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ダイナコ Mark VI

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マークIIIとして永く愛用される60ワットアンプをもって、数少ない管球アンプの伝統を持つダイナコのもっともハイパワーかつ強力なるアンプが、このモノラル・パワーアンプMKVIだ。おそらくMKIIIの倍の出力を持つためにMKVIとなったのだろう。
 120ワットの出力はソリッドステートパワーアンプなみで、もしMKVIにくらぶべきソリッドステートとなると300W級だから、驚くべきハイパワーだ。
 ダイナコ製品の、もうひとつの大きな特徴は、米国のコンシュマーレポートの常連といえるほどに、しょっちゅうその名が「お買得ベスト」の中に名を連らね、それも年を追っても型番が変らないという点だ。つまり、ひとたび製品化するとこれを中止することはめったにせず、幾星霜たつといえど同じ製品がずっと永く市場をにぎわす主要製品として続く点だ。寿命の驚くほどの永さこそダイナコの製品の最大の強味でもある。MKVIおそらく10年後もそのまま続くだろう。

クリプシュ KB-WO Klipsch Horn

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

「Kホーン」というのが50年代後半の米国超豪華型システムとして、本物かどうかの判別の決め手といわれた。それほどまでにKホーンは高級ファンから高いイメージで迎えられていた。
 Kホーンとは、クリブシュホーンの略称であり、40年代にKホーンとして左右の壁面を開口に利用した折返し型コーナーホーンを発明した人の名をつけたものだ。各社の最高級大型システムが採用し、一時期米国製の豪華型はほとんどすべてKホーンまたはその亜流としてあふれたほどだ。
 当然クリプシュ自体のシステムがあったが、各社それぞれ力いっぱい宣伝し力を注いだからオリジナルは永い間ややかすんでいたという皮肉な状態だった。
 60年代に入りやがてステレオが普及してARなどのブックシェルフ型の普及と共に超大型システムがすっかり凋落したあと、最近になってこのクリブシュホーンのオリジナル製品は米国でもやっと脚光を浴びてきつつある。このクリプシュK−B−WOは木目を美しく出した家具調のオーソドックスなスタイルに38cmでドライブするKホーンと、中音、高音にそれぞれホーン型ユニットを配した3ウェイシステムだ。Kホーンの大きな特徴たる低音の豊かさは、ちょっと想像できないほど力強く、アタックのシャープな深い低音エネルギーをいとも楽々と再生してくれる。いや、こうした音そのものの類いまれなすばらしさ以上に、オリジナル・クリプシュホーンとしてもつ十分すぎる価値を保っていよう。

オーディオリサーチ D-76A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 米国にきら星の如く数多く出てきた新進アンプメーカー中、もっともユニークな存在がこのオーディオリサーチだ。その作るアンプはすべて管球式。注目すべきなのはすでにソリッド・ステート万能の時期である数年前からのスタートでありながら、管球式アンプにこだわるといえる姿勢だ。たしかに真空管アンプの音の良さはオールドファンを中心にベテラン達の堅く永く口にする点だ。ソリッドステートに技術的性能では遠く及ばずとも、音の良さは明らかな差を感じさせる。オーディオリサーチ社のアンプが高級ファンに愛される理由は、高水準のマニアほど十分に納得できるだろう。プリアンプに対する評価よりもパワーアンプに対する評価が高いのは「スピーカー・ドライブの点での管球アンプの有利性」のためではなかろうか。デュアル75でスタートして、トランスを含むパーツや機構を大幅に変えて76年にデュアル76となっている。

ラックス PD121, PD131

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ラックスは、トランス、アンプリファイヤー・メーカーとしては日本最古のメーカーといえるが、プレーヤーシステムの部門においてはそれほどの歴史はない。しかし、アンプの一流メーカーから生み出されたこのプレーヤーは、同社のオーディオの分野における信条と感覚がよく反映され、見事な雰囲気が漂っている。その点において、私はこのPD121、PD131に高い評価を与えたいと思う。
 一口にしていえば、デザインの美しさということになるかもしれない。しかし、ラックスはプレーヤーの専門メーカーではなく、もちろん自社でパーツを作っているわけではないが、非常に高級なパーツをアセンブルして、このようにセンスのいい一品に仕上げるということは、やはり一流の感覚をもつプロデューサーがいなければ出来ないことである。レコードをかける心情にピタッとくる繊細さと、オーソドックスなプレーヤーらしい形を備えた美しい製品だ。

