JBL 4301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 アン・バートンの唱う “Go away little boy”(オランダCBS盤。日本盤とは音が違う)の冒頭から入ってくるシンバルのブラッシュ音は、かなりくせの強い録音なのだが、それにしてもアルテックやキャバスやダイヤトーン等では、この音がこう自然な感じで鳴ってはくれなかった。ベースの量感も、このちっぽけなスピーカーを目の前にしては、ちょっと信じがたいほどきちんと鳴る。アン・バートンの声に関してはもう少し滑らかさや湿った感じが欲しいと思わせるようにいくらか骨ばってクールなのだが、それにしても、4301が現代ワイドレインジ・スピーカーでありながら、少し古いジャズ録音をもかなりの満足感を持って聴かせることがわかる。シェフィールドのダイレクトカットの中の “I7ve got the music in me” でのテルマ・ヒューストンの声も、黒人特有の脂こい艶と張りが不足するが、バックの明るく弾みよく唱う音を聴けば、こまかいことをいう前にまず音楽を聴く楽しさが身体を包む。
 要するにそれは、輸入してこの価格、まして小さめのシンプルな2WAYから鳴ってくる音にしては……という前提があるのだが、それにしても4343以来のJBLが新しく作りはじめたトーンバランスは、右のようにポピュラー系の音楽をそれなりの水準で鳴らし分けることはむろんだが、クラシックのオーケストラを鳴らしたときでも、その音色のややドライで冷たい傾向にあるにしても、そして中音域全体をやや抑え込んだ作り方が音の肉づきを薄くする傾向はあるにしても、かんどころをよくとらえた音で鳴る。たとえばブラームスのピアノ協奏曲のオーケストラの前奏の部分などで、低音をアンプで1~2ステップ補整しないと、分厚い響きが生かされにくいし、ハイエンドにはややピーク性のおさえの利かない音がチラチラ顔を出すため、レコードのスクラッチノイズをいくぶん目立たせる弱点もある。
 それにしても、ラヴェルの「シェラザーデ」、バッハのV協、アルゲリチのショパン、ブラームスのクラリネット五重奏……と、それぞれに難しいプログラムソースも、こういうサイズと価格のスピーカーにしては、そしてくり返しになるが総体に質感が乾いているにしては、一応それらしく響きにまとめるあたり、なかなかよい出来栄えの製品ということができる。
 ただ、これを鳴らしたプレーヤーやアンプが、スピーカーの価格とは不相応にグレイドの高いものであったことは重要なポイントで、こうんいうクラスのスピーカーと同等クラスのアンプやプレーヤーで鳴らしたのでは、音の品位や質感や、場合によっては音のバランスやひろがりや奥行きの再現能力も、もう少し低いところにとどまってしまうだろう。しかしコンシュマー用のL16をモディファイしたような製品なのに、よくもこれほどまとまっているものだと、ちょっとびっくりさせられた。

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