Category Archives: スピーカーシステム - Page 3

ソナス・ファベール Concerto

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伊ソナス・ファベール社は工芸的とも言える上質のシステムを作るメーカーだが、これはその中では普及型のブックシェルフ機である。とは言え、やはりエンクロージュアはウォールナットの無垢材で皮張りの本体を両サイドから挟み込んだ手の込んだものであり美しい。ぴりっとしたエッジとグラマラスな中低域が魅力だ。

ダリ Evidence 470

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

デンマークのダリの代表機種と言ってよいポジションにあるトールボーイ型の新製品。このメーカーらしいバランスのよさが特徴であるが、これは質も高い。ブックシェルフ並みの床の専有面積ながらトールボーイの利点を生かし、音のスケール感は大きいし、このタイプにあるこもりがちな不明瞭さはなく、解像力もいい。

ダリ Menuet Royal 2

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

’95年発売のデンマークの製品でコンパクト・ブックシェルフ型の傑作と言っていい。メヌエットの上級機で良質のチェリーのつき板張りのエンクロージュアは品位が高いし仕上げも上質である。11cm口径ウーファーはポリプロピレン製で、トゥイーターはソフトドーム型。小型スピーカーの生命であるバランスが絶妙だ。

BOSE 314

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

20cm口径のウーファーをベースにした3ウェイ3ユニット構成のスピーカーシステム。同社の214をスケールアップしたもので、ボーズ独自のステレオ・ターゲッティング・トゥイーターは、指向性可変のダイレクト・リフレクティング方式で臨場感の豊かな再生を聴かせる。

ビクター SX-500DE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オブリ型ドームをトゥイーターに採用し、20cm口径ウーファーとの2ウェイでまとめられた中型のブックシェルフシステム。この大きさとしては異例のワイドレンジ感と情緒的な音の魅力を兼ね備えるものだ。500シリーズ初のバスレフ・エンクロージュアのチューニングが成功している。

BOSE AM-5III

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

サテライトスピーカー+アクースティマス・ベースボックスというボーズ独自のシステムは常に進化している。これは’98年発売のものでサテライト部が音質的に向上し、より豊かな再生を可能にした。置場所に限界のある6畳以下のスへースで威力を発揮するが、かなり広い部屋でも外見から信じられないほどのスケール感の大きな再生が可能。

ビクター SX-V1X

菅野沖彦

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 このビクターの小型スピーカーシステムSX−V1Xは、長年の日本製スピーカーシステム特有の弱点を払拭しただけではなく、日本製であるアイデンティティと美徳を備えた傑作であると思う。変換器としての物理特性や、物としての作り、仕上げの高さにおいて国際レベルでの一級品の技術水準を達成しているだけではなく、音楽を奏でる音として、心のひだに浸透する「響き」を持っているのである。そして、この日本製ならではの風情を感じさせる音の純粋さやデリカシーが、海外製品にはない魅力なのである。しかも、これがわれわれが聴く西欧の音楽表現に違和感を感じさせることなく、発音に新鮮で美しい感覚を与えるというところが素晴らしい。
 では、その日本製特有の弱点とは何か? それは、わが国のオーディオ技術が一世紀もの長きに渡り、外来の理論技術の学習を基礎に発展してきたことをバックグラウンドにもつ宿命がもたらしていた、物理特性偏重姿勢による手軸足棚と言ってもいいものだと私は考えている。それは、真面目で勤勉な国民性と、西欧への憧れは強くても、残念ながら、一人一人の血となり肉となり得ていなかった社会の文化性が要因として考えられるのではないだろうか。この20年間に、オーディオの技術水準では欧米を追い越すまでになったわが国だが、より忠実な音を再生するという技術の進歩発展の過程にあっては、さして問題にならなかったことでも、オーディオ文化が成熟し、スピーカーによる再生音が音楽表現の芸術性や美の対象としての観点から論じられるようにまでなった今日では、より人の感性が評価する「音質」が重要視されるようになった。日本製オーディオ機器の輸出の実態から見ても、国際的に高く評価されているエレクト三クス機器は多いが、スピーカーシステムだけはふるわない。多くの伝統芸術、工芸の水準の高さは世界的であり、料理の世界では日本料理はもちろんのこと、西欧の料理でさえ、世界のグルメを驚歎させる水準にある日本人の感性が、なぜ世界的に評価されるスピーカーシステムを作り得なかったかは、私の長年の疑問であった。このスピーカーシステムはそのブレークスルーの可能性を感じさせてくれた。
 オーディオ機器全般に言える大事なことだが、特にスピーカーシステムには作る人の情熱と感性が絶対に不可欠だ。しかし、工業製品であるからには、これを製品化し得る企業の理解と力のバックアップもまた重要である。この製品が14・5cm口径ウーファーの2ウェイ小型システムであるということは、多くの人が広く良質のオーディオ再生音の素晴らしさを知ることに役立つという意味でも大きい。なお、専用スタンドは、音と美観の両面からも必要である。

