Category Archives: カートリッジ - Page 34

エンパイア 888VE

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 高域にピーク性の音がほとんど感じられない丸い音質で、中域に独特の厚みと粘りがあって、幾分重くこもるが、力強い線の太い音をもっている。音のたちそのものは悪い方ではなく、特にピアノでは腰のすわった力強いタッチが聴かれ、したがってジャズも、音像がやや大柄になるが迫力がある。しかしツァラトゥストラやヴェルディでは、中高域で、やや圧迫感があり、フォルティシモでは少々飽和的になって、切れ込みや分離に不満が感じられる。スクラッチノイズの性質は、割合低いところにもスペクトラムを持つような重い音質で、楽音にまつわる傾向がある。おもしろ味とかニュアンスにはやや欠けるが、ロスアンヘレスの声などはふくらみを持って温かく聴けた。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:80

ビクター IM-2E/MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 レコードのスクラッチが軽く浮き上がり、楽音とノイズがよく分離して、おそらく振動系の軽いカートリッジであることを思わせる。総じて柔らかく軽いクールな音質であるが、試聴メモでは──中低域が不足気味で音の厚みに欠ける。音源が遠ざかる。腰が弱い。充実しない。──といった形容が八枚のレコードに共通していて、音のバランス上、とくに中音域(それもかなり広範囲の)全般に力の欠けた、線の弱い音質である。ハイ・エンド(高域端)にかけて上がり気味の特性が、このけいこうを さらに強調している。オーケストラのフォルティシモでは、音が充分に伸びきらない印象もある。ダンパーが非常に柔らかいらしく、外周で反りの大きなレコードでは、ボディーが盤面をこすり気味であった。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆★
ムード:☆☆★
打楽器:☆☆★
総合評価55:
コストパフォーマンス:55

グレース F-8C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 美しく良く抜けた明るい音質。高域に軽い盛り上がりを感じるほかはフラットな印象で、すべてのレコードを安定にトレースする。ヴェルディのレクィエムでは中高域のややうるさいところが難点であること、ピアノが多少安手になること、ジャズではハイが上がっている感じなのに楽器の近接感がそれほど出ないことなどから、中低域の厚みがもう少し欲しく思われるが、総体に明るく、きめ細かで、適度のツヤを持った音質が好ましく、オケのフォルティシモでもよく伸びて歪みっぽさのないところも良い。スクラッチノイズの性質は軽くシャリつく感じで、僅かながら耳につきやすいが、楽音とはよく分離する。こまかな難点はあっても、それをカヴァーする良い所を持った製品のように思われる。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

デンオン DL-103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 総体的に上の部に入るカートリッジであろう。物理特性も良さそうだし、聴感上もなかなか好ましい。オーケストラでは音が柔らかくキメ細かで、バランス良く、フォルティシモでの音の伸びも充分だし、歪みも少ない。立体感の再現も良く、楽器の距離感や奥行きの描写に優れている。ピアノもバランス良く、腰のすわった見事な音。弦合奏はやや強さに欠けるが圧迫感がなくハーモニーが美しい。ロスアンヘレスの声もまるくつやっぽいが、声と伴奏との距離感がやや不足。ヴェルディはオケと声部が安定してよく拡がって、やや細いが分離良く澄んだ音で、特に男声が美しい。ジャズも臨場感を伴なって音像が良く浮き上がる。スクラッチノイズは僅かに耳につくが、総じて優れた製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:90
コストパフォーマンス:95

フィデリティ・リサーチ FR-1MK2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 スクラッチノイズがよくおさえられ、聴感上の歪みも少ないし、音のバランスも良い。適度の奥行きもあるし、やわらかく、温かいきれいな音で、特にピアノの高域など、いわゆる粒の立ったというのか、タッチの明瞭な独特の美しさも感じられる。強いてあげるべき欠点も無いし、おそらく計測上の特性も相当に良いという製品なのだろうか、どういうものか聴き終わった後の印象が稀薄で、個人的には食指の動きにくい音であった。たとえば、ここにもう少しシャープな切れ味を求めたい。生き生きとした躍動感が欲しい。特にピアノやジャズでは、低域の締まりがやや不足しているし、中音域がもっと充実していて欲しい。フォルティシモでやや音が伸びきらない点も気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