マランツ Model P3600, Model P510M

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 この四半世紀アメリカの高級アンプリファイヤーの部門を、マッキントッシュとともに二分する一方の最高級メーカーとして、マランツのブランドは不動の地位を確立してきた。ソウル・B・マランツによってニューヨークのロングアイランドに工場を設立されたマランツ社は、それ以来きわめて優れたテクノロジーとオリジナリティをもった最高級アンプリファイヤーづくりに徹し、#7や#9など数々の名器を生んだのである。それらの数々のアンプリファイヤーが、世界中のほとんどのアンプメーカーの行き方に与えた影響は、デザイン面あるいはサーキットの面において大なり小なりといえども計り知れないものがある。したがって、マランツの名前が、今日世界最高のブランドとして光輝いているのも当然のことだろう。
 しかし、残念ながら現在のマランツは、スーパースコープ社の傘下に入り、ソウル・B・マランツが退いて同社の体質は変化し、普及機までもつくるようになったが、ただ単にブランド名だけが受け継がれたのではないことは、現在のトップランクのアンプリファイヤーを見れば理解できる。アメリカのメーカーの良いところは、ある会社を受け継ぐ、あるいは吸収するときに、そのメーカーが本質的に持っていた良さを生かす方向に進むということだ。マランツもそういう意味で、ソウル・マランツ時代のイメージが消えてはいない。特に、このP3600とP510Mという、同社の現在の最高級アンプリファイヤーは、やはり一流品としての素晴らしさを維持し、マランツの歴史に輝くオリジナリティと物理特性の良さを持っているのである。そして、デザインも明らかに昔からのマランツの血統を受け継いだものといえるし、クォリティも昔のマランツの名を恥ずかしめない実力を持つアンプリファイヤーである。パネル・フィニッシュなどには昔日のようなクラフツマンシップの成果を偲ぶことが出来ないのが残念だ。
 コントロールアンプのP3600、パワーアンプのP510Mは、同社のコンシュマーユースの最高峰に位置するMODEL3600、MODEL510Mの特に優れた物理特性を示すモデルに〝プロフェッショナル〟の名を冠した機種である。フロントパネルは、厚さ8mmのアルミのムク材をシャンペンゴールドに仕上げ、プロフェッショナル・ユースとしての19型ラックマウントサイズになっている。この二つのセパレートアンプは、マランツのステータスシンボルだけに、最新のエレクトロニクス技術の粋を結集し、シンプルな回路と高級なパーツで、オーソドックスなアンプの基本を守り、音質も、マランツらしい力感と、厚みを感じさせる堂々たるもの。中高音の艶やかな輝やきは、まさにマランツ・サウンドと呼ぶにふさわしい魅力をもっている。パネル仕上などには昔日のような繊密さがないと書いたが、現時点で求め得る最高のフィニッシュであることを特筆しておこう。ソウル・マランツ時代の血統が脈々と生きていることは心強い限りである。

マッキントッシュ MC2300

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マッキントッシュ・ラボラトリー・インクは、すでにご承知のとおり、アメリカ合衆国のニューヨーク州ビンガムトンに本拠を置く、高級アンプリファイヤー・メーカーとして広く知られている。創設以来ほぼ30年という歴史は、他の分野からみれば決して長いとはいえないが、創立当時の会社組織と首脳陣に変更がないという点では唯一のメーカーともいえ、アンプリファイヤー・メーカーのみならず、他の部門を見渡してみても最古の歴史をもつメーカーといえるだろう。
 有名なマッキントッシュ・サーキットという、独特のユニティ・カップルと称する特殊巻線方式によるアウトプットトランスを中心とする回路を、かたくななまでに守り続ける商品づくりの強固な姿勢で一貫している。現代のエレクトロニクス技術の最先端をいくものと比較すれば、いまや古い回路技術だという見方ももちろんできる。私もそれを否定はしない。しかし、自分たちが信ずる方向を全く妥協せずに、一つの商品としての主張を通し、長年の間に磨きに磨きをかけて生かしきってきたマッキントッシュの姿勢は、まさに私は一流メーカーの名に恥じないものがあると思う。そして、その製品はきわめてグレードが高く、あたかもメルセデス・ベンツのごとく、マッキントッシュと名前の付けられたアンプリファイヤーは、最も安価な製品といえども高級アンプであるという、確固たる地位を築いてきているのである。
 多くのマッキントッシュ・アンプリファイヤーの中で、特にこのMC2300というパワーアンプは、同社のソリッドステート・パワーアンプ中、最大のパワー(300W+300W)を誇り、しかも、同社の長年の間に培われた技術の蓄積がフルに生かされた製品である。そういう意味において、私はこのMC2300をパワーアンプの一流品とし躊躇なく挙げたい。このMC2300は、同社の管球式アンプのステータスシンボルともなっていた、350Wというとてつもない大出力のモノーラルパワーアンプMC3500のシャーシをそのまま継承したソリッドステート・モデルで、現在のマッキントッシュの象徴として、パワーといい、重量といい、このガッチリとした堅牢なつくりといい、まさに王座に君臨しているのである。また、このパワーアンプは、モノーラル切替スイッチによって、600Wのシングルチャンネル・アンプとして使用できるという、驚異的なマシーンでもある。
 先に述べたような、マッキントッシュ社が目ざす姿勢は、外観にもはっきりとオリジナリティを持ったデザインとして表われているが、性能面でも独自のマッキントッシュ・サーキットが再現する、非常に重厚な、マッキントッシュならではの安定したバランスのよい音が聴ける。そして、このチャンネル当り300Wというハイパワーに支えられた、次元を異にする充実した立体音は、まさにアンプリファイヤーの一流品として、堂々たる風格を備えているのである。

