない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを示し、しかもひろがりも感じさせる。
❷ブラスは、輝きと力のある音で示され、中央をきりひらいていくる。
❸横に拡散しすぎることはないが、力のあるひびきでききてをおそう。
❹後へのへだたりはすばらしい。見通しも抜群だ。
❺リズムの提示は、力感にみちていて、このましい。

座鬼太鼓座
❶ほどよい位置から、しかし鮮明にきこえてくる。
❷尺八の特徴的な音色をよく示し、独特のなまなましさを感じさせる。
❸きこえて、輪郭もあるが、これみよがしではない。
❹充分にスケールゆたかだ。この大太鼓のただならぬ大きさを感じさせる。
❺充分に効果的にきこえて、雰囲気ゆたかなものとしている。

JBL 4343(組合せ)

菅野沖彦

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 JBLのスピーカーは大きな可能性をもっている。高級機機というのはみんなそうだが、それを持てばそれでいいというものではなく、それを使いこなしていく可能性が大きいと理解すべきだろう。この4343は、JBLの本格的な4ウェイ・4スピーカー・システムで、使いこなしの如何によっていかようにも、使用者の感性と嗜好を反映した音を出してくれるだろう。そして、このホーン・ドライバー・システムは特に、ある程度の期間、鳴らし込まないと、本当の音が出てこない事も知っておくべきである。いわゆるエイジングといわれるものだが、この影響は大きい。新品スピーカーは、どこか硬く、ぎこちのない鳴り方をするが、使い込むにしたがって、しっとりと、高らかに鳴るようになるものなのである。これをドライブするアンプは、ケンソニック社のプリ・アンプ……というよりは、同社でもいっているようにフォノ・イクォライザー・アンプC220とモノーラル・パワー・アンプM60×2を用意する。片チャンネル300Wものアンプが果して必要なのだろうかと思われる向きもあるかもしれないが無駄ではない。そして、もしトーン・コントロールを必要とする場合には、別に、グラフィック・イクォライザーを(例えばビクターのSEA7070)をそろえるといいだろう。今年の新製品から、ソニーの超弩級プレイヤーシステムPS−X9を選んだが、たしかにマニアを惹きつける魅力をもったプレイヤーだ。その重量級のメカニズムから生れる音は、まさにソリッドで堂々とした風格がある。しかし、あまりに、抑制が利いていて、戸惑うほどである。このぐらいのシステムになれば、テープデッキも、カセットというのでは少々アンバランス。勿論、日常の便利に、カセット・デッキも1台は欲しいが、ここでは、スカーリーの2TR38cm/secのマスター・レコーダーを組合せ、次元のちがう圧倒的なサウンドの世界を味わっていただこうというわけだ。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥730,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-220 ¥220,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:テクニクス Technics 38T ¥65,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-X9 ¥380,000
オープンリールデッキ:スカーリー 280B2 ¥2,700,000
計¥5,385,000

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL 4350A)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのプロフェッショナルモニターシリーズのモニタースピーカーには、現在、30cmウーファーをベースにした4311から、38cmウーファーをパラレルドライブする大型の4350まで多くの機種がある。そのなかでは、スタジオモニターとして多く使用されている中型の4331A、4333Aは、マルチアンプ化のプランの対象として十分なクォリティの高さを備えた、優れたユニットを採用したシステムといえよう。しかし、2ウェイ構成の4331Aは、そのままマルチアンプ化することよりも、高音用に2405トゥイーターを追加して、3ウェイ化することのほうがグレイドアップの効果が高い。3ウェイ構成の4333Aでは、中音用ユニットのほうが高音用ユニットよりも高能率であり、低音を一台、中音と高音を一台のパワーアンプで駆動する2チャンネルのマルチアンプ方式には好ましくなく、完全にスピーカーユニットに対応したパワーアンプを使う3チャンネルのマルチアンプ化が必要である。むしろ、この場合は、コンシュマーユースとしての使用を前提とすれば単なるマルチアンプ化よりも、グレイドアップにおける投じた経費と結果での効率の高さにポイントをおくべきだ。マルチアンプ化は、2チャンネルとして、中音と低音の間に中低音用のコーン型ユニットを追加するか、超低音を補うために46cm型以上の専用ウーファーの追加や、3D方式なら、さらに大口径の60cm型や76cm型のウーファーを採用するプランが考えられる。
 それに対して、さらにマルチウェイ化され、4ウェイ構成になっている4343や4350は、ともに中低音用のコーン型ウーファーが採用されているのが大きな特徴だ。このため、これをベースとして中音用、高音用の能率的なバランスが保たれ、マルチアンプ方式の基本型である2チャンネル方式のために最適な条件を備えている。
 4343は、これらの条件が備わっているため、システムとして最初からスイッチ切替で2チャンネルのマルチアンプ使用が考えられており、4350では、全帯域をLC型ネットワークで使用することは考えられてなく、中低音以上と低音は、2チャンネルのマルチアンプで分割して使用することを前提とした設計である。そのために、ボイスコイルインピーダンスは、中低音以上は8Ω、低音は、ソリッドステートパワーアンプでは8Ωよりもパワーが得やすい4Ωになっている点は、見逃せないポイントである。
 マルチアンプ化は、各使用ユニットの数に応じたパワーアンプを使う本来の意味でのマルチアンプのプランを採用するのが、これらのシステムのもつ性能をさらに一段と飛躍させるためには好ましいことになる。しかし、ここでは、性能が高い、ハイパワーアンプによる2チャンネルの例をあげておく。これを使い、さらにマルチアンプ化していくことが、アプローチとしてはオーソドックスと思う。