ナガオカ NR-I

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 かなり美しい音質をもっているのだが、どこか柳腰美人のような腺病質的な音のカートリッジだ。音の左右の拡がりは充分よく出るが奥行きが不足して、従ってやや平面的な印象を免れない。オーケストラの強奏では中低域の充実感に欠け、腰が弱いシリつき気味の音で、ハイ・エンドの上がっているような音質である。ピアノではタッチの弱さや音像の輪郭の甘いところが先に立ちすぎて、ハープシコードのような音になってしまう。弦合奏はそういう癖が逆に美しさにもなるが、ユニゾンの厚みには欠ける。ロスアンヘレスの声は割合美しく、伴奏とのコントラストもよく出る。ジャズやムードでは意外に立体感がよく出て、ややハイ上がりながらおもしろく聴ける。かなり癖の強い製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

オルトフォン SL15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 スクラッチノイズが多少強調されるし、ノイズの性質からすると必ずしも優等生的なカートリッジではなさそうだが、この音質にははなかなか魅力的なところがある。オーケストラでは、やや中域の薄い細身の音質だが、歪みが少なくよく切れ込むしフォルティシモでもよく伸びたみずみずしい音が聴ける。ピアノは丸い粒がよく揃った感じで、一音一音がキュッと引き締ったシャープな音像である。弦合奏もやや厚みを欠くがユニゾンのハーモニーが美しく、楽器の数が増える感じである。独唱、合唱は、声がわずかにやせぎみだが、ツヤっぽく魅力的だ。やや小造りだが、シャープでいて温かく、音が生き生きと奥行きを持って立体的に聴こえる。細身だが彫りの深い現代風美人といったところか。

オーケストラ:☆☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:95
コストパフォーマンス:100

グレース F-8M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音が幾分平面的で混濁気味になりやすい。ピーク性の音は殆んど聴かれないが、中高域の引っ込みがちの音質で、従ってオーケストラでは奥行きと厚みをやや欠いて、楽器の距離感が充分に再現されず、フォルティシモでは音が充分に伸びきらない。ピアノは、中域全般に力のないソフトタッチで、音がくしゃんとつぶれ気味。弦合奏も中高域の引っ込んだ、こもった感じでつやが余りなく躍動感に乏しい。ロスアンヘレスの声は割合良いが、やや固く金属質に響く。ヴェルディの強奏部では歪みは少なく分離も良いが、音がやや薄く平板だ。ジャズはシンバルが安っぽくなり、ギターはふくらみがなく小型になる。音の素性は悪くないが、製品としてのコントロールに難があるのではないか。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

テクニクス EPC-210C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 全部のレコードを、きわめて安定にトレースして、全く危なげのない音を聴かせてくれた。おそらく、物理特性のいいカートリッジに違いない。中音域は充実して適度の厚みがあり、温かく柔らかく、刺激も少ない。しかし、音色そのものは明るい方ではなく、やや暗く、重いところがあり、オーケストラや合唱曲では音のバランスが実に見事ではあるが、音離れが良くないというか、スピーカーの中に音がくっついてこちらまで飛んでこないというような、ややもったりしたところがある。ピアノや弦合奏でも、高域の切れ込みにもどかしさを感じるし、打楽器の衝撃音やオケのフォルティシモで十二分に伸びきらないようだ。スクラッチノイズはきわめて少なく、ほとんど耳につかない。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

サテン M-11E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 トーン・コントロールでハイ・ブーストしたような、特異なバランスの音質である。このために、すべてのレコードが、他のカートリッジと比べてまるで音質が変わってしまい、ロスアンヘレスの声などは、ことさらにハスキーになる。しかしこういう華やかで鮮明な音は、他にないだけにうまく使いこなせば貴重なのかもしれない。たとえばオーケストラでは、非常に分離の良いような、ある種のきめ細かさが出るし、ムード音楽は部屋いっぱいに音が浮き上る印象になる。ピアノの打鍵も、鈍く重くまつわりつくものがなくてスカッと抜けて、軽くよく切れ込むタッチである。要するに非常に特徴があるのだが、ここまでバランスをくずしてしまうと、何となく薄っぺらで安手な印象が先に立ってしまう。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:65

