井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
アンプブロックと電源の相関性を新技術により断絶し、給電系をも含むさまざまな音質的難問を解決した、ピュアカレントサーボ方式のプリアンプ部と新リニアトランスファーバイアス方式のパワーアンプ部が特長の高級機。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
アンプブロックと電源の相関性を新技術により断絶し、給電系をも含むさまざまな音質的難問を解決した、ピュアカレントサーボ方式のプリアンプ部と新リニアトランスファーバイアス方式のパワーアンプ部が特長の高級機。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
強力なパワーアンプにプリアンプを組み込んだエキスペリメンタルな性格が強い製品。パワー直接入力は2虎38ファンに大変に魅力。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
TIM歪を解消するダイヤモンド差動回路採用のAU−Dシリーズ・プリメインアンプのトップモデルD907に徹底的に改良を加えて開発された限定生産のスペシャリティモデル。現時点の最高峰に位置する音質だ。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
共通電位として考えられていたアースラインのインピーダンスにより発生する歪を解決する目的で、従来のスーパーサーボ方式を発展させ、出力端のアース側にもサーボ回路を採用したダブルスーパーサーボの第1弾だ。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
裸特性を徹底的に改善し、これに最小限度のNFBをかけるデュオベータサーキットを採用した新世代のニューラックスマンシリーズのプリメインアンプ。従来に比べパワフルな音が特長。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
パワーアンプをベースとし、これにプリアンプを組み込むラックス独特な構想を管球式プリメインアンプで製品化したモデル。デザイン自体も、それを意味するように簡潔で新しい魅力が感じられる。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
EXCLUSIVEシリーズのセパレート型で示したスイッチング歪ゼロの世界をプリメインアンプに導入した最初のノンスイッチング方式採用の製品。柔らかく滑らかで豊かな音だ。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
Aプラス級動作に続く、ダイオードスイッチング方式の独特な高能率A級動作をプリメインアンプに採用した第3弾製品。ユニークな超低音と超高音トーンコントロールの採用と磨き込まれた音が特長。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
ダイナミッククォリティをメインテーマに、幅広い音楽ジャンルに対応できる性能、機能、操作性、デザインを含め、若い世代の音楽マニア向けのサウンドマシンとして開発された新しい製品。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
新開発のダイレクトA・ノンスイッチングA級動作をパワーアンプに採用した第1弾製品。プリアンプはMC型使用可能な高利得イコライザーのみで、パワーアンプと2ブロック構成のDCサーボ型。
井上卓也
コンポーネントステレオの世界──1980(ステレオサウンド別冊 1979年12月21日発行)
「’80特選コンポーネント・ショーウインドー」より
ビクターのスーパーAクラス増幅方式を採用したプリメインアンプでは、もっともローコストな価格帯におかれた第3弾製品。スイッチング歪とクロスオーバー歪を追放した透明な高域が美しい。
菅野沖彦
ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より
オーディオ専門メーカーとしてのサンスイの評価には、その知名度の点でも、信頼性の点でも、確固たるものがある。俗にオーディオ御三家と呼ばれる、トリオ、パイオニアとともに、日本の伝統的なオーディオメーカーとしてファンの信頼も厚い。そのサンスイの製品のラインアップの中で、最も好評なのが、プリメインアンプの分野である。逆にいうと、他の分野が、サンスイらしからぬ、といえるほどだ。御承知のように、アンプの最高ランクとしては、セパレートタイプであって、プリメインアンプは一般に中級ランクの製品として認識されている。しかし、ププリメイン型が中級ランクとして止まらざるを得ない限界があるわけではなく、現在のアンプ技術をもってすれば、プリとパワーを一体にすることによって、どうしても達成できない難問は、大きさと重さ以外にはないといってもよいだろう。したがって、プリメインアンプのステート・オブ・ジ・アートが誕生しても、何の不思議もないのであるが、どうしても、先に書いたプリメインアンプの市場で位置づけが、この分野から、ステート・オブ・ジ・アートに選ばれる製品の誕生を阻む傾向にあるようだ。その意味でも、今回、サンスイのAU−D907リミテッドが、ステート・オブ・ジ・アートとして選ばれたことは喜ばしいことといえるであろう。
AU−D907リミテッドは、その名の示すように、AU-D907の限定モデルであって、詳しい数字は知らないが、多分、1000台ほどに限って生産されるモデルであるという。メーカーの商品というものは、市場での競争力もあって、こうすればいいとわかっていても、コストの制約で妥協せざるを得ないという要素が多い。特に、プリメインアンプのように、その商品性が、比較的、一般性のある価格帯のものについては、この傾向が強いと思われる。AU-D907も、高い評価の確立したプリメインアンプであったが、そのよさを、もう一歩、徹底させた製品を作り出したいという技術者の情熱が、このモデルの誕生の背景になったと推測出来るのである。このアンプは、いかにも、物マニアックな心情を満たしてくれるに足りる、密度の高い個体として完成した製品で、ひょっとしたら、AU-D907のファンこそが、もう一台欲しくなるような製品だというような気もするのである。サンスイのプリメインアンプに傾注してきた技術が凝縮したアンプとして魅力充分な製品に仕上っている。細かいことをカタログから引写せばいくらでもあるが、それは興味のある方にメーカーへカタログ請求していただくことにしたい。
一つのものが、時間をかけて、愛情をもって練り上げられると、不思議に、そのものの個性が磨きをかけられて、強い主張として、見る者、触れる者に訴えかけてくるものである。このAU-D907リミテッドには、そうした熟成した魅力がある。例えは悪いかもしれないが、新製品にはどこかよそよそしい、床屋へ行きたての頭を見るようなところがある。きれいに整ってはいるが、どこか、しっくりこないあれだ。AU-D907リミテッドにはそれがない。刈ってから一〜二週間たって自然に馴染んだ髪型を見るような趣きをもっている。中味を知って、音を聴けば、一層、その観が深まるであろう。