●スピーカーシステム
 JBL 4350A
●コントロールアンプ
 マークレビンソン ML-1L
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 マークレビンソン LNC-2L
●パワーアンプ
 低音域:マランツ 510M
 中/高音域:マランツ 510M

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL D44000 Paragon)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのD44000パラゴンは、現在の大型スピーカーシステムとしては異例な性格をもった、極めてユニークな製品である。
 ステレオのスピーカーシステムは、一般的には左右チャンネルそれぞれ専用のスピーカーシステムを使う方法が標準であるが、パラゴンでは、左右チャンネル用のスピーカーシステムを一体化して使う構想で設計されている。構造上では、独立した左右対称型のフロントロードホーン型エンクロージュアを金具を使用して中央部分で結合し、デザイン的には、中央から左右に円弧状のカーブをもつ反射板で連続して、このまま家具として置いても素晴らしいオブジェとして眺められるユニークな完成度の高さが感じられる。しかも、エンクロージュアは、床面の影響を避けられるように、脚で床から離れているため、音楽的な面での処理も完全である。
 JBLには、かつて、このパラゴンのシリーズ製品として、同じ構想に基いた小型のミニゴンシステム、各種のユニットによりバリエーション豊かなシステムができるメトロゴンがあった。このシリーズのもうひとつの特長として、2チャンネルステレオでは、とくに左右スピーカー中心の音が弱くなり、実体感が薄れる点を補うために、エンクロージュア前面にある円弧状の反射板に主に中音ユニットの音を当て、その反射を左右のスピーカーに対して第3の音源として利用していることがあげられる。
 2チャンネルステレオでは、中央の音が弱く感じられない程度に左右のスピーカーシステムの間隔を調整することが、ステレオフォニックな音場感を再生する基本である。しかし、左右スピーカーの位置にある音源は、直接スピーカーからの音を聴くために、仮りにこれを実像とすれば、スピーカーの内中央の音源は、そこに定位をしたとしても、虚像にたとえることができる。パラゴンに採用された反射板を利用して第3の音源をつくる方式は、中央の音もスピーカーからの反射音を聴く実像である点が大きな特長である。
 パラゴンは、このように音響的に特殊な方式を採用しているため、最適リスニングポイントの範囲は一般のスピーカーシステムよりも狭く、制約がある。おおよその位置は、両側のトゥイーターの軸上を延長した線の交点あたりで、かなりスピーカーシステムと最適リスニングポイントの距離は近い。
 パラゴンを巧みに鳴らすキーポイントは低音にあるが、特にパワーアンプが重要である。ここではかつて故岩崎千明氏が愛用され、とかくホーン型のキャラクターが出がちなパラゴンを見事にコントロールし、素晴らしい低音として響かせていた実例をベースとして、マルチアンプ化のプランとしている。このプランにより、パラゴンを時間をかけて調整し、追込んでいけば、独得の魅力をさらに一段と聴かせてくれるだろう。

