ピクソールのレコードクリーナーPixall MKII、Permostatの広告(輸入元:東志)
(オーディオアクセサリー 27号掲載)
Category Archives: アナログプレーヤー関係 - Page 10
ミルティ Pixall MKII, Permostat
マイクロ SX-8000, MAX-282
オラソニック SR-831S, DF-100, LT-5, DS-200G, DS-250, DS-500G, GT-1000, SG-2E, AV-1, AV-11, AV-101, RC-1, SP-7, BC-1, BC-1B, NC-1
ノリタケ NC-02, Ceramic Base
オルトフォン SPU
菅野沖彦
オーディオアクセサリー 27号(1982年11月発行)
「MCカートリッジの原点 オルトフォン・SPUストーリー」より
オルトフォンからSPUカートリッジが誕生したのが1959年。ステレオレコードが売り出されたのが1957〜58年ころだから、ほんとうにステレオの初期に開発されたカートリッジである。しかも、誕生いらい20数年を経た現在、いまだに現役のカートリッジとして活躍しているということに驚く。
しかも、たんなる骨董品としてではなく、いろいろなカートリッジを使っていながら、レコードを聴くという原点に立つとき、やはりSPUに返ってしまうというファンがたくさんいるという現実、これはまさにオーディオ界の神話といってよいだろう。
とくに、私がSPUカートリッジに深い思い入れを感じるのは、たんにロングライフであるだけではなく、オルトフォンという会社が、SPUのみならず、音の歴史の中で非常に技術的に見て、先駆的な役割を果してきたということによる。
もちろん、エジソンが録音再生の原理を実用化し、ベルリーナがそれをさらにリファインするというレコード音楽の歴史の中で燦然と輝く先駆者の名も出てくるわけだが、それらに優るとも劣らない数々の先駆的なテクノロジーを確立してきたのが、このオルトフォンという会社なのである。
ここで簡単にオルトフォンの歴史を振り返ってみよう。オルトフォンはピーターセン、プールセンという2人のエンジニアによって、デンマークのコペンハーゲンで1918年に創立されている。
そして、映画のトーキー撮影を成功させたのは他ならぬこのオルトフォンの創立者ピーターセンとプールセンなのである。
したがって、大体第2次大戦までは、オルトフォンという会社はずうっとトーキー関係の機械をつくってきた会社であった。そして第2次大戦中に、この2人の優秀な技術者は、いろいろな開発を手がけ、まずレコードのカッターヘッドの開発を行った。ムービングコイル型のカッターヘッドの誕生である。
ムービング型カッターヘッドをつくったら、やはりムービングコイル型のカートリッジをつくらなくてはということでもちろんモノラルではあるが、カートリッジをつくっている。
こうしてオルトフォンは第2次大戟後は、レコード産業に非常に積極的に参入することになる。
こうした先駆的テクノロジーをつぎつぎと生んだオルトフォン。そしてオルトフォンを生み、育んできたデンマーク。
この、国としてのデンマークも私は好きだ。
昔は海賊=バイキングの国だが、その民族性は非常に秀れている。総人口がわずか500万人。東京の人口の約半分である。そして国全体がフラットで、北欧ではあるが、メキシコ湾流という暖流のおかげで、気候は比較的温暖。牛や豚を飼い、チーズ、ミルク、バターの、世界でも有数の産出国でもある。そういった農業国でありながら、前述のように最新のエレクトロニクス・テクノロジーを持っている。そしてまた、超モダンなデザインの国でもある。インテリアデザインに関してはデンマークは世界をリードしているほどだ。
こうした最新の美感覚と、そして最新のサイエンティフィックなテクノロジーとそして農業が、非常にバランスよく発達していることがデンマークという国がいかにすばらしい国であるかを物語っている。
そして何よりも人間がすばらしい。優秀な頭脳を持ちながら、なおかつ朴訥さを失わない。温かい人柄の国民性を感じるのである。
私はどういうわけかこの国といろいろな縁があって、ずいぶんたくさんの知り合いをもっている。そのひとつにデンマークが私の好きなパイプの生産国であるということがあり、パイプ作家の友人も数多い。
SPUカートリッジがこれほど息長くオーディオファンの心を魅了しつづけてきた理由も、こうした豊かな風土、民族性に大きくかかわっていると私は思う。
