Category Archives: プリメインアンプ - Page 18

ヤマハ CA-2000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ヤマハのプリメインアンプは、当初からCA1000をトップモデルとして、これに改良を加えたMKII、さらに外形寸法がひとまわり大きくなった現在のMKIIIと発展してきたが、ハイパワー化の影響によるパワーアップの要求と、セパレート型アンプのC2、B2との間をうめる意味もあってか、CA1000IIIのボディのなかに、ひとまわり強力なパワーをもつ新モデルを今回発表することになった。逆にいえば、X1シリーズにはじまったプリメインアンプの置換えはR1シリーズで終了し、それら一連のプリメインアンプとは差別化の意味で、上級モデルが最初から2機種企画されており、これがCA1000IIIのボディがひとまわり大きくなった理由と思われる。つまり、パワーアンプに対するアンプの容量の増加が見込まれた結果である。
 CA2000は、ボディサイズは、既発売のCA1000IIIと同じであり、フロントパネルの機能もほとんど同様であるために、外観からは両者の判別は難しいようだ。しかし、トーンコントロールツマミの部分が、C2と同様にデシベル目盛になっているあたりが、両者の違いをあらわしている。
 機能面では、基本的にCA1000IIIと同じで、インプットセレクターでフォノ入力を選択した場合には、独立したフォノセレクターで、フォノ1とフォノ2が選択でき、フォノ1は、さらに3種類の負荷抵抗切替とMC型カートリッジ用のヘッドアンプの使用がセレクトできる。また、独立したテープアウトセレクターがあり、インプットセレクターとは関係なく、録音プログラムソースが選択可能で、さらに、レコーディングアウトがOFFにもできる特長がある。また、ピーク指示型のレベルメーターは、切替でパワーとレコーディングアウトのレベルをチェックできる。
 回路構成は、イコライザー段がC2と同じで、超低雑音FETによる初段、SEPPコンプリメンタリーの終段で構成され、高級セパレート型アンプとしてもトップクラスのSN比と歪率を誇っている。なお、別に超低雑音IC採用のMC型カートリッジ用のヘッドアンプを内蔵している。トーンコントロール段は、基本的にイコライザー段と同様な構成で、ボリュウムを絞り込んでも信号源インピーダンスにより、歪率はほとんど変化しない特長がある。
 パワーアンプは、出力段が並列接続のパラレルプッシュプルの全段直結OCL型で、B級120W+120W、A級時30W+30Wの定格があり、DCアンプ構成である。
 CA2000は、CA1000IIIと共通性がある音をもっているが、音の粒子が一段と磨かれた印象が強く、パワーアップのメリットで、低域の質感がよく再生され、安定度を増した余裕のある感じが特長である。充分に熟成した大人っぽいこの音は、違いのわかる人に応わしいものだ。

サンスイ AU-707, AU-607, AU-10000

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 現在プリメインアンプの需要の中心は数量的には5万円未満のモデルであるが、オーディオ敵に質的・量的のバランスを考え、プログラムソースであるディスク側のダイナミックレンジの拡大を含めれば、やはり6〜9万円台のモデルが魅力あるプリメインアンプとして、本来の中心機種の座にあるといってよい。
 新しいサンスイのプリメインアンプは、この価格帯に投じられた専門メーカーらしい製品で物理的データの高さと現代アンプらしい音質、それに、新しいブラックフェイスのデザインをもつ、意欲作である。
 AU707、606のパネルフェイスは、サンスイが初期の管球プリメインアンプAU111以来一貫して守ってきた伝統的なブラックパネルであるが、色調はマットブラックで統一され、簡潔でダイナミックな印象としている。このパネルは、サイドにハンドルをつければ標準ラックパネルにセットすることができる。
 AU707の回路構成上の特長は、イコライザー段が初段カレントソースつき差動1段、バッファー、アクティブロードつきA級増幅1段、純コンプリメンタリーSEPP出力段の8石構成で、1kHzの許容入力300mV、RIAA偏差±0・2dB、SN比77dBを得ている。パワーアンプは、初段デュアルFET差動2段、カレントミラーつき電流差動プッシュプル(特許申請中)、3段ダーリントン接続のDCアンプであり、電源部は左右チャンネル独立型、電解コンデンサーは、15000μF×4である。
 機構設計上の特長は、入力端子、イコライザー、トーンコントロール、パワーアンプと、信号経路を合理的に配置しシールドカバーの併用で物理性能の向上をはかっている。また、パワー段の放熱板は、チムニー型で放熱効果が高く、信号経路のコンデンサーは、低雑音タイプのBRN電解コンデンサーとマイラーコンデンサーをセレクトして採用している。
 AU607は、出力が65W+65W(707は85W)である点と、トーンコントロール段のバッファーアンプの省略、電源部の電解コンデンサーの容量が、12000μFに変更されたあたりが、基本的に、AU707と異なった点である。
 AU10000は、コントロールアンプCA2000とパワーアンプBA2000を一体化して、プリメインアンプとした新製品で、デザインは高級機に準じている。
 AU707/607は、サンスイのアンプとしては音質的にCA2000、BA2000の系統である。各ユニットアンプの性質が素直なためか、歪感がなく、滑らかで静かだが、それでいて充分に力もある音だ。とくに、AU607のハーモニーの美しさと、表情の豊かさは見事で、音楽を楽しく聴かせてくれる。

デンオン PMA-701, PMA-501

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 デザインを変えてイメージチェンジをした2機種の新製品は、デザイン以上に大変にユニークな機能を備えていることが特長である。この機能は、カートリッジのクロストーク特性をアンプ側で電気的にコントロールするためのPCC(フォノ・クロストーク・キャンセラー)と名付けられたものである。
 一般にカートリッジのクロストークは、中域の条件が良い状態でも、−20dB〜−30dB程度で、アンプ側のフォノ入力からスピーカー端子までのクロストークにくらべて大幅に劣っていることは、よく知られていることである。カートリッジのクロストークの位相特性を調べると位相差が0°付近と180°付近にあることから、左チャンネルから右チャンネルへのクロストークを例にとると、第一に左チャンネルの信号を適当な値で取り出し、極性を反転して右チャンネルに加えれば打消しにより数dB以上の改善が期待できる。第二に、第一の方法により打消すことができないクロストーク分は、信号分との位相差が±90°の成分であり、このためには移相器が有効であろう。
 以上の予想を基本として実験の結果は、周波数によっては10dB以上の改善が見られたとのことで、実際のPCCは、L→R、R→Lの両方でキャンセラーを動作させる必要があり、各チャンネルを2個のツマミで調整することになる。なお、カートリッジのクロストークは、アームへの取付条件までを含めれば、1個毎に異なるために個別の調整が必要で、その目的のために、調整用レコードがアンプに付属している。
 回路構成上の特長は、フォノ入力回路は切替スイッチやシールド線を使用せずイコライザー段に直結とし、入力インピータンス特性を向上させ、併せてそれらによるSN比の低下を防いでいる。また、電源部はデンオンのプリメインアンプとしては、はじめてのパワーアンプのB級増幅部分での左右独立トランスの採用の電圧増幅段、プリアンプ部専用の電源トランスをもつ、3電源トランス方式が使われている。
 PMA701と501の違いは、出力が70W+70Wと50W+50W、機能的には後者には、ハイフィルターがない。
 PCCによ、カートリッジのクロストーク調整は、付属している17cm盤のテストトーンのバンドを使っておこなう。片チャンネルについて、2個のコントロールを交互に調整して、信号が最小になる位置を探せば、調整は完了する。この調整は、割合いに容易であり、PCCスイッチのON・OFFで、クロストークの改善度が確認できる。効果は、かなり大きくPCCのONで、ワーブルトーンの調整信号音は、大幅に減少することが判るはずだ。音質的な変化は、音が全体にスッキリとして、間接音成分的な、あいまいな感じがなくなり、音像の輪郭が、一段とクッキリとして浮かび上がるようになる。このような効果は、ベースとなるアンプのクォリティが充分に高くないと望めないことだけに、新しい2機種のプリメインアンプは、アンプとして、デンオンらしいクォリティの高さがあることを裏付けているわけだ。この結果から予想すれば、もし単体ユニットでPCCが発売されるとしたら、より高級機との組合せで効果がありそうだ。