デンオン DL-107

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 ハイ・エンドのしゃくれ上がりは感じられないが、中高域がやや張り出し気味で、スクラッチノイズがわずかながら耳につく。こういう特性のためか総体にやや派手な、明るい印象を受ける。オーケストラは多少勇ましいという感じがあり、ピアノはきらびやかでタッチが軽く、打鍵もしっかりして切れ込みが良い。しかし弦合奏のユニゾンがややうるさく、合唱では特に中高域の張りが目立ちすぎ、内声部の温かみも欠け、ロスアンヘレスの声は、何となくハスキーがかる……というように、音のバランス上難点があった。音の性質(タチ)そのものはそう悪い方ではないのだから、おそらくもっと良くできるカートリッジのはずだ。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:75
コストパフォーマンス:80

フィデリティ・リサーチ FR-5E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 聴感上では中高域がややひっこみ気味で、ハイ・エンドのしゃくれ上がった特長のある音をもっているが、総じて美しいつやっぽい音質に魅力が感じられる。合唱の項目の点数だけがよくないのは、大編成のオケと混声合唱というように音の厚みを要求される曲であるのは、前記の特性の傾向ゆえか、多少ドンシャリ的な、中音域の薄っぺらな音になってしまったからで、この辺がこのカートリッジの弱点らしい。従って、時間をかけていろいろなレコードでテストすれば、あるいはもっと点数が下がるかもしれないが、今回のテストに限っていえば、歪みの少ない柔らかく美しい音、切れ込みの良いよく抜けた分離の良さ、独特のツヤっぽさ等、一応上位にランクされてよい製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

東京サウンド STC-4E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音のバランスは仲々良く、欠点の少ない整った音質だが、音色に明るさをやや欠いて、どことなく湿り加減になる。オーケストラでは低域に適度の厚みもあり高域のキメも細かく、音の分離もいいし奥行も深みもあるのだが、何となく音がスピーカーから離れてこないような感じである。ピアノの音もバランスよく、弦合奏もよく溶け合ったハーモニーを聴かせるし、中高域もやわらかく美しい。ロスアンヘレスの声と伴奏のコントラストもよく再現される。要するに素性の良い音なのだが、行儀がよすぎるというか、躍動感とかつややかさをもっと望みたいような暗調の音質がもどかしくて、総じてフォルティシモで音がややつまるようにのびきらないところが残念に思われる。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:85

ADC ADC550E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 音のクォリティから想像すると、割合ロー・コストの製品だろうと考えられる。高音域のレンジはそう広いと思われず、中~低域の音質が重く粘るが、特に中音域に音のバランスが集中している感じで、腰の強い音がする。高域は丸く甘いのだが、レコードによっては何となくドンシャリ調になるのは、おそらく振動系のナチュラル(高域共振点)が可聴周波の割合低い方に出ているのを、無理やり押えたといった特性なのではないか。フォルティシモでは音が混濁してやや硬くなり、ピアノも声も、品に欠けるところがある。バリバリと力強い独特のねばりが特長で、周波数レンジを欲ばらないで、バランスよく、うまくまとめたという感じの音質であった。

オーケストラ:☆☆☆
ピアノ:☆☆☆
弦楽器:☆☆★
声楽:☆☆★
コーラス:☆☆★
ジャズ:☆☆☆
ムード:☆☆☆
打楽器:☆☆☆
総合評価:60
コストパフォーマンス:70