インフィニティ Kappa 8.2i

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 最近では、小型ブックシェルフはもちろん、比較的にコンパクトなトールボーイ型システムもヴァラエティ豊かに品揃えされるようになり、小型システムからいかに豊かな低音再生を可能にするかという、スピーカーシステムの理想像は具現したかのようにも思われる。いっぽうで、大口径ウーファーを採用した、十分にキャビティのあるフロアー型システムならではの、余裕があり、かつセンシティヴな音の魅力は、いささかも色越せていない。このあたりは、大変に興味深いことだ。
 いわゆるフロアー型ならではの音の魅力は、平均的な音量以下で、豊かでストレスフリーの低音と音場感が楽しめることにあるようだ。つまり、小音量で豊かな低音を楽しむためには、ある程度大きなサイズのフロアー型システムが必須であることになる。住宅環境を考慮すれば、これは相当に贅沢なことでもあるようで、このあたりにコダわるのが趣味なのかもしれない。
 実際の有無は別にして、存在して欲しいフロアー型システムの具体像を考えてみる。
 ウーファーの口径による音色、音質、固有のキャラクターを考えれば、ややエネルギーバランス的には中低域寄りの音にはなりやすいが、やはり30cmウーファーは必要不可欠であろう。
 システム構成は、エネルギーバランスや指向特性から考えれば、2ウェイ型独特の個性を求めないかぎり、3ウェイ方式は最少のユニット構成であり、家庭用を考慮すれば、中域以上のユニットはコーン型もしくはドーム型となるであろう。
 エンクロージュアは、聴盛上のSN比を重視すれば密閉型に優位性があるが、雰囲気のよい、豊かで柔らかく、しなやかな音が好まれる現在の傾向では、バスレフ型を採用するのがベターに思われてくる。
 さて、以上を最低条件として、しかも、リーズナブルな価格のフロアー型システムを、現実に国内で市販されている製品から選んでみたら、どのようになるのであろう。
 必ずしも知名度の高いブランドにコダわることはないが、製品の信頼性、安定度、バラツキのなさ、アフターサービスなどを加味すれば、しかるべきブランドの製品になるのは当然の帰結というところだろう。
 このように必要な条件を設定していったときにクローズアップされるのが、インフィニティのカッパ・シリーズ(現行はiヴァージョン)である。
 現在、カッパ・シリーズには6・2i/7・2i/8・2i/0・2iの4モデルがラインナップされており、30cmウーファー採用の条件をつければ、8・2iと9・2iの2モデルになる。もしも、リスニングルームの空間にタップリと余裕があれば、ダブルウーファー採用の9・2iに多くの可能性と魅力があるが、平均的な使用では、シンプルな構成の8・2iになるであろう。
 カッパ・シリーズは、前シリーズ以来の同社中堅シリーズとして定評があり、多くのファンに愛用された実績の高さは抜群のものがある。とくに、8・2iと9・2iは、ウーファー同様のIMGコーンを使う中低域ユニットを含む4ウェイ構成のシステムで、独特なポリドーム型中高域と、同社が誇るEMIT採用の高域が、絶妙なバランスを保ってシステムアップされている。
 エンクロージュアはリアルウッドを使う偏平なタイプのバスレフ型。これは密閉型だった従来のカッパ・シリーズから変更された部分である。リアバッフル部分には、中高域と高域の連続可変レベル調整があり、それによる変化はおだやかでありながら、かなりの幅でサウンドバランスを調節ができるという、使い易さに優れた点にも注目してほしい。
 さらに、低域のレベルを上げるLCチューニングスイッチも付属しているので、4バンド・グラフィックイコライザー的なコントロールが容易にできる。
 スピーカー端子はバイワイア一対応型の4端子構成で、クォリティを重視するなら、バイワイア一便用が望ましい。ただし、安定度の高いシステムだけに、通常のシングルワイア一便用でも、音の姿・形を巧みに聴かせ、音楽的に十分に納得のいく高いレベルで楽しめるのは見事である。
 8・2iは、柔らかく豊かで、ほどよくパワー感のある低域をベースとした、スムーズでナチュラルな中域と、繊細感のあるクリアーで反応が速い高域が巧みにバランスした素晴らしい音が聴かれる。しかも、この音をベースに相当な幅でコントロール可能であるので、手軽に使って楽しめると同時に、しかるべき調整能力がある人であれば、かなり高度な再生能力をもつシステムにチューンアップできる。実に素晴らしい傑作だ。

テクニクス SB-M1000

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 SB−M1000は、密閉型とバスレフ型の特徴を兼備するといわれる独自のケルトン方式を活かすためのデュアル・ダイナミック・ドライブ(DDD)方式の低域と、パルプとマイカを混ぜた中低域と中高域、超高域再生に最適と言われるスーパーグラファイト・ドーム型を組み合せた4ウェイ構成のトールボーイ・フロアー型システム。
 シリーズ製品には、MK2化されたSB300M2と500M2をはじめ、小型のSB−M01、トップモデルのSB−M1000がラインナップされている。
 DDD方式は、内部に駆動用コーン型ユニットがあり、これによりパッシブラジェーターを駆動して低域を再生するイン・ダイレクト型のシステムがベースで、これに駆動用ユニットの振動板の反作用でコーンと逆方向に向く力を打ち消す目的で、背面に向かってさらに1組の同じシステムを組み合せ、エンクロージュアの前後方向に低域を放射する方式である。
 SB−M1000では、18cmパッシブラジェーター4個と14cm駆動用ウーファー4個がベースで、これに中低域14cmコーン型、中高域8cmコーン型、高域に2・5cmドーム型を採用した4ウェイ7スピーカー(4パッシブラジェ−ター)スシテムである。
 本機では、DDD方式は90Hz以下を受け持つサブウーファー的な使用方法で、データ的には問題はないが、ヒアリングチェックをすると低域にある種のディレイタイムが感じられ、量感タップリの柔らかい低音の魅力は十分にあるが、反応が穏やかで、スピード感や躍動感に少々気になる点があった。単純音での聴覚データでは問題はなくても、音楽再生をすると違和感が生じるのは、デジタル用光ファイバーの切断面の精度による聴感上での音の違いなどと同様に、音楽を再生する機器ならではのデータと感覚の不一致で、これは昔から厳然として存在し、将来も永遠に続く解決しなければならない重要なテーマである。
 SB−M1000の特徴が活かされ、この方式のメリットが感じられたのは、昨年の新製品であるプリアンプSU−C3000とパワーアンプSE−A3000を組み合せて聴いたときのことである。
 CDトランスポートのサスペンションによる固有振動が、ある種の音の遅れ(ディレイタイム)を感じさせることに似て、常に遅れが気になった本機の低音が、豊かで柔らかい見事な低音として聴かれたのである。簡単に言えば、駆動するパワーアンプのドライブ能力によって低音域が大幅に変ることはバスレフ型でも往々にしてあるが、駆動アンプの性能向上がDDD方式のデメリットを殺し、メリットを活かした好例のようである。この組合せは再度試みたが、結果は変らず、SB−M1000の魅力を再発見した楽しい体験であった。