●スピーカーシステム
 JBL D44000 Paragon
●コントロールアンプ
 クワドエイト LM6200R
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 JBL 5234(×2)
●パワーアンプ
 低音域:パイオニア Exclusive M4
 中音域:パイオニア Exclusive M4
 高音域:パイオニア Exclusive M4

JBL L65A

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、いきいきとひびいて積極的だ。
❷低音弦の動きは、ひびきに力があり、鮮明だ。
❸個々のひびきをくっきり示し、とけあい方もいい。
❹第1ヴァイオリンは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❺クライマックスのひびきは、幾分刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は中位だ。ひびきに力がある。
❷音色的な対比は明らかだが、ひびきがかたすぎる。
❸室内オーケストラのひびきのまとまりは示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはかたい。
❺個々の楽器のひびきの特徴は示すものの、しなやかさが不足だ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像はほどほどで、好ましいが、子音を強調する。
❷接近感を示すものの、表情が濃くなる。
❸ひびきにとけあった気配が希薄で、ばらばらにきこえる。
❹はった声がかなりかたくなり、前にせりだす。
❺オーケストラと声とのバランスがいいとはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きく感じられ、そのためか定位の点で問題がある。
❷声量をおとした分だけ、不鮮明さが増す。
❸残響をかなりひきずっているのがわざわいしているようだ。
❹ひびきに本来の敏捷さがないために明瞭にはききとれない。
❺重いひびきをたっぷりとひっぱっている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンとポンのひびきの性格的な違いがくっきりと示される。
❷ひびきの後方へのひきは充分にとれている。
❸充分に浮遊感はあるが、ひびきにやわらかさがほしい。
❹ひろがりはとれている。目のつまった感じのしないのがいい。
❺ピークは力にみち迫力充分なものだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥へのひきはできているが、ひびきが幾分かたい。
❷ギターの音像はほどほどだ。せりだし方がわかる。
❸ほぼ十全な、くっきりとした提示のされ方をする。
❹かなり目だって、ひびきにアクセントをつけている。
❺意外なことに、ここではあまりよくはきこえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの特徴的なひびきがよく示されている。
❷ここでは、厚みより、力が増したように感じられる。
❸ハットシンバルのひびきのちらばり方がみごとだ。
❹ドラムスの音像は幾分大きいが、つっこみはシャープで有効だ。
❺声の重なり方、全体とのバランス等でまずまずだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像がふくらみすぎず、力感充分なのがいい。
❷指の動きを鮮明に示すが、部分拡大のいやみはない。
❸ことさら目だたせるわけではないが、充分にききとれる。
❹力強いひびきだ。こまかい動きにも対応できている。
❺音像的な面でも無理がなく、はなはだ自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックはシャープで、しかも力がある。
❷ブラスのひびき方は、パワフルで、効果的だ。
❸フルートによるとは思えないほどの積極的なひびきだ。
❹見通しがいいために、トランペットの効果がいきている。
❺リズムの切れが鋭く、めりはりをくっきりつけている。

座鬼太鼓座
❶尺八は、かなりへだたったところからきこえる。
❷脂っぽさはなく、しかも余韻を残している。
❸不自然でない、本来のきこえ方がする。
❹大きさも、力強さも、それに音の消え方もよく示す。
❺効果的なきこえ方をして、アクセントをつけている。

JBL L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 さすがにこのクラスになると、スピーカーシステムとしての格が違うという印象が強くなる。たとえば、ここまでおもに使ってきた国産4機種のアンプではもういかにも力不足がはっきりしてきて、レビンソンLNP2LとSAEシャープ2500の組合せぐらいでないと、ほんとうの良さがひき出しにくい。ただ、それではあまりに高価になりすぎる。もう少し中間のグレイドのアンプも考えられると思うが。それにしても、L65Aと同じトゥイーターがついているのに、L300になると、鳴らしこんでいないことが殆ど耳ざわりにならず、音をやわらかくくるみ込んで目立たせない鳴り方は、とてもL65Aの約2倍の価格とは思えず、この差はもっと大きいと思わせる。ブラームスP協の冒頭のトゥッティのティムパニの爆発から、もうすさまじい迫力と充実感で、それはヨーロッパのスピーカーの鳴らす自然な響きの美しさとは違ってどこか人工的な香りがつくが、こうしたクォリティの高い音にはやはり一種人を惹きつける説得力が生じる。ポップス系の良さは言うに及ばないだろうが、例えばフルトヴェングラーのモノ→ステレオ録音のようなレコードでも、十分に美しく聴かせることから、スピーカーのクォリティの大切さがわかる。ごく低いインシュレーターを介して置いた方が、音の空間的なひろがりがよく感じられるようになる。それにしてもこれはぜいたくな音だ。