しっかりした腰のある音は、サンスイの特色ともいっていいが、それが、しなやかな二枚腰とでもいいたいような粘りをもった、深々としたサウンドである。音の輪郭は明確だが、決して、鋭いエッジとしてではなく、立体のエッジとしてのそれである。奥行きのプレゼンスまで豊かに再生するので臨場感があって音楽の空間に共存するリアリティを感じることが出来る。
木枠に収ったブラックマシーンだが、その肌ざわりは暖かく重厚で中に音楽がぎっしりつまっているような錯覚の魅力。これが、このアンプの個体としての魅力なのではないか。オーディオの好きな人間は、そうした心情を製品に感じたいものなのではないだろうか。
井上卓也
ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
ヤマハのプリメインアンプの存在を急激にクローズアップしたかつてのCA1000以来、常に各時代を代表するトップランクのプリメインアンプをそのラインアップに持つことがヤマハのポリシーであるが、CA2000以来新しいAシリーズのプリメインアンプに力を注いでいたため、新しいトップランクのプリメインアンプの登場を期待する声が高まっていた。これに応えるべく登場した製品が、CAシリーズではなくAシリーズ最高ランクに位置するA9で、これによりヤマハのプリメインアンプは、全面的に第2世代の顔をもつAシリーズに発展したことになる。
ピュアカレントサーボ方式は、アンプ部と電源部との相関性を遮断するという正統派の構想であり、現代アンプ設計のいわば盲点をついたクリーンヒットだ。
A9ではイコライザーとフラットアンプにピュアカレントサーボ方式を採用し、パワーアンプは、B5で初採用のリニアトランスファー回路を改良したニューリニアトランスファー回路採用のB級120W+120Wと純A級30W+30Wが切替使用可能の他、独自のNF型トーンコントロール、Roコントロールなどの機能と最新部品の採用が特長だ。
音はしなやかで鮮度が高く、B級動作の余裕のある響きとA級動作の緻密で彫りの深い音が絶妙な対比を聴かせる。
井上卓也
ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
高級プリメインアンプの分野でひとつのリファレンスアンプ的な存在であるAU−D907をベースに、同一規格、同一コンストラクション、同一な回路構成のまま一段と性能、音質の向上を図った限定数販売の新製品である。従来からオーディオ製品、とくにアンプでは、タテ方向は価格帯ごとに分けたシリーズ的な製品展開が一般的であるが、車では既に以前からおこなわれている、ヨコ方向のスタンダードに対するデラックスに相当するワイドバリエーションタイプの製品展開をアンプに導入した点が大変にこの製品のユニークな点であろう。
基本的にはAU−DシリーズのトップモデルであるAU−D907の潜在的な余剰能力を完全に引き出す目的で開発されているだけに限定販売のリミテッドの名称が与えられているのは妥当なことと受け取れる。
変更点は、非磁性体化のため木製ボンネット、電源コンデンサー取付部の真鍮板採用のほか、シャーシーの銅メッキ化、パワートランジスターに非鉄構造の高速型LAPTの採用、高速ダイオードや新しいシャント型定電圧回路が目立つ。
周波数レスポンスは広く、情報量の多い音で、ディスクに刻まれた音の細部を素直に引き出す好ましさがある。特に個性を強調する傾向は少なく、音場感も自然で、その熟成度は非常に高い。
井上卓也
ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
ラックス独自の製品である管球式のプリメインアンプである。独自の発想であるパワーアンプにプリアンプを組込むという基本構想に基づいて開発されているため、これを象徴するようなオリジナリティのあるパネルフェイスとなっている。
設計方針は、音質改善の裏付けとなる各種歪の低減を目標とし、新しい時代の管球アンプのメリットを活かしたものである。出力トランスは新設計のOY15−5KF型で、巻線径が太く、遊休コイルのないシンプルな巻線構造で、ロスが少なく音質が優れたタイプであり、出力管は、定評がある6CA7をウルトラリニア接続PPとして使用。ドライバー回路は、低域時定数が少なく利得の高い、安定な特長があるムラード型だ。
プリアンプ部は、中高域の耐入力を増すために、出力段の電流を多くとった動作点に設定した12AX7の2段P−K NF型で、3段型と比べ安定度の高いメリットがある。トーンコントロール回路は、ボリュウムの機械的な中点でフラットな周波数特性が得られる伝統的なLUX方式NF型である。
LX33は価格的にも魅力のある製品であり、従来の豊かで柔らかな音という伝説的な管球アンプの音を脱した、スムースで爽やかな音であり、ナチュラルな音場感の拡がりが管球アンプらしい。
井上卓也
ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より
この製品はアンプとしての形態こそプリメインアンプではあるが、シャーシーやケースに非磁性化した筐体を採用し、電源部を分離して独立させ、マグネチックディストーションの低減を極限にまで追求した、セパレート型プリメインアンプであることが最大の特長である。
現在のアンプは、新しい設計によるイコライザー段とかパワーアンプ部などのアンプブロックの基本的な性能が、新デバイスや部品の採用により極限まで高まっているため、その優れた性能をアンプというコンストラクションに組込んだ状態で十分に発揮できるようにするためには、内部の配置をはじめ、信号系、給電系、アースラインなどの配線を十分に検討する必要があるが、より一段と性能、音質を向上しようとすると、今度は筐体自体、内部のシールド板、ボリュウムやスイッチ類などの金属部分を含めた各種金属の信号系に及ぼす影響を避ける必要に迫られることになる。
とくに、金属類では鉄などの磁性体金属が信号系にもっとも大きな影響を及ぼすことは、古く管球アンプ全盛時代から一部では常識とされていたことである。昨今、アンプの非磁性体化というテーマがあちこちで聞かれるようになったのは、この問題がクローズアップされてきたことを表しているわけだ。
非磁性体は部品関係のボリュウムやスイッチ類で早くから採用されていたが、アンプの場合には外部からの電磁的、静電的な影響を受けやすいため、この両者をもっとも避けやすい鉄の使用は必要な条件でもあったのである。すでに一部にはかなり多くのアルミ系金属筐体を採用した製品が存在するが、開発当初から磁気的な歪みを低減する目的で非磁性体化を追求したのは、このL01Aが最初の製品である。
L01Aでは、パネルやケースには合成樹脂系の材料や木を採用するとともに、巨大な鉄の固まりであり強力な磁力線を放出する電源トランスを別個に独立型とし分離させ、さらに、スイッチ類のケースの磁性体を取除くなど、ほぼ完全に非磁性体の目的を達成している。