オンキョー Integra A-7, Integra A-5

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 新しいインテグラは、型番がシンプルな1桁に変わり、デザイン面でもまったく従来のイメージを一新している。
 このシリーズは、開発当初からアンプ動特性を重視し、音楽的な完成度の高さが追求されてきたが、今回一歩進んで、〝ローインピーダンス化4ポイント方式による強力電源回路と給配電ライン〟を中心とした設計により、音楽の感動、興奮といった物理上のハイファイ再生とは次元を異にした芸術領域の音楽成分を充分に再現できる、豊かな芸術性を秘めた新インテグラに発展しているとのことである。
 ローインピーダンス化4ポイント方式とは、①等価直列抵抗を特に小さくした大容量電解コンデンサー ②極太のローインピーダンスケーブル ③大型パワートランス ④徹底したブス(母線)アースラインの採用でアースを含めた給配電ラインと電源部との総合インピーダンスを可能な限り低く設計し、これにより、左右チャンネル間および同一チャンネル内における相互干渉を排除するとともに、強力なエネルギー供給体制をとり、とくに大振幅時の立上がり特性の改善とピークパワーの確保を計ろうとするものである。
 回路構成は、差動1段A級プッシュプルのイコライザー段、差動1段3石構成のオペレーショナルアンプ型のトーンコントロール段、ドライブ段にA級プッシュプル方式を採用したパワーアンプである。
 A7とA5の違いは、パワーが60W+60Wと45W+45W、イコライザー許容入力が230mVと170mVをはじめ、パネル面の機能では、A5でボリュウムコントロールのdB表示、セレクターでのAUX入力、トーンコントロールのターンオーバー切替、ハイカットフィルター、スピーカー切替スイッチのA+Bが、それぞれ省かれている。

ヤマハ CA-1000III

岩崎千明

音楽専科 10月号(1976年9月発行)
「YOUNG AUDIO 新製品テスト」より

 ヤマハのプリメインアンプCA1000が、マークIIIとなって2度目の改良を受けた。もっとも、この改良は、単に改良というだけでなくて、まったく新らしく設計をしなおしたと思われるくらいに変わってしまって、もはや、改良というよりも、新型の新製品といってよかろ
 CA1000IIIは、ヤマハの高級イメージにささえられたオーディオ製品の中核をなすプリメインアンプの中で、最高のランクに地位する機種だ。その品質に関しては、デビュー当時よりもっとも高いクウォリティと、品位のある外観と、さらに、質の高いサウンドとで日本の市場におけるこの価格帯の中でもっとも優れた存在であった。オーディオアンプとしてその完成度は世界の超一流品にも匹敵するといわれてきた。デビュー以来、すでに4年目になろうとした今日、そのすべての特徴は、今も少しも色あせることはない。しかし、オーディオ志向の需要者層が大きく変わった。10万を越えるというこうした高級アンプを買おうというと若がえって、20歳をはるかに切ってしまうほどだ。
 こうした使用者の変革に伴なう使い方、デザイン感覚、さらにはサウンドへの好み、といった大きな条件を踏まえて、ヤマハにとっての「不朽の名作」CA1000を再度改めたわけだ。マークIIへの変革は、内部の改良に伴なう性能向上だけであったが、今度はそうした意味でも新製品ともいえるほどの大向上ぶりである。
 まず、もっとも目立つのは、ふたつのレベルメーターで、これは、最近の高級アンプの新しい動向である。主に、録音マニア達の好みに対応したものと思える。レコーディング・アウト・セレクターというつまみが、新しく付けられて、いわゆるテープモニター・スイッチの大巾な拡大用途に対応している。このスイッチの2つのポジションは、1→2、2→1のテープコピーとなっている。インプットセレクターには、テープ1、テープ2の2つのポジションが独立して付いている。このように単にテープモニター・スイッチを付ける今までのアンプに対してこのアンプのテープ録音への配慮は、不慣れな、初心者にも使いわけが、容易になるように心を配ったものといえる。
 今までにない新しい「フォノ・セレクター」は、カートリッジの種類とか銘柄によって、もっとも理想的使用状態になるようカートリッジの負荷抵抗を選べるようになっている。さらに、特出すべき大きなボイントだが、MC型カートリッジのためのヘッドアンプも内蔵されており、トランスとか、アダプターアンプを加えることなく、そのままフォノ1につないで使用することができ得る。
 もともとこうしたMC型カートリッジ用のヘッドアンプは、ノイズの点でたいへん難かしくて、高価にならざるをえない。だから、プリメインアンプの中に収めるということは、技術的にも価格的にも、とても難かしいことなのである。CA1000の伝統的特徴であるAクラス切換によるパワーアンプのA級動作は、タイプIIIになって、さらにパワーアップされて、用途を拡げた。普通のブックシェルフでも、夜なら充分な音量で楽しむことも、やりやすくなった。
 さて、CA1000IIIは、この改良によって、音がいかに変わったかは、大いに気になるに違いない。ひと言でいうならば、格段に明るく、力強く、特に、ボーカルとソロとが非常にくっきりと、聴ける。

マランツ Model 1250

岩崎千明

ジャズランド 8月号(1976年7月発行)

 今日、米国のオーディオ界で最も成功しているメーカーとして、名前を挙げるのがマランツだ。それは一度でも米国に行ったことのある人なら、否応なしに知らされる事実だ。
 ところで、日本のオーディオ界を考えると、オーディオの各パーツのなかで、アンプが他の部分より成功していることは誰もが気がつくだろう。事実日本の多くの製品が世界のオーディオ界に進出しているけれど、なかでもアンプは他の追随を許さないほどの成功を収めているのだ。こうした、国産アンプの優秀さは国内市場においても明らかで、アンプに関する限り、海外ブランドは超高級品以外は、全く国産ブランドの独壇場といってもよいくらいだ。たった一つの例外を除いて……。
 それが、実はマランツなのである。
 マランツのファンは大きく分けて、二つの世代に分れるといえる。その一つはいわめるオールド・マランツの支持者達であり、今はなきマランツの旧製品を愛する古くからのファンだ。それに対して、黒い窓枠を与えられた個性的なフロント・マスクに代表される新しい製品群を手許に置き、あるいは置きたいと願う若い世代のファンがいる。この両者は重なり合うこともあるし、はっきり区別されることもある。
 ただ、これを個々の製品の内側からみると、ニュー・マランツにおいても、マランツの伝統を踏まえたサウンドを持ち、その意味ではまぎれもなくマランツそのものだ。ただこの二つが違っているのは、ニュー・マランツの、現代のアンプとしての多機能性を盛り込むためにデザインされたフロント・パネルの違いだけだ。
 マランツの製品の最高ランクのプリメイン・アンプとして登場したMODEL1250の大きな特長として指摘できるのは、1150などのそれとははっきりと一線を画したそのフロント・デザインから、かってのマランツのイメージをより豪華にアレンジしてパネルに盛り込んだという点である。高い完成度に優雅さを漂わせたともいえるそのデザインは大いに魅力だ。
 内容的には1150をさらにパワー・アップし、130W+130Wというハイパワーを誇り、テープ回路等に使い易さを拡大した点にある。漸新な回路技術を駆使して得られたその成果は、1250がマランツのみならず、全てのオーディオ・アンプの中の最前線に位置することを示している。
 1250は20万弱と決して安いアンプではない。しかし、オールド・マランツ・ファンも納得し、新しい若い世代のオーディオ・マニアにも熱い眼差しを向けさせるだけの、マランツ・ブランドの最高級たるに相応しいプリメイン・アンプなのである。