JBL L65A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 まだあまり鳴らし込まれていないらしく、トゥイーターが少々きつく細い鳴り方をするので、レベルコントロール(Brilliance)を-2から-3程度まで絞って聴いた。以前のL65でもあまり高い台に乗せない方がよかったが、今回の65Aの場合には、むしろ台をやめて床(フロアー)にじかに、背面も壁にかなり近づける置き方の方が、低域の量感が増してバランスがよかった。クラシックからポピュラーまでどのプログラムソースに対しても、KA7300Dやラックス系のアンプではそのどこかウエットな音がL65Aを生かすとはいいきれず、CA2000のようなさらりとした音が、またカートリッジでは最初考えた4000DIIIでは少々音が軽くしかも輝きすぎで、ADCのZLMや、オルトフォンMC20の方がよかった。この状態でシェフィールド等をCA2000のメーターがしばしば振り切れるまでパワーを放り込んでみたが、瞬間で200Wを越えるパワーにも全くビクともせず、音域のどこかでバランスをくずしたり出しゃばったりせずに、またことさら尖鋭だの鮮明だのと思わせずに、何気なくしかも高い密度で鳴る点はさすがと思わせた。ただクォリティの面ではCA2000でもまだ少々力不足の感がある。クラシックでもバランス的にはおかしいというようなことはないが、JBLのこのクラスには4333Aなどから上の機種の聴かせるあのしっとりした味わいを望むのは少し無理のようだ。

JBL L300

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、生気があって、くっきりとひびく。
❷低音弦のスタッカートは力があって、ひろがりも感じさせる。
❸各々のひびきの特徴をくっきりと示し、とけあい方もいい。
❹ここでのピッチカートは、たっぷりひびいて、しかも鮮明だ。
❺内容を示しつつ、迫力充分にきかせる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きく、ひびきに力がある。
❷個々のひびきの特徴は示すが、キメ細かさが足りない。
❸室内オーケストラのひびきとしては、大柄にすぎるだろう。
❹すっきりときこえるが、ひびきにしんがありすぎる。
❺ひびきの特徴を示し、ばらばらにならない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響をかなりひろっているが、声になまなましさがある。
❷接近感は拡大ぎみに示す。表情はゆたかだ。
❸クラリネットのひびきはきわだつが、声とのバランスはいい。
❹はった声がかたくならず、充分にのびている。
❺オーケストラと声とのバランスは理想的だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はふくらみがちなため、定位は必ずしもよくない。
❷声量をおとしても鮮明さがなくなることはない。
❸残響をかなりひろっているが、言葉は充分にたつ。
❹ひびきに軽やかさはないが、各声部のからみあいは明瞭だ。
❺とってつけたようにではなく、自然にのびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ふたつのひびきの、音色的、音場的対比は充分だ。
❷後方にひいたひびきの質がよくききとれる。
❸さらに軽やかであってもいいが、浮遊感は示す。
❹力のあるひびきによりながら、ひろがりがある。
❺ふくらみ方は自然で、ピークでの迫力は圧倒的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきには力があるが、透明感をそこねていない。
❷ギターはくっきり示されて、せりだし方をよく示す。
❸ふくらみすぎず、あいまいにならず、きわめて好ましい。
❹ひびきの輝きをよく伝えて、アクセントをつけている。
❺すっきりとこのひびきの本来の姿を伝える。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきがあいまいにならずくっきりと定位する。
❷ひびきの重なり具合が充分にききとれる。
❸ハットシンバルの音は、乾いて、すっきりとぬけでてくる。
❹ドラムスの音像は大きくならず、シャープに切りこんでくる。
❺声の重なり方が手にとるようによくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が巨大になっていないのがいい。充分な力がある。
❷指の動きが、ことさらめかさず示され、なまなましい。
❸音の消え方にも、誇張感がなくていい。
❹こまかい音の動きに対しての反応も好ましい。
❺音像的、音量的、音色的対比は十全だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックのシャープさはなかなかのものだ。
❷ブラスの切りこみも、はなやかなひびきで、有効だ。
❸この部分で求められる効果を充分にいかしている。
❹ひびきの目がつみすぎていないので、トランペットの参加が生きる。
❺左でのリズムの刻みはまことに鋭い。