その後、オルトフォンにおけるレコード機器関係のビジネスは拡大し、メッキ槽やメッキシステムをほじめ、一貫生産のレコード製造システムを完成させている。こうしたレコード生産技術の高度に蓄積されたノウハウから、SPUカートリッジが生み出されてきた。だからSPUは、ステレオのほんの初期のカートリッジでありながら、いまだにムービングコイル型カートリッジのお手本とされるという先進性をもかねそなえているわけだ。実に多くのMC型カートリッジが、このオルトフォンSPUの原理構造を軸にして発展してきている。
非常にシンプルで巧みな構造で、カンチレバーの支点から針先にかけて、平行にヨークを置き、そして、磁性材をワクに使った2組のコイルを最もカンチレバーの有効なポジションに置き、平行したNSの磁界の中をコイルを動かして、左右の出力を生むというこの基本構造ゆえに、その後、ほとんどのMC型カートリッジはそれをそのまま踏襲するか、あるいは、多少リファイン、ないしはそこからヒントを得た発想を展開してきている。
まさにムービングコイル型カートリッジのルーツなのである。
私が初めてこのカートリッジと出逢ったのは1962〜3年のことだと記憶している。
59年に開発され、60年には日本に輸入され、好きな人たちの間でたいへん評判をとった。しかし、当時としても非常に高価なもので、われわれ若い人間にとってはそれを買うということは夢のまた夢。なにしろ、カートリッジだけではレコードを再生できないから、それ相当のトーンアームが必要だし、ターンテーブルも必要だということで、当時はオルトフォンのトーンアーム、さらには、SMEのトーンアームにオルトフォンのSPUを付けるというのが最高の組合せとして、マニア垂涎の的であった。
ふっくらとした丸味を持った、重厚なSPUのスタイリングが、どれほどわれわれオーディオ好きな人間の心をとらえたかわからない。
いま思い出しても、あの赤いレザー張りの木箱に納められた、真っ黒の立体的なSPUを見るときのゾクゾクした気持ちは一生忘れられない。見るからに、すばらしい音がしそうなカートリッジであった。ヤマハの銀座店などへ、SPUを見によく行ったものだ。
当時のカートリッジというと、マイクログループのレコードができてきて、小型で繊細な感じのカートリッジがふえてゆくなかで、あのSPUのGシェルが、非常に堂々と大きく立体的にこんもりと盛り上がった何ともいえないものであった。とくにSPU−A、SPU−G、SPUーGTとさまざまのバリエーションがあるのも魅力である。
Gシェルはこんもりと盛り上がった丸いシェル、Aシェルは角型の、しかしやはりRのついたふっくらとした角型のシェル、そして、Gシェルの中に昇圧トランスを内蔵したGT。大きく分ければこの3つのバリエーションがあり、それぞれ異った魅力を漂わせる。
とくにトランスがあのGシェルの中に組み込まれたGTの緊密感、密度の高いフィーリングがなんともたまらない魅力だった。しかもオルトフォンのつくったトランスだから、最も相性がいいに違いないという信頼感もあり、私はオルトフォンのSPU−GTを買いたいと思いつづけて、何年かの時を無為にした。それだけに手にしたときの喜びの大きさはたとえようもないほどで、いまだに大切に持ちつづけているほどだ。
買った当時は、レコードを聴いたらすぐはずして、またこの木箱の中へ納め、フタを閉めたかと思うとまた開けて聴く。そうこうするうちに、夜寝るときは枕元へ置いては眺めるというぐらい気に入って、とにかくためつすがめつといった状態であった。
とにかく、そこまで入れ上げて、SPU−GTを使ったわけだが、出てくる音が、血のかよった何んとも暖く、逞しく、ふくよかで、ドッシリとした重量感に加え、艶と輝きに満ちた楽器か何かのような実在感に圧倒される思いであった。
音楽がとにかく豊かに表現力をもってわれわれに迫ってくる。他のカートリッジを持ってしては、逆立ちしても、こういう音は聴き得なかった。もちろん、それまでにはいろいろな国産のカートリッジや、アメリカ製のカートリッジを使っていたが、このオルトフォンのSPU−GTで聴く音の充実感というもの、そして感激はいまだに忘れずに残っている。
その感激は、自分の持っているレコードを全部もう1度聴き直してみたい衝動に駆りたて、実行させるほどだった。脂がのったといおうか、とにかくすばらしい音の世界をくりひろげる魔力を持ったカートリッジである。
毎日がレコードとSPUカートリッジの日々。とにかく、SPUカートリッジを見る、触れるのが嬉しかった。
それを黒々と照り映えるレコードの上にスーッと置いて、ボリュームをスーッと上げた時に出てくるドッシリとした響き、腰のすわった響きがなんとも形容しがたい魅力であった。
だいたい私は、低音が充実して、地に足のついた、ドッシリとした構えの音に惹かれる。音とか、人間の感覚の実の根源はそこにこそあると思う。思想でも、精神でも、美意識でも、すべて大地というものが根源に成り立っていなければよしとはしない。