ビクター SX-V7

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 SX−V7は、伝統的なHMV」の名が付けられたSX−V1系の上級機種に位置付けされるトールボーイ型スピーカーシステムで、昨年の新製品では高級トールボーイ型として国内製品中で唯一無二の存在であったSX9000のベースモデルとも考えられるシステムである。
 このモデルの魅力は、独クルトミューラー製コーン採用のウーファーと、絹ソフトドーム型トゥイーターで2ウェイ構成とした、同社スピーカーシステム中で最高のベストセラーモデルとして知られるSX3の技術と伝統を現在に伝えた開発構想にある。
 継続は力、という表現があるが、伝統を維持することは、いずれのジャンルでも至難なことと考えるが、基本構造は1920年代から変っていないスピーカーは、エレクトロニクスと比較すれば、伝統を継承する上では有利ではあるが、少なくとも、伝統を受け継ぎながら今日のスピーカー技術を加え、現代のスピーカーシステムとして開花させたこの成果は、スピーカーファンには注目していただきたいことといえる。
 ユニット構成は、独クルトミューラー製パルプコーンウーファーと、絹の羽二重を使った中域と高域のソフトドーム型ユニットによる3ウェイ。HMVの超高級手巻き蓄音機の筐体にも使われていたマホガニー材を採用し、樹脂含浸処理をしたテーパー形状エンクロージュアは、フラッシュサーフユイス仕上げで、高級家具的フィニッシュが美しい。
 低/中/高域各ユニットの磁気回路は、ビクター独自の音質、音色面でのコダわりからツボ型アルニコ磁石を採用。非常にヴァラエティ豊かな開発で活気づく海外のスピーカーシステムでも、アルニコ磁石採用のモデルは皆無に等しいであろう。
 磁気回路の磁石と音の傾向との関連については古くから語られているが、振動板の反動を受ける磁気回路の固有音は、振動板自体の音をS(音楽信号)とすればN(ノイズ)となり、この関係は、聴感上でのSN比に相当するため、ユニットのオーバーオールの性能、音質、音色、音場感などと複雑に絡む、非常に重要な要素である。とくに、扱う周波数が高くなると、磁気回路材料の固有音が大きく音に影響を与える傾向があるようだ。
 エンクロージュアは、データをベースに、経験量を加えた各社各様の開発が見られる興味深いところだ。本機の内部構造は類例のない機械的チューニングが行なわれているよようで、 マホガニー材と砲金の組合せで良い音を目指したHMVの伝統が感じられる。このシステムの、重厚さ、渋さ、しなやかさ、柔らかさ、豊かさが、ほどよい力感に支えられて聴かれるオーディオならではの醍醐味のある音には、海外製品には求められない濃やかな気配りが感じられる。

