「テスト結果から 私の推選するプリメインアンプ」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より

 個人的に推選できる機種をあげよ、というテーマなので、その基準または根拠をはっきりさせておきたい。
 前回参加した27号でも書いたことだが(27号144ページ)、一流の音楽家が心をこめて唱い演奏した音楽が聴き手を心の底から感動させるのなら、それを正確に録音し再生できれば、レコードからでも感動を味わえる筈だ。筈、などという必要もなく現に私が永いレコード歴の中で、何度もそういう感動をこの身で体験している。そういう良いレコードと、そこから音楽のエッセンスを確かに拾い上げてくれるカートリッジと、それを可及的に正しく再現してくれるスピーカーとがあれば、その中間に置かれたアンプの良否がはっきりと聴き分けられる。物理特性がいかに優秀だと説明されても、音楽の感動、少なくとも演奏会の息づかいや気配のような人間臭さを、伝えてくれないアンプを、私は正確な増幅器だとは思えない。良いアンプは必ず、音楽を聴く喜びをもたらしてくれる。
 仮にどれほど歪みの少ない、きれいな立派な音がしても、どこか無感動に、よそよそしく、あるいは気配を少しも聴かせてくれないアンプは、私は使う気になれない、……そう、この「自分で使う気になれるアンプ」だけを、推選機種としてあげたい。価格の高い方から、ただし同一メーカーはひとつにまとめて書くと──、
■マランツ ♯1250 キリッとしまったブライトな音の魅力。これで柔らかい音の味わいがあれば申し分ない。
■ラックス 5L15 低域の量感があればさらに良いが現代的な解像力の良いクールな音が魅力。
■ラックス SQ38FD/II 5L15と対照的な、しかしそれだから存在理由のある暖かい音の魅力。
■ラックス L309V 新しさはないが安心して聴けるバランスの良さとソフトな耳ざわりの良さ。
■ローテル RA1412 上質の滑らかな音とバランスの良さ。音とデザインが少しちぐはぐだが。
■ヤマハ CA2000 上品ですっきり型だが、明るく美しい。こまやかでクールな音質。
■トリオ KA9300、KA7300D いくらか硬質の音だが、表彰の豊かさが独特。
■オンキョー A722/nII 音密度と力では最新型にわずかに及ばないが、ウェットで表情のこまやかな艶のある音色は類のない魅力。
■サンスイ AU707、AU607 607の方が表情に張りがあって若々しい。707はウェルバランスともいうべき安定感のある音質。
■デンオン PMA501 6万円を切るランクで、音の彫りの深さが魅力。ただし試聴記でふれたように、ノイズの不安定なところは? として残るが。
         ※
 次点としてはテクニクス80AとソニーTA5650があげられる。80Aは表情の豊かさまたは味わいの深さがもう少しあればよいと思ったが、やや薄味ながら歪み感のない美しい音は特筆すべき魅力。ソニーはバランスの良さと明るい力強さが良い点だが、反面、もうひとつ細やかな繊細感が出せれば素晴らしいアンプになる。また、パイオニアの各製品は、どのランクをとっても、全く美事といってよいほど中庸のバランスに仕上っていて、アンプの音にとくに個性的な音色を求めないユーザーには、むしろ安心して推められる製品だ。試聴記でも書いたことだが、音質ばかりでなくデザインや操作機能を含めて、およそこれくらい、あらゆる角度からみて中道精神で統一された製品をつくるというのは、実はかなりたいへんなことだと思う。
 それら以外にも、ダイヤトーンDA−U850、ソニーTA3650、トリオKA7100D、オンキョーA5等が、私の好みとは違うがそれぞれに良いところを持った製品だと思った。

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