岩崎千明
ジャズランド 8月号(1976年7月発行)
近く行われる米国大統領選挙に、民主党からはジミー・カーター氏が候補者として指名された。カーター氏はディープ・サウスのジョージア州の出身ということだが、もし米国大統領になりでもすれば、これは大変なことに違いない。ジャーナリズムはカーター氏に対して、大方好意的な評価を下しているようだが、少なくともベトナム戦争やウォーターゲート事件を通過した米国民が本来の民主主義の復活を望んでいることだけはいえそうな気がする。
これとは無関係ではあるが、偶然にも米国オーディオ界で管球式アンプの復権が著しい。もちろん、管球式アンプが民主主義だというつもりはないが、複雑になる一方のトランジスター・アンプ全盛のなかで、シンプルな管球式が復活し、しかも音もいいとなると、何となくオーディオ界の現状と米国大統領選挙がオーバーラップしてきたというわけだ。
とはいえ、管球式アンプの復活は、古い形そのままではなくて、現代に通用する新しさを、回路技術的にも、特性的にも、サウンド的にも盛り込んでいるのだ。とにかく、管球式アンプでなければ夜も日もあけぬという、くらいの米国の高級オーディオ、マニア達に最近、その優れた管球式アンプ群によって、俄然注目を浴びているメーカーがある。それがラックスだ。
ラックスはいうまでもなく、わが国でも数少ない管球式アンプの製造を継続しているメーカーの一つだ。もちろん、ラックスにおいても主力はトランジスター式だが、あたかもこのような情況を見通していたか如く、他社が相次いで管球式アンプの製造を中止していくなかでも、頑なといえるほどにそれを維持し、むしろ新製品を発表したりしているぐらいなのである。これはラックスが当時においても管球式アンプの良さをはっきりと認識し、その可能性さえも予想していたというべきだろう。
そのラックスの管球式アンプは、最近シカゴで行われたCEショーでも高い評価を得たと伝えられるが、米国でもラックス・アンプの良さを認めるマニアは確実に増えている。
そうしたラックスの管球式アンプ群のなかでも、わが国のファンに最もなじみ深いのが、世界でも稀な管球式プリメイン・アンプSQ38FDだ。
発表以来12年、4回のモデル・チェンジを経て、現在の型番となったが、その間、常にわが国の管球式アンプの中心的存在となってきた。
30W+30Wと出力は控え目だが、一般の家庭で使用する場合、スピーカーの選択さえ誤らなければ、パワー不足になることはないはずで、その気品のある音質は、内容を知れば知るほど価値の高まるものだ。
技術の進歩の早いハイファイ界において、このようなアンプが生き続けているのは奇跡といわずして、何といおうか。
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