ラックス SQ38FD/II

岩崎千明

ジャズランド 8月号(1976年7月発行)

 近く行われる米国大統領選挙に、民主党からはジミー・カーター氏が候補者として指名された。カーター氏はディープ・サウスのジョージア州の出身ということだが、もし米国大統領になりでもすれば、これは大変なことに違いない。ジャーナリズムはカーター氏に対して、大方好意的な評価を下しているようだが、少なくともベトナム戦争やウォーターゲート事件を通過した米国民が本来の民主主義の復活を望んでいることだけはいえそうな気がする。
 これとは無関係ではあるが、偶然にも米国オーディオ界で管球式アンプの復権が著しい。もちろん、管球式アンプが民主主義だというつもりはないが、複雑になる一方のトランジスター・アンプ全盛のなかで、シンプルな管球式が復活し、しかも音もいいとなると、何となくオーディオ界の現状と米国大統領選挙がオーバーラップしてきたというわけだ。
 とはいえ、管球式アンプの復活は、古い形そのままではなくて、現代に通用する新しさを、回路技術的にも、特性的にも、サウンド的にも盛り込んでいるのだ。とにかく、管球式アンプでなければ夜も日もあけぬという、くらいの米国の高級オーディオ、マニア達に最近、その優れた管球式アンプ群によって、俄然注目を浴びているメーカーがある。それがラックスだ。
 ラックスはいうまでもなく、わが国でも数少ない管球式アンプの製造を継続しているメーカーの一つだ。もちろん、ラックスにおいても主力はトランジスター式だが、あたかもこのような情況を見通していたか如く、他社が相次いで管球式アンプの製造を中止していくなかでも、頑なといえるほどにそれを維持し、むしろ新製品を発表したりしているぐらいなのである。これはラックスが当時においても管球式アンプの良さをはっきりと認識し、その可能性さえも予想していたというべきだろう。
 そのラックスの管球式アンプは、最近シカゴで行われたCEショーでも高い評価を得たと伝えられるが、米国でもラックス・アンプの良さを認めるマニアは確実に増えている。
 そうしたラックスの管球式アンプ群のなかでも、わが国のファンに最もなじみ深いのが、世界でも稀な管球式プリメイン・アンプSQ38FDだ。
 発表以来12年、4回のモデル・チェンジを経て、現在の型番となったが、その間、常にわが国の管球式アンプの中心的存在となってきた。
 30W+30Wと出力は控え目だが、一般の家庭で使用する場合、スピーカーの選択さえ誤らなければ、パワー不足になることはないはずで、その気品のある音質は、内容を知れば知るほど価値の高まるものだ。
 技術の進歩の早いハイファイ界において、このようなアンプが生き続けているのは奇跡といわずして、何といおうか。

ヤマハ CA-V1

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 多角的なサウンドへの展開の第1弾となった、X1シリーズに続く、第2弾製品がブラックフェイスのメカニカルなデザインをもつ、新しいV1シリーズである。
 フロントパネルは、やや、薄型となり、両側に取手が付いて、引締ったシャープな表情になっている。2個のレベルメーターは対数圧縮型で50Wまで直読でき、芯ファンクションとして、レコードを聴きながらFMエアチェックができるREC・OUTセレクターがあり、このスイッチにはデッキを使用しないときに信号系から切離すREC・OUT・OFF位置がある。
 回路構成上は、過渡応答を重視したディスクリート2段直結イコライザーは、低歪高SN比設計であり、トーン回路は、ディスクリート構成のアンプを使う、高SN比なヤマハ方式CR・NF混合型トーンコントロールで中央のウネリが少なく、パワーアンプは、カレントミラー回路を使った初段差動1段の全段直結ピュアコンプリメンタリーOCLタイプである。

ビクター JA-S41

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ビクターの新製品は、JA−S51とS31の中間に位置する65W+65Wのパワーをもつプリメインアンプである。
 機能面では、JA−S51に準じた、5段切替モードスイッチ、前面録音端子をもつが、入力切替がフォノ1系統でカートリッジ負荷抵抗切替がなく、テープが2系統になった他、高音フィルターが低音フィルターに替わり、実用性が増している。
 回路構成上では、初段FETで入力コンデンサーを除いたICL型イコライザー、4連ボリュウム採用のプリアンプ部、ドライバー段以後と以前を分離した独立電源をもつパワーアンプを備えている。
 このアンプは、一連のビクタープリメインアンプのなかでは、もっともストレートで明快な音をもっている。とくに、低域の腰が強く、リズミックで活気があるのがメリットである。

Lo-D HA-630

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 この新製品も、セパレート型パワーアンプ、HMA−8300に採用されたと同様な、ダイナハーモニーと名付けられた、E級動作のパワーアンプ部をもったプリメインアンプである。
 回路構成では、イコライザー段に、差動1段の初段をもつ3段直結型が採用され、2・3mVの入力感度にたいして1kHzの最大許容入力は、230mVである。トーンコントロール段は、高利得、高安定度のIC、HA−1456を使ったNF型である。パワーアンプは、差動2段をもった、4電源方式の全段直結高能率ピュアコンプリメンタリーOCLで、20Hzから20kHzにわたり、8Ω負荷で60W+60Wの実効出力があり、1kHzでは8Ω負荷で85W+85Wのパワーが得られる。
 ボリュウムコントロールは、32接点のディテントボリュウムと、−15dB、−30dBに切替わるゲインセレクタースイッチの組み合わせであり、12dBのローカットフィルター、6dB型のハイかっとフィルター、それに、高音と低音を補正するラウドネスコントロールを備えている。
 HA−630は、低歪率設計をシンボライズしたような、柔らかで、歪感がない音をもっている。音のキャラクターが少ないだけに、ダイナミックパワー320Wというパワー感は、聴感上ではさして感じられない。このアンプの際立った特長は、クロストークが抜群に少ないことである。

サンスイ AU-3500, AU-1500

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイから普及型のプリメインアンプが2モデル発売された。2機種ともに、共通のフラットフェイスのパネルをもち、ブラック仕上げになっている。
 AU−3500は、35W+35Wのパワーをもつモデルである。フロントパネルの機能は、プッシュボタンによるフォノ、チューナー、AUX3系統の入力切替、テープモニター、それに、モード切替があり、レバースイッチによるミューティング、ラウドネス、高音と低音フィルターをもつほかにマイクミキシング回路を備えていることが、このクラスのアンプに応わしいところである。
 回路構成上のイコライザー段は、最大許容入力が2・5mV感度で230mV(1kHz)あり、RIAA偏差は±0・5dB以内に調整してある。トーンコントロール段は、2段直結アンプによるCR型であるのが珍しい点だ。ボリュウム及びトーンコントロールは、クリックステップ型ボリュウムを採用している。パワーアンプは、初段にデュアルトランジスターを採用した全段直結型ピュアコンプリメンタリーOCL方式で、電子回路とリレーを使ったスピーカー及びパワートランジスターの保護回路が備わっている。なお、プリアンプの電源も、±2電源タイプでスイッチ切替時のクリックノイズを抑えている。
 AU−1500は、パワーが22W+22Wとなり、機能が2つ少ない。

