瀬川冬樹
ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より
リファレンスの4343と切換えながら比較すると、とうぜんながら高域のレインジが狭く、そのためか同じレコードでも情報量がかなり減った感じに聴こえる。反面、4343ではときとして気になりがちなハイエンドの強調によるヒス性のノイズや、レコードが多少傷んでいる場合に打音にまつわりつくようなシャリつきが耳ざわりになる場合があるが、そういうところは4331Aでは殆ど出てこない。少し前までの高音域の延びていないスピーカーの音を永く聴き馴れた人が、4343や4333Aのようにハイエンドを強調ぎみに延ばした音を突然聴いたときに、耳の注意力がついその方に向けられて中音域が薄くなったかのように感じて違和感をおぼえるそうだが、アルテックの604系のスピーカーを使い馴れたスタジオマンなどのあいだで、4333Aよりも4331Aの方が好まれる例が多いというのもそうした理由もあるのだろう。
しかし一旦ワイドレインジの良さを聴き馴れた耳には、デリケートなニュアンスの出にくいこと、そして、同じ理由から音像がスピーカーを離れて空間に漂うようなエフェクトの出にくいことが、どうにももどかしくなってくる。たとえば、ロス=アンヘレスの声が、どこか骨っぽく、男っぽいと言っては言いすぎにしても人声の持つ滑らかな細やかさが十分に表現されにくいし、「サイド・バイ・サイド3」でのベーゼンドルファーの高域の、部屋の空気に溶け込んでゆくような艶と響きの美しさも十分に鳴らすとはいいがたい。そういう部分のニュアンスの薄れているせいか、4333Aよりも音が乾いて、しなやかさに欠ける印象を受ける。
またもひとつ、ピアノの打音の場合に、箱なりとまで言ってはこれも言いすぎになるが、ピアノの音にもうひとつスピーカーの箱の響きを重ねたような鳴り方がわずかにあって、楽器の自然な響きを損ねる傾向がピアノばかりでなく、軽微とはいえ弦の低音やヴォーカルでも聴きとれる。この傾向はアルテック612Cにもあったことを考えると、このタイプの箱のプロポーションに共通の弱点ではないだろうか。ただし4331Aの箱鳴りはアルテックよりはずっと少ない。高域のレインジのせまいといっても、612Cにくらべるとよく延びているように聴こえる。いろいろと熟点をあげてはいるものの、個人的には、612Cほどの違和感をおぼえることはない。
総じてこの手の音は、クラシックの微妙なニュアンスや、弦合奏の漂うようなハーモニィの美しさを再現することのニガ手な傾向を持っている。反面、ポップス系の打音を主体とした音を、ましてスタジオでハイレベルで、マイクの拾った音をじかに長時間に亘ってモニターするというような目的には、こういうハイエンドの無い音の方が良い場合も多い。そこが4331Aの存在理由だと私は理解した。
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