瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
ビクター独自のスーパーAを組み込んだアンプの中の中クラスの製品。同価格帯のアンプと聴き比べてみると、このアンプはなかなか個性的な音を聴かせてくれる。
音質 まず音に適度の厚みがある。同じ価格帯にあるLo-Dあるいはオンキョーの音というのは、どちらかといえば中域から高域の方に個性があるのに対して、ビクターはそれよりも中低域に厚みのあるようなものを感じさせる。音に重量感があり、一種ぶ厚い響きを聴かせる。言い換えれば、音がうわずる傾向が比較的少ないので、その意味ではかなり音量を上げてもカン高さ、あるいは金属質の音がしない。その点では聴きやすい音といってもいいと思う。それから、音が大変元気だ。抑えつけられた感じがしない。音全体の感じはそういうところだが、すべてのプログラム・ソースを聴いてみると、最近の新しいアンプ、例えばこの同価格帯でいうとオンキョーのA817などに代表されるような音の透明感、歪みの少なさ、ということを念頭において聴くと、透明感の点で、いささか物足りなさを感じさせる。あるいは逆に、そういうことを意識的に感じさせないようにコントロールした音なのかというように思う。つまり高域をスッと伸ばしたという音ではなくて、ほどよくまるめて聴きやすく作ったという印象がなくはない。
特にそれは、テスト・ソースとして使った『サンチェスの子供たち』のオーバーチュアの部分にいえる。なにかもうひとつスカッとヌケきれないようなところがあり、爽快感に乏しい。そこがこのアンプの性格であり、何かを望みたくなる部分でもある。
それからもう一つ、『春の祭典』のフォルティッシモの部分などでどことなくつかみが荒いというか、非常にかすかではあるが、音のなめらかさを欠く。いったんそこに気づいてしまうと、すべてのプログラム・ソースに何となくそういう印象を持つ。そこがちょっと首をひねったところだ。
MCヘッドアンプ オルトフォンのMC20MKIIの場合ゲインはかろうじていっぱい、ノイズは割合に少ない方なので、いっぱいにして使えなくはない。デンオン103Dの場合はもちろん十分。特にMMの標準的なカートリッジをつないだ場合と、デンオン103DでMCポジションにした場合と、ボリュームの位置が大変近い。これは大変いいことだ。MCヘッドアンプはデンオンあたりを基準にしてゲイン設定がなされているということがわかる。ただ、このMCヘッドアンプ自体の音というのは少し抜けがよくないというか、ちょっとこもるという感じがして、MC自体の持っているすっきりした切れ込みの良さというのを、必ずしも生かしているとはいいがたい。もっと気持よく抜けてほしいと思う。
トーン&ラウドネス トーン・コントロールはオン、オフしても、基本的に持っている音質はほとんど変わらない。極めてわずかに変わるとは言えるが、これはごく音のマニア的な聴き方で、普通に聴いているぶんには、変わらないといっていいと思う。トーン・コントロールの効き方はごく普通で、やや抑え気味だが、とてもきれいな効き方をする。
それに対してラウドネス・コントロールはやや強調気味。かなり音がふくらむ感じで効く。
ヘッドホン ヘッドホン端子での出力はスピーカーをつないだ時よりも、ややレベル的に落ちる感じ。これは一般的傾向だが、ほかのアンプと比べると、ヘッドホン端子で聴いた時の音が、ことアンプ基本的に持っている音よりも、音の鮮度あるいは迫力、繊細感など、いろいろな意味で、音質が落ちるような気がする。
もう少しヘッドホン端子にきちんとした音が出てきてもいいのではないかという印象を持った。
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