井上卓也
ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より
米国のカートリッジメーカーとして、かつてのLP時代に高出力MI型カートリッジ、いわゆるピカリング型で一世を風靡した米ピカリング社から、同社のトップモデルに位置づけされるXSV/5000が新製品として発売されることになった。このモデルには二種類が用意され、XSV/5000がカートリッジ単体の製品、XSV/5000Sがヘッドシェル付の製品である。なお、このモデルと同時に従来の625Eに代表される音楽ファンのためのシリーズの新製品としてXEV/3001とXEV/3001Sが発売された。
XSV/5000は、ピカリング製品を分類すると二シリーズあるうちの、いわばラボラトリー・リファレンス的な意味あいの強い高性能シリーズの新製品で、従来の3000や4000の性能を、PCM録音やダイレクトカッティングなどのプログラムソース側のハイレベルカッティングに対応するために、特にトレーシング能力を重点に性能を向上したモデルである。
白とゴールドの対比がシャープな現代的なイメージを抱かせるボディと、特徴的なブラシが付属するボディの内側には、立上がり時間10μsecというトランジュント特性と、10〜50000Hzの広帯域レスポンスをもつ軽量振動系が組み込まれている。
カンチレバー材料などの詳細は公表されていないが、振動系質量に直接関係があるスタイラスには従来のステレオヒドロン針をベースに、一段と軽質量かつ密着性を高めたヌード・ステレオヒドロン針が新採用され、音溝に対する機械的インピーダンスを低減し、ディスクからのエネルギー伝達効率を向上させているとのことだ。
XSV/5000は、シャープで鋭角的に音をクッキリと浮き立たせる特徴と、洗練された雰囲気を備える、ピカリング独特のサウンドキャラクターを受け継ぎながら、一段とローレベルの分解能が向上した抜けのよい、ワイドレンジの音が際立つ製品だ。聴感上のSN比が高いため、ステレオフォニックな音場感は見通しよく拡がり、音像定位も非常にクリアーな新しい魅力が従来にない特長だ。表現力は豊かで、ソリッドで力のある低域をベースに華麗なサウンドを聴かせる。この質感の見事な低域がこのモデルの最大の美点で、柔らかなスピーカーやアンプをキリッと引き締めてくれる。
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