そういう意味で私はドイツ音楽をとくに好む。ドイツ音楽の和声の特徴というのは、非常にドッシリとした低音の上にバランス良くピラミッド型に積み上げられている。ベートーヴェンのオーケストラのトゥッティなどを聴くと完全にそのとおりで、非常にガッチリとした建築物を思わせるような、安定した堂々とした和音が聴かれる。こういう特徴が、私はオルトフォンのSPUカートリッジにあるように思う。これはノイマンのマイクロホンや、カッティング・イクイップメントにも感じられる共通した特徴である。オルトフォンのカートリッジは長くずっとノイマンなどのプレイバックカートリッジのスタンダードとして使用されていることを見ても、こうした一貫性が見てとれよう。
そのオルトフォンが一方では新しい現代カートリッジを生み出しており、常にカートリッジ界のテクノロジーをリードしている。MC10II、MC20II、MMC30などがそうだが、これはSPUシリーズの流れをくんだサラブレッドである。もちろん細部には多くの改良を施してはいるが、基本的な原理構造はSPUに準じている。いわゆる現代の物理特性にリファインしていっているわけである。
脈々といまだにSPUの基本技術はこれら後継モデルたちに流れ続けているわけである。しかもそのSPUカートリッジがいまだに現役として生きているということは、孫や、ひ孫と一緒に、カクシャクとして活躍しつづける気骨ある祖父といった風情で、実にすばらしい光景といえよう。
私はオルトフォンの技術者とも、様々なカートリッジ議論を重ねたが、その都度、教えられることがある。それは、彼等はただひたすら忠実なカートリッジをつくることに頑固であるということだ。いかに優れた特性のカートリッジをつくろうかということに全力を傾けている彼等の姿勢にいつも心うたれる。
私は、オルトフォンのこうした基本に忠実な姿勢、進歩的であり、かつ保守的であるという、進歩と保守がつつましくバランスしているところに魅力を感じる。
実に大人の魅力であり、老舗のもつシットリとにじみ出てくるような優しさが私は大好きだ。
トーレンス Reference
菅野沖彦
ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「THE BIG SOUND」より
モスグリーンとブラウン、そして、ゴールドというカラーコーディネイションはシックでソフィステイケイテッドな美しさだ。そして、この感覚、まさにヨーロッパ的洗練といえるだろう。ヨーロッパの秋から冬にかけての、女性の装いで、よく僕の眼を惹く美しさと共通した、それは色合いなのである。ある晩秋の午後、アルスター湖のほとりのカフェで見かけた美しい婦人の着こなしを想い出す。ソフトなグレイがかったブラウンのスーツ、胸元に、大きく美しいリボンとフリルのついたベージュのブラウス、そして、彼女がしなやかに席を立ったとき、その肩にはおられたコートはモスグリーンであった。それらは、美しい金髪と見事に調和し、足元に踏みしめる枯葉とも、灰色の空を突き刺すように寒々と立ち並ぷ冬の樹々とも、そして、どんよりとした雲を映す湖面とも溶け合っていた。僕は、カフェのガラス越しに歩み去る彼女が見えなくなるまで、小さな感動を味わいながら凝視し続けたのを忘れない。
トーレンス・リファレンスのフィニッシュのセンスは、こうしたヨーロッパの人々のセンスと無関係であるはずがない。その、あまりにも機械そのもののオブジェだからこそ、トーレンスは、この色を選んだのだろう。もともと、市販することを考えずに、自社の実験用として作った機械だが、それが家庭に入り込むことになったとき、彼らは、ごく自然に、この色を選んだ。当初の実験機は白く塗装されていた。また、このリファレンスの姉妹機である、EMTのプレーヤーのフィニッシュは、うたがいなくスタジオ・ユースとしてのセンスが見られる。このリファレンス、粗末ながらも、我家の生活のインテリアの中においてこそ、周囲と調和し、いちだんと美しく見えるから不思議である。
とはいうものの、このプレーヤー・システムは、決して流麗な姿とはいえないし、デザインが優先したものでもない。機械としての必然性が、この造形となったと見るぺきものだ。総重量90kgのウエイトは、視覚からも感じられる。この重量は、プレーヤーにあっては即、クォリティといってよい。優れたプレーヤーは重くなければ駄目だというのは真理であるからだ。しかし、ただ重ければ、剛性が高ければよい、というのは間違いであることを、このリファレンスは強い説得力をもって我々に訴えている。100年になんなんとするトーレンスの音のメーカーとしての歴史が、連綿とノウハウを蓄積し、アナログ・ディスクから、いかにして良い音を引き出すかという課題に対する解答をここに提示しているのである。これを、より詳細に理解するために、我々は、ここに、このプレーヤーをワッシャー一枚に至るまで分解することを試みた。賢明な読者は、前々頁に掲載した写真をじっくり眺められれば理解されることと思うが、多少の解説を試みることにしよう。