トリオ KA-9300

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 プリメインアンプのパワーアップは、普及機クラスから、徐々に中級機に波及してきたが、量と質のバランスを要求される高級機ともなると、単なる量的なパワーアップだけでは、シビアなユーザーの要求に答えることは不可能である。
 KA−9300は、一連のプリメインアンプのハイパワー化に加えて性能、音質ともにグレイドアップした高級モデルに相応しいプリメインアンプである。
 回路構成上は、初段FET差動4段直結型ICLイコライザー段、初段FET差動3段直結アンプを使った、高音と低音が分離したターンオーバー切替付NFBトーンコントロールなどをもつプリアンプ部は、43ステップの4連ディテント型ボリュウム採用で聴感上のSN比がよく、左右チャンネル独立電源をもつパワーアンプ部は、FET差動を初段とする差動3段パラレルプッシュプルのICL、OCL、DCアンプで、120W+120Wのパワーがあり、スピーカー端子には切替スイッチをとおらず直接アンプとスピーカーが接続可能なDIRECT端子がある。
 このアンプは、パワーが充分にあるために、低域に安定感があり、クリアーでストレートな音のメリットがよく出ている。聴感上では、さしてワイドレンジを感じさせないバランスをもつが、誇張感がなく、ストレートで素直な音をもっている。このタイプの音は、えてして音の芯が弱く軽い音になりやすいが、充分にあるパワーが低域をサポートしているためにソリッドで安定感のある好ましさにつながっている。DCアンプ採用というとワイドレンジを思い出すかもしれぬが、聴感上は、誇張感がなくナチュラルである。
 操作性は機能が整理されており、使いやすいが、ロータリータイプのスイッチは、フィーリングが不揃いで硬軟の差があり、高級モデルとして他の部分のバランスがよいだけに、ぜひ改良を望みたい。

パイオニア SA-8900II, SA-8800II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアのプリメインアンプとしては中堅機種であるSA−8900/8800が、音質重視の最新回路技術を導入して、IIシリーズに発展改良された。
 新シリーズ共通の特長は、SN比を高め、低歪率化をするために、使用部品を厳選するとともに左右チャンネル間の干渉を防ぎ、音質を向上する目的で電源部には左右チャンネルが独立した、2電源トランスを採用している。
 SA−8900IIは、イコライザー段に初段差動3段直結A級SEPP型アンプを採用し、最大許容入力300mV、RIAA偏差±0・2dB以内という特性と、負荷抵抗、負荷容量ともに、4段に切替わるカートリッジロードスイッチが付属している。トーンコントロールは、パイオニア独自のツインコントロールで、初段差動の2段直結アンプを採用している。
 パワーアンプは、差動2段の全段直結ピュアコンプリメンタリーOCLで、パワートランジスターは並列使用で80W+80Wのパワーがある。
 電源部は、ドライバー以後出力段まで、左右チャンネルが独立した巻線と電流回路をもち、さらにプリアンプ部とパワーアンプ部のプリドライバー段まで、左右独立した安定化電源をもっている。
 SA−8800IIは、イコライザー段の構成は似ているが、許容入力が250mVになり、カートリッジロード切替は、容量だけが4段切替である。トーンコントロールは、ターンオーバー3段切替のレギュラータイプになっている。なお、パワーアンプは、似た構成だが、60W+60Wのパワーである。これ以外については、ほぼSA−8900IIと同じ特長をもっている。

マランツ Model 1250

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 マランツのプリメインアンプは、普及機から徐々にラインナップを固めてきたが、そのトップモデルとして開発されたものが、このモデル1250である。基本的には、コントロールアンプのモデル3600とパワーアンプのモデル250Mを、ひとつのシャーシに組込んだプリメインアンプと考えてよいが、各ブロックのユニットアンプは、かなりモディファイされているように思われる。
 フロントパネルは、いわゆるマランツの伝統的なマランツサイズであるが、デザインは、最近の一連のモデルとは異なり、以前のマランツ同様にフラットフェイスになっているのが目立つ点である。この変更はモデル1250が、セパレート型アンプと比較されるスペシャルクラスのプリメインアンプであることを考えれば、他のモデルとの差別化の意味があろうし、それとは関係ないが、古くからのマランツファンには親しみやすいことは事実である。この変更で、副次的なメリットとして生じているのは、コントロールのツマミが大型化されたことで、実際に使ってみると操作性は、かなり向上していると思われる。
 なお、このモデルも、他のマランツアンプ同様に、オプションのRA−2ラックアダプターを使えば、標準サイズのラックに取付け可能であり、RA−2は、ゴールドメッキ仕上げで、横受ブラケットが付属した業務用的構造の製品である。
 機能は、モデル3600コントロールアンプや、モデル1150プリメインアンプに準じているが、本機独得のファクションとしてレコードセレクタースイッチがある。2個のスイッチがペアとなる、このセレクターは、RECORD・SELECTOR1が、メインのテープデッキの入力を選択し、RECORD・SELECTOR2がサブ、もしくはエクスターナルテープデッキの入力を選択する。2個のセレクターと入力切替スイッチを組み合わせて使用すれば従来のこの種のスイッチより、はるかに、多角的にテープデッキが活用できるメリットをもっている。
 回路構成上の特徴は、初段差動のイコライザー段は、40dBのゲインがあり、許容入力が1kHzで300mVと米国系のアンプとしては、充分なマージンがあり、MC型カートリッジを安心して使用できる。トーンコントロールは、高音と低音がターンオーバー2段切替型で、中音も±6dB変化することができる。パワーアンプ部は、全段直結OCLタイプであり、電源部は、他のモデルにくらべ、かなり強化されている。
 モデル1250は、よい意味で、マランツのアンプが伝統的にもつニュートラルでカラリゼイションのない音を受継いでいる。際立った特長こそないが、他と比較したときに初めてクォリティの高さが判かるという音である。パワーも充分にあり、グレイドの高い点では、セパレート型アンプの域に達したプリメインアンプである。

ビクター JA-S41

岩崎千明

電波科学 7月号(1976年6月発行)