B&W Nautilus 805

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 ご存じのように、小型2ウェイ機マトリク805Vをボトムとし、おもにクラシック系録音スタジオのリファレンスモニターシステムとして知られるマトリクス801S3を頂点に置く「マトリクス」シリーズが、B&Wを象徴するスピーカー・シリーズとして有名である。
 昨年、このシリーズが、これまでのスピーカーデザインの概念を超えた、音響的構造体そのものが、未来型のフォルムをもつ造形的作品になったとも受け取れる「ノーチラス」での成果とコンバインされ、「ノーチラス800」という新シリーズに置き換えられた。
 ノーチラス805は、従来のマトリクス805Vの後継モデルで、シリーズ中でもっとも小型なシステムである。
 ユニット構成が、16・5cmケブラーコーン型ウーファーと2・5cmハードドーム型トゥイーターの組合せというモデルは、B&Wには現在、CDM1SE、CDM2SE、DM601の3機種がある。さらにはウーファー口径を18cmにサイズアップしたDM602や、価格は大幅に異なるが同社25周年を記念したSS25も、同じカテゴリーに入れられるシステムである。
 以上のように、使用ユニットは同等もしくは近似してはいるが、価格的に、DM601のペア5万円からSS25のペア130万円まで、大きな格差がある製品造りは、ウーファー口径の大小やエンクロージュアの外形寸法/重量などの違いを基準として、性能・音質・価格などが決定される一般的なシリーズ展開とは完全に異なっている。外形寸法/重量/ユニット構成などの外観的要素は同等ではあるが、内容の違いによってグレード分けをするという、量的な差ではなく質的な差がグレードを決定する、いかにも趣味のオーディオにふさわしいラインナップと言えるだろう。
 マトリクス805Vは、キュービックなエンクロージュアの天板部分に独立したトゥイーターを取り付ける、SS25の設計であった。新しいノーチラス805は、新シリーズ共通の積層合板を馬蹄型に成形した、一般のエンクロージュアでは側板と裏板に相当する1ピースの材料の前に
バッフルを取り付け、上下を蓋でカバーする巨大なリア・ラウンド形状の低域エンクロージュアを採用する。さらに、高域ハウジングは、高域ユニットの背面を密閉構造とせず、逆テーパー状の開放管を介して空気中に導く「ノーテラス構造」とし、かつ、特殊な放射線処理で加工された、制振作用がありながら材料自体の固有の鳴きがない形状記憶性を備えたクッション材で、低域エンクロージュアとフローティングマウントしている。こうしたユニークなエンクロージュア構成が、従来のスピーカーシステムとは一線を画した本機の類稀な特徴であろう。
 低域ユニットには、センターポール上に、コーン各部から放射される音をコントロールして中高域〜高域の特性を改善するイコライザーが組み込まれている。これによるレスポンス特性の向上は、クロスオーバー特性のコントロールに余裕を生み、いちだんと好ましいクロスオーバー特性が得られる利点は大きな意義を持つ。
 機械的なフローティング構造と、バックプレッシャーを抜きながら巧みに減衰させる逆テーパー状パイプの相乗効果により、低域振動による変調がかかるために生じる高域の混濁感がなく、さらに、バックプレッシャーを除去し減衰させる構造は、伸びやかで反応が速く、固有音の少ないストレスフリーな高域が得られるようだ。メタルドーム的な硬質さが非常に少ないのは、この構造独自のメリットであろう。
 一方、独特なバック・ラウンド形状とでも言うべきエンクロージュア構造は、エンクロージュアのコーナー部分で生じる不要輻射が本質的に存在せず、エンクロージュア表面からの2次輻射が滑らかに均質にラジエーションをするために、ナチュラルな音場感と音像定位が得られるメリットがある。聴取位置に対するスピーカーシステムの水平面での角度を微調整すれば、かなり空間的な音場感再現性をコントロールできる、素晴らしい特徴を備えているのである。
 さらに、一般のキュービックなエンクロージュアと比較すれば、内部定在波のコントロールにも有利で、独自のマトリクス構造との相乗効果による音質向上は、予測を超えた成果があるように思われる。
 本機の音は、ノーチラス801をスタジオモニターとすれば、同系統のコンパクトモニター的性質があり、同802/803が持つコンシューマー的な音の姿・形とは完全に異なったキャラクターである。内容が充実し、完成度が高いだけに、簡単に使ってもそれらしくは鳴ってくれるが、本腰を入れて取り組まなければベストサウンドへの道は険しい。

ピエガ P2

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「TESTREPORT ’99 話題の新製品を聴く」より

 ピエガは、’84年にLDR型トゥイーターを開発したレオ・グレイヤーとカート・シュークによって’86年にスイスのチューリッヒで設立されたオーディオメーカーである。ピエガとは伊語でカーテンのひだという意味で、リボンの形状やアナログ波形をイメージしたもののようだ。LDR型トゥイーターは、超微振動/最高のインパルス特性/超広帯域/ナチュラルな減衰特性/高感度/低歪みなどを特徴としており、また、ウーファーユニットは、前記の特徴を持つLLDR型ユニットにふさわしい他社製品を選別しているという。
 新しく輸入発売されたモデルは、バスレフ型のP2/P3と密閉型のP5である。今回試聴したP2は、18cm口径の低域ユニットとLDR型トゥイーターを組み合せた2ウェイスピーカーシステム。専用スタンドは用意されておらず、試聴にはターゲットオーディオ社製R2スタンドを使用した。
 リボン型トゥイーターとコーン型ウーファーの組合せは、音色的、音質的に大変難しいものであるが、さすがにLDR型を独自に開発しただけに、P2は見事にコントロールされた広帯域型で、ディフィニションがすぐれ、爽やかに伸びきったすばらしいレスポンスを聴かせる。基盤になる低域は組み合せたR2スタンドが大変見事なバックアップを示し、ほどよくソリッドで小口径とは思えないスケール感と伸びと安定感がある低音で、聴いていて楽しい。ユニット間のつながりは違和感がなく、たくみにコントロールされていて音色的にも音質的にも見事なまとまりを聴かせる。聴きこめば、クロスオーバー周波数付近は少々薄めである。しかしこの薄さは絶妙で、システム設計におけるノウハウといえよう。
 音はダイミックによく鳴り、響きあい、スケール感も豊かで、大型システム的な余裕があるので楽しく、またこの透明感のある音は小気味よい。