座鬼太鼓座
❶尺八は左奥からすっきりきこえてくる。
❷くっきり示されるものの、ひびきに脂のついていないのがいい。
❸かすかな音できこえて、誇張感はない。
❹充分な力を示し、音の消え方もよく伝える。
❺好ましいきこえ方をして、はなはだ効果的だ。

JBL 4343(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.2(朝日新聞社・1977年夏発行)
「オーディオ・コンポーネントを創る」より

 こんなに大がかりな機械を揃えて、いったいどんなに大きな音で聴くのかと質問した人がある。ところが実際はまるで反対だ。およそ繊細で鋭敏で精巧で、しかも美味な──これらはすべてdelicateという言葉の内容する意味だが──音を聴かせる組合せなのである。実をいえばこれは筆者の実用している装置と殆ど同じなのだが、私自身の部屋はといえば、貸しマンションの3階の約8畳ほどの一室で、何の音響的な処理をしているわけでもなく、大きな音量を出そうとすれば下の家から文句を言われるし、逆に2階の家でピアノを弾けば音がつつ抜けになるというような環境で、したがって音量はおさえて、むしろひっそりと小さめの音量でレコードを楽しんでいるというのが現状だ。
 概してこういう小さな音量では、レコードの音は生彩を欠いて、いかにも缶詰然とした鳴り方をしがちだ。ところが私はそういうレコードの世界が大嫌いで、たとえ一枚のレコードであっても、溝の隅々まで掘り起こして、刻みこまれたどんな微細な音でも新鮮に再現して、時間空間を超越して元の演奏を実体験したいという、欲ばりな望みを持ち続けている。こういう最新型の装置を完全に調整して調子を整えれば、たとえばフルトヴェングラーのモノーラル時代の録音でさえも、まるで昨日演奏されたかのようなみずみずしい新鮮さで再現することができる。アメリカの最新型のアンプとスピーカー、などといえば、およそこうした古い録音のクラシックなど鳴らせないかのように云う人があるが、それは、こういう鋭敏な装置を使いこなすだけのテクニックを持たない人のたわごとだ。
 そして言うまでもないことだが、そこまで調整し込めば、最新の録音のあらゆるジャンルに亘る音楽のすべてを、スピーカーからとは思えないほどの最上の質で聴かせて堪能させてくれる。

スピーカーシステム:JBL 4343 ¥739,000×2
コントロールアンプ:マークレビンソン LNP-2L ¥1,180,000
パワーアンプ:SAE Mark 2500 ¥690,000
チューナー:セクエラ Model 1 ¥1,480,000
ターンテーブル:テクニクス SP-10MK2 ¥150.000
キャビネット:テクニクス SH-10B3  ¥70,000
トーンアーム:テクニクス EPA-100 ¥60,000
カートリッジ:オルトフォン MC20 ¥33,000
ヘッドアンプ:マークレビンソン JC-1/AC ¥125,000
計¥5,266,000 

JBL D44000 Paragon

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 永いあいだこのスピーカーのことを、私は、〝素晴らしい音の出る豪華な家具〟というニュアンスで書いてきた。ところが、私の最も尊敬する一人の愛好家が、一昨年パラゴンを入手し、それ以来おどろくべき感覚でこれを調整し込んだのを聴くに及んで、パラゴンには、独特の濃厚かつリアルな音の味わいがあることを知った。ただ、その面を抽き出すことは尋常ならざる熱意と、研ぎ澄まされた感覚の持続が要求される。

JBL 4333A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 定評あったモニタースピーカー♯4320が製造中止になって以後、マイナーチェンジを頻繁にくりかえして暗中模索していたかにみえたが、この4333Aになって、ようやくJBLはワンステップ前進して、新しいモニタースピーカーを完成させることに成功したと思う。Dレンジ、Fレンジともきわめて広く、フレッシュでリアルな音はどんな音量でもその魅力を失わない。4343には一歩譲るが、しかし優秀な製品だ。