まず、各部の重量配分である。俗にターンテーブルの重量ばかりを気にする風潮があるが、これは、きわめて片寄った近視眼的見方であって、ターンテーブル・システムのトータルとしてのパフォーマンスは、ターンテーブルを支えるベースとの重量配分が絶対に重要である。ターンテーブル自体の重量は、慣性モーメントによる回転のスムース化に益のあることば確かだが、慣性モーメントの数値の大きさだけを部分拡大解釈して、即、プレーヤーのパフォーマンスの優秀性と思い込むのは素人である。さらに、それだけを売物にしているかのような商品も見受けるが、バランス設計のなんたるかを理解しないアマチュア・メーカーと断ぜざるを得ない。このバランス設計ということは、ことターンテーブル・システム自体の問題に止まるわけではなく、大きく、録音再生のトータルの視点、また、一般家庭で使う現実性をも踏まえたものでなければならないのである。リファレンスのターンテーブル自重は6・6kgである。材質はアルミ・ダイキャストに木材が付加されている。木材については後述するが、この6・6kgという重量は、決して軽いほうではないが、必要かつ充分な重量で、馬鹿重くはない。慣性質量にして、1300kg/㎠ぐらいになるだろう。これに対して、ベースの総重量は、約80kgある。このベースは二重構造で、写真で解るように巧妙なサスペンションによって、4本柱で吊られているフローティング・ベースと、そのサポート・ベースに分れている。そして、ターンテーブル自体は、フローティング・ベースに取付けられていることはいうまでもないが、この共振点を2・5Hz~9Hzに可変できるアジャスタブル機構が設けられている。4本のゴールドフィニッシュ・ポールの外側にあるワイヤー・テンション・コントローラーにより調整する構造である。そして、このフローティング・ベースだけでも、約50kgの重量を持っている。しかも、このフローティング・ベースの周辺部には、アイアン・グレインと呼ぼれる粒状の鉄をオイルで練ったものがぎっしりとつめられ、Qの小さい集中マス・コントロールを施してある。因みに、リファレンスにおいて、ターンテーブルとベースの重量配分は6・6kg対80kgとなり、約1対12である。一般に超弩級とされるターンテーブル・システムのほとんどが、1対4の割合であることを知るとき、その差に驚かされる。つまり、もし、ターンテーブルが6・6kgなら、ベースは27kgほどでしかない。中には20kgもあるターンテーブルのベースが僅か、50kg強、その3倍弱というものさえある。無論、これも単純に考えては過ちを犯すことになるが、ターンテーブルの自重だけに目を向けることの反省としていただければ幸いである。それよりも重要なことは、カートリッジに出来るだけ余計な共振性をもたせないことである。つまり、ごく大ざっばにいえば、トーンアームの設定共振点(低域は8Hz近辺のものが多い)以下に、ベーシックなf0を抑え、かつ、ターンテーブルのQを下げて、ターンテーブル鳴きの害をカートリッジの針先に与えないことだ。トーレンスは、このリファレンスにおいて、6・6kgのターンテーブルによって、必要な慣性質量をもたせながら、シャフト、ベアリング、サスペンションの実用精度とその耐久力、安定性を確保し、ターンテーブルの内側にがっちりと木枠を圧入することによりQをコントロールしている。そして、ターンテーブル表面には、特殊なウール材を張り、極力ターンテーブル自体の鳴きを殺し、これを、その12倍もの重量ベースにマウントすることによって、静謐な回転系を構成しているのである。
この静粛な回転の原動力は、重量級システムとしては、驚くほどさりげない小型のシンクロナス・モーターである。おそらく、リファレンスに長く接したことのない誰もが抱く不安であろう。いうまでもなく、6・6kgの重いターンテーブルをベルトドライブさせるにしては、トルク不足の印象を与えがちである。電子コントロールによって3スピードの選択が行える、このシンクロナス・モーターは、プーリーの外径から判断して、低速モーターであり、特にSN比に気を配った設計がなされているとはいえ、もう少しトルクが欲しいと思わせるほどに小さい。にもかかわらず、トーレンスは、これをハイ・トルク・シンクロナス・モーターと称している。