 若いファンにとって求めやすい価格帯のいわゆる、普及形アンプの品質向上がますます加速されている。
 新製品は必らず性能的により高いレベルに要求されるし、実際にそれは遂げられている。同じ価格なら性質は良いし、同じ性能なら価格は安くなった。文字通りお買い得の新形として、常に賛辞を浴びてデビューするというのがこの頃の常識だ。
 だから、今さらここで「ビクターの今度の新形JA−S41は前のくらべて、パワーはぐんと上って65/65W、ひずみ0・05%の高性能、電源トランスは2つ付いてるし電源コンデンサは15、000μFが2つ。性能もSNも抜群、クロストークも格段にすぐれてる」と定石通りにほめ言葉を並べたところで、こんな美辞麗句に馴れっこになってしまった読者の皆さんには、大して気に止めなくなってしまった。馴れというのは恐いものだなんて、長屋のいん居のぐちみたいなことをこぼすひまはここにはないのだが、少なくとも、これだけははっきり知っておいて良い。ビクターの新形アンプJA−S41はまぎれもなく、今までのビクターのアンプ技術の一大集成ともいえる傑作で、音に接しても今までになくステレオ感も自然でくせは本当に感じられず、透明でありながら暖か味さえ伝わってくる。
 歌の生々しさは、音量さえ適切ならばびっくりするほど、眼をつぶって聴くと歌手が眼前で語りかけてくる姿が見えてくるほどだ。マイクに対してのわずかな顔の向きの変り方すら手にとるように判る。バックの演奏者の並び方から楽器の配置、その大きさなど注意して聴けば聴くほどリアルな再生ぶり。それはサウンドのバランスの良さ、音の質的な水準の高さ、さらにステレオ感、セパレーションの良さなくては得られない。
「アンプというのはエレクトロニクス技術だ。だから電気的データが何よりも大切で、これが長ければ実際の動作も音もよいはず」という説はたしかにその通りだ。しかし、電気的性能さえよければそれですべてよいというわけでは決してない。音の良くなる最低条件として電気的性能は必らず要求されるけれど、その辺を十分に認識していないと性能さえよければ音は必然的に良いはずと思い込んでしまうことになるし、それが落し穴とすらなってしまう。しかし、逆に性能なんか無視してもよいというわけでは決してないが、本当の音質の良さの基本になるべき性能の良さというものは、単なる数字で表わせる、というほど簡単なものではない。このところをよく了解しておかなくてはならない。
 たとえば今、話題となっているクロストークについても、セパレーション何dBと数字が良ければそれで本当に良いといえるかどうか。逆にデータの上で、驚異的な数値なんかを発表していなくとも実際には優れているのだってある。ビクターのJA−S41の場合、クロストークに対しての配慮とか処置とかいうだけではないだろうが、電源を左右分離するのでなく、最終出力段とドライバ段以前とを別電源としている。電流変動の大きな出力段を分離することにあって、電源全体的な電圧変動がなくなるため、特に直線性とかひずみとかに強く影著されることがなくなったわけだ。これが同じ価格帯なのにひずみが格段に減り、出力がより大きくなりしかも、ピーク出力でも直線性がよくなった理由だろう。つまり、基本的な性能を重視した新らしい技術的着眼が、アンプの今日的問題点とされているクロストークまでも格段に向上させてしまったということになる。
 それなのにこの新らしい大いなる飛躍は、それをはっきりと知らすことが単なる数値の羅列ではでき難いのである。さぞかしメーカーも歯がゆいことだろう。でもこうした良さは聴く側に耳さえあれば必らず判るものだ。こうして聴いてみることを推めよう。
①左右スピーカを一辺とした正三角形の頂点に座る。
②できれば歌の入った演奏を、ミニチュア化したステージで歌手がある程度の距離で歌っているように再生する。
③アンプのバランス中央のまま右のフォノ端子入力を外す。そのままで左ピーカへと音像、つまり歌手が移動する。次に左フォノ端子を外したときに右スピーカ側に移動する。
④これでよく判らなければ右側フォノを外してアンプ出力端子の左スピーカー側のリード線を外して、8Ωの純抵抗を接続し右側の音を聴き確める。特に高音シンバル、低音ベースなどが洩れていないか。

 JA−S41はこうしたときに数字には表されることのない良さを発揮する。JA−S41の水準にあるアンプは市場の5万台に果して何機種あるだろうか。

ダイヤトーン DA-P10 + DA-A15

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1976年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ダイヤトーンのアンプにかける惰熱がありありとわかる新製品が登場した。今月発売された一連のセパレート・アンプ・シリーズである。プリアンプ2機種とパワー・アンプ3機種が同時に発表されたが、いずれもひとつの明確な思想のもとに開発されたオリジナリティーをもったアンプである。中でも高級機が、今月の選定新製品になったDA−P10プリアンプと、DA−A15パワー・アンプである。このシリーズのアンプでまず目をひくのは、プリ・アンプとパワー・アンプを1台のインテグラル・アンプとしてカップリングできる構造をとったアイデアである。これは今迄、ちょっと考えつかなかった発想ではなかろうか。セパレート・アンプとしての純粋な形からすれば、わざわざカップリングさせるとは余計な考え過ぎという見方もできなくはないが、スペースに制限がある場合、こういう使い方ができるようになっていることはありがたい。しかも、そのドッキング機構もシンプルで確実だし、デザイン的にも、いかにもたくましいインテグラル・アンプの魅力たっぷりな姿が実現する。シャーシ・パネル構造は大変がっちりした頼もしいもので信頼感に、溢れている。
外観が先になってしまったが、肝腎の中身のほうも、セパレート・アンプとしての必然性を十分保証する密度の高いもので、DA−P10もDA−A15も、完全なモノーラル・コンストラクションを採用した本格的な高級アンプなのだ。このコンストラクションにより、従来見逃されていたクロストークの害からほとんど理想的に逃れることを可能にしているのである。両チャンネル間のダイナミックな動作状態においては、クロストークは、単にセバレーション、音像定位などに悪影響を与えるのみならず、歪による音質劣化という現象としての害をダイヤトーンは徹底的に追求したというが、たしかに、このような完全モーラル・コンストラクションによるアンプの音と従来のステレオ・コンストラクション(ただ電源が2台あるだけでは不十分の場合もあり、電源が1つでも急所を抑え余裕のあるものの場合は意外に好結果が得られる)と聴き比べて、臨場感や音像の安定感の差は瀝然なのである。筆者は、2台のステレオ・アンプを使って、この差を確認しているが、それは全体的な音質の差という聴感的な認識をもたらすほどだった。その昔、マランツがモノーラル・アンプを2台カップリングしたアンプを発売していたが、その頃、ステレオといえども、この方式に大きなメリットのあることを某社のエンジニアに話しをしたが全くとり合ってもらえなかったことを思い起こすにつけ、アンプも進歩したものだ? という妙な感慨をもったものだ。薄紙をはぐように、紙一重の音質の向上に、大切なお金と貴重な時間をさいている我々アマチュア精神の持ち主が考えることなど、いちいち聞いてもらえないのも当然だと思っていたものなのだが、最近のようにメーカーが本格的に、こうした地道な基本に目を向け、その成果を定量的なデーターとしても明らかにしてくれることは喜びにたえないのである。
 ところで、このアンプ、いくらモノーラル・コンストラクションがいいといっても、それが全てでは勿論ないし先にも書いたように、ステレオ・コンストラクションでもいいアンプはたくさんあるのだが、音質のほうも、なかなかすばらしい。特にDA−A15パワー・アンプが素晴らしい。差動2段、カレントミー・ドライブ、3段ダーリントンによるピュア・コンプリメンタリー・サーキットは余裕のある安定した電源から150W×2(8Ω)の出力を引き出す。音に深味があって、しかも解像力のよい鋭い切れ込みをきかせる。高域も決してやせないし肉がつく。これに対してDA−P10のプリ・アンプのほうが、やや声域がハーシュに響く。ダイヤトーン独特の高域の華やぎといえるが、筆者にはこれが気になる。高域はもっとしっとり、繊細さと鋭さが豊かさと肉付きを犠牲にしてはならないと思うのだ。これで、そういうニュアンスが再生されたら、倍の値段でも高いとは思えない定価がさらにこの商品の可能性と魅力を高めているのである。
 情熱に裏付けられた、よほどの販売自信がなければ、この品物をこの値段で売ることはできないのではないかと思うほどの価値をもったアンプだ。