回路面では、従来からのハイスピード化やストレートDCの構想を受け継いでいるが、パワーアンプ部には、最近の動向を活かしたスイッチング歪やクロスオーバー歪を低減するために独自のダイナミックバイアス方式を新しく採用している。ヒートシンクには、大電力部の集中配置が可能で、電磁波の他信号系への影響が少ないなど多くの特長をもつ無酸素銅製ヒートパイプの採用されているのも目新しい。
L01Aは、従来の明快なトリオの音に比べ、一段と鮮明で粒立ちが良く、整然とした音が特長で、オーディオ的な完成度は高い。
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
二十万円コンポシリーズも、前号、前々号での総論を卒業し、いよいよ各論に移るが、今回トータル二十万円の予算でコンポーネントを組むのに適当であろう価格帯のプリメインアンプを一同に集めてテストしてみた。テストの対象にしたアンプは四万五千円から十万円迄のアンプで、まず市販品の中で比較的人気の高い製品、そして新しい製品を中心に集めた。人気という点からいうと、決して新製品とはいえないアンプも何台かまじっている。そのことは逆にの一年ないし二年の間でのアンプの性能がどれだけ進歩したか、しなかったか、ということを知るものさしともなるわけで、これだけアンプがそろうと、二十万円コンポ族にとっていろいろおもしろいことがわかってくるだろう。
試聴アンプは一応編集部からメーカーに試聴テストするという話をしたうえで、貸してもらった。メーカーから辞退してきたもの、あるいは諸般の事情でテストの対象にならなかったものもあり、このクラスの市販品全部を網羅するというわけにはいかなかったことをあらかじめお断りしておく。
アンプは3時間以上エージングした
さてテストの方法だが、まずテストに先立ち、アンプを十分にエージングするということを心がけた。すでに一、二年前からよく知られた始めたことだが、アンプに電源スイッチを入れ、音を鳴らし始めると、スイッチを入れた直後よりも一時間、二時間後にだんだんと音が柔らかくこなれてくるアンプが近ごろ増えている。いまとなってみるとすべてのアンプがそういう性質をもっていたのだが、そういう違いが聴き分けられるほど、最近のアンプ自体の基本性能あるいは周辺の機材というものが向上してしまったということにもなる。そこでテストに当たってはそういうハンデを避けるためにすべてのアンプを少なくとも三時間以上十分に鳴らし込んだ状態でテストすることにした。写真にもあるようにテストするプレイヤー以外に三台のプレイヤーを用意し、常にその次にテストするアンプを鳴らし込んでおくような配慮をした。
なぜJBL4343BにエクスクルーシヴP3なのか
アンプのテストをする場合にはスピーカー、プレイヤー、カートリッジあるいはテストソースとしてのレコードといったものの選び方については多くの意見が出るところだが、今回のテストに関しては、アンプの持っている性質そのものをできるだけ十分に聴きとろうということで、アンプの価格帯にふさわしい機器を選ぶのではなく、むしろ現在市販されている中から得られる最高水準のスピーカー、レコードプレイヤー、カートリッジというものを用意し、アンプをベストの状態で聴き取るようにした。したがって、これから後の試聴記に出てくるアンプの音質というのは、このアンプのもっているほぼ基本的な性質と考えていただいて差し支えない。それを後でどんなスピーカーやどんなカートリッジと組み合わせると一層生きるかということは、試聴記の中に二、三ヒントを述べてはあるが、また改めて別の機会にこれらのアンプを中心とした組合せとしてさらに詳しく取り上げてみたいと思う。
そういうわけでスピーカーにはJBLの4343の新しいBタイプ、レコードプレイヤーにはエクスクルーシヴのP3という、ともに市販されている中でも最高のグレードのものを組み合わせた。
カートリッジはMMとMCを用意
次にカートリッジだが、大きく分けてMM系のカートリッジとMC系のカートリッジ、これを両方用意した。というのは、現在四万五千円あたりから上のアンプになると、大半のアンプがMCヘッドアンプを内蔵しており、そのMCヘッドアンプのテストをするためには、ぜひともMCカートリッジが必要だからだ。さらにMCカートリッジについてはオルトフォンのMC20MKIIとデンオンのDL103Dという二つのタイプを用意した。その理由というのはMCカートリッジにも大きく分けるとインピーダンスの高いMC型と、比較的インピーダンスの低いMC型の両極端があり、出力が低いタイプと出力が高いタイプの両方あるということから、どうしても二つのタイプが必要となる。オルトフォンのMC20MKIIはインピーダンスが3Ωであるのに対して、デンオンDL103Dは33Ωとほぼ十一倍のインピーダンスの差がある。また出力電圧もこれはカタログデータの公称だから、そのまま比較にはならないが、オルトフォンが0・09mVに対してデンオン103Dが0・3mVというように、これも三倍以上の差がある。こういう違いがMCヘッドアンプの性能に大きく響いてくる。特にオルトフォンの3Ωという低いインピーダンス、そして0・09mVという非常に低い出力電圧は、MCヘッドアンプに対しては非常にきびしい条件なので、これが十分に鳴らせるMCヘッドアンプは相当なものであることがいえるわけだ。半面、デンオンの33ΩというようにMCとしては比較的高めのインピーダンスと0・3mVという、これもMCとしては大きめの出力というのは、大方のMCヘッドアンプに対しては十分であろうということがいえる。そしてまた出力とインピーダンスの違いだけでなく、MC20MK20IIとデンオン103Dとは音質もだいぶ違い、これを含めてアンプのテストに利用した。
さてMM型のカートリッジだが、これは西ドイツのエラックの新シリーズ794Eと、アメリカのスタントン881Sという、西ドイツとアメリカという全く違った国の、違ったキャラクターをもったMMカートリッジを用意した。というのは、エラックの方は非常に繊細で切れ込みがよく、多少ウェットな面ももっており、どちらかといえばクラシックのプログラムソースを非常に美しく、ハーモニー豊かに聴かせてくれるカートリッジであるのに対して、スタントン881Sはどちらかといえば現在の新しいポピュラー・ミュージックに本領を発揮する音の厚み、力強さ、そして音の明快さをもったカートリッジであるということだ。さらに比較参考用としてもっとローコストなカートリッジということで私がよく性質をしっている同じエラックの793Eも併用し、随時それを比較の参考にした。
次に試聴レコードだが、なるべく広い範囲のレコードから選択した。新旧の録音あるいは非常に大きな編成からデリケートな編成のものまで、そしても内容も弦あり、管あり、ボーカルあり、パーカッションあり、また編成の大きなものでもクラシックの場合とポピュラーの場合と、できる限り多彩なソースを用意したつもりだ。ただテストに要する時間を考えるとできるだけレコードは少数に絞りたいということもあり、私がここ数年来テストに使っているレコードに最近の新しいレコードを何枚か加えた。このレコードの中のそれぞれたいてい三分以内の部分がテストに使われている。