モーター本体は、固定ベースの上に立てられた3本のアルミシャフトに取付けられている。前述したように、フローティング・ベースは、コイル・スプリングとリーフ・スプリングの二重構造によって固定ベースから吊られており、モーターの機械振動が、信号系に対して絶縁される構造になっている。しかし、強力な大型モーターの採用を避けることで、よりいっそうの静かさを達成することができるとすれば、起動トルクの小ささにあえて目をつむることは、動かし難い必然性を滞びてくるだろう。どのような微小なレベルの信号も汚したくないという設計理念の高さが、この小さなモーターを使わしめたのである。
リファレンスは、局用のターンテーブルではない。一般のレコード再生において、少なくとも立上りにやや時間を要するということ以外に、トルクの不足はない。また、これ以上のトルクを望むことが、まったく馬鹿げたことに思われるほどに、定速に達した、大きなイナーシャを持つターンテーブルは、安定した回転を得ている。ただ、このプレーヤーの難は、ドリフトがやや大きいことだ。クォーツ・ロック式のターンテーブルに馴れた人には、やや気になることかもしれない。これは、将来、是非とも改良してほしい点だ。
リファレンスにはアーム・ベースが3台付属していて、フローティング・ベースの構造と同じように、アルミダイキャスト・ベースにはアイアン・グレインが充填されている。もちろん、これでベースの共振を抑えているわけだが、さらに、アーム取付けボードは木製となっている。アーム・ベースという小さな部分にさえ、Qを下げて共振を柔らげようという思想が貫かれているわけである。アーム・ベース自体のQが大きくなっては、アームを伝わったベースの鳴きが、再生音に悪影響を及ぼすことはいうまでもない。しかも、アーム・ベースはフローティング・ベースに金属面を境にして直接触れるのではなく、アーム・ベース底面に貼られたフェルト・テープを介して固定される。ここにも、剛性を上げることだけでは、良い再生音につながらないという徹底した設計コンセプトが伺えよう。
約1・2kgの重量をもつアーム・ベースの中に、マイクロ・モーターが組み込まれ、アームリフターが動作する。リフタ一組込みベースは背がやや高く、アームによってはターンテーブルに対して水平がとれない場合がある。この場合は、低いベースが用意されているので、それを用い、リフターは、アーム付属のものを使えばよい。この辺りが、いかにも、メーカーが自社の実験用リファレンス(比較原器)として作ったものらしく、商品としての未完成要素を感じるところだが、それほど重大な欠陥ではない。かつて私が、この機械に惚れ込むあまり、これを購入し、その親しみ故に、設計ミスなどという言葉を不用意に使って愛のムチをくれたことが針小棒大に伝わり、誤解を招き、戸惑ったものだ。欠点のない人間はいないのと同じように、欠点のない機械もない。強い主張をもって作り出された機械であればあるほど、見方をかえれば、そのコンセプトや、センスを欠点として指摘することも容易である。現代は、むしろ、そうした製品が少なく、高級機にしか、真の個性が発揮されない淋しいオーディオ界である。ディジタル時代が云々される中で、ここまで徹底したアナログ・プレーヤー・システムを作ったトーレンスの心意気と、その豊富なノウハウの蓄積による主張は、まことに小気味よく爽快である。もとより、全くの手作業による少量生産であるため、大変高価ではあるが、この価値を認める人の数は少なくはないはずだ。それは、このプレーヤーにふさわしいトーンアームとカートリッジを使い、正しく調整した時に得られる音を聴けば何より明白である。そして、このリファレンスの〝存在感〟は、そうした優れたパフォーマンスと相俟って、時には、それを超える大きな喜びを味わえる。レコードをかけることの楽しさとは、本来、このようなものであるはずだ。それは、使う人、つまりレコードをかける人の知性と感性と情緒の介在の余地を無限に残す世界だからである。
ピカリング XSV/5000
井上卓也
ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より
米国のカートリッジメーカーとして、かつてのLP時代に高出力MI型カートリッジ、いわゆるピカリング型で一世を風靡した米ピカリング社から、同社のトップモデルに位置づけされるXSV/5000が新製品として発売されることになった。このモデルには二種類が用意され、XSV/5000がカートリッジ単体の製品、XSV/5000Sがヘッドシェル付の製品である。なお、このモデルと同時に従来の625Eに代表される音楽ファンのためのシリーズの新製品としてXEV/3001とXEV/3001Sが発売された。
XSV/5000は、ピカリング製品を分類すると二シリーズあるうちの、いわばラボラトリー・リファレンス的な意味あいの強い高性能シリーズの新製品で、従来の3000や4000の性能を、PCM録音やダイレクトカッティングなどのプログラムソース側のハイレベルカッティングに対応するために、特にトレーシング能力を重点に性能を向上したモデルである。