マッキントッシュ C26

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 マッキントッシュ・アンプリファイヤーのパネルデザインはゴージャスな雰囲気をたたえた、じつにユニークなオリジナリティを持っている。そして、仕上げにも緻密な神経が行き届いている。特にコントロールアンプは、ガラスのパネルを使い、イルミネーションによって、ゴールドの文字をグリーンに変えるというアイデアは透逸である。そのデザインにはアンプとしての機能の必然性があり、音楽を聴くために使う道具としての、同社のミスター・ガウがいうところの〝エモーショナル・レスポンス・フォー・ミュージック〟ということまでを考えた、アンプのパネルデザインのもつ一つの究極の姿を完成させたことは、やはり高く評価されるべきものだと思う。
 どちらかというと、マッキントッシュの得意とする部門はパワーアンプリファイヤーであり、コントロールアンプに関して、同社の製品を世界一とするにはいささか抵抗がなきにしもあらずだが、しかし、さすがにテクノロジーを高い水準で維持しているマッキントッシュらしく、このC26というコントロールアンプは、トランジスターライズドされた初期の頃の製品でありながら、より新しい機種であるC28や、近々発表されるであろうC30に比べて、スペックの面ではいろいろと問題はあるかもしれないけれども、いかにもマッキントッシュらしい、重厚な、落ち着いた、線の太い堂々とした音を再現してくれるという点において、そして、先ほども触れたガラスのパネルデザインの、完成した最初の製品だという意味において、私は一流品に値するコントロールアンプとして推選したい。

デンオン DP-3700F

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 デンオン・ブランドをもつ日本コロムビアの歴史は大変に古く、日本ビクターとともに日本のレコード会社の草分け的存在である。と同時に、かつて日本電気音響として、プロフェッショナルのエクィプメントを、専門に生産してきたハードウェアのメーカーを同社の傘下に収めた。そのブランドがデンオンとして残り、日本コロムビアのオーディオ製品の高級機に使われているのである。
 そういう歴史的背景をもつブランドにふさわしい高性能高級プレーヤーシステムとして、このDP3700Fを一流品に挙げたわけである。このプレーヤーについて詳しく申し上げる余裕はないわけだが、少なくとも最新のテクノロジーを用いた、ターンテーブルとしては最高性能のものであり、トーンアームも実用的な意味合いとトーンアームのあるべき物理特性とを巧みにバランスさせた、高性能かつ高実用度の、音のいいものである。そして、ベースはシンプルでありながら、きわめてハウリングマージンの大きい設計である。このプレーヤーシステムほど何のためらいもなく安心して使える製品も少ない。
 デザイン面や風格という点では、まだ私は一流品として挙げるに少々の不満が残るが、総合的に見て、信頼性、性能の高さなどから、プレーヤーシステムの一流品として推選しても恥ずかしくない製品だと思う。