八畳間の感じにセッティング
試聴の場所は本誌で使っているかなり床面積の比類試聴室を使わせてもらった。アンプのテストをする場合、あまり広くていい音のする試聴室だと、アンプの隠れた欠点を全部覆い隠してしまうという恐れがあるので、私の主義だがなるべくスピーカーに近づいて聴くようにした。もう少し具体的にいうと、和室で六畳ないし八畳ぐらいの広さの部屋でスピーカーとリスナーの関係位置が保てる程度に近づいて聴くということが必要だと思うわけだ。二つのスピーカーの中心から中心の間隔を約3m弱、スピーカーから聴き手の位置もそのくらい。八畳の中でこの程度のセッティングができるだろうというような関係位置をこしらえて、試聴にのぞんだ。
アンプのテストにあたって切り替えスイッチを一切用いていない。というのは現在の最新アンプをテストする時に、切り替えボックスを通してしまうと、どうしても接点の抵抗、あるいはそこに要するコードの余分な長さなどで、アンプの本当の性能が発揮できないということがいわれており、アンプはすべてプレイヤーから直接コードをつなぎ、スピーカーに直接つなぐということで確実な接続をし、一台一台入念なテストをした。
また、何台か聴いた後でもう一度前のアンプに戻るといういわゆるクロステストを行い、十分に念を入れて聴き落しのないようにしたつもりだ。MCヘッドアンプのテストをするアンプ以外の電源をすべて切って、周囲の漏えいなどの影響を受けないようにしたことはもちろんのことだ。
試聴を終わって
結果をちょっと大ざっぱにいうと、大半のアンプにMCヘッドアンプが組み込まれていた。もうひとつは、アンプの音質をできるだけぎりぎりのところまで追求しようということで、多くのアンプに、メーカーによって違いはあるが、各種のスイッチでアンプのトーン・コントロールその他の付属回路を飛ばして、イコライザーとパワーアンプを直結するという、非常にシンプルな構成にするという考え方が取り入れられていた。これは確かに現在の時点でアンプをより一層ピュアーに改善するための手段であることは認める。音質を劣化させる回路を飛ばしてしまって、できるだけアンプの構成を簡潔、シンプルにして音質を改善しようという純粋な発想であるということはわかるが、半面それはトーン・コントロールその他の回路の音質向上に対する技術的努力を怠っているという見方ができなくはないと思う。少なくともそうした回路を積極的に音楽を聴くときに生かしたいという人にとっては、アンプの音質を犠牲にせざるを得ないわけで、そこのところは次の段階ではぜひともトーン・コントロール回路を入れて、なおかつ音質が劣化しないような方向で、さらに技術的な追求をしていくのが本筋ではないかと思う。付属回路を飛ばしてしまうということは極端ないい方をすれば、アンプの回路を片輪にしてしまうことだ。言いすぎといわれそうだが、私はそう考える。
MCヘッドアンプもテストした結果からいうと、少なくとも半数以上がただカタログの上にMCヘッドアンプ内蔵と書きたいためのつけ足しにすぎないのではないかという印象をもたざるを得ないようなアンプが少なからず合った。こういうものが無理してカタログ・データを充実させるために組み込まれるのであったら、MCヘッドアンプなど入れないで、そのぶんだけ音質向上に振り替えるか、あるいはそのぶんだけコストダウンするか、という方がユーザーにとっての本当の親切になるのではないかと思う。もし付けるのならばもっと本当の意味で実用に耐えるものを付けてほしい。少なくともMCヘッドアンプ以外のアンプの性能のよさと見合うだけのものが組み込まれなければ、これは片手落ちではないかというように思う。
それからもうひとつ、今回はヘッドホン端子での音の出方、音質ということについてもテスト項目に入れている。というのはやはりわれわれはこの狭い、住宅事情の悪い日本に住んでいる限り、どうしても深夜など音楽を十分に楽しむためにはヘッドホンのお世話にならざるを得ないわけで、ヘッドホン端子はやはりアンプそれぞれのもっている音質の傾向をはっきり出し、同時に、ヘッドホン端子で十分に音量が楽しめるだけの出力が出てくれないと困るわけだ。これもテストした結果からいうと、概してヘッドホン端子での出力を少し抑えすぎているように思う。それからすべてのアンプではないが、何台かのアンプがヘッドホン端子ではずいぶん音質が劣化するものがある。ヘッドホン端子での音の出方というものをもう少し真剣に検討する必要があるのではないだろうか。その点をメーカーへ要望したい。
細かくはこれ以後の試聴記をみていただくことになるが、試聴したアンプの出来栄えについて星が付いている。これは星の数が一つ、二つ、三つ、それから星印なしというように分かれており、星印がないからといって決して悪いアンプということではない。少なくとも星が一つ付いたということはその価格帯で印象に残ったアンプであり、二つ付いたアンプというのは、その価格帯の中で大変出来栄えのいいアンプであり、三つ付いたアンプは文句なく大変いい、音楽を実に音楽らしく聴かせてくれるという意味で、テストをし終わった後々まで、いいアンプだなという印象を残した優れたアンプだというような意味に受けとっていただきたい。
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
テクニクスのこの新しいSU-Vシリーズには6、8、10とある。V6が五万九千八百円というかなり安い価格であるにもかかわらず、この前後の価格帯の中でも際立った出来栄えを示していた。それだけにその後に発売され、なおかつパワーも110Wとほぼ倍近くまでグレードアップされたこのV8には、こちらが過大な期待をもって臨むのはこれは当然のことだと思う。
音質 さすがに110Wというパワーと、ほとんど十万円に手の届くの価格ということからか、音を支える力というのは、これは実に大したものだ。これ以前の十七台のアンプに比べて聴取レベルを一ランク上げ、相当大きな音量で聴いてみたが、音が崩れるようなところがなく、大太鼓、いろいろなパーカッションなど、どんな音にも全く危なげなく、本当の力を出してくれた。さすがにハイ・パワーアンプだ。そして音の一つひとつが大変くっきりと出てくる。裏返していえば少しコントラストがきついということがいえるかもしれないが、とにかく一つひとつの音をとてもわかりやすくきちんと出してくれる。半面、その音の質ということになると、例えば音透明度という面からみると、オンキョーのA817、ラックスL48Aあたりに比べると若干物足りない感じがする。
