瀬川冬樹
別冊FM fan 25号(1979年12月発行)
「20万円コンポのためのプリメインアンプ18機種徹底レポート」より
いわゆる六万九千八百円のグループの中では発売時期の最も古いアンプで、データによると七八年十月ということだから、もう一年半近くも売られているアンプだ。しかし、このアンプの音というのは最新の開発機種の中に混ぜて聴いても、少しも古さを感じさせない。それどころか、結論を先に言ってしまうみたいだが、六万九千八百円のなかでは、私はこれがベスト・アンプだと思った。
持ってみた感じも、高価格帯のアンプよりも重いくらいだ。重ければいいというものではないが、そのくらい一切手抜きをしていない正攻法で、きちんと作られたアンプではかいなと思う。ほかのところで何度テストしても、このアンプは常にいい面を見せてくれるので、間違いのないアンプと言い切ってしまってもかまわないと思う。
音質 音のバランスが大変良く、鳴ってくる音の一つ一つに何とも言えない、音楽を聴かせる魅力があり、それが聴き手を音楽にどんどん引きつけていくような、いい方向に働いてくれる。
パワーは70W+70Wと公表されているから、このクラスとしては比較的大きい方だが、実際それ以上の力を感じさせてくれる。もっと値段の高いアンプも聴いたけれど、六万九千八百円というグループの中では、これはむしろその価格を上回る出来栄えではないかと思う。
特筆すべきことは、テスト・ソースの中に入れておいたフォーレの『ヴァイオリン・ソナタ』のように、非常に音のニュアンス、あるいは色合い、というものう大切にするプログラム・ソースの場合でも、このアンプはこの価格帯としてはずば抜けており、いい雰囲気を出してくれた。フォーレ一曲聴いただけで、六万九千八百円としては別格扱いしたいと思ったくらいよかった。
MCヘッドアンプ MCヘッドアンプだが、やはりMC20MKIIまではちょっとこなせない。ゲインは音量をいっぱいにすればかなりの音量は出せるが、その部分では、ハム、その他のノイズがあるので、オルトフォンのような出力の低いカートリッジにはきつい。ただし、MC20MKIIの持っている音の良さというのを意外に出してくれた。ヘッドアンプの音質としてはなかなかいい。もちろんデンオン103Dの場合は問題なく、MCの魅力を十分引き出してくれた。
トーン&ラウドネス 次にトーン・コントロールだが、このトーンのディフィート・スイッチをオン、オフしてみると、トーン・コントロールを入れた状態では、注意深く聴くと、多少音質が損なわれる感じがある。トーン・コントロールは、ごく中庸な効き方で、なかなかうまい効き方をする。ラウドネス・スイッチも割に軽い、妥当な効き方をする。
ヘッドホン ヘッドホン端子の出力というのは、スピーカーを聴いた時と比べて、やや低い感じがするが、ほどほどの出力で音質も大変優れている。
このランクの中では、このアンプはシャシー背面で、プリとメインを切り離すスイッチがついている。つまり、このアンプを買った後でプリアンプだけ、または、メインアンプだけをグレードアップしよう、あるいはマルチチャンネル・ドライブしようという時には、このアンプは大変メリットを持っている。これは一つの特徴である。
もう一つ、発売時期が古いせいか、スピーカー端子が比較的簡単な、ボタンを押してコードを差し込む方式になっているが、アンプがこれだけの内容を持っている場合には、もっとコードをきちんと締めつけるターミナル式にした方がいいのではないか。この製品の途中からでもいいから、スピーカー・ターミナルはもっと信頼性の高いものに変えた方がいいのではないかと思う。これはアンプの基本的な性能がいいからそういうことを望みたくなるのだ。
★★★
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