白とゴールドの対比がシャープな現代的なイメージを抱かせるボディと、特徴的なブラシが付属するボディの内側には、立上がり時間10μsecというトランジュント特性と、10〜50000Hzの広帯域レスポンスをもつ軽量振動系が組み込まれている。
カンチレバー材料などの詳細は公表されていないが、振動系質量に直接関係があるスタイラスには従来のステレオヒドロン針をベースに、一段と軽質量かつ密着性を高めたヌード・ステレオヒドロン針が新採用され、音溝に対する機械的インピーダンスを低減し、ディスクからのエネルギー伝達効率を向上させているとのことだ。
XSV/5000は、シャープで鋭角的に音をクッキリと浮き立たせる特徴と、洗練された雰囲気を備える、ピカリング独特のサウンドキャラクターを受け継ぎながら、一段とローレベルの分解能が向上した抜けのよい、ワイドレンジの音が際立つ製品だ。聴感上のSN比が高いため、ステレオフォニックな音場感は見通しよく拡がり、音像定位も非常にクリアーな新しい魅力が従来にない特長だ。表現力は豊かで、ソリッドで力のある低域をベースに華麗なサウンドを聴かせる。この質感の見事な低域がこのモデルの最大の美点で、柔らかなスピーカーやアンプをキリッと引き締めてくれる。
オーム AC-200, LB-300, ST-580, CQ-2, CA-70, SL-15, JT-50, PRO-10, OHC-002
オルトフォン SPU-GOLD GE
マイクロ SX-777, BL-101, BL-111
シュアー V15 TypeIV, V15 TypeIII-HE, V15LT, M97HE-AH, M97LT, M95HE, M75HE Type2, MV30HE
ビクター QL-A75
デンオン DP-52F
パイオニア PL-50LII
SAEC WE-407/23
ソニー XL-15, XL-30, XL-40, XL-44L, XL-44, XL-50, XL-55pro, XL-70, XL-88, XL-88D
マイクロ SX-777
井上卓也
ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より
プレーヤーシステムは、主要構成部品が機械的なメカニズムで成り立っているために、エレクトロニクスの技術がモーター系に導入されたDD型といえどもターンテーブル、シャフト、軸受けといった基本メカニズムに予想をはるかに上廻るほどの精度や剛性をもたせないと、回転精度やワウ・フラッターなどの物理的な計測データがいかに高くとも、結果としての音質を優れたものにすることは不可能に近い。
このメカニズムが音質を決定するという事実が認識され、測定値が非常に優れたDD型プレーヤー全盛であるにもかかわらず、古典的なべルトドライブや糸ドライブのシステムがこれならではの充実した音の魅力により、特に高度なファンの心を捉えているのは見逃せないことである。
ベルトや糸ドライブプレーヤー復活の原動力となったマイクロから、新しくエアーベアリング方式、コモンモード・カップリング方式といった自社開発の特許方式を採用した糸ドライブ・アームレスプレーヤーSX777が発売された。
碁本構成は、既発売のBL111と同様にプレーヤーキャビネット内に主要構成郡品を収納したタイプで、家具的にも完成度が高く、メカニズム派のみならず音楽ファンにも好適なシステムである。ターンテーブルは重量10kgの砲金製で、16mm径シャフトと軸受け間はオイルバス方式。シャフトと軸受けは精密ラッピング加工の鏡面仕上げだ。軸受け構造はエアーベアリング方式、ターンテーブル内側に圧縮空気を送り込んで最大0・03mm浮上させ、超スムーズな回転を得る。同時に、シャフトアッセンブリーとアームマウントを一体化したコモンモード・カップリング構造を含め、空気による制動効果で共振をダンプするメリットをも持つ。なお、糸ドライブ用材料はアラミド系、12・1μmの繊維を13本撚りとするこで長期間にわたり初期特性を維持できる最適の材料選択だ。回転数チェックは内蔵ストロボをクォーツ回路で点灯させる方式採用。駆動モーターは直流FGサーボ型で、強力電源部採用だ。
SME3010Rと組み合わせたSX777は、各種カートリッジに対し瑞々しい質感の再現、緻密で躍動感のある表現力とアナログディスクならではの独自の魅力をサラッと聴かせる実力の高さを示した。
ソニー HA-T1
井上卓也
ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より
MC型カートリッジ本来の優れた音質を楽しむためには、ハイゲインイコライザーが標準的な装備となっているとはいえ、やはり、専用の昇圧トランスかヘッドアンプを使うのがオーソドックスな使用法だ。