テクニクス RS-1500U

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 テクニクスというブランドは、日本の大電機メーカー松下電器のオーディオ製品につけられるものだ。最近でこそ同社の普及クラスにまで付けられてはいるけれども、本来は高級オーディオ・コンポーネントにのみ採り入れられていた名称である。したがって、このブランド名は、同社の最高技術を象徴するものだと考えてもいいだろう。
 一流品としてリストアップしたRS1500Uは、まさにテクニクスのテープレコーダー部門の技術の結集が見られる、最高級2トラックマシーンである。このマシーンの性能からすると値段は安い。これは、私は大メーカーの良さとしてまず評価したいと思う。内容は非常に充実したテープレコーダーで、オリジナリティも豊かに持ち、そしてそれが高いテクノロジーに裏づけられているのである。
 テクニクスではアイソレートループと呼んでいる、独特のテープのヘッドハウジングに、何といってもこのオープンリール・テープレコーダーの象徴が見られるわけだが、このハウジングの左側に4トラック再生用と2トラック消去用、右側に2トラック録音用と2トラック再生用のそれぞれのヘッドが取り付けられている。このアイデアは必ずしもオリジナルとはいえないが秀逸といえるだろう。また、モーターは、ダイレクトドライブ方式の老舗だけに、すべてDD方式で、キャプスタン駆動用にはクォーツロックが導入されている。このように、現在の水準からいっても最高度のメカニズム、エレクトロニクスの性能をもつマシーンとして一流品に推したいと思う。

ダイヤトーン DS-25B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 コーン型ユニットを使う2ウェイ構成であり、エンクロージュア形式がバスレフ型となると、もっともダイヤトーンが得意とする伝統的なノウハウを生かせるスピーカーシステムである。ウーファーは、25cm口径で、ボイスコイル部分にゴムのダンプリングをつけ、クロスオーバー付近の特性を改善しているのは、DS40Cのウーファーと同様な手法である。トゥイーターは、5cm口径のコーン型で、コーン紙背面のバックチャンバーの容積が大きく、チャンバー内の残響を抑えるとともに、残響時間の不均一を防ぐスリット上のオリフィスを設けたサブフレームを取つけ音響制動をかけた無共振チャンバーを採用、振動系はコーン紙中央にチタン製ダイアフラムを使い分割振動を抑えている。
 DS25Bは、音に活気があり表情が明るく、伸びやかな魅力がある。基本的には、正統派のシステムだけに、物理特性的に不足感はなく、質的にもこのクラスでは抜群の高さがあることは特筆すべきことで、かつての発売時点でのDS251の再来と感じさせるダイヤトーンの快心作だ。

ティアック A-7400RX

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 日本のテープレコーダーの専門メーカー、ティアックのバックグラウンドは、一流と呼ぶに足る十分なものがある。昭和32年には、すでにティアックの前身であるTTOという大変小さなメーカーから、TD102というテープトランスポートが商品化されていたわけである。そして、いまや世界的に、日本のテープレコーダーの一級品としての名声を博すに至っているのである。ティアックは、その間にコンピューター用磁気記録装置、データレコーダー、VTRなどの研究開発も併せて行なってきたわけである。
 そうした一流メーカーとしてのバックグラウンドから生まれた新しいオープンリールデッキがA7400RXである。本機は、可搬型の2トラック38cm/secのモデルで、テープトランスポート部とアンプ部のセパレートタイプである。このA7400RXの特徴は、何といっても最新のノイズリダクションシステム、dbxタイプIを搭載していることだろう。このdbxシステムの機能を利用して、入力信号のダイナミックレンジを圧縮して録音し、再生時に元に戻すことにより、いままでのオープンリールデッキで得られていた再生音に比べて、ダイナミックレンジの拡大が可能になるわけである。それに加えて、安定したテープ走行系と高性能という点で、コンシュマー用テープレコーダーとしては、あらゆる面でトップグレイドの製品のひとつといえるので、一流品として推選したいと思う。

アルテック 620A Monitor

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 もう20年も前に焼跡の中に立ったバラックの並ぶ、銀座の裏のちっぽけなジャズ喫茶の紫煙にけむる奥から聴えたディキシーを、本物の演奏とすっかり間違えさせたのが、アルテックの603Bだった。それ以来アルテックの15インチ・コアキシャルは、深く脳裏にきざみこまれた。やがてレコード会社でモニター用に鳴っている604Eに耳を奪われて、一生のうちに一度はこのアルテックの15インチ・コアキシャルを自分の手元で、と心に誓った。だから僕にとっては、アルテック604Eは他のいかなる愛用者にも劣らぬ、もっとも強いあこがれそのものとして、オーディオの象徴的な存在であった。その後アルテックのシステムを仕事の上で接触することはあっても、高価なこのユニットは、なかなか手にできなかった。
 604Eが8Gとなってワイドレンジ化した際に、やっと20年の念願かなって入手できたとき、それはやはり何にも増して感激に満ちたわが部屋での音出しであったし、それは20年前のあのディキシーランドと同じキッド・オリーの10インチ・モノーラル盤で始めたものだ。トロンボーンの雄大な力強さは、やはりこの604−8Gでなければ出せ得ない響きだった。しかし、ステレオ版になって604は、より以上の真価を発揮してくれた。それはもうしばしばいわれるように、コアキシャル独特のユニット配列から得られるステレオ音像の定位の確かさで、業務用としてアルテック・コアキシャルでなければならぬ理由も、ただこの一点が大きくものをいいそうだ。