モニタースピーカー論

菅野沖彦

JBLモニタースピーカー研究(ステレオサウンド別冊・1998年春発行)
「モニタースピーカー論」より

「モニタースピーカーとは何か?」というテーマは、オーディオの好きなアマチュアなら誰もが興味を持っている問題であろう。また、プロの録音の世界でも、専門家達によってつねに議論されているテーマでもある。私も長年の録音制作の仕事の経験と、半世紀以上の私的レコード音楽鑑賞生活を通じて、つねにこの問題にぶつかり、考え続けてきているが、録音再生の実体を知れば知るほど、一言で定義できない複雑な命題だと思わざるをえない。モニタースピーカーをテーマにして書いたことや、話をしたことは、過去にも数え切れないほど多くあったが、そのたびに明解な答えが得られない焦燥感を味わうのが常であった。モニタースピーカーの定義は、オーディオとは何か? の問題そのものに深く関わらざるを得ないものだからだと思っている。つまり、オーディオの代表と言ってよい、変換器コンポーネントであるスピーカーと、それが置かれる再生空間(ホール、スタジオ、モニタールーム、家庭のリスニングルームなど)の持つアコースティックの諸問題、さらには、各人の技術思想や音と音楽の感覚的嗜好の違いなどに密接に関係することを考えれば、その複雑さを理解していただけるのではないだろうか。いまや、モニタースピーカーを、単純に変換器としての物理特性の定量的な条件だけで定義することはできないという認識の時代になったと思う。
 モニタースピーカーには目的用途によって望ましい条件が異なる。本来は、再生の代表であるから、そのプログラムが聴かれる再生スピーカーに近いものであることが望ましい。しかし現在では、5cm口径の全帯域型からオールホーンの大型4ウェイ、5ウェイシステムなどといった多くのスピーカーシステムがあるわけだから、このどれを特定するかが問題である。AMラジオやカーオーディオからラジカセ、ミニコン、本格オーディオまでのすべてをひとまとめにするというのも無茶な話ではある。つまり、特定することは不可能であり、現実はかなりの大型モニターをメイン・モニタースピーカーとし、それと小型のニア・フィールド・モニターを併用し、この2機種に代表させているのが一般的であるのはご存じの通りである。また、各種の編集用やマスタリングなどのそれぞれに、最適のモニターのあり方は複雑である。厳密に言えば制作者のためのコントロールルーム・モニタースピーカーと、演奏者のためのプレイバック・モニターでも異なる必要がある場合もある。通常はスタジオ・ホールドバックはメインモニターと共通のものが多いようだ。演奏者のためのキューイング用ヘッドフォンやスピーカーも一種のモニターとして重要であるがこうなると切りがない。これは録音のための詳しい記事ではないのでこうした具体的な詳細については省略するが、とにかく、モニタースピーカーシステムの概念は単純に考えられるものではないことだけは強調しておきたい。
 モニタースピーカーだからといって、基本的には、観賞用スピーカーシステムと変るところがあるわけではないが、鍛えられたプロの耳にかなうべく、音響的にその時代の水準で最高度の性能を持つものであることが望まれると同時に、なによりも少々のことでは壊れないタフネスと制作者が音楽的判断がしやすく、長時間聴いても疲れない、好ましいバランスと質感のサウンドを兼ね備えるものであることが望ましい。周波数的にワイドレンジであり、リニアリティに優れ、歪みが少なく、全帯域にわたる位相特性が重視されるなどといった基本的な物理特性は、モニタースピーカーだけに特に要求される条件ではないわけだから、そんなことを、あらためて条件として述べる必要はないだろう。指向特性や放射波パターンは現在のところでは特定されていない。当然のことだが、理屈を言えば、肝心のモニターする部屋の問題はさらに重要である。かといって、特に音響設計をした部屋であらゆる音楽制作の仕事ができるわけでもないし、だいいち、モニタールームの理想的音響特性というものにも見解は不統一である。当然これに関しても、世界各国の多くの機関が推奨特性を提案してはいるが、世界中の録音スタジオのコントロールルームを同じ特性に統一できるはずはないし、コンサートホールの録音に部屋を担いでいくわけにはいかない。案外、放送局が使っている中継車が使いなれていれば、正解かもしれない。
 私個人のモニタースピーカーとしての条件をあえて言えば、「当人が好きで、聴きなれたスピーカーシステム」としか言えない。しかし、そう言っては元も子もなく、「多くの人間が共通して使える普遍性」というスピーカーシステムの本質にとってもっとも困難な問題こそがモニタースピーカーの条件なのである。