一言でいえば音の力強さというところにピントを合わせて作ったアンプではないかなと思う。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプはさすがにこのくらいの高価格帯になると、ゲイン、SN比とも大変練り上げられている。ゲインも十分、ノイズもかなり少なくなっている。しかし、この一つ前のパイオニアA700のMCヘッドアンプが大変よくできていて、オルトフォンのMC20MKIIでも実用的に全く問題なく使えたということからみると、V8のヘッドアンプはオルトフォンMC20MKIIでは少しノイズの点で聴き劣りする。A700を除けば、テストしたアンプの中でも別格のいいできだとは思う。デンオン103D、これはもちろんゲイン、SN比とも全く問題なく、十分に聴ける。音質の点ではMC20MKIIを付けたときの音はまあまあで、もう少しMC20MKII的なよさが出てほしい。一方、デンオンに関しては大変音質がいい。やはりこのアンプのMCヘッドアンプの基本設計目標がデンオン系に合わせているのだと思う。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールには大きな特徴がある。普通の低音、高音のトーン・コントロールのほかに、スーパーバスというのがあり、ターンオーバー75Hzまたは150Hzから下を非常に急激なカーブでブーストできる。これらをつかうにはオペレーション・スイッチをストレートDCからビアトーンという方向に倒して使う。そしてスーパーバスのつまみをグッと上げていくと、普通のスピーカーではなかなか再生することのできにくい超低音を非常に確かな手ごたえで増強してくれる。音全体の厚み、あるいは深みといった感じが増してくるので、これはうまく使いこなすとなかなか面白い。
スピーカーが多少小さいものであっても、これをうまく使いこなすと大変広がりのある豊かな音が得られる。これはこのアンプがもっているほかのアンプにないファンクションだ。
スーパーバスを除いたトーン・コントロールの効き方はごく軽く、標準的。ラウドネス・スイッチを押したときも比較的抑え目の妥当な効き方をする。
ヘッドホン ヘッドホン端子での出力はスピーカーで聴く音よりも少し抑えかげんだが、これは一般的な水準からいって標準的。
ヘッドホン端子での音質はこのアンプ自体のもっている基本的な音に比べると少し力が減るような感じがした。
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
パイオニアのA700はA500と並べてみても重ねてみても、奥行きまで含めた外観は見分けがつかないほどよく似ている。細かい比較をすると、ボリューム・コントロール周りにA500の方はパネルを切り替えてリングが入っているが、A700の方はそういうことをしていない。
またボリュームの左にあるレバースイッチの数がA700の方が一つ多い。それからMMカートリッジの負荷抵抗あるいは負荷容量切り替えも多少細かくなっている。また、A500ではサブソニック・フィルターのところのボタンが、A700ではMCカートリッジのハイ・ロー切り替えになっていたりというように多少細かなニュアンスの違いはある。しかし、少なくとも見た限りでは大変よく似た兄弟のアンプだといえる。
音質 このアンプの音質だが、まず大づかみにいって基本的に持っている性質というのはA500と同じ。パイオニアというメーカーの昔からの大変手慣れたバランスの取り方、過不足のなさ、そして聴きづらい刺激的な音を一切出さないようにきちんとコントロールされているところ、クラシック、ポピュラーという区別なしにそれぞれほどよい感じで鳴らしてくれるところなど、その印象は全く一貫している。しかし、その音の中身はA500に比べてだいぶ濃くなっている感じがする。A500のところでは多少とも薄くなるという印象があったが、A700になると、そういうことはあまり感じられない。音の質がグンと上がる。価格差よりは中身の充実の方が上回っていると思う。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプは大変よくできている。テストしたアンプの中でSN比ということではこれが最もいい出来栄えを示した。つまりオルトフォンのMC20MKIIでは他のアンプすべてがゲイン不足あるいはノイズが増えるという傾向があったのに対して、このアンプはSN比がよくとれており、ゲインも十分だ。ボリュームをいっぱいにあげなくても実用になるし、しかもMCヘッドアンプとしての音も必ずしも悪くない。ましてそれがデンオン103Dになればボリュームを相当絞った状態でも十分なゲインが取れるので完璧に実用になる。内蔵MCヘッドアンプに関していえば、テストしたアンプの中で一番だった。裏返していうと、この価格差というのがかなりMCヘッドアンプに投入されたのかなという感じをもった。
トーン&ラウドネス ライン・ストレートとノーマルの音の差がA500に比べて少し大きい気がする。
この700の方が高級アンプだということで、こちらの聴き方がわずかに厳しくなっていることもいえるかもしれない。しかし、そういうことを考えに入れてもやはりもう少し音の差が少なくなってほしい。言い換えればライン・ストレートの音がそれだけよくみがかれていて細かな回路を通らないでストレートに出てくる音がいいということの裏付けにもなるわけだが……。
半面トーン・コントロールその他を使おうとすると、わずかながら700の場合、音の広がり感、あるいは音の伸びといった面でちょっと物足りなさを感じる。しかしバス、トレブルともトーン・コントロールの効き方はやはり手慣れた感じで効きすぎず、とてもバランスのいい効き方をする。もちろんラウドネス・コントロールも同じだ。
ヘッドホン ヘッドホン端子に出てくる音、これはスピーカーを聴いた場合とレベル的な印象がよく合う。ヘッドホン端子の方がやや低めだが、これはごく標準的なことで出てきた音も大変いい。そういう点を含めて、トータル・バランスは大変よく、まとめ方も手慣れており、安心して使うことができるアンプには違いない。
★★
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
ラックスの新しいシリーズがL58Aという、いわゆる高級プリメインアンプで、このアンプによってラックスの新しい側面が発揮された。そのL58Aを聴いた印象は、おそろしく音が滑らかで、透明で、上質で、聴き手を幸せな気分で満たしてくれる。それがこのL48Aにそっくり受け継がれているということを聴くことができて、私は聴き終わって非常に満足している。
音質 総合的に言って、これは質の高いアンプだと言っていいと思う。このアンプの音というのは、いまいったように滑らかさ、美しさということがまず第一だが、音にじめじめしたところがなく、とても明るく、クリアーで、すべての音が見事にハモってくれる。音楽を聴いていてすべて納得ができる。耳あたりは決して荒くない。そのくらい美しく磨かれている。アラを探してやろうというような意地の悪い聴き方を何度してみても、けってはなかなか見つからない。決してやせたり、細くギスギスしたりということがなく、量感はたっぷりしていながら、美しく、そして充実した音を聴かせてくれる。それから音はしっとりしているが、それが変に湿ったり、暗くなったりしない。明るさを保ったままで、しっとりしている。ベタぼめのようだが、このアンプの音というのは、この値段を考えると信じられないぐらい質の高い、本当の高級アンプで聴くことのできる音に近いものだと思う。