JBL L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 前面を軽く傾斜させ、四隅に丸みをもたせた独特のデザインは、日本の一般家庭でも違和感なく収まる見事なできばえだが、むろん内容的にも、現代の先端をゆくワイドレンジ型で、鋭敏で繊細で、しかもパワフルなサウンドを満喫することができる。どちらかといえば細身の音なので、アンプやカートリッジは逆にいくらかグラマー気味の音質でまとめる方がうまくゆくようだ。このクラスから、新しいJBLらしさが本当に出てくる。

JBL L26

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 気づいた限りでも少なくとも三回のマイナーチェンジをしているが、いま出廻っている製品は見ちがえるほど質の高い滑らかな音質になり、従来無理とされていたクラシックの弦でも、傾向としては硬質ながらバランス的には十分聴ける音になっている。がL26の本領はやはりジャズ、ポピュラーで、ことにベースの音の弾みなど、ちょっと代替品を思いつかないくらいこのクラスではズバ抜けている。

JBL 4350A

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 JBLが現在製造する最高、最大のシステムがこの4350Aである。巨大なエンクロージュアに4ウェイ5スピーカー構成のユニットがつめ込まれ、これを250Hzのクロスオーバーでマルチアンプ駆動するべく作られている。4350WXというウォルナット仕上げのヴァージョンもある。JBLのシリーズの旗艦であるが、それだけに、そう簡単に使いこなす事が出来ないシステムだ。調整にはプロの腕が必要。

JBL 4343

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 4341の改良型として登場したのが、この4343である。4ウェイ・スピーカーで、構成としてはJBLの3ウェイにミッドバスをというコーン型25cm口径スピーカーを(2121)をプラスし、それぞれのクロスオーバーを上下に追いやり、寄り理想的な帯域動作を各ユニットに可能にしたシステムだ。エンクロージュアも強化され、可聴帯域内をびっしりと密度高く埋めたサウンドは圧巻であり、家庭用としても最高の可能性をもつ。

JBL 4343

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 4341を飼い馴らすこと一年も経たないうちに4343の発売で、個人的にはひどく頭に来たが、しかしさすがにあえて短期間に改良モデルを発表しただけのことはあって、音のバランスが実にみごと。ことに中低域あたりの音域の、いくぶん冷たかった肌ざわりに暖かみが出てきて、単に鋭敏なモニターというにとどまらず、家庭での高度な音楽館商用としても、素晴らしく完成度の高い説得力に富んだ音で聴き手を魅了する。

JBL 4350A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 4343が、きわめて節度を保った完成度の高さ、いわば破綻のないまとまりを見せるのに対して、4350Aになると、どこか狂気さえはらんでいる。とうぜんのことながら、使い手がよほど巧みなコントロールを加えないかぎり、4350Aは、わめき、鳴きさけび、手のつけられないじゃじゃ馬にもなる。それだけに、何とかこれをこなしてやろうと全力でぶつかりたくなる魔力を秘めている。

JBL 4333A

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 L300より若干価格の高い、プロ用モニタースピーカーで、A型になって従来の4333よりエンクロージュアが、さらに強化され、デザイン的にも僅かながら変更を受けた。JBLの代表的な高級システムであり、比較的コンパクトでもあるので、スタジオだけでなく一般家庭でも使いやすい製品である。その再生音は、広いレンジにわかり過不足なく、プログラムソースを鳴らしきる。

JBL L300

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 JBLの民生用スピーカーの高級モデルで、中、高域にホーンドライバーを使った、本来のJBLのよさを発揮した優れたシステムである。プロ用モニターでいえば4333に匹敵する製品であるが、使用ユニットは違う。きわめてワイドレンジ、ハイ・エフィシェンシー、大きな許容入力と、物理特性も第一級のシステムで、エンクロージュアもつくりも、プロ用を上廻る優美さと緻密さが魅力だ。

JBL L26

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 JBLのスピーカー・メーカーとしての真価は、ホーンドライバーユニットを使ったシステムだと私は思っている。このシステムのようなコーンのものは、JBLとして決して本格派とはいえない。しかし、そこにさえ、JBLらしさがはっきり現われているのはさすがで、このL26にも小さいスケールながら、JBLらしいよく弾む低音、明解な高域の魅力が聴ける。ブックシェルフの標準的な位置に価いするシステムだ。