アムクロン DC300A

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 今、日本のアンプが、さかんにハイパワー、DCアンプ化への血道を上げている。アムクロンDC300は今を去る10年近くも前にこの2点「ハイパワー」「DCアンプ」として米国にデビューし、米国でのハイパワー時代のトリガーとなった製品である。150/150Wのこのアンプの出現によってすべての高級メーカーは100ワット以上の出力を目指すことに踏み切らざるを得なくなったといってもよい。ところがアムクロンDC300、決してこうしたオーディオ高級アンプとしての目的で作られたものではない、あくまでラボラトリーユースの産業用アンプであり、そのためのDCアンプであったわけだ。アムクロンというメーカーが当時超高級デッキのシェアーでもっともよく知られた点でオーディオ用としても使われたとみるべきだろう。さてDC300、今日純粋なオーディオ用として300Aに生まれ変り、その内容の大要は変ることなく、もっとも伝統ある誇り高きハイパワーアンプとして今日も存在するが、その存在は色あせることなくまだ続こう。

アキュフェーズ M-60, T-100

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 アキュフェーズのブランド名でケンソニックからスタートして、もはや数年の月日がたつ。ケンソニックの名は伝統の深からざるオーディオ業界にあってもなおもっとも日が浅い。それだけに、一流ブランドとしての成り立ち、あるいは信頼を勝ちとるための努力はなみのものではなかったろう。
 それにしても僅かな期間に世界的に高い製品評価と高級メーカーとしての信頼とを得たのは十分にうなずける根拠を容易に求められる。そのひとつは高級機種のみを限定して製造することであり、その二は一応発表した製品は決して競合すべき新型を出さず、また中止もしないということだ。
 この一流品たる資格の基本条件たる二つの点を当事者たるメーカーが製品発表の事前にはっきりと明言しているというケースは、めったにあるものではないがアキュフェーズの場合がこれだ。高級製品メーカーとしての見識と誇りの高さとを知らされ、それが信頼への深いきずなとしてユーザーとメーカーとを結びつけている。
 プリアンプC200と共に最初に発表したパワーアンプP300こそケンソニックの名を世界に知らしめた最初のアンプであり、その時にペアーとなるべきチューナーとして出たのがT100である。
 この三機種こそ、アキュフェーズブランドの名を代表するべき3つの象徴といってもさしつかえなかろう。しかしこの後のハイパワー時代の急激な拡大に伴ってパワーアンプはさらに、2倍のパワーアップを図った国産初と思われる300Wの大出力を秘めたモノーラルパワーアンプ、M60となった。そこでP300に代ってM60がアキュフェーズ・ブランドの旗頭となったのだ。M60は、300Wのハイパワーながら、その価格28万円を考えると、今日はっきり国際的な市場を視点としてもなお価格的に妥当なものであろう。
 日本製アンプが、日本国内市場でごく割高なる価格をつけられた海外製アンプと競争でき得るとても、当事国では日本製アンプが、あまりに高価になり過ぎる例が多い中でアキュフェーズ製品はすべて価格的に国際市場のどこにおいても十分に納得でき得る価格であるという点は、見逃せない大きな特徴であり、この点こそがアキュフェーズ製品が国際的な意味からも優秀製品であることの、もっとも大きな理由だ。
 ケンソニックの中核がかつてはトリオの主脳陣であったことはよく知られており、さればチューナーの文字通り開発者としてアキュフェーズのチューナーもまた大いに期待できる製品だ。その期待は海外の評価が早くも、T100デビュー早々に、「FMチューナーのロールス・ロイス」という賛辞で示された。アンプ同様、豪華な仕様と風格とはその底知れぬ深い完成度を感じさせ、そのまま製品の高い品質への信頼感へもっとも大きな支えとなっているからだ。