もう一つ、このアンプまできて、初めてブルックナーのシンフォニーの第一楽章から本気で聴いてみようという気になった。実はこれは大切なことで、この一つ前のマランツPm4というのは、大変いい面を持ったアンプだが、そのマランツではブルックナーを聴こうという気には、ちょっとなれなかった。つまり、ラックスもマランツも両方とも大変優れたアンプだが、マランツはポピュラー志向であるのに対して、ラックスはクラシック志向ではないかという気がする。
それではポップスはまるでだめかというというと、そんなことは全然ない。例えばマランツなどよりも少し甘口、ソフトタッチになるという違いはあっても、しかし決して露骨に柔らかくなったり、ふやけたりするわけではない。力は十分持ちながら柔らかく、滑らかに表現してくれるわけで、ポピュラーでも十分楽しめる。何しろ音質がずば抜けていいアンプだったという印象だ。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプはオルトフォンMC20MKIIではちょっとかわいそうという気がした。ノイズの質は悪くないけれども、ノイズの量が決して少なくないので、MC20MKIIで十分な音量で聴こうとすると、ノイズがかなり耳につく。デンオンの103D、これは十分使用できる。MCヘッドアンプ自体の音質はよかった。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールはターンオーバー切り替えのついている本格的なもので、問題なくよく効く。特にトレブルの方をターンオーバー4kHzにして強調したときの音の上がり具合というのは、音を強調してみてなおさらこのアンプが基本的に持っている質がすばらしくいいものだったということを感じさせた。高音を上げても鋭くならないで、量だけがきちんと上がってくる。ターンオーバー切り替えのスイッチをうんとゆっくり切り替えようとすると、途中で途切れる部分があって、そこに妙なハムが出る。これは回路構成上仕方がないのだが、あるいは改善できるのかメーカーにただしてみたい。
ヘッドホン ヘッドホン端子は、スピーカーで聴いた時に比べるとちょっと音の出方が低い。音は決して悪くはないが、もう少し鳴りっぷりがよくてもいいのではないかと思う。ラックスのアンプは従来から、ヘッドホン端子の出力を少し低く取りすぎる傾向がある。その点、このアンプはかなり改善されてはいるが……。
★★★
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
このアンプからまた一段ランクが上がる。七万四千八百円だから、この前のグループから約五千円上がるわけだ。それがどういうようなメリットとして出てくるかということが興味の中心になる。このマランツのPm4は全くの新製品で、白紙の状態で試聴したが、まず音の点でいうと大変いいアンプということが言える。
音質 アンプの音をソフト派とハード派に分けると、このアンプはハード派、男性的な女性的かというと、男性的な方だ。とても明るいし、妙に湿ったり、暗くなったりするところがない。非常にさっぱりとふんぎりよく音を出してくれるのは聴いていて非常に心地よい。心地よさというのは単に気持ちのよさを通り越して本当に聴きごたえのある、充実感のある音だからだ。このアンプは実に音楽が楽しく聴こえてくる。
その特徴は強いて言うと、クラシック、ポピュラーに分けた場合には、むしろポピュラー系に最大限良さを発揮するということが言える。音が充実しており、本当の意味で力がある。
このアンプはAクラス・オペレーションにできるが、その場合の出力は15Wで非常に減るが、ほんのわずか音にやさしさが加わる。Aクラス・オペレーションにしたからといって、いわゆる歪とか透明感が改善されるという感じはしない。言い換えると、Aクラスではない方も相当練り上げられているということだ。
しかし、フォーレのヴァイオリン・ソナタのような曲をAクラスで聴くと、いくらかフォーレにしては明るくなりすぎる。そしてヴァイオリンの音としては少し冷たい、あるいはメタリックと言いたい傾向の音になるので、フォーレの世界とは少し違うな、という違和感を感じさせる。しかし、もちろん音の質がいいので、そこを承知で聴けばなかなかいい気持ちで聴いていられるわけで、やはり音のかんどころは外していない。
もう一つ、例えばカートリッジをエラックのような少し線の細いものよりも、スタントン881Sのようなものにすると、音の充実感、厚み、力といったものをさらに増やしてくれるので『サンチェスの子供たち』あるいはアース・ウインド&ファイアなどにしても、一層このアンプの特徴を生かす。
MCヘッドアンプ MC20MKII、103DでもMCヘッドアンプ自体の音はとてもいい。音質という面で言えば、さすが値段が高いだけのことはある。しかし、ノイズの点ではMC20MKIIはゲインいっぱいになるので、かなり耳につく。これは実用すれすれのところだろうと思う。一方、103Dの方はもちろん十分だが、このアンプは必ずしもSN比がよくないので、大きなパワーを出した、そのボリュームの位置で針を上げてみると、ややノイズが耳につく。ノイズがもう少しなくなれば、さらにこのアンプの音のよさが生きてくると思う。
トーン&ラウドネス トーン・コントロール、ラウドネス・コントロールの効き。これはもしかすると、このアンプが輸出などを意識しているのかもしれないが、効き方がかなりはっきりしており、ちょっとビギナーふうにわかりやすくしたという感じがする。これはこの
アンプの持っている質感のよさと比べて、もう少し効きを滑らかにしてもいいのではないか。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音はなかなかよくできている。出力はやや低いが、ボリュームを上げればいくらでも音が出てくるし、ヘッドホン端子での音質もいい。
それからデザインは、前例のないユニークな形で、好ききらいがあるかもしれないが、むしろ往年のマランツ・ファンを泣かせるようなかんどころを押えている。個性的なデザインを含め、総合的には非常に良くできたアンプだと思う。
★★★
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
これはパイオニアの新シリーズの中の一機種。パイオニアのアンプが昔から受け継いできた音のバランスのよさ、まとめ方のうまさがうかがえる。しかし、いろいろなプログラム・ソースを聴いて、特にこの曲に向くというようなところはない。言い換えれば、この曲に向かないといったような強い個性を持っていないところがパイオニアのアンプの特徴であり、それはこの新シリーズでもそのまま受け継がれている。
音質 バランスの取り方は実に手慣れているな、という感じを思わせる。耳あたりはどちらかといえば柔らかい。刺激的な音をきちんと取り除いた、うまい音作りをしている。