グレース F-8L

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 目立った特徴も欠点も無く、ごく穏健な製品のようだ。総体に丸く甘いが聴き易い音である。ハイ・エンド(高域端)はやや上昇ぎみにもおもわれるが、ピーク性のものではなく、これが音に適度のツヤを持たせているようである。オーケストラのフォルティシモや打楽器の衝撃的な音でやや腰が弱くなるが、トレーシングも割合安定しているし、反ったレコードでも不安がない。スクラッチ・ノイズも少なく、雑音の性質は軽く、耳ざわりでない。「ツァラトゥストラ」のフォルティシモや「レクィエム」の大合唱で、音の分離が幾分物足りないこと、柔らかく聴き易いがやや薄手で、音の奥行きに不足を感じることや、強奏の部分で僅かだが音にあらさが残る点が気になった。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆
打楽器:☆☆☆★
総合評価:80
コストパフォーマンス:85

オーディオテクニカ AT-35X

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 中高域が多少張り出す感じだが、耳ざわりなピークもなく、圧迫感のない滑らかな音を聴かせる。中低域は幾らかふくみ声のような丸い感じでおとなしいが、総体に明るい新野しっかりした音質で、音像が甘くならない。特に弦合奏はつややかでハーモニーが美しい。ピアノの音色も独特で、コロコロとタッチが明瞭。ロスアンヘレスの声はやや中抜けのような気がするが、ヴェルディの大合唱で男声がしっかりきれいにハモるのは、音のバランスに難点が少ないためだろう。ジャズはややおとなしく迫力に欠けるが、近接感を伴って楽しく聴ける。立夏如何がよく出るが大編成のフォルティシモでは、音が僅かに荒くなる傾向がなくてもない。しかしトレースは割合安定している。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆★
総合評価:90
コストパフォーマンス:100

スペックス SD-801 EXCEL

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 これは非常に特徴ある音だ。低域の独特の厚みというか、ふてぶてしいと言いたい程の量感は一度聴いたら忘れ難い。特にジャズやムード(今回試聴に使ったディスク)の場合には、ホットなプレイを楽しむ雰囲気をかもし出す。しかしこの低域はやや重く粘って、しかも不思議なエコーがつく感じで、ピアノやベースの音離れがよくない。中域の充実感は充分だが、弦やピアノではときとしてややキャンつく傾向がある。中高音域からハイ・エンドにかけては、ダラ下りになったようなレンジの狭い感じの音質で切れ込みが物足りない。かなり低い周波数にスペクトラムを持つ重いスクラッチ・ノイズが、楽音にまつわりつくように耳障りな傾向があった。

オーケストラ:☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆
コーラス:☆☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:80
コストパフォーマンス:90

パイオニア PC-20

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 低域から中域にかけての音域がやや弱く、高域端が上がっているようなバランスで、腰が弱いがあたりはやわらかく、耳あたりのよい音質である。繊細感も適度にあってひずみも少なく美しい。ピアノのタッチはやわらかすぎるきらいがあるが、こまかい音もよく出る。ただ、中音域の力が弱いせいか音が平面的で、ややこもり気味のところがある。弦合奏はよく溶け合うが、躍動感に欠けてきれいごとの感じ。ロスアンヘレスは多少ふくらみ声で、おもしろ味に欠けるが、耳あたりがやわらかい。ヴェルディでは、さすがに内声部の厚みに掛けて、特に男声の美しさが感じられない。総じて柔らかすぎる印象だが、バッググラウンド的に聴き流すには好適の音のように思う。

オーケストラ:☆☆☆☆
ピアノ:☆☆☆★
弦楽器:☆☆☆☆
声楽:☆☆☆★
コーラス:☆☆☆★
ジャズ:☆☆☆★
ムード:☆☆☆★
打楽器:☆☆☆★
総合評価:70
コストパフォーマンス:80