ソニー TC-5550-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ソニーが世界の一流ブランドであることには異論はないだろう。私自身も日本人として、ソニーを多方面から眺めているので、外国人が信頼するほどには必ずしもソニーを見てはいないが、やはり、世界の最高級ブランドであることには違いないと思う。そのソニーの製品を一流品に挙げるとすると、私自身は〝ジャッカル〟のような、テレビとラジオとカセットを組み合わせてコンパクトにまとめた製品をソニー的一流品だと思うのだが、残念ながらこの製品はオーディオの分野にはいれられない。
 コンパクトということからいえば、ソニーが昔からデンスケという名称を付けた製品を持っていたぐらい、携帯用の録音機に関しての技術的キャリアは非常に古いのである。現在でも放送局などで活躍しているEM3というプロフェッショナルユースのオープンリール・デンスケは、その分野では有名な存在である。
 コンシュマーユースのオープンリール・デンスケを挙げるとすると、やはりTC5550-2という製品になる。外形寸法は、333×136×296(W×H×D)mmとコンパクトに仕上げられ、重量も乾電池を入れた状態で6・8kgと軽量だ。ポータブル型テープレコーダーであるだけに、電源も一般的なAC100Vのほか、乾電池8個、充電式電池、カーバッテリーの4電源方式で、どこででも使用可能である。このように、機動性がよく、高性能な、このTC5550-2を一流品として推選したいと思う。

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 イギリスのスペンドール・オーディオ・システム社は、英国のBBC放送局のモニター仕様によるスピーカーBCIを開発して以来、それを基礎にしてさらに改良を加えたBCII、BCIIIという、家庭用のハイファイ・スピーカーを製品化してきた、比較的新しいメーカーである。しかし、これらのシステムは一聴すればわかることだが、まさに英国の伝統的なスピーカー技術をしっかりと受け継いでいる。
 同社のスピーカーシステムの中で、最も家庭で使いやすい製品、私自身が最も音が充実していてバランスのいいシステムと考えているのは、BCIIである。このスピーカーが持つ素晴らしいハイフィデリティ・リプロダクションと、魅力とあえていってもいいような、素晴らしい品位を持った音楽的な音とが、巧みに結びついて、まさにソフィスティケィテッドなヨーロッパサウンドを醸し出してくれる。いかにも音楽好きな英国人らしい、レコード音楽の再生を熟知した音のバランスが聴ける。もともと英国は、音楽の市場として世界一であり、英国の演奏会でデビューすることが、世界の檜舞台といわれているように、音楽を聴くマーケットとして、英国の歴史は大変に古く、それに呼応してハイファイ・リプロダクション・システムの歴史もかなり長い。そういう英国の長年の伝統をバックグラウンドに持つスペンドールを一流品として推したい。
 社長スペンサーと夫人ドロシーの名をとって〝スペンドール〟というブランド名を冠しているところも、心にくいところである。

SAE Mark IB, Mark 2400

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より
 この7年間、70年代に入って米国市場のオーディオメーカーに新しい名が目立って多くなった。
 その中でSAEはもっとも早くからいち早く成功を伝えられたメーカーで、アンプ・メーカーとして今ではもっとも生産数を誇る実績を確立している。この成功は、SAEが、いかにも現代的な技術の優秀さで裏付けされた技術的集団であることを、初期の製品から一貫してはっきりと示しているからだ。SAEの製品は、一見して今までのそれらとは一線を画する飛躍した電子技術を内に秘めていることを、受け手がよく技術的知識を蓄えていればいるほど感じるであろう。しかもこうした新進メーカーによくみられる未熟さが全然なく、その初の製品からでさえ、きわめつくされた完成度を、あらゆる点で知らされるのも例がない。
 どこをとっても一分の隙もないパネル・デザイン、しかも一本のライン、つまみのいちカットにさえ細心の誠意と合理性とをつめ込んだ技術的なセンスの高さ。技術が芸術に昇華するほどの、高いレベルだ。
 MK2400も、決してプラックフェイスという外観だけに止まらず、技術的な内容もさらにその音にも、はっきりと感じられる。きわめてスッキリして、透明そのもの、無駄を廃した端正の極地といったような音だ。使い方により機能をどこまでまとめ上げ、どこで妥協するか、という点のむずかしいコントロールアンプでのSAEの腕前がこのMKIBにぞんぶんに発揮されて、いかにもSAEオリジナルらしい、すばらしい傑作となった。