また、細かいことをいうと、レコードの無音の部分で聴こえてくるスクラッチノイズは軽く非常にきめ細かく聴こえてきて、アンプの持っている質そのものは、なかなかいいということを感じさせる。ただ、音が薄味というか音の充実感というものをもう少し望みたい。いわゆる、聴きごたえのする音ではない。例えば、しみじみと歌いかけるようなヴォーカルの場合でも、そのしみじみとした感じがもう少し出てほしいし、あるいは非常に迫力を要求するパーカッションの部分なども、本当の意味での力を出してほしい。何かバランスはとれて円満だが、もうひとつ踏み込みが足りない。そこがパイオニアという会社の性格と言えないこともないが……。
MCヘッドアンプ 次にMCヘッドアンプだが、オルトフォンのMC20MKIIの場合にはやはりゲインが低い。それからボリュームを上げて出てくるノイズが少し高調波の混じったハムが出てくるので、割合に耳につきやすいということで、ちょっとMC20MKIIは苦しい感じだ。デンオン103Dの場合は全く十分。デンオンを使ったときのヘッドアンプ自体の音質はなかなか優れており、どうもデンオン系でこのMCヘッドアンプはチューニングされたらしい。
トーン&ラウドネス ところでこのアンプは、パネルの中央、ボリュームの左端の二つ目のつまみのレバーに、ライン・ストレート、ノーマル・ポジションがあり、ライン・ストレートというところにくると、いわゆるストレート・アンプになって、トーン・コントロール、その他のファンクションを全部飛び越して非常にシンプルな構成のアンプになる。実はその状態でいま言ったような音が聴こえたわけで、さてトーン・コントロールを使うと言うことになると、そのレバーを下に押してノーマルにしなくては鳴らない。ノーマルにすると、多少音がくもってくる。しかし、これはごく注意深く聴かないと差がわからない程度だが……。トーン・コントロールはさすがに手慣れた設計で低音、高音ともに妥当な、非常に自然な効き方をする。
ラウドネス・コントロールも、あまり強調された効き方はしない。トーンと同じくごく自然な効き方をする。このへんはうまい作り方だ。
ヘッドホン ヘッドホン端子での音はなかなかうまく出てくる。レベルの設定もいいし、ヘッドホン端子での音質もアンプの基本的な音質をそのままそっくり素直に出してくる。
トータルしてみると、フロントのパネルファンクションの並べ方、整理の仕方、あるいは背面の端子など、さすがに手慣れたそつのない作り方で、そのへんでユーザーを遊ばせる術を心得たアンプということが言える。ライン・ストレートとノーマルを切り替えた時に、グリーンのきれいなランプがパッとついて一目でファンクションのある場所を表示したり、あるいはパイロットランプが電源スイッチを入れて待機の状態では赤、それが動作状態になるとパッとグリーンに変わるなど、なかなかきめが細く、手元に置いて楽しいアンプではないかと思う。
★
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
ビクター独自のスーパーAを組み込んだアンプの中の中クラスの製品。同価格帯のアンプと聴き比べてみると、このアンプはなかなか個性的な音を聴かせてくれる。
音質 まず音に適度の厚みがある。同じ価格帯にあるLo-Dあるいはオンキョーの音というのは、どちらかといえば中域から高域の方に個性があるのに対して、ビクターはそれよりも中低域に厚みのあるようなものを感じさせる。音に重量感があり、一種ぶ厚い響きを聴かせる。言い換えれば、音がうわずる傾向が比較的少ないので、その意味ではかなり音量を上げてもカン高さ、あるいは金属質の音がしない。その点では聴きやすい音といってもいいと思う。それから、音が大変元気だ。抑えつけられた感じがしない。音全体の感じはそういうところだが、すべてのプログラム・ソースを聴いてみると、最近の新しいアンプ、例えばこの同価格帯でいうとオンキョーのA817などに代表されるような音の透明感、歪みの少なさ、ということを念頭において聴くと、透明感の点で、いささか物足りなさを感じさせる。あるいは逆に、そういうことを意識的に感じさせないようにコントロールした音なのかというように思う。つまり高域をスッと伸ばしたという音ではなくて、ほどよくまるめて聴きやすく作ったという印象がなくはない。
特にそれは、テスト・ソースとして使った『サンチェスの子供たち』のオーバーチュアの部分にいえる。なにかもうひとつスカッとヌケきれないようなところがあり、爽快感に乏しい。そこがこのアンプの性格であり、何かを望みたくなる部分でもある。
それからもう一つ、『春の祭典』のフォルティッシモの部分などでどことなくつかみが荒いというか、非常にかすかではあるが、音のなめらかさを欠く。いったんそこに気づいてしまうと、すべてのプログラム・ソースに何となくそういう印象を持つ。そこがちょっと首をひねったところだ。
MCヘッドアンプ オルトフォンのMC20MKIIの場合ゲインはかろうじていっぱい、ノイズは割合に少ない方なので、いっぱいにして使えなくはない。デンオン103Dの場合はもちろん十分。特にMMの標準的なカートリッジをつないだ場合と、デンオン103DでMCポジションにした場合と、ボリュームの位置が大変近い。これは大変いいことだ。MCヘッドアンプはデンオンあたりを基準にしてゲイン設定がなされているということがわかる。ただ、このMCヘッドアンプ自体の音というのは少し抜けがよくないというか、ちょっとこもるという感じがして、MC自体の持っているすっきりした切れ込みの良さというのを、必ずしも生かしているとはいいがたい。もっと気持よく抜けてほしいと思う。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールはオン、オフしても、基本的に持っている音質はほとんど変わらない。極めてわずかに変わるとは言えるが、これはごく音のマニア的な聴き方で、普通に聴いているぶんには、変わらないといっていいと思う。トーン・コントロールの効き方はごく普通で、やや抑え気味だが、とてもきれいな効き方をする。
それに対してラウドネス・コントロールはやや強調気味。かなり音がふくらむ感じで効く。
ヘッドホン ヘッドホン端子での出力はスピーカーをつないだ時よりも、ややレベル的に落ちる感じ。これは一般的傾向だが、ほかのアンプと比べると、ヘッドホン端子で聴いた時の音が、ことアンプ基本的に持っている音よりも、音の鮮度あるいは迫力、繊細感など、いろいろな意味で、音質が落ちるような気がする。
もう少しヘッドホン端子にきちんとした音が出てきてもいいのではないかという印象を持った。
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
いわゆる六万九千八百円のグループの中では発売時期の最も古いアンプで、データによると七八年十月ということだから、もう一年半近くも売られているアンプだ。しかし、このアンプの音というのは最新の開発機種の中に混ぜて聴いても、少しも古さを感じさせない。それどころか、結論を先に言ってしまうみたいだが、六万九千八百円のなかでは、私はこれがベスト・アンプだと思った。