サンスイ AU-7700

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1976年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイから新たに発売されたプリ・メイン・アンプAU7700は、一聴して歪のない快よい音が印象的であった。どこかうつろといってもよいような、それは、空胴感をもっているのである。私には、よくも、あしくも、これがこのアンプの音の特長に感じられる。だいたい、従来から、メカやエレクトロニクスのプロセスを通った録音再生音は、あまりにも音の存在感があり過ぎたように私には感じられてならない。色でいえば、不透明な顔料とでもいえるのだろう。一種特有の壁のように私の前に立ちふさがるのである。音には、それが自然音の場合、どんなに衝撃的な迫力のある音であっても空中を浮遊する美しい透明感と、突きあたりのない奥行、つまり立体感に満ちている。このアンプが私に与えた空胴感というのは、いわば、一種、この感覚に近いものであって、これは歪の多いアンプには絶対にないものだと思う。しかしである。自然音の魅力は、そうした透明感、空胴感は、確個とした実体感とバランスを保ったものであって、決して最近の低歪率音響機器と称せられる製品の多くが持っている弱々しい虚弱さとは異るのである。こう書いてくると、いかにも生の音とそっくりの再生音……つまり一頃よく云われた原音再生こそ理想だといっているようにとられる危険性を感じるが、私のいわんとしているのは、それが生であろうと、再生音であろうと、美しい音ならばいいわけで、現状では、自然音のもつ美しさに匹敵する再生音がまだ得られていないというだけのことである。透明感が得られたと思うと力がなくなり、力があると思うと歪感があるといった具合で、なかなか思うようにはいかないのである。このサンスイのAU7700というアンプも、どちらかというと、少々力が足りない。やや歪の多いスピーカーを鳴らしたほうがガッツのある音がする。スピーカーは未だ歪だらけだから、それを鳴らすアンプとしては今の所、解析されている歪は出来るだけ減らしていったほうがいいのである。しかし、問題は歪感のある音……つまり、元々、とげとげしい音、荒々しい音まで、ふんわりと鳴らしてしまうことである。残念ながら、現在の音響機器から、理解されている歪をどんどん減らそうと局部的に改善を重ねていくと、どういうわけか、そんな傾向へいってしまうようなのだ。その証拠に、現在、測定データで歪のもっとも少ないとされるスピーカーは、まるで無菌状態のように、ふぬけの音がするのである。改善が局部的というか片手落ちというか、トータルでのバランスをくずす結果の現象と推察する以外にない。
 このアンプは従来のサンスイのアンプのもっていた馬力というものより、むしろ、よく抜けたすっきりとした音というイメージが濃いが、この辺にサンスイのアンプの進歩を明らかに見出すと同時に、一抹の不安を感じさせられるのである。その不安は、このアンプそのものにあるのではなく、そういう傾向に進んだとしたら……ということだ。サンスイは音の専門メーカーとして、聴感上のコントロールを重視しているので、その心配はないかもしれないが……。音に関する限り、それが研究所内での実験ならいざしらず、テクノロジーだけに片寄っていくとそうした危険を伴う。そういった現状での電気音響技術の不完全性が商品に現われてしまうという事実を認めざるを得ない。現時点での最高のテクノロジーといえども、目的である音(感覚対象としての)を100%コントロールすることは出来ないのである。AU7700は、この点、両者がよくバランスしたアンプであって、商品としての実用性が高い。20Hz〜20kHzの帯域で両チャンネル駆動で50W+50Wの出力が保証され、高周波歪、混変調歪率0・1%以下に収められているが、合理的な設計が随所に見られる最新鋭器である。惜しむらくはデザインで、内容を充分に象徴するところまでには至っていない。リアの入出力ターミナルのパネルがリ・デザインされ便利になっているし、努力の跡は大いに認められるのだが、未消化な面取や無理なスタイリングが高級品に必要なシンプリシティを害している。電源の安定化(±2電源)、配線を極力排した基盤と直結のコネクター類、一点アースなどオーソドックスな技術面での追求によって得られた音質は、このアピアランスを上廻っているのである。初めに書いたように、力強さから、品位の高い透明感に近づいたサンスイの新しいサウンドは、音の美しさを一歩高い次元で把えるマニアに喜ばれるものだろう。

トリオ KA-9300

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1976年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 トリオが昨年一年間にアンプに示した積極的な姿勢は目を見張らせるものであった。その初期に展開したCP戦略は、必らずしも私の好むところではなかったが、見方を変えれば、トリオの生産力の現われとして評価することもできるだろう。KA3300を皮切りに1W当り1000円という歌い文句は少々悪乗りが過ぎたし、オーディオ専門メーカーとしての真摯な態度とは私にはどうしても考えられなかったけれど、その後、KA7300、そして今日のこのKA9300に至って、矢張り本来のトリオであったことを実感させられて嬉しくなった。近視眼的に見れば安い製品の出現や、安売り販売店の横行は、ユーザ一に利をもたらすかのごとく見えるものだが、度を超すと、それが、いかに危険な悪循環の遭をたどるかが明確やある。オーディオを愛す専門のメーカーとして、ここまで、共にオーディオ界の発展向上に尽してきたメーカーならば、こんな事は百も承知のはずで、昨日今日、その場限りの儲け主義で、この世界に入りこんできた連中の無責任さと同じであっては困るのである。まあ、過ぎた小言はこのぐらいにしてKA9300について話しを進めよう。トリオが、アンプの特性と音質の関係について、恐らく業界でも一、二を競う熱心な実験開発の姿勢をとってきていることは読者もご存じかもしれない。いささかの微細なファクターも、音に影響を与えるという謙虚な態度で、回路、部品、構成の全てに細心の注意を払って製造にあたっていろ。その姿勢の反影が、このKA9300に極めて明確に現われているといってよいだろう。前作KA7300という65W十65Wのインテグレイテッド・アンプが左右独立のセパレート電源を採用して成果を上げ、本誌でも、その優秀性について御紹介した記憶があるが、KA9300も、この電源の基本的に優れた点を踏襲し、アンプの土台をがっしりと押えている。この左右独立方式は、パワー・アンプのみならず、プリ部にも採用されて、電源のスタビリティーの高さを図っているものだ。二個のトロイダル・トランスの効率の高さは熱上昇の点でも、インテグレイテッド・アンプには有利だし、それに18000μFの電解コンデンサーを4個使って万全の構えを見せてくれている。この電源への対策は、アンプの音の本質的なクォリティの改善に大きく役立つもので、建前でいえば、基礎工事にあたる重要なものだから、こうした姿勢からも、トリオがアンプに真面目な態度で臨んでいることがわかるだろう。出力は、120W+120Wと大きいが、このアンプの回路は、大変こったものであることも御報告しておかねばなるまい。それは、パワー・アンプにDCアンプ方式を採用していることである。DCアンプは今話題の技術であるが、これが、音質上いかなるメリットを持つものであるかは、まだ私の貧しい体験からは断言できない。しかし、世の常のように、ただDC動作をさせているから音がよいという短絡した単純な考え方はしないほうがよいだろう。DCアンプともいえども、それだけで、直に音質の改善につながると思い込むことは早計であり過ぎるのではないか。アンプの音は、部品の物性、配置、構成などのトータルで決るものだからである。しかし、ごく控え目にいって、このアンプのもつ音は素晴らしく、きわめて力強い、立体的な音が楽しめる。音の質が肉質なのだ。つまり有機的であって、音楽に脈打つ生命感、血のさわぎをよく伝えてくれるのである。DCアンプで心配される保護回路については、メーカーは特に気を配り、ユーザーにスピーカー破損などの迷惑は絶対にかけないという自信のほど示してくれているので信頼しておこう。低い歪率(0・005%定格出力時8?)、広いパワー・バンド・ウィガス、余裕ある出力と、よい音でスピーカーを鳴らす物理特性を備えていることも、マニア気質を満足させてくれるであろう。ベースの張り、輝やかしいシンバルのパルスの生命感、近頃聴いたアンプの中でも出色の存在であったことを御報告しておこう。そして特に、中音域の立体感と充実が、私好みのアンプであったことも……。