 過去には、ラジオ放送局や電気音響機器に関する各種の技術基準を定める関連団体が、サウンドのリファレンスとしてのモニタースピーカー規格を作成し、少なくとも単一団体やネットワークの中での共通項として定め、仕事の質的向上と組織化や円滑化に役立てられてきたのがモニタースピーカーと言われるものであった。そして、その機関は専門家の集団であり、放送局のように公共性を持つものだったことから、そこが定める規格は、それなりの権威とされたのはご存じの通りである。その代表的なものが海外にあってはRCAやBBCのモニタースピーカー規格であり、内にあってはNHKのBTSモニタースピーカー規格などである。この規格に準じた製品はメーカーが共同開発、あるいは設計、仕様書に基づいて製品を受注生産することになる。さらに一般マーケットでの販売に拡大し、一定の生産量を確保してコストの低下を図ることになる。そうなれば、そのような、ある種の権威ある機関が定めた規格を売り物にするという商業的傾向も生まれて当然であろう。その制定機関の承認を得て名称を使い、一般コンシューマー市場で、モニタースピーカーとししてのお墨付を優れた音の信頼の証しとするようになったのである。かくしてオーディオファイルの間でも、プロのモニターという存在が盲目的信仰の対象に近い存在になっていったと思われる。当時の技術水準とオーディオマインドのステージにあっては、こうしたお墨付が大きな意味があったのは、やむを得ないであろう。オーディオの文化水準もいまのようではなかったし、つねに自分の再生音に不安を持つのがアマチュア共通の心理である。プロのモニターというお墨付は、何よりの安心と保証である。
 この状況は、いまもオーディオファイル
に根強く残っているようではあるが、大きく変りつつある面もあり、実際に、そうしたお墨付の製品は少なくなっているようだ。それは、時代とともに(特に1960年代以後)、レコード産業や文化が発展し、オーディオ産業がより大きく多彩な世界に成長したことが要因と思われる。電気音響技術と教育の普及と向上も、放送局のような特定の公的機関や団体に集中していた技術や人材を分散させ、オーディオは広範囲に拡大化した。モニタースピーカーにも多様な用途が生まれてきたし、変換器としてプロ機器とコンシューマー機器をかならずしも共通に扱えないという認識も生まれてきた。また、技術レベルの格差も縮まり、物によっては逆転と言える傾向さえ見られるようになったのが現状である。一般にオーディオと呼ばれるレコード音楽の録音再生分野に限ってもモニタースピーカーの設計製作をする側も、仕事や趣味でそれを使う側でも、音への認識が高まり、スピーカーや室内音響の実体と本質への理解が深くなったことで、スピーカーを一元論的に定義する単純な考えは通用しない時代になったと思われる。
 このように、モニタースピーカーは、より多元的に論じられる時代になったと言えるだろうし、現に録音現場で採用されているプロのモニタースピーカーも、むかしとは比較にならないほど多種多彩で種類が多い。同じ企業の中で数種類のモニターが使われている例も珍しくはなく、同じ放送局内でさえ、ブランドはもちろんのこと、まったく異なる設計思想や構造によるスピーカーが、メインモニターとしてスタジオ別に設置されている例が見られるようになった。局が違いレコード会社が違えば、もはや、ある基準値による音の客観的標準化(本来有り得ないものだが)や、規格統一による互換性などは、ほとんど希薄になっていると言わざるを得ないであろう。多様化、個性化といった時代を反映しているのだろうが、これもまた、少々行き過ぎのように思われる面もある。
 私は、1971年のアメリカのJBL社のモニタースピーカー市場への参入を、このような、言わば「モニタースピーカー・ルネッサンス」と呼んでよいエポック・メイキングな動きの一つとして捉えている。
 そしてその後、中高域にホーンドライバーを持つ4ウェイという大がかりなシステムでありながら、JBL4343というスピーカーシステムが、プロのモニタースピーカーとしてではなく、日本のコンシューマー市場で空前のベストセラーとなった現象は、わが国の20世紀後半のオーディオ文化を分析する、歴史的、文化的、そして商業的に重要な材料だと思っている。ここでは本論から外れるから詳しくは触れないが、この問題を多面的に正確に把握することは、現在から近未来にかけてのオーディオ界の分析と展望に大いに役立つはずである。
 いまの若い方達はたぶん意外に感じられると思うのだが、JBLはもともとプロ用モニタースピーカーの専門メーカーではなかった。プロ機器(劇場用とモニター)の専門メーカーであったアルテック・ランシング社を離れ、1946年創立されたJBL社は、高級な家具調のエンクロージュアに入ったワイドレンジ・スピーカーシステムに多くの傑作を生み出している。ハーツフィールド、パラゴン、オリンパス、ランサーなどのシリーズがそれらである。これは、マーケットでのアルテック社の製品群との重複を避けたためもあるらしい。(実際、JBLの創設者J・B・ランシング氏は、アルテックの副社長兼技術部長時代に、アルテックのほとんどの主要製品、288、515、604、A4などを設計開発していた!)
