SME 3009 S/2 Improved

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 SMEの設計者で創設者のA・ロバートソン・エイクマンは、精密模型を作る工場の経営者だった。SMEの名は当時の Scale Model Engineering 社の頭文字をとったものだ。模型といってもたとえば、メーカーが製品を作る以前の試作を請負ったり、博物館に展ホする原寸あるいは縮尺の模型などを作る工場である。大英博物館の展示品の中には、当時の作品がいくつもあるという。したがって、各種の工作機械や成型機械ないしはメッキや塗装の設備まで、精度の高い工作をする下地は揃っていた。
 メカニズムに強いエイクマンは、オーディオファンのひとりとして、当時のアームの構造や工作の精度や仕上げなどに、強い不満を抱いて、自分なりにアームを勉強し動作を解明しながら、理想のアームの設計と試作をくりかえしていた。そして一九五九年に、最初の製品であるSME3012の市販をはじめた。
 たまたま当時のエイクマンが、オルトフォンのSPU−GT/E型を愛用していたことから、オルトフォンと同じプラグイン・ロックナット締つけのスピゴット方式で、オルトフォンG型ヘッドシェルを交換できるように作った。これがのちにオルトフォンよりも有名になって、〝SME型のコネクター〟と通称されるようになり、現在ではわが国で作られるアームのおそらく九割以上が、このコネクターを踏襲し、カートリッジの互換性を容易にしている。
 SMEの特徴は、第一に垂直動の軸受けにナイフエッジを採用したのをはじめ、動作部分の各部に良質の素材を精密加工してアームの動作を鋭敏かつ軽快に保っていること。第二はスタティックバランス型アームを基本から解明した結果、ラテラルバランサーやオーバーハング調整、インサイドフォースキャンセラーなどの独創的なメカニズムを加えたこと。第三に軽針圧型の精密アームの操作を容易にするため、オイルダンプ式のアームリフターを設けたこと、であろう。今日では常識のようになっているこれらの考案のほとんどがエイクマンの独創であった。
 クローム梨地メッキを主体とした各部の加工と仕上げは、高級カメラを凌ぐ手のこんだ工作で、見事なデザイン(英国工業デザイン協議会= CoID をはじめ各種の賞を受賞している)もSMEの魅力のひとつだろう。アームの構造や動作原理を知らない人が見ても、それはいかにも精密で美しく、しかもこのアームはあたかも生きもののようにやわらかな感じでレコードを優しくトレースしてゆく。見ているだけでも信頼感に満たされる。
 何度もこまかな改良が加えられたが、3年前に Improved 型で大改良をして、最近の軽針圧/ハイコンプライアンス型のカートリッジ専用として、最大針圧1.5g以下の設計に徹してしまった。かつての広範囲なユニバーサリティを捨ててしまったことは、ちょっぴり残念な気分だが、世界的にはますます評価が高く、現在では毎月約3000本前後が生産されているそうだ。この種の製品としては異例なほど量が多い。

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