ラックス L-30, T-33

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ラックスのプリメインアンプとしては、突然、昨年秋のオーディオフェアで発表されたジュニア機である。外観上は、80シリーズ以前の木枠を使ったフロントパネルをもつために、ラックスファンにと手は80シリーズよりも親しみやすいかもしれない。パワーは、35W×2とコンシュマーユースとしては充分の値で、回路面や機能面でも、従来のプリメインアンプを再検討して実質的な立場から省略すべき点を省略し、価格対音質の比率をラックス的に追求して決定した、いわば気軽にクォリティの高い音で音楽を楽しめるアンプである。
 L30のペアチューナーとしてつくられたのがT33である。価格は、抑えられたが、回路的には最新技術が導入されているとのことで、実用電界強度を表示する信号強度表示ランプがあり、FMミューティング、ハイブレンドを備えている。

ラックス L-85V

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ラックスのプリメインアンプのなかでは、中核をなす位置にあたる80シリーズの製品である。従来、このシリーズには、L80VとL80の2モデルがあったが、これに今回、L85Vが加わり、3モデルで80シリーズが構成されることになった。
 L85Vは、80シリーズトップモデルであるだけに、パワーも、80W×2とパワフルである。外観上は、ラックスの一連のM−6000に代表される新しいアンプに採用されたものと共通なデザインポリシーをもっているが、80シリーズの特長は、フラットなフロントパネルを採用している点にある。しかし、パネルフェイスを立体的に見せるために、コントロールツマミやレバースイッチがアンプ内部のボディにセットされ、ちょっと見るとフロントパネルがフローティングされているように感じられるのが、このシリーズのユニークなところだろう。
 L80と80Vは、共通のフロントパネルをもつがL85Vは、イメージ的には共通だがリニアイコライザーが加わり、スピーカースイッチがロータリータイプになったために、フロントパネルはこの価格帯のプリアンプとして立派なものになっている。
 主な回路構成は、イコライザーにC−1000と同じ回路構成をIC化し、出力段のみがディスクリートのA級インバーテッド・ダーリントン・プッシュプルである構成が採用されている。トーンコントロールは、LUX方式NF型で、ボリュウムには、21接点のディテント型が使ってある。パワーアンプはM−6000などの開発の経験をいかした差動2段の全段直結コンプリメンタリーOCL方式で、プリドライバー段を定電流駆動とし、さらにこれにつづいて定電流駆動のエミッターフォロワーを使い、A級動作のプリドライバー段とB級動作のパワー段とを電気的に分離してスピーカー負荷によるインピーダンス変動が、プリドライバー段におよぶのを防いで、広い周波数にわたる低歪化を図っている。

オーレックス SB-820

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 オーレックスの新製品は、プリメインアンプとしては高級機に属する10万円以上、15万円までの価格帯に投入されたモデルで、パワーは82W×2と、このクラスとしては平均的であるが、とくにテープ関係の機能を重視しているのが特長である。
 外観は、フラットフェイスのフロントパネルに大型のボリュウムコントロールをもつ、かなり現代的な傾向を捕えたデザインである。トーンコントロール関係やフィルター類は、各2周波数を選択でき、このクラスの標準型といえるものだが、フィルターの高域に20kHz、低域に10Hzがあるのは、例が少ない。テープ関係は、リアパネルに2系統の入出力端子をもつ他に、ボリュウムの下側にジャックタイプのテープ3を備え、レバータイプとロータリータイプがペアとなったテープモニタースイッチとロータリータイプのデュープリケイトスイッチがあり、3系統のテープデッキを多角的に活用できる点は注目したい。
 回路構成は、差動2段の3段直結A級イコライザー、FET差動1段の2段直結NF型トーンコントロール、NF型フィルターアンプが、プリアンプ部分であり、パワーアンプは初段の差動アンプがカスコード接続になっている差動2段の全段直結コンプリメンタリーOCLで、パワートランジスターは並列接続でない、いわゆるシングル・プッシュプルである。このモデルも、オーレックス独自のCADISによる一台ごとの実測データがついている。

サンスイ AU-7900, AU-6900, AU-5900

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイから、新モデルとして3機種のプリメインアンプが発売された。これらの製品は、ハイパワーのプリメインアンプであるAU−20000でおこなわれたパワーアップの考え方を、中価格帯に導入したもので、サンスイのいうパワーアップとは、単なるパワーの増強ではなく、質的な高さをも含めた、質量ともどもの向上を意味しているとのことである。また、特性面では、音楽信号を入力するアンプの動特性の改善、低歪化などが追求され、とくに電源部についてはパワーイコール電源という考えで、電源部を重視しているのは現在のアンプの共通の特長と考えられる。
 AU−7900は、75W×2の出力をもつ今回の発売機種としてはもっとも高価格なモデルであるが、従来のAU−9500に匹敵するパワーである。機能面では、中音コントロールをもつTTCがサンスイのアンプの特長である。AU−7900では、高音が2kHz、4kHz、8kHzに湾曲点をもつ3段切替であり、低音は150Hz、300Hz、600Hzに湾曲点をもつ3段切替であるが、中音は1500Hzを中心にして±5dB変化させることができる。
 フィルターは、高音が7kHz、6dB/oct.と12kHz、12dB/oct.であり、低音が20Hzと60Hzと切替可能な12dB/oct.型である。ラウドネスコントロールは、ローブーストとハイローブースト切替型であり、ミューティングは15dBステップの2段切替である。
 回路構成上の特長は、初段に差動増幅を使った4石構成のNF型イコライザーを採用し、特性を改善するためにイコライザー基板は入力端子に直結する構造になっている。パワー部は、初段が物理的に安定度が高いデュアルトランジスターを使った差動増幅をもつ、全段直結コンプリメンタリーOCL方式で、電源部は大型のパワートランスと15000μF×2の電解コンデンサーを採用している。なお、トーンコントロール段は、ディフィート時には信号kからバイパスされるのもサンスイのアンプとしては特長になるであろう。
 AU−6900は、基本的にはAU−7900を基本にしてパワーを60W+60Wとしたモデルと考えてよい。機能面では、TTCの高音と低音がそれぞれ2つの周波数を選択できる2段切替になったのをはじめ、フィルター、ラウドネスコントロールともに一般的なタイプに変更されている。
 AU−5900は、3機種中ではもっともローコストなモデルであるが、機能面ではTTCの高音と低音の湾曲点切替が除かれた以外AU−6900と同等で、逆に考えれば、多機能な機種とも考えられる。
 3機種共通のポイントとしては、プリアンプ部分が発表された規格から見るかぎり、共通なアンプが採用してあることだ。例えば、フォノ1の感度が2.5mVであり、カートリッジ負荷抵抗の3段切替をはじめ、イコライザーの許容入力が250mVと、まったく同じである。電源部の電解コンデンサーの容量も、3機種とも15000μF×2と等しく、プリメインアンプとしてのコンストラクションも、ほぼ共通である。