スチューダー A80/VU MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ウィリー・スチューダー社はスイスの高級テープレコーダー・メーカーとして、名実共に、世界の一流である。民生用機器はルボックス・ブランド、プロフェッショナル機器はスチューダーのブランドで製造販売している。ヨーロッパのスチューダー、アメリカのアンペックスと、世界の最高級テープレコーダーの名声を分ち合ってきた事は有名である。テープレコーダーのトランスポートにも、最近ではエレクトロニクスが大幅に取入れられ、各種のサーボ機構、コントロール機構はスムーズになってきた。もともと、スチューダーのメカニズムは、精密工作機械の粋といってもよい精巧無比な緻密さと堅牢な信頼性に溢れたもので、トランスポートのムーヴメントの滑らかさと安定性では右に出るものがなかったといってよい。この点ではアンペックスのメカニズムをはるかにしのいでいたといえるであろう。保守的なヨーロッパらしく、マルチ・トラックやエレクトロニクスのソリッド・ステイト化などでは、アメリカより遅かったけれど、このA80シリーズに至って、そうした現代化が、完全に終了し、完成度の高いモダーンなマシーンになったといえる。フィーチャーを数え上げればきりがないが、アルミダイキャスト・シャーシーにがっちり固定されたメカニズムは、ACサーボ・モーターのキャプスタン駆動で、テープテンションは電子コントロール式でいかなる状態においても最適のテンションをテープに与え、ワウ・フラ・スクレイプは極めて低く安定した走行は、静粛そのものである。ICが多用された電子コントロール機構は、スムーズかつ、多機能で、プロのマルチプルな要求に対応する。
 A80MKIIシリーズは、きわめて多くのヴァリエイションを持ち、もっともシンプルなA80VU-1というフルトラックから、2トラックは無論のこと、2インチ幅テープの24トラックに至るまでのワイド・チョイスが準備されている。テープ速度も、76cm/secで、NAB17・5㎲のイクォライザーとの組み合せで使える。現在のテープレコーダーの最高峰としての内容と性能を持った見事なマシーンだといえるであろう。
 スイスという国は、いうまでもなく精密工作機器の製造で有名だが、このスチューダーというメーカーでは、テープレコーダーのような比較的大型のメカニズムにもかかわらず、まるで時計並みの精度のメカニズムと現代エレクトロニクスの粋を盛り込んでいる。加えて、ヨーロッパ各国でのレコード制作の現場からの意見が直接フィードバックしてくるために洗練された操作性と、音楽的な音質検討が一つとなって結集しているのが大きな強みといえるであろう。うがち過ぎかもしれないが、アメリカ系の機械が、ジャズやロック系の音楽に、たくましい力強さと、熱っぽい音を聴かせるのに対し、このスチューダーのもつ音色は、より洗練された柔軟さと透明度を持ち、クラシック、特に弦楽合奏などの滑らかさと繊細さには無類の美しさが聴けるようだ。さすがに、一流品ともなると、ただ単に、機械としての物理理特性の優秀性にとどまらず、それが誕生したバックグラウンドが個性として生きてくる。

ダイヤトーン DS-35B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ブックシェルフ型システムのベストセラー機種であるDS28Bの上級モデルとして開発されたブックシェルフ型のシステムである。したがって最近のバスレフ型エンクロージュアを採用することが多い傾向に反して、本機は完全密閉型である。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムで、中音用は10cmコーン型、高音用は3cm口径のドーム型である。ウーファーは、機密性に富み腰が強いコルゲーション付コーン紙と耐熱性が高いボイスコイルボビンとコイルの組合せで、磁気回路は低歪化されている。スコーカーは、エッジ部分にリニアリティが高いポリエステルフィルムにダンピング処理を施して使い、パルシブな入力に対して立上がりの良い再生を可能としている。また、磁気回路はウーファー同様な低歪磁気回路である。トゥイーターのダイアフラム材質には、ガラス繊維強化プラスチック、GFRPを使っている。また、音色は、レーザーホログラフィーでの振動解析や、新しく導入されたインパルス応答による累積スペクトラムなど最新の技術とヒアリングにより検討されている。
 エンクロージュアは、分散共振型で補強桟は不均一に配置してあり、箱鳴りを抑えた設計である。
 DS35Bは、タイトで明快な低音をベースとして、粒立ちがよく、エネルギー感のある中域と滑らかに伸びた高域が巧みにバランスし、密度が濃い音を聴かせる。この音は、個性を聴かせるタイプではなく、オーソドックスな安定感、充実感が魅力であり、併用するアンプ、カートリッジで、かなり結果としての音をコントロールできる余裕があるようだ。価格帯から考えるともっとも正統派のシステムで信頼性が高い。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLパラゴン家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