この2種類の昇圧手段のいずれを選ぶかについては、従来からも諸説があり、簡単には割切れない。個人的な考えとしては、数Ω以下の低インピーダンスMC型は昇圧トランスを、それ以上の中・高インピーダンスMC型についてはヘッドアンプの使用が好ましいと思う。低インピーダンス型独特の、低電圧・大電流で発電効率の高いタイプは、トランスのもつ電圧・電流の比を変えられるメリットを活かし、高電圧・小電流に変換する。つまり、電圧を高くし、その分だけ電流を減らしてMM型同等の出力電圧に昇圧して使うべきと思うわけだ。
これに対して、インピーダンスの高いMC型は、出力電圧はやや高いが発電効率は低インピーダンス型より低く、小電流しか流れず、インピーダンスが上がるほど電流が減る。つまり、電圧型に移行するため、それならヘッドアンプで増幅したくもなる。
今回、ソニーから発売されたHA−T1は、昇圧トランスの性能を支配するコア材に、理想の材料といわれるアモルファス(非晶質体)磁性材を採用した注目すべき新製品である。この新材料は、従来のパーマロイ系磁性材と比べ、低域での歪が少なく、高域での磁気損失が少なく、広帯域にわたりフラットな特性が得られる特長がある。
今回採用された新材料は、ソニー・マグネプロダクツで開発、製造された35μmのハイファイ用アモルファス磁性材である。最近のディスクの大きなダイナミックレンジに対応するために大型のコアを使用し、入・出力特性のリニアリティを大きくとりダイナミックレンジを確保している。コイルは、コア材の優れた特性を十分に発揮させる目的で、無酸素銅線の多重分割巻き採用である。高・低インピーダンス切替スイッチは銀ムク密閉型。金メッキピンジャックなど信頼性の高い部品を採用している。
HA−T1は、粒立ちが滑らかで、誇張感なく伸びた帯域バランスをもつ。いわば、トランス独特な緻密な力強さと、ヘッドアンプ特有の分解能が高く広帯域である利点を併せもつといった印象である。一聴に値する、新しい魅力を備えた注目製品だ。
オーディオテクニカ AT1000, AT1000T
井上卓也
ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より
現時点で最高のMC型カートリッジの座を狙って開発されたAT1000は、すべての基本性能をオーソドックスで妥協のない設計で追求し、最良の音を求めて完成された製品だ。特長といえるのは新素材でも新発電メカニズムでもなく、多年にわたる技術集積の粋と無形のノウハウ、さらに超精密加工精度を集大成したことにある。
発電機構は、左右チャンネル用2個のバナジウム・パーメンダーコアに高純度銅線を巻いた左右独立型コイルを、軽量、高剛性のVCモールド材に埋め込んだ、独自のデュアルムービングコイル方式。カンチレバーは外形0・25mm角、全長4mmの天然ダイア製。上下左右を先端幅0・18mmに2面テーパードカットし、先端にAT33Eに採用した針先より1ランク軽量な0・06mm角楕円チップを剛体接合してある。この振動系と、サマリウムコバルト磁石とバナジウム・パーメンダーヨークの磁気回路により、3・5Ωの低インピーダンスで0・1mVの出力電圧を得ている。
ダンパー構造は、水平方向を2層ダンパーで制御し、垂直方向にはバーチカルスタビライザーを採用して適切なコンプライアンスにコントロールする方式。垂直トラッキング角度は正確に23度にセットしてある。
マウントベースは切削加工アルミ製で、要所に制動材を付加した無共振構造。しかも自重を7gに抑えた軽量設計で、振動系と磁気回路はベースに直接ネジ止のする単純で剛性の高い方法を採用している。金メッキの出力端子はボディ内部に延長した出力リード共用型で、伝送ロスが少ない。カートリッジボディ底面も金メッキ加工され、防振性とシールド効果をもつ。アルミ削り出し表面深層アルマイト処理の専用付属シェルは、セラミックに匹敵する高硬度が特長で左右傾きとオーバーハング調整機構付。
AT1000と同時発売のAT1000Tは、3Ωと20Ω/40Ωピンプラグ差し換え式。切替スイッチレス設計の専用トロイダルトランスを左右各2個、合計4個使用した設計が特長で、外部ケースは8kgの自重からわかるように銅メッキ厚肉鋼板製だ。
両者の組合せは、ダイアカンチレバー独特の固有音を抑え、ダイレクトでダイナミックな魅力だけを活かした、完成度の高い音を聴かせる。この正確で実体感のある表現力の高さは、MC型の最高峰を思わせる。
デンオン DP-100M
井上卓也
ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「THE BIG SOUND」より