オーディオテクニカ AT-VM3

菅野沖彦

スイングジャーナル 9月号(1969年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジは手軽に差変えて使えるので、ちょっとオーディオにこった人なら2〜3個はもっているものだろう。というよりは、お金が貯って、良いカートリッジが発売されたと聞くと、つい買ってきて使ってみたくなるのが人情。事実、カートリッジを変えると良悪は別にしても音が変るからついつい、これで駄目ならあっちでは……ということになるものだ。もっとも、カートリッジというものは、それを取付けるトーンアームと一体で設計されるべきもので、うるさくいえば、先ッチョだけを変えるというのは問題がないわけではない。だから、同じアームにAとBのカートリッジをつけ変えて、Aがよかったからといって一概にAのほうが優れたカートリッジだと断定できない場合もあるのである。アームを変えたらBのほう力くよくな
る可能性もあるのだ。そこで、カートリッジを差変えて使うことのできるトーンアーム、いわゆるユニバーサル・アームは勢い高級な万能型でなければ回るわけであるが、今回のテストには英国製のSME3009を使用した。国産にも優れたアームが多数あるが、このSMEのアームは精度の高い加工とスムースな動作、ユニバーサル型としての妥当な設計、そして外国製ということで国産アームよりも客観性があると考えられるためか、研究所の測定などにも、現在ではこのアームを使うことが常識となっている。
 アームの条件について前書きが長くなってしまったが、この試聴記はSJの試聴室で実際にじっくリテストした結果なのでその条件について書いておくことも必要だと考えた。アンプやスピーカーは別掲の通り。使用レコードは新譜として各社から発売されたものの中から録音のよいものを数枚選び、さらに私自身の録音したものを何枚か聴いた。これは私にとってもっとも耳馴れたプログラム・ソースなので、その出来不出来はともかくテスターとしての私の耳には最高のプログラム・ソースだからである。
 さて肝心のオーディオ・テクニカの新製品AT−VM3だが、この製品は同社がすでに発売しているAT3というロング・ベスト・セラーに変るものとして登場させたもの。そして構造的には同社の開発したVM式という独特なムービング・マグネット型である。これは、AT35という同社の高級カートリッジで初めて実現した方式で、AT35そのものはかなり長期にわたって改良が重ねられたものだ。音の本質的なよさを認められながら帯域バランスの点でいろいろ問題があったものをコントロールして現時点ではバランスのよいカートリッジに成長した。このAT35を普及タイプとして設計しなおしたのが、このAT−VM3と考えられ、価格的にも求めやすいものになった。VM型の特長は、左右チャンネルに独立した発電機構をもつことと、振動系がワイヤーで支持され支点が明確になっていることだが、この2点は従来のMM型が指摘された問題点を独創的に改良したものである。そのためと断言してよいかどうかはわからないが、音の根本的な体質とてもいうものがVM型共通のクォリティを得ていることがわかる。つまり、きわめて明解な締った音質がその特長で、冷いとも思えぬほどソリッドなダンピングのきいた音がVMシリーズの特長である。硬質で現代的なスマートな音がする。比較試聴に使ったシュアーV15IIやエンパイヤー999、ADC10EMKIIなど世界の一級品に悟して立派な再生音が得られた。ベースの音程の分解能は特に注目に価いするものだった。ブラスの高域やシンバルが、冷いのが特長でもあり難点であるが、対価格という立場で考えれば、優秀製品として推したい。ただし、本誌では蛇足かもしれないが、弦のアンサンブルやクラシックのヴォーカルやコーラスにおいてはもうひとつ不満があることをつけ加えておこう。音響機器にハードでドライな客観性を求めるか、ソフトでウェットな個性を容認するかというオーディオの興味の焦点の一つがそれであろう。

シュアー M44-5

シュアーのカートリッジM44-5の広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年9月号掲載)

Shure

デンオン DL-103, DL-107

デンオンのカートリッジDL103、DL107の広告
(ステレオ 1969年9月号掲載)

DL103

グレース F-8C, F-21

グレースのカートリッジF8C、F21の広告
(ステレオ 1969年9月号掲載)

F8C

スペックス SD-801

スペックスのカートリッジSD801の広告
(ステレオ 1969年9月号掲載)

Supex-SD801

オーディオテクニカ AT-3M, AT-1501

オーディオテクニカのカートリッジAT3M、トーンアームAT1501の広告
(ステレオ 1969年9月号掲載)

AT1500

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-5E

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR5Eの広告
(ステレオ 1969年9月号掲載)

FR5