テクニクス SU-8600, SU-8200

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のアンプに目立つ傾向として、電源部分の音質に影響する点に着目して電源部の強化や、セパレート型のパワーアンプに採用されることが多い左右チャンネルの電源独立の手法が、プリメインアンプのパワーアンプにも採用されるようになっている。しかし、ことパワーアンプに関しては、かつてから経験豊かなファンはモノ構成のパワーアンプを使うことが音質を良くすることを熟知していたし、製品ではマランツの最初のソリッドステート・パワーアンプ♯15が、独立したモノアンプ2台でステレオアンプとしていたことは忘れられない。
 テクニクスのアンプは、従来から物理的な特性を重要視して、特性の優れたアンプが結果として音質の良いアンプをつくり出すというポリシーで開発されているように思われるが、今回の新しい2機種の8000シリーズのプリメインアンプも、とくに動的なトランジェント歪を追求して開発されたとのことである。
 音楽信号のように変化が激しい信号を増幅する場合には、安定度の悪い電源を使うと、無信号でにはアンプが最適動作点であったとしても、信号により電源が変動すると最適動作点からはずれて歪を発生することになり、これをトランジェント歪といっている。この解決は電源部の強化がもっとも有効で、SU−8600では3組の±電源をもつために±6電源方式をキャッチフレーズとし、さらにテクニクス独自のセルフトランジェント歪測定法により、一層の低歪化が図られている。
 フロントパネルは、2機種ともに横幅にくらべて高さが高く、両サイドにある大型のナットがメカニックな感じを出している。大型のボリュウムコントロールは、−30dB〜−40dBの間が2dBステップとなっている26接点のディテント型で、ラウドネス端子が設けられているために、小音量時には自動的に低域が増強されるタイプである。トーンコントロールは高音、低音ともにターンオーバー2段切替型で、SU−8600だけはトーンディフィートスイッチが付いている。フィルターは、SU−8600が12dB/oct.、SU−8200は6dB/oct.である。
 回路構成は、SU−8600の方がイコライザーに差動回路、変形SRPPの2段直結型、トーンコントロール段がカレントミラー負荷をもつ差動増幅を初段とした3段直結型、パワーアンプが差動増幅、エミッターフォロアー電圧増幅、出力段の構成で電源部の電解コンデンサーは15000μF×2となっている。
 一方SU−8200は、イコライザーがカレントミラー負荷差動回路と定電流負荷のエミッターフォロアーの2段直結型であり、パワーアンプは差動増幅、電圧増幅、出力段のシンプルな構成である。電源部は、プリアンプとパワーアンプが独立しており、イコライザーとトーンコントロールは定電圧化されている。

Lo-D HA-1100

岩崎千明

スイングジャーナル 7月号(1975年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 Lo−Dアンプが全製品イメージ・アップして、一挙に新シリーズに改められた。
 歪0・006%と、かつてない驚異的な低歪率特性で、名実とも、Lo−Dのトレード・マークはますますその輝きを増すことになったわけだ。音声出力に対して歪成分はなんと6/10万という信じられない値である。
 今ではすっかりスピーカー・メーカーとして体質を変えてしまったが、英国にリークというアンプ・メーカーの老舗がある。モノーラル最終期の50年代後半までは、英国を代表する高級アンプのメーカーとして今日のQuadよりもはるかに高高いイメージをもった高級志向の実力メーカーであったこのリークの名が、一躍世界の檜舞台へ踊り出て脚光を浴びるきっかけになったのが、歪0・1%のアンプで、その低歪をそのまま商品名としたポイントワン・アンプであった。
 10数年の歳月がたった今日、0・006%と2ケタも低い歪特性が達成されたのが、Lo−Dブランドであるのは決して偶然ではあるまい。例えばLo−Dの名をもっとも早く定着させたブックシェルフ・システムHS500は、歪0・5%という。これがデビューした当時にしては驚くべき低歪特性であったことは有名だ。その後昨年発表した大型スピーカー・システムHS1500は歪率0・1%を実現している。
 カセットにおいても、その常識をぶち破る低歪、ワウ・フラッター特性を、カートリッジにおいても……というようにLo−Dブランドの目指すものが、単にブランドとしての名だけでなくて、まぎれなく実のある低歪を確立しているのは、まさに瞠目べき成果であろう。そして、今日の新シリーズ・アンプの0・006%!
 新シリーズ・アンプに達する以前からも日立のアンプの高品質ぶりは、内側では早くからささやかれていた事実だ。ベテラン・ライターやエディター達はその擾れた再生能力については一目も二目もおいていたともいっても過言ではない。ただ、そのおとなしい再生ぶりとデザインとが、アピールをごく控え目におさえてしまっていた。新シリーズになって、それではデザイン・チェンジによって強烈なイメージを得たかというと、必らずしもそういう派手な形にはなっているわけではない。しかし、ごくおとなしい、つまり大人の雰囲気の中に外見からも格段の豪華さが加わったことだけは確かだ。パネルの右側に配された大型のコントロールつまみ。これひとつだけで、日立のアンプはまったくそのイメージを一新してしまったのだ。もっとも大きく変ったのは、外観ではなくて、0・006%歪の示すように、その内容面の質的向上である。もともと、日立のアンプの優秀性は、その電子技術の所産としての高性能ぶりにあったのだし、今日それは格段の高性能化への再開発を受けし、アンプとしてきわめて高いポテンシャルを獲得したのである。
 日立のアンプの大きな特長、オリジナル技術がこの高性能化の土台となっているが、それは例えば、ごく基本的なパワー・アンプについていえば、インバーテッド・ダーリントン・プッシュプル回路であろう。インバーテッド・ダーリントン・プッシュプル回路を採用しているアンプとしては、米国のマランツ社のアンプがトランジスタ化と同時に今日に至るまで、高級品がすべてインバーテッド・ダーリントン回路である。。他社製品が多くコレクタ接地回路のパワーステージであるのに対してのインバーテッド・ダーリントン回路はエミッタ接地のPP回路だ。これによって、パワー段の増幅度が大きくなるので、パワー・アンプは増幅度が高く、回路構成は簡略化されるので低歪のためのNFは安定化されるし、基本的に低歪であるが、そのためにはドライバー段の設計はきわめてむつかしいといわれ、マランツのアンプが日本メーカーコピーされることがないのもその辺が理由であった。日立の場合はすでにキャリアの永い「定電流駆動ドライバー段」の技術の延長上にこうしたインバーテッド・ダーリントンPP回路が成果を結んだとみてよかろう。
 パワー段のみに眼を向けるだけですでに紙面が尽きてしまったが、あらゆる点にLow Distortionへのアプローチとしてのオリジナル技術があふれる日立アンプは、他社にみられないすばらしい再生ぶりを発揮してくれる。品の良い力強さ、透明感あふれるサウンドが何よりこのアンプの高品質を物語るのである。

トリオ KA-9006

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 7006の音質をベースに、パワーの増加とそれにともなう中~低音域のいっそうの充実感で、耳当りのいい穏やかな音色ながらバランスの良い音質を響かせる。