持ってみた感じも、高価格帯のアンプよりも重いくらいだ。重ければいいというものではないが、そのくらい一切手抜きをしていない正攻法で、きちんと作られたアンプではかいなと思う。ほかのところで何度テストしても、このアンプは常にいい面を見せてくれるので、間違いのないアンプと言い切ってしまってもかまわないと思う。
音質 音のバランスが大変良く、鳴ってくる音の一つ一つに何とも言えない、音楽を聴かせる魅力があり、それが聴き手を音楽にどんどん引きつけていくような、いい方向に働いてくれる。
パワーは70W+70Wと公表されているから、このクラスとしては比較的大きい方だが、実際それ以上の力を感じさせてくれる。もっと値段の高いアンプも聴いたけれど、六万九千八百円というグループの中では、これはむしろその価格を上回る出来栄えではないかと思う。
特筆すべきことは、テスト・ソースの中に入れておいたフォーレの『ヴァイオリン・ソナタ』のように、非常に音のニュアンス、あるいは色合い、というものう大切にするプログラム・ソースの場合でも、このアンプはこの価格帯としてはずば抜けており、いい雰囲気を出してくれた。フォーレ一曲聴いただけで、六万九千八百円としては別格扱いしたいと思ったくらいよかった。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプだが、やはりMC20MKIIまではちょっとこなせない。ゲインは音量をいっぱいにすればかなりの音量は出せるが、その部分では、ハム、その他のノイズがあるので、オルトフォンのような出力の低いカートリッジにはきつい。ただし、MC20MKIIの持っている音の良さというのを意外に出してくれた。ヘッドアンプの音質としてはなかなかいい。もちろんデンオン103Dの場合は問題なく、MCの魅力を十分引き出してくれた。
トーン&ラウドネス 次にトーン・コントロールだが、このトーンのディフィート・スイッチをオン、オフしてみると、トーン・コントロールを入れた状態では、注意深く聴くと、多少音質が損なわれる感じがある。トーン・コントロールは、ごく中庸な効き方で、なかなかうまい効き方をする。ラウドネス・スイッチも割に軽い、妥当な効き方をする。
ヘッドホン ヘッドホン端子の出力というのは、スピーカーを聴いた時と比べて、やや低い感じがするが、ほどほどの出力で音質も大変優れている。
このランクの中では、このアンプはシャシー背面で、プリとメインを切り離すスイッチがついている。つまり、このアンプを買った後でプリアンプだけ、または、メインアンプだけをグレードアップしよう、あるいはマルチチャンネル・ドライブしようという時には、このアンプは大変メリットを持っている。これは一つの特徴である。
もう一つ、発売時期が古いせいか、スピーカー端子が比較的簡単な、ボタンを押してコードを差し込む方式になっているが、アンプがこれだけの内容を持っている場合には、もっとコードをきちんと締めつけるターミナル式にした方がいいのではないか。この製品の途中からでもいいから、スピーカー・ターミナルはもっと信頼性の高いものに変えた方がいいのではないかと思う。これはアンプの基本的な性能がいいからそういうことを望みたくなるのだ。
★★★
瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
この機種から六万九千八百円に価格が一万円ほど上がるわけだが、これまでの五万九千八百円の中で比較的成績のよかった、例えばヤマハのA3、サンスイのAU-D7、テクニクスのSU-V6といったアンプに比べて、一万円上がっただけのメリットがあるかどうかというところが、ヒアリングの主なポイントになる。そこでこのLo-D HA5700だが、まず表示出力は50Wということで、この面では五万九千八百円のグループの中にも、50Wあるいはそれ以上のパワーがあるものもあるので、パワーの面でのメリットはまだ出てきてない。パネル上から見たファンクションだが、これも特にこのアンプならではという独特のファンクションはない。しかしパネル面は大変美しく整理されており、とてもスマートなデザインだ。ボリュームつまみの周りの表示もなかなか手が込んでいて凝っている。
音質 一言でいって、なかなかクリアーで、いい音だと思う。プログラム・ソースをいろいろ変えて聴いてみると、全体としては少し軽い感じの音がする。暗いとか重いとかの感じはない。そこはいいところだと思うが、例えば『春の祭典』でのフォルティッシモ、ポップスでは『サンチェスの子供たち』のオーバーチュアの部分、本当の意味での力を要求される、そしてまた非常に低音から高音までの周波数範囲の広いプログラム・ソースを鳴らした場合には、クラシック、ポップスどちらのプログラム・ソースでも、いくらか音のはランスが中域から高域による傾向が聴き取れる。言い換えれば、その中域、高域のクリアーな感じ、あるいは軽やかな感じというものをしっかりと支える、いい意味での重量感、あるいは重低音の支えというものが少し足りないのではないかと思う。五万九千八百円のグループから一万円上がったということを考えると、このへんからややアンプに対して、音についての本格的な期待をしたくなるわけだ。
それから音全体の鳴り方だが、大変慎重というか、非常に注意深く、きめ細かく作られたということはわかるが、半面、音楽として内からわき上がってくるような、そういう面白さには欠けるような気がする。
MCヘッドアンプ 例によって、オルトフォンのMC20MKIIとデンオンの103Dという、二つの違ったタイプをつないでみたが、このMCヘッドアンプは多少内容が伴っていないのではないかという気がした。オルトフォンが実用にならないことはほかのンアプでも同様だったが、デンオンの103Dのようなインピーダンスの高い、比較的出力の大きいMCカートリッジでも実用範囲の音量にした場合、ボリュームの位置そのままでレコードから針を上げてみても、やや耳につくノイズがまだ残っている。いわゆるSN比があまりよくないということだ。このMCヘッドアンプは、よほど出力の大きなMC型でないと使いものにならないという気がした。
したがって、このアンプでMCカートリッジを使う場合、専用のヘッドアンプ、またはトランスを別に用意する必要がありそうだ。
トーン&ラウドネス 次にトーン・コントロールの効きだが、トーン・スイッチをオンにして、それでトーン・コントロールが働くわけだが、低音の効き方はまあまあ。しかし、高音の効き方は少し強調し過ぎのようで、低音と高音の変化の具合が少しアンバランスな感じを受けた。ラウドネス・コントロールは比較的軽く、心地よい効き方をする。
ヘッドホン スピーカーに比べて、だいぶ音量が低く抑えられており、もう少しヘッドホン端子に音量が出てきてもいいのではないかと思う。
ただし、ヘッドホン端子での音質はスピーカーで聴いた時と似ており、大変いい。
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