 JBLがモニタースピーカーと銘打って登場させた最初のスピーカーシステムは、一般には1971年の4320だとみなされている。実際には、1962年にC50SM(スタジオ・モニター)というモデルが発表されているが、広く使われたものではなかったようであり、また4310というシステムが4320とほぼ同時に発売されているが、このモデルは、30cmウーファーをベースにした、オール・コーン型のダイレクトラジエーターによる3ウェイシステムだから、その後同社モニタースピーカーとして大発展をとげるシリーズがすべて、高城にホーンドライバーを持つシステムであることからすれば、4320を持ってその開祖とするのも間違いではない。4320は2215型38cmウーファーをベースに、2420+2307/2308のドライバー+ホーン/音響レンズで構成される2ウェイシステムである。
 1972年にはヴァリエーション機の4325も登場するが、同時にこの年、38cmウーファー2230A2基をベースとした4ウェイ5ユニット構成の大型スタジオモニターシステム、4350が発表となるのである。これは従来、モニタースピーカーはシングルコーン型か同軸型、せいぜいが2ウェイシステムと言われていた定説に真っ向から挑むものとしてエポック・メイキングな製品と言えるもので、その後の、世界中のスタジオモニターのあり方に大きな影響を与えたものであったと同時に、一足先に3ウェイ以上のマルチウェイ・システムに踏み込んでいたオーディオファイルの世界に、喜ばしい衝撃となったことは重大な意味を持っていると、私は考える。マルチウェイでもプロのモニターができたのか! という我が意を得たりと感じたファンも多かったと思う。かつての放送局規格のモニタースピーカーとはまったくの別物であった。私の知る限りでは、これらJBLのプロ・モニターは自称であり、どこかの機関の定めた規格に準拠するものではないと思う。
 アメリカでは歴史上の必然からウェスタン・エレクトリックとアルテック・ランシングがプロ用スピーカーシステムの標準のようなポジションを占めてきた。特にスタジオモニターとして、当時、独占的な地位とシェアを誇っていたのが、38cm同軸型ユニットの604Eを銀箱という愛称のエンクロージュアに納めたアルテックの612Aであったが、このJBLのプロ市場参入をきっかけとして、落日のように消えていったのである。既成概念の崩壊は雪崩のごとくプロ市場を襲い、その頃から多くのカスタムメイドのモニタースピーカーメーカーも登場したのである。ウーレイ、ウェストレイクなどがなかでも有名になったメーカーだ。
 さて、そうしたモニター・ルネッサンスを生み出したJBLの製品は、4320、4325、4331、4333、4341と続き、’76年に発表され大ヒットとなった4343、4343WXで、最初の絶頂期を迎えることになるわけだ。4343は、
2231Aウーファー、2121ミッドバス、2420+2307/2308ミッドハイ、2405トゥイーターという4ウェイ4ユニットが、4面仕上げの大型ブックシェルフ(?)タイプのエンクロージュアに納められた、以後お馴染みになる4ウェイシステムの原器である。その後、改良型の4343Bとなり、1982年には4344、さらにダブルウーファーモデルとして1983年には4355と発展したのである。
 しかし、その発展は、モニター・ルネッサンスというプロ業界での尖兵としての健闘もさることながら、JBLを商業的に支えたのは、むしろ、これが援兵となったコンシューマー・マーケットでの尖兵達の敢闘であった。特に日本のオーディオファイルはこれをハイファイのスタンダードという認識を待ったようである。ペアで100万円以上もするシステムが売れに売れたという1970年〜1980年のわが国のオーディオ界であった。4344は、1996年に4344MkIIが発売された時点でも残っているという人気ぶりで、ロングライフの名機となったのである。
 プロとコンシューマーの別はこうして取り除かれた。そしてたしかに、JBLによって’70年代から’80年代にかけて日本のオーディオ文化は円熟の時を迎えた。その結果、爛熟がカオスを招いたことも事実である。したがって、モニタースピーカーとは何か? という進路をも不透明にしてしまったように思える。その後JBLはバイラジアル・ホーンを持つモニターを発表し、さらにはプロジェクト・シリーズで気を吐くが、自らの進路を定めていない。むしろ、個々に鑑賞用として優れた魅力的なシステム群である。
 モニタースピーカーは録音再生の、いわば「音の羅針盤」だ。JBLが創り出したといってよい世界の現代モニタースピーカーのカオスから、なんらかの方向が定まることを期待したい。まさに群雄闊歩の時代なのである。