業務用プレーヤーシステムでは最高の性能と信頼性を誇るデンオンの最高級大型プレーヤーシステムが、現実に姿を見せたのは昨年のオーディオフェアであったが、今回、ついに製品として発売されることになった。
受註生産として発売されるこのモデルには、電子制御方式の標準型トーンアームが付属したコンプリートなプレーヤーシステムDP100Mと、アームレスタイプのDP100の2機種があるが、その基本型には変りはない。
デンオンのフォノモーターは、回転系性能を向上させるために、DD型の最初期からいちはやく高精度磁気記録検出方式によるスピード制御を開発。ほかにも回転の滑らかなACサーボモーター、クォーツ位相制御をはじめ、アコースティックフィードバック対策として開発された2重構造ターンテーブルやアームフローティング機構、さらに水平・垂直両方向を電子的にダンピングする電子サーボアームなど、独自の技術内容をもつ開発がアクティブに行なわれており、すでにもっとも信頼すべきメーカーという高い評価を確立している。
今回、DP100Mに採用されたモーターは、本来カッティングレーサーや放送局用プレーヤー用に開発されたアウターローターAC3相サーボ型で、AC3相駆動方式とすることにより、振動や逆転トルクとして働く回転磁界の3の倍数次高調波が打ち消し可能となった。また、ローターとステーターの間にギャップ差があっても磁束が自動的に均一となる特殊巻線方法、防振構造の採用とあいまって、SN比90dB(DIN−B)とワウ・フラッター0・003%WRMS(回転系)を実現している。
ターンテーブルは、重量6・5kgの厚肉アルミ鋳物製。モーターのローターに固定された下部ターンテーブルとレコードを載せる上部ターンテーブルは、フルイドダンパーとスプリングによる2重構造で、音響的ハウリングに強く、固有振動が少ない独自の機構設計である。
モーターシャフトは直径14mm、SU304材を使用し熱処理、研磨、ラッピング仕上げが施されている。ラジアル軸受けは銅錫合金系材料を使用、スラスト軸受けはサファイア使用であり、ターンテーブルに8G以上の外力が加わると緩衝機構が動作して保護する設計だ。
トーンアームは電子制御型で、トーンアームの低域共振による影響を最少値とする低域カットオフ周波数調整と、低域共振レベルを抑えるダンピング量の調整が可能である。針圧対応アンチスケーティング機構、アームリフターも電子的にコントロールされ、リフターの下降スピードも微調整が可能だ。機構的には、ストレートとS字型パイプアーム交換方式のスタティックバランス型。ストレートアームのヘッドシェルは、3層ラミネート構造による無共振型である。なお、高さ調整はヘリコイド式で、約8mmの範囲で可変することができる。トーンアーム取り付け部分は、ターンテーブルと同様、スプリングとオイルダンパーによりフレームは重量級の厚肉アルミ鋳物製で、スプリングとオイルダンパーにより固有振動を3・5Hzに設定したインシュレーターを装備する。このインシュレーターは、付属の6角レンチを用いて最大10mmの高さ調整が可能であるため、プレーヤーの水平をとることもたやすい。
操作系では、15mm厚のガラスを使用した自照式パワースイッチとスタート/ストップスイッチ、回転数およびピッチのデジタル表示窓と並び、右端にはアームリフタースイッチを配している。ポケット内にはSPレコード用の78回転を含む3スピードの回転数切替、0・1%ピッチで±9・9%までクォーツロックのまま可変で切るシンセサイザーピッチコントロールのプッシュボタン・スイッチ、ダンピング、カットオフ周波数、リフター降下速度、アンチスケート調整の回転型ツマミが収納されている。
DP100MにS字型パイプをマウントし、重量級MC型カートリッジから軽量級MM型カートリッジにいたるまで、数種類の製品を使って試聴をはじめる。基本的には、スムーズでキメ細かく滑らかな帯域レスポンスがナチュラルに伸びた、デンオンのサウンドポリシーを備えている。しかし、カッターレーサー用のモーターを備えた、全重量48kgという超重量級システムであるだけに、重心は低い。本来の意味での安定感が実感できる低域をベースとした、密度の濃い充実した再生音は、DD型はもちろん、ベルトや糸ドライブ型まで全製品を含めたシステム中でのリファレンスシステムという印象である。この表現は、このDP100Mのために用意されていた言葉である、といいたいほどの音質、信頼性、性能の高さをもつ。カートリッジによって低域カットオフ周波数調整はシャープな効果を示し、その最適値を聴感上で明瞭に検知することは、予想よりもはるかにたやすい。総合的に見事な製品である。


















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