スカリー 280B

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 スカリー社は、現在アメリカのカリフォルニア・マウンテンビューにあるメトロテック社の傘下に入っているメーカーで、プロフェッショナル用のテープレコーダーを製造している。同社は、元来メカニズムを得意とするメーカーで、最も有名な分野はカッティングレースである。われわれレコードになじみの深い人間にとっては、スカリーのカッティングレースとウェストレックスのカッターヘッドのコンビネーションは、実になじみの深いレコードの原盤製作のカッティングマスター機として、親しみがあるものだ。
 そのスカリー社で現在製造しているテープレコーダーとして、この280Bという製品があるわけだ。このテープレコーダーは、アンペックスと名声を2分するといっていい、アメリカを代表するプロフェッショナルユースの製品ということが、一流品として躊躇なく挙げる理由である。
 280Bシリーズには、この他に1/2インチおよび1/4インチ幅テープ用の4チャンネル機284Bと、1インチ幅テープ用の8チャンネル・マスターレコーダー284B-8がある。いずれもスカリーらしい、ガッチリとした、信頼性の高いモデルである。
 デザイン的には必ずしも美しいテープレコーダーとはいえないが、実際に使ってみても、実に堅牢で安定性があり、信頼性も高く性能のいいテープレコーダーである。地味な存在ではあるが、いかにもアメリカらしいマシーンだと思う。レコード製造機器の名門から生まれた一流品である。

グレース G-714

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 グレースは、日本のトーンアーム、カートリッジの分野における現存するメーカーとして、最も歴史が長い一流のメーカーである。このG714と名づけられたトーンアームは、そのグレースの持っている、いかにも専門メーカーらしいものがよく表われた、珍しい木製のフレームのモデルである。材料はテンダーチーク材を使用しているが、これをグレースの技術陣が大変な苦労をしてこの材質をいかす加工業者を探して、自分たちのトーンアームにかける夢を一つの形にまとめ上げた一品として、一流品に推したいと思う。
 支持方式は、ワンポイントサポートのオイルダンプで、ヘッドシェル部は一般的なSMEのコネクタータイプではなく、専用のカーソルによってカートリッジ交換を行なう方法がとられている。仕上げも、いかにもグレースらしいキメの細かい神経の行き届いた製品である。

グラド Signature I

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 グラドというブランド名は、日本ではそれほどポピュラーではないが、かなり古くからトーンアームやカートリッジの分野で実績をもつ、ニューヨーク市ブルックリンにある会社である。
 この会社の最新型であり、最高級のカートリッジがこのシグナチェア1だ。このカートリッジは、ずば抜けた特性をもつ手づくりの製品で、ジョセフ・グラドというこの会社の社長であり、エンジニアである人が、一途に情熱をかたむけてつくりあげた製品である。このカートリッジの前面には、社長のイニシャルであるJFというマークが刻印され、このモデルの由緒正しさを表わしていると同時に、ハイクォリティ・カートリッジであることを示唆しているようだ。
 MI型のカートリッジであるこのシグナチェア1は、商品づくりという域を脱した手仕事から生まれ、それに見合った性能の良さ、音質の良さが感じられる。一流品に価するカートリッジである。

エレクトロ・アクースティック STS455E

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ドイツのエレクトロ・アクースティック社は、最も早くからMM型ステレオカートリッジを開発したという実績をもつメーカーである。この455Eは、そのメーカーの最新モデルの一つだが、最も音のバランスのよいカートリッジとして一流品に挙げたい。

アカイ PRO 1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 アカイというブランドは、日本のテープレコーダーのメーカーとして世界にとどろいている。もともと、メカニズムを専門とする機械屋さんで、その昔はフォノモーターも作っていたが、本命はやはりテープレコーダーである。
 アカイの長年の間に培われたテープ技術とノウハウの蓄積が、きわめて高い密度で結集しているのが、このPRO1000である。さすがにアカイのトップランクの機種だけに、ハイクラスのアマチュアが使うにはこうありたしという要求が、ほぼ完全な形で満たされているのである。テープレコーダーとしての基本性能がきわめて素晴らしいというだけでなく、ファンクションも豊富で、しかも実用性が高い、価値ある製品だと思う。そういう意味から、このPRO1000を一流品として推したい。
 PRO1000は、2トラック38cm/sec、19cm/sec、9.5cm/secのテープレコーダーで、可搬型仕様になっていてテープトランスポート部とアンプ部に分けられ、それぞれにハンドルが付けられている。可搬型にはなっているが、トランスポート部28・3kg、アンプ部10・2kgとかなり重いがこの内容からすれば仕方がない。テープ走行系にはクローズドループダブルキャプスタン方式が採用され、安定した録音・再生が可能であるとともに、テープ走行切替スイッチは、任意にどのポジションへもすぐに切替えられるダイレクトチェンジ機構など使いやすいテープレコーダーである。