タンノイ Kingdom

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 タンノイ初の4ウェイ。中〜低域の振幅を抑えた波型エッジによる30cmデュアルコンセントリック+46cmウーファーという構成に注目。100Hzでクロスする最低域を肥大させないで駆動するのが、本機を活かす秘訣。結論的にうまく鳴らせるパワーアンプはかなり限定されると思う。タンノイらしい音の品格は健在。身震いするような凄い音が聴ける。

タンノイ Edinburgh/TWW

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 プレスティッジ・シリーズの中堅機で12インチ・デュアルコンセントリックによるシステム。バランスはスターリングと双璧で15インチより好ましいとさえ言える。改良を重ねるたびに、ユニットをはじめ細部がリファインされ、TWWでは重厚なタンノイ・サウンドを基本にしなやかで滑らかな高域が見事な質感を再現する。

B&W Matrix 801S3

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 今やクラシック録音界でのモニター・システムのスタンダードと言える存在になったB&Wの代表作。モニターとしてはアキュラシーが厳格とは言い難く、むしろ耳馴染みの良い音。高域は美化する傾向があるがバランスは最高にいい。したがって観賞用に薦めても間違いのないシステムだ。S3でより滑らかになった。

ウエストレイク・オーディオ Tower-12

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 ウェストレイク・オーディオは、創業当初から大型スタジオモニタースピーカーに焦点をおいた開発によって、高い評価が与えられていた。現在のように、ドーム型ユニットを採用したスタジオモニターが世界的に多用される時代になっても、ことホーン型コンプレッション・ドライバーを中域以上に採用したスタジオモニターでは、依然として世界の王座は揺るがない。
 国内では、比較的スピーカーに近い聴取場所で検聴をすることを目的としたニア・フィールドモニターのBBSシリーズが輸入され、そのトップモデルのBBSM15は、比較的小型なエンクロージュアながら、38cm低域ユニットを2個並列使用(BBSMとはバス・アンド・バス・スタジオモニターの略)、中域に25cmコーン型、高域に同社独自のフレアーをもつトム・ヒドレー・ホーン採用、という充実した構成により、38cmダブルウーファーならではの圧倒的なエネルギー感を小音量時にも聴かせてくれる。
 このBBSMシリーズを横置型のローボーイ型から縦置型のトールボーイ型とし、コンシュマーユースにチューニングが見直されたシリーズが、BBSM−VNFシリーズである。
 しかし、今回初めて輸入されたタワーシリーズは、同社として初めて構想段階からコンシュマーユースに的を絞って開発が行なわれたことが、従来の同社製品とは根本的に異なる点だ。
 現在のタワーシリーズは、今回輸入されたタワー12と、SM1タワーの2モデルである。SM1タワーは超高価格であり、2mを超す高さと超重量級なウェイトなどから輸入されるかどうかは未定だ。
 タワー12は、30cmウーファーを2個並列に使い、その中央に、トム・ヒドレー・ホーン付コンプレッション・ドライバーを配置した、いわゆる仮想同軸2ウェイ型であることが、同社の製品として珍しい設計と思われる。
 当初は詳細が不明なため、従来の同社製品の流れから考えてすべてJBL製ユニットと思われていた。ところが、低域のサウンドキャラクターとコーン紙の質感、エッジ材料、形状、幅などが見慣れないタイプであったため、ユニットのチェックをしてもらったところ、仏オーダックス製HD30P45TSM/Cなるユニットであることが判明し、音も充分に納得できる結果であった。なお、高域コンプレッション・ドライバーは、JBL2426J、2インチ・ダイアフラムで1インチ・スロート径のユニットだ。
 内蔵ネットワークは−12dB/oct.型、入力端子はバイワイヤー対応だがネットワーク出力側に±4個の端子が設けられ、これをジャンパーでショートした状態が標準。外してユニット側端子を使えばエレクトロニック・クロスオーバー対応となるが、本機専用にMRXが別売で用意されている。
 興味深いことは、高・低両ユニットともにバイアンプ対応時にもイコライザー(インピーダンス補正素子?)が、内蔵ネットワーク低域出力には遅延回路が組み込んであることだ。本機の特徴として、インピーダンス変動を抑えた設計と同社が言う由縁である。
 エンクロージュアはMDF材を使っている。その内面、ユニット・フレーム、磁気回路、ネットワークなどは、独自の粘弾性材料による入念な最適ダンピング処理が行なわれているのは、同社のチューニング技術の一部の現われである。
 資料には触れられていないが、円錐型ブロックの中央にバスレフダクトを設けた設計は、木管楽器の開口部の形状により音の浸透性が変化する例に似ており、開口部の乱流を制御して全帯域のチューニングを行なう手段のようだ。
 ナチュラルな周波数レンジと、見事な一体感をもって繋がったフルレンジ型ユニット的なまとまりは、さすがに世界のトップレベルをいく同社技術の成果だ。音のグラデーションを深々と聴かせ、色彩豊かな音は今年の新製品中の最高だ。

JBL 4344MkII

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 4344の最新モデルだが、内容には見た目以上の新しい技術によるリファインが感じられる。ユニット、ネットワークからターミナル、線材などなど、あらゆる箇所が見直されている。しかし全体の形状、4ウェイ4ユニットの基本は変らず、さすがに原器の持つ良さを残し、より洗練した音に仕上がっている。

タンノイ Stirling/TWW

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 イギリスの名門タンノイのプレスティッジ・シリーズ中で最も小型なモデル。とはいっても一般的には中型のフロアータイプである。10インチ口径デュアルコンセントリック・ユニットを質の高いクラシックな格調あるエンクロージュアに納めた傑作だ。シリーズ中最もバランスのよいシステムといっていいだろう。

ダイヤトーン DS-205

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 ダイヤトーンの今年の新製品であるが、本家帰りというイメージの佳作である。往年のモニターシステムのよさを再認識したのだろう。ラウンド・コーナーのエンクロージュアにも、ユニット設計、システム構成思想にも明らかにそれが現われている。しかし技術はまったく新しい。温故知新の優れた製品である。

AR AR-303A

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 一時代を画したアメリカARの代表機種のリヴァイヴァルモデルで、アコースティック・サスペンション方式やユニークなソフトドームスコーカーなどの特徴が忠実に生かされている。このスピーカーならではの音は貴重であり、ノスタルジーを超えて今、存在価値が認められてよいと思う。重厚、豪快で温かい音だ。

プラチナム Solo

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 その名の通りプラチナのような存在を感じさせるスピーカーシステム。つまり、抽象的な言い方だが、シックな貴金属のイメージを象徴するような魅力をもつ製品である。小型ながら高密度な内容と高い価値感を感じさせるものだ。かっちりと締まった音の精緻さは見事なものである。しかも生硬さがなく、ヴィヴィッドである。

ケンウッド LSF-777

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 ケンウッドの新しいLSFシリーズの上級機。下に555、333が存在する。UDと称するユニット・レイアウトを採用して、点音源の理想を追求したという、要するに、リスナーの耳に到達する時間を全帯域にわたって揃える思想であって、そう目新しいものではない。しかし効果はその自然な音触に現われている。

BOSE 363

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 好評の全帯域小型システム121は優秀なボーズの鋳型ユニット技術の結晶といえる製品だが、これは、さらにユニークなfレンジ・エクスパンダーを追加して高・低域の帯域拡張を実現したシステムだ。同社のヒット製品「ウェストボロー」の展開であるが、単体としても評価出来る傑作である。

BOSE 505WB

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 アクースティマス・ベースボックスが3チェンバーになって、低音はスムーズに山谷がなくなりグレードが上がった。ステレオ・エブリウェア理論によるサテライトシステムと3ピースからなるボーズ特有のオリジナリティのある製品。豊かな音場はユーザーのセンスでさらに効果が上がる。このクラスでは圧倒的な量感だ。